ここは女子寮ルイズの部屋、基本的に寝泊まりは平民用の宿舎で済ませている光太郎だが、一応は使い魔なので大体はルイズの傍に居ることが多い。
「ねぇコータローあんた特技ある?」
「……変身?」
「それ以外で」
何を話しているのかと言うと、これから少し先に使い魔品評会という物が開かれるのだ。簡単に言えば使い魔の発表会のようなもので、各自で何かしらの芸を見せる、しかもそれに対して成績もつくのだ。
凄さだけならRXを見せれば良いのだろうが、話はそう単純には行かない。一応RXについて光太郎に聞いてみたのだが【正義のヒーロー仮面ライダー】ということしか言われなかったために、RXがどんなものかは結局分からなかった。
どういう原理か分からない物を大々的に口外したとしたら、もしかすると異端審問を受けるかもしれないし、アカデミーと呼ばれる研究機関に実験材料として連れて行かれるかもしれない。
なので光太郎にはRXをあまり口外しないように言ってある、ついでにRXを目撃したタバサ、キュルケ、ギーシュにも口裏を合わせてもらうようにしてもらっている。
だがRXを見せないとなると使い魔品評会のネタが無くなってしまうのだ、なので光太郎に特技はないか聞いて見たのだった。
ちなみにアカデミーの事について軽く説明した時に、
「なぁそのアカデミーってのはどこにあるんだ?」
「何するつもりなの?」
「叩き潰してくる」
と言う会話があった。ルイズの説明で少々誤解してしまった、光太郎がかなり真面目に答えたのだ、【ひょっとしたら連れて行かれて実験材料にされちゃうかも】など聞くと彼等の中で該当する物はアレしかない。
ショッカー
デストロン
ゴッド
ゲドン
デルザー
ネオショッカー
バダン
ゴルゴム
などの悪の秘密結社の数々である。人を誘拐しては怪人に改造したり悪の限りを尽くした、ライダー大陸のテロリスト達と同列に思ってしまい。
秘密結社アカデミー、どこの世界にもこういう悪の組織はいるものなんだな。
という判断の元にアカデミーを壊滅させに行こうとしたのだ。
光太郎の言葉を聞き慌てて追加の説明をするルイズ、アカデミーには実の姉が勤めているのだ。もし本当に光太郎が乗り込んで行ったら、ゆるさん!!とか言いながら壊滅する光景しか浮かばない。
確かに非人道的な事も多少はあるだろうが、彼の言っているような悪の組織な訳がないのだ。
ルイズの説明を受けて取りあえずは納得し引き下がる光太郎であった。
この時は何とか収まったが、もし品評会でRXを見せて、アカデミーの研究者が光太郎を連れて行こうとしようものなら想像が現実になりかねない、だがせっかく今までの評価を覆せそうな機会を逃すのは惜しい、なので何をするかを煮詰めるのだった。
「じゃあ、こんなのはどうだ?」
「そうね、それなら良いかも知れないわね」
光太郎が示した特技はこっちの世界ならば非常に珍しいものだし、それに誤魔化しも効くものだった。こんな調子で今日も楽しく学院生活を満喫している光太郎であった。
光太郎はルイズとの会話も終わり部屋を出て行く、向かう先は厨房の近くでマキ割りをやるのだ、一応ルイズの使い魔という立場なので、別にこんな他の雑用などしなくてもいいのだが、賄いを食べさせもらっている以上何か手伝いをしないと悪いと思ったのだ。働かざるもの食うべからず、彼は結構律儀なのだ。
「全く、あいつを呼んでから苦労するわ……」
そんな事を言いつつもルイズの顔には笑みが浮かぶ、光太郎の軽い行動でちょくちょく腹が立っているのは事実だが、基本的に一緒の生活は楽しいのだ。光太郎は魔法を使えないことを馬鹿にしない、ルイズを落ちこぼれという目線で見ないで、一人の人として接してくれるのだ。いつも悪意を向けられて生活してきただけにそれは非常に心地の良い物であった。
同年代の女子とも殆ど話せなかったし、男子なんてもっと接点が無い、ルイズも年頃の女の子なので他者とのお喋りだってしたいし、恋愛だって人並みに興味はある。光太郎が恋愛対象になるのかと言われれはちょっと微妙なところだが、近くにいて安心感が持てる存在であることに間違いは無い。
まぁ光太郎が他の女性と話していてイラつくのは態度が違うからだ、例えばシエスタやキュルケなどと話す場合は女性と見なして話す感じなのだが、ルイズと話す場合はどちらかと言うと妹に話しかけるような態度で、女性として見られていない感じがするのだ。
