モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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1章 小さな狩人 09

イャンクックを追い駆け、レンヤとレイナは野山を走り回った。

時には崖の上から飛び掛かり、時には木々の間から狙撃する。

イャンクックには水を飲む暇さえ与えなかった。

レンヤとレイナも決して無理はせず、イャンクックが怒りの炎を上げている間は逃げに徹した。

そうすることで、体格的な不利から来る疲れを先延ばしにしていた。同時にイャンクックは休むことができず、徐々に疲れが蓄積していく。

そして、空が赤くなり始めた頃。ついにイャンクックがレンヤとレイナに背を向け、逃げ出そうとした。

「逃がすか!」

レンヤは大剣「ボーンスラッシャー」を構えたまま走りだし、勢いと大剣の重さでイャンクックの脚を狙った。

やはり刃は通らなかったものの、イャンクックを地面へ転がすことに成功する。衝撃で同時に転んだレンヤもすぐに起き上がり、イャンクックの頭部へ大剣を振り下ろす。衝撃でイャンクックの頭が地面へ少し埋まるが、まだ生きている。

「もう一度っ!」

レンヤが再び大剣を上段に構えたその隙を狙ったのか、イャンクックがこれまでにない勢いで跳ね起き、レンヤの追撃が無いうちに夕焼けの空へと飛び去った。

「くそっ…!」

飛び去る背中を睨み、レンヤは悪態を吐く。

「お兄ちゃん、言葉遣いが悪いよ?」

レイナが注意すると、レンヤは「悪かったよ…」と反省し、レイナは小さく笑った。そしてレンヤ並び、同じ空を見上げる。

「…太陽が傾いてきたね」

「日暮れまでには決着を付けたいな…」

夜の狩りは危険な為、禁止が村長から厳命されている。破れば最悪、ハンターとしての資格を失うかもしれない。つまり、夜になってしまったら、翌日まで狩りが出来ないのだ。そうなれば、イャンクックが体力を回復してしまうだろう。

「レイナ、何としても今日中にイャンクックを倒すぞ」

「はい…!」

レンヤの力強い言葉に、レイナも大きな声で答えた。

 

ペイントボールの臭いを追ってみると、イャンクックは小さな山の中腹にある、洞窟の中にいるようだった。

「あそこに巣があるのかな?」

「だろうな…」

レンヤとレイナは山麓を時計回りに進み、途中で横穴がポッカリと開いている場所を見つけた。

そこは沈む紅い太陽が差し込み、洞窟の奥で眠るイャンクックを照らしていた。

レンヤとレイナは互いに顔を見合わせ、同時に頷く。

レンヤは背中の大剣へ手を添え、レイナも頭の上のリアを地面に降ろすと、弓へ矢を添えた。そして音を立てないよう、静かにイャンクックへと歩み寄る。

途中でレイナは脚を止めた。弓矢は距離が近過ぎても威力が落ちるからである。

レンヤは寝息を立てるイャンクックの横を通り、ボロボロになった翼を避け、頭部の横で立ち止まった。

レンヤが軽く右手を上げて、レイナに合図を送る。レイナも頷き、すぐに矢を放てるよう構える。

レンヤは背中の大剣「ボーンスラッシャー」を抜き、上段に構えた。そして、全身の筋肉を使って振り下ろす。大剣使いの必殺技だ。

「くぅ…ッ!」

声を出して気合を入れたいところだが、イャンクックを起こしてしまうかもしれない。そこで息を殺しつつ、イャンクックの頭部に向かって大剣を振り下ろした。

「…!」

イャンクックの身体が跳ねるように動き、レイナは弓矢を構える両腕へ更に力を込めた。

イャンクックはそのまま起き上がり、最後の戦いが始まるかと思いきや、跳ねあがったイャンクックの身体は静かに沈み、そして動かなくなった。

「…」

「…」

「…キュウ?」

立ち尽くす2人と、首を傾げる幼い竜が1匹。

最初に口を開いたのはレイナだった。

「…お兄ちゃん。倒したの…?」

「…ああ」

レンヤの返事が返ってくるまで少しの間があったのは、レンヤ自身がこの結果を期待していなかったからだろう。

レンヤは顔を上げ、レイナの方を向く。最初は表情が無かったレンヤの顔が徐々に笑顔になると、レイナも自然と微笑んでいた。

「やった…」

「…うん」

「やったぁ…!」

「…うん!」

レンヤがレイナに駆け寄り、レイナはレンヤを受け止める。そこへ、リアがレイナの足首に抱き着き、2人と1匹は喜びを共有したのだった。

 

