リボーンの世界に呼ばれてしまいました ~小話~   作:ちびっこ

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この前の続き。これでこの話は完結。
でもキリが悪かったので、いつもより長いです。

軽いですが女性特有の話もあるので、食事中の方は気をつけた方がいいかと。
なので、「R15」です。
お気をつけて。


第89話

 ひっそりと路地裏にある昔ながらの食堂の暖簾をくぐると、すぐに老夫婦が「いらっしゃい」と声をかけ、席に案内する。この店は常連客が多く、テーブル席もあるが料理人の老夫と話しやすいカウンターに座る者しかいない。もっとも店自体が大きいわけではないため、テーブル席の数が少ないのも関係しているが。

 

 現に、この店に初めてきたであろう1人の客にテーブル席を勧めるほどの余裕はなかった。

 

「いらっしゃい。少し騒がしいかもしれねぇが、ゆっくりして行ってください」

 

 老父はそう言ったが、気になるほどではない。一種の決まり文句だろうと客は判断し、本日のオススメを注文したのだった。

 

 10分ほど時間がたったころだろうか。

 

 客が静かに杯を傾けていると常連客の1人が声をかけた。

 

「あんたも、噂を聞きつけてやってきたのか?」

 

 ほんの一瞬、眉がピクリと動いたのを常連客は見逃さなかった。

 

「悪いことは言わねぇ、やめとけ」

 

 常連客は客の言い分を聞くつもりはないらしく、くーっと酒を呷り他の常連客との話に戻った。

 

「すまないねぇ」

 

 老父が一品を置きながら謝った。客が頼んだ記憶がない品だったので、サービスなのだろう。

 

「おらぁは事実を言っただけだ!」

「はいはい。わかってますから」

 

 老父の謝罪が気に触ったようで常連客が叫んだが、すぐに老婦に宥められていた。他の常連客が笑ってるところを見ると、日常茶飯事のようだ。

 

「でもお客さん、わかりやすぎですよ」

 

 隠す気もなく従業員入り口だろう場所を見ていたので、客は老父の指摘には何も思わなかった。だが、この老父も客に釘を刺していると感じれた。

 

 それでも客は見ることを止めなかった。

 

 

 

 それから5分ほどたったころだろうか。客が見つめていた奥から物音がし、それは顔を出した。

 

「すみません。遅くなりました」

「何を言ってるの。まだまだゆっくりしてても問題ないんだからね」

「でもおじいちゃんとおばあちゃんが働いてるの、に……」

 

 顔を出した娘が……老夫婦が本当の子どものように思っている娘が言葉につまったことで、老夫婦だけではなく常連客も心配し目を向けた。

 

 その娘はただ一点を凝視し、呟いた。

 

「恭弥、さん……」

「僕に何か言うことは?」

「……勝手に出て行って、ごめんなさい」

 

 はぁと客の……雲雀の大きな溜息が店に響いた。

 

 こうして雲雀は優と1年半ぶりに顔を合わせたのだった。

 

 

 

 

 老夫婦の気遣いで、優と雲雀はテーブル席で向かい合っていた。ただ、老夫婦だけでなく常連客の視線も感じるので、優は気が気でない。雲雀がこういうことが嫌いなのだ。

 

「僕は気にしない。だから説明しなよ」

 

 優が常連客に強く言えないのは、優にとって大事な存在だと雲雀は気付いていた。鬱陶しいことには変わりないが、我慢は出来る。それに、それよりも話をしたかった。

 

「怖くなって……」

「籍を入れることが? それなら言ってくれれば、僕は無理にしようとは思わなかったよ」

 

 気付けばどこか行ってしまいそうだと思い、紙切れ一枚で縛りたいと考えたのは事実だ。だが、それで逃げてしまうのなら本末転倒である。

 

「違うんです! 嬉しかったんです……。束縛を嫌う恭弥さんが、私と籍を入れてもいいって……私、凄く嬉しかったんです!」

 

