転生した彼は考えることをやめた   作:オリオリ

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相変わらず出番が少ない主人公……
立ち位置のせいか、他の視点になるとめっきり出番がなくなります……うぅ、ゴメンよ主人公……
例によって、白哉のキャラが崩壊しておりますのでお気をつけください


第五話 彼女の兄

 私は今、かつて無いほど緊張している。

 花畑で緋真とルキアに会い、他愛も無い話をしながら過ごしていたら緋真が笑みを浮かべながら夕食に誘ってくれたのだ。

 

「白哉さん、宜しければ家で夕餉を召し上がりませんか?」

「は?」

「びゃくやにいさまとひびきにいさまといっしょにごはんをたべれるのか!?」

 やったーといって飛び回るルキアを思わず目で追う。

 待て、ルキア、私はまだ承諾していない。

 いや、嬉しい。

 非常に嬉しいが、待ってくれ。

 夕餉という事は彼女の兄も居るのだろう。

 

「突然押しかけるのは失礼だと思うのだが」

「兄様はそこまで厳しくありませんよ、優しい人なので歓迎してくれると思います」

「ひびきにいさまは、おにくをとりにいったぞ! きょうはなべだ!」

 そう言って笑う緋真の言葉に、夕餉の想像をしてヨダレを垂らすルキアを見つつ、それは無いと予想する。

 話を聞けば、緋真とルキアを溺愛している兄が突然男を連れてきたらどう思うか。

 想像は難しく無い。

 

 お祖父様はお祖母様を迎える時に、娘を溺愛していた相手方の父に殴られたと言う。

 兄と父の差はあるが、心境としては同じかもしれない。

 

 私の思い違いでなければ、緋真も私の事を想ってくれているのだろう。

 朽木家へ運ぶために抱き上げた事はあるが、それ以上の事はしたことが無い。

 そういう事は祝言を上げてからするものだろう。

 

「ダメでしょうか?」

 緋真の声に現実へと意識が戻る。

 少し不安そうに私を見上げる緋真を見て……。

「大丈夫だ、問題無い」

 と反射的に答えていた。

 だが、嬉しそうにする緋真が見られた。

 後悔は無い。

 

「びゃくやにいさま! かたぐるましてくれ!」

「あぁ」

 しかし、ルキアの言葉が日を追うごとに男らしくなっていくな。

 ルキアを肩に乗せながらそう思った。

「もぅ、ルキアったら……白哉さんだから許してくれてるけど、ちゃんと目上の人には礼儀を持って接しないとダメよ?」

「わかっているあねうえ! ゆけー! びゃくやにいさま!」

「わかってないではないか」

 注意されて直ぐに飛び出した言葉に思わずツッコンだ。

 

「うふふ、白哉さんも大分表情豊かになりましたね」

 私を見上げながら、可笑しそうに笑う緋真に首を傾げる。

「そんなに変わっただろうか?」

「はい、もっと素敵になりました」

 緋真の言葉に顔が熱くなる。

 緋真を見れば同じように顔が赤い。

 

 緋真は恥ずかしくてもこうして思いを素直に伝えてくる。

 だからこそ、お祖父様や父上、使用人にも好かれたのだろう。

 あの忌々しい黒猫ですら、緋真が居る日は比較的おとなしい。

 

 そんなことを考えていると、緋真がルキアを支えている腕とは別の方の手を握ってきた。

「行きましょう」

 少し赤い顔で笑顔を浮かべながら、私たちは歩き出した。

「びゃくやにいさまー! あっちにとりがいるぞー!」

「落ちるぞ、ルキア。大人しくしなさい」

「わかった!」

「それでいい「にじだー!! ねえさま! あっちににじがー!」……ルキア」

「ふふ、えぇ、虹が綺麗ね」

 頭の上が騒がしいが……嫌ではない。

 いつかは自分の子をこうするのだろうか……。

 そう考えて、貴族らしくない姿が浮かんで思わず笑ってしまった。

 

 そんな未来も良いなと。

 

 

「ここが私たちの家です」

 緋真に案内されてついた家は、想定外だった。

 治安の悪い流魂街でここまで立派な屋敷があるのか。

 朽木家ほどではないが、下級貴族の屋敷とほぼ大差ない。

「元はただの平屋だったんですけど……兄様が直しちゃいました」

 緋真の言葉によく見れば古い建材と新しい建材の境目があった。

 

