沈みゆく夕日を左手に、ジュンキとクレハ、そしてセイフレムは北へと飛んでいた。
リヴァルやリサと別れた森と丘から飛び立って一日と少しが経ち、ポッケ村まであと少しというところまで来ていた。飛び立った直後はいろいろと話をしたものだが、今はクレハもセイフレムも一言も口をきかない。ジュンキも黙って、状況を整理しようと記憶を遡っていた。
※
「セイフレム、人間駆逐計画って何だ?」
ジュンキはクレハと共にセイフレムの脚の上に乗って飛び立った直後、セイフレムに尋ねた。セイフレムは考え込んでいるのか遠くを見つめていたが、やがてゆっくりとした口調で説明してくれた。
「…私も詳しくは知らないけれど、名前の通りよ。この大陸…いいえ、世界から…人間達を排除する計画らしいわ…」
「…!」
「そんな…!」
ジュンキは言葉を失い、クレハは悲鳴に近い声を上げる。
「どうして?どうして人間を滅ぼそうとしているの?」
「それは私にも、ザラムレッドにも分からないわ。直接ミラルーツに聞かないと…」
この言葉を最後に、セイフレムは黙り込んでしまった。代わりにクレハが口を開く。
「人が、ハンターが、竜を狩っているから…?」
「だとしたら、もっと早くから人間を滅ぼそうとするんじゃないか?」
ジュンキの言葉を聞いて、クレハは「うん、そうだね…」と考え直す。
「ミラルーツも、無意味に人間を殺したりはしないはず。きっと、何か理由があるのよ…」
セイフレムの意見も頭に入れ、ジュンキとクレハは考え込む。
「…いいかしら」
ここでセイフレムに言葉をかけられ、ジュンキとクレハは顔を上げた。
「人間駆逐計画について、もうひとつ、伝えられることがあるの」
「…教えて」
クレハがお願いすると、セイフレムは一度頷いた。
「森丘、雪山、砂漠、沼地、火山…我が計画に賛同する同胞は、即座に集まれ。…ミラルーツの言葉よ」
「どういう意味だろう…?」
クレハが小首を傾げる。
「それに森丘って、さっきまで私達がいた場所じゃない」
「…その場所には何かありそうだな。憶えておこう」
「うん。今はミナガルデの街を守らなきゃ。そのために、まずはショウヘイ達と合流だね」
「あの巨大なダイミョウザザミみたいなモンスター。幸い足は早くない。間に合うといいが…」
「そうだね。セイフレム、よろしく!」
「任せて」
セイフレムは頷くと、飛行速度を上げた。
「しかし、一体何故だ…?どうして人間を滅ぼそうとする…?」
ジュンキの呟きは、流れる風に掻き消されていった。
※
ジュンキとクレハはポッケ村に着くなり、セイフレムの脚の上から飛び出した。
「すぐ戻ってくるから!」
クレハは走りながら振り返り、セイフレムに向かって大きな声を出した。
「急ごう…!」
「うん!」
ジュンキとクレハは並んで走り、同時にポッケ村の門をくぐり抜ける。村人達や村長に声を掛けられても「ごめん」と謝り、集会場に飛び込む。
そこには深刻な表情を浮かべたショウヘイ、ユウキ、カズキの姿があった。
「みんな!」
ジュンキが声を上げるとショウヘイ達の顔がこちらを向き、顔色が一気に明るくなった。
「ジュンキ!無事か!」
「大変な事になったな…!」
ジュンキとクレハが空いている席に着く間に、ユウキとカズキが口々にそう言う。そしてジュンキとクレハが席についてから、ショウヘイが口を開いた。
「ジュンキとクレハも見たか?空に打ち上げられた巨大なブレスを…」
ショウヘイの質問に、ジュンキとクレハは首を縦に振って答える。
「今、何が起きているのか…それともこれから何が起きるのか…。ふたりは何か情報を持っていないか?」
「…そのことについてだが」
ジュンキは一度クレハと目を合わせてから、セイフレムに説明された人間駆逐計画についての全てをショウヘイ達に話した。
「そんな事が…」
「マジかよ…!」
「人間を駆逐、か…」
ショウヘイ達が黙るのを待ってから、ジュンキは巨大なダイミョウザザミみたいなモンスターがミナガルデの街を襲おうとしていることを伝えた。
「何だって…!?」
これには流石のショウヘイも、驚きを隠さなかった。
「急がないと、ミナガルデの街が崩壊しかねない。一緒にミナガルデの街へ行って欲しい」
「そりゃあ勿論そうするさ。ただ、ここからだとかなり距離があるぞ。間に合うのか…?」
カズキの気持ちも分かる。だが今回はセイフレムが運んでくれるということを伝えると、カズキを含めショウヘイやユウキも納得してくれた。
「俺達は準備をしてくるから、ジュンキとクレハは先に村の入口で待っていてくれ。俺達は準備ができ次第、村の入口へ」
ユウキの言葉に全員が頷くと、全員が駆け足で集会場を飛び出していった。
「ジュンキ殿…!」
集会場を出たところで、ジュンキはポッケ村の村長に呼び止められた。ジュンキは村長に駆け寄り、遅れてクレハが隣に並ぶ。
「一体、何が起ころうとしておるのじゃろうか…。空に放たれた龍のブレス…不吉なものを感じるわい…。ジュンキ殿は、何か知っておるのじゃろう?都合の良いところだけでいいから、このオババに教えてくれないかの…?」
「…村長」
ジュンキとクレハは交互に、人間駆逐計画のところを省いて、ミナガルデの街の危機のことだけを伝えた。
その間、村長は顔色ひとつ変えず黙って聞いていたが、全てを話し終えた後に村長は小さくため息を吐いた後、ゆっくり口を開いた。
「…なるほどのぉ。状況は分かったよ。…リサを連れていってやっての」
「リサちゃんを…?」
クレハが小首を傾げると、村長は微笑んだ。
「今はひとりでも多くのハンターが必要じゃろう。この村のことはいいからと、伝えてやって下さいな」
「…分かりました」
「気をつけて行ってくるんだよ。そして、元気で帰ってくるんだよ…」
ジュンキとクレハは村長に深く頭を下げると、村の入り口に向かって駆け出した。
ジュンキとクレハはそれぞれの脚の上、ショウヘイ、ユウキ、カズキは背中に乗ると、セイフレムは一気に大空へと飛び上がった。