ジュンキとクレハはドンドルマの街へ戻ると、ハンターズギルドの手で―――特にベッキーとユーリの心配性のせいで、ラージャンとの戦いで負った怪我の検査をするために、強制的にハンター専用の検査機関へ入院させられてしまった。
いくつもの検査を終えてようやく病室に運ばれたのだが、そこには既に先客がいた。ショウヘイ、ユウキ、リヴァル、そしてベッドで横になっているリサだ。カズキを含め無事だった4人は武装を解き、それぞれ私服になっている。
「お前たちも怪我したのか?」
というのはショウヘイの第一声である。病室に運ばれるなりそう言われたので、ジュンキとクレハは担架の上なのに驚きの声を上げてしまう。
「ショウヘイ!?」
「リサちゃんも怪我をしたの…?」
看護師が息を合わせてジュンキとクレハを担架からベッドへ移す。そしてリヴァル達以外の全員が退出してから、ショウヘイが口を開いた。
「ああ。キリンの角が右肩に刺さり、そこから電流を流し込まれた」
ショウヘイの説明に、ベッドの上のリサが苦笑いを浮かべ、ショウヘイの説明に補足する。
「幸い傷はそこまで深くなく、電流も大丈夫です。フルフルの皮には治療促進性と絶縁性がありますから」
「お前…いや、ジュンキとクレハはどうしたんだ?」
横になっているリサの隣で椅子に座っているリヴァルが心配そうな声を上げたので、ジュンキとクレハも情けない笑みを浮かべながら口を開いた。
「ラージャンにコテンパンにされたのさ。な?」
「ねー。大丈夫だって言ってるのに、ベッキーやユーリは入院しなさいってうるさいし」
ジュンキとクレハはそう言って笑いあう。
「どうだったんだ?キリンは」
カズキが本題を切り出すと、病室の空気が一気に張りつめた。そしてカズキの問い掛けに答えようとユウキが口を開いたその時、何の前触れもなく病室の扉が開き、ベッキーとユーリが入ってきた。ベッキーは手に資料か何かを持ち、ユーリは両手に乗るくらいの木箱を持っている。
「ジュンキ君、クレハちゃん、リサちゃん、大丈夫?」
「はい、おかげさまで」
「ベッキー、大袈裟だってば」
「俺もそう思う」
ベッキーの言葉にリサは礼を述べ、ジュンキとクレハは文句を言った。
「駄目よ、そんなことを言ったら。あなたたち竜人は、もはやハンターズギルドとしても手放す訳にはいかない存在になっているんだから」
「…どういう意味だ?」
「変な意味じゃないわよ。優秀なハンターは、どれだけいても足りないってこと」
ジュンキが声のトーンを落としてベッキーに尋ねると、ベッキーは笑顔で言い返した。
「他意は?」
「無いわ。それより、今から報告会でしょ?私たちにも聞かせてくれないかしら」
ジュンキはさらに追求したが、ベッキーはこれ以上この話を続ける意思が無いようで、ユーリと並んで面会人用の長椅子に並んで腰掛けた。そして目で「どうぞ」と言ってくるので、ユウキは咳をひとつ入れてから、先程の続きを話し始める。
「俺達が担当したキリンだが、説得することはできなかった」
「そうか…。こっちのラージャンも駄目だった。聞く耳すら持ってくれなかったよ」
カズキはそう言いながら、やれやれと首を振る。
「結果、祖龍ミラルーツが放った5体のモンスターは全員説得できず、仕方がないとはいえ、殺した」
ショウヘイが結論付けると、病室の空気が一気に暗くなってしまった。
「…ねぇ、ジュンキ」
そんな中クレハが口を開いたので、全員の視線がジュンキとクレハに集まる。
「折れた太刀はどうするの?」
「ああ、そうだな…」
「折れた?ジュンキ、どういうことだ?」
