太陽の子、ゼウスの使い魔   作:ブライ

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十話 潜入アルビオン大陸

ルイズの案内で光太郎はアクロバッターを走らせる、目指す場所はラ・ロシェールという町だ。浮遊大陸アルビオンに向かうためには、空を渡る船に乗る必要がある。ラ・ロシェールは港町でアルビオンに近いためにそこへ向かったのだった。

 

 

「ん?……この道どっかで通ったよーな……」

 

「何?来た事あるの?」

 

「んーどうだったかな……まぁ思い出せないならしょうがねーさ」

 

 

そんな会話をしながら数十分後、学院からならば馬で二日近くかかる距離だったが、アクロバッターにかかればなんのその、道中特に問題も無く二人はラ・ロシェールに到着したのだった。

 

 

「おー石で出来た家か……こりゃすげーな」

 

 

光太郎は町の光景に見惚れていた、高層ビルや近未来的な建物はエルピスには多くあるが、トリステインの建物はそれとは違った良さがある。

 

学院の塔や調度品はとても品のある物であったし、魔法っぽい事を色々していたゴルゴムの連中のオドロオロドしい住処と違い、豪華だがいやらしさを出さない場所であった。

 

その学院とは違うがこの町も中々に風情のある光景をしていたのだ。石をくりぬき作った家々は趣を感じさせる。

 

 

遠くからでも見える大きな木は、ユグドラシルの枯れ木でそこに幾つもの船が入っておりそこが目的地だ。

 

 

「コータロー、あんまりキョロキョロしないの」

 

 

と辺りを見学していた光太郎はルイズに注意をされる、だが仕方が無いだろう、誰だって初めて見る風景には関心を引かれる物だ、しかもこんなファンタジー丸出しの美しい町を見てはキョロキョロ見回すのも無理もなかった。

 

 

「ああ、悪い悪い」

 

 

光太郎はルイズの注意を受け見学をやめ、二人は船着き場へ向かう。まずはいつアルビオンへ向かう船が出るのかを知っておかねばならない、この世界にはしっかりとした運航表という物は存在しないのだ。特にアルビオンへ行くとなると出航時間は非常に曖昧になる。

 

何故ならアルビオンは空中に浮遊しているだけでなく、ゆっくりとだが移動もしている、なので船を出す時は燃料の節約その他もろもろの理由でアルビオンが近い方が良い、だから船の出る時間は最適の時に出すのが基本となり、下手をするとアルビオンに向かう船が無くて一日二日ここで足止めを食らう事になるかも知れないのだ。

 

がだ今回は運が良かった、丁度今から出向する船が有ると言うのだ、いきなり夜に支度をさせられ出てきた甲斐が有ったと言う物だ。

 

二人はホッと胸をなで下ろし、貴族が乗るのには少々質が悪いが、貨物船に乗せてもらう事に成功したのだった。

 

 

 

そして貨物船の中で二人は今回の行動を煮詰め始めた。

 

 

「まずは、その王権派ってのに会わねーとな」

 

「そうなのよね、今はどれだけ劣勢なのか分からないけど、拠点は少なくとも残っているはずだから、そこが分かればいいのだけれど……」

 

「だけど仮に分かっても、簡単には入れて貰えなさそうだな」

 

「どうしてよ?」

 

「だって戦争中なんだぜ、いきなりトリステインの使者です、って怪しい奴二人が来たって相手してもらえるかわからないだろ?」

 

 

光太郎は前にゼウスで世界中を飛び回っていた事を思い出していた。ゼウスは非常に有名であり権力も強く、ゼウスと言うだけで様々な便宜を図ってくれる事が多かった。だがそんなゼウスでも立場が微妙な位置に居る組織等はかかわりを持ちたくないと言われたり、非協力的な者だって割と居たのだ。

 

町を襲っているテロリストを退治します、とかなら簡単に許可が下りたし、警官達も協力してくれた。

 