狩り場から戻ると、太陽の光は遠くの山へ僅かな光を残すだけになっていた。

門番に気を遣いつつ村へと入った2人は、疲れた身体を引きずるようにして集会場へと入った。

夕食時もあってか集会場の中は混雑しており、美味しそうな匂いが漂っている。

空腹を押し殺し、2人は相変わらずタバコを吸っている村長の前に立った。

「…その様子じゃと、無事に狩りを終えたようじゃな」

村長は顔を動かさず、目だけで2人の様子を察したようだ。

2人は一度顔を見合わせ、そしてレンヤが口を開いた。

「村長、無事にイャンクックの依頼を終えました」

レンヤの言葉を聞くと、村長はタバコを口から離し、レンヤとレイナに向き合った。

「よくぞ無事に戻ったのぉ…。これで、儂から教えることは何も無い…」

「いえ、そんなことは…」

「私達は、ハンターとして、まだまだだと思います…」

村長の褒め言葉に、レンヤとレイナは顔を僅かに赤らめる。

「今日は疲れたじゃろうて。詳しい話は明日にしようぞ…」

村長はそう言うと、近くの給仕を呼んだ。

「2人へ飯を。代金は儂が持つ」

村長の申し出に2人は「食事代くらい自分達が」と一度は遠慮したものの村長は譲らず、2人は甘えることにしたのだった。

その間はリアも大人しく動かなかった為、レイナが頭の上から降ろしても、遠くから見れば頭部の防具を外したか、帽子を取ったようにしか見えなかっただろう。

目の前の村長は時折鋭い視線をリアへと向けていたが、特に何も言わない辺り、黙認しているかのようだった。

 

翌朝、レンヤとレイナは簡単な朝食を済ませると、集会場の村長のところへ向かった。

なお、リアはまだ起きていなかったので、家のベッドの中へと隠してきた。

村長は昨夜と同じ場所で、やはりタバコを吸っていた。

「うむ。来たかの…」

2人の姿を見ると、村長はすぐにタバコを消した。

「おはようございます」

「おはようございます、村長」

「うむ。いい朝じゃの」

村長が一番近いテーブルを指したので、レンヤとレイナは席に着く。すると、村長は座っていたカウンターから降り、2人のテーブルの前に立つ。

「まず、これが報酬じゃ」

そう言い、懐から革袋を出す。前回のドスランポスと比べ、中身は増えているようだ。

「…イャンクックの話も大事じゃが、その前に2人へ伝えなければならんことがある」

村長の言葉に、レンヤとレイナは顔を見合わせる。

「短刀直入に、結論を先に言おう。おヌシ達、街へ行く気はないかの?」

「街、ですか?」

「うむ。名をミナガルデという」

「ミナガルデの街…」

レンヤとレイナも名前くらいは知っていた。ココット村からはそう離れていない、ハンター達の集まる街だ。

「どうして私達にそのようなお話を…?」

レイナが尋ねると、村長は「うむ」と一度頷いてから口を開いた。

「おヌシ達は無事にイャンクックを倒した。もう儂から教えることは何も無い。これからは、自分達で更なる高みを目指していくのじゃ」

村長の言葉に、レンヤとレイナは真剣に聞き入る。

「ハンターとして生きていくならば、世界を見た方が良い。この村に留まり続けるのも良いが、一度街へ出てみるのも経験じゃて」

村長が「どうじゃ?」と話を投げ掛け、レンヤとレイナは顔を見合わせる。

もちろん、2人は頷いたのだった。


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