それ往け白野君!   作:アゴン

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多くは言いません。ただ一言。

これが人のやることかよぉぉぉぉぉっ!!




SFTその3 万象織り成す星

「……何ですって?」

 

 次元航空艦の艦長であるリンディ=ハラオウンは僅かばかり声を低くして、目の前のモニターに映る少女に問いを投げかける。

 

 モニターに映る少女、その豊満というレベルを明らかに超越したバストに最初こそは言葉を失ったが今は画面から少し離れ、その全貌は明らかになっている。

 

その正体は一言で言い表すならば─────痴女だった。

 

薄紫色の長い髪、体格の割に童顔な顔つきそして、その巨大な肉塊とも呼べる乳袋にはサスペンダーらしきものしか備え付けられていなかった。

 

………目の前の少女に羞恥心という概念は存在しないのか。男性局員なら前屈みする事間違いなしの彼女の姿にリンディは呆れながら溜息をこぼす。

 

 今更ながらだが、この通信は艦長であるリンディにしか聞こえてはいないし見えてもいない。未だオペレーターからの状況報告は聞こえてくるし、エイミィだってこの会話記録に気付いてすらいない。

 

幾ら秘匿通信だからといって映像は兎も角、音声すらも気付かれないというのはおかしな話だ、

 

だが、向こうは一度アースラを瞬く間に掌握した手練れのハッカーだ。誰にも気付かれずに個別に通信を送るなど造作もないのだろう。

 

 すると、此方の言葉に痴じょ……もとい、少女は困った様に表情を歪めると。

 

『え、えっと、あの人からの伝言で「この度の件は此方で始末を付けるから、そちらは下手な介入せず大人しくしていなさい」です。今度はちゃんと聞こえましたよね』

 

聞き間違えではなかった。────傲慢とも呼べる伝言の内容にリンディは眉間に皺を寄せ、お使いが出来て安心したようにホッとする少女に僅かな敵意を乗せて見据える。

 

“この度の件”……それは間違いなく今も尚続いている闇の書事件の事だろう。

 

あの魔導書は全次元を通じて死と滅びを振りまく文字通りの“魔”導書だ。それを放っておくのはリンディの職業柄にも、そして────私情的にも看過する事は出来ない。

 

故に、彼女は否定する。

 

「それは出来ないわ。今現在に於いて私達には闇の書を消滅させるという任務が下されています。あなた方がどんなに優秀な魔導師であろうとも、見過ごす訳にはいきません」

 

そう、目の前の少女の言葉を鵜呑みにする程彼女が今いる席は軽くはない。現場の様子が確認できない以上、現場を指示する自分たちが冷静に判断・決断を行わなければならない。

 

誤った判断で間違った決断をすればそれこそ被害は倍に広がり、多くの人命が失われる事になる。

 

加えて闇の書は幾度と無く転生を繰り返し、その被害を広げていった特一級の危険指定遺物だ。ここで確実に仕留めなければまたもや闇の書を逃がす事になり、その度に起こる被害は止める事は出来なくなるだろう。

 

だから、リンディは少女の言葉に耳を貸すつもりはなかった。このまま通信を切り、クロノと連絡を取ろう電子コンソールに触れようとするが。

 

「………何か、勘違いをしてませんか? 私、別にお願いをしに来た訳じゃないんですけど?」

 

────ゾクリ。先程までの落ち着きのない態度から一変。画面越しからでも伝わる少女の殺意に、リンディはその行動の全てを停止させられる。

 

まるで自分の心臓を鷲掴みされているような────そんな錯覚。

 

いや、それは錯覚などではない。冷静に考えれば分かる事だった。

 

目の前の少女は以前アースラを乗っ取った少女と同格、であるならばその時と同様にまたこのアースラが掌握されるのは自明の理に等しい。

 

まだアースラはシステムを復旧させて間もない。対策の一つも講じていない今、再び艦を掌握されればアースラは二度と此方の手には戻らない。

 

そうなればアースラのコントロールは勿論、アルカンシェルですら好き勝手に撃たれてしまう。その時の被害予測は……想像すらしたくない。

 

『あの、一応言っておきますけど、これは不当な命令じゃないですよ? 最初に手を出してきたのは貴方達ですから』

 

その言葉にリンディは眉を寄せてどういう事なのかと思案し、すぐに心当たりに見当がついた。

 

それは我が息子にしてアースラの戦力、クロノ=ハラオウンの事で間違いないだろう。

 