だが今回はゼウスの名前も、共通で使える権力も存在しない、それがこういう時にどれだけ不利な事かはいくら光太郎とは言え想像するのは難しくなかった。

 

 

 

「勝手に潜入するのもどうかと思うしな、それにやるのは久々だし」

 

 

 

一応ゼウスの時には、様々な場所に侵入し任務を行う事が多かったが、その殆どが正面突破ばかりであり、隠密行動など本当に数えるほどしかやってなかったのだ。まぁガンダムにウルトラマンに仮面ライダーという、惑星エルピスの正義の味方博覧会状態なゼウスに目立つなという方が難しいのだが。

 

だが今回はIDの偽造とかはやらなくても良いのでその辺はありがたかった。

 

 

「あーあ全身タイツ着てイーイー言ってりゃ怪しまれ無い組織なら、潜入するのは楽勝なんだけどな」

 

「何よそれ……そんな奴ら居る訳無いでしょ……」

 

 

ルイズは呆れたように答えるが、しかし光太郎は非常に真面目に返す。

 

 

「俺たちはそんな奴らと長年戦ってたんだけどな、ほら、前に話したショッカーって奴ら、あれの下っ端の格好がそんなのだったんだよ」

 

 

「……それ本当に悪の秘密結社なの?」

 

 

「悪の組織なのは間違い無いんだけど、秘密結社、って部分は今思えば微妙だなぁ、これ見よがしに見張りは立てるし、人員整理でクビにされて他の秘密結社に再就職した奴はいるし……何よりもショッカーって名前はライダー大陸の人間ならガキでも知ってるくらい知名度があったぜ」

 

 

光太郎の言っていることは事実である、ショッカーの戦闘員と思わしき者が見張りに立っていて、そこから秘密基地が分かった事などが何回かあった。しかも本郷先輩がかつて対処した事件には、とある人が釣りをしていたらいきなり湖から怪人が現れて。

 

 

「貴様!!ここがショッカーの秘密基地と知ってのことか!!!」

 

 

とか言って釣り人を殺害し、そこから怪しいと事件が発覚し、基地が見つかるという何とも何処かネジが抜けてるような所があるのがショッカーなのだ。

 

だが通常配備の軍隊のMS程度の装備では、ショッカーには対抗出来ないくらいに戦闘能力は高いので一般人にも軍隊にも恐れられているのは本当の事である。

 

それに世界征服を目的としているので、恐怖の代名詞として有名になるのなら逆に良いと思っている部分も結構あり、ライダー大陸の悪の秘密結社は名前を広めたがるという矛盾した状況になっていたりもする。

 

ちょっと脱線したがルイズは話しを戻す、実は姫様に身分を証明する書留とウェールズへの手紙を貰い、ついでに路銀にすれば良いと水のルビーと呼ばれる、指輪も渡されていた。

 

なので場所さえ分かれば自分たちの事は分かって貰えると光太郎に告げ、アルビオンに着くまでの間に二人は仮眠を取るのだった。

 

 

 

 

 

そして数時間後、二人を乗せた船はアルビオンを目視出来る距離にまで近づいたのだった。

 

 

「……すげぇ」

 

 

ルイズに起こされ、窓からアルビオンを見た光太郎は一言そう言って黙っていた。

 

雲の隙間から現れた巨大な陸地、その陸地から川でもあるのだろう、いくつもの水が滴り落ち霧となって行く、その光景はまるで天国と見紛うほどの美しさであり、別名、白の国と言われる所以で有った。

 

 

そのまま船は港へ到着し二人は下船する、すると何やら辺りが騒がしい、何が有ったのか聞くと思いもよらぬ答えが返ってきた。

 

 

「へぇ何でも少し前に、大きな戦闘があった用でして……」

 

 

この船は商船であり、火の秘薬である硫黄を積んでおり、戦争中のこの国へ売りに来たのだが、無駄になってしまったかもと追加で言っていたが、二人はそれどころじゃなかった。

