ジュンキは振り返ると、この場にいる全員に聞こえるような声を出した。
「みんな!準備はいいか!?」
ジュンキの言葉にはリヴァル達だけでなく、ミラボレアスやザラムレッド、セイフレムも頷いた。
そしてジュンキが再びミラルーツを振り返ると、ミラルーツは既に空高く舞い上がっていた。
「最期の会話は済んだか?では死ぬがよい…!」
ミラルーツはそう言うと、純白の炎に包まれた巨大な球体状のブレスを吐いた。
それは一直線にリヴァル達のところへ飛んでくるが、リヴァル達はそれを、余裕をもって回避する。
「儂の炎を受けて頂く!」
ザラムレッドはミラルーツのブレスを回避すると同時に飛び上がり、ミラルーツの背後からブレスを吐いた。
しかし、ミラルーツはそれを軽快な動きで回避し、長い尻尾を振り回してザラムレッドをけん制する。
「リオレウス族の長たるザラムレッドよ…!ヌシも歳だな…!動きが鈍いぞ…!」
ミラルーツの挑発には乗らず、ザラムレッドは空中を旋回し始める。その様子に気を取られているミラルーツに対し、ガンナーであるユウキは持っている中で最高の弾である通常弾のLv2を撃った。
しかし、ミラルーツの体表を覆う純白の鱗や甲殻は強固で、ユウキの弾丸は弾かれてしまう。
「ちっ!駄目か!…ん?」
ユウキが悪態を吐いていると、その横にミラボレアスが並んだ。
「私のブレスではどうかな…?」
ミラボレアスはユウキに言葉が通じていないと分かっていても、つい言葉を口にしてから、紅蓮の炎に包まれた巨大なブレスをミラルーツに向かって吐き出した。
「弟風情が兄に敵うとでも思っているのか…!」
ミラルーツも純白のブレスを吐きつける。
両者のブレスは空中で衝突し、火花を散らして相殺されてしまった。
「ふんっ!偉くなったものだな、弟よ!私に勝とうなど―――」
「後ろが留守だぞ、我が王よ」
ミラルーツは背後から聞こえた声に振り向いたが、その時には空中を旋回していたザラムレッドが突っ込んできている最中だった。
これは回避することができず、ミラルーツはザラムレッドの体当たりを受けて吹き飛び、塔の上へと落とされてしまった。地響きがこだまし、粉塵が舞い上がる。ミラルーツの激突した衝撃で、石畳にヒビが入ってしまった。
「ぐうっ…!おのれぇ…!」
ミラルーツは再び空を飛ぼうとしたが、それはリヴァル達によって阻まれてしまう。リヴァル、リサ、ジュンキ、クレハ、ショウヘイ、カズキの6人はミラルーツを取り囲み、一斉に武器を振るった。
「はああっ!」
「やああっ!」
リヴァルの強烈な一撃が、リサの重い一撃が、ミラルーツの鱗に傷を入れていく。
「ええい、邪魔だ!」
リヴァル達の絶えない攻撃に対し、ミラルーツは自身を回転させて尻尾を振り回した。太く強靭な尻尾がリヴァル達を襲うが、ジュンキ、クレハ、ショウヘイは跳躍して回避する。
リヴァルとカズキは自身の武器を使って防御し、リサはその場に屈むことで回避した。
しかし、ミラルーツはリサの回避行動を見逃さなかった。一時的にとはいえ屈んで動けないリサに向かって、前脚を振り下ろす。
「捻り潰してやる…!」
リサに迫るミラルーツの前脚。しかし、その前脚はリサに届かなかった。
リサに集中し周囲の警戒を怠っていたミラルーツに、横からセイフレムが体当たりを強行したのだ。ミラルーツはセイフレムと共にその場へ倒れてしまう。
「おのれぇ…!邪魔しおって!」
ミラルーツはリサへの攻撃が邪魔されたことに怒りをあらわにし、自身の尻尾をセイフレムに打ちつけた。鞭を当てたような音が響き、セイフレムの歯を食い縛る声が竜人達の耳へと届く。
「セイフレム…っ!」
尻尾を立て続けに振り下ろすミラルーツに対し、ザラムレッドは空中からブレスを放った。ミラルーツは軽快な動きでその場を離れ、ザラムレッドの放ったブレスは空振りに終わってしまう。
「これでも喰らうがいい!」
今度はミラルーツがザラムレッドに向かってブレスを吐くが、ザラムレッドは余裕を持ってこれを回避する。
「ひとつの事にしか集中できない。兄者の悪い癖だ…」
ミラルーツが声の聞こえた方を振り向くと、ミラルーツの放ったブレスが目の前に迫っていた。これを回避することはできず、ミラルーツは炎に包まれてしまう。
「ぐぅおおおっ…!」
ミラルーツは炎を消そうと暴れるが、リヴァル達はこの隙を逃さなかった。一気に駆け寄り、それぞれの武器を振るい、斬り、叩き、刺す。
「うおおおおりゃあああああっ!」
カズキがミラルーツの左脚へ突進したため、ミラルーツはバランスを崩して倒れてしまった。
「やああああっ!」
ようやく手の届く高さまで下りてきたミラルーツの頭部に、リサは思いっ切りハンマーを振り下ろした。ミラルーツは短い悲鳴を上げて飛び上がり、リヴァル達と距離を置いて着地する。
「許さぬ…!私の逆鱗に触れたこと、後悔しながら死ぬがいい…!」
ミラルーツはそう言い、天に向かって嘶いた。
「いかん!危険だ!回避せよ!」
ミラボレアスが悲鳴に近い声を上げたので、何事かとリヴァル達は空を見上げた。
「なんだ、あれは…!」
「隕石…!?」
ユウキとカズキが思わず声を上げてしまう。
曇天の向こう側から、炎に包まれた岩がいくつも落下してきていた。
「死ぬがいい…。愚かな竜人たちよ…!」
ミラルーツがクックックッと笑う。
「おい!どこかへ逃げようぜ!」
「逃げるってどこへだよ!?」
ユウキとカズキが混乱し、右往左往してしまっている。
「ジュンキ…どうする…?」
クレハは取り乱したりすることはないにしても、言葉が震えていた。話し掛けられたジュンキとしても、どうにかしたい。どうにかしないと死ぬ。
しかし、いい方法が見つからない。こうしている間にも隕石は接近し、表面の凹凸まで確認できるくらいになっている。
「どうにもならないのか…!」
ミラルーツの笑い声を聞きながら、ジュンキは諦めかけていた。その時―――。
「ザラムレッド!?」
突然ショウヘイの声が聞こえたので顔を上げると、リヴァル達の頭上に覆い被さるようにしてザラムレッドが空中で浮遊していた。
「ザラムレッド、お前…まさか…!」
ジュンキの言葉に、ザラムレッドは小さく笑ったのだった。直後、隕石が降り注ぐ。
炎に包まれた岩は、ザラムレッドを何度も打ちつけた。時間にすれば僅かだろうが異常なほど長く感じた時間が過ぎ、やがて隕石の落下が止まると、ザラムレッドはリヴァル達からもミラルーツからも離れた場所に、ほぼ墜落するように着地して動かなくなった。
「ザラムレッド…!」
「待って。行っては駄目…」
ジュンキが駆け出そうとして呼び止めたのは、ザラムレッドの妻であるセイフレム。
「大丈夫。私の夫はそう簡単に死なないわ。それはあなたが一番分かっているはず。…心配でしょうけど、今はミラルーツに集中して」
セイフレムの言葉を受けて、ジュンキは一度ザラムレッドの背中を見てから、ミラルーツに向き合ったのだった。