太陽の子、ゼウスの使い魔   作:ブライ

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十一話 出会う力と技の男

「先輩よりももっと大変?」

 

「そうなんだけどな、でも今は時間がねぇから後でで良いんだけどさ……」

 

ルイズの問いに少々バツが悪そうに返す光太郎、もし銀色の悪魔が自分の思っている奴だったとしたら、どう説明すればいいのか悩む、彼と光太郎の因縁、彼らを襲った悲劇、どれをとっても軽々しく話せる内容では無いし出来る事なら言いたく無い事でもある。

 

五万年に一度に選ばれた世紀王の二人、ブラックサンとシャドームーン

 

創世王等というくそったれな存在に運命を弄ばれた自分と兄弟同然のように育ってきた親友、創世王を倒しても決して戻る事の無かった自分達、色々な事が頭をよぎるがまずは任務をやらねばならない。

 

光太郎がうんうん唸っているとルイズの方から話かける。

 

 

「まぁ言いたく無いなら聞かないわよ、それよりも任務の方を何とかしなくちゃ」

 

 

少々不機嫌になりながらもルイズは光太郎の事を察し話を切り替えてくれた、それに感謝しこれからの事を話しながら二人は歩を進めていった。

 

盗賊の話からすると、ニューカッスル城近辺にはまだ多くの人間がいるだろう、赤い仮面のせいで混乱があったとしても、状況の確認をせずに部隊を撤退させる訳が無い、最低でも王と皇太子の死体くらいは捜すだろう、そして戦闘があってからまだ数時間だとすれば探索を打ち切るにはまだ早すぎる、なので城に近づくにつれて慎重になる必要があった。

 

 

ここからが潜入の本番だ、そして難易度は非常に高い、もしアルビオンの王権派が生きていたとしても、数千数万単位の人間が探している中で、そいつらよりも先にしかも二人で捜索しているのを見つからずに出会わねばならない、単純に考えてもそれは難しいを通り越し無理というものだ。だがそれでもやらなければならない。

 

 

「まだ城は見えねぇけどそろそろ気をつけないとな」

 

 

そう言って光太郎はルイズの方をちらりと見る、今更だが自分達は非常に目立つ、光太郎はこの世界では殆ど見ない黒髪に黒い瞳に革ジャンにジーパンだ、ルイズはピンク色の長髪に貴族ですと言わんばかりの格好である、マントに学院の制服である、光太郎は珍しい格好をしている平民、ルイズは戦場に居るのが似つかわしく無い貴族の女の子、これでは目立つなという方が無理な話だ。

 

どこかでローブでも調達してくればよかったかと考えている時に

 

 

「動くな!!」

 

と後ろから声が聞こえた、しまったと思い後ろを振り向いた、そしてその場に居たのは

 

 

「か、風見先輩……」

 

「ふっ、やはりお前だったか光太郎、さっきのは軽いジョークだ流してくれ」

 

 

と自分たちよりもはるかに目立つ、黒い服に帽子に赤いシャツでギターケースを背負っている風見志郎がそこにいた。

 

 

 

 

「やっぱり先輩もこっちに来てたんですね!!」

 

「それはこっちのセリフだ、まさかお前もここに居るとは思わなかったぞ」

 

 

光太郎は志郎に近づき笑顔で話しかける、嬉しさの余り少々興奮気味で忘れているが聞かねばならない事がある、それを切り出したのはルイズだ。

 

 

「コータロー、その人がさっき言ってた先輩なわけ?」

 

「ああ、そうだぜ」

 

「そう、じゃあいきなりでなんだけど、あんたがアルビオン王権派を襲ったって本当なの?」

 

ルイズは少し怯えながらも強気の口調で話す、もしそれが本当だったのならば少なく見積もっても数百の貴族が立ち向かっても、目の前の男に歯が立たなかった事になる、ならば自分の事を殺すことなど造作も無い事だろう、だが姫様からの大事な任務を前にして弱気になる訳にはいかなかった、そのルイズの言葉を聞いて志郎はキョトンとした顔をしたが、すぐに態度を改めて答える。

 

 

「失礼ながらレディ、貴方様のお名前は?」

 

 

先ほどまで光太郎にやっていた様な言葉使いでは無く、まるで一流の執事の様な態度でルイズに話しかける、その変貌ぶりに少々戸惑ってしまったがルイズは名乗りを上げる。

 