同年代でこういう差を付けられたらそりゃあ少しはムッとするだろう、ずっと一緒にいて口説かれ続けたらそれはそれで嫌だろうが、何もされないというのもプライドが傷つく。
自分だって整った顔はしているという自覚はある、美少女と言う分類に入っているはずだと思う。
と色々考えが頭をよぎり、ハッと思い頭を振って、何を考えてるのよ私は!!という具合に考えを吹き飛ばすのだった。
「よっと、おりゃ!!」
「おお、相変わらず、すげぇな我らの勇者は」
光太郎は素手でマキを叩き割る、手伝いだが訓練も兼ねている、少しは体を動かしていないとすぐに鈍ってしまうものなのだ。
「まぁこれくらいは軽いさ」
「おー言うねぇ、なぁそんな腕をどうやって身に付けたんだい?」
「訓練……いや特訓?の賜物かな、まぁでもあれは人には進められないな」
前にも言ったが仮面ライダーの訓練は凄まじい、例えばゼウスのメンバーとは出会っていないスカイライダーこと筑波洋から聞いた話によると。
特訓を開始する、と本郷先輩の号令の元。
いきなり変身している先輩達に殴られ。
崖から転がり落ち。
アマゾン先輩にガチで格闘戦を挑まれ。
ストロンガー先輩が鉄球を振り回し近付いてきて。
殺しに来ているとしか思えない様な技をV3先輩が大量に披露し。
まさかのダブルライダーによる仕上げが待っていた。
との事だ。
その時に顔を青くして話してくれたのできっと本当なんだろう、後輩は先輩に強化のための特訓を頼みに行くのは伝統だが、行くなら覚悟を持って行くように、と言われたものだ。
自分もおやっさんの特訓を受けてはいるが、はたから聞くと集団リンチにしか聞こえないような特訓は受けてはいない。過酷な物は多かったが、すごい勢いで回転させられたくらいなので運が良かったのだろう。
マルトーと軽く話しながらもマキ割りを済ませる、マキ割り以外にも力仕事なども手伝うことがあり、厨房の皆からも光太郎は好かれている。
そして今日はこれでいいと言われ宿舎に戻ろうとした、すると誰かに声をかけられたのだ。
「やぁコータロー」
「ん?あーギーシュだっけ?」
「ちょっと時間あるかい?」
と言われ光太郎は彼について行った。
「いやね、確かに僕も移り気なところは多いさ、でも少しは許してくれてもいいと思うんだよ」
「まぁなんだ、よく分かるぜ」
二人はすっかり出来上がっていた、愚痴を肴にした飲みである、少々貴族らしく無いと言えばそうだが鬱憤は誰だってたまる物なのだ、ギーシュは初対面の印象から少しずれて、光太郎は自分に近い物をが有ると思い話しかけたのだった。
話は二股がばれたことに始まり、モンモランシーという本命が話しすら聞いてくれなくなっていた事などだった。
「可愛い女の子が居たら声をかけるのは紳士……いや男子だったら当然じゃないか」
「だよなぁ、でも俺がやっても笑われる事が多いんだけど……」
「君の場合は少し黙っていたほうが効果があるのかもしれないけどね」
まぁ嫉妬している彼女もそれはそれで愛らしい、とか他人が聞けばこそばゆくなりそうな言葉が飛んでいるが飲み会などそんな物だ、後は時間があったら一緒に特訓しないか?とかそんな話をしつつ時間は過ぎていった。
ちなみに光太郎は20過ぎなので酒はちゃんと飲める。こっちの世界では未成年の飲酒という概念が無いために、酒なんか飲んでいいのか?と聞いたら、何を言っているの?という顔をされたのだった。
暫く彼と飲みあかし、いい時間になったところで一本の小さなワインをギーシュが取り出した。
「そりゃなんだ?」
「モンモランシーから前に貰った物でね、上物らしいからどうだい?」
最後の品と言うことで二人はそれを飲む、だがこれが珍事の引き金になるのだった。
〇〇〇〇〇〇〇
彼女モンモランシーこと、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシは一応ギーシュの恋人という位置にいる。
なぜ一応なのかというと、二股をしていたギーシュに対して別れを告げたからだ。だがサヨナラと言って分かれても、実際にプッツリ縁を切ったわけでは無く機会があればよりは戻したいと思っているのだ。
