それ往け白野君!   作:アゴン

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今回、キリの良いところで区切りましたのでかなり短めです。


この手を伸ばして…… 前編

 

 

 

 

 

 ─────女の話をしよう。

 

憎しみの中から、少女は生まれた。

 

妬みの中から、少女は造られた。

 

壊してしまえと、誰かが囁く。

 

消してしまえと、誰かが嘯く。

 

暗闇、暗黒、漆黒、少女を囲んでいるのは深い深い奈落の底。

 

涙など枯れる程に、声など掠れる程に。

 

いつしか少女にはそんなモノ(絶望)は当たり前のモノになっていた。

 

けれど、なに、心配する事はない。

 

 泥にまみれ、汚く、醜く……少女を救い出すのはいつだってそんな底無しの─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愚か者なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 巨大な魔力が海鳴市から観測されるのと街全体を結界が覆ったのは殆ど同じタイミングだった。

 

僅かでもタイミングがずれれば平穏だった街並みは氷漬けにされ、その有り様は地獄絵図へと化していただろう。

 

そんな大事を回避出来たのは、偏に八神家の騎士であるリインフォースのお手柄だろう。

 

彼女に付いてはリインフォースが一番熟知している。何せ永い時の間一緒にいた間柄なのだ。彼女の異常な状態に気付けたのはある意味必然とも言えた。

 

だが、これで問題が解決した訳ではない。寧ろこの後こそが彼女達に課せられた最大の問題。

 

「どうして……」

 

白の魔法少女である高町なのはは呟く。街の中心で渦巻く赤黒い巨大な魔力の渦、その更に奥にいる少女になのは疑問に思わずにはいられなかった。

 

「どうしてアナタがこんな事をするの!?」

 

それはこの数ヶ月、友達とも呼べる関係だった少女。大人しくも勤勉で、両親が経営しているお店でバイトとして働いている彼の後ろをいつもついて回る可愛らしい女の子。

 

 優しくて、偶に見せる笑顔が眩しい位に可憐で、彼といるといつも楽しそうにしている……そんな彼女が。

 

「ううぅぅぅぅ…………あぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁああ!!」

 

まるで、狂ったように叫びながら魔力をブチ撒ける。そんな彼女の姿がなのはにはとても信じられない光景だった。

 

「なのは! 危ないよ! もっと離れないと!」

 

「ユーノ君!? で、でも!」

 

少女に近付きつつあったなのはを割って入ってくるユーノが止めに入る。ユーノに僅かに抵抗するなのはだが、更にフェイトやアルフが合流してきた事で大人しくなる。

 

なのはを宥めながら後方に下がる。郊外にある公園にまでたどり着くとそこには八神家の守護騎士達だけでなくマテリアルズ………レヴィ達が一同に介していた。

 

「来ましたか。高町なのは」

 

「わ、私と同じ顔? えっと……どちら様?」

 

「私はシュテル=ザ=デストラクター。アナタをモチーフに闇の欠片から生まれ出たものです。気軽にシュテるんとでもお呼び下さい」

 

「シュテル、今はふざけている場合ではない。今がどれだけ危険な事態か分かっておるのか?」

 

真面目な表情で軽口を叩くシュテルになのはは面食らいそれをディアーチェが注意する。顔や外見は似ているのに全く違う性質にその場の全員が驚く。

 

だが、和んでいる場合ではない。今がどんな状況なのか把握できていないが、それでも現状が緊迫し切迫した状況の中である事には誰の目にも明らかだった。

 

「皆、来てくれたか」

 

そんな時、頭上から聞こえてきた声に全員の視線が向けられる。彼女たちの前に降り立ったのは管理局執務官クロノ=ハラオウンだった。

 

「クロノ、状況は今どうなっている? アースラの方で観測してたんだろ?」

 

ユーノの投げ掛けてきた問いかけにクロノは頷く。その表情から察するに状況は思わしくないのだろう。

 

「現在、魔力の渦は特異点を中心に今も急激な速度で増大中。アースラスタッフも総動員して観測し対応しているが……このままだと」

 

「このままだと?」

 

「─────最悪の場合、結界の強度が耐えられず。結界を突き破った魔力が……現実世界を侵蝕するだろう」

 

クロノの説明にその場にいる誰もが戦慄する。この結界を張ったのは夜天の管制人格プログラムであるリインフォースと結界を得意とする管理局魔導師達だ。その頑強さも当然だが“動きを抑制する”事に特化したこの結界が耐えられないと知らされるなのは達は驚愕の色は勿論、戦慄し、怯えの色もあった。

 

その出鱈目な魔力が現実世界を侵食する。そうなれば海鳴の街が今度こそ氷漬けにされてしまい……待ち受けているのは永劫閉ざされた死の世界。

 

それだけは断固阻止せねばならない。状況を正確に把握したなのは達は表情を険しくさせる。

 

「だが、対抗手段が無いわけではない。彼女がここに閉じ込めている間、僕達で何とか食い止める。そうなれば上の準備は完了次第任務は完遂される」

 

対抗手段がある。その言葉を聞いた瞬間全員の顔が先程よりも明るくなる。だが、クロノの説明に疑問を感じたフェイトが挙手をしながら彼に問う。

 

「クロノ、準備って何のこと?」

 

「…………」

 

「なんだ。急に黙ったりして、勿体ぶらずに話さぬか」

 

フェイトの問いを受けて途端に黙り込むクロノに、ディアーチェは苛立ちの声を上げる。何か問題があるのか、全員の疑惑の視線がクロノに集まっていく。

 