事情があったとは言え、クロノの行動は勝手な憶測によって引き起こされたモノ。もしBBと名乗る少女がエイミィから聞いた通りの人物なら、その話を聞いた瞬間に問答無用でアースラを墜としていた事だろう。

 

こうして使いを寄越して命令してくるだけでも、彼女からすれば多分な恩情を与えているつもりなのだろう。

 

というか。

 

(やはり、彼女達と岸波白野とは繋がっているのね)

 

 クロノの報告を思い出してリンディは目の前の少女を見つめながら思案する。

 

一端とは言え、アースラは現管理局の技術を詰め込んだ次元屈指の艦。それを一分も掛からずに掌握する彼女達の電脳能力は……最早、ロストロギア級でも一線を画す存在なのだろう。

 

そして、そんな彼女達の母体とも呼べるモノが、あの座標に表れている。

 

そして、そんな彼女達をあの若い少年が支配している事実。

 

────恐ろしい。下手をすれば彼の勢力だけで世界を支配できる力を持つ事実に、リンディは今更ながら恐怖を抱いていた。

 

 クロノは此方から下手な干渉や戦闘行為を仕掛けない限り向こうは極力関わってこないと言っていた。事実、それは正しいのだろう。

 

岸波白野という人物は時空管理局の事は勿論、この世界の魔導というものを本気で知らなかったようだし、無闇矢鱈に誰彼構わず戦いを挑む人間ではない。寧ろ極力争い事は避けるような─────それこそ、どこにでもいる一人の少年だ。

 

だが、それ故に恐ろしい。そんな世界すら左右する力持つのが唯の少年だと言うなら。

 

彼の気紛れ一つ、感情一つで世界が崩壊しかねないからだ。────だが、そこまで考えるだけの自由は今の彼女にはない。

 

『あの、いい加減早く決めてくれませんか? 私、この後やる事があるので……』

 

返事の催促する少女の問いにリンディは決断する。自分は艦を任された一人の艦長……ならば、自ずとその答えは──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白い卵の球体から彼女達は生まれた。新たな夜天の主となった八神はやては騎士の甲冑とも魔導師の法衣にも似た服を身に纏っていた。

 

白と黒、そして金が入り混じった装飾は陸地にいる自分にすら分かるように彼女を夜天の主に足る厳かな雰囲気を醸し出している。

 

……ただまぁ、彼女自身が外見と中身も幼いから背伸びした子供という感じがするのは否めないが。

 

「ヴィータちゃん!」

 

「シグナム!」

 

 今まではやてちゃんの登場に呆然としていたなのはちゃんとフェイトちゃんが、それぞれライバルらしき人物の名前を呼んで海の向こうへ飛んでいく。

 

フェイトちゃんの方にはオレンジ色の髪と尻尾、そして狗っぽい耳を生やした少女が後を追っている。……狼男の次は狼女?

 

と、そんな事を考えている内になのはちゃん達ははやてちゃん達と再会し、それぞれ嬉しそうに話し合っている。

 

 何だかんだありながら彼女達も守護騎士達の事が気になっていたのだろう。喜びの表情を隠しもせず語り合っている彼女達を見て、何となくそう思っていると。

 

「え、えっと、岸波白野さん……ですよね?」

 

背後から聞こえてきた声に振り返ると、どこか民族衣装らしき格好をした少年がたどたどしい態度で自分に尋ねてきた。

 

「あ、うん。岸波白野ってのは俺の事だけど?」

 

 一体自分に何の用だろう?

 

「そ、その、なのはから大体の経緯は聞いています。今回の闇の書事件に巻き込まれたとか。この度は本当に色々申し訳ありませんでした。あ、僕はユーノ=スクライアと言います」

 

 ユーノと名乗る少年にご丁寧にどうもと会釈し、気にしていないから別にいいと付け加える。

 

最初こそ巻き込まれた形だったけれど、最終的には自分から首を突っ込んだのだ。此方から謝る事はあってもその逆はないと思う。

 

というか、ユーノ君も管理局の一員なのだろうか? その口振りからはそのように聞こえてくるが……。

 

「あ、はい。一応民間の協力者として管理局に身を置いています。岸波さんは……その、魔導師なんですか?」

 

遠巻きに何者だと聞かれているような気がするけど……まぁ、考え過ぎか。大体普通の人間が結界に入れるモノでもないみたいだし、別段隠す程でもないけど。

 

「いや、正確には魔導師ではなく魔術師だよ。と言っても腕は半人前以下だけどね」

 

「魔術師? 魔導師じゃないんですか?」

 

魔術師という単語に聞き慣れていないのか、自分の説明に首を傾げてくるユーノ君にそうだよと返す。

 

あ、あとそっちのツインテールの彼女も魔術師だよ。

 

「あ、そうなんですか?」

 

「ちょっと、魔術師ってのは否定しないけど……白野君、貴方警戒心の配慮が薄いわよ。一応私達魔術師は秘匿しなきゃならない存在なんだから」

 

え? そうなの?