それにギーシュは浮気性と言うよりも、美しい人には美しいと言うし、全ての女の子を大切にしようという気持ちが根底にある、そのため息をするように女性を口説いたりするのだが、嫌味はそこまで感じさせないのだ、まぁ本気でかまってくれる人は少ないが。
だが付き合っている恋人としては、自分がいるのに他人に声をかけられては好い気はしないだろう、何だかんだ言ってもギーシュを大切な恋人だと思っているのには変わりは無い、だからイライラするのは仕方が無い事だった。
だが余りにも彼が態度を改めないので強攻策に彼女はうって出る事にした、彼女は趣味で秘薬や香水を作っている、その知識を用いてある禁制の品物を作ったのだ。
それは何かというとずばり【惚れ薬】
これを飲んだものは最初に見た者にベタ惚れするという強力な秘薬、どれくらい凄いかというと、ツンもクールも即デレになるほどの物だ、しかもキャラが崩壊しようが周りの目があろうがお構いなしで入れ込むというトンでもない代物なのだ。
そして彼女はワインに細工し、栓を空けて最初に注いだ時に惚れ薬が混じるようにした物を彼に送ったのだ、だが問題はその後に起こった。
例の二股がばれた事件である、それのせいで彼女は激怒し、すっかり自分が仕込んだ物を忘れていたのだ、そして数日が経ち頭が冷えた事でようやくそれを思い出したのだ。
プレゼントしてから結構時間がたったが何も変化が無いと言うことは、まだワインを空けていないと言う事だ、だが悠長に構えているわけにはいかない。万が一飲んだ後に誰かを見ればその人にゾッコンになってしまうのだから。
モンモランシーは急いでギーシュの部屋に行ったが彼は見つからず学院を探し回った、そして見つけた先には、自分の送ったワインを飲んでいる、ギーシュとルイズの使い魔がいた。
〇〇〇〇〇〇〇
「ん~なんか変な味しないかこれ?」
「そうかね?僕は美味しいと思うけど?」
「いや、飲んでみろってほれ」
「じゃあ……ん?」
光太郎からグラスを貰い一口飲んだところで、モンモランシーが息を切らせながら走ってきたのだ。
「やぁモンモランシー!もしかして僕を」
「ちょっと黙ってて!!ねぇ今そのワインを飲んだ?」
かなりの剣幕で話してくる彼女に若干押されながらも光太郎は答える。
「ああ、飲んだけど?」
「……ちょっと目を閉じて机にふせて」
「え?なんで?」
「いいから早く!!」
そう言われて渋々言うとおりにする光太郎であった、惚れ薬は飲んでから最初に見た者に効果が表れる、だが飲んですぐ、という訳では無く飲んでから若干のタイムラグが存在するためにまずは人を見せないようにしたのだ。
「モンモランシー一体何をしているんだね?」
「ちょっと待ってて、今考えてるから」
モンモランシー必死になって頭を働かせた、関係無い人物に惚れ薬を飲ませてしまった以上は解除薬を作らねばならない。だが解除薬だってタダでは無いし何よりちょちょいっと作れる物ではない、作っている間ずっと彼に目隠しして生活して貰うのも気が引ける。
色々と考えているモンモランシーだったが、彼女は気付いていなかった、自分が飲ませようとしたターゲットも惚れ薬を飲んでいることに。
「いつまでこうしていれば良いんだよ?」
「まぁコータローちょっと待っててあげてくれよ、モンモランシーが……」
そう言って光太郎の方を見るギーシュ、すると胸に妙な高鳴りがするのが分かる、自分自身で解明できない感情がうごめいている。
何か恍惚とした表情で光太郎の方を見て固まっているギーシュが不自然だったのでモンモランシーが声をかける。
「ねぇ何固まってるのよ?」
「…………」
「ねぇちょっと何か言いなさいよ!!」
「美しい……」
「は?」
「モンモランシー、今僕は新たなる扉を開いたような気がするよ」
そう言って光太郎の方に歩み寄る、まさかこれはと嫌な予感が頭をよぎるのだった。
〇〇〇〇〇〇〇
場所は再び女子寮のルイズの部屋、いつもは夜遅くなる場合は翌朝まで光太郎は来ないものなのだが、今日は違った。
「何よどうしたの?」
「ちょっとすまん、用が出来たから外出てくる、それで悪いんだが……」
「悪いんだが?」
「こいつを預かっててくれないか?」
と光太郎は簀巻きにされ猿轡をしたギーシュを取りだしたのだった。