ショウヘイが驚きの声を上げた。ユウキやリヴァル、リサも驚きの表情を浮かべている。まだショウヘイやリヴァルには話していなかったなと思い、ジュンキは太刀が折れた経緯を話した。
「簡単に説明すると、ラージャンの拳を受けて、真っ二つに折れたんだよ」
「そうか…」
「悪いな。一緒に考えて作った武器なのに…」
ジュンキの装備していた太刀。あれは、以前にドンドルマの街の武具工房で、太刀使いのショウヘイと相談して作った武器だった。
「いや、いいさ。また初めからから作ればいい。それより、これからはどうするんだ?」
「同じ太刀を作るには、素材が足りないんだ。今持っている素材を確認してからじゃないと分からないけど、また大剣に戻るかも」
「大剣?ジュンキ…は、大剣も使えるのか?」
リヴァルはジュンキが大剣を使っていたところを見たことがない。大剣と太刀は言わば親戚のような関係で結構似ているが、扱ってみると全然違う武器だ。
「ああ、リヴァルとリサちゃんにはまだ説明してなかったな。ジュンキは元々大剣を使っていたんだよ」
ユウキの説明を受けて、リヴァルは何度も小刻みに頷いた。いつの間にか、ジュンキといえば太刀というのが固定観念になっていたらしい。
「後は防具の修理か?」
とカズキ。
「ジュンキもクレハも、酷くやられていたからな」
「私もキリンの角が刺さり、フルフルの皮に穴が開いてしまいました」
カズキに続いてリサもそう言い、共に苦笑いを浮かべる。
「…話はこれで全部だな?ベッキーやユーリからは何かあるのか?ありそうだけど」
とユウキが話を振ると、ベッキーは「もちろん」と言って立ち上がった。ユーリもベッキーの隣に立つ。
「まずは報酬金ね。ユーリ」
「はーい」
ユーリは手に持っている木箱の蓋を開けてから、一番近くにいたユウキへと手渡した。中には大きな革袋が人数分入っている。
「今回狩ってもらった4体のモンスター。その報酬金よ」
「あと、ハンターズギルドからの礼金もね」
ベッキーの説明にユーリが笑顔で補足する。ちなみに、シェンガオレンの報酬は既に受け取ってある。
「それと倒してくれたモンスター、クシャルダオラ、テオ・テスカトル、キリン、ラージャンによる死者の報告はありません。迅速な対応、感謝します」
ベッキーはそう言って頭を下げた。少し遅れて後を追うユーリ。
「いや、俺たちはハンターだ。受けた依頼を達成しただけだ」
ショウヘイの言葉にベッキーとユーリは黙って小さく頷く。
「ところでベッキー、ユーリ」
ジュンキが声を上げた。ベッキーやユーリを含め、全員の視線がジュンキへと集まる。
「祖龍ミラルーツに関して、何か分かったことはあるか?」
ジュンキの言葉にベッキーは「ごめんなさい」と言って首を横に振った。
「目撃情報もなく、居場所も分からないの」
「ミラルーツが放ったモンスター達は倒された…」
「次はどんな手を打ってくるかだな」
ユウキとカズキは「う~ん」とうなり声をあげる。
―――突如、ドンドルマの街に警鐘が鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
「警鐘…!?」
「モンスターの接近警告!古龍級のモンスターがこの街に接近してきているという警報なの!」
ユーリが簡単に状況を説明してくれた。しかし、既に街の中から悲鳴が聞こえてくる。
「まさかミラルーツの奴、直接街を襲う気か!?」
カズキが怒りの声を上げて窓へ近づき、街の様子を見ようと窓から身を乗り出す。すると突然カズキは身を翻し、驚愕と恐怖が半分ずつ混じった表情で叫んだ。
「伏せろッ!!!」
直後、病室が閃光玉を炸裂させたように眩い光に包まれ、衝撃、爆音、暴風。
リヴァル達は一瞬だが気を失うことになった。