「緋真の兄上は職人か?」

「兄様は瀞霊廷の屋敷を参考にしたそうですが、職人ではないですよ?」

「ひびきにいさまはなんでもできるのだ!」

 ルキアが元気よく兄を誇る。

「……うん、私もできないこと見たことないです」

 緋真も少し考えた後にルキアの言葉に頷いた。

 相手は超人か。

 

 そんな相手に緋真との婚姻を認めてもらわねばならない。

 覚悟は決めたはずだ。

「では、兄様を呼んできますね」

「ひびきにいさま! ただいまもどりました!」

 緋真の後に続き門をくぐり、戸の前で待った。

 ルキアは緋真より先に走って中へと向かっていった。

 

 だが正直、私はそれどころではない。

 門をくぐった時から、私にだけ当てられている強烈な霊圧。

 緋真やルキアに全く害を及ぼさない技量の高さに戦慄する。

 霊圧の強さは副隊長レベル、やはり彼女の兄は超人か。

 

 少しして、霊圧が徐々に強くなってくる。

 馬鹿な……! まだ全力ではないというのか!?

 膝を突きそうなほどの霊圧が突如消えた。

 それと同時に緋真が姿を現した……その後ろに彼女の兄を連れて。

「お待たせしまし……!? どうしたんですか白哉さん!? 汗だくですよ!?」

 緋真が私の異変に気付き、手拭きで汗を拭いてきた。

 いつもならありがたいのだが、今は勘弁して欲しい……彼女の兄からの視線が……!

 

「もしかして体調が悪かったんですか……?」

「大丈夫だ、緋真、少し緊張してしまった」

 何度か深呼吸してようやく落ち着いた。

 改めて彼女の兄をみて、驚いた。

 

 少し離れているがそれでも私が見上げるほどの体躯、腕の太さなど私の2倍はある。

 偉丈夫という言葉がこれほど合う男もそうは居まい。

 二房ほど垂れている青い前髪に赤く見える瞳がより好戦的な人物に思わせる。

 

 だが次の瞬間その印象は吹き飛んだ。

「貴様が緋真の客人か、よく来た。ゆっくりしていくがよい」

「ゆっくりしていくがよいー」

 ぴょこんという音が聞こえて来そうな様子でルキアが、彼の背から顔を見せた。

 顔を出したルキアを、その大きな手でグリグリと撫で回した。

「きゃーーー!」

 楽しそうな悲鳴を上げるルキアの相手をしながら奥へと向かう彼からは、緋真からも感じたことのある包容力を感じた。

 

「もう、兄様ったら自己紹介もしないで……」

 緋真を見れば、去っていく二人を優しく見ている。

「……凄いお人だ」

 お祖父様とも、父上とも全く違う威圧感もあった。

 あれは私を試していたのではないだろうか。

「ふふふ、自慢の兄様です」

 可愛らしく笑う緋真にただ同意した。

 

 

「先ほどは失礼した、私は嵐山響。この子達の兄だ」

 嵐山……? 水無月ではないのか?

「私は朽木白哉と申します」

 疑問には思ったが挨拶をされたらしっかりと返さねばと、苗字含めてしっかりと名乗った。

 緋真は大貴族のことは知らなかった。

 故に響殿も知らないだろうと判断した。

 ……この御仁が貴族と知ったからといって対応を変えるとも思えないが。

 

「みなづきるきあともうすー」

「なぜ私に言うのだルキア?」

 気が付けばルキアが私の隣で、響殿に向かって正座して頭を下げていた。

 響殿も目尻が下がっている。

「なんとなくだ!」

「……そうか……クッ……」

「……ッ……」

 グッと胸を張って言い切るルキアの様子に二人して笑いを堪える。

 可愛らしいが、面白い。

 

「あらあら、皆さん楽しそうですね、私も交ぜてくださいな」

 笑いを堪えていると、緋真が椀と箸を持って戻ってきた。

「食事しながらでも良いだろう、緋真も掛けなさい」

「はい、兄様。白哉さん、これ使ってください」

「すまない」

「よきにはからえー」

「「「ッ」」」

 ルキアの言葉に椀を落とすところだった。

 見れば緋真も口元を押さえている。

 

