それ往け白野君!   作:アゴン

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新年あけおめ!今年も宜しくです!


サヨナラとは言わないで

 

 

 

 翌日。メルトとリップの二人のお見舞いから一夜明けた今日。傷も塞がり、体も自由に動かせる事から岸波白野はめでたく退院できる事になった。

 

見送りに病院の玄関先まで見送りに来てくれた担当医の先生に今までのお世話についての礼を述べると。

 

「ハハハ、今まで色んな患者を診てきたけど、君のようにボロボロになりながら一週間そこらで完治する事例は見たことがない。解ぼ……もとい、もっと経過を観察したい所だが、残念だよ」

 

良い笑顔で返してくる担当医の先生に改めてお世話になりましたと返す。うん。もう二度と病院の厄介にはならないぞ。

 

まぁ、実際は偶にやる礼装召喚アプリである鳳凰のマフラーを使って治癒力を高めていたから当然と言えば当然だ。何せあのままお世話になってたら一体いつまで病院に箱詰めになることやら。自分よりも重体の人はいるだろうし、いつまでも健康体の人が病院に居座っては病院側も迷惑な事だろう。

 

故に、予め持っていた礼装召喚アプリで治癒能力のある鳳凰のマフラーを使い、肉体を完全に治癒させ、現在に至るというわけだ。

 

因みに携帯はリップに持って来て貰った。仮にも入院患者が携帯を持ち出す為に病院から抜け出す訳にもいかないし、幸いにも携帯は自分の部屋にあったからリップも迷わずにこれたみたいだ。

 

それに、彼女には物を隠すにはうってつけの場所があるし……どこに隠したかって? 言わせんな恥ずかしい。

 

強いて言わせて貰えば……渡して貰った際、非常に眼福でした。あと携帯が若干生温かった。

 

とまぁ、リップに初めてのお使いをして貰った事で残りの入院生活は一日で終わったのだが……。

 

迎えが来ない。連絡はしたのに時刻は既にお昼を回ってるし、アーチャー達の誰かが迎えに来てくれるものだと思っていただけに少し拍子抜けだ。

 

ま、今頃皆はお昼ご飯を食べている時間だし、仕方ないか。玄関先の担当医さんに頭を下げ、リハビリを兼ねて歩いて帰ろうと一歩足を前に出した瞬間。

 

──いきなり、金色のバイクが目の前に現れた。

 

危なっ!? 後ろに飛び跳ね、回避に成功した自分はバイクに跨がった人物に何事かと顔を向けると。

 

「ふん、遅かったではないか雑種。我を待たせるとはつくづく見上げた厚かましさよな」

 

黄金のバイクを跨がるノーヘルのギルガメッシュが地面に座り込んでいる自分を見下ろしていた。

 

……一体いつの間に免許を。危ないとか、殺す気かとか言う前にそんな疑問が出てきてしまう自分はきっともう色々と手遅れなんだろうなぁ。

 

それはそうと、ギルガメッシュ一人? てっきりセイバーかキャスター辺りが来てくれるのかと思ってたんだけど……。

 

「サラリと女共が迎えに来てくれると確信している辺り、貴様も相当アレよな。二人と贋作者、そしてアルターの二人は昼餉の準備をしている。貴様の退院を聞いて慌てふためく様は中々見物だったぞ」

 

クククと愉悦スマイルをこぼす英雄王に嫌な予感がヒシヒシとするのは何故だろう。

 

確かにセイバーやリップとリリス達が料理出来るのは一抹の不安があるが、アーチャーやキャスターもいるのだ。そうそう失敗する事はないと思う。仮に失敗したとしても少し位味がおかしくても完食出来る気概と胃袋は持ち合わせているつもりだ。

 

「ほう? 言うではないか雑種。ならそこへランサーめが退院祝いで手作り料理を披露するという情報は余計な気遣いであったか?」

 

急ぐぞ英雄王。ガソリンの貯蔵は十分か?

 

「おい。先程の台詞はどうした?」

 

瞬時にギルガメッシュの後ろに座る自分にジト目の視線が突き刺さる。だが屈しはしない。何故なら、小さなこだわりで命を投げ出す程、岸波白野は人間が出来ていないからだ!

