モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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2章 チヅルの戦い 04

ペイントボールの臭いを追って黒ディアブロスを探すと、奴は岩場エリアの奥地にいた。エリアに入るなりすぐに突進してきたため、4人は一斉に散った。

黒ディアブロスは勢いを止められず、このエリアの端まで移動してしまう。その隙にショウヘイ達は、このエリアの中央に集まった。

「まだ怒ってるのかな…?」

チヅルは思わず言葉に出してしまったが、他の3人も同じことを考えていた。

そして振り向いた黒ディアブロスの口から黒い煙が出ていないことを確認すると、4人は胸を撫で下ろした。

「じゃあ、作戦通りに…」

「うん」

「了解」

「おう」

ショウヘイの言葉にチヅル、クレハ、カズキは頷くと、黒ディアブロスを囲むように移動した。チヅルは右翼側、クレハは左翼側、カズキはやはり正面である。

黒ディアブロスは「接近を許すまじ」と全身を使って回転攻撃を行うが、チヅルとクレハはこれを難なく避け、カズキは「ブロスホーン」の楯で受け流す。

そして黒ディアブロスがショウヘイとカズキがいる方向を向いたその瞬間を狙い、ショウヘイが閃光玉を炸裂させた。黒ディアブロスは視界を一時的にだが奪われ、その場で暴れる。

「暴れるんじゃねぇよ!」

手当たり次第に攻撃を加える黒ディアブロスの残されたもう片方の角を狙いながら、カズキは言った。

そのカズキの両側では、チヅルとクレハが隙を見て攻撃を加えている。

「いいぞ!」

ショウヘイの声を聞いて、3人はショウヘイの元へと集まった。

「こっちだよー!」

黒ディアブロスが視力を取り戻すと同時に、クレハが大きな声で黒ディアブロスを呼んだ。

黒ディアブロスは一度姿勢を低くし、つっ立っている4人のハンター目掛けて突進する。そして、4人のハンターは吹き飛ばされる―――はずだった。

しかし、黒ディアブロスは4人のハンターの手前で急停止し、身体を痙攣させた。

「シビレ罠作戦、大成功!」

「行くぞ!」

「うん!」

「ああ!」

ショウヘイ達はこの機会を生かすべく、それぞれの武器を抜いた。

カズキがもう一本の角を折るべく正確な攻撃を行い、チヅルとクレハは腹の下で鬼人化乱舞した。

そしてシビレ罠が壊れる直前、ショウヘイの斬破刀による一閃で、黒ディアブロスの尻尾が宙を舞った。

「ナイス、ショウヘイ!」

カズキの声に、ショウヘイは右手で答える。尻尾を斬り飛ばされた黒ディアブロスは怒りの咆哮を上げた。あまりの大音量に4人は思わず耳を塞ぎしゃがみ込んでしまう。

そこに、渾身の突進攻撃。標的は―――チヅル。

「…!」

目を開くと、そこにはこちらに向かって突進してくる黒ディアブロスの姿があり、チヅルは絶句し、頭の中が空になった。迫り来る絶対的な死が、チヅル思考を麻痺させる。

―――突然、視界が横にスライドした。次の瞬間には背中に痛みが走り、地面を何度も転がっていた。

そして回転が止まった時に目を開けると、目の前にはクレハの姿があった。

「クレハちゃん…!」

「…チヅルちゃん、大丈夫?」

「うん…。私を助けるために…?」

「飛びかかっちゃったよ…痛てて…」

クレハはそこまで言うと立ち上がり、クレハの手を借りてチヅルは立ち上がった。

「まだ、終わってないよ…!」

チヅルが口を開きかけたその時、クレハが力強く言った。

確かに、まだ黒ディアブロスはいる。そして、ショウヘイとカズキは戦闘中だ。

「行こう?」

「…うん!」

クレハの言葉に頷くと、チヅルは駆け出した。

しかし、チヅルとクレハが黒ディアブロスへ近づく前に、黒ディアブロスは地面に潜ってこのエリアを脱してしまった。

「あ…」

「残念…」

チヅルは一言漏らし、クレハは一言呟いた。そのまま、ショウヘイとカズキに合流する。

「怪我してねぇか?チヅル」

「あ、うん、大丈夫。クレハちゃんのお陰でね」

「ううん。チヅルちゃんが無事で、良かったよ」

チヅルが怪我をしていないと知って、ショウヘイとカズキは安堵した。

「次は、どこへ行ったか分かる?」

「ペイントの臭いからすると、岩場エリアであるってことは分かるが…。恐らく、水場だと思う」

「私も、黒ディアブロスは疲れてきていると思う」

クレハの問い掛けに、ショウヘイとチヅルは同意見を述べた。

「じゃあ、体力を回復させる前に倒そう?準備が終わったら、すぐ出発しないとね」

「ああ」

「うん」

クレハの意見にショウヘイとチヅルは賛成したが、カズキの声が聞こえない。

「カズキ~?」

「うおー!!!こんな立派な尻尾は初めてだー!!!」

カズキを探すと、彼は先程ショウヘイが斬り落とした尻尾に抱き着いていた。

「あはは…」

「もー!カズキ!早く準備しなさいよー!」

嬉しそうなカズキの様子に、ショウヘイは苦笑い。チヅルは声に出して笑い、クレハは大きな声で怒鳴った。

 

