自分にはこれが限界でした。ですのでそこだけは本当にご容赦下さい。
それと、今回はリリカル要素皆無です。
─────現在、岸波白野の思考は混乱……いや、停止していた。
目の前に浮かぶ巨大電子モニター。そこに浮かぶ一人の少女は、嘗て自分達の前に立ちはだかり。
同時に、敵となる事で岸波白野という一人の人間を守り続けた………女の子。
『あれあれー? なんかノリ悪くないですかー? 折角超絶小悪魔美少女BBちゃんの初お披露目なのに酷くないですかー?』
BB。世界を敵に回してまで自分を守り、そしてその恋に殉じた少女が巨大電子モニターに映し出されていた。
─────どういう事、だ? 何故彼女がここに……そして、あの巨大な物体は一体なんだ?
いや、自分はあの物体を知っている。
混乱する思考を徐々に落ち着かせ、脳内に浮かぶ疑問を一つずつ解消させる為に作動させる。
BB、彼女の後ろにある物体がアレである事は………いやしかし、アレがこんな所にあるなんておかしい。不自然を通り越して最早奇跡の領域だ。
思考は正常に作動しているが、その中は有り得ないの文字で埋め尽くされている。
「雑種。聡い貴様なら既に分かっている筈だ。あの女の後ろにある物体、それはまさしく貴様の想像通りだ」
ニヤリ。とギルガメッシュが邪悪な笑みを浮かべながらの一言に思考は一つの解を決定付けた。
『ムーンセル・オートマトン』
地球開闢以来から月面で観測し続けている太陽系最古の物体にして神の自動書記装置。七天の聖杯(セブンスヘブン・アートグラフ)。万能の願望器として機能しているが故に聖杯と呼ばれる存在。
光という観測媒体により培われたデータは無限に迫り、地球の歴史、物体、そして人や動植物の全てを記録した管理の怪物。
そんな代物が、どうしてこんな所にあるんだ!?
漸く収まりかけた混乱が、考える度に再発しかける。やがて熱暴走が起こり卒倒間近という所────。
「見苦しいぞ雑種、あまり騒ぐでない。それにあれは確かにムーンセルだがその機能は低下し、今やその権能は半分程度しかない劣化物よ」
ギルガメッシュ? それは……どういう意味だ?
訳知り顔でドヤ顔をするギルガメッシュに苛立ちを覚えるが、今はそれどころではない。
殴りたくなる衝動を自制心をフル回転させることで何とか抑え、ギルガメッシュに説明を要求する。
「貴様、一体いつからこの世界が自分のいた世界と別物だと納得した?」
……それは、桜からある程度話を聞いたし、何よりここは日本だからだと思う。
「ほう? それは何故だ?」
これも桜からよ情報だが、自分達の世界の日本は大崩壊や数々の自然災害が重なり、横行するテロ等の所為で政府は崩壊。規律や土地を失い残った日本人は世界中へ散らばり、今や日本という列島は存在しないカタチとして扱われている。──────と聞いている。
けれど、今自分達が住んでいる国は日本だ。大崩壊も起きていないしテロ行為もされていない。
自分達の世界に存在したとされる西欧財閥なる組織も耳にしない。この世界は自分の知る世界情勢とは何もかもが違う。
「己の目で見たわけでもないし足を運んだ事もない。耳にしただけで世界を知った気でいるのは愚者のする事だぞ。雑種」
ギロリ、と鋭くなるギルガメッシュの真紅の瞳に射られ、思わず萎縮してしまう。
「だが、貴様のいうこと言うことは間違っていないな。今回は許すが今後は改めろよ」
殺意……いや、これは怒気か? まるで間違いを諫める父親のような態度を取るギルガメッシュは今後は気を付けろと釘を差すだけに留まり、その怒りを静める。
………どうも調子が狂う。普段とは違う態度に目を点にしていると、隣に控えていた桜が小声で声を掛けてくる。
「先輩、大丈夫ですか? ギルガメッシュさんの殺意に当てられるなんて……」
心配してくる桜に大丈夫だと返答する。何せ彼はただ怒っただけなのだ。彼が本当に殺意を向けてくるのならあんなモノじゃない。それは何度も殺意を向けられた自分自身がよく思い知っている。
「先輩……大変だったんですね」
………あれ? なんか同情された?
