モンスターハンター ~人と竜と竜人と~   作:秋乃夜空

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1章 運命の再会 09

ドンドルマの街に戻ったのは、クシャルダオラの撃退から数日経った日の夜だった。もちろん、大衆酒場に入ると文字通り祝杯ムードになった。ドンドルマの街の危機は未然に防がれたのだ。ハンター、街人問わず、大衆酒場は何もしなくても盛り上がっていく。その雰囲気を感じ取ったのか、チヅルも大衆酒場へとやってきた。

「お帰り!どうだったの?クシャルダオラは」

「お~お~、凄かったぜ。何と風を操る―――」

相変わらずカズキやチヅルは元気だったが、ジュンキはゆっくりしたかった。

「しかし、シビレ罠は効かなかったな」

ショウヘイとなら静かに話せそうなので、ジュンキはこちらに集中することにする。2人だけの反省会だ。

「ああ。お陰で吐く羽目になったよ」

ジュンキに言葉に、ショウヘイは小さく笑う。

「しばらくは休みたいな…」

「そうだな。だけどチヅルが許してくれるかな?」

「それなら大丈夫だと思う。俺達がクシャルダオラ撃退に密林へ行っていた時に、チヅルは1人で火山へ鉱石採掘しに行っていたみたいだからな」

「そっか」

ジュンキはそう言って口に水を運び、そして横目で仲間の様子を伺う。こちらは静かに夕食をとっているが、ユウキは酒が入り始めているし、カズキとチヅルは盛り上がっている。

「俺としては、もう寝たいよ」

「同感」

今夜は各自解散。そういうことにして、ジュンキとショウヘイは大衆酒場を後にした。

 

ショウヘイとはマイハウスの前で別れると、ジュンキは自室に入った。

「お帰りなさいだニャ。ご主人」

「ご主人ね…」

この部屋付きアイルー。先日マタタビを与えたら大いに喜び、それからというもの「ご主人」と呼ばれている。

だがジュンキとしてはどうにも慣れない呼ばれ方だった。自分は貴族でも何でも無く、ただのハンターなのだから。

「今日はもう寝るよ。疲れたし…」

ジュンキはそう言いながらレウスヘルムを机の上に置き、大剣アッパーブレイズを壁に立てかけると、装備を解き始めた。

「クシャルダオラはどうだったかニャ?」

「撃退」

「流石だニャ!ボクも誇らしいニャ!」

「いろいろ話してやりたいけど、今はもう寝るね」

ジュンキは疲れた笑顔でそう言うと、部屋付きアイルーは専用の扉をくぐって奥へと消えていった。

「疲れた…」

ベッドに入ると、すぐに睡魔が襲いかかってきた。

 

翌朝、大衆酒場に朝食を摂りに行くと、既に他のメンバーは揃っていて、それぞれが思い思いのことをしていた。

ジュンキも朝食を済ませ、他の4人を集める。

「ひとつ提案があるんだけど」

「提案?」

「少し休みを入れないか?」

「休みか…」

ジュンキとショウヘイ以外の3人が高い天井を仰ぐ。

「パーティ行動をしていると、どうしても個人でやりたいことが出来なくなるものだろう?」

「俺も武器を強化するための素材が足りない」

とショウヘイが言った。

「私、そろそろ新しい装備を新調したいな~って思ってたんだよね」

とチヅル。カズキやユウキも何か考えているようだ。

「決まりだな。さて、期間は?」

「七日くらいでいいんじゃないか?」

「そうだな…そうしようか」

ユウキの提案を受け入れる。

「それじゃあ、解散」

こうしてジュンキ達5人は七日間、思い思いの時間を過ごすことになった。

 

「ユーリ」

「は~い。丁度いいところに来たね」

「?」

ジュンキはその後、とりあえず大衆酒場のカウンターで何か面白い情報がないか探るつもりだったが、どうやらユーリの方が何か用事があるらしい。

「はいこれ。お手紙ですよ」

「手紙?誰から?」

「ベッキー先輩です♪」

「ベッキーから?」

ユーリから手渡された封筒。これはハンターズギルドが正式採用している封筒だった。早速中身を見る。

 

ちょっとお願いがあるの―――ベッキー

 

「それだけですか?」

横から覗いていたユーリが、つまらなそうに言う。

「俺がベッキーのところに行くしかないようだな。手紙、ありがとう」

「どういたしまして」

ジュンキはユーリに礼を言うと、準備の為に一度マイハウスへ戻ることにした。街中で暇そうにしているチヅルやユウキとかを見かけたら声を掛けようかと思ったが、この時は誰とも会わなかった。

 

マイハウスに戻ると、ジュンキはレウスシリーズを着込み始めた。

「ニャニャ?また狩りかニャ?」

「いや、違うよ。出掛けるだけさ」

「そうですかニャ」

ハンターに私服は少ない。無いと言っても過言では無いだろう。ハンターは防具が私服のようなものだからだ。

それに常に防具姿ならばハンターだと周囲の人に理解されるし、防具にはそれぞれモンスターの素材が使われているので自分の技量を見せる意味もある。また、高価な装備の盗難を防ぐ意味合いもあった。

