それ往け白野君!   作:アゴン

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男だけの買い出し

 

 岸波白野が謎の女騎士に襲われて数日。

 

聖夜祭まであと二週間を切った日、海鳴市の海沿いの街道を歩く二人の少女がいた。

 

互いにツインテールという同じ髪型、髪留めをしているのは半年前、一時の別れの際にお互いに手渡したリボン。

 

栗色の髪をした 少女の名は高町なのは。半年前にとある出来事で“魔法少女”となった若く、幼い魔導師である。

 

対する金髪の少女はフェイト=テスタロッサ。彼女もまたなのはと同じ魔導師である。

 

二人に共通しているのは共に『半年前』、その当時は互いに譲れない目的の為にぶつかり合い、傷付け合いもした。

 

けれど、高町なのはは諦めず何度も話し合い、最初で最後の本気の勝負をする事により二人は分かり合う。

 

そして、その後の彼女達は悲しい出来事を体験しても彼女達は手を取り合って助け合い、別れの時は遂に互いにとって大切な友人となった。

 

そんな二人は今、互いに悲哀の混じった顔で俯き、口を開く事なく街道を歩いていた。

 

いや、それは悲しみというより困惑だった。

 

「……中々、見つからないね」

 

 不意に今まで黙っていたなのはが口を開く。

 

「うん。けど、クロノやエイミィ達が今一生懸命行方を追っているみたいだから、私達は焦らず待っていよう」

 

「うん。そうだね、その間なにもしないのはなんだし、フェイトちゃん、この後またいつもみたいに練習付き合ってくれないかな」

 

振り返り、微笑みながら聞いてくるなのはにフェイトもまた微笑み返しながら勿論と言う。

 

「今の私達じゃ、まだまだあの人達には叶わない。私のバルディッシュやなのはのレイジング・ハートも……」

 

「うん。だから、もっと強くなろう。悲しいことや辛いことにならないために」

 

 先程の沈黙はどこへやら、向き直り微笑みを交わしあう二人を彼女達の友人が見たら「またか」と呆れるに違いない。

 

と、何か思い出したのかそうだといいながらフェイトはとある話を持ち出す。

 

「そう言えば、クロノから聞いたんだけど、例の騎士達、また無関係な人達を襲ったみたい」

 

「え?」

 

 その話を聞いてなのはの表情は暗くなる。またどこかの誰かが傷付いた。自分達が動けないばかりに守れたかも知れない誰かを傷付けてしまった。

 

その事実がなのはの顔に暗い影を落とす。それを見てしまったフェイトはあたふたと慌てながらフォローを入れる。

 

「で、でもねなのは、襲われた人は無事……とはいかないけど、リンカーコアを蒐集されずにすんだみたいなの」

 

「………え?」

 

フェイトのその言葉になのはは顔を上げる。

 

例の騎士達、自分を撃墜した赤い少女の力は防御に自慢のある自分の防御壁を易々と破壊し、相棒のデバイス諸共戦闘不能にされた。

 

そしてそれはフェイトも同様。彼女に至っては騎士達のリーダー格に手も足も出せずに敗退。彼女の相棒であるバルディッシュもなのはのレイジング・ハートと共に今は管理局の技術師に預けている。

 

更に加えて奇妙な魔導書に自身の魔力の源、リンカーコアを蒐集されてしまい、現在回復してきてはいるものの魔法を行使する事は出来ないでいる。

 

そんな自分達を追い詰めた騎士達を、その“誰か”は難を逃れていたというのだ。

 

一体どんな凄い術を使ったのだろう。なのはの頭の中は既に鬱屈としたものではなく、てだその“誰か”に対し尊敬に似た感情を抱いていた。

 

「実はね、クロノから資料として一枚の映像を渡されているんだ。参考になのはにも見てもらいたくて」

 

「ありがとうフェイトちゃん」

 

親友のフェイトに礼を言い、彼女の携帯を覗き込む。あの騎士達の猛攻撃を受けて一体どんな妙技で退けたのか。

 

魔導師としてなのか、それとも騎士としてなのか、なのはの魔導師としての血が騒ぎ、興味津々の様子で見ていると。

 

