太陽の子、ゼウスの使い魔   作:ブライ

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八話 珍事 パート2

猿轡をされ簀巻きになっているギーシュを部屋に入れた光太郎、どうやらギーシュは気を失っているようだ。いきなりこんな物を持ってこられては流石に混乱するが、何がどうしてこうなったのかは聞かねばならない。

 

 

「……どうしたのよこれ」

 

「見ての通りギーシュ」

 

「じゃなくて!!どうしてこうなったのか聞いてるのよ!!!」

 

 

 

実はな……と先ほど起こった事を話すのだった。

 

〇〇〇〇〇〇〇

 

光太郎が飲んだワインを一口飲んだギーシュは少々遅くなったが、惚れ薬はその効力を発揮し、光太郎を見たギーシュは見事に光太郎にアタックを仕掛けたのだ。

 

いきなりギーシュに責めよられた光太郎は、酒癖でも悪いんだろうと思ったが、流石に男に言い寄られては気色が悪いので首に手刀を打ち気絶させたのだった。

 

 

「まったく急に何なんだよ、こういうのを絡み酒っていうのか」

 

 

疲れた顔で光太郎は言うが、その横にいるモンモランシーは唖然としていた。

 

 

「ねぇ貴方……貴方もワインを飲んだのよね?」

 

「ああ、さっきも言ったが飲んだぜ?」

 

 

光太郎からグラスを受け取り飲んだギーシュがおかしくなった、つまりは惚れ薬は失敗していた訳ではない、だが何で目の前のこの男は平気なのだろうか、とモンモランシーは不思議に思っていた。

 

 

ここで少し解説をするが、惑星エルピスにおいて戦う者に置けるステータスの表記に根性という数値がある。

 

気合が凄いとかそういう数値の事では無く、状態異常の耐性値の事を指すのだ。状態異常と一口に言っても様々だが例えば、盲目、マヒ、混乱、気絶、毒、など有るのだが根性が高ければ高いほど、その異常にかかり難いのだ。

 

そして光太郎の根性値はゼウスのメンバーの中でも群を抜いて高い。生で食べるとほぼ間違いなく食中毒を起こす、怪獣ツインテールの肉(ウルトラ大陸ではスーパーで売っている)を食っても平気だった元々の耐性力に、強化されたキングストーンの治癒能力を持ってすれば少々の毒や薬では彼に害を与えることはできない。

それにいざとなれば、もう一つ反則的な対処方法があるのだがそれは置いておく。

 

まぁ彼に限らず、致死性の猛毒を大量に噴射する怪人や怪獣が相手でも、アンチドーテあるから大丈夫だろう、で突っ込むゼウスのメンバーも十分おかしいのだが。

 

 

 

 

いきなりの事で気絶させてしまったが、目の前にいる金髪ロールの娘がギーシュの言っていた、彼女なのだろうと光太郎は思い、介抱を頼もうとしたのだが事態はそれで収まらなかった。

 

モンモランシーは惚れ薬の事を正直に光太郎に話したのだ。

 

 

「……つまり絡み酒じゃなくて、薬のせいで本気で告白してきたと?」

 

 

こくり、とうなずくモンモランシー。

 

 

「で……解除薬が無いと結構な時間このままだと?」

 

 

もう一度、うなずくモンモランシー。

 

 

「どどどどどーすんだよぉおおおお!!!」

 

 

光太郎はかつてモロボシ・ダンがウルトラセブンに変身するアイテムである【ウルトラアイ】を盗られた時よりも、ワンランク上の動揺っぷりを披露していた。

 

 

光太郎の苦悩も分からなくも無いが、モンモランシーも困っている、なぜならギーシュが自分だけを見るように仕掛けた惚れ薬で、他人にしかも男に向かわせてしまったのだから。

 

このままでは、自称【全ての女性を等しく愛でるバラ】に男色家疑惑を立ててしまう。

 

いやそれはそれで見てみたいような、と一瞬思ったがふざけてはいられない、こうなったら一分一秒でも速く解除薬を作らねばと思い直す。

 

モンモランシーは頭の中で作った惚れ薬の材料を思い出し、解除薬の材料をピックアップしていく、アレはある……これもある……と色々思い出していく、そして最も重要かつ最も入手が困難な物があった。

 

 

【水の精霊の涙】

 

 

と呼ばれる品物が無いのだ、これは水の精霊から直接譲り受ける必要のある秘薬であり、元々かなりの値が張るものだが、最近はさらに品揃えが悪い。

 

