数日後、レンヤとレイナ、ショウヘイとユウキの4人は砂漠のベースキャンプに居た。
ショウヘイがカズキの居場所を教える条件として出したのが、砂漠に生息する「ドスガレオス」というモンスターの狩猟だったからである。
レンヤは日陰から出ると、太陽を見上げた。灼熱の業火で焼かれるかのような強い日差しに、眩暈すら起こしそうになる。
「お兄ちゃん、クーラードリンクは飲んだ?」
隣にレイナが立ち、封を開けたクーラードリンクを差し出す。レンヤは「ありがとう」と言って受け取ると、中身を一気に飲み干した。
その様子を、ショウヘイとユウキは少し離れた場所にある日陰から見つめる。
「どうしてドスガレオスの狩猟なんて受けたんだ?」
「単なる腕試しだ。気になるだろう?ジュンキとクレハの子供だぞ?」
目線をレンヤとレイナへ向けたままユウキが発した言葉に、ショウヘイも目線を2人へ向けたまま答えた。
「確かにな」
ユウキは小さく笑い、レンヤとレイナに合流する。
「基本、俺とショウヘイで狩りをする。2人はサポートを頼む」
「あの、何をすればいいですか?」
ユウキの言葉を聞いて、レイナが質問した。ユウキはレイナの頭の上にある帽子に右手を乗せる。
「レンヤは大剣だから、ショウヘイの援護。レイナは弓だから、俺と一緒に遠くから援護だな」
「ああ、分かった」
「分かりました」
ユウキの言葉に、レンヤとレイナは同時に頷いた。
「…しかし、よくできた防具だなぁ」
ユウキはレイナの頭に被せられている帽子を右手で撫でてみる。
「まるで飛竜の素材から作られているみたいだ。2人はまだ飛竜を狩っていないだろ?一体、どこで手に入れたんだ…?」
ユウキはそう言いつつ、レイナの帽子を持ち上げようとする。
「あっ、ダメです、ユウキさん…!」
「えっ…?」
ユウキが帽子の「首」を掴んだその時、帽子がもぞもぞと動き出した。
「ピグウウウッ!」
次の瞬間、帽子の「口」から炎が噴き出した。
「うおわああああっ!」
ユウキは慌てて右手を引き、慌ててレイナから距離を取った。
帽子が、生きている…!
「な、なんだ…!?」
ユウキが驚きの表情でレイナの帽子を見つめていると、レイナは頭から帽子を取り、抱くように持った。
その隣へレンヤが並び、レイナが重々しく口を開く。
「これは、帽子とか、防具ではありません…。竜の子供です…。名前はリア…」
レイナはそう言い、リアの頭を撫でた。すると、リアは嬉しそうに「キュウウウン」と鳴く。
「驚いたな…」
衝撃を隠せないユウキの横へショウヘイが並び、ユウキの背中を叩いた。ユウキはそれで正気を取り戻したが、リアとレイナを交互に見ている。
「丘を探索している時に見つけ、怪我を治療したら、懐いてしまったんです…」
レイナは小さな声で説明し、リアの顔を見つめた。そして処罰を待つ罪人のような顔で、ショウヘイとユウキを見る。
「…君の言いたいことは分かる。俺も、無暗にギルドへ報告したりはしない」
ショウヘイの言葉にレンヤとレイナは安堵の表情を浮かべるがショウヘイの話は終わっておらず、「ただし…」という言葉に再び顔を強張らせた。
「もし、街で他のハンターに気付かれたり、危害を加えようとしたり、親の竜を呼ぼうとするのなら…」
ショウヘイはそう言い、背中の太刀へ手を添えた。
「…分かりました」
レイナは深刻な表情で頷くと、ショウヘイは「さあ、この話はここまでだ」と話を狩りの方へと向けた。
4人はベースキャンプの日陰へと集まり、ドスガレオス狩猟の対策を練る。
レンヤとレイナはドスガレオスの経験が無い為、ショウヘイとユウキは持っている知識の全てを教えたのだった。
ベースキャンプの外は砂の海だった。頭上からは殺人的な日光が降り注ぎ、徐々に体力を奪っていく。クーラードリンクが無ければ、どんな屈強なハンターも生きていけない過酷な環境である。
その中を、4人のハンターが一列になって歩いている。先頭からショウヘイ、レイナ、レンヤ、ユウキの順だ。
その他に動いているのはサソリのような小型の動物と、遠くの岩陰で飛び跳ねるゲネポス。そして砂の海を自由に泳ぐガレオスだ。
今回の目的は、ガレオスの親玉であるドスガレオスを狩猟することである。
「あっつい…」
額の汗を拭うレンヤ。前を歩くレイナも背中に元気が無く、頭の上のリアもぐったりしているように見える。
「レイナ、リアは大丈夫か?」
「う~ん…。リアちゃん、大丈夫?」
レイナが頭の上からリアを下し、赤子を抱くように持つと、リアは「キュウ…」と元気無く鳴いた。
「この先にオアシスがある。そこで水を与えるといいだろう」
先頭を歩くショウヘイはそう言い、右手を進行方向へと伸ばした。
熱せられた砂の大地による陽炎でぼやけて見えるが、ショウヘイの指す方向には確かに水場が見えた。
水場に到着すると、レンヤとレイナはリアを連れて行ってしまった。
その姿を見て、ショウヘイとユウキは苦笑いする。
「砂漠の水場は危険地帯なんだがなぁ…」
ユウキはそう言いつつ、水場の周囲を警戒する。
「初めて砂漠へ来たんだ。無理もない」
ショウヘイも地面の振動を感じられるよう、姿勢を低くした。
「水は砂漠に生きるモンスターにとっての命綱。草食から肉食まで集まる場所なのに、あんなに大声を出すとは…」
ユウキも腰を落とし、背中のライトボウガン「深紅深碧の対弩」のスコープを覗く。
「俺達も、20年前は同じだった。そうだろう?」
ショウヘイは地面に耳を近づける。大型モンスターが接近する前兆を掴む為だ。
「確かにな。あの頃が懐かしいぜ」
ユウキがスコープから顔を上げると、水場のレンヤとレイナを確認する。存分に楽しんだらしく、近くに生えていた木の下でクーラードリンクを飲んでいた。
「…あの様子じゃ、長時間の戦闘は難しいか」
「だろうな。初めての砂漠だから、無理もない」
ユウキが立ち上がり、ショウヘイも横に並ぶ。
「早く終わらせたいが、あの2人の実力も知りたい」
「そうだよなぁ。どこまで体力が持つかが焦点か」
ユウキが口を閉じたその時、小さな衝撃が走った。ショウヘイとユウキはすぐに気が付く。
「…来たな」
「ああ。…あの2人を呼んでくる」
ユウキはボウガンを背負うと、水場にいるレンヤとレイナのところへ駆け出した。
ショウヘイはその場を動かず振動が来る一点を見つめ続ける。
砂の大地を裂く背中のヒレが見えた時、ショウヘイは背中の太刀「夜刀・月影」を抜いたのだった。