 

「コータロー!!」

 

「ああ、急ぐぜ!!」

 

アクロバッターに乗って、二人は急いでその戦闘が有ったという場所へ向かうのだった。

 

 

 

〇〇〇〇〇〇〇

 

 

 

光太郎たちがアルビオンに着く数時間前の事、ここはアルビオンの城の一つニューカッスル城、ここにアルビオンの現政権である王権派が在住している。

 

本来は首都ロンディニウムにある、王城ハヴィランド宮殿にいるべき王権派なのだが、敗戦に次ぐ敗戦で

人員は減り撤退戦を繰り返し、今はここにいる非戦闘員を含め1000にも満たない数が戦力の全てであった。

 

そしてその内で戦える者など500も居ないだろう、そんな絶望が漂う状況の中で王権派の貴族達は最後の夜を楽しんでいた。

 

 

周囲をレコン・キスタに包囲され、しかも敵の兵力は五万を超え空中戦力の戦艦も幾つも見える、王権派に残った物はイーグル号という船一つであり、この船には翌日に非戦闘員を乗せて脱出させる予定なので、実質的にはもう一つも船は残っていないことになる。

 

そしてレコン・キスタ側から翌朝に総攻撃を仕掛けるとの通告があったのだ。アルビオンの現国王のジェームズ一世は、今日まで自分に付いてきてくれた全ての者に感謝をし、暇を与えると言って逃がそうとしたのだが、戦闘員たる貴族達は王を見捨てることを良しとせずに、皆で残ることを決意したのだった。

 

そして彼らは最後の夜を楽しみ、貴族の誇りを恥知らずどもに見せてやろうでは無いか、と士気を高めていた。

 

その光景にジェームズ一世も皇太子であるウェールズ・テューダーも、笑みを浮かべながら貴族達の最後の晩餐に参加していたが、その時に異変は起こった。

 

 

いきなりギターの音が鳴り響き、若干……音の外れた歌が聞こえてきて、一人の男が現れる。

 

 

「招待状は持っていないが、パーティーに参加させて貰おうか」

 

 

帽子を被り黒い服に身を包んだ男がそう言うと、周りの貴族達はその男を取り囲み杖を抜く、ここに居るのは敗北し続けたと言えど、幾つもの激戦を生き残った強者である。

そんな連中に取り囲まれているというのに、男は余裕の態度を崩さなかった。

 

 

「貴様……何者だ!!どうやってここまで来たというのだ!!!」

 

「ふっ短期は損気だぜ、俺の用件は一つだけさ」

 

 

男はそう言うと、少し溜めて口を開ける

 

 

「お前達の敵を倒しに来た」

 

 

いきなりの発言に周囲はざわつく、敵?敵とは何だ?敵ならば外に居るレコン・キスタの事では無いのか?と困惑の表情を浮かべる。

 

すると男は背負っているギターケースに手を突っ込む。

 

 

「分かっているな、デルフ」

 

「おおよ、任せときな、ダンナ!!」

 

 

そう言った瞬間にいきなり手を抜き取る、すると手には本の剣を握っており、制止する暇も無く投げつけたのだ、そしてその先にはジェームズ一世が居たのだった。

 

〇〇〇〇〇〇〇

 

 

光太郎とルイズは戦闘が有ったと言う場所へ向かっていた、その最中にはまだ数日も経っていないだろうという、戦場特有の被害が至る所にあり、それを見て気分が悪くなっていた。

 

不幸中の幸いと言うかまだ放置された死体などには出会ってないが、初めて戦場を見るルイズにはそれでも刺激が強すぎる光景には間違い無い。

 

一応彼女もオーク鬼などの人間に被害をもたらす亜人の駆除などは、実家で聞いているし見たこともあるが、人と人の戦場というのはそれとは違う酷さがある。出来ることならばこんな場所にルイズを連れてきたくは無かった光太郎だが、彼女でなければ身分の証明が出来ないし、何より先ほどの彼女の覚悟を踏みにじることになる、なので周りの警戒もしっかりしている光太郎であった。

