ペルソナ3 招かれし者   作:パステルいろ

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7-a.priestess/試練

 

鼓膜を激しく叩く低い機械音。

緊急招集のアラートであるそれに起こされ、俺は布団を跳ね除けた。

元々、仮眠程度と割り切っていたからか、体はスムーズに動く。視界に曇りもない。

椅子に掛けていた制服の上着を羽織り、ベルトに長剣の鞘を突っ込んで部屋を出る。

多少の早足で作戦室に辿り着くと、既に全員がその場へ集合していた。

「タルタロスの外で、シャドウの反応が見つかった。」

桐条先輩は全員が揃ったことを確認すると、簡潔に召集の理由を話し始めた。

何でも、シャドウが街に現れたから、早急に討伐しなければならないとのことだ。

ようは倒しゃあいいんでしょ?と、気楽なことの様に話す順平。

その様子に呆れたふうに肩を竦める岳羽さんを他所に、話は続く。

途中で真田先輩がバトルジャンキーを発症させたりと一悶着あったが、話は滞りなく進む。

かと思ったが。

「現場の指揮を頼む、結城。」

真田先輩の託すような視線に、はい、と一言だけ発して頷く結城さん。

その後の桐条先輩からの言葉にも、任せてください!、と力強い返事を返す様を見て、順平が目深に帽子を被り直した。

「オレ、男なのにさぁ……。」

ぼやくように投げられた言葉は、字面に含まれていない別の意味を孕んでいるように聞こえた。

まぁ、その後の桐条先輩の威圧に当てられて、順平からシリアスなオーラは飛んで消え去ったが。

それからは特に何事も無く、巌戸台の駅前で落ち合うこととなった。

俺たち二年生組は先行して駅前に集まり、桐条先輩が来るのを待っているところだ。

駅前は日中の面影が微塵も無い、陰惨な事件の現場のようになっている。

辺り一帯にぶちまけられている赤い液体は、見ていると不安感が煽られて、落ち着かない。

「ねぇ、まだかな。」

「すぐ来んだろ。」

座ったまま問うた岳羽さんの声に、順平が返事をする。

どうやら、無言の影時間に耐えられず、何か話そうとしているようだ。

先ほどから体のどこかしらが動いているところから察するに、緊張と不安が混ざり合ってじっとしていられないらしい。岳羽さんは靴のかかとで階段を小突き、順平は何となしに歩き回っている。結城さんは……。

「……?」

謎の赤い液体の匂いを嗅いでいる。何してんの……。

気になって聞いてみると、本当に血なのか確かめようと思っていたのだとか。ちなみに、匂いは無臭だったらしい。

結局、そのままの状態で数分が過ぎ、俺が緊張を解すために犠牲になろうと、寒いギャグを放とうとしたその時であった。

「ん?……なんだぁ!?」

徐々に大きくなってくる低い音に反応した順平。彼が振り返って音の鳴る方へ視線を向けると。

重低音と共に、大型のバイクが俺達の前に停止した。

その乗り手は颯爽とバイクから下り、被っていたヘルメットを外して頭を振った。

紅い髪が宙を舞ってたなびき、切れ長の眼がこちらを捉える。

「遅れてすまない。」

映画のワンシーンの様な桐条先輩の登場に、俺達は唖然として釘づけになった。いや、知ってたんだけどね。

驚く二年生ズをスルーした先輩は、作戦の要点だけを伝えると言うと、機材の準備をしながら話し始めた。今回のシャドウは列車に巣食っており、我々は線路上を歩いて列車に侵入、これを殲滅しろ。

と、簡潔に言ってしまえばこれだけの内容だった。

途中、機械やバイクに関する質問もあったが、それもあっさりと片づけられた。

通常、影時間では機械は止まるが、コレは特別製だと。

自身のバイクに触れてそう言った桐条先輩に、順平は微妙な顔をしながらも納得した。

確か、あのバイクには〝黄昏の羽〟が仕込まれているのだったか。

月から剥がれ落ちた欠片であるそれは、特殊な力を持っており、某機械乙女の中枢であるパピヨンハートも、大雑把に言ってしまえば同じものらしい。

と、まあ、それは今関係のないことだ。いよいよ作戦の開始となり、俺は召喚器のベルトをきつく締め直した。結城さんが先頭に立ち、駅構内を見据えて鋭く作戦開始の合図を放つ。

「皆の者、出動だ!」

…………。

「えっ、う、うん!」

「そういうノリ?」

相変わらず、読めない人である。どことなく気の抜けた雰囲気の中、俺達は駅へと向かっていった。

駅のホームから線路上へと降り、そのままレールに沿ってナビの通りに進んで行く。

案外広いモノレールの線路を暫く歩けば、前方に車両が見えてきた。

「これ……だよね?」

確かめるような岳羽さんの呟きに答えたかの様に、各人に配布されたインカムから電子音が響く。

『四人とも、聞こえるか?』

「あ、はい、大丈夫です。」

通信に応対した岳羽さんが列車に平常時との変わりは無いと言うが、桐条先輩からは、確かにそこからシャドウの反応がするとのこと。

三人とも離れ過ぎないように侵入してくれと言伝を残し、通信が切れる。

「へへっ、腕が鳴るぜ、ってかペルソナが鳴るぜ!!」

気合十分というふうに、順平が拳を握って不敵に笑う。

それに呼応するように、

「じゃあ、乗り込みますか!」

岳羽さんも気合を入れ直している。……実はこの二人、案外似てるよね?言ったら否定されるだろうから言わないけど。そのまま岳羽さんが扉横のはしごを上るのを見ていると、彼女はいきなり振り返り、俺と順平を見て一言。

「……ノゾかないでよ。」

「へいへい、のぞかねぇっての。」

順平の力の抜けた否定に乗っかって、神妙に頷いておく。が。

「……てか、見えたらしょうがねーよ?」

数度頷いていたからか、その後に続いた順平の言葉にも頷いてしまった。しまった……!!

