それ往け白野君!   作:アゴン

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今回、割とグダグダです。


なのはGOD篇
ピチピチの恰好が似合うのは何歳まで?


 

 

 12月に起こった事件通称“闇の書事件”、巻き込まれたり首突っ込んだりしたり斬られたり、色々災難だったり自業自得な思いをしてその事件はなのはちゃん達やウチのサーヴァント達の活躍により、無事幕を降ろした。

 

そんな波乱のクリスマスから数ヶ月が経過し季節は春、出会いと別れの季節となっていた。

 

そんな春麗らかな日、自分こと岸波白野とはと言うと。

 

「そら、動きが単調になってきているぞ! 相手の動きを注意深く観察し、速やかに行動に移せ!」

 

 普段通り鬼教官から有り難い地獄の指導を受けている最中であります。あの事件があってからアーチャーの特訓には更に熱が入り、此方が壊れないよう絶妙な力加減で自分の身体能力の向上を促している。

 

まぁ、闇の書事件ではあまり活躍出来なかったし、一時的に人質のような立場にもなった事があるから彼の熱の入りようも分からない事もないんだけどね。

 

自分としてもいい加減お荷物になるのは御免だし、強くなれるならそれはそれで本望だ。だからアーチャーの指導にも耐えられるが。

 

「ほう、私を前にして考え事とは余程余裕があると見える。ならば、もう少しギアを上げるとするか」

 

 お願いだから少しは加減して下さいお願いします。最初は組み手か基礎鍛錬かのどちらかずつだったのに今はその両方をやらされている始末。

 

しかもなまじこなしてしまうのだからアーチャーは日に日に鍛錬の錬度を上げていくのだから、マジ体の限界を超えそうです。

 

けど、目の前の鬼教官は自分に対しそんな加減などするはずもなく。

 

「手の振りが甘い! 相手のカウンターの餌食になりたいか!」

 

「─────っ!」

 

彼の手に持つ二振りの短刀が自分の防御代わりに重ねる短刀に叩き込まれ、自分は床に叩きつけられる。

 

強制的に肺から酸素を吐き出され、一瞬だけ呼吸が停止させられた自分は咳込みながら何とか立ち上がろうとするが……ダメだ。体が言うことを利かない。

 

「ふむ、今日はここまでにしておこう。この後は君もバイトだ。遅れないよう気を付けろよ。それと、クールダウンはしっかりやるように」

 

 今日の鍛錬の終了を意味する台詞を言われ、自分はヘロヘロになりながら何とか返事をする。

 

あの五キロの短刀を振り回して早30分。既に腕はプルプルと震え自分の体を支えるのはキツい状態になっている。

 

仕方なく床にペタンと腰を下ろし、呼吸を整える事に集中していると………。

 

「相変わらずキツそうな訓練してるわね。英霊相手に稽古しているとか、アナタ一体どこに向かっているのよ」

 

 背後から聞こえてくる聞き慣れた声、その人物が誰なのか確信しながらも自分は振り返る。ヘトヘトになって返事も出来ないが、取り敢えず笑顔で返して歓迎の意を示す。

 

「あーもー、無理して笑わなくていいの、そんな死人みたいな顔したら夢に出てきそうだわ」

 

辛辣な凛の言葉に涙を流し掛けたがグッと堪える。いや、疲れてそんな余裕なんてないんだけどね。

 

 何度か深呼吸を繰り返す内に呼吸は整え、動けるようにまで回復した自分はふらつきながら壁に掛かったタオルを取り、滝の如く流れる汗を一気に拭う。

 

「にしてもここのマンションには呆れたわ。豪華な部屋だけじゃなくプールやゲーセンといった娯楽付きだし、もうちょっとしたレジャー施設よね。なんでこんな大施設があるのに周りの人間は何も言わないのよ」

 

凛の当然の質問に自分は苦笑いしか返せない。まぁ、こんな巨大マンションがいきなりあったら周りの人間は黙っちゃいないよね。

 

けれど、この世界にはそんな理不尽も罷り通る万能手段がある。それは………ぶっちゃけお金です。

 

だって英雄王と皇帝という暴君ズがいるんだもの、仕方ないよね。

 

