リボーンの世界に呼ばれてしまいました ~小話~   作:ちびっこ

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時期系列は未来編開始前です。
詳しく言えば、優がボスのユニちゃんを発見したぐらい。
つまりミルフィオーレ結成前ですね。
三人称で大人雲雀さん視点よりで書きました。

そして「R15」です!!

もしかすると恥ずかしくなって消すかもしれませんw



第87話

 寝息を立てる女の目尻にキスを落とす。女は寝起きが悪いため、これぐらいでは起きないと男は知っている。まして女はこの男に体力を根こそぎ奪われた後なのだ。起きるはずもない。

 

 男は名残惜しそうに優しく抱きしめてから、腕の上にある女の頭を外し起き上がる。そして、女がぐっすり眠れるように、抱き枕を男がいた場所に置く。どちらかというと、男は女が自身以外のものを抱きしめる姿を見るは気に食わないが、これを忘れれば女は体力を完全に回復する前に起きてしまう。無茶をさせたと自覚がある男に……否。また無茶をさせてしまう確信があるので、男のためにも女の安眠を守るのだった。

 

「ん……」

 

 男が離れ、肌寒くなったのだろう。女は抱き枕を引き寄せた。……やはり良い気分ではない。しかし男は女の幸せそうな寝顔を見るのが好きなので、すぐにそれは視界から外れる。そして女の無防備な姿を見て悪戯心が湧いたのか、女から見えない首の後ろにしるしをつけた。

 

 流石に刺激が強かったのか、女は身じろぐ。

 

 しかし男は焦りもしなかった。なぜならこの程度なら目が覚まさないと確信してやっている。これぐらいは一度や二度じゃないのだ。

 

 出来栄えに満足したため優しく口付けし、男は部屋を出たのだった。

 

 

 

 

 男が居間に入ると、待っていた部下が報告し始める。男の補佐である女がこの場にいないことについて、部下は何も言わない。部下も女がここに来れない理由は察している。口に出すだけ野暮である。それにはっきり言うと部下は女の方に同情し、壊れないか心配している。第三者から見れば、男の愛はそれほど重いのだ。

 

 もっとも今日の話は女には聞かせたくない内容であるため、起き上がらせないようにしたのだろうが。

 

「やはり狙いはヴェントでした」

「そう」

 

 昼間のうちに、部下は女が席を離れてる隙に男に報告していたのだ。並盛でコソコソと嗅ぎまわり風紀を乱していた連中を捕まえた、と。

 

 女に知らせない理由はただ1つ。知ってしまえば、女は必ず動く。最悪の場合は、男の前から姿を消すだろう。男が大事にしている並盛の風紀を乱している原因のヴェントは女のことなのだから。

 

 そうなってしまえば、男はどうなるのか。……男の部下達には恐怖という言葉しか想像できなかった。

 

 言葉しか想像できない恐怖ほど恐ろしいものはないと、部下達は思っている。この件に関しては慎重にならざるを得ないのだ。

 

「吐かせたところ、ジッリョネロファミリーに所属するマフィアでした」

「……また、だね」

「へい。ですが、あまりにも怪しすぎます」

 

 部下の意見はもっともである。確かにヴェントは並盛でよく現れた。沢田綱吉の守護者である以上、彼の故郷である並盛に現れるのは不思議な話ではない。しかし早すぎるのだ。ヴェントがレアという情報が流れてから、時間がそれほど経ってはいない。あまりにも早すぎる。さらに真っ先に動いたのがジッリョネロファミリーで、捕まえるとあっさりとファミリーの名を吐いた。警戒するなという方が無理な話だ。

 

「……今度、イタリアに行くって言ってたよね?」

 

 部下は男が女の日程を確認したいわけじゃないと気付く。男がそのことを忘れるはずがないのだから。

 

「ジッリョネロファミリーの本部はイタリアにあります」

 

 男は眉間に皺を寄せた。休みを取れるように調整していたので、男の一存で中止すれば理由を確認してくるだろう。出来ればそれは避けたい。

 

