太陽の子、ゼウスの使い魔   作:ブライ

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九話 戦乱の初め

学院の生活もすっかり慣れていた光太郎は交流も増えていた。

 

 

まず使い魔召喚の儀式に立ち会ったコルベールとも良く話していた、アクロバッターのことやら持っている物の話だけでなく、オスマンの言っていた元の世界へ帰る方法も彼が探していたのだ。

 

残念な事だがかなりの蔵書量のある、学院の図書館でもまだ成果は出なかった。そもそも呼び出した使い魔を帰すなど聞いたことも無い話なので、そう簡単には見つからないだろうと申し訳なさそうに光太郎に言ったのだった。

 

光太郎は特に気にもせずにコルベールと打ち解けて行った、ついでに図書館にも付き添ったが、確かに惑星エルピスにも中々無いような大きな図書館であったが、こちらの世界の文字が読めない上に、元々勉強する気が無い光太郎はちょっと見学しただけで終わってしまった。

 

コルベール以外にも、一緒にフーケの討伐に出向いたキュルケやタバサとも話す機会が何度かあった。

 

キュルケはともかくタバサが他の人間と居るのは非常に珍しかった、それは彼女の事情にもよるのだがそれは置いておき、タバサは光太郎自身の事を良く聞いていた。

 

それは仮面ライダーの戦いの話しとゼウスで戦った話しだ、初めはタバサが聞いてきた事に軽く話しただけだったのだが、ルイズもキュルケも興味が湧いて話に参加するようになった、今では夜のちょっとした娯楽の様になっている。

 

流石に人体実験されたとかそんな事は話さないが、悪の非道に立ち向かう正義の味方の事なら自分を含め腐るほどネタが有る。あまり話すのが上手では無いが、実体験を元にした光太郎の話しはそこいらの小説以上に空想的だが、本当にあった事だと思える内容で、非常に楽しい時間を提供出来ていたのだ。

 

 

そんな時間を過ごしながら使い魔品評会の日がやって来たのだった。

 

 

「準備は良いわねコータロー」

 

「おうよ、まぁ頑張るさ」

 

 

光太郎はアクロバッターに跨りヘルメットを被る、彼が披露するのはアクロバッターによる華麗なる走行だ。光太郎は遠い東方の地から呼ばれたという事になっている、そしてその東方の地にある珍しいマジック・アイテムであるバイクなる物を操る使い魔というのが今回のネタだ。

 

 

「しっかし結構な人が集まるもんだな」

 

「そうね……」

 

「やっぱりそのお姫様ってのが原因かね」

 

 

実は今日の使い魔品評会にはトリステインの王女、アンリエッタ姫殿下が見物なさるというのだ。

何でもゲルマニアからの訪問からの帰還の最中に寄ったとの事だ、物はついでという事なのか、それとも予定を合わせてここに来たのかは知らないが、とんでもないサプライズゲストの登場に学院は沸き立った。

 

光太郎も馬車から手を振る姫殿下を見て、周りがトリステインの誇る一輪の花とか言うのも分かる。姫とか言われて想像したのが、アムロを気にいっていた小さいお嬢ちゃんだったので良い意味で裏切られたと光太郎は思ったのだった。

 

 

「まぁ緊張すんのは分かるけどよ、芸を見せるのは俺なんだからさ、少しは力を抜いとけよ」

 

「わ、わかってるわよ!!」

 

 

そう言われて少し元気が戻るルイズであった、そしていよいよルイズの番である。

 

 

「じゃあ行くわよコータロー」

 

「了解、じゃ派手に行くかご主人様よ!!」

 

 

そして光太郎は大勢の貴族達の前で走行を披露した、踏み台を使っての大ジャンプやウィリー走行などの魅せる技もいくつか披露し、中々の評判であった。

 

それから少々時間が経ち、夜となりルイズの部屋で光太郎とルイズは話し合っていた。

 

 

「まぁ惜しかったな」

 

「そうね、でもこれなら仕方ないわね」

 

 

光太郎の結果は三位であった、見た事の無い東方のマジック・アイテムという事で受けは良かったのだが、誰も見た事が無さ過ぎて、どう評価すればいいのかが伸び悩んだところだった。

 

 

 

結果はタバサの使い魔である風竜であるシルフィードが一位であり、二位はキュルケのサラマンダーのフレイムであった。この辺は分かりやすい強力な使い魔という事で評価しやすかったのだろう、いつもならば仇敵であるツェルプストーに負けたとあっては憤慨するところなのだろうが、キュルケにはもう不思議とあまり腹が立たなくなっていた。