 

「ルイズ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」

 

 

ルイズの名乗りを聞きピクッと眉を動かす志郎、

 

 

「ヴァリエール……もしかいたしますとトリステインの公爵家のご令嬢で?」

 

 

何でそんな人物と光太郎が一緒にいるんだ?と光太郎に聞く志郎、そしてそれについて簡単に説明をするのだった。

 

 

「なるほど、使い魔として呼ばれた訳か、ならそんなやんごとなき身分のレディと光太郎が一緒に居ても不思議じゃないな。」

 

「質問には答えたわよ、だから今度はこっちの質問に答えなさいよ!!」

 

「ふっ分かった分かった、先に結論から言うと、俺は城を壊したが王権派の連中は全員無事だ」

 

 

その返答に二人はホッとする、しかしそうなると盗賊の話と食い違いが出てくる、城に突入したら死体の山があったはずだ、それはどういう事だろう、と志郎に聞くと

 

 

「なるほど、噂が良い感じに広まっているな、ならば動く好機かもしれないな」

 

「どういう事なのよ?」

 

「そうだな、まず俺が城に行った時の事から話すか」

 

困惑する二人を前に、志郎は説明を始めるのだった。

 

 

 

〇〇〇〇〇〇〇

 

「分かっているな、デルフ」

 

「おおよ、任せときな、ダンナ!!」

 

ギターケースから取り出した剣を王に向かって投げつける志郎、そしてその剣は制止する事も叶わず王の胸へと突き刺さったのだ。

 

 

「貴様ぁ!!許さん!!!!」

 

 

幾人もの貴族が杖を取り出し構える、だが志郎はそんな状態であっても話しを続ける。

 

 

「ふっ良く見てみろよ、お前たちの王様の姿をな……なぁ何で剣が刺さっているのに血が出て無いんだ?」

 

 

その言葉を聞き貴族達は王の方を見る、すると確かに血が出ていない、そして王自身も戸惑っていた。

 

 

「こ、これは……一体、なぜ痛みを感じぬ?……なんだ身体じゅうを巡るこの悪寒は……」

 

「それは既にあんたが死んでいるからさ」

 

その言葉に周りはざわつく、だがそんな事は無視するかのように志郎は王に近づき話を進める。

 

 

「生憎と俺もまだどんな代物を使っているのか分かっていないのだが、連中は人を操るマジック・アイテムを手に入れているらしい、生きている者は心を操られ、死んでいる者は遺体を生きているかのように動かされるようだ、お前たちにも見に覚えは無いか?」

 

 

そう言われてみれば思い当たる節はいくつかある、現王権に不満を持ち反旗を翻す貴族とているだろうが、ここまで一気に裏切る者がいるだろうか、そうそれはあり得ないくらいに。

 

そして死体を操ると言う方も、兵士たちからの噂話程度ならば聞き覚えがある事なのだ、矢が刺さっても魔法で身を焼かれても止まらぬ不死身の敵がいると。

 

「そして王様よ、あんたも操られていたのさ、死体になってだけどな、自覚も出来ない状態で作戦の立案や配備なんかを王が決めて、裏でレコン・キスタが知っている、これでは勝てないのも道理だ、そして今のあんたはその刺さっている剣、名前はデルフリンガー、こいつは魔法を吸収する能力がある、こいつに刺された事で一時的に体の感覚が戻ってきているんだろう」

 

 

「おいおいダンナ、ネタばらしを簡単にするなよ」

 

 

と剣が刺さっている状態で話しだす、このデルフリンガーと言うのはインテリジェンスソードと言う意識をもった、マジック・ウェポンである。

 

 

 

「そんな馬鹿な……では朕は自ら国を滅ぼしたとでも言うのか……」

 

「残酷な事だが事実だ、操られていたとはいえな……だから最初に言わせて貰ったのさ、お前達の敵を倒しに来たってな」

 

 

志郎は帽子を深く被り周りを見据える、そして広場の人間全てに聞こえるように語りだす。

 

 

「酷い話だ、王のために死ね、と言えば離れていく者もいただろうが、自分に従う部下達を心から愛している王だったからこそ、忠誠を尽くす立派な貴族は残った訳だ、そしてその忠誠心を利用して反旗を翻しそうな危険人物を纏めて一掃できる、自分で言ってても胸糞悪くなる作戦だな」

 

 