「……理。男子連中はここに埋めて行こうか。」

結城さんの返事は推して知るべし。おのれ、順平ィイー!!

 

はしごを上りきって列車内に入ると、象徴化した乗客がまばらに見える。

「これ、人間……、てか、乗客だよな……。」

順平の息を飲む音が聞こえた。彼がたじろぐのも分かる。何せ、列車内部に血だまりと棺桶が点在する様子なぞ、普通見ない。何かしらの凄惨な事件を連想させるその様子に、俺も少し気分が悪くなった。が、今はそんなことを気にしている場合じゃない。

全員が内部の様子を注視し、シャドウを目視で探っていると。

「えっ!?」

背後で物音が聞こえ、咄嗟に全員が振り返る。するとそこには、ぴったりと閉じられた扉があった。

『どうした、何があった!!』

岳羽さんの声を拾ったのか、先輩が慌てた様子でこちらに問いを投げかける。

「それが、閉じ込められたみたいで……。」

答える岳羽さんに、先輩は既にシャドウに察知されているようだと答えた。

そして、閉じ込められた以上、シャドウを倒してここから出るより他に、手段はないとも。

『注意して進んでくれ。』

その言葉を最後に、音声通信が切れる。

その場の全員が顔を見合わせ、それから各々の武器を引き抜いた。

「行こう。」

結城さんの号令の元、俺と順平が先行して進む。列車の内部は狭いため、リーチが比較的短い俺が最前列である。敵に先攻を奪われないように、最速で攻撃できるよう、突きの構えを取って周囲に目線を配る。

全員が最大限に警戒しながら進むが、敵は一向に現れない。

それもその筈、敵は戦力を後方に集中させ、こちらの隙を作る作戦を練っているのだから。

それも、気付いている、というか、既に知っている俺がいる限り無駄だが。

と、意識を思考に割り振っていると、座席の影から何かが飛び出してきた。

「うわっ!」

「出やがったな!!」

突然現れたシャドウに対照的な反応を見せる二人に構わず、俺は即座に剣を投げた。

「お、ラァッ!!」

投じた剣は回転しながらシャドウにぶつかり、相手が僅かながら怯む。その隙をついて、俺はシャドウに吶喊した。

『おい止めろ、何をしている!?』

強い語調の叱責に構わず、走りこんだ勢いを乗せてサッカーボールキックを放つ。

頭部に本を収めたクラゲのようなシャドウ、偽りの聖典は、色あせたページを撒き散らしながら吹き飛び、壁にぶつかる。

そこに向けて、落ちた剣を拾い上げて鋭く突きこむ。確かな手応えと共に、敵シャドウは煙のように消えた。

軽く剣を振るって気勢を落とし振り返ると、そこには唖然とした皆の顔が並んでいた。

『何故、あのようなことをした。』

静かな先輩の声に、背筋が震える。予想していたとはいえ、やはり彼女に怒られることは怖い。

「すいません、緊張してて、シャドウが出てきた瞬間に、倒さなきゃと思ったら、体が動いてました……。」

激しい運動の所為で途切れがちな言葉で、弁明を述べる。

『馬鹿者がっ、君の行動の結果次第では、仲間を危険に晒していたかも知れないのだぞ!!』

「すいません、気を付けます。」

『……まぁ、怪我が無くて幸いだった。春日、君には帰ったら伝えることがある。留意しておくように。』

先輩からの通信が切れ、現場の皆が近寄ってくる。

「ちょっと、大丈夫?もー、びっくりしたよ。」

岳羽さんは驚いたようで、召喚器片手に俺に怪我が無いか見てくれている。

その横、結城さんも、これっきりにしてね、と、心配と叱責をない交ぜにしたような言葉を掛けてくる。

そして、最後に順平。彼は突っ込んだ俺の姿に自分の姿を重ねたのか、微妙な表情でこちらを気遣ってくる。

「お、おい。大丈夫かよ?」

「ああ。でも、先輩に怒られちまった。敵が多かったら死んでたかも知れないし、もう二度とあんなことやらないよ。」

「そ、そうか……。」

彼は桐条先輩の声に籠った威圧を思い出したようで、軽く身を震わせていた。

まぁ、とにかく、俺の目論見は成功したようだ。これならば、順平も下手に見栄を張ることもなくなるだろう。

目の前でわざと失敗して見せ、順平の気勢を削いだのだ。これならば、下手に言葉で牽制するよりも効いたはず。

その結果、俺には地獄のお説教が待っているワケだが。俺、〝処刑〟されたりしないよな……?

一抹の不安を抱えながら、俺達は前進するのであった。

 





読了、ありがとうございます。以下、解説っぽいど。









・結局満月シャドウは倒すの?
今はまだ、春日の手元に幾月を糾弾するための情報が皆無ですし、シャドウと戦わないと、仲間からも疑いの目を向けられてしまいます。ですから、おそらく結構後にならないと、原作のルートからは分岐できないと思われます。非常に申し訳ない。

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