「こんにちは」
よく晴れたポッケ村の昼下がり、リサは夕食の食材を、村唯一の雑貨屋へ買いに来ていた。
「今夜は何を作ろうかな…?」
リサは様々な食材を手に取り、見比べて考える。
悩んだ末に、野菜鍋にでもしようと山菜をいくつか購入して、リサは店を後にした。
「よお、リサちゃん!ハンマーのメンテナンスが終わったよ!後で取りに来てくれ!」
「はーい!」
帰り道で鍛冶屋に呼びかけられ、リサは大きくは無いものの、よく通る声で返事を返した。
リサはハンターだ。武器のメンテナンスは大切である。
「荷物を置いてから、取りに行きます!」
「あいよー!」
リサは鍛冶屋にそう伝えると、急ぎ足で自宅へ戻った。玄関の扉を背中で押して家の中へ入り、買ってきた山菜を机の上に乱雑に置くと、すぐに鍛冶屋へと向かう。
「あれ…?」
家の前の通りに出たところで、リサは右手側から近づいてくる、見覚えのある人影を見て立ち止まった。向こうも気づいたようで、リサに向かって右手を上げる。
忘れる訳がない。つい最近まで、この村に滞在していたハンター。
「ジュンキさん…?」
こちらに近づいてくるハンターは5人。それぞれが装備している防具はリオレウスに、リオレイア…これは女性だ。そして見た目はリオレウスのそれと同じだが真っ黒な防具、ディアブロス、フルフル。…かなりの手練だ。
「やあ、久しぶり」
リオレウス装備のハンターはそう言うと、リサの前で立ち止まった。「やっぱりジュンキさんだ…」とリサは微笑みを浮かべる。
「お久しぶりです、ジュンキさん。早かったですね」
「いろいろと事情があってね…。今回は、仲間を連れて来たよ」
ジュンキはそう言うとリサの前から半歩下がり、リサの知らない4人のハンターを紹介した。
「初めまして、クレハです」
「ショウヘイだ。よろしく頼む」
「ユウキだ。よろしくな」
「俺はカズキだ。よろしく」
「私はリサです。よろしくお願いします」
リサは自己紹介を終えると、ひとりひとり握手を交わした。
「リサ、村長はいるかい?」
「はい。いつもの、焚き火の前にいらっしゃるかと。案内しますか?」
「お願いするよ」
リサを先頭に、ジュンキ達6人は歩き出した。
「この村には小さいですが、温泉が湧き出しているんですよ」
「へえ~!」
リサの紹介に、クレハは青色の瞳を輝かせた。
「ジュンキさんは、前に入られましたよね?」
「ああ、何度も入ったよ」
他愛のない会話を続けながら、6人は村長のもとへと歩みを進めた。そしてこのポッケ村の村長は、笑顔でジュンキ達を迎えてくれた。
「おやおや、ジュンキ殿。元気そうで何より」
「村長も、相変わらずで」
「ふぉっふぉっふぉっ…。今日はお仲間さんを連れて、観光ですかな?」
「…村長、これを」
何の前触れも無く、ジュンキ達5人の空気が重くなったのを、リサは感じ取ることができた。この短い間に、何があったのだろうかと、リサは心配してしまう。
ジュンキは一通の封筒を取り出すと、村長に差し出した。村長はそれを受け取ると丁寧に封を切り、黙ったままで中の羊皮紙を読む。
そして一言だけ「大変だったねぇ…」と言うと封筒に羊皮紙を戻し、ジュンキに返した。
「私は構わないよ。住むところは以前使っていた空き家を使っておくれ。ひとりでは広いが、5人では狭いかもしれんの」
村長の言葉を聞いて、リサは驚いた。
「えっ…。ジュンキさん、またこの村に留まるんですか?」
「ああ。またよろしく頼む」
「それは、私も嬉しいですけど…。一体何があったんですか?」
「…リサにも説明したい。集会場で話そう?」
「ええ…」
リサは、寂しそうなジュンキの横顔に、ただ頷くことしかできなかった。
集会場に入ると、リサやジュンキ達5人はテーブルを囲むように座った。
長い沈黙の後に、ジュンキは口を開いた。
ジュンキの口から話されたことは、リサをとても驚かせた。シュレイド王国軍に追われていること。仲間の一人が亡くなったこと。そして何よりも、リサを驚かせたのは―――。
「竜人…ですか?」
「聞いたことは?」
「無いです。竜人族ならあるのですが…」
竜人族―――それは人間と共存している種族の名前だが、竜人は根本的に違うと、ジュンキやショウヘイ、クレハはリサに説明した。
「ジュンキさん、ショウヘイさん、クレハさんは竜人で、竜と会話ができたり、人間では有り得ない力が出る、ということですか?」
「そうなるかな」
「…」
突然そんな事を言われて混乱してしまい、リサは黙り込んでしまった。
「信じてくれっていうのは無理だと俺も思う。こんな突拍子も無い話を―――」
「―――いえ」
リサは明るい赤色の瞳を開くと、ジュンキを正面から見据えた。
そして口を開く。
「確かに信じがたい話です。けど…ジュンキさんは嘘を言っていないと思います。ショウヘイさんや、クレハさん。ユウキさんに、カズキさんも」
「…ありがとう」
「これから、どうするんですか?」
リサからの質問に、ジュンキはショウヘイ達に「これからどうする?」とリサからの質問を横流しした。
「今日は移動に移動を続けて疲れているから、具体的に動くのは明日からだな」
「だなぁ。あー疲れた!俺は温泉に入りたいぞー!」
ユウキとカズキの言っていることはもっともで、ジュンキ達5人は疲労困憊だった。
「では、明日になったら早速ですが、狩りに出ませんか?」
「リサは積極的だな」
ジュンキは褒めたつもりで言ったのだが、リサは苦笑いした。
「実は先日、雪山にドドブランゴが現れたのです。私ひとりでは、どうにもならなくて…」
「なるほどな…」
ジュンキは一度頷いてから、ショウヘイ達の方を振り向いた。
「いいか?」
「ああ」
「うん!」
「任せろ!」
「腕が鳴るぜ!」
全員の了解を得て、ジュンキは視線をリサの方へ戻した。
「明日までに、メンバーを決めておくよ」
「はい。ありがとうございます」
リサは笑顔で頷いた。
この後、リサの案内でポッケ村を周り、夜にはリサが作った野菜鍋をご馳走になったジュンキ達だった。