 それならば、なぜ。

 

 この場に居るものはそう口にしたいのを我慢し、優の言葉を待った。

 

「居場所がなかった私に、恭弥さんはずっと隣をあけてくれて……感謝してもしきれなくて……すっごく大好きで……だから怖くなったんです。私は家族の愛を知らないから……」

 

 雲雀はそのことを知っていただけに、気がつかなかったことを悔やんだ。

 

 籍を入れるだけで今までと生活は変わることがないと雲雀は思っていたが、優にとっては『家族』は鬼門だったのだ。

 

 そして、雲雀はふとあることに気付いた。優が「愛してる」という言葉を使ったことがあっただろうか。

 

「恭弥さんは何も悪くないんです……。私が、怖くなって、いつか自分の手で、この幸せを壊して……そして憎んでしまうんじゃないかって。それだったら一緒に居ない方がいいかなって……」

 

 はぁと雲雀は溜息を吐いた。気付かなかった自身も悪いが、なぜそんな斜め方向に考えてしまうのか。なまじ行動力があるため笑えない。探すほうの苦労も考えてほしい。こっちは逃がす気なんてさらさらないのだ。

 

 付き合いが長いため、優も雲雀の溜息で言いたいこともわかったのだろう。そのため、優は話をしようとせず飛び出してしまった、もう1つの原因を言った。

 

「だって、恭弥さん……子どもほしいんでしょ?」

 

 雲雀は眉間に皺がよったことを自覚した。

 

 いったい、自分がいつそんなことを言ったのか。全く記憶のない……そんなことを思った記憶すらない雲雀は、優がまた斜め方向に考えていることに気付き、顔をしかめたのだ。

 

「だ、だって……恭弥さん、避妊しないし……」

 

 消え入りそうな声で、顔を真っ赤にしながら言った優を見て、雲雀は天を仰いだ。

 

 その様子を見ていた神は、自業自得だなと本気で思った。マフィアの世界に居る優が月のものの安定のため避妊薬をこっそり飲んでいたことを雲雀が知ったことから始まる勘違いである。

 

 神は親の愛を教えることが出来なかった罪悪感と、このことで雲雀に対して怒りを覚えていたため優の勘違いを訂正せず協力していたのだ。ゆえに雲雀が優を探すのに一年半もかかったのである。

 

 そして、事態は悪化する。

 

 雲雀の反応に、優はやっぱりそうだったんだと肩を落としたのだ。雲雀が気付いた時にはすでに手遅れだと悟る。たとえ今から雲雀が否定しても、優は気を遣ってると勘違いするだろう。斜め方向へ勘違いした時の優を説得するには時間がかかる。そしてその勘違いに追い討ちをかけてしまった。どれだけ時間が必要になるのか。

 

「さっきも言いましたけど、恭弥さんは何も悪くないんです」

 

 そう話す優に嫌な予感がした。

 

「……優!」

 

 滅多に声を荒げない雲雀が名を呼んだことで、優は微笑んだ。

 

「だから少しでも『家族の愛』を知りたくて、仲の良いおじいちゃんとおばあちゃんの家に居候させてもらって、週に何度か保育園に通って『子ども』の育て方を知りたくて……付け焼刃かも知れないけど、全く役に立たないかもしれないけど、恭弥さんの隣に戻る自信は出来るかなと思って」

「初めから僕のところに帰ってくるつもりだったの?」

「隣、ずっとあけてくれるって約束してくれましたから」

 

 雲雀の嬉しそうな表情を見て、優は顔が真っ赤になった。いつまでたっても慣れそうにない。だけど、この顔をまた見ることが出来て、諦めるという判断をしなくて本当に良かったと優は思った。

 

 そして。

 

「お前ら飲むぞ! 今日はめでてぇ日だ」

 

 優と雲雀が上手くいったとわかった常連客が叫んだ。

 

