ペルソナ3 招かれし者   作:パステルいろ

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まずは、お詫びを。先週は更新が出来ず、申し訳ありませんでした。
私は普段メモ帳で執筆しているのですが、ついうっかり保存していない文章を書いたウィンドウを消すという馬鹿みたいなミスをしてしまい、最新話が投稿出来なかったのです。
結局新たに書き直していたらほぼ一週間経ってしまい、読んでくださっている方を待たせてしまいました。
すいませんでした。


5-a.mass destruction/特別課外活動部

「あ、春日くん。おはよう!」

背後から聞こえてきた元気いっぱいの声に振り返る。

視界にはここ最近姿を見なかった少女が映っていた。

「結城さん、おはよう。体、もう大丈夫なの?」

こちらも挨拶を返して、横並びに歩き出す。

桜に両脇を囲まれた、校門から昇降口までの道をゆっくりと進む。

「うん、もう大丈夫みたい。ぐっすり寝たら治っちゃった!」

「それにしても、寝過ぎだと思うけどね。昨日までの分のノート、いる?」

「てへへ……。うん、後で貸して。」

どうやらすっかり元気になったらしい結城さんとの、何気ない会話のやり取り。

その間、ずっと気配を探っていたが、以前感じた死神の気配は希薄になっていた。

暴走を機に外へ出たのか、治まったのか。

いや、そもそもファルロスはそれ以前に外に出ていなかったか。

茫洋とした考察を巡らせていると、何時の間にか昇降口に着いていた。

慣れない様子で自分の靴箱を探る彼女に、思いつきで声を掛ける。

「靴箱、多分その辺りだよ。……流石に、クラスの場所は覚えてるよね?」

「む。春日くん、結構いじわるだね。」

正対して喋ることに余裕が出来たからか、つい口が余分に軽くなってしまった。

しかし、結城さんはからかいに動じることなく、平然と返してくる。

……落ち着いてるようだし、この様子なら、大丈夫そうだ。

勝手に安心して靴を上履きに履き替えていると、背後からまた彼女の声がした。

「久しぶりの学校だけど、緊張はしてないよ。……でも、ありがとねっ。」

去っていく早足の靴音を聞きながら、俺は肩を竦めた。

多少からかいつつ様子を探っていたが、ばれていたようだ。

萎縮するようなら平謝りしてから励ますつもりだったが、

心配なんて、彼女には余計なお世話だったらしい。

階段を上って教室に入れば、そこにはクラスメイトに囲まれている彼女の姿が在った。

笑顔を振りまきながら対応している姿を見ていると、成る程、ゲームでの無双っぷりにも納得がいく。

超人だな、と思いながら席に着くと、何やらにやけている友近が話しかけてきた。

「よォ、春日。今朝は楽しく登校してたみたいじゃん?」

「おお、おはよ。で、何それ?」

しらばっくれんじゃねえよ!と、人の肩に手を置きつつ、友近は声を潜めて切り出した。

「お前、結城さんと登校してきたらしいな。やるねー、転校生同士、仲良くしましょって?」

「……お前ね、そんなんじゃ無いっつの。普通、入院してたなんて聞いたら心配するもんだろ?」

相変わらず、頭がお花畑なヤツだ。と言うのも。

「かーっ!別にうらやましかないが、その度胸は買うぜ。ああでも、俺ももうすぐ同じとこまで行く予定だからさ、まぁ、首洗って待ってな!!」

「おい、人の話聞けよっ!!……ったく、幸せなヤツ。」

ヤツは、告白を間近に控えているらしい。俺はその相手を知っているが……。

ま、干渉するつもりは無い。

若い内に存分に、青春したまえ。そんな爺臭い感想を抱きつつ、机の整理をしていると。

「ね、春日くん。ノート、今いいかな?」

頭の上から、話題の人の声。

顔を上げてみれば、そこには笑みを湛えた美少女の顔が。

「ああ、うん。えっと、こっちが現代文ね、で、こっちが……」

友近の野郎、こっち見て笑ってやがる。

何、が・ん・ば・れ・よ・?……余計なお世話だっつーのッ!!

 

 

