モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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3章 龍からの世界観 07

旧シュレイド城に到着した時には、ミナガルデの街を出発してから既に2日近くが経ってしまっていた。

ジュンキ達が竜車を降りると、約束通り付いてきたリオレウスも、すぐ近くの場所へ着地した。

「ここが、旧シュレイド城か…」

ユウキが、目の前の人工的に積み上げられた岩壁を見上げ、感慨深く呟いた。

放棄されてからかなりの時間が経ってしまっているため、外壁は損傷が激しい。

正面には竜車もくぐれそうな大きさの入り口がポッカリと開いているので、ジュンキ達はそこから中へと入ることにした。

「儂は、空から入るとしよう…」

リオレウスはジュンキにだけ聞こえる声を出し、飛び上がった。

あっという間にジュンキ達を追い抜き、城内へと入っていってしまう。

「何かさ、不思議な気分だよ…」

「どうして?」

「私達の狩猟対象であるはずのリオレウスと、こうして一緒に行動してるなんてさ…」

チヅルの言いたいことも、もっともだと、他の5人も感慨に耽った。

「何か…不気味な場所だね…」

「みんなが居るから大丈夫だよ」

「うん。それは分かってるけど、ちょっとね…」

先頭を行くショウヘイに続いて、少し怖がっているクレハやチヅル、ジュンキと続く。

「ランスは長いからな~」

カズキは身体を少し前に倒して進む。

そして、ジュンキ達6人は、開けた場所に出た。

「うわ…」

「…!」

「どうし…おおっ…」

開けた場所と言っても、とても広い。狩り場のエリアふたつ分くらいはありそうだ。

空は生憎の曇天で、人間が居ない不気味な廃城に、さらに気味悪るさを助長している。

その中で、この開けた場所の中央に、その姿はあった。

細長い身体に、大きな一対の翼。全身漆黒で、見た目はよくありそうな姿形をしているが、威厳も感じられる。

―――黒龍ミラボレアス。

今は、ジュンキ達と一緒に付いてきたリオレウスと向い合っているが、すぐにこちらの存在に気付き、振り向いた。

ジュンキ達6人全員が身構える。

「大丈夫だ。危害を加えるつもりはない」

リオレウスがそう言ったのをジュンキが他の5人に伝える。一応警戒したまま、ジュンキ達はゆっくりとミラボレアスに歩み寄った。

ミラボレアスの正面にジュンキ達が横一列に並び、リオレウスが両者の間の斜め横に挟まれた形になる。

先に口を開いたのは、ミラボレアスの方だった。

「竜人よ…お初にお目にかかる…。我が名はミラボレアス。姿を見せてはくれぬか…?」

「…俺だ。名前はジュンキ」

ジュンキは名乗ってから、1歩前に出た。

「おお…!何百年ぶりか…!まだ血は絶えてはいなかった…!感謝する…!」

ミラボレアスは、リオレウスに向かって礼を言った。

「私は、ただ連れて来ただけです」

リオレウスは頭を垂れる。

「…ミラボレアス。聞きたいことがある」

ジュンキが声を上げると、ミラボレアスは再びジュンキの方を向いた。

「何かな…?検討は付くが…。竜が人を滅ぼそうとしていることについてかな…?」

「そうだ。聞かせて欲しい。どうしてそんなことをする?」

「まず、私の立場を示しておこう…。私は、人を滅ぼそうという考えは持っていない。それを提唱したのは、我が兄達だ」

ここで、ミラボレアスは瞳を閉じた。

「私と兄達は3王などと呼ばれてはいるが、実質は長兄であるミラルーツが全てを仕切っている。その長兄が、ついに動いたのだ…」

「どうして…?」

「長兄の…愛した相手が、人によって殺されたのだ…」

「…!」

「これまでにも、肉親、旧友、恩師等…数多の親近者を殺されてきている…。そしてついに、長兄の怒りは限界を超えたのだ。私は止めたのだ…。ただひとつの種族のみが繁栄出来る世界など、存在しない。全ては共生だ、とな。しかし、長兄は聞き入れなかった。次兄はというと、長兄に心酔していてな…。もちろん賛成した。私は力尽くで従わられそうになったので、今はそうして逃げてきた身なのだ…」