 

すると光太郎は、速度を落としゆっくり停車する。

 

 

「どうしたの?」

 

「……誰か居るな、悪いがルイズちょっとそこに居てくれ」

 

 

一応念のために、と言って、一本の銀色で赤い取っ手が付いている棒を持ち出して一人で前に歩き出した、すると行き成り彼に向かって幾つもの矢が飛んできたのだった。

 

 

 

ヒッと一瞬息を飲んだルイズであったが、光太郎は持っていった棒を振り回し矢をたたき落とす、良く見ると光太郎の左手のルーンが光り輝いていた。

 

 

以前に武器の様な物を持つと、体が軽くなり持っている物の使用用途が分かると言う事があった。これは何なのか?とルイズに聞くと、例えば猫とかを使い魔にした時に人語を理解すること等があるので、何か特殊能力が追加されたのではないのだろうかという事だ。

 

そしてガンダールヴという使い魔については良く分からないが、伝説の内容から察するに、武器を持つと能力を発揮するのではないか、という結論に至るのだった。

 

そしてそれから色々と実験をした結果、太い木の枝とかは鈍器に分類されそうだが駄目で、学院の衛兵から借りた刀とかは大丈夫だった、つまりは凶器にはなりえても、武器として生まれた物でなければ効果は出ないと言う事で実験は終了した。

 

 

そして今の彼が持っている棒は、紛れも無く武器として生まれた物だ。

 

 

「随分なご挨拶だな、隠れてねぇで出てきやがれ!!」

 

 

光太郎がそう叫ぶが反応は無い、それは当然だろう、放った矢を全て棒で叩き落とした男の前に馬鹿正直に出てくるはずもない。

 

 

「……出てこねぇつもりなら」

 

 

そういうと光太郎は取っ手の部分についているH、S、R、LのボタンのLを押す、すると棒が一気に伸び10M程になる。

 

 

「俺が叩き出してやるぜ!!」

 

 

光太郎はそれを勢いよく振り回し周りにある岩や木を薙ぎ払う。

 

彼の持っている棒の名前はライドル、仮面ライダーXの代名詞とも言える武器である。なぜ彼がこれを持っているかというと、話は海底都市を襲ったテロリストの事件にまで遡る。

 

そのテロリストの主犯であるアポロガイストというゴッドの幹部の男がバリアーを張っていた、そのバリアーは強力で光太郎達の攻撃が全て防がれてしまうほどであった。

 

そのバリアーを突破するために、仮面ライダーXの全エネルギーをライドルに集約して放ち、バリアーをオーバーフローさせるという作戦を行ったのだ。

 

その時のどさくさで実は返しそびれていたのだ、そしてついでに返しに行こうと思い持っていたのだが、その最中にルイズに召喚されたのだ。

 

 

Xこと神 敬介には悪いが、返すのは遅れそうですと、心の中で謝る光太郎であった。

 

 

そしてこのライドルという武器は使い勝手が良い、様々な形態に変化させられるのもさることながら現在の状況において最も都合がいいのが、強力な武器であると同時に殺傷能力を抑えられる点がすぐれている。

 

本気で殴りかかれば怪人の頭を叩き割る、ライドル脳天割りも出来るほどの頑丈さを備えているが、それはライダーの力を利用したからこそ発揮出来る威力であり、上手く使いこなせば、ただの固い棒というレベルにまで威力を下げた扱いが出来るのだ。

 

RXのリボルケイン等では武器自体が既にとんでもない殺傷能力を持っているので、光太郎にとって身近に持ててしかも強力なライドルの存在はありがたかった。

 

振り回したライドルによって隠れていた物を破壊され、十数人の人間が居たのが分かる、すると我先にと様々な方向に逃げていく。光太郎はその中の一人を追いかけ捕まえる、本来なら全員捕まえたいところだが、あまりルイズから離れるのもどうかと思い、捕まえた一人の男を引きずり戻ってくる。

