─────少女達の話をしよう。
彼女達はいつだって暗闇の底にいた。
希望、絶望などありはしなく、あるのは永劫終わらぬ忘却の籠。
力に溺れ、理に縛られ、王の重圧に潰れていった絞りカス。
そんな彼女たちの救いは更なる破滅か
─────或いは失意の祝福か
「わ、我々のどこが変態だ!?」
自分の叫びに動揺したのか、大きな体格をした女性が僅かに頬を染めて異議を申し立てにくる。
いや、普通に変態でしょう。天下の往来でこんなピッチピチの恰好をした女性がいれば、誰だって自分のような反応をするはずだ。
“お前もっと際どい奴を知ってるだろ”というツッコミは聞かない。だってどれも卑猥な恰好してたけどそれ以上に自分の命が掛かっていてそれどころじゃなかったんだもの。
あ、でもBBの時は割と落ち着いて見えたな。え? なにがって? 知ってる癖に。
「これは私の趣味ではない! このスーツは我々の戦闘に耐えられるようドクターが性能優先で開発された特殊装甲だ! 決して卑猥な目的で着ている訳ではない!」
ガタいのいい女がまくし立てるが……正直さほど威圧感は感じない。
だってその恰好で装甲とか(笑)
そんなピチピチが装甲なら、脱げば脱ぐほど強くなる形態もあってもおかしくないかも。というか、そんな恥ずかしそうにしているなら上から何か羽織るなりすればいいのに。
「~~~!」
此方の指摘が的を射たのか、大女の顔は先程以上に顔を赤く染めて自分を睨みつけている。
「トーレ姉さま落ち着いて下さいまし、相手の話術の術中に嵌まっていますわよ」
すると、賑わいを感じ始めた空気に冷たく醒めた声が響き渡る。眼鏡を掛けた女、大女が言ったクアットロと呼ばれる女性が自分を一瞥しながら大女の側へ歩み寄っていく。
その刹那、クアットロと目があった瞬間、自分の背筋が言いし難い悪寒に襲われた。
冷たく、此方を見下すクアットロの視線は残虐性を孕んでおり、自分の中の直感があの女は危険だと警邏をならしている。
「……済まなかったクアットロ、少々取り乱した」
「いえいえ、私としては珍しい物を見れたから別に構いませんですわ」
ホホホと笑うクアットロに大女……トーレが一度だけ睨み付けるがクアットロ自身はどこ吹く風、飄々とした態度でその視線を避けている。
そんな彼女にやれやれと嘆息したトーレが据わった目で此方を見据え。
その眼光に、自分は内心で生まれ始めた自信が砕け散ったのを実感した。
自分はここ数ヶ月、アーチャーの厳しい特訓を受け、普通の人間よりは動けるようになってきたと自負している。
だが、それはあくまでも人間の範疇での話だ。どんなに体を鍛えた所で大勢の人間を相手に立ち回るなど出来る筈がない。
更に言えば、目の前の存在はそう言った常識を超えている。自身の直感が叫ぶ、あれはシグナム達と同じ人の身を超えた怪物なのだと。
ならば、人の身である自分が太刀打ち出来る筈がない!
最早彼女はからかいやすい大女ではない。裏の……その道を知ったとんでもなく腕の立つ手合い。そんな相手を前に自分に出来る手段はただ一つ。
三十六計逃げるが勝ち。
そうと決まった瞬間、自分の行動は早かった。貧弱な魔力回路を総動員させ、肉体の強化へと回すと女の子を抱えて自分は一目散に逃げ出した。
「あらあら、脇目も振らずに逃げ出すなんて見た目以上に臆病な方なのね」
「それは違うぞクアットロ、あれは状況を冷静に分析した結果だ。自分の技量を察し、その上で結論を出した。……私は彼を臆病とは思えんよ」
後ろで何か言っているが今はそれ所じゃない。早いところ此処から離れ、セイバー達が自分の異変に感づいて駆け付け来るまで逃げ切るか、人混みの中へ逃げ込むしかない。
どちらにせよ今頼れるのは自分の足のみ、幸いアーチャーの特訓のお陰で、女の子一人抱えて走っても大丈夫な程度には体力が付いている。
一度背後に振り返り、様子を伺う。今自分が走るのは砂浜から離れた道路。あと僅かで市街地に入れるという所まで近づいている。
……二人はいない。もしかして本当にまけたのか?
