「ただいま」
今回の狩り場であった「森と丘」から再び数日かけてミナガルデの街に戻った3人は、狩りの報告をするため、ひとまず酒場に向かった。
日は暮れてしまっているが、しかし酒場はにぎやかで、ジュンキ達3人の「帰ってきた感」がさらに増した。窮屈な酒場を通ってカウンターまで向かうと、ベッキーが嬉しそうに奥から出てきた。
「お帰りなさい。どうだった?」
「ユウキが少し怪我したけど、それ以外はバッチリだったよ!」
チヅルは笑顔でそう言ったが、ベッキーは驚きの表情でユウキの方を見る。
「ユウキ、本当に大丈夫なの?」
「大したことないさ。皮膚が裂けたくらいだよ」
防具の上から包帯でぐるぐる巻きにされている左腕を振りながら、ユウキは笑顔で答えた。
「確かに、大丈夫そうね。…はい、今回の報酬金」
ベッキーは安堵の表情を浮かべてから、ジュンキより依頼書の控えを受け取る。そして報酬金が入った小さな革袋をジュンキに渡した。
「少し食べたいんだけど」
「じゃあ近くの席に座っていてね。すぐ注文を取りに行くから」
ジュンキの要望に、ベッキーが笑顔で答える。
3人は空いているテーブルに座り、簡単な食事を注文した。
「そういえば、今回もジュンキは倒れたね…」
「ははは…」
チヅルが心配そうな眼差しでそう言うと、ジュンキは苦笑いで返した。
「ジュンキって何か変なものが体の中にいるんじゃないか?」
「何だよそれ…」
ユウキの冗談にジュンキは失笑した。
「ま、いいさ。こうして無事なんだし」
ユウキが笑顔でそう言うと同時に、ベッキーが新しく入った依頼書を掲示板に張り始めた。
「何かいいのあるか?」
「はいどうぞ~」
ユウキがジュンキとチヅルへ尋ねると同時に、注文したメニューがテーブルに届いた。
「先に食べよう…?」
「だな」
「そうしようか」
チヅルがうるうるした目でジュンキとユウキを見つめると、2人は苦笑いして承諾した。
簡単な食事を終えると、ジュンキ達3人は掲示板の前で次の依頼を探していた。
「ドスランポスは~?」
「う~んダメ」
ユウキがドスランポスを見つけたが、チヅルが即却下した。
「ついこの前受けたばっかりじゃん…あ、これどう?」
今度はチヅルが依頼書を見つけた。
「…ディアブロス!?」
「おっ!いいじゃん!」
ジュンキは驚き、ユウキは喜ぶ。
「ジュンキ、もしかして苦手?」
「いや、そうじゃないけど…。リオソウルの次にディアブロスってのは、ちょっとキツイなって…」
チヅルの問い掛けに、ジュンキは苦笑いで答えた。大型モンスターの二連続は、身体に応えそうだ。
「よ~し、俺が依頼書取ってくる」
ユウキはそう言うと掲示板から依頼書を受け取り、カウンターへと向かった。
しばらくして、ユウキは正式な依頼書を持って戻ってきた。
「出発は明日だってさ」
「じゃあ今日は解散だな」
ユウキの言葉を聞いて、ジュンキはそう言った。
「じゃ、また明日ね~!」
「また明日!」
チヅルとユウキはそう言い、酒場を出ていった。
「さて、どうしようかな…」
それを見送ると、ジュンキは腕を組むんで壁に寄りかかり、今夜の過ごし方を考え始める。
(武器の点検は先日終えたばかりだし…。道具の不足も無い…)
寝るにしても時間が早すぎる気もする。しかし疲れを残したまま狩りに出るのは危険なので、ジュンキも部屋へ戻ることにした。
自室に入るなり、ジュンキはレウスシリーズを装備したままベッドにダイブした。
「結構疲れたな。ディアブロス狩りから帰ったら…しばらく休みたいなぁ…」
このまま、ジュンキは朝までぐっすり眠ることになる。
数日後、ジュンキ、チヅル、ユウキの3人は「砂漠」とハンター達の間で呼ばれている狩場に到着した。
「あっつ~い…」
竜車から降りるなり、チヅルが灼熱の太陽を見上げながら言った。
「ま、砂漠だからな」
「チヅルも手伝えよ~」
「は~い…」