「えっと………これって」

 

「花嫁……さん?」

 

 画面に映し出された一人の女性(後ろにいる男性らしき人物は見切れている)を目に。

 

「き、綺麗な人だね」

 

「う、うん」

 

 どうしようもない空気が二人を包み込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。とある街の中。

 

都心に近く、比較的人の多い街で自分達は夜の買い出しに来ていた。

 

その目的は二つ。一つはいつも通りの買い出しでもう一つはクリスマスに備えプレゼントを見繕う為である。

 

その為今回女性陣はマンションで留守番していて貰い、自分こと岸波白野とアーチャーは彩られた街に繰り出しているのだが。

 

「ん? なんだ雑種。我に言いたい事でもあるのか?」

 

いや、別にないけど……なんでギルガメッシュも来ているんだよ。いつもならマンションの最上階でワイン片手に街を見下ろしているのに……。

 

「なに、英雄王もたまには下々の生活を見てみたくなるモノよ。相も変わらず欲にまみれているなここは」

 

そういいながら金色のコートを靡かせて夜の街を闊歩するAUO。

 

正直、近寄りがたいです。

 

しかもコートの下にはいつぞやの私服、夜の帝王の格好しているのだから周りからの視線もイタい。

 

「ふん、雑種どもめ。本来なら我の姿を見ただけで斬首に処すというのに熱い視線を向けおって、仕方あるまい。下の雑種どもへ微かな恩恵を与えてやるのも王の役目か」

 

「……なぁ、マスター。今更ながら思うのだが君はよくあの男のマスターをやる気になったな。ある意味尊敬の念を禁じ得ないぞ」

 

うん、自分でも良くあの男と戦ってこれたなって不思議で仕方ないよ。というかアーチャーさん、さり気なく俺の後ろに下がろうとしないでくれないかな?

 

「む、すまん。……しかしなマスター。私としてはあの男と一緒に見られるのは少々キツい所なのだが……」

 

 それは自分だって同じだ。だって金色のコートだぞ? 夜の帝王だぞ? 家族やカップルの多いこの街でアレはもう異端者の領域だぞ? これ以上一歩たりとも近付きたくないわ!

 

迷宮内を探索していた頃、この格好をしていたギルガメッシュに敵性プログラムすら引いてたぞ。

 

「なんだ雑種。折角王の後ろを歩かせてやるというに何を遠慮している? ………ははぁ、さては貴様あの迷宮で我の前を往く事に味をしめたな? 遠慮ではなく足りぬとは、つくづく強欲なマスターよな」

 

違ぇよ。なんて言っても今のこの男には届かない。ならば変に機嫌を損なわないよう出来るだけ後ろに付くことで我慢しよう。

 

素直に後ろに付いたのが彼の機嫌を良くしたのか、ギルガメッシュは高笑いしながら街を往く。

 

嗚呼、周囲からの視線がイタい。周りのカップルやら家族やらの大勢の人達の好奇の眼差しが自分の背中に突き刺さる。

 

────というか、おいそこの褐色白髪眼鏡、何さっきより離れている。親指立てんな良い笑顔でドンマイ言うなその伊達眼鏡叩き割るぞこの野郎。

 

「所でマスター、彼女達へプレゼントをするのはいいが、どういう物にするのかは決めているのか? 正直彼女達……特にセイバーとキャスターはどんな代物をプレゼントするつもりだ?」

 

 露骨に話題を逸らすアーチャーに訝しげに思うが…………まぁ、確かにそうなのだ。

 

二人のサーヴァント、特にセイバーは浪費癖が激しく、普段は可愛らしい花柄のパジャマを着ている癖に外出時の格好はどれも一流ブランドの服を着ている。

 

ある財は全て使い切ろうとする彼女の性故に仕方がない事なのだが……正直、少しは自重して欲しい。

 

自分で株などで稼いではいるみたいだが、その浪費癖が原因でギルガメッシュと衝突した事は一度や二度ではない。

 

 以前、彼女の部屋に招かれた事があるが……ベッドに天蓋を付けたり、全ての家財をこれまたブランド品にしていたりとやりたい放題。

 

