モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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1章 心の整理 04

チヅルは自分の原点―――自分が生まれ育ち、そしてハンターとなるキッカケになった場所へと、一度戻ることにした。

その場所は、ここドンドルマから距離があり、7日間では行って帰ってギリギリの場所である。その為、チヅルは日が暮れる前にドンドルマを出発した。

竜車に揺られて乗り換えて、再び揺られて乗り換えて…。自分がハンターになってから一度も戻ったことのない場所なのに、道には迷わなかった。

そしてドンドルマを出てから3日目の午前に、チヅルはある村と村の間で竜車から降りた。

「こんなところでいいのかニャ?」

御者のアイルーが首を傾げる。ここは村と村を結ぶ街道の途中である。辺り一面広葉樹の林で、他には何も無い。

「うん。次はいつここを通るの?」

「ニャー…。次の村で折り返しだから、多分2時間後くらいだと思うニャ」

「分かった。ありがとう」

チヅルはここまでの運賃を支払うと、竜車はゆっくりと遠ざかっていった。

「ん~っ!」

竜車が完全に見えなくなると、チヅルは背伸びをした。さすがに武器防具を装備したままで3日も竜車に揺られていては、伸びのひとつもしたくなる。

チヅルは伸ばした腕を降ろすと、上を向いた。青い空、白い雲。いい天気である。

次に、下を向いた。この道は主要街道ではないので、石畳ではないが、雑草が生えない程度に整備されている。

「どこかな…?」

チヅルはぐるりと、周囲を見渡した。そして、とある場所だけ雑草の高さが違うところを見つけた。

この場所だけ、他の場所より雑草の高さが低いのだ。チヅルはその場所に近づくと、あるものを探した。

幸いにも、それはすぐに見つかった。

「あった…!」

それは1枚の木の板であった。雨風に晒されひどく傷んでいたが、それには「リーン」と刻まれている。

「…」

チヅルはしばらく黙ってその文字を見つめ続けたが、やがて元あった場所に戻すと、雑草地帯の奥へと歩み始めた。

「昔はここも整備されていたのに、今じゃ雑草だらけか…」

長い木々のトンネルを抜けると、開けた場所に出た。一面雑草の草原になっているが、その中にいくつか廃屋が横たわっている。

「リーン…。私の村…」

チヅルは膝の高さまである雑草をかき分けながら、廃村の中へと入っていった。そして、ひとつの廃屋の前に立つ。

「…ただいま」

そう、チヅルは自分の原点、自分の生まれ育った村へと帰ってきたのだ。

 

今から5年程前のことである。

チヅルが12歳の時に、この村は地図から消えた。今なら分かるが、雌火竜リオレイアに、この村は襲われたのだ。

50人に満たない小さな村の村人達の半数は死に、生き残った者は他の村へ移住した。チヅルの両親や兄弟も、この時に死んでいる。

こんな小さな村だが、ハンターも数人いたことを覚えている。

しかし、小さな村にやってくる依頼は小さなものしかなく、飛竜との戦いに慣れていなかったハンター達はリオレイアに太刀打ち出来ずに、死んでしまった。

だが、そのハンター達のおかげで、リオレイアはこの村を去ったのだ。

左脚に、大きな傷を残して。

 

チヅルは、閉じていた瞼を静かに開いた。

「…じゃあ、もう行くね」

チヅルは、自分が両親と共に住んでいた廃屋に語りかけると、来た道を戻り始めた。

「…来て、良かった」

チヅルとしては、リーンの村に戻ってきて良かったと思えた。

両親は死んでしまったが、ジュンキは生きているのだ。必ず、また会える。

「早く帰ってこないかな…ジュンキ…」

チヅルは迷いが吹っ切れたことを早くみんなに伝えたくて、帰りの竜車が通りかかるまでまだ時間があるのに、街道へ向かって走り出した。

 

チヅルが失った故郷へ向かった一方で、ショウヘイとユウキはココット村を訪れていた。行方をくらましたジュンキの手がかりを探す為である。

2人はまず、村のことは何でもお見通しの、村長を尋ねることにした。

「お久しぶりです」

「久しぶりだな、村長」

「…おおっ!?ショウヘイにユウキか。久しぶりじゃのう…。前回会った時は、ジュンキが大怪我を負った時じゃったの」

村長の言葉に、ショウヘイとユウキは顔を見合わせて苦笑いした。

「実は、今回もジュンキについてなんです」

「ほお…何事かな?」

「ジュンキが、行方をくらましたんだよ。村長は何か知らないか?」

「うむ…儂は知らんのぉ…」

村長は考える素振りを見せたが、すぐに首を横に振った。

「そうですか…」

「なんじゃ?それだけのことで戻ってきおったのか?」

「ええ、まあ…」

ショウヘイは苦い顔をしたが、逆に村長は優しい笑みを浮かべた。

「そうか。ジュンキは頼りにされとるんじゃな。しかしの、この村には戻ってきておらんよ」

「…分かりました」

「ありがとう、村長」

「うむ。…ところで、ヌシ達は今、時間があるのかの?」

踵を返してドンドルマの街へ戻ろうとしたショウヘイとユウキは、村長に呼び止められて振り向いた。

「…と言いますと?」

「うむ…実はこの村の裏山では今、ランポス達が大量発生しているのじゃ。時間があるのならば、数を減らしてほしい。このままでは草食竜達が食べられ、その後にはこの村を襲うことになるじゃろうて」

「…手伝いたいのは山々なのですが」

「村長、今俺達はパーティを解散させての休暇中なんだ。だから、すぐ街に戻らないといけないんだよ」

「うむ。無理は言わん。この村にもハンターはおる。もし大事になれば、ハンターズギルドに助けを求めるだけじゃて」

「村長、大丈夫」

ユウキは、ショウヘイと目を合わせてから言葉を続けた。

「仲間と合流したら、すぐ飛んで戻ってくるからさ。4、5日くらい待っててくれないか?」

「…すまぬの。こっちのことは、忘れてくれて構わんというのに」

「そんなことを言わないで下さい。すぐ戻りますので」

ショウヘイとユウキは村長に一礼すると、急いでドンドルマの街へ戻ることにした。


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