チヅルはとぼとぼ竜車に戻ると、ジュンキとユウキを手伝った。
「さてと、作戦を練るわけだが…」
ベースキャンプのセッティングが終わった頃を見計らって、ジュンキは2人を呼んだ。チヅルは完全装備で出てきたが、ユウキは上半身の防具を脱いだインナー姿で現れた。
「ユウキ…」
「ま、気にするな。作戦練るんだろ?」
ジュンキがちょっと不機嫌そうな声を出したが、ユウキはケラケラ笑って受け流す。
「相手は砂漠の暴君とも呼ばれるディアブロスだ。気は抜けないぞ?」
「大丈夫!」
「任せとけって!」
2人の返事を受け取ると、ジュンキは赤茶けた地面に砂漠全体の地図を広げた。
「ディアブロスは砂に潜った際に音爆弾が有効だ」
「そうだね。問題は誰が音爆弾を投げるか、だね」
ジュンキが言ったことを受けて、チヅルが2人に問いかけた。
「俺が持つよ」
ジュンキはそう言うと、腰のアイテムポーチから音爆弾を取り出した。
「あ~!支給品ボックスに入っていないと思ったら、ジュンキが持ってたんだ」
「ごめんごめん」
「罠は?」
「…忘れた」
ジュンキの質問にユウキがそう答えると、チヅルが背中の双剣インセクトオーダー改を抜いた。
「チヅル!落ち着けぇ~!」
「ユウキ!」
ユウキが逃げ出すと同時にチヅルが追いかけ始め、鬼ごっこが始まる。
「待てー!」
「チヅル!武器は駄目だ!ハンターは、人に武器を向けるべからず、だろ!」
2人の様子を見て、ジュンキは遠巻きにため息を吐いた。
「罠無しか…」
悩むジュンキを尻目に、ユウキとチヅルはベースキャンプの狭い敷地を走り回っていた。
ベースキャンプは岩陰に設置されていて比較的涼しかったが、一歩外に出るとそこは灼熱地獄だった。一面の砂。遠くは陽炎でよく見えない。
「暑い~…」
チヅルが一言漏らすと、ジュンキとユウキは気が抜けたように長い息を吐いた。
「チヅル、いつディアブロスが砂の中から出てくるか分からないから気を張っているのに、なぁ」
「む~…」
ユウキがそう言うと、チヅルが少し脹れてしまった。
「ジュンキは暑くないの~?」
「暑いよ…」
先頭を行くジュンキの足が止まったのは丁度その時だった。
「どしたの?」
「…地面が揺れてる」
ジュンキの返事を聞いて、チヅルは背中からインセクトオーダー改を抜いた。ユウキもクロオビボウガンを構える。ジュンキは右手をアッパーブレイズの柄に添えるに留まった。
―――どれくらいの時間が過ぎただろうか。
突然、3人の真下が急激に揺れた。
「下だ!」
ジュンキの言葉を聞き終わる前に、3人は既にその場を離れていた。それと同時に、砂漠の砂と同じ色の巨大な双角が大地から勢いよく生えた。ディアブロスである。
「行くぞ!」
「おう!」
「うん!」
ユウキは距離を取り、水冷弾を装填した。チヅルは武器を正面で構え、ジュンキはレウスヘルムの面頬を下ろすと右手をアッパーブレイズの柄に持っていき、ディアブロスの隙を窺う。ディアブロスも砂の中から完全に出てくると、3人に向かって威嚇した。そして地響きを立てながら、一番近いチヅル目掛けて突進する。
「来る…!」
チヅルは避けようともせず、インセクトオーダー改を正面で構えた。そしてディアブロスとすれ違い様に右足の腱を斬りつけた。赤い液体が噴き出す。
「俺だって負けてられないな」
ユウキは独り言を漏らしながらも、水冷弾を撃つ。
「はあああああっ!!!」
チヅルとユウキが隙を作った間にジュンキがディアブロスの後ろにまわり、ハンマーのような尻尾の根元を斬りつけ、すぐ離脱する。大剣は隙が大きい武器なので、一撃離脱が基本だ。ディアブロスはジュンキとチヅルから逃げるように尻尾を大きく振り回すと、双角を使って砂の中に潜った。
「あ~潜っちまった…」
ユウキの残念そうな声を遠くに聞きながらジュンキはアイテムポーチから音爆弾を取り出し、ディアブロスが潜った場所に投げつけた。直後、高い周波数の音が響くと同時に、ディアブロスの巨体が砂の中から飛び出す。