そんな普段セイバーが身に付けているものが世界一級品であるならば、自分が渡そうとしているプレゼントなどたかが知れている。

 

 キャスターもセイバー程ではないにしろ、彼女も宝、つまりは財を欲しがる節がある。

 

彼女には幾つかプレゼントの候補があるが、それでも安物では喜ばれないだろう。

 

かと言って手元には精々諭吉さんが三人程しかない自分の経済状況では、二人の希望には応えられないだろう。

 

唯一プレゼントとして確定しているのは桜だ。遠慮がちな彼女でもこれなら受け取ってくれるだろうし、値段も高く過ぎず、けど安物でもない。

 

あとはBBだが、これも桜同様に決まっているから問題ない。

 

嘗て、そして今も戦ってくれている彼女達が最も頭を悩める種になるとは……皮肉なものである。

 

 それはそうとアーチャー、なんかない?

 

「いきなり話を振ってきたな。………そうだな、二人とも確かに財を欲しがる癖はあるが、君の手で作られたものならば案外すんなり受け入れてくれるのではないか?」

 

 手作りか……確かにそれも一つの手ではある。なら素材は少し値を張るもので作ってみるのもいいか。アーチャー、教えてくれる?

 

「私が出来ること前提で話してないか? まぁ、できるが」

 

よし、材料を買って夜なべ覚悟で作れば聖夜には間に合うか。あ、でもセイバーってクリスマスにプレゼントされるのは抵抗あるのかな?

 

「それは……分からないな。いや、メリーまでなら許すみたいだから大丈夫か?」

 

 なにメリーまでって……まぁ、これ以上の話ても良い案は浮かびそうもないし、ひとまずはそれでいくとしよう。

 

「女共に財を貢ぐとは、貴様もつくづく運のない奴よ」

 

視線を向け、口調は哀れんでいるように聞こえるが…口端が吊り上がっているぞAUO。

 

ていうか、ギルガメッシュはないのか? 女性にプレゼント……て、あるわけないか。

 

「当然だ。俺は絶対にして始まりの王。民から財を巻き上げてもその逆はあり得ん」

 

ですよねー。

 

「自慢する事でもないがな。所でマスター、君は近い内バイトの面接に向かうのでは無かったのかな?」

 

 後ろからのアーチャーのその言葉に立ち止まる。

 

そうなんだよな。実は襲撃を受けた翌日、本来なら喫茶翠屋という喫茶店にバイトの面接に向かう筈だった。

 

所があの女騎士達の襲撃にあい、セイバーの看病と自身の傷を癒す為に面接は失礼ながらこちらから断る事になってしまった。

 

今思えば勿体ない事をした。電話越しから聞こえてきた女性の声は終始こちらを気遣っていてくれたし、店長らしき男性の声も体調を万全にしてからきて下さいと言ってくれた。

 

社交辞令なんだろうけど素直に嬉しかった。優しい人達みたいだったし、今度また面接に伺ってみようかな?

 

「お人好しの君がそういうのなら、その人達も相当だな」

 

 そう言いながらアーチャーは呆れの籠もった苦笑を見せる。

 

前から思っていたが、そんなに自分はお人好しなのだろうか?

 

「お人好しだ。まごうごとなきな」

 

即答! しかも断言された!

 

「つまらぬ事で我の時間を割くな雑種。貴様が必要以上に情け深いのはもはや必然(デフォルト)今更違うとは言わせんぞ」

 

 こっちはこっちで辛辣な口調で言われた。

 

うん、分かった。この事についてはもうこれ以上言わない。言ったら最後、ありとあらゆる方向から物凄いバッシングを受けてしまいそうだ。

 

「まぁ、我としてはその情け深さと女難のスキルで以て今後貴様がどんな女をモノにするか見物ではあるがな」

 

 振り返り、邪悪な笑みを浮かべるギルガメッシュに戦慄を覚える。

 

この笑い、これは彼独特の愉悦を見出した時の笑顔だ!