黄金律というふざけたスキル。しかもそれを持つのが二人もいるとなれば相当な資金が貯まっている筈、そう思い自分は以前ここの拠点にどれだけの資金があるのかと二人に聞いたら─────0が13個付いた辺りから数えてないそうです。

 

ここに国家予算並のお金がどこかに隠されてあるのは……凛には黙っておこう。そして自分もここの拠点についての資金については一切触れない事にした。

 

お金とは恐ろしい。下手したら聖杯以上に人を狂わせる魔性の呪いを秘めている。

 

本来なら自分なんぞ働いたところで殆ど意味はないのだが……流石に彼等ばかりに負担させる訳にはいかない。というかヒモな生活はホント勘弁願いたい。

 

自分の小遣いくらいは自分で稼ぐ。そうしなければこの岸波白野の大事な何かが崩れ落ちてしまいかねないからだ。それに、それがいやだからアーチャーもバイトに出掛けてるし、キャスターも家政婦紛いの事をしている。

 

「ふーん、アンタも大変なのね」

 

所々此方の呟きが聞こえたのか、凛は呆れと哀れみの視線を此方に向けてくる。……というか凛、そもそもなんで君がここに? はやてちゃんは?

 

「今更の質問ねソレ、はやては病院で最後の検査よ。その間暇だから以前から気になっていたアンタの特訓を見に来たって訳。理解した?」

 

 凛のその言葉にそう言えばと納得する。闇の書の呪縛から解放されたはやてちゃんは担当医の石田先生も驚くほどに回復し、懸命のリハビリの下、今は補助付きの杖があれば一人で図書館に行けるほどだ。

 

まぁ、実際一人で外出する事はなかったんだけどね。外に出る時は守護騎士の皆が必ずついて回るし、仮に騎士達皆が付いていけなくてもなのはちゃん達が既にはやてちゃんの隣をキープしているし、何より凛が一人で外出するのを許さない。

 

以前翠屋に来たとき「皆過保護過ぎやー」とボソリ自分に愚痴った事を覚えている。

 

「ったく、アイツってば隙あらば一人でどこかに行こうとするんだからこっちは気が気でないっての」

 

腕を組んで不機嫌を露わにする凛に思わず笑みが零れる。まるで心配性のお姉さんだなと呟くとそれが聞こえたのか凛の鋭い眼光が此方を射抜く。

 

「言っておくけど白野、あの子の放浪癖は間違い無くアンタの所為よ」

 

は? 何故に?

 

「アンタって自分が思った事はすぐ行動に移そうとするじゃない。あんたが闇の書に閉じ込められた時、アンタのそう言う所、あの子に移ったのよきっと」

 

…………さらりと人を病原菌扱いするこの人に対し、自分は怒ってもいいと思う。

 

というか、勝手に人を放浪癖のある人間にしないで貰いたい。自分はただ間違っていると思った事に対して素直に受け入れられないでいるだけだ。……まぁ、見方によっては子供の駄々にも見えなくもないが。

 

「アンタの言う悪足掻きが駄々なら、他の人間の我が侭はどうなるのよ。根性で聖剣を出すような人間とそれこそ一緒にしないで欲しいわ」

 

何て呆れられながらそんな事を言う凛に、自分は少し納得いかない気持ちで壁に掛かったタオルで汗を拭う。

 

凛とそんなやり取りをしていると、出入り口の扉が開かれ、桜とユーリが中へ入ってくる。

 

走り寄ってくるユーリに転ばないでねと気を付けるよう促し、自分も彼女の下へ歩み寄ってくる。金色の髪を揺らしながら駆け寄ってくるユーリの手には柄のないペットボトルが握られており。

 

「ハクノ、飲み物持ってきました」

 

ユーリは両手に握り締めてソレを差し出してきた。

 

ありがとうと礼を言いながら頭を撫でてやるとユーリも嫌がった素振りを見せず素直に受け入れてくれる。

 

「あーあ、すっかり仲良くなっちゃって。こりゃ兄妹というより親子ね」

 

「そうなんですよ。ユーリちゃんてば最近いつにもまして先輩に懐いてるんですよ」

 

 此方を細めで見つめてくる凛と苦笑いを浮かべている桜をスルーしながらユーリから渡された飲み物を煽る。

 

桜は自分に対してああ言っているが、桜や他の面子に対してもユーリは懐いてきたと思う。家事や料理の手伝いをする場合はアーチャーやキャスターと一緒にいる時があるし、セイバーともよくじゃれ合っているのも見かけている。ギルガメッシュの後ろをチョコチョコ付いていく所を見ているのでユーリは意外とここの住人と一緒にいるのが多いのではないか?