 

「そうなのって……はぁ、まぁいいわ。アンタの間抜けっぷりは今に始まった事じゃないからいいとして────あれ、どうするの?」

 

 何だか色々呆れられているが取り敢えずスルーして凛の言うアレに視線を向ける。

 

未だ海の上で胎動している黒い球体。相変わらず嫌な空気をまき散らしているし、自分としても何とか手を貸したい所だけど……。

 

─────無理じゃね? そう遠くない距離でも海の上に陣取られてしまったら此方から打って出る事なんて出来やしない。

 

セイバーも宝具を使って体力的にも辛そうだし、キャスターやアーチャーの術なら届きはしそうだけど決定打には火力が足りなさそう。

 

「白野君は? 貴方が持っていた聖剣を使えば威力的にも問題なさそうだと思うけど?」

 

確かに、騎士王の聖剣を使えばダメージは通りそうだけど……無理だと思う。

 

さっきから全身に力を込めてはいるが聖剣のせの字も出てこない。多分打ち止めなんだと思う。

 

そもそも騎士王だからこそ使うことが許される聖剣だというのに、凡人たる自分がそうホイホイ使われるのはどんな懐の深い王様でも癪に障るだろう。

 

闇の書の内部から脱出する際に二発も、しかも連続して放ったものだから打ち止めにもなる。

 

「いや、普通の凡人は気合いだけで聖剣だせないから。……けど打てないなら仕方ないわね。やっぱりここはアナタのアーチャーに期待するほかないか」

 

「私を呼んだかね。凛」

 

 凛の言葉が終わるに合わせて頭上のビルから飛び降り、高台にいたはずのアーチャーが合流する。

 

 お疲れ様アーチャー。何か変わった事はなかった?

 

「君達が戦っていた最中、私は安全圏にいたのだよ? その上身の安全の心配までされてはサーヴァントの面目が丸潰れだ。まぁ、子守をさせられた事には些か反論したいがな」

 

と、ややご不満そうに背中におぶった少女をおろし、アーチャーはやや愚痴を漏らす。

 

そんな彼に済まんと軽く謝罪をし、彼の後ろに隠れている少女をのぞき込む。

 

や、怪我はしてないかい?

 

「……………」

 

地面にまで金色の髪を伸ばしている彼女……システムUーDは一度自分に視線を向けると、今度はアーチャーから自分へテテテと歩み寄りヒシッと腰に抱きついてきた。

 

「白野君、どうしたのそのチンマイの? まさかロリコンに目覚めたの?」

 

「ご主人様~、いつの間にフラグを建てたのですか~? 詳しい事情が聞きたいのでちょっとそこでO☆HA☆NA☆SHIしません?」

 

 しないし怖いから笑顔で詰め寄らないでくれないだろうか? 恐ろしい程のいい笑顔を振りまく凛とキャスターから離れる。

 

その一方でセイバーは頬を膨らませて明らかに拗ねているし、アーチャーはヤレヤレと肩を竦めている。

 

状況は未だ改善されていないのにイマイチ緊張感が足りない気がする。

 

どうしたものかと自分も困った時。

 

『みんな、聞いて欲しい事がある』

 

ユーノ君の眼前にモニターらしき画面が展開し、そこに先日会ったクロノ君が以前にも増して真剣な面持ちで映っていた。

 

『今回闇の書の暴走体との戦闘を想定して準備されてきた“アルカンシェル”だが……整備不良の為使用出来なくなった』

 

「なっ!?」

 

 クロノ君からの通達が余程ショックなのか、ユーノ君は目が飛び出そうな程に目を見開いて驚きを露わにしている。

 

隣にいる凛にアルカンシェルって何? と聞くが「私が知るわけないでしょ」と一蹴されてしまった。

 

ユーノ君の慌て振りを見れば相当不味い事なのは何となく理解できる。

 