「雑種。話を続けるぞ? 貴様は世界を渡ったという話は聞いたな。ならばその経緯、理由、我達の受肉、そしてこれから起こる事象については……知っているか?」
ギルガメッシュに言われ、慌てて頭の中を整理する。経緯……それは確か眠り続けていた自分を起こす為に桜が色々頑張ってくれて────待て、やはりおかしい。これまで自分は肉体の鍛錬や魔術特訓に追われて気になる暇すらなかったが、これは明らかにおかしい。
病において眠っていた筈の自分が治療法の確立によって目覚めさせられたのならまだ分かる。しかし、────こんな事を言うのは心苦しいがムーンセルのAIである桜や記録から再生されたギルガメッシュ達がここにいるのはあまりにも都合が良すぎる。
加えて自分の記憶。本来ならサーヴァントは一人一体が原則なのに自分には四体の英霊達がいて、更にそれぞれちゃんと記憶として鮮明に残っている。
一体、何が、どうなって、いるんだ?
「まぁ、貴様が混乱するのは仕方のない事。しかしこれからゆるりと話す故、頭を空にし、心して聞くが良い」
ギルガメッシュの声に沈んでいた思考が浮かび上がる。
こういう時、彼の声は本当に助かる。彼の我を通す声は聞く者を意識ごと振り向かせられるのだから。
────まぁ、それなのに見ただけで無礼と称し、殺しに掛かるのは勘弁して欲しいけれども。
「まずはサクラと我達についてだな。これは比較的簡単だ。貴様が外へ意識を飛ばされた直後、桜はムーンセルに働きかけ外部に備え付けられていた英霊の受肉装置を起動させ、我達を現界させた」
───────────────は?
い、いや、今サラッとトンでもないこと言わなかったか?
「その後桜はアトラス院へムーンセルの力で以てハッキングを仕掛け、その技術によって肉体を創造し、我達と合流を果たしたのだ」
…………ちょ、ちょちょちょちょちょチョイ待てAUOよ、今なんて言ったの?
「何だ。折角このギルガメッシュ先生が自ら教えてやっていると言うのに、横やりとは何事か」
五月蠅いよ何だよギルガメッシュ先生って! どうでもいいよそんな事! それよりもなにサラッと凄いこと言ってんの!? 受肉装置ってなに!? そんなもの初めて聞いたよ!
「それはあるだろう。聖杯戦争の勝利者の中にはサーヴァントの受肉を望む者だっているのかもしれないのだぞ? その程度の可能性も考慮できないムーンセルではあるまい」
「因みに、受肉させる方法は神代の時代から基づく魔術……いえ、“魔法理論”によって用いられてます」
ありがたい桜の補足に思わず納得しかけてしまう。
神代の時代って……いや、ムーンセルは地球が生まれた頃から存在しているからアリと言えばありなの……か?
地球が創世された日から観測し続けているのだから魔術、魔法といった技術も理論的に記録されていてもおかしくはないと思うが。
い、いやそうかも知れないけど……でも優勝者に叶えられる願い事は一つの筈じゃ……。
「やれやれ、貴様。どうやら贋作者に鍛えられた所為で頭まで脳筋になったか? ムーンセルはどういうモノだったか思い出してみろ」
溜息を吐かれ、もの凄く呆れられた。────もの凄く悔しいが言われて思い出す。
確か、記録宇宙と観測宇宙の違いだっけ?
あやふやな自分の知識にギルガメッシュは頷き、今度は桜が説明を始める。
「更に言えばムーンセルは過去、現在、未来をも計測し、観測しています。先輩の言うとおり本来なら優勝者に叶えられる願いは一つです。けれど、そこで私はズルをしてその願いを四つに増やしたんです」
四つ!? そんな事が可能なのか!?
「以前、遠坂先輩から聞いたことありますよね? 観測宇宙とかその他諸々……」
た、確かにそんな話もしたっけ。なんかやたら難しくてよく理解できなかったけど。
本から飛び出そうとジャンプしたら本当に出てきてしまった。……みたいな?
「はい。ですのでその喩えに倣って説明すると、同じ内容を記した本を複数持ってきて同じ箇所を切り取ってそのページに無理矢理貼り付けた。という感じです」
─────────ワッツ?
「貴様は実際他のサーヴァントとで聖杯戦争を勝ち抜いた記憶があるのだろう? ムーンセルは概念や可能性、そして結果が真となる場所。つまり、そういうことだ」
いやどういう事!?
………いや、待て、ということは実際自分はアーチャー、キャスター、セイバー、そしてギルガメッシュでそれぞれ聖杯戦争で優勝を果たしてその“結果”を繋ぎ合わせてムーンセルを誤魔化したのか?
