「ジャンボ村…?」
その名前に、レンヤとレイナは首を傾げた。これまで生きてきて、一度も聞いたことの無い地名である。
「ああ、そうだ。この街からだと結構な時間がかかるな」
ユウキは軽い口調で言い、昼だというのにビールを口へ運ぶ。無事にドスガレオスの狩猟を終えた4人はフェンスと待ち合わせ、酒場のユーリと共に今後の話を進めていた。
「そこに、父さんと母さんの手がかりがある…」
レンヤは記憶へ刻むように呟くと立ち上がり、頭を下げた。レイナも慌てて追従する。
「ありがとうございました!必ず父さんと母さんの居場所を探し出します!」
「お世話になりました」
2人はそのまま酒場の出口へと歩き出したが、すぐにユウキが呼び止めた。
「ちょっと待て待て!2人だけで行くつもりか?」
「はい。場所が分かれば、そこへ行くだけですから…」
「それに、これ以上は迷惑を掛けられません…」
レンヤとレイナの言葉に、黙っていたショウヘイがゆっくりと口を開いた。
「…誰も迷惑だなんて思っていない」
「え…?」
ショウヘイの言葉に、レイナは皆の顔を見渡した。ユウキは笑顔であり、フェンスも嬉しそうだ。ユーリも微笑んでいる。
「俺達の仲間の子供が訪ねてきたんだ。迷惑な訳ないだろう?」
「そうそう。嬉しい限りだよ」
「私達も、ジュンキやクレハがどうなったのかを知りたいの。お手伝いさせて?」
「いいんですか…?」
レンヤの確認に、ユーリは「ええ!」と頷いてくれた。
「…となると、ジャンボ村への行き方が問題になるな。フェンス、どうするのが一番良いと思う?」
「そうですね…。やはり、定期便を使うのが一番確実だと思いますよ」
「だよなぁ」
「だけど、定期便は稀にモンスターに襲われる。大抵は同乗しているハンターが追い払うから、そこまで問題にならないと思うけど」
「だが、万が一といこともある」
ショウヘイの一言で、フェンスは口を閉じてしまった。すると、ユーリがパンッと手をひとつ打つ。
「そうだ。あなた達が2人の護衛をすればいいんじゃない?」
その言葉に、レンヤ、レイナ、フェンス、ショウヘイ、ユウキは互いの顔を見合わせた。
「ショウヘイやユウキも当面は暇でしょう?」
ユーリは顔をショウヘイとユウキへ向ける。
「まあ、そうだな」
「別に忙しくは無い」
「フェンス君も、村へ戻るのは久しぶりじゃないの?」
「そうだな…」
フェンスは一度頷くと、様子を見守っているレンヤとレイナの方を向いた。
「俺がジャンボ村まで案内するよ」
「ほ、本当ですか!?」
「ありがとうございます!」
レンヤとレイナは同時に頭を下げた。そこへショウヘイとユウキも声を上げる。
「俺達も行くぜ」
「久々に、カズキとも会いたいからな」
ショウヘイとユウキが立ち上がる。遅れてフェンスもその場に立つ。
「行こう!ジャンボ村へ!」
ユウキが拳を突き出し、他の4人も拳を当てた。
その様子を見たユーリは全員の無事を祈ったのだった。
ユウキがミナガルデの街で言った通り、ジャンボ村は街から数日もかかる場所にあった。
ミナガルデと大きく違うのは気候だった。一日を通して気温と湿度が高く、ムシムシしていた。動植物も見たことのないようなものばかりで、長い旅路の間もレンヤとレイナは飽きることが無かった。リアも大人しいもので、レイナ達以外の人間が近くにいる時は微動だにしなかった。
そして到着したジャンボ村は、ココット村と比較しても大差無い規模だった。しかし、村の中の道は整えられた石で敷き詰められて舗装されており、とても歩きやすい。
「ココット村もこうならないのかなぁ」
「ここは雨が多いから、足が汚れない工夫だね」
「そっか。ココット村はそこまで雨が多くないから、別にいらないのかぁ」
レンヤとレイナの会話を聞き、フェンスが笑顔で振り向いた。
「雨でも足元が汚れないのは、村の外から来る商人からも評判なんだ」
フェンスの補足に、レンヤとレイナは「おおー」と驚く。
その様子を見て、ショウヘイとユウキも自然と笑顔になってしまう。
「いいな、子供って…」
「お前も早く相手を見つけろ」
「余計なお世話だっ。それを言うならショウヘイだって―――」
「…カズキだな、あれは」
「話を聞けよっ!」
ユウキの言葉を無視してショウヘイは立ち止まり、レンヤとレイナ、フェンスも歩みを止める。
ショウヘイの目線の先には、小さな酒場があった。天井は無く、カウンターと椅子に見立てた酒樽が4っ5っ。酒場を切り盛りするひとりの女性がカウンターの内側で座り、ハンターと思われる人物と村の男性、3人で話をしているようだった。
ショウヘイは再び歩き出す。距離が縮まるにつれて、ハンターと思われる人物の様子が詳細に見えてくる。
そのハンターは全身を漆黒の防具で包み、横には同じく漆黒の槍と大きな盾。槍の長さはそのハンターの背丈よりも長い代物である。
「…カズキ」
ショウヘイが呼び掛けると、そのハンターもこちらを振り向いた。
「…!」
眉間に皺を寄せた厳めしい顔が向けられ、レンヤとレイナは背筋がぞっとした。モンスターと鉢合わせたような感覚に、2人は危うく背中の武器へと手を伸ばすところだった。
次の瞬間、カズキの顔が一気に笑顔へと変わり、レンヤとレイナは拍子抜けしてしまう。
「ショウヘイ!ユウキ!うおーっ!久しぶりだなぁ!」
カズキは飛び上がり、ショウヘイとユウキに握手を求める。2人がこれに応じると、勢い良く上下に振り回した。
「カズキさん、只今戻りました」
「フェンス!お前も突然戻ってきたなぁ!」
カズキはフェンスに向かって突撃するが、フェンスはこれを軽く横へ動いて避けてしまった。どうやらカズキの元気なところが苦手のようだ。
「で、この2人は?新人ハンターか?」
「まあ、そうなんだが…。カズキ、酒場を使わせて貰うが、いいか?」
「ああ、話なら丁度良い。村長もいるし」
どうやらカズキと一緒に話をしていた村人は村長のようだ。
レンヤとレイナはこの元気な男に連れられ、小さな酒場へと向かったのだった。