 

ルイズも本来で有ればライドルについて聞きたいところなのだが、光太郎のことなので便利な武器の一つでも持っているのだろうし、今はそれどころでは無いと理解はしているが、後で聞こうと思ったのだった。

 

 

「さぁ何で俺たちを襲いやがった!!吐かねぇと、どたまかち割って脳みそストローでチューチューするぞこらぁ!!!」

 

 

胸倉を掴みグラグラ揺らしながら質問をする光太郎、少々お子様には聞かせられないセリフだが頭に血が上った時の彼は大体こんな感じである。まぁケツの穴から手を突っ込んで奥歯ガタガタいわせちゃる、というのと同様に昔によく使われていた脅し文句であるだけなのだが、女の子を前にして言うセリフでは無いのは間違いない。

 

 

「ほ、本当に理由はねぇんだよ!!貴族派の連中のとこで雇われてたんだが、ちょいと不都合があって元の家業に戻ってたんだよ……」

 

「へぇつまり元の稼業ってのは?」

 

「盗賊とかでしょうね」

 

 

ルイズの盗賊という言葉に、ピクッと反応し掴んでいる腕に力が入る光太郎、それに伴い汗をダラダラ流しながら怯えている男。

 

ちなみにゼウスはテロリストなどに対し、逮捕だけでなく処刑の権限も与えられている。無論この世界で元の権限もくそも無いのだが、人攫いに盗みと非人道的な事をしまくっているであろう盗賊をそのまま見逃すほど愚かではない。

 

光太郎達が彼の処置について考えていると、彼がつぶやき始めた

 

 

「ちくしょう……銀色の悪魔といい、赤い仮面の奴といい運がねぇぜ…………」

 

「銀色の悪魔?それに赤い仮面?おいちょっと詳しく教えろ」

 

 

それについて話し出す、アルビオンでの内戦はもう結構な時間が経過しているのだが、戦局が完全に傾いたのは割と最近の話しで、それから可笑しな噂を耳にするようになったのだとか。

 

戦場という特異な空間では、恐怖やストレスなどで現実味の無い噂などが広まったりするのは良くある話しなのだが、銀色の悪魔という話しは実際に被害があった話しだというのだ。

 

 

現在のレコン・キスタには金目的の傭兵なども多く参加しており、少し統制がとれていないような部隊だと元々の家業に走る者もいる。それは盗賊行為、考えてみれば起こりえる話なのだが、貴族の住んでいる場所を攻め落とせば当然金目の物が手に入る、だが毎度毎度落とせるとは限らないし、そういう美味しい場面にめぐり合えなかった者だっている。

 

そういう者たちが傭兵としての正規の報酬以外に欲をかけば一般人を襲うことになる、しかも既にそこを納めているはずの敵を倒した後にやるので、自分たちを退治する邪魔者がいない状態で安全に事をなせるのだ。

 

そんな問題ばかり起こしていたら、組織としても成り立たなそうなものだが、既に数万以上に膨れ上がった寄せ集め軍団を速やかに完全管理するのは難しい、そしてそんな奴らが噂の発信源となったのだ。

 

その内容とは、とある部隊が森に入った後に全滅したというのだ、生き残った人間から得た情報だと

銀色の体に赤く光る剣を持った悪魔に出会ったというのだ。

 

始めは何を言っているのかと思ったが、20人程度いた人間が全滅したとあっては流石に無視することは出来ない。だがすぐ先に王権派との決戦が控えていたために不干渉ということで決着させたのだ。

 

 

「それが銀色の悪魔の噂さ、本当に悪魔かどうかはしらねぇが、そいつのせいで人数が減っちまったから、前線に回されちまったしな」

 

「……銀色に赤い剣……まさかな」

 

