それ往け白野君!   作:アゴン

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人のデートを邪魔する奴は、ヤンデレに刺されて地獄に堕ちる。

 

 

 

 数時間前、次元航空巡艦船『アースラ』内。

 

現在不在しているアースラ艦長の代理を務める黒衣の少年、クロノ=ハラオウンが艦長席に座り、モニター画面越しに映る眼鏡の少女に向けて会話を交わしていた。

 

「………それで、なのはのレイジングハートとフェイトのバルディッシュは?」

 

『もうじき完成予定。カートリッジシステムも滞りなく組み込めたし、破損部分も修復したから、後は二人が此方に来るのを待つばかりだね』

 

 少女の言葉にクロノは「そうか」と簡潔に返す。

 

『それで、クロノ執務官。エイミィの様子は……?』

 

「今は医務室で眠っている。命に別状はないし、両手の怪我もじき回復するだろう」

 

 少女の問いにやはりクロノは簡潔に返す。その淡泊な返事に誤解される人間が多いが、少年は別に感情に乏しい訳ではない。

 

人並みに怒りはするし、悲しむ。ただそれは今ではないと己を律し、任務に真摯に挑んでいるからである。

 

幼い内に執務官という肩書きを持ち、責任と使命感を持つが為、その冷たい態度にも見える少年の対応は彼なりの処世術の表れでもあった。

 

それを理解している為、モニターに映る少女はクロノを冷血な人間等とは思わない。寧ろ自分よりも幼いのによくそこまで己を自制出来るものだと関心している。

 

優秀な母の代理で、その肩に掛かる重圧は重いだろうに。

 

「明日辺りには二人もそちらに向かうだろう。その時は宜しく頼む」

 

『それは勿論ですよ。折角寝る間を惜しんでここまで来たんですから、最後の調整も抜け目なく終わらせますよ』

 

「頼んだ」

 

 その会話を最後に、モニターの映像は切り替わり、別の映像がクロノの前に映し出されている。

 

映像に映し出される幾つもの画像。その中に浮かぶ一冊の本が映っている映像に、クロノの心中がザワリと騒ぎ出す。

 

(闇の書。10年前に父さんを殺し、母さんを悲しませた元凶……)

 

 思い返すのは葬儀で必死に泣くのを堪える母の姿。父を失い、幼い内に死というモノを理解した自分も確かに辛くもあり一心不乱に泣きたくなった。

 

けれど、現場に居合わせながら父を見殺しにするしかない母の気持ちを思えば、耐えられない事ではなかった。

 

父は失った。しかし、そのお陰で母や当時現場に居合わせていた管理局員達が救われた。

 

父の行いは正しいのか、間違っていたのかは分からない。けれどそんな父に憧れ、誇りに思えたからこそ今の自分がここにいる。

 

だから、復讐なんて感情はなかった。この闇の書を前にあるのは運命めいた皮肉とあんな悲劇は二度と起こさせない使命感のみ。

 

………まぁ、全く微塵もないと言えば嘘になるが。

 

「と、それよりも今はこっちだな」

 

 自分の心情に一通りの整理を終えたクロノは次の映像を映し出す。

 

それは闇の書の守護騎士達と争う赤い服の男と黄金の男、そして純白の花嫁衣装に似た格好をした少女の姿だった。

 

三人とも、それぞれ独特な出で立ちでその戦い方も様々だ。

 

赤い男の戦略性、花嫁衣装の女剣士の剣裁き、黄金の男はその戦い方からしてデタラメの一言に尽きる。

 

そして、そんな彼等の側を常にいるのが……。

 

「この青年、という事か。彼等の仲間である以上ただ者ではないと思うが………」

 

 クロノの目が一人の青年の姿を捉える。

 

それは一見すればなんて事はない、ただの一般人に見えるが……それでは済ませない唯ならぬ気配を、クロノは画像越しに感じていた。

 