 

というか、折角退院出来たのにまた病院に送り返されるのはマジで洒落にならない。

 

「はっ、良いだろう。飛ばすぞマスター! 我が許す。死にたくなくば我の体にしがみつくが良い」

 

エンジンを吹かし、バイクを機動させるギルガメッシュ。愉しそうに笑みを浮かべる彼を後目に、病院の前で呆けている担当医の先生に改めて挨拶をする。

 

初めての入院生活だったが、あれはあれで中々有意義な時間だった。一週間お世話になった病院を見納めながら行こうとギルガメッシュに発進を促す。

 

……所で英雄王よ。ヘルメットはどうなされた?

 

「そんなものはない! 我がルールだ!」

 

次の瞬間。風になりながら私、岸波白野は思う。

 

二度とギルガメッシュのバイクには乗らないと。

 

途中、ノーヘルの違法で追ってきたパトカーとカーチェイスをしながら自分は堅く心に決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅かったではないか奏者よ! 待ちわびたぞ」

 

「お待ちしてましたよ先輩。ご飯の準備は出来ています。皆さんお待ちかねですよ」

 

 久し振りの我が家。出迎えてくれたセイバーと桜にありがとうと言いながら彼女達の後を付いていく。そして案内されたのは以前闇の書事件の時の祝勝パーティーで使われた大広間だった。

 

扉を開けてみればテーブルの上に置かれた料理を摘まみ食いしているレヴィちゃんと目が合った。や、久し振り。

 

「ング!? あ、あれ? お兄さんもう来ちゃったの?」

 

「だから言ったではないですかレヴィ。あまり摘まみ食いばかりしていると余分なフラグを立てますよと」

 

「しかし、貴様も呆れた頑丈さよな。普通なら死んでおるぞ?」

 

レヴィちゃんと挨拶を交わしていると、近くにいたディアちゃんとシュテルちゃんもそれぞれ近くに寄ってくる。

 

彼女達なりのお迎えの言葉を浴びていると向こうの出入り口の方から料理を持ったキャスターと目があった。

 

「みこーん! ご主人様お帰りなさいませ! そして申し訳ありません。本当なら私もご主人様のお迎えに向かいたかったのですが、何分こちらは人手不足。アーチャーさんだけでは手が足らないという訳で桜さんと私でお料理担当になり、金ピカさんを迎えさせる暴挙に出てしまいました。ですが男は船、女は港と言いますし、こうして待つのも良妻の努めかとタマモはタマモは尤もらしい言い分で誤魔化してみたり」

 

料理をテーブルに置くや否や、もの凄い勢いで駆け寄ると、キャスターは首がもげそうな程に何度も頭を下げながら弁明してきた。マシンガンの如く言葉を発するキャスターにレヴィちゃん達も呆然としている。

 

けれど、そんな変わりのないキャスターにどこか安堵している自分がいた。先の戦いではどこか様子がおかしかったからその後の病院生活での見舞いに来てくれた時は大丈夫かなと心配していたのだが……どうやら、本当に大丈夫なようだ。

 

何度も頭を下げてくるキャスターに気にしないでと返し、そろそろお腹も減り頃だと彼女に案内されて近くの席に座る。

 

すると今度はエプロン姿のアーチャーが大きな受け皿を両手に持って入ってきた。その後ろにはリップとユーリの姿が見えた。

 

入院生活に一度も姿を見せなかったユーリの元気そうな姿を見てたまらず手を振ってみる。するとこちらに気付いたユーリは一度こちらに視線を向けると……。

 

「…………」

 

どこか暗い表情で俯き、此方には視線を合わせることもなく、そそくさと部屋の奥へと引っ込んでしまった。

 

どうしたのだろう。そう思っていた所に全ての料理を作り終えたアーチャーが此方に近づいてきた。

 

「帰ったかマスター。その分では英雄王に随分振り回されたようだな」

 

同情の眼差しを向けてくるアーチャーに自分も苦笑いがこみ上げてくる。因みにギルガメッシュは今ここにはいない。自分を降ろすと風になってくると言い残しながら去っていった。今頃はパトカーと共にどこぞの峠でカーチェイスをしているのだろう。