それから、何かとこちらを弄ってくる友近をあしらいつつ、順平や他数人の男子と昼食。

午後からの眠たくなる時間帯をぼんやりしつつノート取りに専念していれば、

何時の間にか放課後になっていた。

まぁ、大学の講義に比べれば短い物だ。

この学校は進学校だが、授業の進め方が異常に早い訳でも無いし、

時間を多く取るでも無い。ノートさえ取っていれば、後は何とでもなるだろう。

そこまで熱心だったわけでも無いが、一応、前世は大学生だったし、

記憶全般の劣化を防ぐために、前世での出来事や知識は、繰り返しノートに書いては消しを繰り返して反復した。

いまなら某有名大学にも受かるかも、なんてことを考えていると、不意に声を掛けられた。

「あ、春日くん。ちょっといい?」

教科書を詰め込んだ鞄を机に置いて、上を向く。あ、何かデジャヴ。

「岳羽さん、結城さんも。えっと、何?」

そこに居たのは、岳羽さんと結城さん。我がクラスの二大美少女を前に、男子の視線が痛い……。

しかし、そんな視線を物ともせずに、岳羽さんは声を潜めて話しかけてきた。

内容の聞こえない会話に、周囲の男子が色めき立つ。

「あのね、例のことで、理事長から話があるの。今日の晩に、巌戸台の寮まで来てくれないかな。」

内容は、まあ、予想の範疇にあるものだった。

記憶と照らし合わせて考えると、これは部活へのお誘いだろう。

ただし、その部活は体育会系も真っ青なハードさの、文字通り命を懸けた部活だが。

「ああ、そういうことなら行かせてもらうよ。えっと、晩って何時以降でも良いのかな?」

「えっと、多分、八時以降なら大丈夫。理事長、何時もそれくらいに来るから。じゃ、伝えたから!」

「また後でねー。」

用件を伝えると、岳羽さんと結城さんは連れだって行ってしまった。

……さて。

「おい、春日。……俺らが何を言いたいか、分かるよな?」

席を発つと同時に襲いくる寒気。

振り向けばそこには、悔しさ、憎らしさ、羨ましさを混ぜ合わせた表情の男子が数名。

最近の学生は、そういう方面じゃ割と冷めてると思っていたが、以外とそうでも無いらしいな。

しかし、ちょっと話してただけなのに、過敏すぎやしないかい?

こういうのはこの年代特有の反応だなぁ、と、前世を懐かしみつつ。

「じゃ、じゃあなー!」

「……おう、またなリア充。」

「バイバーイ、ファッ○ンリア充。」

酷い文言を背に、駅へと向かうのであった。

で、帰宅してからは特に何事も無く。

途中で買った食糧を冷蔵庫に入れ、菓子の食べかすやら消しゴムのかすやらを掃除。

こういう時、普通の高校生なら家族のありがたみを知るんだろうなーと思いつつ、晩飯の調理へ。

ささっと作れる味噌汁、米、ほうれん草のお浸し、豚バラとキャベツの炒め物で飯を済ませる。

家事スキルはおおよそ今世からのものだが、最近は随分と上達したものだ。

前世と違い、今世はかなりの放任主義者が親だった。

なんと言えばいいのか、両親共にとにかく仕事人間で、息子を顧みることが無い。

参観には来ない、季節の行事にも来ないで、話しかけてくること自体が稀だったり。

だったら愛が無いのかと言えば、そうでもないようで。

どうやら、如何に金を掛けたかが愛情の量に比例すると思っている節があり、随分多くを与えられたように思う。

飯はケータリング、服は通販だったが、そのどちらも質が高く、そこそこ値が張るものだったり。

誕生日やらクリスマスやら、そういう日にはプレゼントもあるし、ご馳走も出る。

流石に費用が馬鹿にならないからと、成長してからは、家事なんかは自分でするようになったが。

そんな風に十数年暮らして得た感想は、彼らはとても不器用なのだということだった。

頼みごとをすれば即了承だし、今回の一人暮らしに関する費用も二つ返事で払ってくれた。

金銭面において、俺はかなり甘やかされている。触れ合いなどは極端に少なかったが。

そういう点を踏まえて正直に言うと、普通の子供は育てられなかっただろうなと思う反面、

特異な面を持つ身としては、彼らが両親で良かったとも思う。

おそらく、幼少から普通とは違う子供だと薄々気付いていただろうに、ここまで面倒を見てくれた両親。

そんな彼らの為にも、この世界はせめて、選択を間違え滅ぶようなことが無いようにしなければ。

飯を終え、適当に時間を潰してから部屋を出る。

さあ、今日も胡散臭いロン毛メガネと化かし合いだ。

 

 

「やあ、来たね。結城くんの方は、大丈夫そうで何よりだ。女の子に、傷なんて残ったら大変だからね。ああ、春日くんもだけど、掛けたまえ。」

ロビーで結城さんと合流し、四階の部屋まで上ってきた。両開きの扉を開けると、そこには勢揃いしている寮の面々が座っている。

その中の一人、幾月に声を掛けられ、俺と結城さんは空いているソファへと腰を下ろした。

「それで、今日は何の話を?」

「まぁ、そう焦らずに。もう一人、話を聞いてもらわなきゃいけない人物が居るんだ。」

用件を聞こうとしたが、柳の風と言わんばかりに流されて黙りこむ。

それにしても、ゲーム本編では、主人公が一人で聞いていた話を、他に聞かせるヤツが居るだって?

