「お前も相変わらずだよな。何歳なんだよ」
「35歳。お前と一緒だろ?忘れたのか?」
「違う。もう少し歳を考えて行動しろって言ってるんだ」
ユウキがカズキを呆れたように言うが、当のカズキは全く気にする様子が無く、酒場の給仕へ「ビール!」と注文している。
「で、こちらの2人は?兄妹に見えるが…。ん?」
カズキは何かに気付いたようで、顔をレンヤとレイナへ近付けた。近付けるだけ2人は身体を反らせて距離を取るが、するとカズキも顔を近付ける。
「…どこかで見覚えがあるな」
カズキの言葉にレンヤとレイナは当然、ショウヘイやユウキ、フェンスも驚いた。
「さすがはカズキ。野生の勘が鋭いな」
ユウキの冗談に、カズキはフンッと鼻を鳴らす。
「誰が野生だ。それで、この2人は誰?」
「…ジュンキとクレハの子供だ」
ショウヘイの言葉を聞いたカズキは「へ…?」とだけ言って固まってしまった。
数秒の間を置き、カズキは動き出す。
「ジュンキとクレハの子供!?」
「レンヤといいます」
「レイナです。よろしくお願いします」
「…は、ははは」
カズキは引きつった笑みを浮かべ、その表情のまま涙を流し始めてしまう。
「そうか…。はるばる挨拶に来てくれたのか…」
カズキは涙を拭うと一呼吸置き、自己紹介を始めた。
「改めて。俺はカズキだ。ジュンキとクレハは、俺の大切な仲間だ。得物は見ての通り、ランス。俺はランサーだ」
ちなみに、厳つい漆黒の槍と防具はどちらも黒ディアブロスというモンスターの素材から作られているらしい。
「それで、俺を訪ねてきてくれた理由はまだあるんだろう?まさか挨拶の為だけにこんな場所まで来ないだろう」
カズキの鋭さに驚きつつ、レンヤが口を開いた。
「俺達は、父さんと母さんを探しているんです」
「何か心当たりはありませんか…?」
「心当たり…?心当たり…。ん?」
強い眼差しを感じ、カズキは顔を上げた。そこには真顔のショウヘイと睨むユウキ、そして不安そうな表情のフェンスが居た。
カズキは3人の意図に気付き、ジュンキとクレハにお願いされた、14年前の約束を思い出した。いつの日か、自分たちを探しに来る人物が現れるかもしれない。その時は…。
「…ごめんな、レンヤ、レイナ」
「…」
謝りの言葉から入ったのに、レンヤとレイナは黙ったまま表情を崩さず、カズキを見つめている。
「ジュンキとクレハは、もうこの世には居ない…」
「…」
「火山地帯での狩りだった…。グラビモスと呼ばれている大型モンスターとの戦闘の最中、2人は勢いある攻撃で弾き飛ばされ、そのまま溶岩の中へ…!」
ここでカズキは泣きの演技へと入ったが、レンヤとレイナは不思議そうに顔を見合わせるだけだった。そしてショウヘイやユウキ、フェンスからはため息が漏れる。
「…あれ?」
カズキがキョトンとしていると、レンヤとレイナの会話が耳へと入ってきた。
「…やっぱり違う」
「これは、どういう事なのかな…?」
「もう少し、詳しく聞いてみよう…」
「そうだね…」
レイナの返事を最後に、2人は再びカズキと向き合う。
「カズキさん、お聞きしたい事があります」
「お父さんとお母さんは、本当に死んでしまったのですか?」
「えっ、え~…あ~…たぶん…」
「多分…?」
「あ~…。正直に話すよ…」
カズキは申し訳無さそうに顔を上げると、ゆっくりゆっくり、虫の歩みよりもゆっくりと口を開いた。
「…実は、今の話は伝え聞いたものなんだ」
「誰からですか?」
レンヤの追及に、カズキは目を泳がせる。
「え~っと…誰だったかなぁ…?」
「お願いします。教えて下さい」
レイナの懇願に、カズキは昔の仲間の名前を出すことにした。
「そうだ思い出した!リヴァルだ!あいつから聞いたんだ!」
「リヴァル、さん…?」
レイナは思わず聞き返してしまったが、ショウヘイやユウキ、フェンスは誰のことか分かっているようで、口々に「あいつか…」「元気にしているのか?」といった声が聞こえる。
「その、リヴァルさんはどちらにいらっしゃるんですか?」
「リヴァルの居場所?そりゃあポッケ村だろうなぁ…」
「ポッケ村…」
新しい手掛かりを得て、レンヤとレイナは笑顔で頷く。
「俺達は、父さんと母さんの手掛かりを探し続ける為に、ポッケ村へと向かいます」
「カズキさん、何もお礼が出来ませんが、ありがとうございました」
2人は頭を下げると、立ち上がろうとする。するとカズキは両手で2人の肩を持ち、そのまま座らせた。
「まあまあ落ち着けって。焦ってもポッケ村は逃げたりしないぜ?それと、その手掛かり探し、このカズキ様も手伝ってやろうじゃねぇか」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、本当だ。その為にも、少し待って欲しいんだ。具体的には、2日3日くらい」
「どうしてだ?」
ここでユウキが口を挟んだ。その表情はハンターのもので、ショウヘイやフェンスも真剣になっている。
「そんな深刻な話じゃないさ。近頃、ババコンガが村の周囲で暴れていてな。いつ村人が襲われるか分からないから、こうして村長と対策を練っていたのさ」
カズキはそう言い、先程からカズキの隣に居るものの一言も話さなかった人物を紹介した。
「レンヤ君とレイナさんは、初めましてだね。ショウヘイ君とユウキ君はお久しぶり」
村長はカズキを交えながら、ババコンガについての対策を話してくれた。その中身を要約すれば、村人達はババコンガの目撃があった場所へは近寄らず、カズキが明日にでも狩猟に出るということになっている。
「それなら、レンヤとレイナも参加したらどうだ?」
「えっ…!?」
「私達が、ですか…!?」
突然のユウキによる提案に驚く2人。しかし、ショウヘイとフェンスは「良い案だ」と納得しているようだ。
「ババコンガとの戦いは初めてだろう?良い経験になる」
「ババコンガは竜と比べれば危険は少ない」
2人の言葉に押され、レンヤとレイナはためらいながらも承諾したのだった。