モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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1章 運命の再会 11

辺り一面白銀の世界。それが雪山だ。見渡す限りの雪原。ジュンキ、ショウヘイ、チヅル、クレハ以外、何もいない。

「…ふう」

ジュンキはレウスヘルムの中でため息を吐いた。かなりの時間を歩いているが、一向にドドブランゴの気配がしない。ショウヘイやチヅル、いつも元気なクレハも、今は黙々と歩いていた。

「疲れたよぉ…。そろそろ休憩しない?」

ついにクレハがその場に座り込んでしまう。

「確かに。このままだとドドブランゴに出会う前に、全員がバテてしまうな」

ショウヘイもそう言って歩みを止める。

「私、お腹空いたなぁ…」

「…そうだな。休憩するか。でも流石に雪原のど真ん中は危なくないか?」

「雪原のど真ん中だからこそ、どこからモンスターがやってきても気付けるよ?」

ジュンキはハンターとして当たり前のことを言ったつもりだったが、そこはクレハが押し切った。

仕方無しにジュンキがコンパクトに折り畳んだ肉焼きセットを取り出し、チヅルから干し肉を受け取って焼き始める。

「ん~。いい匂い♪」

瞬く間に美味しそうな肉の匂いが辺りを包む。

「クレハ、ちょっといいか?」

「ショウヘイ?何か用?」

「少し気になった事があるんだが…」

「…?」

ショウヘイの言葉に、クレハは首を傾げる。

「俺は主に太刀を使用しているから、あまり大きなことは言えないけど…クレハの双剣の剣筋に違和感を感じてな。一般的な双剣の振り方じゃない気がするんだが…我流か?」

「ううん、これは私が双剣の使い方を師匠から教えてもらったから、どこかで変なクセがついちゃったんだと思う」

「師匠…?」

「あ、ショウヘイ達にはまだ話してなかったね。私には師匠って呼べる人がいるの」

「へぇ…師匠か。名前を聞いてもいいかな?」

「うん。ジークっていうの」

クレハの口から発せられた名前に、ショウヘイは目を見開いた。

「もしかして、片腕のハンターじゃ…?」

「ショウヘイも知ってるの!?」

今度はクレハが目を見開いた。

「ああ。ちょっと前に、一緒に狩りへ出たこともある。恐れを知らぬ英雄、とまで言われていた」

「そっか…。師匠、元気にしてるんだ…」

クレハは穏やかな笑みを浮かべると、ショウヘイに向き合った。

「…そろそろ、肉が焼けると思うよ」

ショウヘイの促しに、クレハは頷いた。

 

「焼けたぞ、チヅル」

「わ~い♪」

ジュンキがまず、チヅルにこんがり焼けた美味しそうな肉を渡そうとしたその時、突然雪の大地が爆発し、4人は散り散りに吹き飛ばされた。

「何だっ!?」

ショウヘイが即座に起き上がる。

「ドドブランゴだ!」

雪の下から出てきたのはドドブランゴだった。

「あ~っ!」

そのドドブランゴは雪の上に落ちたこんがり肉を、一口で食べてしまった。それを見たチヅルはゆっくりと、新調したばかりの双剣「テッセン・烏」を抜いた。

「私の…私の肉をおおおおおッ!!!」

チヅルは叫びながら双剣を頭上で交差させて鬼人化すると、ドドブランゴとの距離を一気に縮めて舞いはじめた。

「はああああああああああッ!!!食べ物の恨みいいいいいッ!!!」

ジュンキやショウヘイ、クレハが戦闘配置につくまでに、雪の大地が赤い花を咲かせたような状態になる。

「チヅルっ!」

ショウヘイがチヅルを呼ぶと、チヅルはジュンキと交代するように入れ替わる。

「はあっ…はあっ…ふう~…」

チヅルは息も絶え絶えだった。

「無茶はするなよ」

「分かってるよ~…」

ショウヘイはそう言い残し、急いでドドブランゴに向き直る。そこではジュンキとクレハがドドブランゴを挟み込むような形を取っていた。

「遅れた」

そう言ってショウヘイも加わり、3方向からドドブランゴを囲む形になる。3人とも集中を切らさない。ドドブランゴも動かない。ただチヅルが与えた傷が深いようで、ドドブランゴの脇腹からは真っ赤な血液が今も流れ出ている。この傷は放っておいたらいずれは失血死するだろうと思われるが、ハンター3人に囲まれていては迂闊に動けないのだろう。

「…どうする?」

「とりあえずペイントだ」

ショウヘイがアイテムポーチからペイントボールを取り出し、投げようと構える。

「え、何…?あれ…」

そんなチヅルの声がすると同時にドドブランゴも空を見上げ、ジュンキやショウヘイ、クレハも見上げる。

そこには一匹の赤い飛竜がこちらに向かって飛んできているところだった。

「あれは…リオレウス!?」

クレハが真っ先に気づいた。

「どうしてこんな雪山に…?」

ショウヘイが呟くように言うと、そのリオレウスは空からブレスを吐いた。

「なっ!?」

「避けろっ!」

ジュンキ、ショウヘイ、クレハが飛ぶと同時に、ブレスはドドブランゴに直撃、爆発した。

 