 

「ぐぬぬぅ~。おのれ英雄王。まだ我もバイクには乗ったこともないと言うのに!」

 

「まだそんな事言って、ねぇ王様。別にアイツに勝てないからって僕達は王様から離れたりしないよ? ねぇシュテるん」

 

「はい。王よ。喩え貴方が英雄王に逆立ちして勝てなくとも、ホラー映画で一人で見れなくとも、喩え一人で夜トイレにいけなくても、誰も付き添ってくれず我慢する事になっても、喩えそれでオネショしたとしても貴方の側から離れるつもりはありません。安心して下さい」

 

「オネショなんかしとらんわぁ! ちゃんと一人でもトイレにいけたわ! お前段々と我に遠慮しなくなってきたな!?」

 

「と、そういう訳みたいですけど……どう思いますメルトリリスさん」

 

「ダウトね。私見たもの。昨夜リップと一緒にトイレに向かう二人を」

 

「み、見られてた? は、恥ずかしい……」

 

「王よ。嘘はいけません。さぁ、ここで本当の事をいうのです。本当は一人ではトイレにいけず、且つすぐに用を足せるよう常にハイテイナイのだと!」

 

「もうやだこいつ」

 

何やら、あちらはあちら楽しそうに盛り上がっているな。いつの間にかリップとリリスもいるし、あの様子からすればどうやら仲良くなれたみたいだ。

 

「さて、そろそろ頃合いだ。五月蝿い輩が帰ってくる前に早いところ食べてしまおう。アミタ嬢、キリエ嬢、君たちも早く席につくといい」

 

「はーい」

 

「いただきまーす」

 

厨房の方から現れるアミタさんとキリエさんが出てくる。どうやら彼女達も料理作りの手伝いに来てくれたようだ。

 

そうして、自分たちはアーチャー達の料理に舌を打ちつつ、談笑をしながら午後を過ごしていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼食も食べ、ひとまず解散となった頃。皆がこれから何をするか談笑していた時、一人大広間を後にするユーリを見かけた。

 

入院していた頃や先程の態度、明らかに今までとは違い余所余所しくなった彼女の事が気になり、自分も後を追って大広間を後にした。

 

大広間を出て通路の先にある休憩所。そこでユーリは一人そこにある椅子に座っていた。

 

俯いているからその表情は読み取れない。だけど、それが自分には痛いのを必死に堪えている幼子の様に見えた。

 

どうしたんだい? そう声を掛けるとユーリの肩はビクリと跳ね上がり、腕で顔を吹くと作り顔の微笑みを浮かべて此方に笑みを向けてきた。

 

「あ、その……白野、退院おめでとう。怪我、大丈夫ですか?」

 

不安げな顔で自分の体を見てくるユーリに大丈夫だと伝える。そもそも、打撲程度で入院なんて大袈裟なのだ。一番大きかった腹の傷は礼装のお陰で塞がったし、魔力が完全に回復すればそのまま治癒できたのに……皆、意外と過保護なものである。

 

「いや、全身打撲は普通に入院ものだと思う」

 

ボソリと呆れ混じりの反論は軽く流し、ユーリの隣へと座る。その際、何やら遠慮がちに少し横にズレたのが地味に傷付いたが、それでも気を強く持って話をした。

 

話の話題は、別段変わらぬ普通の話だった。ここの皆とは仲良くやれているかとか、喧嘩したりしていないかとか、困った事はないかとありふれた話だった。

 

けれど、話題も段々と減り。会話が続かなくなってきた頃。思い切って自分はユーリにあの話を振ることにした。

 

……ユーリ。

 

「は、はい」

 

これはまだ僕達の間にしか知らない話なんだけど、自分達は近い内、この世界から去らなければならない。

 

「っ!」

 

自分の振った話に、ユーリは膝に置いた手を強く握り締めている。

 

 忘れかけていたが、そもそも自分達がこの世界にいるのは桜が皆をムーンセルから解放する際に行った無茶な介入行動が原因だとされている。

 

勿論桜には非はないし、寧ろ自分を始めとしたセイバー達と再び会わせてくれた事に対しどんなに礼を言っても足りない程である。

 