「よし…!」
ジュンキとチヅルが、苦しそうにもがいているディアブロス目掛けて走り出す。
「双剣使いの奥義!鬼人化!」
チヅルは大声でそう叫び、ディアブロスの腹の下で踊り舞い始めた。ジュンキもチヅルに続く。ディアブロスが悲痛な声を上げると、再び砂の中へと潜っていく。
「逃がすか…!」
ジュンキは大剣を背中に戻すと、再びアイテムポーチから音爆弾を取り出し投げた。高周波。再びディアブロスが飛び出す。砂の中から尻尾が出るところを狙い、ジュンキの大剣が一撃―――ディアブロスの尻尾が吹き飛んだ。
「やるな~!」
ユウキが嬉しそうな声を上げると、ディアブロスは砂埃を上げて砂の中へと潜ってしまった。すぐにジュンキはアイテムポーチに左手を突っ込むと、三度目の音爆弾を投げた。爆発はした。だがディアブロスは、砂の中から出てこなかった。
「なっ…!」
ジュンキはすぐに異常に気づき離れようとしたが、次の瞬間には宙を舞っていた。
「ジュンキーッ!」
チヅルが叫ぶ中、ジュンキは砂の大地に墜落した。衝撃でレウスヘルムが転がる。
「私が見てくる!」
「こっちは任せろ!」
ユウキがチヅルを安心づけるように言うと、チヅルはぐったりとして動かないジュンキの元に駆け寄った。
「ジュンキ!」
チヅルがジュンキの体を起こすと、ジュンキは血を含む唾を吐き出した。意識があることを確認したため、チヅルは自分のアイテムポーチから回復薬を取り出すと、ジュンキに飲ませた。
「ジュンキ、しっかり!」
ジュンキに回復薬を飲ませつつユウキの状況を確認すると、丁度ディアブロスが砂の中へ潜り、他のエリアへと移動したところだった。
「大丈夫か?」
ユウキがボウガン片手に近寄ってくると声をかけてきた。
「ああ、どうにか…ぐっ!」
ジュンキは自力で立ち上がったが、すぐに片膝をついてしまった。よく見ると、ジュンキの防具に所々ヒビが入ってしまっている。
「無理するな!血まで吐いたんだろ?」
「キャンプで体力の回復を待った方がいいよ」
「…分かった」
チヅルの提案を飲むとユウキの手を借り、一度ベースに引き上げることにした。
「ジュンキ、大丈夫かなぁ」
ベースキャンプを出てすぐに、ユウキが一言漏らした。
「最悪、もうハンター引退かもな。内臓をやられてしまい…」
「そんな…!」
ユウキがぼそっと言うと、チヅルの顔が少し青ざめた。
「ジュンキの身体はやたらと頑丈だ。心配無いと思うけどな」
「もう、ユウキったら…」
「まあまあ。まずは、コイツを狩らないとな」
ユウキがチヅルをなだめるように言った直後に、ディアブロスが砂の中から出てきた。
「ジュンキがいないけど…いくよっ!」
チヅルはそう言うと、ディアブロス目掛けて走り出した。ユウキも続く。ディアブロスは斬られた尻尾を無闇に振り回すがチヅルはしなやかに両足の間に入った。
「はあああああ!!!」
右の足左の足構わず斬りつける、小さな竜巻が起きていた。
「~♪」
ユウキはスコープを覗きながら標準を合わせ、水冷弾を打つ。
大きな攻撃力を持ちつつ囮役もこなせるジュンキがいない分、チヅルはディアブロスの攻撃を避けなければならず、何度も逃がしては追いかけたが、夕暮れまでには何とか決着が着いた。
「ジュンキ、大丈夫?」
チヅルはベースキャンプに戻るなり、テントの簡易ベッドに腰かけていたジュンキの隣に座った。
「よかった。生きてた」
「そっちも無事に終わったんだな。ごめん、役に立てなかった」
「まあ、そんな狩りもあるさ」
遅れてユウキもテントに入り、ボウガンの弾を装備から外して地面に置いた。
「持ちつ持たれつ、気長にいこうぜ」
ユウキの言葉にジュンキは小さく頷く。
「さて、迎えの竜車が来るまでまだ時間がある。のんびりしようぜ」
ユウキはそう言うと、クロオビボウガンをテントに立て掛けた。