確かに皆との記憶はちゃんと覚えている。ということはセイバー達とムーンセルでの戦いの痕も過去であって現在に続いている?
「ほう、どうやら本来の調子に戻ってきたようだな。その通り、いかにムーンセルといえど起きた事実を覆すことは出来ん。結果を覆す事になればそれはムーンセルの崩壊を意味しているからな」
ムーンセルは管理の怪物。故に起きた事象の結果を否定する事は出来ず誤魔化しだと理解しても矛盾を避ける為に受理せざるを得ない。
正にムーンセルと一時的に同化し、人間として目覚めた彼女にしか出来ない芸当だ。
こんな裏技を使うなんて……桜、君は。
「頑張りました♪」
頑張り過ぎだよ桜さん。
「それで、我が蔵にある船でもって雑種共と地球に降り、サクラと合流した訳だ」
─────ハァ、ソウナンデスカ。
「けれど、その際にある問題が発生したんです」
問題? ……まぁ、色々裏技を使ったのだから誤作動の一つや二つおかしくないわな。
「本来なら先輩だけを地上に降ろすつもりが、聖杯戦争の本戦に参加した数名の参加者が行方不明になったのです」
申し訳無さそうに語る桜、聖杯戦争の参加者が消えた? まさかまたサクラ迷宮のようなバグが起こったのか?
「いえ、バグではなく誤作動です。私がムーンセルにアレコレやってしまった所為でムーンセルは自分の中にある外部からのデータを吐き出してしまったのです」
それは……例えるなら喉の奥に手を突っ込んだらえずいて吐いたようなものか?
「そうですね。言ってしまえばそんな感じです。外部からのデータ、即ち聖杯戦争の参加者達なのですが、ムーンセルに吐き出された事により強制排出。その殆どのプレイヤーはその間の出来事を忘れており、無事に地上に帰還しています」
ムーンセル内部、しかも虚数空間であるなら時間や距離の概念は当てはまらない。
聖杯戦争への参加された人間は桜の無茶な介入によりムーンセルから吐き出され、今回の参加者は事実上ゼロ。
虚数空間に囚われていたマスター達は“予選の途中”でムーンセル自身に追い出される形になった。
つまりは聖杯戦争そのものがやらなかった事になったのか。
…………なんか、自分で言っててかなり無茶苦茶な事を口走っている気がする。
けど、もうなんか慣れた。
それはそれとして、どうして参加した殆どのマスター達は無事に帰還したのに本戦に出場した数名のマスターは行方不明になったんだ?
「それは……分かりません。強いていうなら世界から弾きだされた。というのが今のところの私達の考えです」
弾きだされた?
「詳しいことはまだ分かっていません。ですが、その人達のデータを検索してもムーンセル内のどこにも無かったんです。消去(デリート)された痕もありませんし」
消された痕も無いのに存在しない。ムーンセルはどんな些細な事象も記録漏れする事はないのだから不思議に思うのは分かる。
けれどそれはムーンセル内部での話だ。どうして他のマスター達の存在は確認できたのにそのマスター達の所在は分からなかったんだ?
「その話をするにはまずはこの物体の話をすることから始めねばならんな」
そう言って一歩前に出るギルガメッシュは背後にあるムーンセル(仮)に親指で差す。
というか、何だその眼鏡は? 本気で先生を気取るつもりか?
「控えよ。先生王の前である。慎ましく、讃えながら聞くがいい」
なんだよ先生王って、気に入ったのか先生って役。
「うむ、何せ今回のサブタイがサブタイなのでな、相応しい格好で挑むのが道理であろう」
メタな発言にツッコミはせず、粛々とギルガメッシュの話に耳を傾ける事にした。
「まず我達と桜との合流は割と簡単であった。何せ我達が受肉する際事前に連絡はできたのだ」
ほうほうそれで?
「その後、桜からムーンセルの誤作動について話を聞いてな。本来なら捨て置く所だが……後にこの事が貴様に知れると貴様は余計な後悔に苛まされるのは目に見えている。故に逆に考えてみた。貴様も巻き込んでしまえと」
うんうんそれで?
「しかし我達にはその事態を詳しく把握する事は叶わず、また術もなかった。いや、我一人ならどうにかできるが折角使えそうな雑種がいるのだからそれを活用する手はない、と思うてな」
へぇへぇそれで?