そんな短絡的な事を考えながら携帯の画面を覗き込む。……良かった。どうやら結界の類に囲まれた訳ではなかったようだ。
画面に映る三本のアンテナでその事を確認すると、自分は携帯画面を動かしてあるアプリを起動させようとする……。
が、画面には依然としてインストール中という文字があるだけ、桜の話では後五分程で完了するようだが、今はそんな僅かな時間すらとてつもなく長く感じる。
仕方ない。やはりここはセイバー達に救援を頼もう。本当なら人混みに紛れてより安全を確保してから連絡したかったが、そんな悠長な事も言っていられない。
携帯画面を弄り、登録された人物、より確実に且つ迅速に駆け付けてくれるだろうアーチャーに連絡を入れようとする─────
「ほう、存外遠くまで逃げたものだな。一般人としては中々だ。─────だが」
瞬間、左肩から肉の抉れる音が耳朶に響いた。
──────っ!!
衝撃が、自身の体を襲う。吹き飛ばされながらも抱えた女の子を放り出さないよう、体の内に押し込めるように抱き込み、自分の体をクッション代わりに庇う。
二、三度程地面をバウンドし、地面を転がった所で漸く勢いは止まり、自分は目の前の舞い上がる砂塵の向こうへと睨みつける。
ソコから現れる人影、トーレの姿に自分は驚きを露わにした。
アレは……羽、だろうか? 彼女の手足────四肢から昆虫の羽のようなものがそれぞれ二つずつ展開されている。
「我がライドインパルスからは逃れる術はない」
キチキチと羽の蠢く音が 此方まで聞こえくる。まるで本当に虫みたいだと何処か楽観的な事を考えてしまう。
だが、あれはそんな生易しいものじゃない。あれが彼女の言う技能なら、アレはなにも移動に特化した代物じゃない。驚異なのは爆発的に加速させる能力と、それに見合った切れ味だ。
差し詰め、音速を超えた速さで斬撃を叩き込む。彼女の力はその一点に集約されているのではないだろうか。
「………驚いたな。まさかただの一度で私の攻撃とその能力について看破するとは────成る程、お前の真の能力はその目か……だがこれで分かっただろう。私がその気になれば、お前は今の一撃で音速の衝撃で微塵となっていた。──────最後の通告だ。その少女を離し、此方に投降せよ」
トーレから言い渡される事実上の最後警告。これを断れば自分は即座にあの羽の刃に切り刻まれる事だろう。いや、彼女のライドインパルスなるものが発動した瞬間、音速の壁に叩き付けられて今度こそ粉々になるだろう。
なのはちゃんのような鉄壁の魔力障壁を張れたりできればまだ可能性はあったのだが。
……視線を、女の子に向ける。容態が芳しくないのか、女の子は時折苦しそうに声を呻き声を上げている。何とかしてやりたいがそれをして上げるだけの力も技量も、今の自分にはない。
「何を迷う。元々はその娘とお前は何の関わりもない存在の筈だ。ここでそいつを見放した所で、誰も責めはしまい」
そう、その通りだ。自分はこの娘とはなんの関わりもない……それこそ、名前すら知らない赤の他人だ。
そんな彼女の為に命を張る理由も義理も、自分には関係ない。だから─────
この娘を差し出してしまおう。
─────なんて事を考えるよりも先に、この躰は前へと押し進んでいた。
「──────なに?」
自分の行動に驚いたのか、トーレは呆れも混じった驚きの声を上げている。
確かにこの娘と自分にはなんの関わりもない。それこそ先程言われたように見捨てて逃げるという選択もあった。
けれど、聞いてしまった。彼女の苦しそうな息遣いを、鼓動を、生きようとする意志を。
だから動いた。頭で考えるよりも先に自分の意志が彼女の意志に呼応した。
たとえ逃げることが叶わなくても、ここで見放すという選択肢は岸波白野の中に最初から存在していなかった。
だから走る。この命を消さないよう、無力だと知りながら走る。
けれど、それが許さないのも事実であり……現実である。
「……そうか、それが貴様の答えか」
ゾクリ。その呟きに背筋に悪寒が走る。
一瞬だけ振り返れば先程よりも冷たく、まるで機械のような無機質な殺意が自分に向けられていた。
暗殺者。トーレと呼ばれる長身の女からはそんな名称が思い浮かび。
「さよならだ。せめて、静かに逝くといい」
気が付くと、目の前に羽の刃が迫っていた。
瞬きしたその刹那の間に距離が縮められた事に驚きながらも、自分はここで終わりなのかと半分他人事のように思えて……。