 男は考える。女は1人で行くと言っていたのだ。一緒にイタリアへ行ったとしても、女は別行動するだろう。休みを作った意味がなくなるのだから。

 

 そのため女は護衛をつけようとしても必ず拒否する。尾行すれば、撒くだろう。身体能力が高いと自ら豪語できる男でも、女に逃げられる可能性が高い。気配を探るのは女の得意分野なのだから。

 

 それなら大丈夫なのかもしれないが、心配になる、ならないは別の話だ。

 

「……まわるんだよね?」

「っ! 恭さん! それは……!」

 

 部下は男の言いたいことを察し、声をあげる。あまりにも横暴だ。

 

「まわるんだよね?」

 

 部下の言葉は無視し、男は同じ言葉を繰り返す。この返答以外は有無を言わせない気だ。

 

 男は確認したのだ。女は休むために調整した。つまり女がいなくても問題なく仕事がまわるはずだ、と。

 

 部下は押し黙るしかない。

 

 休みを得るためにどれだけ仕事を増やしたのかは、男より部下の方が知っている。それほど男の補佐をしている女の仕事は多い。男が最も信頼しているのも理由の1つだ。

 

 もちろん、この場に居る部下も信頼度は高い。男が大事にしている女の身に関わることを任されているのだから。しかし、肩を並べて戦うことを許されている女の方が高いと断言できるのだ。

 

 その女が休むためにはどれだけの根回しが必要なのか。

 

 それを今、握りつぶそうとしている。いくら忠誠を誓ってても、簡単に頷けはしない。さらに握りつぶし方も問題だ。

 

 男は――今日と同じ方法をとるつもりだ。

 

 その方法が1番疑問にもたない。女は男の執着を知っている。そして最終的に許してしまうほど、女も男を愛している。だから――抱き潰す。

 

「僕だって加減はわかってるつもりだよ」

 

 ――嘘だ。

 

 部下は心の中で即答した。怒る、逃げる、そして動く気力さえ奪ってしまうつもりなのだ。何日も――。それを加減しているとは言わない。

 

「気付かれれば、危険です」

 

 部下は遠まわしに反対する。

 

 女が動けないほど抱き潰したと知られてしまえば、黙ってるはずがない。女を大事に思ってるのは男だけじゃないのだ。同じファミリーであるはずのボンゴレ10代目と守護者も動くだろう。マフィア云々の前に、彼らと女は友達なのだ。さらにボンゴレの暗殺独立部隊のヴァリアーも動く。女の能力を買っているのだから。

 

 部下の目からも見てもヴェントがレアという噂が流れてから、女が痩せたように思えるのだ。引く手が数多ある彼女がここに居るのは、男の側にいるのが1番女にとっていいと判断されているからだ。本来なら、温厚な10代目はまだしもヴァリアーと争いが起きてもおかしくはない。これ以上は、危険だ――。

 

「誰にも渡さない」

 

 男の瞳に炎が灯る。部下の助言は火に油を注ぐ形になってしまった。

 

 話は終わったと男が立ち上がる。これに慌てたのは部下だ。このような結果になるために言った訳ではないのだ。

 

「恭さんっ!!」

 

 声を荒げてまで止めようとする部下の言葉に男は一瞬止まる。

 

「……何度も使える方法じゃないから、考えといて」

 

 男は決してまわりが見えなくなったわけではなかった。

 

「任せてください。ですが――」

「わかってる」

 

 女がいつまでも男の考えに気付かないはずもない。いつか女は「必ず戻ってくる」と約束し行ってしまうだろう。もちろん出来るだけ妨害するつもりだが。

 

「……哲」

「へい」

「紙切れ一枚なら縛られてもいいと考え始めてる僕は変わったと思うかい?」

「――いいえ、恭さんは変わってません。学校や風紀と違い、まだ彼女は自由です。恭さんのものという書類がほしいという考えは当然でしょう」

 

 男は返事はかえさず、女のもとに向かったのだった。 

 




落ち着いた頃に後悔するかもしれないw

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