『だから暴走体のコアが露出した後も何らかの手段でコアを破壊して欲しい。コアを壊さない限り、暴走体の再生は止まらないから……』

 

淡々と事実を語るクロノ君。そんな彼の言葉にユーノはどうしたモノかと頭を悩ませ、うーんと唸っている。

 

海の方へ見ればなのはちゃん達もユーノ君と同様、困ったような仕草で頭を悩ませていた。

 

 暴走体。あの黒い球体に眠る中身が正しくそう呼ばれるのなら、やはり、あの闇の書の中に眠る“負”が暴れ出すということ……ならはやくケリを付けなければ。

 

セイバーによって幕を降ろした第一幕、なし崩し的に始まったグダグダの第二幕など、早急に終わらせてみせなければ、それこそここまで頑張ってきた皆の力が無駄になる。

 

だが、事態は更に加速し─────。

 

「■■■■■■■■■■■■■!!」

 

黒い球体は弾け、中からおぞましい程に狂気の叫びを上げる怪物が産声を上げた。

 

瞬間、オレンジ色の輪が暴走体の動きを止め、白い楔が暴走体の肉体を突き刺しながら動きを止めていく。

 

「うわ! 始まっちゃった! そ、それじゃあ皆さんもお気を付けて!」

 

ユーノ君はそれだけを言うと、慌てながらなのはちゃん達の所へ飛び立っていく。

 

残された自分達はと言えば、なのはちゃん達と暴走体によるド派手な魔法戦を眺めているだけしか出来ないでいた。

 

凛も自分達に出来ることはないと悟り、地面に座り事の顛末を見届けようとしている。

 

「で、どうするかねマスター。私がここから援護射撃をするという一応の手段があるが………正直、あまり好ましくないぞ」

 

 アーチャーの提案と問いに自分は自然と頷いた。確かにアーチャーの狙撃なら充分届く範囲だし、障壁も偽・螺旋剣を使えば突破出来なくもないだろう。

 

………だが、此方の攻撃に反応して反撃してくる自動砲台にも見える攻撃手段が、あの暴走体にある以上、迂闊に攻め込めない。

 

なのはちゃん達の様に自在に空を飛ぶ手段がない以上、ここからの攻撃は全て悪手になりかねない。

 

もう一度聖剣を出そうと気合いを全身に込めているが………うん、やっぱ駄目だ。

 

コアを破壊出来ない以上、暴走体を完全に消滅させるのは不可能。今はなのはちゃん達が頑張っているが……無限に再生し続ける暴走体相手では何れ力尽きてしまう。

 

どうにかならないものか、傍観者になりつつも自分は頭を捻らせて考え込んでいると。

 

「やれやれ、なんとも度し難い。汚物となり、妄念となり果てても人間というものはこうも縋り付くものなのか」

 

────ギルガメッシュ?

 

 呆れたと言わんばかりの口調に振り返れば、黄金の王はその口端に深い笑みを造り、かと思えば今度は慈しみとも言える眼差しで暴走体を眺めていた。

 

「白野よ。あの中にいた貴様ならば分かるだろう。あそこで暴れている汚物が、一体何で造られているのか」

 

問いを含んだ口振りでギルガメッシュは自分を見つめてくる。─────そう、ギルガメッシュの言うとおり岸波白野はあの醜くなりながら叫んでいるモノの正体が理解できる。

 

あれは闇の書に取り込まれた自分がいた世界。即ち、人々の“願い”でもあり“夢”だ。

 

闇の書という絶大な力を持ってしまった魔導書に、人々は一時その魔導書が願望器か何かの様に捉え、求め、使い、そして────消えていった。

 

アレはその夢に敗れ、願いに食いつぶされてきた人々の怨念が詰まっている。まだ足りないと、まだ寄越せと、ただの欲望となった今でもアレは救いを求めさまよっている。

 

だが、彼等を裁く資格など自分は持ち合わせていない。聖杯戦争で多くのマスターの願いを踏みにじった自分は勿論、他人の夢、願い、希望を壊す権利などどこの誰にも許されはしない。

 

────故に、その資格があるとすれば。

 

「然り。その責はこの我、英雄王ギルガメッシュが飲み干す定めよ。岸波白野、我がマスターよ。さぁ、命じるがいい。月での我が言葉、忘れたとは言わせんぞ」

 

まるで此方の反応を愉しんでいるような口振りに、自分もまた口端を吊り上げる。

 

『今生の合間、我の蔵を好きに使うことを特に許す! さぁ、見せてやろうではないか我がマスター!』

 

あぁ、忘れるものかよ英雄王。さぁ、自分達に見せてくれ。お前の……総ての英雄の王たる所以を!

