モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

38 / 189
1章 心の整理 01

ドンドルマの街は、朝から賑わっている。

人口が多いので、当たり前といえば当たり前なのだが、今日もそれが鬱陶しく感じてしまう。行き交う街人やハンター達は表情明るく、今日はこれからどうしようかという期待が見て取れる。

だが今の自分はどうだろう。とてもじゃないが、そんな気分にはなれそうにもない。

先日、何の別れも告げずに、パーティメンバーのひとりが出ていってしまったのだから。

そしてそれが、自分が最も気になる相手となると、尚更である。

「ふう…」

小さくため息を吐くと、チヅルはそっと瞼を閉じた。

「あ~いたいた!チヅルちゃん!」

自分の名前を呼ばれたので目を開けると、目の前にひとりのハンターが立っていた。

深緑の防具に身を包んだ、青髪青瞳の少女―――パーティメンバーのひとりである、クレハだ。

「おはよう、クレハちゃん…」

クレハに対し、チヅルは素っ気なく挨拶を済ます。

すると、クレハは「隣に座るよ」と言って、チヅルの横に座った。

「また朝からこんなところに座ってる~」

「む~…。いいでしょ?ここに居たい気分なんだから…」

「またジュンキのことを考えてるんでしょ?」

「…」

チヅルは思わず、クレハから目を逸らしてしまった。

すると、すぐにクレハが立ち上がり、チヅルの目線の先に立つ。

「ジュンキは帰ってくるって言ってたんだし、大丈夫だって」

「…どうして止めてくれなかったの?」

「ジュンキが街を出ていこうとした時のこと?あんな目をされたら、止めるに止められないよ」

「どんな目?」

「覚悟を決めた目」

チヅルは目を伏せたが、何かに気が付いたように顔を上げた。

「ねえクレハちゃん、ジュンキがどこに行ったか知らない?」

「え?し、知らないなぁ…」

「そう…?」

クレハは、ジュンキがこのシュレイド大陸の最北端にある、小さな村に行ったことを知っている。だが、それを言う訳にはいかなかった。

その代わりに、クレハはジュンキが戻るまで、チヅルを支えようと決めている。

「大丈夫。必ず帰ってくるよ」

「うん…そうだよね…」

「そうそう!さ、朝ご飯まだだよね?一緒に行こう?」

「…うん」

クレハの誘いにチヅルは頷くと立ち上がり、大衆酒場を目指して歩き出した。

 

大衆酒場は朝からひどい混雑だったが、パーティメンバーが席を取っておいてくれていたので、チヅルとクレハは難なく座ることができた。

「揃ったな。おーい!ユーリーっ!」

「はーい!」

パーティメンバーのひとりである、ランス使いのカズキが大声で呼ぶと、この大衆酒場の給仕であるユーリが飛んでやってきた。チヅル、クレハ、ショウヘイ、ユウキ、カズキが、それぞれの朝食を注文する。ユーリが、テーブル来た時と同じように飛んでカウンターへと戻ると、すぐに注文された朝食が運ばれてきた。

5人は早速ナイフやフォークを持ったが、すぐに太刀使いのショウヘイが声を上げた。

「食べながらでいいから、今日のこれからを話し合おう」

「そろそろ狩りに行きたいなー?」

ガンナーのユウキが、最初に意見を述べた。

「ジュンキが抜けてから、既に5日が経ってる。そろそろみんなも落ち着いてきた頃だと思うんだけど?」

ユウキは言いながらショウヘイの方を向き、ショウヘイは頷いた。

「同じだ」

ユウキの意見にカズキも賛同した。

「私も」

クレハも賛同するが、チヅルは肯定も否定もせずに、黙々と朝食のサラダを口へ運んでいた。

「チヅルちゃん、本当に大丈夫…?」

クレハはつい心配になってしまい、チヅルに声を掛ける。

すると、チヅルはゆっくり顔を上げて、口を開いた。

「みんなはさ…ジュンキのこと、心配じゃないの…?」

チヅルの質問に、一同は困った顔をした。

―――最初に口を開いたのは、ショウヘイだった。

「勿論、全く心配していない訳じゃない。だけどジュンキは、何の考えも無しに、飛び出していくような奴じゃないからな」

「うんうん」

「そうそう」

ユウキとカズキも頷く。

クレハの方を向くと、クレハは「ね?」とウインクしてみせた。

「…そうだね。ごめん。弱気なのは、私だけだったんだね。…私も、ジュンキを信じてみる」

「…よし。そうと決まったら、あとは何を狩りに行くかだな!」

「ディアブロスとかいいんじゃないか?」

とユウキ。

「最近は、グラビモスを狩りに行っていないな…」

とショウヘイ。

「やっぱりリオレイアでしょ!」

とクレハ。

「初心に帰って、イャンクックとかどう?」

とチヅル。

「男は黙ってガノトトスだろ!」

とカズキ。

「な、何それ~っ!」

カズキの言葉に、クレハは腹を抱えて笑った。

ショウヘイとユウキは苦笑いし、チヅルも自然と笑みがこぼれる。

「よし。じゃあ今回は、ガノトトスだな」

ショウヘイが話をまとめると、他の4人は頷いた。

「さて、問題は人数なのだが…」

ショウヘイが目配せすると、ユウキがおもむろに拳を突き出した。

「これだな?」

「ああ」

ショウヘイがユウキの行動を認めると、5人全員が身構えた。

「せーのっ!」

「最初はランポス!じゃんけん―――!」

 

「俺か…」

じゃんけんの結果、今回はショウヘイがお休みとなった。

「丁度いい。斬破刀のメンテナンスでもしておくかな」

「出発は今日の昼で。それじゃあ朝食を終えたら各自解散っ」

カズキが宣言すると、5人は朝食に戻っていった。

 

朝食の後にガノトトス狩りの準備を終えたチヅルは、朝に座っていた街角のベンチに再び座って、時間を潰そうと考えていたのだが、そこには先客がいた。

「やっほー、チヅルちゃん」

「クレハちゃん?どうしてここに?」

「ん~…。何となくかな?でも、ここ、いい場所だねー」

「でしょ?私の、お気に入りのポイントなの。隣、座るね」

チヅルは一言断ってから、クレハの横に座る。

「ねえ、クレハちゃん」

「なぁに?」

「ジュンキ、今頃は、何をしているのかな…?」

「さあ?分かんないよ、そんなこと」

「だよね…。クレハちゃんは、ジュンキのこと、気にならないの…?」

チヅルの問い掛けに、クレハは青空を見上げて「ん~…」と考えていたが、やがて「気にしても仕方ないよ」と答えた。

「気にならないってこと?」

「気になるけど、気にしても仕方ないってこと。チヅルちゃんは気にしすぎだよ~」

「クレハちゃんは、気にしなさすぎだよ…」

「どうして?」

「クレハちゃん、ジュンキのこと、好きなんでしょ?」

「またその話…」

チヅルの言葉に、クレハは頭を抱える。

「好きな人の事って、気になるものじゃないの…?」

「あ~の~ねぇ!いい仲間だとは思ってるけど、まだ好きっていう感情は無いって、前から言ってるでしょ!?」

「まだ…?じゃあ、いずれは好きになるの…?」

「…!」

「あ、やっぱり…もう好きになってるの…?」

「…知らないっ!」

クレハは飛ぶように立ち上がると、早足で街の中央へと消えていった。

この様子を見て、チヅルは思わず微笑んでしまう。

「あんなに顔を赤くして…。クレハちゃんも、正直じゃないなぁ…」

そう言っておきながら、そういう自分はどうなのだと思うと、チヅルはひとり、苦笑いしたのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。