「その後、我達は再び月へ戻り、ムーンセルを斬った。以上」
うんうん───────んん?
ちょっと待て、今、なにか、凄いこと言わなかったか?
「ムーンセル、斬った、以上」
──────はぁぁぁぁぁぁああああぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!?!?
斬った!? ムーンセルを!? 太陽系最古の物体を!? 神の頭脳を!? アイェエエエエ!? 何で!? なんで!?
「仕方あるまい。直径三千キロもの物体など流石の我の蔵でも少々手に余る。我と贋作者、駄狐とセイバーの手で何分割したあと地上へ持ち帰り、必要な部分を繋ぎ止めてこのような形となった」
………どうしよう。あまりにもあまりな事実を前に何も考えられない。人間、理解の越えた真実を前にすると思考する事をやめるんだな。
─────そのうち白野は、考えるのをやめた。みたいな?
「質問は受け付けんぞ。面倒だからな。ともあれムーンセルをカスタムし、ネットワークに接続する事であらゆる回線に割り込み、ハッキングする事ができた。その辺りは流石ムーンセルといった所か」
そうか、それで世界中に返されたマスター達の所在を掴むことができたのか。
神の頭脳と呼ばれるムーンセル。その力の一端だけ見せただけで世界のネットワークを掌握できるのだから世界中の人間の所在を認知するのは容易い、か。
「まぁ、ムーンセルを半分ほどバラバラにした所為もあってか月のムーンセルは地上から完全に手を引き、今では人間の手では開けぬ程に閉じこもっておる。所謂引きこもりだな。ムーンセルにまでニートをさせるのだからジナコ=カリギリの堕落ぶりは凄まじいものよな」
高笑いをしているギルガメッシュを前に自分はムーンセルに同情を禁じ得なかった。
ムーンセルにもし言語能力なあればきっとこういうだろう。『もうヤだコイツ等』と。
内部をイジられ、バラバラにされて引きこもるしかなかったムーンセル。君は今、泣いていい。
「そしてその後、世界に奴等の姿はないと知り、我達は世界を移動する術を探した。が、こればかりは上手くいかず難航した。一時期は我が至高の剣“エア”で世界ごと切り裂こうと思ったが、それでは貴様諸共消してしまう可能性があったのでな、その案は却下した」
サーヴァント達の受肉。桜の存在の理由。世界を移動する理由その話を聞き残された疑問はどうやって世界を渡ったのか、その方法だった。
やはり世界の壁を越えるにはそう上手く行くはずもなく、ギルガメッシュ達でも苦戦したのだろう。彼の中々開かない口振りから察するに余程重要な話のようだ。
「実はその時、どこからともなく現れたゼルレッチと名乗る魔術師のお爺さんが面白そうだからって理由で世界を渡る魔法の術式をムーンセル(仮)に組み込んでくれたのです」
な、なんかあっさりと解決した!?
な、なんだそのゼルレッチって人。まるで世界を渡るのが趣味みたいな人じゃないか。
しかも面白そうだからって理由で教えてくれるなんて……どこかで会ったらお礼を言うべきなのかな?
「ともあれ、その宝石翁のささやかな助力も甲斐あって我等は世界を渡る術を身につけ、この安宿に備え付ける事で全ての仕度が整ったというわけだ。これは全て貴様が目を醒ます前の出来事だぞ。感謝するがいい」
───────言葉がでなかった。
自分がのうのうと眠っていた間に桜とギルガメッシュ達は奮闘し、自分の為にここまでしてくれた。
ありがとう。今の自分にはこれしか言えない。いや、出来なかった。
どんなに言葉にしても足りない。けれど足りる言葉が見つからない。
ならせめて自分という物語が完結するまで自分という在り方を見せるしかない。それが岸波白野が彼等にできる最大の礼なのだから。
そして。
『あのー、いい加減主役を置いて話を進めるのはやめてくれませんかー?』
モニターに映った不機嫌に頬を膨らませる少々に向き直る。
その表情は自分の良く知った強情で、意地っ張りで、けれど誰よりも岸波白野という人間を想ってくれた大事な─────。
『おや? そこのセンパイさんは私の話を聞いてくれるのですね? よしよし、後輩の話を聞いてくれるセンパイは好きですよ』
…………え?
なんだ、この違和感は? 今の彼女の態度はまるで初対面の人に対するソレじゃないか?
