翌日、リサは装備を整えてから自宅を出た。武器はハンマーの「アイアンストライク改」で、防具は偶然にもユウキと同じ、フルフルだ。
集会場の中に入ったが、まだジュンキ達は来ていなかった。受ける依頼はドドブランゴの狩猟と決まっているので、リサは仲の良い受付嬢と世間話をしながら、ドドブブランゴの狩猟依頼を受ける。
リサが依頼書を受け取るとほぼ時を同じくして、ジュンキ、ユウキ、カズキが集会場に入ってきた。ジュンキは太刀、ユウキはライトボウガン、カズキはランスのようだ。
「くじ引きをして、決まったよ」
「はい。今日はよろしくお願いします」
リサはそう言うと、ジュンキ、ユウキ、カズキに頭を下げた。
「ジュンキさんは、竜人なんですよね?」
今回の狩り場である雪山へ向かう途中で、リサが口を開いた。
「そうだけど?」
「具体的に、どんな事象が発生するのでしょうか?」
「事象って…」
「むちゃくちゃ強くなるな」
ジュンキが右手を顎に当てて考え出すと、カズキが横から入ってきた。
「むちゃくちゃ強い、ですか…」
「カズキ、ここは具体的に。一言で言えば、攻撃威力の増加かな」
「攻撃威力の増加、ですか…」
カズキの抽象的な表現を補うユウキの言葉もまた、抽象的だった。
ここでジュンキが「やれやれ…」と首を振りながら口を開く。
「具体的に言うと、筋力が増加することかな。場合によるけど、モンスターはもちろん、太い樹の幹を両断することもできたりするよ」
「そんなことが…!」
ジュンキの言葉を聞いて、リサは明るい赤色の瞳を見開いて驚いた。樹の幹を一刀両断…。恐ろしい筋力である。
「まあ、機会があったら見せてあげるよ」
ジュンキはそう言って、視線を前に戻した。
ここで、リサにひとつの疑問が浮かぶ。
「あの、普段の狩りから竜人として動かないんですか?その方が、効率が良いと思うのですが…」
リサの質問は、至極全くなものだった。確かに、初めから竜人として狩りに出れば、あっという間に終わるだろう。
だが、ジュンキやショウヘイ、クレハがそうしないのには、ある共通の意識があった。
「確かにね。でも、俺達は竜人である以上にハンターなんだ。そして、モンスターとの戦いは命の奪い合いだ。そこで竜人として戦うのは、何て言えばいいのか…。公平、じゃないよね?」
リサはジュンキの答えを聞いて、ある種の衝撃を受けた。それと同時に、自分の考えがどれ程愚かなものだったかも知った。
「…そうですよね。私が浅はかでした」
「いや、いいよ。それに、まだ竜人としての力…俺達は竜の力って呼んでるけど、制御しきれないことがあるから、おいそれとは使えないというのも理由なんだ。前回ポッケ村に来たのは、俺の中の竜の力を、制御するためだったんだよ」
「そうだったんですか…」
リサが頷くのを見ると、ジュンキは顔を前に戻した。
リサはジュンキに気付かれないよう歩行速度を落とすと、カズキとユウキの横に並んだ。
「あの、カズキさん、ユウキさん」
「カズキでいいよ」
「俺もユウキでいいから」
「…はい。カズキさん、ユウキさん」
リサは笑顔で答え、ユウキとカズキは何を言っても無駄だと苦笑いした。
「で、なんだい?」
「その…」
カズキが尋ねると、急にリサは言葉を濁した。これは聞くべきなのだろうか、と。だがここまで来て、聞かない訳にもいかない。
「あの、カズキさんとユウキさんは、ジュンキさんやショウヘイさん、クレハさんを、どう思ってますか?」
「どう…?」
ユウキとカズキは顔を見合わせて首を傾げたが、やがて2人は同じ答えを出した。
「仲間、かな」
「仲間、だな」
「そうではなくて、その…」
ここでユウキは、リサが何について聞きたいのかを悟った。
「…なるほど、あの3人は竜人だから、か?」
「…はい」
「そうだな…。一時は驚きもしたが、今は何とも思っていないよ。竜人としての能力は、ちょっと羨ましいのもあるけどな…」
「あるけど、竜人としての使命を背負う責任感、俺達には無いからなぁ~」
「ああ、確かに」
ユウキとカズキは、お互いに頷き合った。
「使命…?」
「ああ、昨日話してなかったな。竜人は、世界の均衡が崩れそうな時に、目覚める存在らしいんだ」
「その世界の均衡を崩そうとしている存在は、何か分からないけどな」
「そうですか…」
やはり自分は浅はかだと、リサは思った。それと同時に、ジュンキ達5人の結束は強固な物であると、理解したリサだった。
ベースキャンプに着くと支給品を分配し、早速狩り場へと出発した。
「失礼ですが、ドドブランゴとの戦闘経験は?」
「大丈夫。全員あるよ」
ジュンキが代表して答えると、リサは分かりましたと頷いた。山中の洞窟を抜け、雪山の中腹に出る。
するとそこで、ユウキがあるものを見つけた。
「見ろ。モンスターの足跡だ」
そこには中型モンスターの足跡がひとつと、その周りに小型モンスターの足跡が複数あった。
「ドドブランゴだな。今日は晴れてて良かった」
カズキは空を仰ぎながら言った。
今日の雪山の天候は晴れ。絶好の狩り日和である。
「足跡はまだ新しいし、この方向からすると、隣のエリアだな」
ユウキはそう言うと、立ち上がった。
「ユウキはモンスターの痕跡を辿るのが得意だからな」
「ガンナーだから、索敵能力が高いのさ」
ジュンキに褒められても、ユウキは照れることなく微笑んで答えた。
「よーし、ドドブランゴを見失う前に、さっさと行こうぜ」
カズキはそう言うと、率先して隣のエリアへと向かって歩みを進めた。
「ドドブランゴを肉眼で確認」
先頭を進むカズキの声を聞いて、リサ、ジュンキ、ユウキは歩みを止めた。
「ユウキ」
「任せろ」
ユウキはジュンキに言われる前に既に準備を終えていて、すぐにペイント弾を発射した。
それはドドブランゴの背中で弾け、白い体毛が桃色に染まる。
「おし!行くぞー!」
カズキは雄叫びをあげると、ランス「ブロスホーン」を構え、ドドブランゴ目掛けて突進して行った。
「リサは右側を」
「はい!」
続いてジュンキとリサが飛び出す。ユウキはガンナーなので、遠巻きからドドブランゴを狙うことになっている。
(落ち着いて、大丈夫…)
リサは自分に言い聞かせると、先行したカズキに気を取られているドドブランゴの横腹を、ハンマー「アイアンストライク改」に自身の体重を乗せて、思い切り叩きつけた。