 

「当然だ。では、往くとするか」

 

そう言うとギルガメッシュは足下に黄金の帆船ヴィマーナを顕現させ、自分を隣に乗せると暴走体に向けて飛び立っていく。

 

それを終始眺めていた凛達は……。

 

「うわー、あの慢心王にあそこまで言わせるとか、ご主人様のカリスマ性は底なしじゃね?」

 

「むむ~! 狡いぞ金ピカ! 余も奏者とランデブーしたいぞ!」

 

「あの英雄王が………実際聞くまで信じられなかったが─────マスター、恐ろしい子!」

 

「意外と余裕ね、アンタ達」

 

 などと、それぞれ羨ましがったり驚いたり、呆れたりしながらも、彼等の様子を見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

「ああっ! クソ、また再生しやがった!」

 

「これで二十数回、やはりコアを破壊しない限り暴走体は消えないのか」

 

 暴走体と交戦し幾度目かの再生。繰り返される攻防になのは達魔導師メンバーはその体力をジワジワと削られつつあった。

 

まだ数も質も此方が勝っているとは言え、体力までは無限じゃない。アルカンシェルという有力な戦力が期待出来ない今、こうなる事は必然だったのかもしれない。

 

「くっ! せめてアルカンシェルが使用可能になるまで持ちこたえてくれ!」

 

 クロノは飛び交う共闘仲間達にそう呼びかけ、一時の士気を底上げする。

 

だが、それは見込みは薄いと口にしたクロノ自身がそう確信している。

 

あれはクロノが現場に到着する数分前、異界化した結界内に突入しようとした矢先、アースラから入電が入った。

 

“アルカンシェルは整備不良の為に使用不可。現戦力で以て対処せよ”

 

 たった二行にも満たない通告文にクロノは絶句する。有り得ない。この大事な局面でアルカンシェルが使えないとはどういう事だ。

 

すぐさま艦長に連絡を繋げようとするが、異界に潜入した為か通信は繋がらず、仕方なくクロノはなのは達を指揮して暴走体の撃破に否応無しに専念する事になった。

 

(だけど、あまりにもおかし過ぎる。あの母さんがここ大一番にこんな無謀な命令を下す筈がない)

 

 母であるリンディ=ハラオウンは息子であるクロノが良く理解している。リンディは己の利権の為だけに他者を巻き込む愚者ではないし、部下やその友人達を無意味に秤に掛ける人物では断じてない。

 

では、一体どうして? そんな考えを抱いた瞬間、クロノの中である回答が導き出される。

 

(まさか、また例の少女が!?)

 

「きゃぁぁぁぁっ!!」

 

「っ!?」

 

 思考の海に沈み掛けた意識が知り合いの叫びによって引き上がらせる。見れば白い法衣を身に纏う少女が、暴走体の触手に拘束されているではないか。

 

「なのはっ! くっ!」

 

助けに行こうとするが、それをさせまいと暴走体の放つどす黒い魔力の光がフェイト達をを阻む。

 

「アカン! リイン、お願い!」

 

『御意!』

 

 友達を助け出そうと、はやてはリインフォースの助力を得ながら石化の銀月の槍を触手に向けて放つ。

 

確かに槍は暴走体の触手を射抜き、周辺を石化させていくが、暴走体の回復速度が石化の速さを上回り、触手はよりおぞましい形となってなのはに迫る。

 

「なのはぁぁぁぁっ!!」

 

フェイトの叫び声も虚しく、触手は口を開き、補食しようと牙を向けた─────。

 

瞬間。

 

「………え?」

 

天から降り注ぐ武具の雨が、なのはを縛り上げていた触手を悉く破壊した。

 

一瞬呆けてしまうが、我を取り戻したなのはすぐさま退避し、フェイトの側まで飛んでいった。

 

「あ、あの。今のは一体なんなの?」

 

疑問の言葉を口にするなのはだが、誰もその質問には応えない。────何故なら。

 

クロノやはやて、シグナム達やフェイト………そして、暴走体すら空に浮かぶ黄金の帆船に目を奪われていたのだから──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人の夢とは、焦がれれば焦がれるほどに歪み、壊れ、崩れていく。────雑種よ。何故だか分かるか?」