ジュンキは普段の狩りと同様に薄茶色の髪を黒いバンダナでまとめると背中に大剣アッパーブレイズを背負い、机の上のレウスメイルを手に取るとマイハウスを後にした。

 

「やっと着いた…」

ミナガルデの街に着いたのは、ドンドルマの街を出てから3日後だった。再びドンドルマの街の大衆酒場に集合するまでにあと4日しかない。日程はギリギリだった。

「俺の休暇は実質無しか…。それよりベッキーの用事が、厄介事じゃなければいいんだけど…」

一人愚痴を漏らしながら竜車を降り、そのまま酒場へと向かう。寄り道している時間も無いのだ。

「何も変わってないな…」

少し前までこの街を拠点に狩猟生活を送ってきたのだが、街は何一つ変わっていなかった。それは酒場も同じで、カウンターではベッキーがこちらに向かって笑顔で手を振っていた。

「ベッキー」

「久しぶり…じゃないわね」

「ああ、そうだな。…本題に入るけど、お願いって何?」

ジュンキがベッキーに問うと、ベッキーは再び笑顔になった。

「実はね、ジュンキに預けたい子がいるのよ」

「…え?」

ジュンキの思考が固まる。預けたい子とはやはりハンターだろうか。ベッキーの説明が続く。

「ついこの前、この街に来たハンターで、まだパーティを組んでいないのよ。そこでジュンキ君にお願いしたくって…」

「ああ、俺は別にいいけど…」

「…頼んでおいてこう言うのは変だけど、本当にいいの?ただでさえジュンキ君のパーティは人数が多いのに…」

「大丈夫だと思うけど…。それより、そのハンターの名前を教えて欲しい」

「ええ、名前は―――」

 

「しっ!師匠っ!?師匠じゃないですか!?」

 

突然右から大声で叫ばれたので、ジュンキは驚いて振り向いた。そこには目を見開いてこちらを指差している、若い女性ハンターがいた。

「…あれ?違う…?」

そのハンターはジュンキの目の前まで近づいてくるとジュンキの装備を調べ始めた。

「ちょ…おいっ…!」

「やっぱり違う…。師匠は双剣のはずだし、防具も似ているみたいだけど違う…」

どうやら人違いみたいだ。

そしてそのハンターは困ったことに、ジュンキの目の前でひどく落ち込んでしまう。

「来たのね、クレハちゃん」

「あ、ベッキー…」

「人違いだったのなら、謝らないといけないんじゃない?」

クレハ、と呼ばれたハンターは一歩下がって頭を下げた。

「ごめんなさい、人、間違えました…」

「ああ、別にいいよ」

ジュンキも悪そうに手を振る。

「ジュンキ君、丁度よかったわ。彼女があなたにお願いしたいハンター、クレハちゃんよ」

ベッキーの言葉を聞いてジュンキとクレハは驚き、お互いの顔を見合わせた。

「さ、自己紹介自己紹介」

「え~っと、私はクレハっていいます。よろしくお願いします!」

クレハはそう言って右手を差し出した。武器は双剣のツインハイフレイムだろう。防具は雌火竜リオレイアの素材を生かしたレイアシリーズで、頭の先から足の先まで固めている。青い瞳はクレハの明るく元気な性格を表しているかのようによく動き、同じく青色の髪は大部分がレイアヘルムに覆われ、後ろで結われている。

「俺はジュンキ。よろしく」

ジュンキはクレハの手を握り返す。

「でも…」

ベッキーが声を漏らしたので、ジュンキとクレハはベッキーを振り向く。

「こうやって見ると、ジュンキ君とクレハちゃん、まるで夫婦みたいね」

「!?」

ジュンキとクレハの青い瞳が見開かれ、互いに顔が赤くなる。

「ベッキー!!!」

ジュンキとクレハが声を合わせて反論する。ベッキーはジュンキとクレハの防具を見てそう言ったのだろう。

ジュンキの防具は雄火竜リオレウスから作られたレウスシリーズ。クレハの防具は雌火竜リオレイアから作られたレイアシリーズだからだ。リオレウスとリオレイアは夫婦の象徴とされ、ハンター達にも広く知られている。

「冗談よ。そんなに顔を赤くしないで?」

ふとジュンキとクレハの目が合う。すると2人はさらに赤くなった。

このままでは冷やかされたまま終わってしまうと思ったジュンキは慌てて話題を切り替える。

「と、ところでクレハ…」

「な、何…?」

お互い声が上ずっている。

「その…俺のパーティはミナガルデじゃなくて、ドンドルマという街を拠点に活動しているんだけど…大丈夫か…?」

「うん…大丈夫…。この前この街に着いたばかりだから、荷物もあまり広げてないし…」

「よ…よし…。今日中にミナガルデを出るから…準備が出来たら…竜車乗り場で…」

「分かったよ…」

会話が終わると、ジュンキとクレハはそそくさと酒場を出ていってしまった。

「けっこうお似合いだと思うんだけどな~。しかし若いわね~、ジュンキ君とクレハちゃんも」

ベッキーはひとり、自嘲気味に呟いたのだった。


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