けれど、それで自分や凛、それ以外のマスター達が別世界に飛ばされたのもまた事実。そんな彼らの救出、或いは接触する為にもう一度世界を渡らなければならない。

 

無論。凛にもこの事は話すつもりだ。いや、アーチャー辺りが既に説明をしているのかもしれない。彼はそういうフォローが出来るオカンだから早めの対処は確実にしていると考えてもいいだろう。

 

「……どうして、それを私に言うんです?」

 

未だに俯いたままのユーリがそんな言葉を返してきた。まるで、この後言う自分の台詞が分かっているかのように。

 

 ……ユーリ。正直言って俺は君とまだまだ一緒にいたいと思う。一緒に世界を見て回りたいと思う。そりゃ自分はお世辞にも一人前の魔術師とは呼べない半端者だし、それ以外でも皆に迷惑を掛ける事は多々あると思う。

 

けれど、それでもユーリと一緒にいたい。そう願いたいしそう信じたい。だから───

 

「一緒に行こう」

 

ユーリに手を伸ばしながら、口にする。

 

差し出した手に気付いたユーリは此方に顔を上げると一瞬だけ呆けた顔になる。

 

「───っ」

 

その時。何かを言い掛けたユーリが我に返ると、キュッと口を噤み、自分と顔を合わせないようにまたもや伏せてしまう。

 

───そして。

 

「ごめんな……さい」

 

ユーリの静かな、けれど確かな拒絶に岸波白野の時間が一瞬だけ止まった。

 

どうして? 何故? 溢れ出す疑問に押しつぶされそうになる。けれど、それよりも先に聞かなければならない事がある。

 

ユーリ。それはこの間での一件が関わっているのかな? だとしたらそれは……

 

「違うんです。そういう事じゃ、ないんです」

 

首を横に振って否定するユーリは続けて言った。

 

アミタちゃん、キリエちゃんの世界を救うにはユーリの力が必要。けれど、ユーリの力を完全に制御するにはディアちゃんの闇統べる王の力が必要なのだとか。

 

キリエちゃん達の世界は今の時代より数百年先の異世界の未来。一度別れてしまえば、世界を移動する自分達でも容易には会えなくなるだろう。

 

以前、BBが言ったことを思い出す。世界を渡る移動方法は左右へ渡るものに対し、時の移動方法は上下に昇ったり降りたりするエレベーター的な移動方法なのだと。

 

縦と横では交わる時は会ってもその出会いは単なる一点に過ぎない。一度離れてしまえば再び出会える確率は天文学的数字へと至る事だろう。

 

だから、本当なら自分は呼び止めるべきなのだろう。一緒に行こうと、いつものように自分の我が侭を押しつける形で……。

 

けれど。

 

「ユーリ。俺から言う事は一つだけ。それだけは聞かせて欲しい」

 

「は、はい」

 

「それは、自分で決めた事なのかい?」

 

俺は、岸波白野は、ユーリの親であることを誓い。そう願った。

 

だったら、その子の願いを応援してやるのも自分のやるべき事などではないだろうか。

 

「……はい」

 

自分の問いにユーリはしっかりと返事を返してくれた。ギュッと握り締めた手からは感情を抑えようとする意志の現れにも見える。

 

そんなユーリの頭に、自分はポンと手を置くと。

 

「頑張れ」

 

ただ、その一言だけが口からこぼれた。

 

頑張れ。その一言にユーリは抑えていたモノが一気に溢れ出したのか、自分の体にしがみついたままで泣き出してしまった。

 

またもや娘を泣かしてしまった。ダメな親だなと自覚しつつも、ユーリの背中をさすりながら何度も口にした。

 

頑張れ、負けるなと。そう口にする度、ユーリは何度も頷き。

 

「お父……さん」

 

自分の腕の中で、初めて自分を父と呼んでくれた娘に、一層抱きしめる腕に力が籠もった。

 

大広間から聞こえてくる喧噪を耳に、俺とユーリの親子は別れの挨拶を済ませた。

 

 

 

それから一週間後。思い出作りに勤しんだ自分達は……遂に、別れの時を迎えるのだった。

 

 

 

 




次回、流石にシリアスになる予定。

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