ミラボレアスが言ったことを、ジュンキはショウヘイ達に通訳した。

「そんな…!だからってそんなこと…!」

チヅルは、信じられないといった顔で、悲痛な声を上げた。

「今はまだ準備の段階だろうが、いずれ大きな動きがある。竜人よ…頼む…!世界を、人と竜が共に生きるこの世界を、守ってはくれまいか…!」

ジュンキはゆっくりと顔を上げた。

「もちろんそうしたいさ。でも、俺ひとりの力じゃ、とても…」

「それなら、大丈夫だ」

「…?」

「竜人は、他にもいる。今ここに、ヌシを除いて、3人もな…」

自分を除いて3人。この言葉の意味を理解したジュンキは、驚きの表情で後ろを振り向いた。

「この中に、3人も…!?」

「ジュンキ、一体どうしたの?」

クレハが頭に疑問符を浮かべているので、ジュンキが説明した。

勿論、5人は驚いた。

「うそ…!」

「俺達の中の、3人は竜人だと!?」

「…誰が竜人なのか、分かるのか?」

「聞いてみる…」

ジュンキはミラボレアスに、誰が竜人なのかを尋ねた。

「…私なら、微かな血の匂いで嗅ぎ分けられるだろう。失礼する」

ミラボレアスはそう言って身を乗り出し、まずはショウヘイを嗅いだ。

「…ほう。何と…!」

「ジュンキ、なんて言ってる?」

ショウヘイが尋ねたが、ジュンキは右手を挙げて制止した。

「私と同じ血が流れている…!私の血を引く、ミラボレアスの竜人か…!遠い我が祖先が、人と交わりを持っていたのか…!」

ミラボレアスの言葉を聞いて、ジュンキはゆっくりとショウヘイを振り向いた。

「ショウヘイ…」

「どうした。ミラボレアスは、なんと言っているんだ?」

「ショウヘイ…お前は竜人だ…!」

「…!」

ショウヘイの黒い瞳が大きく見開いた。

「ミラボレアスの血を、引いているそうだ…」

ショウヘイは硬直していたが、やがて小さく頷くと一歩後退した。

「さて…」

次に、ミラボレアスはユウキを嗅いだ。

「違う…。人間だ…」

「ユウキは人間だってさ」

「そっか。まあ俺に世界は大き過ぎるよ」

ユウキは残念がるかとジュンキは思ったが、案外そうでもなかったので、ちょっと安心したのは秘密だ。

「次は…」

ミラボレアスは、チヅルを嗅ぐ。

「…竜人。イャンガルルガか?この臭いは…」

「…!」

「え…?」

ジュンキが突然振り向いたので、チヅルは思わず声を漏らした。

「まさか…!」

チヅルの問い掛けに、ジュンキは首を縦に振って答えた。

「イャンガルルガの血を引く、竜人だってさ…」

「そう…。私、竜人なんだ…」

チヅルは複雑な表情をして俯いた。

「ヌシは…?」

次にカズキを嗅ぐミラボレアス。

「…人間だ」

「カズキは人間…!それじゃあ…!」

カズキはとても悔しがっていたが、クレハは穏やかな表情を浮かべていた。

「そっか…私も、竜人なんだ…」

「…失礼する」

ミラボレアスは、念のため、クレハも嗅ぐ。

「…やはり竜人だ。リオレイアの血を引いている」

「…ジュンキ。私は、何の血を引いてるの…?」

「クレハは、リオレイアだってさ…」

「そう…。ジュンキは…?」

「あ、お、俺?」

ジュンキはミラボレアスに向き合った。

「ミラボレアス、俺は何の血を引いているのか分かるか?」

「嗅がなくても漂ってくる。ヌシはリオレウスの血を引いている」

「リオレウス…!」

ジュンキの青い瞳が見開く。

「だから、ヌシにも嗅ぎ分けられたのかもしれんな…」

「…そうですな」

ミラボレアスがリオレウスを振り向いて言うと、リオレウスは納得したように頷いた。

「さて、竜人達よ…。ヌシ達は、竜人として目覚めることを望むか…?」

ジュンキはミラボレアスの提案をそのままショウヘイ、チヅル、クレハに、もちろんユウキやカズキにも聞こえるように伝えた。

「俺達の世界が危ないんだろう?なら言うまでもないさ」

「私も、ショウヘイと同じ考えだよ」

「私に出来ることなら、いくらでも手伝うよ」

ショウヘイとチヅルとクレハは自分が竜人の末裔であることを受け入れ、竜人として目覚めることを欲した。

そのことをジュンキがミラボレアスに伝えると、ミラボレアスは安堵の表情を浮かべた。

「そうか。ありがとう。…しかし、長い年月を経て竜の血は薄まっている。少々強引な手を使うしかないな…」

「どんな手だ?」

「私の血を飲むがいい。竜の中でも、王家の血だ。恐らく、身体が反応するだろう」

「…どうやって血を抜けばいい?」

「私の尻尾の先を斬りつけるといいだろう。なに、すぐに治るから、心配はいらん」

ジュンキはミラボレアスの血を飲む必要があると、ショウヘイとチヅルとクレハに伝えると、3人は渋々頷いた。

「カズキ、何か容器を持っていないか?」

「各自のカップでいいよな?取ってくるぞ」

カズキはそう言い残し、一度竜車の方へと戻っていった。竜車の中には各々の食器が積まれており、カズキはその中のカップを使うことにしたのだろう。

カズキの姿が小さくなっていくなかで、クレハの口が開いた。

「ジュンキは、どうやって竜人として目覚めたの?」

「ん~…。これは推測だけど、俺は時間が出来たら、あいつを探すためによくリオレウス狩りに出ていたからかな。狩りの最中はどうしても返り血を浴びるし。そのせいかな?」

「ふ~ん…」

ジュンキがリオレウスを指差したので、リオレウスは何事かと首を傾げていたが、クレハはとりあえず納得したようだった。

 

