それ往け白野君!   作:アゴン

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……今回の話を読むに当たって皆さんに一言。

イジメ、格好悪い。



SFTその1 黄金劇場

────物事に始まりがあるように、どの事象には必ず終わりが在る。

 

それが悲劇的に終わるのか、それとも喜劇的に終わるのかは定かではないが……少なくとも、今回の物語はそのどちらでもないだろう。

 

何故なら────

 

「さて、つい勢いで出てきてしまったのだが───雑種よ、この場合貴様はどう攻める? 我達全員で蹂躙するか、それとも相手に合わせて一人ずつ相手してやるか……」

 

「戦略的に言わせて貰えば、私は数にモノを言わせて攻めるべきだと進言させて貰おう。時間も限られているだろうし、向こうは様々な魔力を取り込んだ怪物だ。先手を取られる前に一気に仕留めるべきだと思うがね」

 

「タマモ的にはどっちでも構いませんけどー、敢えて言わせて貰えばー、徹底的にグチャグチャにしたいです♪」

 

「そうなった場合、無論余が先陣を切らせて貰うぞ! 折角の幕上げなのだ。派手にいかねばな!」

 

このハチャメチャな陣営に、悲劇喜劇など存在しない。あるのは劇的なまでの幕引きのみである。

 

 そんな彼等……四人のサーヴァント達を前に自然と頬が弛む。嗚呼、やはり彼等の存在はこの上なく心強い。

 

相手が悠久の時を転生しながら生きてきた呪われた魔導書だというのに、そんな危機感は全くと言って良いほど感じない。

 

「白野君!」

 

 ふと、自分を呼ぶ声に振り返る。その目は不安や怯えではなく、期待に満ち溢れた確信を得たモノだった。

 

「頼んだわよ!」

 

「任せろ」

 

その言葉に振り返らずサムズアップで応える。彼女から託された事により、自分の躯に一層に力が沸き上がっていく。

 

「あ、あの! 私も……」

 

「ここから先はアイツ等の領分よ。子リスも怪我をしてるんだから無理しないの」

 

 ボロボロになった躯を引きずりながら立とうとするなのはちゃん。そんな彼女をランサーが優しく押さえ込む。

 

そんななのはちゃんにも大丈夫だと凛が言い聞かせ、なのはちゃんのことは彼女達に任せて自分はやるべき事の為に闇の書の管制プログラムと向かい合う。

 

「何故だ。何故お前は我が闇から逃れる事が出来た? しかも『砕け得ぬ闇』まで連れ出して……何故そうまでしてお前は!」

 

「はっ! お笑いだな闇の徒よ。貴様はこやつが何者か分からぬままこの男を取り込んだのか?」

 

「生憎、ウチのマスターの諦めの悪さは天下一品でな。お前程度の闇など幾度もぶつかり打ち勝ってきた」

 

「まぁ、ぶっちゃけて言えば主人公補正のなせる技なんですけどね。流石ご主人様、私達に出来ない事を平然とやってのける。そこに痺れる憧れるぅっ! ……って、あれ? なんかサラッとフラグっぽいものも建てませんでした?」

 

「いずれは余の婿になる男なのだからその程度は出来て当然! うむ! 故に全く心配してはおらんかったぞ!」

 

管制プログラムの問いに四人はそれぞれ鼻で笑いながら即答する。というかキャスターよ、さっきから君は何を言ってるのかな? フラグとか……。

 

っと、今はそれ所じゃない。頭を抱えて表情を歪めている彼女を前に自分は気を引き締めて見上げる。

 

「さぁ、お仕置きの時間だ。管制プログラム、その駄々っ子ぶりもここまでだ!」

 

主に躾るのはウチのサーヴァント達ですけどね! とは決して口には出さない。

 

 すると此方の挑発にノったのか、管制プログラムはその身を小刻みに奮わせ。

 

「うぅぅ……うぁぁぁぁぁっ!!」

 

断末魔にも似た叫びを上げながら、周囲に数発の魔力弾を纏わせ突進してきた。

 

「セイバー!」

 

「うむ!」

 

自分の言葉に合わせ、セイバーは管制プログラムに向かって跳躍する。

 

ぶつかり合う白と黒、セイバーの突き出た刃の切っ先は管制プログラムの強固な障壁により阻まれている。

 

そして此方を狙い澄ませていたかのように管制プログラムが、その身に纏っていた魔力弾数発が自分目掛けて放たれてきた。

 

あわや直撃かと思われたその攻撃、しかし──。

 

「黒天洞、私の主戦力です」

 

 彼女の神具である鏡が障壁となり魔力弾を取り込む様に吸い込んでいく。そしてそれに合わせて……。

 

「そら、返しますわ。密天よ、唸れ」

 

