モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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2章 チヅルの戦い 12

墓地から戻ると、ショウヘイ達は村の集会場で集まっていた。

ジュンキとクレハが並んで席に着くなり、ショウヘイが話を始める。

「…これからのことだが」

ショウヘイの声を聞いてジュンキ、ユウキ、カズキ、クレハが顔を上げ、ショウヘイの方を向く。

「ドンドルマの街へは、戻れないだろうと思う」

「そうだよな…。王国軍が見張っているかもしれないからな」

ショウヘイに続いてユウキが言った言葉に、ジュンキ、カズキ、クレハは黙って頷く。

「…ミナガルデの街も、だろうな」

ジュンキの独り言のような意見を最後に、沈黙がテーブルを覆ってしまう。

「この村を拠点にしたらどうだ?」

とは、カズキの意見。

「駄目だ。恐らく、すぐに嗅ぎつけられてしまうと思う。この村は、ミナガルデの街から近いからな…」

カズキの意見を、ジュンキは直ぐに否定してしまった。それはショウヘイ、ユウキ、クレハも同じ意見のようで、カズキはため息を吐きながら乗り出した身体を引いた。

「…ねえ」

クレハが声を上げたので、他の4人の視線がクレハに集中する。

「ジュンキが、竜の力を制御するために身を隠した村じゃ駄目かな?」

「ポッケ村か…」

「ポッケ村…?聞いたことの無い村だな」

ジュンキの口から漏れた言葉を、ショウヘイは聞き逃さなかった。

「このシュレイド大陸の、最北端の村だ。確かにあの村なら、ハンターを続けながら身を隠すことができるかも…」

「…決まりだな」

カズキがそう言って立ち上がろうとしたが、ジュンキが右手を伸ばして止める。

「あの村へ行くには、ドンドルマの街を経由する必要がある。しかも、3日に1便しかない」

「その間に王国軍に見つかったら終わりか…」

ショウヘイの言葉を最後に、再び沈黙がテーブルを包んでしまった。

「…ひとつだけ、考えが無いこともないけど」

「…?」

ジュンキの出した考えは、他の4人をとても驚かせる内容だった。

 

夕暮れの前に、ジュンキはひとりで森と丘を訪れていた。目的は、ザラムレッドに会うためである。

そのザラムレッドとは、小高い丘の上で再会することができた。

「…久しいな、竜人よ」

「まあな。この前は運んでくれて、ありがとう」

「礼には及ばん。…今日はどうした?」

「実はな…」

ジュンキはザラムレッドに、ある組織に追われている事、再びポッケ村まで運んで欲しい事、そして竜人であるチヅルが死んでしまった事を話した。

「…なるほど。人間を5人運ぶことに関しては問題ない。それよりも気に掛かるのは、ヌシ達が人間達から追われている事だ。心当たりはあるのか?」

「いや、無い。相手が勝手にやって来て、俺達を連れ去ろうとするんだ」

「なるほど、だから身を隠すのか。確かに、あの村なら大丈夫だろう。しかし…」

「どうした?」

ここでザラムレッドが言葉を濁したので、ジュンキは尋ね返した。

「竜人チヅルの件は、残念だったな…」

「ああ…。でも、チヅルはハンターとして死んだんだ。きっと、満足しているはずさ…」

「…我が妻に変わって、私からも謝ろう」

「もういいってば…。―――え?」

ジュンキは耳を疑った。ザラムレッドは「妻」と言わなかっただろうか?

「ザラムレッド…」

「何だ?」

「今、妻って言わなかったか?」

「…まだ言ってなかったか。彼女、セイフレムは我が妻だ」

「…!」

ザラムレッドの言葉に、ジュンキは青色の瞳を見開いて驚いた。

「お前達は、夫婦だったのか!?」

「…ああ」

ザラムレッドは照れているのか、顔をジュンキから背け、小さな声で短く答えた。

 

「あら…」

突然声が空から聞こえてきたのでジュンキは見上げると、そこには先程出会い、チヅルを殺し、ジュンキ自身の手で殺されそうになったリオレイア―――セイフレムの姿があった。

セイフレムはザラムレッドの隣に着地すると、ジュンキと目が合うのを恐れてか、それとも合わす顔が無いのか、顔を背けてしまった。

「…もういいからさ。こっちを向いてくれよ」

ジュンキの言葉を聞いて、セイフレムはゆっくりとジュンキの方を向く。

「…どうした?今は彼に会うのが辛いと、言っていたではないか?」

ザラムレッドの声を聞いて、セイフレムはようやく口を開いた。

「生まれたわよ、あなた…」

「…そうか」

「う、生まれた…!?」

セイフレムの言葉にザラムレッドは静かに頷き、対照的にジュンキは大声を上げて驚いた。

「…ヌシも見て行くか?」

「い、いいのか…?俺はハンターなんだぞ?」

「ハンターは幼い竜は狩らない、と聞いたことがあるが?」

ザラムレッドはそこまで言うと右脚を差し伸ばし「乗れ」とだけ言った。

そしてジュンキは、久々に空を飛んだ。

 

ザラムレッドとセイフレムの巣に入ると、元気な雛(ひな)の声が聞こえてきた。

ジュンキは「近づいてもいいのか?」と言葉には出さずに右手の指だけでザラムレッドとセイフレムに尋ねるとふたりは頷いたので、ジュンキはふたりの巣へ近寄った。後ろから、ザラムレッドとセイフレムも続く。