話しを聞いて思い浮かぶ一人の男、最も多く戦った最強の宿敵であると同時に最も親しい友であった男の姿が頭をよぎる。

 

 

「どうしたのコータロー?」

 

「ん?……ああちょっと考え事をな、んで赤い仮面の方は?」

 

「……そいつのせいで大変な目にあったぜ」

 

 

それは数時間前のことであった、話では500以下程度の戦力しかなく、レコン・キスタ側の総兵力は五万以上、兵力差は100倍以上という勝ち戦どころか虐殺にしかならないであろうという、ニューカッスル城の戦いでそれは起こった。

 

空中には戦艦、城の周りは大量の兵隊が包囲、逃げ道を完全に封鎖した状態で突入をしたのだが、ニューカッスル城の中は異様な状況であった。

 

人の気配はまるで無くまるで廃墟の様であった、そもそも部隊が突入しようとしていた時に抵抗が無かった時点でおかしいのだが、それよりももっと異常な光景に出くわしたのだった。

 

城の広間にたどり着いた時に部隊は息を飲んだ、周りに横たわる死体の山、しかも全てが腕がへし折れていたり体が異様な方向に曲がっていたりした、オーク鬼などに殴られてもここまで酷くはならないだろうと言うような有様であった。

 

 

そしてそんな地獄の様な広間にそいつは居た、赤い仮面に緑色の目、白と緑を基調とした体、虫を思わせるその存在は広場の真ん中で佇んでいた。

 

 

「……まだいたのか…………」

 

 

それがそう呟く、そして少し屈みこんだかと思うと、とんでもない速度で蹴りが飛んできたのだ、幸いにして人には当たらなかったが壁に大穴が空き土煙が舞う、そしてその穴から出てくる男。

 

傭兵達は持っている武器で襲いかかり、魔法が使える者は魔法を使い攻撃を仕掛けるが、武器はへし折られ魔法は避けられていく、傭兵達は恐怖に駆られ逃げ出す者も出始めた。

 

 

 

 

「それでだ……俺も逃げ出した口なんだが、、急に城の中から竜巻が起こってよぉ、城をボロボロにしやがったのさ」

 

 

「それで……生き残った人はいたの?」

 

 

「さぁな、突入した奴らは大体平気だったみてぇだが、元々中に居た王権派の連中はどれくらい生き残ってたのかはさっぱりだ、あれじゃあ全滅してても可笑しくねぇよ、あいつのせいで俺達の報酬もパーさ」

 

その返答にルイズは押し黙ってしまうが、光太郎はさっきの銀色の悪魔以上に驚いていた。

 

 

「赤い仮面に竜巻……先輩もこっちに?…………でも先輩がそんな事する訳……」

 

「どうしたのよブツブツ言って?」

 

「なぁ……ひょっとしたらその赤い仮面ってのは俺の知り合いかもしれねぇ」

 

「じゃ、俺はこれで……」

 

 

光太郎がルイズに話している隙に逃げようとしたのだが、見逃すはずも無く、ライドルで頭を殴り気絶させる。

 

 

「コイツはどうするか……こんな状況じゃぁどこに持っていけばいいんだか……」

 

「そうね、だけど私たちも任務の最中だから連れては行けないわ」

 

 

二人はやむおえず、という感じで男の服を縛り上げ、「こいつは盗賊です」と札を用意しそのまま置いていった。そしてアクロバッターでは目立つので二人は歩いてニューカッスル城を取りあえずの目的地とした。

現在分かっている唯一の情報なのだ、もう遅いかも知れないが少しでも進展が有るのならば行くしかないと思ったのだった。

 

この男の言う事を信じるのであれば、王権派の生き残りはもう居ないだろう、そしてもしその場所にウェールズ皇太子が居たのならば状況は最悪だ。まぁ手紙もウェールズごと無くなったのならば都合が良いといえばそれまでなのだが、そんな非情な事を思えるほど二人は達観していなかったし、それに状況を確認せずに帰る訳にもいかない。