自分とは何度も顔を合わせ、幾度となく戦った筈なのに……これではまるで。
「先輩、貴方の想像どおり。あれはBBであってBBではありません。彼女は分割して再構築したムーンセル(仮)の内部にあった僅かな彼女の残照を元に造った……」
「謂わば、模造品よな。故に、貴様の嘗てあの女に掛ける情は全く無意味だぞ」
突き付けられたギルガメッシュの言葉に、否応なく納得してしまう。
ああ、やはりと。
あの時消えゆく黒いコートの切れ端は幻ではなかったのだと。
もう二度と、彼女には会えないのだと。
なら、この喉まで出掛かった言葉は……もう、口に出すことはない。
だけど、せめて、これだけは言わせて欲しい。
「初めましてBB、また会えて嬉しいよ」
初対面の彼女と、消えた彼女に向けてこれからも宜しくとだけ告げ、踵を返す。
「あの、先輩。大丈夫ですか?」
桜の心配にもやはり余裕がないのだろう。泣きそうになる自身に喝入れ、出来る限り笑いかけながら大丈夫だと口にする。
けれど正直、今日は色々衝撃的過ぎる真実が多かった為、もう寝かせて欲しい。
それだけ告げて自分はエレベーターへ乗り込み、地上へと戻る。
その際、彼女の……BBの寂しげな微笑みに気付きもせずに。
「やれやれ、貴様も健気よな。ワザワザ記憶を無くしたフリまでしおって、そんなに奴のことを好いているのならいっそ組み伏せばよいものを」
白野が地上へ戻ったのを見送った後、ギルガメッシュは邪悪な笑みをモニターに映る少女に向ける。
『相変わらずいちいち癪に触る言い方をしますねぇ。貴方には関係ないでしょう』
「そうか。なら我が雑種と貴様のこれからの関係を肴に愉しむ事にしよう。貴様の道化っぷりに期待しているぞ?」
簡潔に、そして凄まじく嫌味な意味を込めて吐き出されたギルガメッシュの言葉にBBはその可愛らしい顔を歪ませる。
そんな彼女の表情すら、ギルガメッシュにとっては己を満たす愉悦に過ぎず、彼は終始笑みを浮かべたままエレベーターに乗り込みその場から姿を消す。
残されたのは桜とBB。ムーンセル(仮)を前に二人の少女は言葉を出さないまま数分の沈黙に入る。
そして、先に口火を切ったのは桜の方だった。
「BB、どうして貴女は先輩にあんな嘘を付いたの? ムーンセルに1最小単位にまで砕かれてもその想いまでは絶対に無くさなかった貴女が」
『何それ? 憐れみのつもり? これだから性格ブスはいやになるのよ。自分が肉体を得たくらいで調子に乗っちゃって私と貴女は同型のAIだったけど、その在り方は別物なのよ』
自分はお前とは違う。だから私には構うな。BBの言葉にはそんな拒絶の意味を込められていた。
しかし、と、桜は首を横にする。
「うぅん、ソレは違うわBB。私達は元々は同じ同型で同じ役を担った存在。……今は色々立場が違うけど、もう一つ私達には同じモノがあるわ。それは────」
『やめて』
言い切る前にBBが遮った。それ以上は言ってはだめだ。その先は自分には過ぎたるものだ。
だって、またその言葉を口にしたら……きっと、自分は耐えられない。ここにいることが耐えられなくなる。
『私は、ここでいいの。ここでならあの人を見つめていられる』
「BB……」
『さぁ、早く貴女も行きなさい。所詮私は路傍の石。気に止める価値もない存在なのだから』
BBは背を向ける事で突き放す。もう来るなと、もうその言葉を投げ掛けるなと。
だから、桜もこの場は諦める。エレベーターに向けて足を進め、その扉を潜る。
「……でも、忘れないでBB。あの人はきっと貴方を───」
それ以上の言葉は、BBの耳には届かなかった。
一人、ムーンセル(仮)の前に残された少女は暗闇の宙(ソラ)を見上げる。
『本当、リアルでも相変わらずなんですねぇセンパイは。お人好しで、バカで、無能で………』
けど。
“また会えて、嬉しいよ”
その言葉に、どれだけの意味が会ったのだろう。
その言葉に一体どれほどの気持ちが籠もっていたのか。
『ああでも、そんな貴方だから────』
彼女の呟き。それは誰に聞こえる事なく暗闇へと溶けていった。
いやもうホント、自分にはコレ位しか思いつきませんでした。
ご都合だらけで穴だらけな話ですが、楽しんで頂けたら幸いです。