一点に絞り、練り込まれた風の一撃が管制プログラムを襲い、障壁諸共吹き飛ばす。

 

 よほど障壁が破られたのがショックだったのか、管制プログラムの表情はみるみる青ざめていく。

 

「そんな、私の障壁が……こんな、容易く!?」

 

「残念ながら、私は魔導師でもなければ魔術師でもありません。人を呪い、縛る呪術。あなた方の使う術とはその根本から異なっていますのよ」

 

「くっ!」

 

後方に吹き飛ばされ、転がりながらも体勢を整える管制プログラムは眼光を鋭くさせて凄みを利かせる。

 

─────が。

 

「よそ見をしている暇があるのか? 雑念」

 

「っ!?」

 

頭上から聞こえてくる声に彼女は顔を上に向ける。

 

視界に飛び込んできたのは天を覆う無数の武具。そしてその中央の黄金の帆船には黄金に輝く英雄王が座しており………。

 

「そら、無様に足掻いて見せよ。それが我の肴になる」

 

 全ての宝具、その原典たる武具が文字通り雨となって降り注がれる。

 

「ぐ、うぉぉぉぉっ!!」

 

が、それをむざむざ受ける程管制プログラムは甘くはなかった。最大限に展開された障壁で以てギルガメッシュの宝具の嵐を受け止めるが───。

 

「その程度の壁で、我が財を受け止めるか? 図に乗るなよ雑念!」

 

 ギルガメッシュは蔵に繋がる扉である空間の波紋の波を広げ、更なる物量で管制プログラムをその障壁ごと押し潰す。

 

幾重にも重なって降り注がれる武具、その一つ一つが絶大な威力を誇る為に彼女の張った障壁はやがて罅が入り、亀裂となって広がっていく。

 

「ぐ、こ、この……この、程度、で!」

 

 屈しかけていた膝が遂に地面へとぶつかる。だが、管制プログラムはその無尽蔵の魔力で亀裂の入った障壁を更に頑強に塗り固めていく。

 

そんな彼女を見て、ギルガメッシュは呆れた様に鼻で笑い、頬杖の姿勢から立ち上がり蔵から一本の槍を取り出す。

 

その握られた槍は眩い程の雷鳴を鳴り散らし、さながら雷槍と呼ぶに相応しい代物だった。

 

そんな雷槍をギルガメッシュは天に掲げ……。

 

「中々頑張るではないか、……では、これならどうだ? インドラの火、その身に受けて耐えて見せよ!」

 

管制プログラムに向けて投擲、迸る雷槍を障壁で受けた瞬間─────。

 

ビル群を巻き込んでの大爆発、周囲を消し炭にしていく閃光に管制プログラムは呑み込まれていった。

 

そんな光景を前に……。

 

「うわぁ、これは酷い」

 

「何だろう。壮大な戦いの筈なのにどこか小学生並のイジメに見えるのはどうしてかしら?」

 

「…………」

 

 背後から聞こえてくる凛とランサーのドン引きの声。なのはちゃんに至っては一方的にやられている管制プログラムを見て絶句し、なにやらやるせない笑みを浮かべている。

 

すると蔓延する爆炎の中、全身がボロボロになった管制プログラムが煙の中から飛び出し、空へと逃げていく。

 

地上戦では不利だと悟ったのだろう。彼女はギルガメッシュよりも高い位置で滞空していると、その手に膨大な魔力の塊を収束させて此方に狙いを定めている。

 

このままこの街ごと吹き飛ばすつもりなのか、管制プログラムの手には巨大な魔力の塊が顕現し。

 

「沈めぇぇぇっ!!」

 

 拳を握り、魔力の塊を殴りつけようとした───その瞬間。

 

“赤原を往け、緋の猟犬”

 

横から飛び出た一本の槍が、巨大な球体となった魔力の塊を射抜き───暴発。

 

「あ、ぐぁぁぁぁああっ!?」

 

 収束は完了し、いざ放とうとした所からの横槍。集めた魔力が膨大なだけにたった一本の矢が流れをかき乱し、暴発へと誘発させた。

 

一体誰が、どこから邪魔したのか、恐らく彼女自身が一番混乱しているのだろう。何故なら────。

 

凡そ、数キロは離れているだろう高台の上に弓を携えたアーチャーが随時彼女を狙っているのだから。

 

「バカな、あんな遠くから収束魔法の一番脆い境い目を射抜いたというのか!?」

 

 驚愕を露わにしている管制プログラム。アーチャーの絶技……いや、神業とも呼べる技巧は正直自分も驚いている。

 

伊達に“アーチャー”のクラスを名乗っているだけに飛び抜けた技量を持つ彼に、益々頼もしく感じる。

 