 

 

「ねぇコータロー、さっき言ってた知り合いかもってどういう事よ?」

 

歩きながらルイズは光太郎に話しかける、先ほどから気になっていたのだ、王権派を襲い全滅させた男が光太郎の知っている人だと言うのだからそれは当然である。

 

 

「……出来れば間違いであって欲しいんだ……赤い仮面で緑と白の体って言うと、俺の先輩に丁度一人そんな人が居るんだ」

 

「先輩?ひょっとしてカメンライダーの先輩?」

 

「ああ、その先輩の名前は、風見志郎、仮面ライダー三番目の男で、仮面ライダーV3に変身する、世界一を世界一持っている人なんだ」

 

「世界一を世界一持っている?」

 

「そうだな、ちょっと説明するか」

 

 

光太郎は風見志郎の事について話す、力と技を兼ね備えた超人で、一時期ゼウスと行動を共にした事もあったが、もうこいつ一人でいいんじゃないかな、と思えるほどの実力を披露した男、そして様々な特技を持っており、何かを自慢すると必ずそれ以上の実力を持っている多芸を絵に描いた様な人なのだ。

 

 

「手品の達人、吹き矢の達人、槍の達人、剣の達人、アメフトの達人、俺の聞いたとこだともっと多くの達人を相手にして勝ってきたらしい」

 

「……す、凄い人ね」

 

「ああ、だけどそんな凄い人でも大事な親友を守れなかったらしいんだ」

 

 

V3の親友、飛鳥五郎、彼はデストロンに殺された、それ以降風見志郎は復讐にとらわれて恨みを晴らすためだけに戦い続けたのだ。

 

 

「それで、最後に仇をうってどこかに行っちまったんだ、だからひょっとしたらこっちに来ていたのかも知れないけど……でもいくら先輩が変わっちまったってそんな虐殺なんかするなんて思えないんだよ……」

 

 

光太郎の声にはいつもの張りが無い、行方が分からない先輩に会えるかも知れないというのは嬉しいのだが、それ以上にこの事件はショックが大きい。

 

 

「事情は分かったわ、なら益々目的を果たさなきゃいけないわね」

 

「ルイズ……」

 

「もし姫様の想い人を殺したのならそいつは許せないわよ、だけどねそうと決まった訳じゃないし、あんたが信用している先輩なんでしょ?だったら理由があるかも知れないし、情報が足りない今で判断は出来ないわ、だから急いで調べましょ」

 

 

ルイズは光太郎を元気づけるために笑顔で話しかける、今まで光太郎にはお世話に成りっぱなしだったのでこういう時だけでも力になりたかったのだ、それを見た光太郎は目をパチクリさせて

 

 

「お前……そんな顔で笑えるんだな……」

 

「ちょっと!!人が慰めてるのに感想はそれなの!!!」

 

 

光太郎と出会ってからもうそれなりに時間が経つが、ルイズの笑みを見たのは初めてであった。無論全く笑わないと言う訳で無い、一緒に生活をしていれば「面白そう」とかそんなプラスの感情の顔は見る事が出来るし、微笑は見た事があるが、こんな笑みを見た事は無かったのだった、そしてそれだけに効果は抜群だった。

 

 

「悪い悪い、ちょっと驚いただけさ、ありがとうよ、確かにクヨクヨしている場合じゃねーな」

 

 

光太郎は顔をバシっと叩き、首を振って気持ちを入れ直す、ご主人さまに心配をかけちまったな、と苦笑する。

 

 

「それとさ、時間が有ったら銀色の悪魔の方も調べてもいいか?」

 

「何よそっちも先輩なわけ?」

 

「いや、こっちは違うんだ、でももし本物だったら有る意味で先輩よりも大変だ」

 

 

光太郎は出来ればこちらとも会いたかった、何故なら銀色の悪魔は彼の人生で最も深くかかわった人物なのだから。


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