「…っ」

「大丈夫!?」

チヅルが駆け寄ってくると、ジュンキは手を借りて立ち上がる。

「ショウヘイやクレハは?」

「大丈夫だ」

「私も。だけど…」

そう言ってクレハは視線を遠くにやった。

「ドドブランゴはダメみたい…」

ジュンキがクレハの視線の先に目をやると、そこにはブレスで焼かれ死んだドドブランゴと、そのブレスを放ったリオレウスがこちらを向いて佇んでいた。

そのリオレウスの姿には見覚えがあった。

「…まさか」

「…まさかってジュンキ、もしかして?」

ジュンキの呟きにショウヘイが反応したが、チヅルとクレハは未だに呆然としている。

「ああ…もしかしたら、あいつかもしれない」

ジュンキが言い終わると同時に目の前のリオレウスは飛び上がり、南の方へと飛んで行ってしまった。辺りを静寂が包む。

「…とりあえず剥ぎ取る?」

クレハがドドブランゴを指差して言う。

「ああ、勿論。折角の命だからな」

ジュンキはそう言うと腰から剥ぎ取りナイフを抜き、ドドブランゴに近付く。ドドブランゴはブスブスと煙を上げていた。

「…使える素材があるかな?」

「さあな」

ジュンキがショウヘイに尋ねると、ショウヘイは俺に聞くなと言いたげに答えた。

「真っ黒焦げだね…」

「残念…」

「でも、これって依頼は達成出来たよね?」

「…そうだな。出来る限り剥ぎ取って、キャンプに戻ろう」

ジュンキが言い終わるなり、他の3人も剥ぎ取りナイフを抜いた。

 

「へぇ~、珍しい事もあるんだな」

「珍しい事で済まさないでよ~。せっかく雪山まで行ったのに、私達のドドブランゴをリオレウスが持ってっちゃったんだよ?」

雪山からドンドルマの街の大衆酒場に戻ると、テーブルには数日も前にババコンガ狩りを終えたユウキとカズキが座っていた。

今は太陽が真上にあるので昼食なのだろう。ジュンキやショウヘイも昼食を頼んだがジュンキだけ食が進んでいなかった。

「…?どうしたの?」

ジュンキの右隣に座ったクレハがジュンキの顔を覗く。

「ん?ああ、ちょっと考え事だよ」

「何を考えているの?」

クレハが教えて欲しそうな眼をジュンキに向けるが、ジュンキは小さく笑うだけだった。

「何だと思う?」

「あのリオレウスのことでしょ」

ジュンキははぐらかす為に答えたつもりが、クレハの即答は的を射ており返事に詰まる。

「…ああ」

「ジュンキに関係でもあるの?」

「…昔ね。でも、あのリオレウスじゃないと思うよ。リオレウスって言っても、この世界にはどれだけいるか分からないし」

クレハには、あのリオレウスとの因縁を詳しく話していない。

このため、クレハは首を傾げることしか出来なかった。

 

その日の夜、ジュンキはマイハウスのベッドへ横になり、考えを続けていた。

「あいつ、なのかな…」

雪山に現れたリオレウスが頭から離れない。

そもそも、リオレウスは雪山のような寒冷地に生息していない。そのような場所に現れ、ハンターを意図的に攻撃しないまま去るなんて考えられない。

(どう考えても、俺は呼ばれているとしか思えない)

ジュンキはベッドから起き上がると、装備を整え始める。

もし、あの時のリオレウスが待っているとすれば、ココット村の裏手にある森と丘だろう。

「ニャ?こんな夜に狩りですかにゃ?」

「うん。少し出てくる」

ジュンキは部屋付きアイルーの声を後ろに、マイハウスを出た。早足に大衆酒場に入るとカウンターへ向かう。丁度、今はユーリがいた。

「ジュンキ、どうしたの?こんな夜に」

「ああ、ちょっとココット村の裏山にある森と丘へ行きたいんだ。簡単な採取クエストってないか?」

ユーリはあからさまに不審な目を向けてくる。

「みんなに内緒で?」

「急いで行かなきゃならないんだ」

「訳ありみたいね。いいわ。探してみる」

ユーリはそう言うと台帳を取り出し依頼書を探し出す。

「そうね…特産キノコはどう?」

「それでいいよ」

ジュンキはユーリから依頼書を受け取ると、そのまま狩場へと向かう竜車の待合所へと歩き出す。

「気をつけて」

ユーリの言葉にジュンキは右手を上げて返事を返した。そのまま角を曲がり、姿が見えなくなる。

「みんなに内緒で採取クエストね…。絶対何か隠しているわね、あれは」

「何を隠しているのかな」

「うわっ!」

突然聞こえた声に顔を正面に戻すと、そこにはクレハの顔があったので驚いてしまった。

「ユーリ、ジュンキがどこに行ったか教えて?」

クレハの不安と疑問が混じった表情を見るに、ジュンキは本当に話をしていないようだった。

「ココット村の森と丘が目的地よ」

「ココット村は、確かジュンキの出身地。付き合いの長いショウヘイかユウキなら分かるかもしれないな…。ありがとう、ユーリ」

「どういたしまして」

クレハはお礼を言い残し、大衆酒場を後にする。

ユーリはクレハの後ろ姿が見えなくなってから受付の業務に戻ったが、そう時間を置かずにクレハが他の4人を引き連れてカウンターへやって来るのだった。


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