 

「もし貴様が女との痴情のもつれで背後から刺されたら、我は我の蔵にある至高の船でもってその様を見送ろう。その時、貴様はこう讃えるのだ。────nice,boat。とな!」

 

 非常に良い笑顔で高らかに笑うギルガメッシュ。きっと彼の脳内では自分が女性に刺された瞬間を再生されているのだろう。

 

アーチャー、偽螺旋剣Ⅱ(カラドボルグ)でアイツの頭撃ち抜いて。

 

 

 

「落ち着けマスター、気持ちは分かるが堪えるんだ」

 

 ギルガメッシュと共に行動してからと言うモノの、振り回される度合いが日増しに増えている気がする。

 

……というか、そもそもどうしてギルガメッシュもついてきたんだ? クリスマスに備えるとか有り得ないだろうし、買い物に来ているわけでもない。

 

彼の今一分からない行動に頭を捻らせていると。

 

「マスター、どうやら来たみたいだぞ」

 

アーチャーに言われ辺りを見渡す。

 

そこは前に観た世界との繋がりを断つ檻の世界。喧騒という音も、人という気配も、この世界には何も感じられない。

 

まるで世界が自分しかいなくなったとさえ感じる孤独感。……間違いない、これはあの女騎士が使った結界と全く同じモノだ!

 

「ほう。これが貴様の味わった結界という檻か。外界との繋がりを断ち、連絡手段すら使わせないとは、中々手の込んだ檻よ」

 

「成る程、確かにこれでは一度外と内で分かたればこの結界に入るのは容易ではない。セイバーの君に対する想いの強さが改めて知ったな」

 

 自分を守る用に立つ二人に思わず内心で安堵する。前回とは違い今度は頼もしい英雄が二人も自分の側に付いてくれている。

 

だが、油断もまた出来ない。まだ彼女達の手の内は全て知った訳ではないのだ。一体どこから、どのような手段で襲ってくるのか分かったものではない。

 

 と、その時、不意に視界の端に奇妙な物体が目に入る。

 

あれは……ボール?

 

いや違う! あれは────鉄球だ! しかも恐ろしく威力の籠もった!

 

「贋作者!」

 

「言われずとも!」

 

自分が気付いた瞬間、ギルガメッシュが檄を飛ばしそれよりも早くアーチャーがその手に弓と一本の矢を手に鉄球に向けて放つ。

 

激突し、爆砕する鉄球。

 

大きく広がる爆炎があの鉄球に込められた力の度合いを否応なく連想させる。

 

────いや待て、今のはおかしい。

 

鉄球とはそもそもあんな派手に爆発するものなのか? 複数で同時に爆発するならともなく掌サイズの鉄球一個程度であんなに爆炎が広がるのは不自然だ。

 

なら、彼女達の目的は────。

 

「ギルガメッシュ!」

 

「聞こえている。いちいち喚くな」

 

 自分の呼び掛けに応えると同時にギルガメッシュは自分達の真上に幾つもの宝剣、宝槍を発射させる。

 

「──────チィッ!」

 

 その時聞こえてきた幼い少女らしき者の舌打ち。それが彼女の考えが一瞬にして理解した。

 

一回目は前、次は上、ならその次と次は。

 

「後ろだ!」

 

「分かっていると、言っておろうが!」

 

蔵から取り出した一本の宝剣、ギルガメッシュがそれを手に取り、振り返りもせずに背後へ振り下ろすと。

 

そこには以前、自分を襲った女騎士が驚いた表情で剣を振りかぶっていた。

 

「ほう、貴様が例の女騎士か。王である我に斬り掛かったのだ。相応の覚悟は出来ているのだな!」

 

「貴様は……一体!」

 

「王の問いに問いで返すな、不敬!」

 

せめぎ合っていた拮抗はギルガメッシュが振り抜くことであっさりと崩される。

 

吹き飛び、それでも体勢を整える女騎士は宙を翻し、赤い少女と合流される。

 

 以前襲ってきた時の彼女達は四人、だが今目の前にいるのはその半数の二人。

 

そして、中でもあの犬耳男の能力はまだ未知数。一体どこから仕掛けてくるのか、脳内で思考を巡らせた───その時。

 