これで、彼女にも此方の布陣が把握出来た事だろう。力業で迎え撃つセイバー、搦め手や多彩な術で援護、または補佐をするキャスター、上空から圧倒的物量で攻めるギルガメッシュ、そして後方から如何なる距離、如何なる角度から狙い撃つアーチャー。

 

彼等の持つそれぞれの特性を自分なりに考え、即興で思い付いた布陣だが今は巧い具合に噛み合っている。

 

 ……うん、言いたいことは分かる。余りにも旨く機能したこの布陣は本来個人を相手にするものではない。

 

多対戦を想定しての布陣、それがたった一人を相手に機能しているのだから色んな意味で酷い。

 

まぁ、その、イジメっぽくなってしまっているのが岸波白野に僅かな躊躇いを見せている。

 

基本的に常に危機を味わっている自分としても、違和感を感じずにはいられない。

 

「……鬼ね、アナタ」

 

 凛から冷ややかな視線を感じるが無視する。うん、分かってる。分かってるからそのジト目は止めて欲しい。

 

自分の中にある良心がガリガリと悲鳴を上げているのだから!

 

 と、そんな事を考えていた時だった。

 

「負け……られない。私には、まだ為さねばならない事が……!」

 

地面に落ち、明らかにダメージを受けていた管制プログラムが震えながら立ち上がる姿を見て、自分はやっぱりとどこか納得していた。

 

 彼女もまた駄々っ子だ。けれどただの駄々っ子じゃない。自分の為ではなく、誰かの為に戦っている。

 

たとえ間違ったやり方だとしても、彼女達は手放したく無かったのだろう。

 

八神はやてという心の拠り所を。

 

それが叶わなくてもはやての願いだけでも聞き入れてあげたい。あの管制プログラムはその願いの為だけに全てを捧げているのだ。

 

身も、心も、魂すらも……。

 

そんな彼女を、ただ力だけで折るのは難しい。それこそ、内側からこじ開けない限り……。

 

「悲しいな、闇の書よ」

 

───セイバー?

 

いつの間にか布陣を解いて、彼女は一見無防備な姿で管制プログラムへと歩み寄っていく。

 

「主の為に全てを投げ打つ、それがたとえ己の為であったとしても……その決して報われぬ在り方に余は少し感動した。永遠という時間の中で漸く出会えた心の揺りかご、壊してしまうのは些か惜しい」

 

 一歩、また一歩とセイバーは彼女との距離を縮めていく。

 

その光景に誰も口出しはしない。キャスターもギルガメッシュも、そしてアーチャーも無防備で近付いていくセイバーに何も言わないでいる。

 

 ……何となく分かる気がする。セイバーが口にしているのは嫌みでもなければ皮肉でもない。ただ一人の主に対して己が全てを捧げる騎士に対しての───心からの賛美だった。

 

間違っていても、彼女達の在り方は美しいと、ローマの暴君たる少女は語る。

 

「────だが、その在り方は主だけでなく周りの人間すら不幸にする。それは最早情熱の炎ではない。全てを呑み込む泥そのものだ。故に!」

 

轟っ! 彼女の覇気が突風となり、辺りの散乱した木々を凪ぎ飛ばしていく。

 

「そなたに、本物の情熱というものを教えてやろうではないか!」

 

高々と告げる宣言と共に、セイバーの衣装は変化していく。そう、嘗て表側で共に戦った彼女のトレードマークたる“真紅”に。

 

「往くぞマスター! 宝具を解放する!」

 

その叫びに自分も応っ! と力を込めて返答する。

 

「私の、全ては……主の為に!」

 

 そこへ魔導書の力を借りて傷を癒した管制プログラムが、雄叫びを上げながらセイバーに突っ込んでいく。

 

それをセイバーは穏やかな表情で愛しそうに見つめ───。

 

どこからともなく、一輪の薔薇を取り出し。それを宙へ放り投げると、セイバーも管制プログラムに向かって飛び出していく。

 

 

『我が才を見よ! 万雷の喝采を聞け! インペリウムの誉れをここに!』

 

その謡は、嘗て至高の贅と財によって彼女が築き上げた劇場。数々の逸話を元に生み出されたそれは、アーチャーの持つ固有結界と似て非なる大魔術。

 

『咲き誇る華の如く……開け! 黄金の劇場よ!!』

 

オリンピア・プラウデーレ。『招き蕩う黄金劇場』。暴君による独唱の幕が───斬撃による一閃と共に開かれる。

 

 

 

 




えー、今回は区切りのあるところで終わってしまったので、かなり短いです。

………5000文字にも満たないとか、ホントナメてるな自分。

次回はもう少し中身のある文にするよう頑張りますので、宜しくお願いします。

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