早くも記憶と違う展開だが、果たして。

思考に耽ろうとしたとき、タイミングを計ったかのようにノック音が響いた。

「空いているよ、入りたまえ。」

幾月が扉の外に声を掛けると、扉が開け放たれ、見知った人物が入ってきた。

「な、順平……!?」

「よっす。へへ、驚いた?」

驚き息を飲む岳羽さんをよそに、そいつはヘラリと笑って見せた。

「何だ、知り合いか?なら話は早い。……では理事長、お願いします。」

順平の登場で妙な空気になった空間を流すように、真田先輩が話を進める。

「ああ。では、いきなりだけど。……君たちは、一日が二十四時間じゃない、なんて言ったら、信じるかい?」

それは、そんな語り口から始まった。

影時間、シャドウ、適正、そしてペルソナ使い。

「端的に言えば、君たちに仲間になって欲しい、ということだ。既に、君たち専用の召喚器も用意してある。」

長いテーブルに乗った三個のアタッシュケース、開かれたその中には、銀色の銃が収まっていた。

ゴクリ。誰のものだろうか、長い話を飲み下すように、嚥下する音が静かな室内に響いた。

「そんな、急に……。」

思わず、といった風に、結城さんの口から弱弱しい言葉が飛び出た。

困惑した表情でいる結城さんの横には、俯いて黙りこくった順平の姿がある。

流石のお手上げ侍も、今回の話には本気でお手上げのようだ。

と、思いきや。

「ス、スッゲー!!漫画みてぇ、マジですげえよっ!その召喚器ってのがあれば、俺にもペルソナってのが使えるんスよね!?」

どこまで行っても、順平は順平だった。

岳羽さんは呆れて肩を竦め、結城さんは苦笑いを浮かべている。

立ち上がって興奮している順平を余所に、俺は幾月へと質問を投げかけた。

「あの、理事長。質問いいですか?」

「ああ、構わないよ。なんでも聞いてくれたまえ。」

「……ありがとうございます、それじゃあ一つ。もし今の話に協力するとしても、俺だけ家が遠いから、話にある影時間に入る時間帯だと、生活サイクル的に協力出来ないんですけど。その辺りは、どうすれば……?」

その言葉に、幾月は薄い笑みを浮かべた。

おそらく今のは、こちらが協力的なスタンスを取ったことに対する笑みだろう。

「なら、ここに住めばいいさ。そうだね、不自然な移動にならないよう、ご両親には私の方から一報、連絡を入れておこう。というか、今までの君が珍しいケースだっただけで、普通は男子寮に住む物なんだけどね。」

そう言って、幾月はメガネを押し上げた。

照明の光がレンズに反射し、その表情を推し量ることはできない。

その後はとんとん拍子に話が進んだ。

勢い良く順平が加入し、俺が加入しで、残った結城さんも先輩方の説得攻勢によって陥落した。

後は召喚器を受け取り、ほぼあって無いような寮則を聞いて、俺の場合は引っ越しの日を決めてから話は終わった。

そのまま、今日のところは流れで解散すると思いきや。

 

 

「え、ここがそうなんスか?ここって学校じゃ……。」

「ふふ、そう焦るな。もうすぐ分かるさ。」

現在、学校の校門前で零時を待っている。

どうやら、イベントが早まっているようだ。

本当なら、順平の加入もタルタロスの探索も、明日のはずなのだが。

これも、バタフライエフェクトという奴なのだろうか。

心中に不安が広がるのを感じつつ、その時を待つ。

暗い闇夜の中、誰かが言った。

「もうすぐ零時だ。」

途端、周囲は緑光に満ちる。月は輝きを増し、今宵も影時間がやってきた。

辺りの様子が切り替わってすぐ、月に向かって伸びるかの様に、月光館学園はその姿を変化させていく。

変貌していく学校を見上げながら、順平が叫んでいる。

「何だよこれ、オレらの学校、どこ行っちまったんだよ!?」

その言葉に答える者は居ない。

本当の意味でコレの存在理由を知っているものなど、この場にはいないのだから。

それを知っている人物、幾月でさえ、全ての側面を知り得ているわけでは無い。

月に向かって伸びているかの様に、と、俺は先ほどタルタロスをそう形容したが、これはまさしくその通りである。

月に向かって己の存在を誇示する、魔性の塔。

何も知らない少年少女たちが、その開かれた口の中へと飲み込まれていく。

列の最後尾でその様を見ながら、俺は身震いをした。

……今更、何をビビっているのやら。どうせ逃げ場など、世界中の何処を探したって無いのに。

 

 

 

 

 




読了、ありがとうございます。以下、補足的解説。









・オリ主の両親
仕事人間です。職場で出会い結婚しました。割と優秀らしく、職場では常に必要とされている人材だが、子供の相手は苦手な模様。ただし子供が嫌いなわけでなく、とにかく物を与えれば喜ぶだろうと色々買い与えたらしい。仕事が忙しく時間が作れないため、それ以外の物はすべて与えてやろうと言わんばかりにオリ主に甘い。が、両親ともにクールすぎて、オリ主には半分くらいしかその愛は伝わっていない。

・オリ主に召喚器って必要なん?
一応、あれば召喚にかかる負担は減ります。微々たるものですが。
基本的にペルソナを引きずり出すP3式召喚よりも負担の無い召喚方法なので、あれば儲けもの程度。オリ主にとって召喚器は短めの鈍器でしかない。

・キャラ崩壊
筆者が各キャラを再現しきれてないからです。すいません、精進します。

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