前までは水の精霊との交渉はモンモランシーの実家がやっていたのだが、彼女の父親が水の精霊の怒りをかってしまい、交渉役から降ろされてしまったのだ。

それ以降から精霊との交渉は誰がやっても難航する始末であるし、理由は知らないが最近はさらに大変になっているという。

 

 

幸いにも明日は地球で言う日曜日のような、虚無の曜日なので街に秘薬を買いに行く時間はある、だが行っても売っているかどうかは分からない。

 

こうなったら直接出向いて秘薬を譲り受けるしかない、とモンモランシーは決意したのだった。

 

 

〇〇〇〇〇〇〇

 

「で、あんたは秘薬を取りに行く手伝いをするってわけ?」

 

「ああ、ギーシュがこのままじゃあ洒落にならねぇ、それに馬車とかで行くよりも、アクロバッターを使えば速く着くからな」

 

 

それは確かにとルイズは思う、アクロバッターに一度乗った事がある身としては、アレの凄さは十分に知っている。

 

 

「まぁ分かったわよ、これの面倒を見ておけば良いのね」

 

 

普段だったら断ったりギャーギャー騒ぎたいところだが、流石に光太郎の状況を不憫に思い承諾したルイズであった。

 

 

「ありがとうなルイズ、じゃ行ってくるぜ」

 

 

光太郎はルイズに礼を言った後に部屋を出るのだった。

 

 

 

それから数時間後、モンモランシーを後ろに乗せた光太郎はアクロバッターを走らせ、水の精霊の住処である、ラグドリアン湖に到着したのだった。

 

 

ラグドリアン湖はガリアとトリステインとの国境を挟んだところに位置し、大きさは琵琶湖ほどの広さがある湖で、その美しさたるや、ハルケギニア全土を見回しても比較できる物はそうそう無いほどの物である。

 

 

「本当に速いのね、この乗り物」

 

「まーな、サンキューなアクロバッター」

 

 

光太郎の感謝を聞き、嬉しそうに目を光らせるアクロバッターであった。

 

余談だが、飲酒運転になりかねないが、走ってるアクロバッターの上に乗っているだけなので問題無い、と自分に言い聞かせる光太郎であった。

 

 

「じゃ、さっそく水の精霊を探さないとね」

 

 

とモンモランシーは自分の使い魔である、カエルのロビンに頼みこもうとした、ラグドリアン湖が水の精霊の住処とはいえ、この広大な湖の中では簡単には見つからない。

 

なのでまず使い魔に捜索を頼み、見つかったら自分の血をロビンに一滴かけて、精霊に自分のことを覚えているか話しかけ交渉しようとしたのだが、その時異変は起きた。

 

 

突如として目の前に大きな水柱が現れ、それから人の形のようなものが現れる、それは水の精霊であった。

いつもならば、穏やかとは言い難いが、そこまで威圧的でも無い水の精霊なのだが、今は素人でも分かるくらいの緊張感が漂っていた。

 

光を受ければ美しく輝くクリスタルのような幻想的な姿は、昔見た通りだがそのあまりの雰囲気の違いにモンモランシーは冷や汗が出る。

 

すると、水の精霊は光太郎に話かける。

 

 

「王の石を持つ者よ、何の目的でここに来たのだ」

 

 

返答しだいでは戦いになる、というくらいに敵意が滲み出ている。

 

光太郎は水の精霊の敵意よりも、【王の石】という言葉にピクっとした。

 

 

「なぁあんた……キングストーンの事を知っているのか?」

 

 

その光太郎の問いに対して水の精霊は静かに答える。

 

 

「その石の本来の名前は知らぬ、だがそれから感じる力から貴様はタダの単なる者では無いと判断した、太陽の力を持つ者よ」

 

 

さらに水の精霊は話を続ける。

 

 

「その上ガンダールヴとはな、貴様を何と呼んでいいのか最早我にも分からぬ」

 

 

その水の精霊の問いに光太郎はごくごく自然に答える。

 

 

「名前でいいんじゃねーのか?」

 

「ちょっと!!何言ってるのよ!!!」

 

 

光太郎としては普通に答えたのだが、モンモランシーは酷く取り乱し光太郎に話しかける、水の精霊は本来は人間の事を全て統一して【単なる者】と呼ぶのだ、精霊という高次元の存在からしてみれば、人間は全て同じに見えるのだろう、人間だってアリの行進を見てその全てのアリが一つ一つ違う存在だと思わないのと同じことだ。

 

しかし、交わした契約などは覚えてくれているあたり、ちゃんと個別で認識はして貰っているのだろう、だがそれでも自分たちより高位の存在であるために、大体の人間は精霊の前では謙り会話をする。