突如として足場がぐらつく、と同時に自身の体が言いしれない浮遊感に襲われる。

 

「あまり手間を取らせるなよ雑種」

 

 頭上から聞こえてくる呆れ口調のギルガメッシュの一言に状況を理解する。

 

どうやら下からの攻撃に反応し、彼は自分の襟首を掴みながら上へ跳躍してくれたのだ。

 

まさか、本当に下からも来るなんて……。

 

地面から突き出た白い槍………否、正しくは壁か。

 

大きく突き出た槍は幾つも重なり、この街を両断するように分け隔たつ。それはまさに城壁を思わせる強固さで、これを破壊するとなると結構骨が折れそうである。

 

と、状況を分析している内に一つ気になる点が生まれた。………アーチャーがいない!

 

「たわけ、あんなちゃちな誘導に流されたのだ。奴等の目的は最初から我等の分断に決まっておろう」

 

 ギルガメッシュの冷淡な口振りに悔しいという感情が渦巻く。月での戦いで少しは戦場の流れというものに慣れてきてはいるつもりだったが、こうも後手に回るとは……。

 

「雑種、貴様は確かに個の戦闘に於いては我でも時折目を見張るモノがあった。しかし、それ故にこのような乱戦では足下を掬われる可能性が出てくる。もっと高い視点から戦場を見よ」

 

 ……ギルガメッシュの助言にそうだなと頷き、次に備えて身構える。

 

アーチャーの事だから心配はないと思うが、それでも向こうは未だ未知の力を持った魔を使う者達だ。

 

どうにかしてこの結界から脱出し、家で待っている皆との連絡を取ろうと考えていると。

 

「まさか今ので仕留め切れなかったとはな。やはり、ただ者では無かったか」

 

頭上から聞こえてくる凜とした凄みのある声、見上げると其処には自分たちを襲った女騎士と緑色の女性、そして犬耳の男が足下にそれぞれ魔法陣らしき方陣を展開して宙で佇んでいた。

 

そんな、まさか四人の内三人がこっちにきているなんて! では、アーチャーの方は赤い帽子の子が!

 

「あの白髪男の方を侮っている訳ではないが、そちらの金髪、そして君の方がある意味厄介だと判断した。悪いが、今度こそその魔力を頂くぞ」

 

 剣の切っ先を此方に向け、敵意の籠もった目で自分を射抜く女騎士。

 

まずい。ギルガメッシュの実力を疑う訳ではないが自分という足手纏いがいる以上、此方の不利は覆らない。

 

こうなるのを分かっていたら、アーチャーやキャスター辺りに鍛錬だけでなく戦術とか習っておけば良かった!

 

「─────痴れ者がぁ」

 

 瞬間。空気が凍り付いた。

 

地の底から、計り知れない怒りの念が籠もったギルガメッシュの呟きに隣にいる自分は勿論、頭上で見下ろしている女騎士達は目を見開いて驚きを露わにしている。

 

 彼────ギルガメッシュは憤怒している。それも凄まじく、嘗て無いほどに。

 

震える肩と共に顔を上げると────。

 

「天に仰ぎ見るべきこの我を、同じ大地に踏ませるだけでは厭きたらず見下ろすとは────その罪、万死に値する!」

 

 その方向に思わず嗚呼、と声を漏らしてしまう。

 

そうだった。今まで大人しく精々自分を弄る事しかしない彼だったが、本来は全てを呑み込み、破壊する激流のような男だった。

 

その彼が紅い双眸でもって宙に浮かぶ女騎士達を射殺さんばかりに睨み上げる。

 

その身を黄金の鎧に包ませ、片手を上げると背後に浮かぶのは無数の剣と槍が何もない空間から顔を覗かせている。

 

それを前にした騎士達は驚愕に染まり、その目を大きく見開かせていた。

 

「せめて散り際で我を愉しませろよ? 雑種共」

 

 氷のように冷たく、裁定者が罰を下すようにその手を下ろす。

 

 

─────それは、蹂躙の始まりだった。

 

 




やばい。最近ギルガメッシュしか書いていない気がする。

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