レコン・キスタはそれほどまでに卑劣な事を仕掛けていると話す、ここで命を張って戦う事こそが既に相手の望む事であり、華々しく散ってやろうではないかという先ほどまでの意気込みや矜持が全て踏みにじられた様な感覚に全ての貴族達は陥っていた。

 

王が逃げてくれ、と遠まわしに言ってくれたと言うのに、忠義を尽くすためにあえて王の命令を無視しこの場に残った貴族全ての想いと誇りを侮辱されたのだ、これでは死んでも死にきれぬというものだ。

 

すると王がいきなり胸に刺さった剣を抜き、貴族達の前に歩き出す、元々かなりの高齢であり足元もおぼつかなくなっていた王だったが、しっかりと歩を進める。

 

 

「この王に今日まで従ってくれたお前たちに命令する、この王の最後の命令だ」

 

 

「今度は、聞こえぬとか言わさぬぞ、奴らは卑劣を通り越し悪鬼の様な事を平気で行ってきた、そして朕もその下劣非道な行為の道具と化していた、すまぬこれでは無能を通り越し疫病神よ」

 

 

自重気味に話す王であったが、その姿は自分たちが信じ従ってきた王の姿であった、周りの貴族達は目に涙を浮かべながら最後の言葉を聴き逃すまいと王を見据える。

 

 

「頼む、この疫病神の王のためにこれ以上犠牲を出さないでくれ、どれだけ屈辱だろうとも、生恥を曝そうとも生き延びてくれ、奴らが我らを完全に消す事が望みならばそれを防ぐ事が一矢報いることにもなろう」

 

 

その言葉に周りは押し黙ってしまう、王の命令には従いたい、だが敵の策略により死体として動かされてきた王を見捨てて自分達だけで生き延びるのは、それも耐えがたい事であった。

 

 

「どうした!!聞こえなかったとは言わさぬと言ったではないか!!!」

 

 

その周りの反応を見て王は一括する、そして貴族達は次々に杖を取りだして空に掲げる。

 

 

「「「杖に掛けて!!」」」

 

 

その光景を見て王は笑みを浮かべる、そして今度はウェールズの方に歩み寄る。

 

 

「父上……」

 

 

本来で有れば息子とはいえ、このような場であれば、父では無く王と呼ばなければならないのだが、急に力が抜けたようにもたれかかったので思わず父と呼んでしまったのだ。

 

「むぅ、どうやら時間が無いようだ、先ほどまで感じていた悪寒が消えていく、いや……悪寒すら無くなっていく…………これが命が無くなるということなのだろうな……」

 

その言葉に思わず息を飲む、だが王は話し続ける。

 

「すまぬな、内乱を収められるどころか、王の責務を果たせぬまま朽ちる事になってしまった……残った者達をたの……む……ぞ……」

 

そう言い残し王はウェールズの腕の中で息を引き取った、その光景に周りの人間達はとうとうこらえきれずに頬から涙がこぼれ落ちる、そして少し申し訳なさそうに志郎は口を開く。

 

 

「感傷に浸らせてやりたいのは山々なんだがな、王の命令じゃないが俺もあんたらに死なれるとまずいんでね、さっそくで悪いが少し動いて貰いたい」

 

 

〇〇〇〇〇〇〇

 

「と、いう訳で俺はその後に王権派達を逃がすための芝居を打ったのさ」

 

「芝居?」

 

「ああ、何せ兵力差は100倍以上と言ってもニューカッスル城に残っている戦力は全員メイジ、5万対数百人と言えば少なく思えるが、数百人のメイジの集団と言えば強力な戦力な訳だろう?そんなのが生き残っていると分かったらどうなる?」

 

「それは……探し出すでしょうね、どんな事をしても」

 

「ああその通りだ、しかも別の国へ亡命したと分かればそれが戦争を仕掛ける口実にもなりかねない、もっとも奴らの事だから難癖つけて戦いを仕掛けたがるだろうが、それを早める要因は少ない方が良い、だから俺は全員が死んだ事に見せかける事にしたのさ、こいつでな」

 

と言って志郎は一体の人形の様な物を取りだす、それを見て光太郎は首をかしげるが、ルイズは何となくだがそれの正体に気が付いた。

 

「それって……ひょっとしてスキルニル?」

 

「御名答、その通り」

 