根拠はとある戦闘映像、監視用として街中にばら撒いたサーチャーに映っていたモノ。

 

黄金の男が取り出した飛行船。そこにしがみつきながら青年は何やら叫んでいるのが見えた。

 

 隠密性能を高める為に音声機能は付けられなかったが、この場から見る限りでは黄金の男に指示を飛ばしている様に見える。

 

そして、クロノのそんな考えは見事に的中する事になる。

 

 青年が叫んだ直後、男は一振りの剣を取り出して目の前の何もない空間を斬る。すると緑色の糸が弾け飛んだ瞬間が見え、その瞬間同時に上から奇襲してくる騎士を弾き飛ばし、以降は圧倒的な展開が暫く続いた。

 

 三人の騎士達を相手に圧倒する。確かに黄金の男の戦闘能力は凄まじいが、それ以上にそんな男を見事に扱う青年こそがクロノにとって脅威に思えた。

 

 相手の手の内を知っているのかのような観察眼、敵の戦略を見透かす洞察眼。見た目は若い青年のようで彼の立ち振る舞いは歴戦の戦士のソレだ。

 

間違い無い。戦闘能力こそはないものの、この人物が彼等のリーダー的存在なのだとクロノは確信する。

 

 だが、何故そんな彼が守護騎士達と相対している? 何が目的で敵対している?

 

巻き込まれたと言われればそれまでだが、彼等の戦い振りを見てそれは有り得ないと頭の中で否定する。

 

 彼等の戦いは自分達の使う魔導と良く似ている。しかし、本局にはそんな人物が管理外世界に向かった報告は一度もない。

 

故に、考えられる理由はひとつしかなかった。

 

「闇の書を奪い、その力で世界でも支配するつもりか?」

 

 次元の犯罪者が闇の書を狙って地球へとやってきた。それがクロノの見解であった。

 

無論、決め付けはしない。もっと他に違う目的があるのではないかと頭の中でその可能性を模索している。

 

本当にただ巻き込まれただけかもしれないし、世界を渡る際に本局に報告をし忘れただけかもしれない。

 

だが少年の心が、勘が違うと叫んでいる。

 

彼等は危険だと。下手をすれば闇の書よりも……そう声高に叫んでいるのだ。

 

ふと、耳に通信を知らせるブザー音が聞こえてくる。何かと思い振り向けば、この艦の乗組員の一員である技術スタッフからの定期通信だった。

 

『クロノ艦長代理、艦の60%程機能が回復し、ひとまず応急処置は終わりました』

 

「ありがとう。引き続き艦のシステムチェックを頼む」

 

『了解です』

 

 簡単な連絡内容を聞いてその通信は終わりになる。

 

クロノの執務官として青年に警邏を鳴らす理由、それはこの次元航空巡艦アースラへのシステムハッキングだ。

 

その時のクロノは本局へ報告しに向かっていた為に詳しくは知らないが、技術スタッフやオペレーターの話によるとハッキングしていた者はものの数秒でアースラのファイヤーウォールを突破、艦の制御だけではなく局に登録しているデバイスにまで支配し、暴走させたという。

 

 艦の制御はものの数分で解放されたが、その際に艦のシステムはハッキングの痕跡諸共ボロボロに破壊され、一時は通常運航さえ出来なくなっていた。

 

技術スタッフにシステムを直してもらい、ファイヤーウォールも以前のものより強固にしてもらったが、相手は未知の存在だ。正直、再びハッキングされれば防ぎようがないだろう。

 

「………これは、偶然か?」

 

 謎の戦力を有する若き青年、もし青年が此方の存在と所在を既に認知し、警告代わりに艦のシステムをハッキングしたとしたら?

 

………もしかしたら、今の自分はとんでもない犯罪者を相手にしているのではないだろうか?

