それ往け白野君!   作:アゴン

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今回、何気に白野君単独の初戦闘です。




防人

 

 

 

 

 

 時が───止まった。

 

群を成して跋扈するノイズ達も、ノイズ達に懸命に抗おうと闘志を燃やしていた響ちゃんも、アングリと口を開いて呆然として此方をみている。

 

その気持ちは分かる。緊迫した空気にこんな特撮ヒーロー被れの格好をした輩がいきなり現れたりしたら、誰だってこうなる。……まぁ、此方の空気を読んでだのか、ノイズ達が固まってい動かないでいるのが意外だったが……。

 

というかBBさん、何故にこんな形の礼装にしたのですか? 貴女なら盾とかもっと他にやりようがあったと思うのですが?

 

『はぁ? 何を小生意気な事を抜かしているんですかこの最弱さんは、いいですか? おバカな先輩に分かり易く説明すると、その礼装はシンフォギア奏者が唄う際に発生させるフォニックゲインことFG力場をその鎧で応用する事でカバーし、出力そのものは落ちるものの、ノイズの攻撃にある程度の耐久力を備えさせているのです。しかも身体強化の術式も施されているし、更には他の礼装も最大二つまで同時使用が可能な優れ物。そんなBBちゃんの画期的過ぎる礼装にケチ付けるなんて、ホント先輩はおバカさんですねー。大体、盾なんて碌に使ったこと無い癖にどうして実戦で使えると思ったのですか?』

 

BBからの一切の容赦のない説明にグウの音も出なくなった自分は掠れる様な声でごめんなさいとしか言えなかった。……泣きそうだ。

 

まぁ、それだけの性能が積んであるのならこの格好にも納得がいく。それに、ある程度ノイズの攻撃が無効化される事には素直に有り難い。

 

他にも二つも礼装が使えることも強みだし、BBの拘りが垣間見える。

 

ありがとうとBBに礼を言って自分は跳躍し、礼装の恩恵で強化された身体で難なく着地する。

 

周囲を見渡せばそこにはやはりノイズの群、逃げ場を無くし、ジワジワと滲り寄ってくるノイズ達を前に自分は未だに呆けている響ちゃんに声を掛ける。

 

────ボーッとしてると危ないぞ! そう声高に叫ぶと、我に返った響ちゃんは予想通りに混乱しながら自分に問いかける。

 

「え? え? その声、まさか……白野さんなんですか!? え? ど、どうしてここに白野さんが……それにその格好は一体」

 

質問は尤もだが今この場で説明している暇はない、兎に角今はノイズを片付けてからだと言い放った後一言付け加える。

 

───今の俺は岸波白野という没個性の人間ではない。月光戦士ザビエル仮面だ!

 

「は、はぁ……」

 

やや困惑気味の響ちゃんの返答を聞き流しながら、改めて自分はノイズの群に攻撃を開始した。左腕部に組み込まれた携帯にコマンドを入力し、この世界にきて新たに使用可能となった礼装“破邪刀”を出現させ、両手に持ち替えてノイズ達と睨み合う。

 

……BB、アーチャー達とはまだ連絡とれないのか?

 

『今先程、アーチャーさんとセイバーさんが仕事場から此方に駆けつけている模様です。合流まで凡そ五分、凌げますか?』

 

五分。その間、この場は自分と響ちゃんだけでやるしかない。響ちゃん、イケるかい?

 

「わ、分かりませんけど精一杯頑張ります!」

 

本人のやる気は結構だが、戦いの場はやる気と根性だけでどうにか出来るほど甘くはない。最悪響ちゃんをフォローしながら戦わなくちゃならない現状に額から嫌な汗が流れる。

 

良く考えれば自分だけの力だけで戦うのは今回が初めてなのかもしれない。慣れもしない単独の戦闘に呼吸が徐々に荒れていくのが分かる。

 

いつもはアーチャーやセイバー達の背中を見ながら戦っていた……しかし、実際自分が戦うとなるとこうも空気が重くなるものなのか。

 

彼等はいつも、こんな空気の中で戦っているのか。戦場という死合いの場で自身が呑み込まれ掛けた時。

 

『……先輩』

 

ふと、耳元に彼女の声が聞こえた。

 

『大丈夫です。先輩には、私がついていますから』

 

その言葉にいつの間にか安心したのか、刀を握る手に力がこもる。呼吸も収まり、震えも止まった事から、いよいよ自分の覚悟も完了できた。

 

一度大きく呼吸をしたのち……。

 

────行くぞ!