 

 隣で玉座に座る王の問い。目の前で暴れる暴走体を前に愛おしそうに見つめる英雄王の横顔を一瞥し、自分の中にある答えをそのまま口にする。

 

「やっぱり、儚いからか?」

 

「ふん、月並みな言葉だが……まぁ間違いではない。身の程知らずの願いや夢に焦がれるがあまり、夢や願いそのものに食いつぶされる。あれは────その末路よ、言い方を変えればアレはある意味では人の結晶よ。欲望にまみれ、破滅に染まり、死と滅びを振り撒く……何とも度し難く、おぞましく、それでいて─────」

 

愛しいものよ。

 

最後の呟き、その呟きにどれほどの意味が込められているのか……今の自分ではまだ分からない。

 

ただ、一つはっきりしていることは────。

 

「故に、その人の業。裁定者であるこの我が裁いてやろう」

 

 神々が生み出した裁定者にして人類の楔だった王が、今宵、この時限りその役目を果たすという事だ。

 

「■■■■■■■■■■!!」

 

暴走体が近付いてくる帆船に向けて極光の光を放つ。が、英雄王の進軍に何か感じる所があるのか、破滅を孕んだ光は悉く外れ、海面だけを穿いていく。

 

「人の塊よ。知っているか?」

 

英雄王の手元に黄金の波紋が揺らめき、一本の剣が彼の手に握り締められていた。

 

「人の夢は儚く、いずれ────醒めるものなのだと」

 

 それは、剣と呼ぶには剰りにも奇怪な形をしていた。円柱状の刀身、その形は一見突撃槍にも見えるソレ。

 

その剣に銘は無い。この乖離剣を彼は『エア』と呼ぶ。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

 暴走体が叫ぶ。威嚇するように、悲鳴のように、────まるで、赦しを乞うかのように。

 

英雄王は帆船の先端に立つと、エアを床に突き刺し、その力を解放させる。

 

瞬間。世界は崩れ始める。

 

「ちょ、ちょっと何だよこれ!?」

 

「な、なんかもの凄くヤバいかも………」

 

ギルガメッシュの放つ禍々しくも神々しい光を前に、異常を察知したなのはちゃん達が次々とその場から離脱していく。

 

それを知ってか知らずか、ギルガメッシュは淡々と唱える。根源の………否、原初の言霊を。

 

「原初を語る。────元素は混ざり、固まる。万象織り成す星を生む!!」

 

世界が崩れ、逆転し、流転し、反転し、やがて────世界は一時の暗雲に呑み込まれる。

 

そして次の瞬間、暗雲が晴れ、暴走体が目にしたのは──────。

 

「ふ──────ハハハハハハハハハ!! さぁ、死に物狂いで耐えよ、雑念!!」

 

無限に広がる……開闢の宇宙だった。

 

それは、悪夢。………否、違う。

 

原初の地獄。神話の再世。世界の破界。

 

三つの銀河を足蹴に、黄金の英雄王は高らかに謳う。

 

「死して拝せよ。『天地乖離す─────開闢の星』(エヌマ・エリシュ)!!」

 

王が裁定を下し、エアを突きつける。それが合図となり、三つの銀河は織り成し、暴走体に向けて放たれて往く。

 

ソレを前にしたとき暴走体は─────。

 

「────────────」

 

叫ぶ事も、反撃する事もせず、ただ銀河の渦に呑み込まれていった。

 

その刹那。

 

『──────ありがとう』

 

その言葉は────一体、誰の呟きだったのだろう。

 

渦に呑み込まれ、消え行く今、それを確かめる術は……永遠にない。

 

 そして英雄王の放つ乖離剣は、暴走体をコア毎消滅させ、異界となった世界を─────切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 




ランサー「さぁ、DDの食卓の始まりよー!」

弓「この料理作ったの誰だー!?」

金ピカ「バカな、我の計測器(スカウター)でも計りきれんだと!?」

白野「別に、アレを完食しても構わんのだろう?」

桜「もう止めて! 先輩のライフはとっくにゼロですよ!」

凛「目を逸らしちゃだめよ。これがあの子の生き様なの!」

白野「この岸波白野を落としたくば、アレの三倍は持ってこい!」


次回『饗宴の宴』







はい。嘘予告です。

まぁ、思いっきりはっちゃけるのはCCCだから仕方ないとあきらめて下さい。

お、俺は悪くぬぇー!





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