 

 不安と恐怖が、クロノの思考を焦がしていく。

 

まだ確定していた事ではない。これまでの推察は全てクロノ一人の“もしも”の話かもしれない。

 

だが、そんな存在が更なる力を求めて闇の書を手に入れようとすれば?

 

もし闇の書の力を完全に御せるだけの力量を持っているとすれば?

 

 ………執務官は単独で動く権限を持ち合わせているが、その分その身に宿る責任は重い。

 

勝手な憶測で事態を混乱させる訳にはいかないし、何より今の自分は艦長の代理だ。迂闊な行動を起こして艦長の……母の立場を悪くさせる訳にはいかない。

 

けれど、そうしている内に青年が闇の書を手にしていれば?

 

既に彼には守護騎士達を退ける戦力を持っている。その気になれば今この瞬間だってあの青年は闇の書を手にしているかもしれないのだ。

 

理性と本能、騒ぎ立つ感情を前にクロノは困惑し、思い詰める。

 

「こんな時、彼女が目覚めてさえいれば!」

 

 まだ目覚めてはいない幼なじみにクロノは苦悩する。他の乗組員達が詳しい事情が知らない以上、システムハッキングについて唯一知っている可能性があるのは彼女だけなのだ。

 

情報が足りない。未知の存在を相手になんの手掛かりも無しに戦うのは愚の骨頂。

 

けれど、今はその情報を集める時間すらない。

 

 頭を無造作に掻き上げ、目の前の青年が映った画像を睨みつける。

 

数分、或いは10分以上睨み続けている内にクロノの中で一つの決断が思い浮かぶ。

 

 手元にあった紙にサラサラと文字を書き写すと、クロノは技術スタッフに通信回線を開く。

 

「忙しい所済まない。僕のデバイスの調整はどこまで進んでいる?」

 

『クロノ艦長代理? えっと、現在代理のデバイスはウイルスがないかクリーニングをしておりまして、あと数分で完了します』

 

「そうか。なら今からそちらに向かう。度々申し訳ないが早い内に終わらせてくれ」

 

『え? 代理? まさか出るつもりですか? 例の守護騎士達はまだ確認されておりますし、第一今は待機なんじゃ……』

 

話を最後まで聞かずにクロノは通信を切る。

 

同時に席から立ち上がり、自身のデバイスを受け取るために早足で通路を歩く。

 

そのデスクの上に、辞表届けと書かれた一枚の手紙を残して。

 

(事態が最悪の方向に向かう前に、何としても彼の真意を確かめなくてはならない。彼が敵なのか、それとも味方なのかを)

 

 あんな悲劇を二度と起こしてはならない。

 

事態が複雑化している中、時間も残されていない以上気付いた者が動くしかない。

 

そしてその際に起こる責任は全て自分が負う。

 

その覚悟を胸に、クロノは青年───岸波白野の下へ跳ぶのだった。

 

そして、その邂逅は割と早く叶うことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然現れた時空の管理者を名乗る少年に、自分は暫し呆気に取られていた。

 

 時空を管理するのだからイメージとしてはこう、七人の賢者とかなんとか七武海みたいな感じかと思っていたが……こんな小さな子供でもやっていけるモノなのか?

 

 少年の体格は外見的にヴィータちゃんや八神ちゃんより少し大きい程度、年齢も10歳前後に思える。

 

だが、そんな彼から向けられる警戒心と敵愾心は本物だ。

 

それに……彼のその表情は何か怯えているようにも見える。

 

一体何に? その疑問が浮かび上がる前に──。

 

「やはり、もう一人いたのか。その外見から察するに使い魔の類だと思われるが……なんて殺気を出しているんだ」

 

「今更後悔しても遅ぇのです。折角ご主人様との甘いラブラブ空間を邪魔しただけではなく、犯罪者扱いする。……幾らガキとはいえ容赦はしないぞコラ」

 

何時にも増して怒りを露わにするキャスターに落ち着けと促す。

 

だが、自分の言葉に耳を貸さず、キャスターは更なる怒りを募らせていく。

 

