モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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2章 竜人の足跡 03

夜になった。

ジュンキ達の姿は、この森と丘の中心にある小高い山の中にある、エリア番号5―――通称「竜の巣」の入り口にあった。

ジュンキとショウヘイとユウキは、この後も日が暮れるまでリオレウスを追い掛け回し、少しずつ疲弊させていった。

そして今は、この奥で寝むっているはずだ。

「何か、ジュンキ変わったよな~」

「え?」

突然ユウキがそんなことを言ったので、ジュンキは思わず気の抜けた返事を返してしまう。

「リオレウスと戦い始めてからか?どんどん動きにキレが出てきてさ。さっきなんて、リオレウスとすれ違い様に翼膜を切り裂いたし」

「…」

ジュンキは目をパチパチさせている。

「俺もそう思う。何か、いいきっかけでもあったのか?」

ショウヘイは直接ジュンキに尋ねた。それに対して、ジュンキは少し顔を赤らめてから口を開く。

「…なんて言うかさ、リオレウスって空の王者って呼ばれてるだろ?それに挑んでいる俺達。…想像するだけで胸が高鳴るっていうかさ。そのせいかな?それに、リオレウスってかっこいいしさ…」

いつの間にか下を向いていた顔を上げると、ユウキが必死に笑いを堪えているのが見えた。

「ユウキ。ジュンキに悪いじゃないか」

「ごめんごめん…ッ!ジュンキったら、臭い台詞ッ!」

ユウキに言われてジュンキの顔が更に赤くなる。

「…さて、そろそろ巣に入ろうか」

ショウヘイがそう言うと、ジュンキとユウキも気合を入れ直す。月明かりの中、ジュンキから先に巣の中へと入っていった。

 

月明かりが天井の大きな穴から差し込み、巣の中はほんのりと明るい。

「ここはモンスターの骨が散らばっているから気をつけて。音が響くとリオレウスが目を覚まして、俺みたいになるから」

瀕死状態のジュンキの姿を思い浮かべ、ショウヘイとユウキはしっかりと頷いた。

そしてジュンキとショウヘイの2人は、大タル爆弾を抱えている。足元に十分気をつけながら、リオレウスの周りに大タル爆弾を設置した。

「撃つぞ」

十分距離を置いてから、ユウキが通常弾を大タル爆弾に撃ち込んだ。

瞬間、大タル爆弾が爆発し、洞窟内が一時的に明るくなる。

爆音と爆風が入り混じる中、三人は煙の中のリオレウスに注視する。

(…やったかな?)