地図で地形を確認しながら岩場エリアを奥へ奥へと進んでいくと、水場があるエリアに出た。同時に、黒ディアブロスの姿も見つける。しかし―――。

「…寝ているね」

黒ディアブロスは、水場の横で眠っていた。

「ショウヘイの重たい一撃、よろしく」

「分かった」

クレハの提案を、ショウヘイは受け入れる。黒ディアブロスの前に立ち、「斬破刀」を構えた。

「いけー!」

「角を斬り落とせー!」

クレハとカズキが声を上げる。

「はああっ!」

ショウヘイは意識を集中させて、残された角を目掛けて渾身の一撃を叩きつけた。

しかし角は折れず、大きなヒビが入っただけだった。

「ちっ…!」

ショウヘイは思わず舌打ちする。当然、黒ディアブロスは起き上がってしまった。

「ショウヘイ!離れろ!」

カズキの声を聞き、ショウヘイは一度退いた。

「あっ!煙噴いてる!」

チヅルは、黒ディアブロスが黒い煙を吐いていることに気づいた。怒り状態である。

「でも、すぐ怒るのならあと少しの体力ってことだよ!頑張ろう!」

クレハの言葉に、チヅル、ショウヘイ、カズキはしっかり頷いた。

「来るよ!」

黒ディアブロスは、まず突進してきた。

「くっ…!」

「早いっ!?」

4人はそれぞれ紙一重で避ける。しかし4人が体勢を整える前に、黒ディアブロスが咆哮した。

「うっ…!」

「くそっ…!」

黒ディアブロスは4人の方を振り向くと、ショウヘイ目掛けて突進した。

「危ないっ!」

「避けてっ!」

チヅルとクレハがショウヘイに注意を促すが、黒ディアブロスの突進は恐ろしく速かった。ショウヘイが黒ディアブロスの突進に気づいた時には、もう目の前まで迫ってきていた。

「ちっ…!」

ショウヘイは舌打ちすると「斬破刀」を握り締めた。そして竜の力に意識を傾ける。

「無茶だ!ショウヘイ!」

カズキの声が聞こえたが、もうこれしかない。ショウヘイは残された角が一番脅威であると考えて「斬破刀」を一閃した。残された角は、見事に本体から切り離され、宙を舞った。そして「斬破刀」は急所である黒ディアブロスの頭部を斬り裂いた。

しかし突進の勢いを殺すことは出来ず、ショウヘイは身体を「つ」の字に曲げて吹き飛んでしまう。

「がはッ!」

黒ディアブロスの突進を正面から受け止めたショウヘイは、放物線を描いて水場の中に落ち、そのまま意識を失った。

 

「ショウヘイ!」

「しっかり!」

「大丈夫か!」

チヅル、クレハ、カズキは慌てて水場に飛び込んだ。幸い腰の高さまでしかなく、ショウヘイをすぐに引き上げることができた。

「ぐっ…!ゴホ…ッ!が…っ!」

ショウヘイの口から、飲み込んだ水と共に、血液も流れ出てくる。

「早くキャンプに!」

「あ、ああ…!ショウヘイ、俺の背中に乗れ!」

ショウヘイはカズキに担がれると、ベースキャンプへと運ばれていった。

残されたチヅルとクレハは無言のまま、ショウヘイとカズキが消えていった方を見つめていた。

「…チヅルちゃん、お願いがあるんだけど」

「な、何…?」

突然クレハが口を開いたので、チヅルはちょっと驚いてしまった。

「黒ディアブロスから、甲殻を一枚剥ぎ取っておいてくれない?討伐完了の証拠になるからさ。私はカズキのランスを預かってて、両手が塞がってるんだ」

「あ、うん。分かった」

チヅルはクレハのお願いを聞き入れると、黒ディアブロスの亡骸に近づきながら、剥ぎ取りナイフを抜いた。そして甲殻の隙間に刃を入れ、一枚剥ぎ取る。

「…これから、どうなるんだろう」

思わず、チヅルは言葉を漏らしてしまう。

ジュンキは不在。ユウキは検査入院。そして今回、ショウヘイが怪我を負ってしまった。

「…ジュンキ」

チヅルは一度ぎゅっと目を閉じてから、クレハと共にベースキャンプへと戻っていった。


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