「クックック……ゴホン、では頂くとするか」

「くふふ……は、はいっ」

「……クッ……」

「いただきまーす」

 穏やかな雰囲気の中での夕餉が始まった。

 

「おにくはいただく!」

「あ、こら! 野菜も食べなさい!」

「緋真はもう少し肉を食べなさい」

 3人が思い思いの具材を取っていく。

 牡丹鍋……食べたことがないな。

 香りは高級料亭にも劣らず、見た目も華やかだ。

 目で楽しめる鍋料理とは新しいかもしれない。

 

「白哉さん、良ければよそいましょうか?」

 鍋を見ていたら、緋真が寄ってきた。

 せっかくの厚意を無駄にすることもあるまい。

「すまない、頼む」

「はい、お任せください」

 緋真が嬉しそうに野菜や肉などを盛っていく。

 しかし、この野菜は一体どこから……?

 そんな疑問はすぐさま解消された。

 

「肉はさっき狩って来たもので、野菜は全て自家製だ」

 思わず目を向けると、静かに食べている響殿の姿。

 そんなにわかりやすい顔をしていただろうか?

 いや、彼にはお見通しなのだろう。

 

 器に盛られた食材は美味しそうだ。

 白菜を噛むと鍋に使った出汁だろうか、味が染みており、かつおの風味が広がる。

「美味い」

 思わず言葉が漏れた。

「そうか、遠慮なく食え」

「あぁ」

 本当に美味い。

 

 

 食事は何事もなく終わり、柄にもなく食べ過ぎてしまった。

 牡丹鍋は緋真も作れるらしい……楽しみが増えたな。

 食事を終えた私は、響殿に連れられて外へと出た。

 夜の冷えた空気が、鍋で温まった体を冷ます。

 

「聞かせてもらおうか、緋真への想いを」

 唐突に発せられた言葉が、響いた。

 響殿を見れば真剣な目で私を見ていた。

 やはり、私が考えていることはお見通しだったらしい。

 

 私が示せる緋真への想いは……簡単に言葉で表すことができない。

 だから、思ったことをそのまま告げよう。

「私は口が上手くない」

「………」

「だから、私が感じたことでも良いだろうか?」

 

 私の言葉に、響殿は無言で続きを促した。

「ただ、緋真と共にありたい。私が死するその時まで」

「…………」

 この御仁の前で、多く語る必要はないだろう。

 故に私はそれだけを告げた。

 

「朽木家の説得は終わっているのか? 四大貴族」

「……!? …………いや、響殿を説得してからと考えていた」

「ならば、それを証明してみせよ」

 そう言うと、響殿は踵を返した。

 

「想い合っている二人を、引き裂く真似を私にさせるなよ」

「ッ! あぁ」

「緋真を呼んでこよう、しばし待て」

 そう言うと、響殿は今度こそ家の中へと戻っていった。

 

 その姿を見送って、私は達成感を感じていた。

 一番の難所を越えた。

 後は、響殿に証明するだけだ。

 朽木家は緋真が来ても大丈夫だと。

 

「白哉さん」

「緋真」

 家から出てきた緋真を見て、私は感情を抑えきれなかった。

「お見送りに……きゃ!?」

 近くまで来た緋真を強く抱きしめた。

「白哉さん?」

「緋真……聞いて欲しい」

 愛しい緋真が腕の中に居る。

 兄である響殿にも実質許可を貰えた。

 ならば、止まる必要はない。

 

「どうか、私と生涯を共にしてくれぬか」

「……ッ……白哉さん」

 緋真の腕が私の背に回るのを感じた。

「嬉しいです」

 腕の中で顔を上げた緋真の顔は真っ赤だった。

 だが、私もきっと真っ赤だろう。

「そうか……!」

「はいっ! どうか、私をあなたの妻にして下さい」

「あぁ、私を緋真の夫にしてくれ」

 

 私達は月が見守る中で、婚約を契った。

 

 

「すぐに迎えに来る」

「はい、お待ちしています」

 緋真と別れを告げ、私は瞬歩で家へと向かった。

 お祖父様と父上に良い報告ができそうだ。




ようやく婚約までいけました。
次は結婚話と朽木家と主人公のやり取りを書いていきたます。
銀嶺さんと蒼純さんの話を見たことがないので、性格など完全に捏造になりますのでお気をつけを!
あ、もう遅い?すいませんでした!

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