 

それを光太郎は自分の事を名前で呼べと言ったのだ、はっきり言ってハルケギニアの基準からすれば暴言である。

 

そのためにモンモランシーは酷く取り乱しているのだが、次に水の精霊が発した言葉で彼女の平常心のHPは完全にゼロとなる。

 

 

「名か……何と言うのだ?」

 

「光太郎、南 光太郎だ」

 

「コウタロウか、ではそう呼ぶとしよう」

 

 

水の精霊が名前を呼んだ!?と恐らく彼女の今までも人生で最もありえない事が目の前で起こったのだ、そのあまりの事にモンモランシーは完全にフリーズしてしまった。

 

 

「してコウタロウよ、貴様は何の目的でここに来たのだ?」

 

「ああ、それなんだけど」

 

 

光太郎はフリーズしている彼女を軽く揺らして正気に戻させる、モンモランシーは何とか意識を取り戻し、目的である水の精霊の涙を譲って欲しいと願い出たのだ。

 

 

「……分かった、我が体の一部を譲ろう」

 

「え?いいの?」

 

 

あまりにもあっさり譲ってくれると言ってくれたので、モンモランシーは驚いている、今日だけで何回驚かされたことか、だがそれはまだ終わりでは無かった。

 

 

「本当にいいのか?」

 

「構わんコウタロウよ、貴様がその気になれば我を滅ぼす事すら出来るはず、その力で脅さずに交渉に来ただけで信用に足る」

 

 

水の精霊を滅ぼす?何を言っているのかもう完全にモンモランシーは理解出来なかった、目の前の男はヴィリエとの決闘騒ぎの事で知ったが、精霊が自ら負けるだろうと言い出すなんて、ともう彼女は深く考えるのを放棄した。

 

 

「だけど悪いな、何か出来ることがあるならやるぜ?」

 

「ふむ、ならば我が頼みたいことが出来たのならば頼むとしよう」

 

 

そう言うと今度はモンモランシーの方に精霊は話かける。

 

 

「単なる者よ、あの男は少々腹立たしいが、娘の貴様ならば交渉してやらぬ事も無い」

 

「え……それって……」

 

「その代わりにコウタロウに頼みごとが出来たのならば、我の頼みを伝える役を任せる」

 

 

つまりはモンモランシ家に交渉役を戻すと言われているのだ、それは没落しかかっている実家にとっても自分にとっても大きなプラスになる話だった。

 

こうして目的の品と思いがけない副産物を手に入れて、二人は学院への帰路に着くのだった。

 

 

「いやぁ思ったよりも簡単に済んでよかったよかった」

 

 

帰り道で簡単に言っているがモンモランシーからすれば、この男は何者なのだろうとは思うが、気にしては行けない気がしたために少し黙っていたのだった。

 

 

 

 

 

光太郎とモンモランシーは無事に学院に到着すると、モンモランシーはすぐさま部屋に戻り解除薬の製作にかかった、水の精霊との交渉役についての連絡は後回しになるがギーシュを元に戻すために一秒でも無駄には出来ない。

 

光太郎は出来あがったら呼ぶと言われたので、取りあえずルイズの部屋に向かったのだがそこで彼が見た者は、酷く荒れた部屋に、すごく疲れた顔でがっくりと項垂れているルイズと黒焦げになっているギーシュだった。

 

 

「……何があったんだ?」

 

「コータロー……お帰りなさい……うん……聞かないで…………」

 

 

ルイズの周りからは怨霊でも沸いていそうなほどの暗いオーラが見える、いつもの気性の激しい彼女の姿は無く、まるで調子をこいて必殺技を連続で使いまくった後に、サイコガンダムをコールしたジェリド戦後の時のように覇気が全く無かった。

 

事の顛末は気絶から回復した、ギーシュが光太郎はどこだと騒ぎまくるので、対処に困ったルイズがギーシュを爆破するのだが何度も蘇り、爆発、復活、爆発、復活を延々と繰り返し今に至るのだった。

 

光太郎はどうなったのか非常に聞きたかったのだが、今聞いたら呪い殺されそうなほどルイズは憔悴しており、聞くのを仕方なく諦めた。一応ギーシュが心配だったので脈と呼吸を確かめたが無事だったのでホッと胸をなでおろした光太郎であった。

 

それから幾ばくか時間が経ち、モンモランシーが解除薬を作り終えてこの珍事は幕を下ろした。

 

なお一番の被害者のギーシュは、薬のせいとはいえ自分のやった珍行動(特に男に告白)が堪え、数日の間寝込むのだった。


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