「こればっかりはご主人様のお言葉でも譲れません」

 

 一体どうしてそこまで怒りを露わにするのか。確かにデートの邪魔をされて頭に来るのは分かるが、別にこれで最後になるわけではないのだ。

 

デートならこれから何度も出来るだろうし、キャスターもそれを待っていてくれると言ったじゃないか。

 

「………一つ、ご主人様は勘違いをされています。此度の逢瀬、初めてだったのは────私もなんです」

 

 その言葉に自分は思い違いをしていた事に気付く。キャスターは生前からその美しさに見惚れられ、多くの王や天皇に仕えてきた。

 

一見華のある日々を過ごしてきたかに思える彼女だが、それは側室や后としての立場であり、一人の女性として扱われる事は決してなかった。

 

 どこにでもいる女性として、当たり前の日々を過ごす。それこそが彼女の願いだと言うのに………。

 

彼女の悲しげな横顔を目の当たりにして、やはり自分は未熟なのだなと実感する。

 

「………一つ聞こう。君達は闇の書についてどこまで知っている?」

 

黒い杖を此方に翳し、より一層敵意を強くして少年は自分達を見下ろす。

 

そんな彼に、自分から送れる言葉は一言だけ。

 

「君に、君達に話す事はなにもない。早々に帰ってくれ。こっちはまだデートの途中なのだからな」

 

「────ご主人様」

 

「……そうか、では少しばかり手荒にいかせて貰う。君達は危険な存在になりつつあるからな」

 

 その瞬間、少年が杖を頭上に翳すと無数の刃が彼の周りに顕現する。

 

その一瞬だけ驚く。少年のその攻撃はまるでギルガメッシュの様な圧倒的物量を持って───

 

『この我を凡百の魔術師と同列に扱うなよ。雑種』

 

ふと、吹き出してしまった。

 

当然だ。かの英雄王の容赦のない攻撃に比べればこの程度の物量はなんてことない。

 

それに───

 

「降り注げ、スティンガーレイン!」

 

「炎天よ、疾れ」

 

此方には、五つの王朝を滅ぼした大妖狐が側にいるのだから。

 

 ぶつかり合う刃の群と炎の渦。炎が刃の全てを呑み込むと、その瞬間爆発を起こして辺りの木々を薙ぎ倒していく。

 

周囲に満ちる爆炎と煙。それを視界を遮る壁として扱ったのか、黒い影がキャスターの右側に飛び────

 

「右だ! キャスター!」

 

「はいです!」

 

 キャスターの武器である鏡が、黒い影に向けて横凪に打ち込む。

 

ガギンッ、と金属音がぶつかり合う音が聞こえ、その衝撃に煙が吹き飛んでいく。

 

 キャスターに向けて杖を振り下ろしている少年とそれを鏡で防ぐキャスター。

 

その次の瞬間には既に両者は弾かれるように間合いを取ってキャスターは地に、少年は空中へとそれぞれ距離を空ける。

 

ほんの僅かな攻防を垣間見て、やはりこの少年も強いと理解する。

 

使い勝手の良い剣の弾幕による撹乱、そして爆炎と煙というカーテンを利用しての奇襲、素早い踏み込みによる白兵戦。

 

己の技を持って状況を有利に進める戦い方は、どこかアーチャーに似ていた。

 

「……やはり、手強いな。貴女の魔術もそうだがそれ以上にそちらの人の観察眼は厄介過ぎる。まさか此方の初手をこんな見事に見破られるなんて」

 

「はん、ウチのご主人様をあまり見くびらないでくれます? 魔術師としての実力は平々凡々ですがこと戦闘に於ける洞察力はピカ一なのです。その内タケミーやフッチン以上になるんじゃね? と私も戦々恐々の思いなのですから」

 

 今の攻防で仕留める気だったのか、少年は自分を見て……いや、睨んで来ている。

 

キャスターはキャスターで軽口を叩いているが……誰? タケミーとかフッチンて?

