リボーンの世界に呼ばれてしまいました ~小話~   作:ちびっこ

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87話を書いて閃いた話。続きます。


第88話

 これはミルフィオーレの後始末が終わり、並盛の風紀が落ち着いたころに起きた事件だった。

 

 

 

「ごめんなさい」

 

 襖の前で控えていた草壁は、勢いよく飛び出していく優を見送るしか出来なかった。今日は雲雀から2人の未来に関する話をすると聞いていた。優が飛び出していったところを見ると上手く行かなかっただろうと推測できる。が、そんなわけがあるはずがない。雲雀が下手をうつとは思えない。何より草壁は2人の仲の良さを知っている。こんな事態になると予想できず、唖然とするしかなかった。

 

「……草壁」

 

 雲雀の低い声が聞こえ、草壁はハッとする。ギギギという音が聞こえそうなぐらい、ぎこちなく振り返る。

 

「恭、さん……」

 

 草壁は名を呼んだ。否、呼ばずにはいられなかった。

 

 表情には出ていないが、草壁には雲雀が心にダメージを負っているとわかったからだ。

 

 無理もない。籍を入れることに優が拒むと誰が想像ついただろうか。

 

「準備して」

「わかりました」

 

 口を出さずにもわかる。飛び出して行った優を探しに行くのだ。雲雀は今すぐ行きたいが、和服では探しにくいから着替えたいと思ったのだろう。

 

「それと頼んだよ」

「へい」

 

 優も和服だ。一般人を超える速度は出さないだろうが、おしゃぶりをさげている。情報操作は必須だった。

 

 

 

 

 一方、飛び出して行った優はまだ雲雀のアジト近くに居た。和服ではおしゃぶりを隠せないことに気付き、風で人の気配をよんで移動しているため、思ったように動けないのだ。

 

「どうしよう……」

『どうするもなにも、雲雀のところ戻ればいいだろ……』

 

 神の呆れたような声が頭に響くが、優はどうしてもそれが出来なかった。

 

『ちゃんと話せばあいつはわかる男だ』

 

 雲雀を褒めることなど滅多にしない神の言葉だったが、優は泣く一歩手前にも関わらず、頑なに首を横に振り続ける。

 

 神はこの頑固は誰に似たんだ、と遠い目をしていた。もっとも優はそのことを知らないが。

 

「優……?」

 

 声に驚き、優は顔をあげる。集中力をかいたつもりはなかった。

 

 ただ、風が彼の味方をした。耐え切れずに涙が出る。

 

「ええっ!? ど、どうしたの……?」

 

 10年たっても大事なところは変わらないツナの温かさに、優はすがるように抱きついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 コンコン。

 

 ツナが入室の許可を出すと、優が顔を出した。

 

「少しは落ち着いた?」

「うん。ありがとう、ツナ君。お風呂も貸してもらえて助かったよー」

 

 ツナは苦笑いする。抱きつかれた時はどうしようかと思いながらもそのまま受け止め、泣き止んだ途端に「お風呂はいりたい」と呟いた優にツナは完全に振り回されたのだ。

 

 それでもどこかさっぱりしたような表情の優を見て、違和感を感じてあの場所に行って良かったと心から思えた。

 

「ねぇ、ツナ君」

 

 泣いていた理由を話すだろうと思い、ツナは優にソファをすすめる。互いが席に着き、再び優が口を開いた。

 

「恭弥さんのこと、お願いね」

 

 視線が交差する。冗談で話す内容ではない。それがどういう意味かも優は十分理解している。だからツナは本音を言った。

 

「……まいったな」

 

 覚悟を決めた優を説得出来るとは思えない。雲雀を呼んだとしても、優は逃げるだろう。風呂に入り、優はヴェントの服に着替えてしまったのだから。

 

「オレにはどこへ行くのか教えてくれる?」

「ツナ君が連絡してくれれば、すぐに行くよ」

 

 ヴェントとして。

 

 続いた言葉にツナは目を伏せた。そして……雲雀さん、すみません。ツナは心の中で謝った。

 

「友達として聞くよ。心配だから教えてほしい。雲雀さんには絶対言わないから」

「……ツナ君はずるいなー」

 

 そういわれたら教えるしかないじゃんとブツブツと呟く優を見て、ツナはホッと息を吐く。これで誰も居場所を知らないという事態は避けれることが出来た。

 

「実はまだ決まってないんだ。だから決まったら連絡するよ」

「うん、わかった。でも本当に何も決まってないの?」

「やりたいことは決まってるかな。資格は学生の頃に取ってるから大丈夫だし。何をやりたいかはヒミツね」

 

 資格から絞ろうと一瞬考えたツナだったが、雲雀の役に立つかもしれないと優は大量に資格を持っていることを思い出し断念した。

 

「……上手くいけば、戻ってくるよ」

「それを聞いて安心したよ。優に頼まれたけど、ヒバリさんに咬み殺されるイメージしか出来なかったから」

 

 ツナが笑いながら言えば、優もつられて笑いだす。

 

 それを見てツナは大丈夫だと思えた。優は雲雀の元へ戻るために1度離れると決めたとわかったから。

 

「んー、いいタイミングだしやっておこうかな」

 

 ツナが何を?とたずねる前に、優はフードをかぶりツナの隣で膝を突いていた。

 

“僕は何があろうと、我が友『Ⅹ世』を護ると誓う”

 

 唖然とするツナの手をとり、優は手の甲に口付けをした。

 

「えええええ!?」

「あーすっきりしたー」

 

 ツナの動揺に気付かないのか、優は身体を伸ばしていた。

 

「ちょっと、優!?」

「ん?」

「『ん?』じゃないよ!!」

「だってツナ君が10代目を継いだのに、中立のままは守護者なのにずっと変だと思ってたんだよ。あ、心配しなくてもいいよ。XANXUSさんにはその話はもうしてるから」

 

 あっけらんと話す優にツナは声も出ない。

 

 たとえ手の甲だとしても雲雀さんが許すわけない、XANXUSに話した時は大丈夫だったのか、などと言いたいことは山ほどあったが、最終的に優はそういう奴だった……とツナは諦めたのだった。

 


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