リボーンの世界に呼ばれてしまいました ~小話~ 作:ちびっこ
ゆっくりと歩く。気を抜けば、走り出しそうで……そして泣き出しそうになる気持ちを抑え、歩き続ける。
真っ直ぐ向けられる視線はとても優しく、焦らなくてもずっと待ってると目が物語っていた。
クスッとツナは笑みをこぼす。完全に2人の世界に入っている。2人はこの場所にツナがいることさえ、忘れてしまっているだろう。
ツナがボンゴレ10代目と知っているにも関わらず、こんな態度を取れるのはこの2人ぐらいなものだ。それほどボンゴレを継いだツナの言動を世界は注目している。そしてそれをツナは理解していた。
だからこの2人を見ると、懐かしい気持ちに戻る。この2人は中学から変わらない。とてもツナを落ち着かせる。
もちろん獄寺達も変わっていないだろう。しかし守護者という立場で接する時間が長いため、どうしても懐かしいという気持ちはすぐに出てこない。
こうなることを隣にいる人物はわかっていたのだろう。だからあまり顔を出さない。顔を出す時は大抵気まずそうに報告してくる。報告といっても、事後報告だ。ツナが頭を抱える内容を全て片付いてから話し、笑って誤魔化そうとする。
その笑顔に怒る気にもなれず注意だけをすれば、この話は終わりというように近況を尋ねてしまう。彼女とは友と過ごす時間の方が圧倒的に多かった。
ツナのために大事にしてくれていたのだと思う。彼女自身のために大事にしたかったようにも思う。――恐らく両方だ。
常にマフィアに狙われている彼女は心を休める場所がほしかったはずだ。守護者の立場で話せば、必ずその話が出てしまう。ツナ達が手をまわしていることに知っている彼女はたびたび礼を言う。だが、何に対してかは決して口に出さない。言わなくても察しているから話さないのではない。言葉にすらしたくないのだ。
だからツナは今日のことを聞いた時、とても喜んだ。
彼女は覚悟を決めたのだ。これから何があっても、彼と一緒に乗り越えていく、と。
ツナはピタリと足を止めた。それにつられるように彼女の足も止まった。
「とても綺麗だよ、優」
彼女の頬に赤みが増す。ツナの存在を忘れていたことに対して、恥ずかしくなったのかもしれない。ただツナの言葉に照れただけなのかもしれない。
ツナはどちらでも良かった。そんなことは些細なことだ。
彼女が幸せへ向かう道の隣を並んで歩けた。友として――。
「…………」
「……ツナ君」
言葉に出来ない気持ちがツナを襲う。参加したかっただろう他の友の分も、何か伝えようとしたが出来なかった。だからその分、幸せな彼女の姿を忘れてしまわないように見つめた。
「優」
名残惜しいように見つめ合っていた2人だったが、もう時間がないようだ。男から声がかかった。しかし彼女は動かない。
トンッ。
ツナは彼女の背を押した。すると、先程まで動けなかったのがウソのように、彼女は男の元へ歩き出す。
そして男の隣に並んだ時の彼女の顔は、今まで見た彼女の笑顔の中で最も綺麗だとツナは思った。
役目を終えたツナは席に座った。しっかりと目に焼き付けなければならない。男の意見を尊重したため、出席者はツナしか居ないのだから。
だが、神父を見るたびに笑いそうになる。
彼は群れるのが嫌だったのではなく、彼女の姿を見せたくなかっただけなのだろう。草壁が神父役をしているのがその証拠だ。
つつがなく進行していき、今日1番の見せ場がやってくる。が、ツナは目を逸らした。
気恥ずかしくなったからではない。濃厚な殺気を感じたからだ。
誓いのシーンなので見届けなくてはいけないが、神父は目をつぶるのだろう。容易に想像が出来た。
ツナは声を出さずに笑った。自由すぎる。でもそれが彼らしい。
『!?』
肩を震わせていたツナだったが、男以外から殺気を感じ臨戦態勢をとる。
「うっしっし」
聞きなれた笑い声に思わずツナは頭を抱える。場所がバレないように細心の注意を払ったのに。
「ひーめ、迎えに来た」
「……XANXUSさんに、今月は予定が詰まってると伝えてるはずですよね?」
「ん? ボスの命令だぜ」
「そんなぁーーー!」
ツナはヤバイと感じた。男の機嫌が急降下している。なぜ1番近くに居るはずの女は気付かずに会話を続けれるのだろうか。
「……優」
ビクリと女は肩を跳ねた。声で男の機嫌の悪さにやっと気付いたらしい。
「ひ、雲雀先輩……」
恐る恐る振り向き、言葉に出来たのは昔から慣れ親しんだ呼び方だった。さらに男の機嫌が悪くなったことに気付いた女は一歩後ずさる。
が、男が逃がすわけがない。
後頭部に手を回し、逃げれないようにしっかり掴み、そして引き寄せた。
女のくぐもった声にツナはすぐさま耳をふさいだ。本人は抗議しているのだろう。しかしツナの耳にはそう聞こえない。だから友として、これは聞いてはいけない。
ツナは永遠のように長く感じられたが、時間にして数秒である。男が意図して解放したわけではない。ナイフを放たれ、邪魔をされたからだ。
「…………」
「姫が嫌がってるじゃん」
無言で睨みつけたが、相手はひるむわけもない。仕方なく男は恥ずかしくて男の胸元に顔をうずめている女の耳元に囁く。とても甘い声で――。
「僕の首に手をまわして…………いい子だ」
その言葉を合図に、膝下に手をいれ、女を抱き上げる。そしてブレスレットに炎を注いだ。
視界がロールで埋まる直前に、ツナは男から視線を感じたので苦笑いしながら頷いた。手は出さないけど、後始末ぐらいはこっちでするから気にしなくていいと。
2人を追いかけていったベルフェゴールと草壁を目で追いながら、ツナは電話をかける。
「あ、もしもし? 獄寺君? 悪いんだけど、こっちに来てくれるかな? 教会がめちゃくちゃになっちゃったんだ」
「……あの2人は何をやってるんスか?」
中学の時のようなドタバタをツナは笑いながら説明したのだった。