 

 

 

 群れることが嫌いな雲雀だが、席を立つことはなかった。優にとってこの時間は必要だと雲雀は判断したのだ。だから出来るだけ雲雀は優しか目に映さないようにしていた。

 

 すると、雲雀の前に1人の常連客が座った。

 

「さっきは余計なお節介で悪かった」

 

 酒を注ぎながら謝る人物の顔を見て、先程声をかけてきた男だと気付く。

 

「おらぁ、あの子に1度強い酒を飲ましたことがあったんだよ。そん時に「恭弥さん」つって、泣きながら寝ちまってよ。忘れられない男がいるんだ。生半可な気持ちじゃあの子が幸せになれねぇと思ったんだ。それに優ちゃん、可愛いしなぁ。ころっと騙されねぇように、オレたちぁの誰かが釘を刺すのが決まりだったんだ」

 

 道理で老父が一品を出すスピードがはやかった。雲雀は礼を言わなかったが、常連客に酒を注いだ。常連客も「あんがとな!」といい、すぐに席を立った。

 

 それからは特に誰も雲雀の元に来ることもなく時間が過ぎていった。雲雀が人付き合いが嫌いだと彼らは気付いてるのだろう。

 

 だが、たとえ気付いていても優がお手洗いに消えたところを見て、雲雀の元へやってくる人物も居た。

 

「あの子を、お願いします」

「よろしくお願いします」

 

 頭を下げた老夫婦に雲雀はしっかりと頷いた。そして記憶に留めてもいいかなとも思った。この老夫婦は優の理想の夫婦である。そうでなけば、優はここに住もうとは思わなかったはずだ。

 

「どうかしたんですか?」

 

 ほんの少しだけ頬が赤い優が顔を出した。お手洗いから帰ってくると、3人が集まってるのがすぐに目に入り声をかけたのだ。

 

「そろそろ荷造りをしてきなさい」

「え……でも……」

「私達が保証する。あなたはもう大丈夫。荷造りは私も手伝いわ」

 

 老婦に背中を押され、優は戸惑うしかない。優がいきなり居なくなれば、この老夫婦は困るはずだ。保育園のこともある。

 

「そっちは私達が上手く話しておくわ。それに私達とはまた会える。だから今は彼のところに行きなさい。こういうのはタイミングを逃せば上手く行かないわ」

 

 涙を流しながらもそう助言してくれる人に、優は「ありがとう」というしかなかった。

 

 

 

 

 荷造りを終えた優を見るなり、雲雀は席に立った。

 

 常連客もわかっていたのだろう、優に別れの声をかける。中には雲雀にも声をかけた常連客も居た。内容からすると、雲雀がお金を払ったようだ。

 

「帰るよ」

「……はい!」

 

 いつまでたっても別れを惜しむと気付いてた雲雀は先に外に出て、待たせていたリムジンに乗り込んだ。しばらくすると優が店から出てきて、運転座席に居る草壁に頭を下げていた。

 

 そんなことする時間があれば、早く乗ればいいのに。と思いながら、雲雀は優を待つ。

 

 優が乗り込んだのを見て、車は発進した。窓を開け、老夫婦が見えなくなるまで優は手を振った。

 

 そして、優が窓を閉め、向き合った途端に雲雀は優を抱きしめていた。

 

「……お待たせしました」

「本当だよ」

 

 運転席と仕切りのあるリムジンを選んだ理由に優は気付いていたので、驚きはせず受け入れた。それに優も雲雀の温もりが恋しかったのだ。

 

「……優」

「……恭弥さん」

 

 普段の2人ならありえない。が、アジトに戻るまで我慢できず、2人は熱を求め合った。

 




……後味をぶち壊す後書きで申し訳ないんですが、これを書いて思いました。




草壁さん、かわいそう……(´;ω;`)ブワッ



時間をいただきますが、次はリクエストを書きたいと思います。

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