そんな時、堅く閉ざしていたクロノの口がゆっくり開かれると……。

 

「現在、魔力渦の中心点を観測しながらアルカンシェルの発射段階に移行している。僕達の役割はその間何としても彼女をこの場に食い止めなければならないんだ」

 

その言葉に誰かの息を呑む音が聞こえた。

 

“アルカンシェル”数キロ範囲に渡って空間ごと歪ませ消滅させるという大威力広範囲消滅魔法。その名の通り空間ごと消滅させるアースラの切り札である。

 

そんな代物を結界ごと消し飛ばす。クロノからのその言葉に一番先に反論に出たのはこの街で生まれ育った高町なのはだった。

 

「ま、待って! そんな事をしたら街はどうなっちゃうの!?」

 

「………強固な結界により最悪の展開は防げると思うが、多少は影響でるかもしれない」

 

淡々と応えるクロノになのは一瞬思考が怒りに染まる。この街は彼女にとって掛け替えのない大切な場所だ。

 

親友と呼べる人達がいる。大切な家族がいる。宝物と呼べる思い出が詰まっている。

 

そんな沢山の想いが詰まった街が壊れようとしている。その可能性を前にまだ幼い少女は何か方法はないかと模索するが……。

 

「なのは、君の気持ちは分かる。けれど仕方ないんだ。アレが解放されれば被害はこの街処か世界中に広がってしまう。そうなれば…………闇の書の悲劇の再来だ」

 

悲痛な面持ちでそう呟くクロノになのはは口ごもり街の中心に浮かんでいる紅い球体の物体に目を向ける。

 

 そこから発せられる魔力の渦は依然として収まる様子は見せず、それ処かますます勢いを増していく。このままではどんな大災害が引き起こされるか分かったものではない。

 

海鳴市は勿論この国、この世界が危機的状況を迎える。そうなれば多くの人達が悲劇に見舞われる事になってしまう。

 

迫られる選択肢。凡そ小学生には重すぎる選択を前に高町なのはの思考が冷たくなる。

 

どうすればいい。どれが一番正しい。混乱する思考の中、隣から呼び掛けるフェイトやはやての声が耳に届かなくなってしまっている。

 

そんな時だ。

 

「少し、待ってくれないかな」

 

ここ最近て聞き慣れた声が、高町なのはの耳に溶ける様に入ってきた。

 

誰もが振り返ると、そこにいたのは四体の英霊を引き連れた少年。

 

「この件、俺に任せてくれないか?」

 

岸波白野が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────分かっていた筈だ。自分が今更幸せになろうとするなんて、それがどれだけ浅ましいのかを。

 

 ─────知っていた筈だ。その考えかどれだけ愚かしいのかを。

 

悪意の中から私は生まれた。敵意の中に私は存在した。憎悪の中で私は自己を認識できた。

 

恐怖、絶望、憤怒、嫉妬、ありとあらゆる負こそが私の代名詞だった。

 

今更、叶うはずがない。……否、叶えては行けない。

 

悪意を育む事が私の意味。敵意を振りまくのが私の意義。憎しみを生み出すのが私の証明。悲劇を繰り返すのが私の使命。

 

だから、故に、それが………それだけが私の存在意義。

 

「ほぉら。早くしないと五月蠅い連中がきますわよぉ? 早く始めてくれませんかぁ?」

 

………言われずとも分かっている。

 

私は“負”だ。私は“破滅”だ。私は“呪い”だ。

 

そうなるように造られた。そうなるよう望まれた。

 

人に疎まれ、憎まれ、恐れられるのが私。ならば望み通りにしてやる。

 

壊してやる。潰してやる。消してやる。腐らせて燃やして微塵も残らず巻き込んで消滅してやる。

 

それが望まれた私の……私の!

 

──────『君を助けたい』

 

ふと、思考の狭間にそんな言葉が横切った。嗚呼、あれは一体誰の声で誰の言葉だったのだろう。

 

狂気に染まった私の今の思考にはそれが何なのかを思い出せない。ただ、とても暖かく、優しいものだったとしか……思い出せない。

 

だが、それも今はどうでもいい。私は“闇”だ。砕けず、滅びず、ただ破壊するだけの災いが具現化したモノ。

 

だから、そんな暖かさには私には不要だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、迎えに来たよ。ユーリ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして貴方は、そんな笑顔で私の前に現れるんですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────オマケ─────

 

「おい、そこの小娘」

「な、何だ?」

「貴様だな? 以前自らを王と名乗った雑種は? この我を差し置いて王と名乗るだなと随分命知らずがいたものだ」

「な、なにおう! 我は闇統べる王ことディアーチェぞ! 貴様こそ頭が高いではないか!」

「ふん、たかが闇を統べた程度で王を名乗るなど片腹痛い。我は天地全てを統べし絶対の王……英雄王ギルガメッシュぞ。娘、今なら頭を垂れれば慈悲をくれてやるぞ?」

「ぐ、ぐぬぬぬ!」

「が、頑張れ王様! 大丈夫、偉そうな態度では負けてないよ!」

「レヴィ、フォローになってません。ですが困りました」

 

「? 何が困るの?」

 

「あの二人を同時に喋らせれば時折どちらが誰か分かり辛くなります」

 

「「「あー………」」」

 

 




最近、クオリティが見るからに落ちてる気がする。

何とかせねば!

次回はもっと内容を書くつもりですので、もう暫くお待ち下さい。

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