モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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フェンス・カズキの章 05

フェンスはカズキと大衆酒場の前で別れると、ひとりでジュンキという人物の情報を集めて回ることにした。

街を歩く人々に、自分と同じくらいの駆け出しハンターから玄人ハンター。屋台のおばちゃんに、行商人の男性。武具工房の親方弟子、街案内のアイルー、メラルーまで片っ端だ。

この街にいる全ての人に話し掛けたのではないかと思われるくらいにフェンスは話し掛けたのだが、得られた情報はほとんど無かった。

「ふぅ…。流石に疲れたな…」

フェンスは街の広場の隅に設置してあるベンチを見つけると、そこへ腰を下ろした。カズキと別れたのは昼過ぎだったのに、今は陽が傾いて西の空が赤くなっている。ジャンボ村の人々は家路を急ぐ時間だが、ドンドルマの街に暮らす人々はそんな気配を見せない。むしろ昼より人口が増えている気さえした。

そんなことを考えながら、今日得られた情報を整理することにした。

「と言っても、ほとんど村で聞いたことと同じなんだよな…」

フェンスは思わずため息を吐く。

ドンドルマの街の人々が言っていたことは、フェンスがジャンボ村で聞いたこととほとんど同じだったのだ。

「カズキも待っているだろうし、今は酒場に戻るかな…」

フェンスがひとり呟きながら立ち上がろうとすると、目の前に誰かが立ち止った。

「…?」

フェンスは中腰の姿勢のまま顔を上げる。すると、そこにはひとりのハンターが立っていた。

金髪に、黒い瞳の男。背中の黒い太刀と身を包む動き易そうな防具から、ハンターであることは分かった。

「…君がフェンスか?」

「え?あ、はい…」

「俺の名前はショウヘイ。カズキのパーティメンバーだった者だ」

「カズキの…?」

目の前の男はショウヘイと名乗った。

いきなり話し掛けられたのは驚いたが、向こうはこっちの名前を知っていたし、カズキのことも知っていた。ショウヘイが言っていることは本当なのだろう。

「大丈夫。君をさらったりしない。信じられないか?証拠ならまだある。カズキの武器はランスだろう?」

「ええ、そうです。それに、疑ったりなんかしていませんよ」

フェンスの言葉を聞いて、ショウヘイはほんの少しだけ口元を釣り上げて小さく笑った。

「…カズキが呼んでいる。俺はカズキの使いっ走りだ」

「そうですか。わざわざありがとうございます。それで、カズキは今どこに?」

「大衆酒場だ。行こう」

そう言ってショウヘイは歩き出した。フェンスはショウヘイの後ろについて行く。

(物静かっていうか、寡黙な人だな…。)

フェンスは黙々と歩いているショウヘイの後ろ姿を見つめながら、心の中でそう言ったのだった。

 

カズキが昼頃に言った通りで、大衆酒場の中はたくさんのハンターで賑わっていた。その中の一角に、カズキがフェンスとショウヘイの分の席を取って待っていた。

「お、来た来た」

カズキはそう言いながらフェンスとショウヘイが席に着くのを待つ。

「悪いな、ショウヘイ」

「どういたしまして」

カズキの右手を挙げてのお礼に、ショウヘイは両手をテーブルの上に組んでの受け答え。対照的な2人だとフェンスは思った。

「で、どうだった?ジュンキに関しては何か分かったのか?」

「それが、あんまり…」

フェンスの言葉に、カズキは両腕を胸の前で組んで「そうか…」と残念そうポーズをする。

「ユーリには聞いてみたのか?」

「あ、まだ聞いてない。ちょっと聞いてくるね」

カズキの言葉に、まだユーリに聞いていないことを思い出したフェンスは席を立ち、カウンターで忙しそうに動いているユーリの元へと駆けていった。

「そういえば、さっき聞きそびれたんだが…」

「ん?」

カズキが突然そんなことを言ったので、ショウヘイは目線をカズキに向けた。

「ココット村に戻ったショウヘイが、どうしてドンドルマの街にいるんだ?それにユウキは一緒じゃないのか?」

カズキの問い掛けに、ショウヘイが答える。

「…ハンターズギルドから召集令状が届いたんだ。竜人とハンターズギルドの情報共有の為に、竜人はドンドルマの街へ集れ…だそうだ」

「竜人に召集令状…。ってことは、もしかしてジュンキも…!?」

カズキの言葉に、ショウヘイは頷くことで肯定の意を示した。

「なんてこった…」

ショウヘイの言葉を受けて、カズキは右手を顔に当てる。ジュンキがドンドルマの街へ来ているのだ。

「…やっぱり、フェンスを接触させない方がいいよな」

「ああ。フェンスには悪いが…」

ショウヘイが口を閉じると同時に、ユーリの元から戻ったフェンスが席に着いた。

「ユーリさん、今日はそのような名前のハンターは現れなかったってさ」

「そ、そうか…。それは残念だな。まあ、村への仕入れはまだ時間がかかる。明日ものんびり探せばいいさ」

カズキはそう言って木製のカップを手に取り、中身が空なのに飲むフリをした。

「それで、あの…。ショウヘイさん…」

「ん?」

フェンスの呼びかけに、ショウヘイは顔を動かさず眼だけでフェンスを見た。

「会えるかどうか分からないですけど…。もしショウヘイさんがジュンキさんという人物に会えたら、フェンスがお礼を言いたがっていたと伝えて頂けませんか?」

フェンスのお願いに、ショウヘイは「分かった。もし会えたら伝えておく」と言ってくれたのだった。


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