フェンス、ショウヘイ、ユウキ、カズキをポッケ村に残し、レンヤ、レイナ、リヴァル、リサの4人は雪山へと足を踏み入れた。村人の目撃情報によれば、ドドブランゴは山道を右往左往した後、山へと戻っていったからだ。
雪山は極寒の大地であり、ホットドリンクが無ければ動けなくなってしまう程に過酷である。慣れない環境で雪に足を取られつつ、4人はベースキャンプに入る。そこで準備を整えるとすぐに出発した。
先頭をリヴァルが歩き、レンヤ、レイナ、リサと続く。右手に高い山、左手に湖を望みながら歩いていくと、不意に視線を感じてリサは右を向いた。そこには羨望の眼差しを向けるレイナがおり、目線が重なるとレイナは慌てて顔を正面に向けてしまった。
「どうしたの?」
リサが微笑みながら尋ねてみると、レイナは「いえ…あの…その…」と目線を正面とリサへ何度も行き来させ、そして恥ずかしそうに顔を上げた。
「か…かっこいいなと…思いまして…」
レイナの言葉を受けて最初は疑問符を浮かべたリサだったが、それが身に着けている防具を指してのことだと分かり、笑顔で「ありがとう」と言った。
「これはリオレイアの亜種である、桜色のリオレイアの素材から作った防具なの。名前
はリオハートXね」
リサの説明を聞き、レイナは驚きと憧れに目を輝かせた。
より強い武器や防具への関心はレイナだけではなく、レンヤも同じだ。前を歩くリヴァルの背中に固定されている大剣や身に着けている防具に目を引かれてしまい、リヴァルが歩みを止めたことに気付かず、身体が当たりそうになってしまった。
「ど、どうかしましたか?」
レンヤはリヴァルに対する恐怖心を抑えつつ、出来る限り自然体で話し掛けた。するとリヴァルは顔を向けず、目だけを向けてきた。
「さっきから何を見ているんだ?俺の背中に何か付いているのか?」
「い、いいえ…。ただ…」
レンヤは一度口を閉じてしまうが、小さな勇気を出して顔を上げた。
「その…。リヴァルさんの武器や防具が気になりました…」
最初こそ声が大きいものの、次第に小さくなってしまうレンヤだった。
リヴァルは目線を少しだけ動かし、レンヤの使用武器が大剣であることを確認すると、再び目線をレンヤへと戻した。
「大剣の銘はブリュンヒルデだ。リオレウスの亜種とリオレイアの亜種から作られている。防具はリオソウルX。その名の通り、これもリオレウス亜種からだ」
リヴァルの説明を聞いてレンヤも目を輝かせるが、リヴァルは何かに気付いたようで、それ以上は口を開かなかった。少し遅れてリサとレイナが追いつき、リサがリヴァルの横へ並ぶ。
「見つけたの?」
「ああ。この先だ」
4人の前には人がひとり通れそうな横穴が空いている。
「この穴は山の中腹まで繋がっている。ドドブランゴはその周辺だろう」
リヴァルが見つめる地面をレンヤとレイナも見る。そこには大型牙獣種の足跡が残されていた。
洞窟を抜けた先は、雪原が広がっていた。その中心に、1匹の牙獣種が立っている。
「…!」
前を歩くリヴァルとリサが立ち止り、後に続くレンヤとレイナも歩みを止める。ドドブランゴもこちらに気付いたようで、身体を向けた。
互いに動かず、長い沈黙の時が続く。
そして先に動いたのはドドブランゴだった。後ろ足2本で立ち上がり、天高く咆哮する。すると、レンヤとレイナ達4人を囲むように3匹の牙獣種が現れた。ブランゴだ。
「邪魔だけはするなよ」
リヴァルはそれだけ言い残して駆け出し、リサは無言でリヴァルを追った。
「まずはブランゴからだ!」
「は、はい…っ!」
残されたレンヤとレイナはそれぞれの得物を構え、ブランゴの討伐を始めた。レンヤは目の前で飛び跳ねるブランゴへ背中の大剣を振り下ろす。
「はあっ!」
しかしブランゴは軽いステップで真横へと動き、レンヤの大剣は雪原へ吸い込まれる―――はずだった。
「避けると思ったよ…!」
レンヤは大剣へ乗せる体重を最小限にすることで、重量のある大剣が雪へ深く埋まらないようにした。その為すぐに大剣を持ち上げることができ、真横へ避けたブランゴへ大剣の横薙ぎを当てることに成功する。ブランゴは真っ白な大地へ鮮血を流しながら雪原を転がった。そこへレイナの放つ矢が襲い掛かり、ブランゴは絶命する。
残り2匹のブランゴも早急に片づけたレンヤとレイナはドドブランゴと戦うリヴァルとリサの元へ駆け出し、驚きの余りその脚を止めてしまった。
リヴァルとリサは互いを完全に把握している動きで、ドドブランゴに反撃の隙を与えていなかった。
リヴァルが大剣をドドブランゴへ向かって右から左へと薙ぎ払う。するとドドブランゴはリヴァルの大剣に合わせて回避するが、その場所には「大龍壊棍」という名のハンマーを構えたリサが待ち受けており、空中へ跳んでいたドドブランゴは回避することが出来ず、リサの重い一撃を脇腹に貰ってしまう。ドドブランゴは悲鳴を上げて雪の大地を転がるが、そこへリヴァルが先行しており、大剣の一撃が襲い掛かる。
「す…凄い…!」
「うん…!」
レンヤとレイナが動けないままでいると、ドドブランゴはリヴァルとリサを押し退けるようにして距離を取り、大きく跳躍してこの場から逃げて行った。飛び去る直前にリサがペイントボールを投げたようで、すぐに独特の臭いが広がる。
リヴァルとリサが戻ってきたので、レンヤとレイナも合流した。
「す、凄かったです…!感動しました…!」
レイナがリサに駆け寄ると、感激の気持ちを素直に口にした。リサは嬉しそうに微笑み、レイナの頭をリアの上から撫でる。どうやらリサもリアの存在を防具の一部だと考えているようだ。
「ふふ、ありがとう。あなた達がブランゴの相手をしてくれたおかげで、ドドブランゴに集中できたわ」
えへへ…と笑うレイナだが、頭の上のリアのことを忘れてしまっていた。リサが手を引くと同時に、リアが起きてしまったのだ。
「キュアァァァ…ッ!」
2本の脚でレイナの頭に掴まり、小さな翼を広げる。その様子に4人は氷漬けになってしまったかのように固まってしまった。