カズキがカップを持って戻ってくると、ジュンキは腰から剥ぎ取りナイフを抜いた。そしてミラボレアスの尻尾を片手に持つ。

「いくぞ?」

「ああ」

ジュンキはミラボレアスの返事を聞いてから、尻尾の先端を斬り付けた。途端に、どす黒い血液が流れ出る。

ジュンキはカズキからカップを受け取り、それを汲んだカップをユウキに渡す。3杯分が汲み終わったところで、丁度出血も止まった。

ミラボレアスの血液がショウヘイとチヅルとクレハの手に配られると、チヅルとクレハは眉間に皺を寄せた。

「うえ…」

ジュンキ、ユウキ、カズキ、リオレウス、ミラボレアスの3人と2匹が見守る中、ショウヘイとチヅルとクレハは血液を飲み始める。

ショウヘイは一息に飲み干したが、クレハは途中からペースが落ちてしまい、今はチビチビと飲んでいる。チヅルは半分くらいのところでカップを手から滑り落とし、激しく噎(む)せ返った。

「ゲホッ!ゲホッ!ううっ…!」

チヅルはその場にしゃがみ込んでしまう。それはショウヘイやクレハも同じで、苦しそうに肩で呼吸を始めた。

「…」

今は見守るしかない。

ジュンキは苦い顔をしながら、ミラボレアスに向かって口を開いた。

「大丈夫なのか?」

「直接、血液を流し込んでいるわけではないからな。心配は無用だ」

そう言う、ミラボレアスの顔も真剣だった。

―――突然チヅルが顔を上げたのが、この時である。

「…聞こえた」

「え…?」

「ジュンキ…私、聞こえたよ…ミラボレアスの声が…!」

「儂にも聞こえるぞ、チヅルとやらの声が…」

リオレウスが相槌を打つ。

「おお…私の声が届いたか…!」

「私にも、聞こえる…!」

「俺にも聞こえるぞ…!」

チヅルに続けて、クレハとショウヘイも顔を上げた。

「私、本当に竜人だったんだ…!」

クレハは立ち上がり、その場で飛び上がったり双剣を振り回したりする。

「でも、あんまり変わってないような…?」

「まだ完全に竜人として蘇った訳ではないからな。今はまだでも、徐々に竜の力性が蘇ってくるはずだ」

ショウヘイとチヅルも立ち上がると、ジュンキ達6人は先程と同じように、横一列に並んだ。

「さて、無事に竜人として、新たに3人が目覚めた。先程も話した通り、我が兄達はまだ準備の段階だろう。しかし、いずれ大きな動きがあるはずだ。その時は竜人達よ、頼む…。その時が来たら、私も共に戦う事を約束しよう」

「儂もいるからな」

ミラボレアスの言葉に続いて、リオレウスも協力を約束してくれた。

「さてと…私はそろそろ場所を移すとするかな…」

「どうしてだ?」

「この場所では、すぐ人に見つかる。再びハンターを呼ばれれば、私は自分の身を守るためとはいえ戦わねばならん。それに―――」

ミラボレアスはここで、一度言葉を切った。

「―――恐らく、次兄が私を追い駆けてくるだろうからな…」

「次兄…。紅龍ミラバルカン…?」

「そうだ。今会うと面倒極まりない。私は、時が来るまで、姿を隠すとしよう…」

ミラボレアスはそう言い、漆黒の翼を広げた。

「では、失礼させてもらう…。竜人達よ、また会おう…」

ミラボレアスはそう言い残して、旧シュレイド城から飛び去っていった。

 

「…街に戻ろう?」

クレハのひと声で、ジュンキ達はこの場所に入ってきた場所へと歩き出した。

途中でリオレウスに空から追い抜かれてしまうが、旧シュレイド城から出ると、リオレウスは竜車の横で待っていた。

「今日はありがとう」

ジュンキが礼を言うと、リオレウスは首を傾げた。

「礼を言われる筋合いはない。儂が勝手に付いてきただけだ」

リオレウスの素っ気ない返事に、ジュンキは微笑を返した。

「リオレウス…さん…?」

「ん…?」

クレハがジュンキの横に並んで、リオレウスに話し掛けた。

「あの…一応、自己紹介をと思って…。クレハです。よろしく…」

「あ、私はチヅルです」

「ショウヘイだ」

「ああ、よろしく…」

リオレウスは会話することにあまり慣れていないようで、声が少し高くなってしまっていた。

 

ジュンキ達は竜車に乗り込むと、旧シュレイド城を出発した。

行きと同じく、リオレウスは空から付いてきたのだった。


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