淡い期待を抱いたジュンキだったが、空の王者リオレウスはそう簡単には倒れなかった。

「グオアアアアアッ!!!」

突然怒りの咆哮が洞窟内に響き、全身から血を流しているリオレウスが煙の中から現れたのだ。

「そう簡単にはいかないか…!」

「来るぞ。気をつけろ」

ユウキの愚痴に、ショウヘイが忠告で答える。

リオレウスはそんな2人に突撃するが、ショウヘイとユウキは左右に飛び、これを回避する。

リオレウスは突進の勢いを殺せず、地面に倒れる―――はずだった。それがハンター達の間の通説だが、このリオレウスは違った。なんと倒れることなく止まってみせたのだ。

そして灼熱のブレスを、完全に油断していたユウキの背中に放つ。

「やべっ…死…っ!」

ユウキは思わず目を閉じる。直後に爆発音が響いたが、自分には何の影響もない。

「ユウキ、大丈夫か?」

聞きなれたジュンキの声。目を開くと、そこには大剣ブレイズブレイドを盾にしてブレスから自分を守ってくれたジュンキの背中があった。

直後、洞窟内に響く角笛の音。リオレウスは反対側を向き、ショウヘイに向かって走り出した。

しかし、その行程の半分くらいのところで、突然リオレウスの下半身が沈んだ。落とし穴だ。

「ショウヘイ、準備がいいな」

ジュンキは嬉しさ半分呆れ半分の表情で呟きながら、大剣ブレイズブレイドを背中に戻して駆け出した。

「俺のブレスを食らえぇい!」

ユウキの反撃が始まる。

ジュンキは走りながらペイントボールを投げておき、ショウヘイと一緒にリオレウスを斬る。

「ん…?」

ジュンキの攻撃の手が止んだ。そしてショウヘイの視界の端に大剣ブレイズブレイドを大上段に構えたジュンキの姿が写った。

あの技は―――。

「うらあああああッ!」

大剣の重さと、使用者の全身の筋肉を使った大技―――溜め斬りだ。

「グギャアアアアッ!!!」

悲鳴。

そう、悲鳴だ。

リオレウスから聞き取れた、今回の狩りで初めての悲鳴。

ジュンキの溜め斬りは、リオレウスの腹を深々と斬り裂いていた。真っ赤な血液が噴き出し、ジュンキを赤く染める。

やがて落とし穴の効力が切れてしまい、リオレウスは飛び上がった。だがリオレウスは着地せず、そのまま夜空へと消えてしまった。

「…ふう」

ユウキがショットボウガン紅を背中に戻し、ジュンキとショウヘイがそれぞれの武器を砥いでいる洞窟の中央に向かう。

「…今夜はここまでかな」

「俺もそう思う。ユウキは?」

「同感。だけど、リオレウスの方は大丈夫か?」

ユウキが当然の心配を口にする。

リオレウスのような大型の飛竜は眠ることによって、致命傷ではない傷ならばいとも簡単に治してしまうのだ。

そしてそれ以上に心配なのは、リオレウス自体が姿を隠してしまうことである。

「ペイントしたから、一晩くらいは持つと思うよ」

「ああ。それと俺達は、リオレウスの寝ている間に奇襲した。いくらリオレウスでも、今夜は安心して眠れないはずさ」

「…だな。よし、キャンプに戻ろう」

ユウキはジュンキとショウヘイの意見に対し、大いに納得したようだった。

夜に入ってから、相当な時間が経ってしまっている。このまま狩りを続けてもいいのだが、流石に仮眠を取りたくなってきていた三人は一旦ベースキャンプに戻ることにした。

狩りは疲れる。仮眠は重要だ。

 

翌朝、まだあまり陽が昇っていない早朝に、ジュンキ達3人はベースキャンプを出発した。

「朝の森もいいもんだな~」

と、呑気なユウキである。

「一応ここは狩り場なんだけど」

ジュンキはとりあえずつっこんでおいた。

ジュンキ達は今、エリア2を北へ向かっている。この先のエリア3は、リオレウスと初めて出会ったエリアだ。

「いるかな…?」

果たして、リオレウスはいた。

だが初めて出会った時よりも、随分と雰囲気が異なる。

そう、リオレウスも疲れているのだ。全身の傷が癒えていないところを見ると、もしかしたら眠っていないのかもしれない。

「始めますか」

ユウキはそう言って、ショットボウガン紅を肩から下ろす。

「俺がまず行くよ」

ジュンキはそう言って右手で大剣ブレイズブレイドの柄を握る。

今回も、リオレウスはこちらに尾を向けていた。

ジュンキがまずはゆっくり近付き、距離が縮まったら一気に駆ける。そして巨大なハンマーにも見える尻尾を一撃。

一瞬だけ遅れて、ユウキが撃ったペイント弾がリオレウスの左脚に付着する。

―――二日目の戦いが始まった。

「はあっ!」

「おりゃっ!」

「たああああ!」

ショウヘイの一閃。ユウキの一撃。ジュンキの一斬。

だがリオレウスは、ここで尻尾を振り回す。

しかし、昨日の戦闘でリオレウスの動きを幾分か読めるようになってきたジュンキとショウヘイは、その場で屈み、これを避ける。

リオレウスは大空へと飛び上がった。そして空中で両足を前に突き出し、引っ掻くような動作をする。

「―――!!!」

ジュンキの脳裏に、半年前の光景が蘇る。

斬り裂かれる胸。

噴き出す真っ赤な自分の血。

砕ける肋骨の音。

―――このリオレウスも、ジュンキ目掛けて急降下してきた。

だが今回のジュンキは違った。

「もうあんな経験は御免だよ…」

人知れず呟いたジュンキは、大剣ブレイズブレイドの腹でこれを防ぎきった。

リオレウスが空中に戻っていったその時、ジュンキの背後で眩い光が弾けた。

閃光玉だ。

リオレウスが視界を奪われ地面に落下、激突する。

「これでどうだっ!」

ユウキの撃った通常弾がリオレウスの頭部に当たると、リオレウスは怒りの咆哮を放った。

しかし、未だ視界を取り戻せないリオレウスは長い尻尾をブンブン振り回しはじめる。

これではジュンキとショウヘイは近づけない。だがユウキにとってみれば絶好の機会だ。

何の遠慮もなく、リオレウスに撃ち込んでいく。

「グアアァァ…!」

視界を取り戻したリオレウスは飛び上がり、そのまま森のほうへと飛び去っていった。

「リオレウスの体力って底無しだな」

ユウキはそう言うが、ジュンキは確信していた。リオレウスは確実に弱ってきている。

「さて、これからどうする?」

「もちろん、追いかけるさ」

ショウヘイの問いかけにしっかりと頷いて答えると、ジュンキはリオレウスが消えた方角の森へ向けて走り出した。

 