振り上げられた刃、それを避けることも出来ず、ぼんやりと眺めていると。
「やらせ……ないぞ!」
腕の中から聞こえてきた声と共に、円型の障壁が羽の刃を受け止めていた。
「なんだと?」
今までよりも大きめの声で驚く暗殺者。自分の想定外の出来事にトーレは警戒を兼ねて一度距離を開ける。
彼女も驚いているだろうがそれ以上に驚愕しているのは自分自身だ。なにせ先程まで呼吸もままならなかった少女がその手にひび割れた斧を片手に暗殺者に向けて突き出しているのだから。
「……驚いたな。まだそんな力が残されていたとは」
「うるさい! ズルい奴! よくも僕達が万全じゃなかった状態に襲いかかってきたな!」
腕の中で暴れる女の子。目を覚ましたのはいいがこれでは抱えて走るのは難しくなった。仕方ないので地面に降ろすと、彼女は此方に目もくれず憤慨した様子でトーレに喰って掛かる。
「その方がドクターの命令が遂行しやすかったのでな。私としては不本意だったが……それで、どうする? 意識を取り戻した所でもう一度私と戦うか?」
「当たり前だ! 僕はサイキョーなんだ! お前なんかに負けるもんか!」
……うん、なんというか元気な子だな。どこかAHOな感じのする子だが……悪い子には見えないな。
というか戦うつもりか? 無理だ。言動からは元気そうに見えているがそれは興奮した状態による一時的な錯覚に過ぎない。一度でも交戦すれば忽ち体力はなくなり、またボロボロにされてしまう。
いや、ボロボロにされるのらまだマシだ。あの暗殺者は本物の殺人者だ。相手の弱点は突かないという温く、甘い算段は取らない。
だが、この少女は全くその事が頭に入っていない。今まで抱えていた自分にすら気付いていないのだ。止めることは困難に近いだろう。
どうする? どうすればいい。この状況を打破する一手、もしくはそれに近い可能性は!
一刻も許されない状況の中、岸波白野はその思考だけを加速させる。状況の確認、女の子の生存可能性、自分達に於ける一分後の未来。
確定した最悪の結果を変える。それは小規模ながらも運命の変更を意味している。そんな事、一介の人間にどうこう出来る筈が────。
“ピロリロリン”
刹那、心地よいインストール完了の合図が耳に届く。そう言えばと半ば反射の域でポケットから携帯を取り出すと。
そこには──────
《礼装召喚アプリのダウンロードを完了しました》
見つけた。逆転の一手。
◇
ナンバーズ、数ある戦闘機人の中から戦闘部門の一人であるトーレは確信していた。
この一撃で全てが終わる。この腕を振り下ろせば悪足掻きしていた少女を討ち取り、任務は完了となる。
後は目撃者の抹消。個人的にあの少年の今後が気になる所だが、自分達はドクターの為に存在するモノ、いかなる残虐行為だろうと率先して行うのが我が存在理由。
向こうは興奮した状態だ。それはどこか虫が死の間際で見せるもがきに見える。
さぁ、これで終わらせよう。そう思いトーレは先程同様防御の上から少女を斬り潰そうとする──────が。
「な、に!?」
その一瞬の攻防に驚愕する。今の一撃は少女を防御ごと斬り伏せるには十分な力を有していた。
だというのに、何故斬り込んだ自分の方が力負けし、吹き飛んでいるのだ!?
不可解な現象、あり得ない結果。だが、変わらない事実が目の前に起きている。
「あ、あれ? 僕こんなに力強かったかな?」
戸惑っているのは少女自身も同じだった。確かに万全の自分なら目の前の暗殺者に遅れを取ることもなかったし、こうして危機的状況的にもならなかった。
けれど、それでも、そんな“万全な状態よりも力が強い”というこの状態は一体どういうことか。
混乱に陥る二人、その疑問に答えられるのはただ一人。
「“錆び付いた古刀”。発動確認」
鈍い光沢を放つ古びた刀を持った少年だけであった。
友人の薦めでシンフォギアなるものを鑑賞しました。
うん、面白いww
ひとまず一期を通して見たら何でも聖遺物とか出てきてますね。
ハバキリとかガングニールとか。
……いけるかな?(ナニが?
それと、以前の候補についてですが、やはりロボットものとは相性悪そうなので、期待して下さった皆様には大変申し訳ありませんがギアスは候補から除外させて戴きます。
本当に申し訳ありません。
マジ恋いとかダメかなぁ。大和と白野の軍師対決とか……誰か書いてくれないかなぁ(チラ