 

叫びとも呼べるその一言共に、響ちゃんと自分は同時に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノイズ発生地点から少し離れたビルの屋上。月が照らすその場所に二つの影がノイズの群と戦う二人を観察していた。

 

「ほぅ、あの坊主。ちっと見なかった間に大分マシになってきたじゃねぇか」

 

「戦場の空気に呑まれてどうなる事かと思ったが……こりゃ杞憂だったみたいだな」

 

赤い槍を携え、その目を猛犬の如く鋭くさせる男の口元は獲物を見つけた肉食獣の様に愉快に歪める。

 

隣人の様子にいち早く気づいたもう一人の男はヤレヤレと呆れ気味に肩を竦め、槍の男を戒めるように口を挟んだ。

 

「あまり逸るなよ。まだ嬢ちゃんからの命令は下されてねぇんだ。勝手な行動で此方の情報を与えるのは得策じゃねぇだろ?」

 

「わぁってるよ。……それに、いつかアイツ等とはまたやり合う事になるんだ。今の内に相手がどの程度成長したか見ておくのも悪かねぇだろ?」

 

「全く、おたく等はホントそういうの好きだよねぇ。英雄の性って奴か?」

 

「さてな、……さて、そろそろ行くとしよう。嬢ちゃん達もそうだがあの女狐ももうじき動く頃だ。下手に動くのは今日限りだ」

 

「最初に様子見に行こうって言い出したのはそっちだろ。……へぇへぇ分かりましたよ」

 

 他愛の無い話をするように、男二人は屋上から飛び降りる。人々の目に止まらぬ速さで街中を駆け抜く二人は瞬く間に夜の闇へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁぁぁぁぁっ!」

 

 響ちゃんの無造作に振るわれた腕がノイズに激突する。彼女の纏う鎧がノイズに対する絶対的な武器となって、振り抜かれると同時にノイズは炭となって消えていく。

 

対する此方も刀を上下左右に振り抜いてその度にノイズを両断し、灰にしていく。

 

無論、ただ無抵抗にやられる程ノイズは大人しくない。形状に固執しないノイズ達は時にその身を弾丸として撃ち出され、此方に目掛けて襲いかかってくる。

 

ノイズに触れるだけで死を意味する此方からすればそれは不可避な死が無数に飛び込んでくるのと同義。通常の人間ならば胸を貫かれてノイズと共に炭化となってしまうだろう。

 

だが、それは既に一度見た。最初に破邪刀の試験運用で目撃したノイズの攻撃に自分はそれに合わせ、出来るだけ無駄な動きを省き、最小限の行動で横に体を逸らし。

 

────一閃。どうにかカウンターを合わせられ、自分は次も同じ要領でノイズ達を斬っていく。

 

確かにこのノイズの攻撃は危険だ。一つ一つが弾丸の様に速く、普通の人間では初見で捉えるのは困難だろう。

 

だが、生憎こちらは弾丸などよりも速い剣撃に毎日叩き込まれている身だ。アーチャーの攻撃に比べたらノイズの攻撃も───スローに見える。

 

「岸波さん……すごぉい」

 

関心している響ちゃん。そんな彼女の背後にノイズがいる事に気付いた自分はすかさず彼女に指示を送る。

 

響ちゃん、後ろ回し蹴り!

 

「え!? は、はい!」

 

自分の指示に驚きながらも従ってくれた響ちゃんは、自分の蹴りで倒せたノイズに自身が一番驚いていた。

 

気を抜かないでと彼女を叱咤しつつ、自分は常に周囲に気を配りながら戦闘を続けていく。そしてどうにかノイズの数が半分を切った所でBBからの通信が入ってきた。

 

『先輩、ノイズが一カ所に集中しました。チャンスです!』

 

言われて見ればばらけていた筈のノイズが一点に留まりっている。纏めて突っ込むつもりなのだろうか、しかし、それは此方にとって好機だった。

 

破邪刀の腹を左腕にすり合わせ、撫でる様に振り下ろすと、破邪刀の刀身に淡い魔力の光が宿っている。

 

“空気撃ち一の太刀”攻撃用のコードキャストとして使ってきたこの礼装を破邪刀と合わせて一つの攻撃手段として成り立たせる。

 

────その名も

 

「必殺! 月光(ムーンライト)スラッシュ!!」

 

魔力の斬撃に破邪の力を付与させた一閃。横凪に放たれたその一撃は射線軸上のノイズを一掃させて爆破。

 

灰となって消えていくノイズ達を見て、どうにか切り抜けたかと安堵した……その時だ。

 

「き、岸波さん! 上!」

 

響ちゃんに言われて上を見上げると、今度は大型の巨人型ノイズが自分たちの前に現れた。

 

デカい。情報でこそ知ってはいたが、いざ目の前にしたら改めて分かる大型ノイズの大きさに戦慄した時。

 

それは、どこからともなく聞こえてきた。

 

戦場にいながら場違いだと思いながら聴き入ってたのは────歌。

 

巨大なノイズの頭上から淡い青の光が灯った瞬間……次いで、巨大な剣が大型ノイズを両断した。

 

何が起こった? 爆風に煽られながらも何とか踏みとどまった自分の前に現れたのは……。

 

「───防人、風鳴翼。遅ればせながら戦場に参上仕った」

 

普段のアイドルとしてではなく、自らを防人として名を語る彼女は────。

 

いっそ、痛々しい程の剣気を身に纏わせていた。

 

 




この世界における日曜朝のテレビ番組表。

『カレイドライナーマジカルはくのん☆』

『呪装戦隊タマモナイン!』

『ヤンキュア♪サクラファイブ♪』

『月光戦士ザビエル仮面!!』

の四本と、お昼には『アーチャー三分クッキング』が予定されております。


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