モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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1章 重なる想い ずれる思い 15

その日の夜、リヴァルはココット村の裏山の狩り場―――通称「森と丘」のベースキャンプで目を覚ました。

朝だから、というわけではない。その証拠にテントの中は薄暗く、月の光が差し込んでいる。リヴァルが起きたのは隣のフィールド、エリア1から物音が聞こえたからだ。

横を見るとリサは眠っているが、ジュンキとクレハの姿がない。

疑問に思っていると、再び物音…。これは、金属が衝突する音?

リヴァルは簡易ベッドから起き上がると、テントの外に出た。月の光だけが、このベースキャンプの中を照らしている。

―――再び金属音。今度は、はっきりと聞こえた。

リヴァルは念の為に、寝る前に4人全員で武器を立て掛けた岩壁に向かい大剣オベリオンを手に取る。もちろんリサの武器であるハンマー、アイアンストライク改は置いてあるが、ジュンキの武器である太刀「エクディシス」とクレハの武器である双剣「リュウノツガイ」は無い。

リヴァルは大剣オベリオンを背中に装着すると、ベースキャンプを出た。もちろん防具も装備している。

ハンターは狩り場で寝る際、万が一を考えて、装備を解かないのが基本なのだ。

 

夜の森と丘は月明かりのみが大地を照らす、幻想的な空間だった。聞こえてくるのは虫の音と、川の流れ。そこに響く、何度目かの金属音。

「…」

リヴァルは岩壁に沿って進み、そっとエリアの中央を覗いた。

そこにいたのは、互いに武器を構えたジュンキとクレハの姿だった。

(何やってるんだ…!?ハンターが人に武器を向けるなんて…!喧嘩か…?)

リヴァルはその場で、とりあえず様子を伺うことにした。

 

「はあっ!」

ジュンキが構えた太刀を横に一閃。これを、クレハはバックステップで紙一重に避ける。飛び退くクレハは着地と同時に両脚で勢いを殺し、そのままバネのようにジュンキに飛びかかる。もちろん両手には双剣。

「たあああっ!」

クレハの左右からの攻撃。ジュンキは右からの攻撃は太刀で弾き、左からの攻撃は屈んで避ける。そのままジュンキはクレハに足払いを仕掛けるが、これをクレハは両脚で飛び避ける。クレハが着地する前にジュンキは飛び退き、クレハも着地の勢いを活かして飛び退く。

 

「…!」

この状況を、リヴァルは黙って見続けることしかできなかった。ジュンキもクレハも、恐ろしい程に運動神経がいい。いや、もはや人間の域を超えている。

「覗き見ですか?リヴァルさん」

突然後ろから声を掛けられて、リヴァルは声を上げそうになった。いつの間にか、リサがすぐ後ろに立っていたのだ。

「ジュンキさんとクレハさんの組合を見ていたんですか?」

「組合…?喧嘩じゃなくて…?」

リヴァルの言葉に、リサはリヴァルを小馬鹿にするように小さなため息を吐き、しかし穏やかに笑った。

「ジュンキさんとクレハさんが、喧嘩するはず無いじゃないですか。ジュンキさんとクレハさん、時々ショウヘイさんが交じることがありますが、時々組合をしているんですよ」

「どうして…?」

「私も全てを知っている訳ではないのですが…。ジュンキさん達は何者かに追われて、ポッケ村へとやってきたみたいなんです。それで身を守るために、対人戦に慣れようとしているのではないかと私は思います」

「対人戦…物騒だな…」

リヴァルが視線をリサからジュンキとクレハに戻すと、あの2人は何か話しているようだった。

「…そろそろ本気でいくか?」

「そうだね。私も慣れておきたいし」

ジュンキとクレハはお互いにそう言うと静かに目を閉じ、同じタイミングで目を開いた。

 

「…!?」

リヴァルは驚いた。ジュンキの瞳が普段の、比較的明るい青色ではなくて深い蒼色となり、クレハの方も瞳の色が青から緑になっている。これでは、まるで―――。

「リオレウスと…リオレイア…」

そう、忘れるはずもない。あのカラーリングは、リオレウスとリオレイアのものだ。

その上、ジュンキはレウスSの防具を、クレハはレイアSの防具を装備しているので、もはやリオレウスとリオレイアが睨み合っているようにしか見えない。

「リヴァルさん、竜人ってご存知ですか…?」

リサがリヴァルの横に出てきた。リヴァルが返事をする前に、リサは言葉を続ける。

「竜人として、竜の力を使う…。すると、瞳が竜のものになってしまうそうです。ジュンキさんが教えてくれました…」

「リサ…?」

リヴァルがリサの方を向いたが、リサは言葉を続けた。

「ジュンキさんは、リオレウスの血族の末裔…。クレハさんは、リオレイアの血族の末裔…。今ここにはいませんが、ショウヘイさんは、ミラボレアスという龍の末裔…だそうです。そしてリヴァルさん…」

ここで一旦言葉を切って、リサはリヴァルの、深い赤色の瞳を見つめた。

「あなたは、どんな竜の血族の末裔なのでしょうか…」

「知っていたのか?俺が竜人だってことを…」

「…初めてリヴァルさんと一緒に狩りへ出た時のことを憶えていますか?リヴァルさん、ドスファンゴを一刀両断しましたよね…?」

「…ああ、したな」

「あの時、私は直感的に感じました。リヴァルさんも、もしかしたら竜人なのでは?と。…後からジュンキさんに、リヴァルさんは竜人だと聞かされたのも、もちろんあるんですけど」

「…だから先日、俺の怪我は早く治るって言ったのか」

「その通りです。さあ、ジュンキさんとクレハさんの組合が、再び始まりますよ」

リサに促されてジュンキとクレハを見ると、以前と変わらない体勢を維持していた。

この時、森の方から突風が吹き、一枚の若葉が空を舞った。それは風に流されてジュンキとクレハの間に入り、そこで真下に落下する―――。

若葉が落下した瞬間に、ジュンキとクレハはリヴァルには捉えられない速さで飛び出し、若葉が粉々に散った。

後に響くのは、激しい金属のぶつかり合う音。見て取れるのは、速すぎて輪郭がぼやけるジュンキとクレハ。

「…!」

「凄いですよね。まさしく竜そのものです。…リヴァルさんの中にも、そんな力が眠っているんですよね」

リサはここまで言うと、静かにベースキャンプへと戻っていった。

リヴァルはジュンキとクレハの組合が終わるまで、その場を動くことはなかった。


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