 

ユーリの寝る部屋だって桜と同じ部屋だし、……うん。普通に順応してきてるよね。善いことだけどさ。

 

「………ははぁん」

 

────何ですか凛さん。その人の弱点を見つけたような良い笑顔は。

 

「べぇつにぃ? そっかー、白野君寂しいんだー。そっかそっか、ユーリ、パパ寂しいんだって、慰めてあげなさいよ」

 

 おいコラそこの拝金主義者、なに人を勝手にお父さん認定してやがりますか? 自分はまだ二十歳にもなっていない未成年ですよ。父親ならどちらかといえばアーチャー……いや、彼はどちらかと言えばオカン気質だったな。

 

なんて事を考えているとユーリはジッと自分の方へ視線を向けて……。

 

「──────パパ?」

 

ドクンッと、一瞬だけ鼓動が高鳴った。……む、むぅ、まさかこの年で父親と呼ばれる日が来ようとは………バイトの帰りにお土産でも買って来ようかな?

 

「せ、先輩がお父さんならおおおおお母さんは一体誰なんですかね? ここはやっぱり私───」

 

「ちょっと待ったぁぁぁっ! あっぶねー、危うく正妻の座が奪われる所だったー。ちょっと桜さん? 私が認めたアナタの座は愛人までです。側室が正室に迎えられる大奥ならよくある展開は視聴者が認めてもこのタマモが許しません!」

 

うん。予想はしてたけどやっぱりきたなキャスター。いつも思うけど君の耳は一体どうなっているのかな?

 

「いやん。いけませんご主人様。それは乙女のヒ・ミ・ツ♪ 決して開かれてはいけないパンドラの箱なのです」

 

成る程。つまり開けたら絶望が真っ先に襲いかかるんですね分かります。主に尻に敷かれる的な意味で。

 

「ほらー、ユーリ。余を母と呼ぶが良いぞ。そなたのような可愛らしい童女が娘とあれば余も嬉しい。さぁ、遠慮する事はないぞ」

 

「ちょい待てそこの淫蕩皇帝。いつの間にそしてどこから湧いて出て来やがった?」

 

「ヌ? 何を言っておる。お主と一緒に来たではないか。決して気配遮断のスキルは使ってないぞ」

 

「サラリとアサシンの得意スキルを真似るとか皇帝特権マジぱねぇー! え? てゆーか皇帝特権ってそう言うものでしたっけ?」

 

「細かい事はよいのだ! 余が言うから間違いないのだ!」

 

 向こうでセイバーとキャスターが言い合いをBGMとして聞き流しながら、自分はそう言えばとギルガメッシュとの会話を思い出す。

 

このドリンク、確かギルガメッシュも少し咬んでいるような話をしていたような気がする。……確か、自身の宝をどうのこうのとか。

 

その後セイバーの乱入で聞き逃し、それ以降闇の書事件などで聞く機会はなかったのだが……結局、このドリンクは一体なんなのだろうか?

 

まぁ、毒物という訳でもないしコレを飲めば忽ち疲労が回復するから別に気にしないけどね。

 

「ちょっと白野君。ノンビリしてないであの二人止めてよ。ユーリの取り合いが始まってるわよ」

 

「離すのだキャスター! ユーリが痛がってるではないか!」

 

「そっちこそいい加減手を離しなさい! ユーリちゃんはタマモがそだてるんです! きっと将来はハリウッドで女優街道まっしぐらなんです!」

 

「あぅあぅあぅ~~………」

 

「ゆ、ユーリちゃんしっかりー!」

 

 いつの間にか始まっていたユーリ争奪戦。涙目でオロオロしている桜の静止も聞かず、火花を散らしている二人に溜め息を吐きながら自分も止めるように彼女たちの下へ歩み寄る。

 