スキルニルとは人とそっくりな人形になるマジック・アイテムである、使用方法は対象者の血をスキルニルに染み込ませる事で発動する、そっくりな人形になると言っても動かない人形では無く、動くし喋りもする、もっともディテクト・マジック等を使えばばれてしまうのだが、逆に言えばそのような探知魔法を使用しなければれない、というほどの精度で人に化けれる代物なのだ。

 

 

「こいつで、偽物をいくつも作りそれを死体に見せかける、そして敵さんに目撃させて追っ払った後に、証拠を調べられない様に俺が城をふっ飛ばして芝居は完了と言うわけだ。」

 

「逆ダブルタイフーンでも使えば一発って訳ですね」

 

逆ダブルタイフーンとはV3の必殺技で強力な風を発生させるものだ、しかしその反面一回使用すれば3時間は変身不可能になるという両刃の剣でもある、だが確かにその威力を持ってすれば城を消し飛ばすくらし造作も無い事だろう。

 

二人の会話に少し突っ込みたくなったルイズであったが、城を吹き飛ばすくらいなら出来るかも知れないと思ってしまっている辺りもう思考が若干ずれ始めている。まぁ風の使い手ならば身内に一人それくらいの事が出来そうな人が居るのだがそこは控えておく。

 

 

「俺は王権派の人間に生き延びて貰いたいと話したが、いきなりやってきた俺を信用してもらうのは少々難しい、なにせ俺は王に引導を渡しちまった男だからな、だから信用してもらうためにちょっと手土産を持っていくことにしたのさ」

 

「手土産って何を持っていくんですか?」

 

「あそこに浮かんでいる船だ」

 

「ふねぇ!?あんたまさか乗り込んで奪う気なの!!」

 

そうだ、と志郎は頷く、

 

「信用して貰うのには行動が一番だ、今は王権派の皆は城の地下に居る」

 

 

ニューカッスル城の地下には秘密の地下通路が存在する、そこには船が停泊出来るようになっており、それが有ったからこそ、イーグル号という船1隻だけだが保持出来ていたといえる。

 

現在は城とそこから地下へ通じる道ごと志郎がぶっ飛ばしたために、地上からそこへ行く術は無い、だが船が停泊している場所にいれば、そこへ到達できる術は無いのだから最高の避難場所と言える。

 

 

「既に非戦闘員を乗せてイーグル号は出発した、だから俺はあいつらに逃げ道を用意する、と約束してそこに残って貰ったのさ、結構骨だったが王の最後の命令である、生き延びてくれという言葉が無かったらきつかったな」

 

「だけど先輩……奪うのはなんとかなると思いますけど、あんなの動かせるんですか?」

 

「ああ問題無い、俺にかかればあれくらいどうにでもなる、それに光太郎、お前を見つけられたのは嬉しい誤算だ、お前が居ればより安全に船を持って行ける、それにお前たちも王権派に用があるんだろう?ついでだから手伝ってくれないか?」

 

その言葉にちょっと悩むが、元々ウェールズには合わないといけないので光太郎とルイズは承諾したのだった。

 

狙う船は城を包囲している艦体の中でも比較的小さい物を狙った、欲を言えば最も大きく旗艦であるレキシントン号と言う船を狙いたい物だが、時間がかかりすぎるのでそれは出来ない。

 

「まずは船を占拠しなけりゃならん、それは俺がどうにでも出来る、だから光太郎お前は……」

 

と光太郎に作戦を告げ、志郎は船に行く準備をする、ごそごそと胸から何か人形の様な物を取りだした、するとそれは瞬く間に大きくなり、龍の様な物へと変貌する。

 

「これは?」

 

「ガーゴイルって奴でな、中々便利だぞ」

 

そう言うと志郎はガーゴイルに飛び乗り、じゃあ後は話した通りに頼む、と言って空へと昇っていった。

 

 

「あんたもそうだけど、先輩もかなり無茶苦茶ね、一人で船を奪いに行くなんて……」

 

「無茶苦茶で悪かったな、でも良かった風見先輩に会えて……」

 

 

二人は少し笑みをこぼしながら話す、心配ごとが無くなったので緊張が解けるのは無理もなかった、だが今の彼は気付いていなかったが、実は風見志郎もとんでもない事に巻き込まれているのだ。

 

 

ガーゴイルに跨り船へ近付いていく志郎、彼の被る帽子の下の額からは光太郎の左手と似たルーンが光っていたのだった。


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