2日目の夜が来た。

と言っても、陽が沈んでから結構な時間が経ってしまっている。

先程、夕焼けに染まる丘地帯で、ついにリオレウスが脚を引き摺り逃げ出したのだ。

そしてリオレウスの巣であるエリア5の入り口で、リオレウスが戻ってくるのを待っているのだが、何度か上空に現れるものの、そのまま通過してしまうのだ。

夜襲を警戒しているのだろう。

「…まだかよ。もう話題無いぞ、俺」

「寝たらお終いだぞ。筋肉が硬直して、リオレウスの最後の抵抗に体が耐えられなくなる」

「ふぁ…ねむぃ…」

徹夜である。

「…来たぞ、リオレウス」

「どうせまた通り過ぎるんだろ?」

ショウヘイが夜空の向こうに、リオレウスの姿を見つけた。ユウキが文句を言ったが、ようやくリオレウスが洞窟の中へと入っていった。

「やっとか…ん?」

ユウキが振り向くと、そこではジュンキが俯いて寝ていた。

「起きろっ」

「んぁ?…おはよう」

「…おはよう、じゃないだろ。リオレウスが巣に戻ったぞ」

「え…!」

ユウキからそう言われると、ジュンキの意識は一気に覚醒した。

「今回もこれだな」

ショウヘイはそう言って、ここまで運んできた大タル爆弾を指差した。昨夜と同じ作戦を取るのだ。

「行こう」

今回はユウキも大タル爆弾を持つ。

昨夜と同じく、中は月明かりが天井の大穴から差し込んでほんのりと明るい。

リオレウスは洞窟の奥で眠っていた。

急いで大タル爆弾を3人分設置すると、ショウヘイが洞窟の中央部、天井の大穴の真下に落とし穴を仕掛けた。リオレウスが飛んで脱出しないようにするための保険だ。ユウキが大タル爆弾を撃つ。

―――激しい爆音と爆風が洞窟内で響き合い、煙でリオレウスの姿が見えなくなった。さすがにもう立てないだろう―――。3人共、そう思っていた。

「―――ッ!」

しかし、煙の向こうから脚を引き摺り、口から真っ赤な血液を滴らせながら、リオレウスは現れた。

「グア…アアア…ッ!」

逃げるのに必死で、こちらの姿が見えていないようだ。

「悪いけど、逃がさないよっ!」

ジュンキは走り出した。目の前に揺れるリオレウスの尻尾―――そこに一撃。

「ギャアアアアアッ!!!」

リオレウスの尻尾は切断され、宙を舞った。同時に、リオレウスが先程ショウヘイによって仕掛けられた落とし穴に落ちる。

「おらっ!」

「それっ!」

「…」

三人はアイテムポーチから捕獲用麻酔玉を取り出すと、暴れるリオレウスに投げつけた。リオレウスの動きが止まり、やがて倒れこむ。

「…やったのか?」

「…みたい、だな」

ユウキとショウヘイが顔を見合わせる。ユウキは不安気な顔をしているが、ショウヘイが頷くと笑顔に変わった。

「おっしゃあああああ!!!」

喜びのあまり叫びまくるユウキを置いて、ショウヘイはジュンキの姿を探した。ジュンキは―――リオレウスの顔を抱いていた。

 

「ありがとう、リオレウス…」

ジュンキはショウヘイが近づいてくるのに気づくと、慌ててリオレウスから手を離した。

「ジュンキ…?」

「ああ、いや、お礼をしなきゃって思ってさ」

ジュンキは恥ずかしそうに言ったが、ショウヘイは真剣な表情で頷いた。

 

こうしてリオレウス討伐依頼は、対象捕獲ということで完遂された。

 

 

パチパチパチと、チヅルが拍手した。

「すご~い…。リオレウス、しかも捕獲出来たなんて…」

「確かに、よく倒せたもんだよな」

「リオレウスを抱いたジュンキの気持ち、何となくだけど分かるなぁ…」

カズキは半分呆れ、クレハは感傷に浸っている。

「じゃ、こんなもんでいいか?」

「ちょっと、まだあるでしょ?」

ユウキが話し疲れたという顔で言ったのに、チヅルは文句有りだった。

「まだって…?」

ユウキが分からないという顔をしたので、チヅルは胸を張って口を開いた。

「私とカズキが出会った時のことだよ」

「あ~あ~あれか…」

チヅルは是非語って欲しい顔をしているが、ジュンキとユウキは苦い顔をしている。ショウヘイとカズキは懐かしい昔の思い出に旅立っているが、クレハだけは頬を膨らませていた。

「ん~。ずるいよ~。みんなだけの思い出なんて~」

「分かった分かった、話せばいいんだろ?だけど、チヅルとカズキが出てくるまではまだ時間があるんだよ」

「そうだったね。その時はショウヘイ、怪我してたし」

「え…?」

ユウキとチヅルの会話を聞いて、クレハは驚きの表情でショウヘイを見た。

「まあ、聞いてくれ」

ショウヘイはそう言うと、目を伏せた。


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