相変わらず変わらない日々、岸波家は今日も平和です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、疲労を回復した自分はバイト先の翠屋へと出勤し、バタバタと慌ただしくもそのバイトも無事に終わった。

 

今は桃子さんから戴いた賄いのシュークリームを頬張りながら今日も一日働いたと内心自画自賛しながら暗くなった夜道を歩き、帰路に付いている。

 

バイトもあれから数ヶ月経過し、仕事の内容にも慣れ、今では雑務とホールの仕事、その全てを完璧にこなすほどに成長している。

 

しかもその後時間が許す限り桃子さんから直々の指導を受け、ケーキ等の菓子作りを教えて貰っていたりしている為、今の自分はちょっとしたケーキなら作れる程度の腕にはなっている。

 

 流石に店に出せるほどの腕前ではないが、それでも作ったケーキはなのはちゃん達に美味しいと食べて貰っている。

 

お世辞でも美味しいと言ってくれればそれだけ作る人間もやる気を出すと言うもの。……何となく、人に世話を焼くアーチャーの気持ちが分かった気がする。

 

シグナムやヴィータちゃんも結構頻繁にお店に顔を出しにきてくるし、ランサーに至ってはほぼ毎日顔見せに来ている。

 

何でもここで働かせてもらえないかと士郎さんに掛け合っているみたいだけど……悪いがエリザベート、それは自分が許さない。

 

君の心算は図れないが、もし翠屋で自分の料理を出したいというのなら、全身全霊でもって阻止させて貰う。

 

あの悲劇は繰り返させてはいけない。あんな地獄を体験するのは自分だけで十分だ。故に、休憩時に士郎さんからランサーについて聞かれた時は触り程度、且つ真摯に止めて置けと忠告しておいた。

 

 相変わらず騒々しい毎日だが、その分一日一日がとても充実している。

 

「……なんだか年寄り臭いな。俺まだ十代なのに」

 

なんて事を口にしながら、海沿いの街道を歩く。海に反射した星々の光が綺麗だなと感傷に浸りながら歩いていると……。

 

─────波打ち際に倒れる一人の女の子を見つけた。

 

「─────!」

 

そして、それを確認した瞬間、自分は彼女の下に駆け寄り、その冷えた体を抱き上げた。

 

冷たい。海水で濡れた彼女の体は生命特有の暖かさが感じられない。急いで病院に知らせようと携帯を出す────

 

「フェイト……ちゃん?」

 

その直前、青い髪をした自分のよく知る少女と同じ外見の彼女に、思わず名前を口にする。

 

夜空のように深い青の色をした髪、自分の知った娘はユーリと同じ金色だったが……それにしても似ている。

 

おっと、呆然としている場合じゃなかった。この子の素性はどうあれ、ここで寝かせて置くわけにもいかない。改めて携帯にダイヤルを押し、病院に連絡して緊急車両の手配をして貰おうとする─────

 

「余計な事をしないでくれないかしら?」

 

 瞬間、背後から聞こえてきた声に振り返りながら距離を取った。

 

月夜に照らされ、現れたのは眼鏡を掛けた三つ編みの女性と……

 

「クアットロ。何故貴様が前に出ている。原住民との接触は控えろと言われた筈だ」

 

「あん、トーレ姉さまそんな怒らないで下さいまし、それに見られても減らしてしまえば結果的に目撃者は0ですわ」

 

男勝りの屈強な女性が自分の前に立ちはだかっていた。

 

………この明確なまでの殺気、初めて会った時のシグナム達を思い出す。

 

これは不味い。それもかなり。

 

たとえここで争っても次の瞬間自分は殺される。そもそも、仮に戦えたとしてもまだ“あのアプリ”はまだインストールされていない。

 

いや、実際あと数分ちょいで完了するが、それでもその時まで自分が生きていられる保証はない。ましてや、この子を守りながらなんて……とても。

 

絶体絶命の窮地、二人の暗殺者を前に自分に出来ること、──────それは。

 

「………へ、」

 

「「?」」

 

「変態だーーーーーー!?」

 

取り敢えず、叫んでみました。

 

だってピチピチしてるんだもの、仕方ないよね。

 

 




次回、主人公が遂にアレを使います。

その対象は?

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