「…!」

「ピィー!ピィー!ピグゥ!」

雛は雄が2匹に雌が2匹だった。

4匹は元気に鳴き声を上げ、ジュンキに向かって小さな嘴(くちばし)をパクパクさせている。

「新しい命の誕生か…」

「…ヌシよ」

ジュンキが感傷に浸っていると、ザラムレッドが声を掛けてきた。

「いつ頃に出発するのだ?」

「ああ、今日この後を予定しているんだけど…」

ジュンキが申し訳なさそうにセイフレムを見つめると、セイフレムは静かに頷いた。

「いってらっしゃい、あなた…」

「…すぐ戻るからな」

ザラムレッドとセイフレムは向かい合うと、お互いの頬を摺り合わせた。

そしてザラムレッドはジュンキを右脚に乗せると、ココット村へと向かい、空を飛んだ。

 

ココット村の姿が見えてから、ザラムレッドが声を上げた。

「どこへ降りるのだ?村の中では、人間達が混乱するだろう?」

「俺もしても、村のみんなにはお前と…竜と一緒に居るところを見られたくない。説明が面倒だからな。だけど仕方ない。どう見ても、お前の姿を隠せるような場所が無いからな」

ザラムレッドはジュンキにそう言われ、確かにそうだと思った。

山々の中の開けた平原のほぼ中央に、あの村はある。村の周囲には数本の樹が生えているくらいで、20メートルを超すザラムレッドの身体を、隠す場所が一切無いのだ。

「確かにそうだが…いいのか?」

「仕方ないってば。だから、街の時みたいにさ―――」

「…分かった」

ザラムレッドは溜め息混じりで答えると、高度を落とし始めた。

村が近づくにつれて村人達の姿も肉眼で確認できるようになってきたが、同時に村の警鐘も聞こえてくる。

「警戒されているな」

「…」

村人達が慌てふためき、微かに悲鳴も聞こえてくる。

それでもジュンキとザラムレッドは村に接近し、ついに村の広場へと降り立った。そこでは村に残っていた数人のハンター達がそれぞれの武器を構え、ザラムレッドを待ち構えていた。

だが、ザラムレッドの右足の上からジュンキが降りると、村のハンター達は目を丸くして驚きの表情を浮かべた。

「よーし、ありがとう」

ジュンキはできるだけ自然に大きな声でそう言うと、ザラムレッドの頭を抱き、そして撫でた。

その時のザラムレッドの目は、決して笑っていなかったが。

「ジュンキよ…!」

背後から名前を呼ばれて、ジュンキは振り向いた。

そこには村長を中心にショウヘイ、ユウキ、カズキ、クレハの姿があった。仲間の4人は呆れていたり笑っていたりと様々な表情を浮かべているが、村長の表情は恐怖一色だった。

当たり前だ。天空の王者と称されて人々から畏れられているリオレウスが、村の中へと入ってきたのだから。

村長が恐る恐る言葉を続ける。

「ヌシは…どうして…リオレウスと…?」

「…村長」

ジュンキは動揺している村長や遠巻きに見つめている村人達を安心させようと、笑顔を作ってから口を開いた。

「このリオレウスは、俺の友達だよ。な?」

ジュンキはそう言って、ザラムレッドを振り向いた。

しかしザラムレッドと目が合った瞬間、ザラムレッドは大きな欠伸をし、その場で身体を倒して眠ってしまった。

ザラムレッドが演技をしてくれているのだろうと勝手に解釈し、ジュンキは村長に向き直る。

「そ、そうか…。しかし、リオレウスと仲良くなるハンターなんぞ、前代未聞じゃわい…。ギルドが動かなければよいがの…」

「大丈夫です。ギルド公認ですから」

ジュンキは苦笑いしながら答えた。

もちろん、正式に認められている訳ではない。しかし前に一度ザラムレッドがドンドルマの街に乗り込んできた事があり、その際に街のハンターやハンターズギルドのユーリにも見られている。

それで何も起きていないのだから、認めてくれているのだろう。承認ではなく、黙認だろうが。

「や、やめなさいっ!」

ザラムレッドの方から悲鳴が聞こえたので、ジュンキは声のする方を振り向いた。

そこにはザラムレッドの尻尾を撫でる村の子供と、遠くで顔を真っ青にしている女性がいた。あの子供の母親だろう。

ザラムレッドはどう反応するだろうとジュンキは内心ヒヤリとしたが、ザラムレッドは触られた尻尾を村の子供から遠ざけただけだった。

しかし、村の子供はそれが面白かったのか、ザラムレッドの尻尾を追いかけ、思いっ切り抱きついてみせた。

「っ…!」

ジュンキも「これはマズイかも…」と思ったが、ザラムレッドは尻尾だけを動かして村の子供を持ち上げ、自身の背中に乗せた。

「…あはは」

ジュンキは、引きつった笑みしか浮かべられなかった。

 

「では村長、またしばらくの間、村を離れます」

「うむ。気をつけてな」

ジュンキが村長に挨拶を済ませると、既に準備を終えているショウヘイ達がザラムレッドの背中や脚の上に乗り、ジュンキ達は大陸最北端の村であるポッケ村へ向けて、ココット村を後にした。


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