 

「あれ? 知りません? 一応二人とも軍神と崇められてるんですけど……タケミカヅチやフツヌシって」

 

よし、これ以上詮索するのは止めよう。大体何で自分が日本の軍神と比較されなきゃならんのだ。

 

キャスターの主を持ち上げる性分は時々度が過ぎる傾向がある。

 

「いやー、案外分かりませんよ? だってご主人様一度見た攻撃は殆ど受けませんよね?」

 

 そりゃ、人間は学習する生き物だ。そうそう何度も同じ手が通用すると思われては困る。

 

……まぁ、時々深読みのし過ぎで誤爆する事もあったけど。

 

「いやいや、深読み程度でサーヴァントの動きを先読みするとか、ドンだけですか?」

 

 何か自分の言動がおかしかったのかキャスターが引いてる。その事に内心でショックを受けつつも彼女に警戒しろも激を飛ばす。

 

「軍神、まさか神に匹敵する目を持っているとは……やはりただ者ではないな」

 

何か扱いが大きくなってるーー!

 

今の自分とキャスターのやり取りを聞いていたのか、少年は戦慄を覚えた表情で此方を……ひいては自分を凝視していた。

 

「ご主人様、今です! あのガキんちょが勝手にビビっている内がチャンスですよ!」

 

 キャスターのその言葉に一瞬躊躇する自分だが………まぁ、仕方ないよね。先に仕掛けてきたのはそっちだし、戦いの最中に気を逸らすのはいけないよね。

 

「氷天よ、砕け」

 

彼女のその言葉と共に、少年の足下に氷の槍が突き出てくる。

 

「っ!」

 

自身に目掛けて迫ってくる氷の槍を少年は身を翻して回避する。

 

やはり強い。目の前まで迫った氷の切っ先を咄嗟の行動で完全に回避している。

 

加えて彼方は自由自在に空を飛べて、此方はそんな術はない。

 

なら、ここはその飛行能力を逆手に取らせて貰い、この戦いを終わらせる。

 

「キャスター、風を!」

 

「───成る程、承知しました」

 

此方の指示の意図に瞬時に察してくれたキャスターがその大きく開いた袖口から一枚の符を取り出して頭上に投げる。

 

符はその瞬間眩い光の粒子となり、空中へ四散する。

 

「何をするかは知らないが!」

 

 そんな此方の行動をお構いなしに少年は離れた空の位置で再び杖を掲げる。

 

現れたのは自分達の頭上を埋め尽くさんばかりの剣の束。此方が二人掛かりという不利を考えて、どうやら短時間の決着へと踏み出した。

 

「これで終わらせて貰う! スティンガーレイン・ファランクスシフト!」

 

 吐き出す言霊と共に少年が杖を振り下ろす。その瞬間、剣の雨が降り注げられたると思った───その時。

 

「─────っ!?」

 

今まで空を足場にした少年が、突如落下したのだ。

 

何かに引き寄せられる様に、ではなく。フッと、唐突に、何の抵抗も感じられず。

 

バランスと術の制御を失い、空に浮かんでいた剣の大群はガラス細工の様に四散し、少年は重力に従って地面に落下する。

 

そして、その時を見計らったように。

 

「護摩の焚き火と参りましょう」

 

したり顔のキャスターが、少年に向けて特大の花火を上げた。

 

「ケッ、汚ねぇ花火だぜ」

 

 やめい。

 

やりすぎな攻撃をぶちかますキャスターに、自分は戒めのチョップを放つ事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、どうしましょうかご主人様。今の内に去勢しときま───あいたぁ! も、モフルのでしたらもっと優しくお願いしますぅ」

 

 気絶した相手に恐ろしいことを口走るキャスターを折檻した自分は悪くない。

 

少年を倒した事により結界は解かれ、辺りは夜の暗闇に包まれる。

 

人の気配はしないし、どうやら人目に付くことはなかったようだ。

 

さて、問題はこの気絶をした少年についてだが……どうしよう。

 

そもそもこの少年は自分を管理局の執務官だと言った。そんな彼をここまでボロボロにしてしまった事で、余計な事態に陥ってはいないだろうか?

 

「もう、ご主人様ってば心配性ですねぇ、別に宜しいではないですか、もしまた向こうから仕掛けてくれば今度こそ軽々(コロコロ)してしまえばいいだけですし」

 

………なんだか、ここ最近のキャスターは物騒な事しか口にしていないような気がする。

 

一体どうした? 何故そこまで苛ついているんだ?

 

「いえいえ、別にご主人様のフラグ建築っぷりに怒ったり、セイバーさんや桜さん、更には凛さんやドラゴン娘にさえ落とすご主人様のイケメンぶりに憤怒していることは……えぇ、ありませんとも」

 

………どうやら、原因は自分にあるようだ。

 

どうにかしてキャスターの機嫌を取らねば、でないと近い将来に彼女の虚勢拳を受ける時が本当に来てしまう。

 

 キャスターの機嫌をどう取ろうか、本気で考え始めた時。

 

「……洞察力の高さの割に、意外と詰めが甘いな」

 

キャスターと自分の身体には蒼白い縄が全身に巻き付いていた。

 

「そちらの魔術師がまさか攻撃ではなく空間に作用する術を施していたとは……お陰で僕は空中機動での力場を失い、無防備に転落する事になるとは……」

 

 全身が縛られた事によりバランスが崩れて地面に倒れ伏してしまう。

 

先程とはまるで逆の立場になり、気絶していた少年は満身創痍になりながら杖を支えにして立ち上がる。

 

「本来ならこの搦め手にも対応してみせたけど、どうやら自分を追い詰め過ぎた為に自身を見失っていたようだ。今後の課題として肝に命じておくとしよう」

 

「肝に命じておくじゃねーです! このガキ、折角人が見逃してやろうというのに掌返しとかどういう了見だっつーの!」

 

「何て言われようと構わない。僕は自分の成すべき事を成す為にここまで来た。もう、二度とあんな悲劇は起こさせない為に!」

 

今にも倒れそうな身体に鞭を打ち、少年は杖を振りかぶる。

 

逃げ出そうと必死にもがいているが、この光の縄の強固さは並ではなく、魔力によって強化した肉体でもビクともしない。

 

キャスターも抜け出そうと力を込めているが、縄に皹を入れるだけで完全に破壊するまでは至らない。

 

ここまでか。少年が手にした杖を此方に向けて振り下ろ────

 

『やれやれ、折角一度は見逃してあげたというのに、随分勝手な事を言うのね』

 

 ──────ピタリ、と自分の頭上まで迫ってきた所で少年の手が停止する。

 

いや、彼が止めていたのは手だけではなかった。

 

腕や足、全身に至るまで、彼の動きは全て停止させられていた。

 

いや、それ以前に今聞こえてきた声は!?

 

『バリアジャケット、確かに優れた装備ね。耐衝撃や耐魔法、更には物理防御の機能も搭載され、至り尽くせりの画期的装備。けれど、デバイスという端末を介している時点で全てが台無しになっている。────何故なら』

 

この声、やはり間違いない。あの少年のデバイスとやらの杖にはあの少女が────!!

 

『それが端末でネットワークに繋がっている以上、全てはこの私……メルトリリスの一部になるのだから』

 

 少年の手にする杖が一層強い光を放ったとき、少年は力なく地面に倒れるのだった。

 

 




はい、また一人追加ー。

……そろそろハーレムタグを付けるべきか?

皆さんはどう思う?


PS
ウルトラ求道僧に皆反応し過ぎですから!

いや、ネタにした自分が言うこっちゃないですが。



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