 

光太郎と一緒に良く話す仲になってしまったせいなのだろうが、付き合ってみると今まで自分を馬鹿にし続けた他の生徒とは違い、彼女のカラかい方にはちょっと優しさがあった、ルイズは明確には理解していないが、何となくそれを感じ取り【家】で無く【彼女】として見るのならばそんなに悪い奴では無いと考え方を変えていたのだった。

 

それに今までに比べたらドベから三位への昇格なのだ、それで光太郎に当たり散らしては貴族の礼を欠くと言うものだ。

 

 

「しっかり見ててくれたかしら……」

 

 

ボソッとルイズは呟く、光太郎を召喚してから随分と助けられている、フーケのゴーレムから守ってくれた事、自分への罵倒を止めてくれた事、そして今日の事、一人で悩んで出口の見えなかった少し前とは違い、今はとても明るい日々を過ごしている。

 

魔法が出来なくて悔しい思いをしてきた事を知っている、唯一の友人と言っても良かったあの人は自分の成功を見ていてくれたのかなと思う。

 

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「……なんでもないわよ」

 

 

でもいつかはこの初めての成功以外でもちゃんと魔法が使えるようになりたい、そしたら立派な貴族と言えるようになるわよね、と続けてルイズは思った。

 

 

「じゃあ俺はそろそろ宿舎に行く……」

 

「どうしたの?」

 

「誰か来たらしいな」

 

 

そう光太郎が言うと、ドアがノックされる、こんな時間に誰だろうと思いながらドアを開けるルイズであった。

 

するとローブで身を隠した誰かが部屋に入ってきてすぐにドアを閉めて、杖を取りだしディテクト・マジックを唱えたのだった。

 

それを終えるとローブを外しながら、「誰が聞き耳を立てているのか分かりませんからね」と謎の人物は答える。

 

その顔を見た瞬間にルイズは目を丸くして答えた。

 

 

「ア、アンリエッタ姫殿下……」

 

 

それは先ほどまで思っていた、唯一の友であったアンリエッタであった。

 

 

 

 

ルイズとアンリエッタはまるで舞台の上の様な喋り方をしていたが、二人とも非常に嬉しそうに話していた。内容から察するにどうやら二人は幼馴染であるのだが、立場がどーのこーのでこんなややこしい話し方になっているのだろうと光太郎は思い、めんどくさくなったので会話には参加しなかった。なにせ

 

 

しかしこのアンリエッタ姫殿下は遠くで見ても美人だと思ったが、近くで見るとより一層美しかった。

顔立ちは整っているし、スタイルも良い、完璧なボン、キュ、ボンだ、しかも何よりもこんなにはしゃいでいるのに、気品が溢れているというのが凄い。

 

いつもならば迷わず口説きにかかるところだが、こんなに喜んで話し合っている彼女を邪魔するのは悪い、それにもし自分が口説こうものならルイズによる恐怖の爆発が待っているだろう。

 

以前にあんまりにも理不尽な爆発だったので光太郎もムキになって変身したことがあった、当然攻撃するつもりは無いがRXの防御力の前には効くまいとタカを括っていたのだ、しかもさらに万全を期しロボライダーへのチェンジも行った。

 

ロボライダーはパワーと防御力に優れたRXの形態の一つで、黒と黄色のボディカラーをしており、しかも灼熱も無効化にし、火も吸収出来るという特性も持っている。

 

これで爆発など怖く無い、と高らかに笑っていたが予想外の事が発生した、ルイズの爆発で装甲には傷はつかなかったのだが、【痛かった】のだ。

 

痛い!?何で!?とかなりパニックを起こしたが、効かないぞあっはっは、とその場は誤魔化して光太郎は去っていった。

 

それ以降、なるべくルイズは怒らせないようにしようと光太郎は思ったのだった。

 

 

光太郎が過去の事を思い出していると、アンリエッタは部屋から出て行った、話は終わったのだろうかと思っていると、突如ルイズから声がかけられた。

 

 

 

「コータロー、アクロバッターの準備をなさい」

 

「え?」

 

「こうなったら少しでも早い方が良いわ、行くわよ!!」

 

「ちょっと待て!!どこに行くんだよ」

 

「何よ聞いて無かったの?」

 

「……ごめん全く」

 

「目指すのはアルビオンよ」

 

とルイズは高らかに宣言したのだった。

 

 

 

 

 

そしてまだ日も昇らぬ内に光太郎とルイズは、アルビオンを目指しアクロバッターを走らせていた。

 

急いで支度を済ませて出発したために光太郎はまだ、アルビオンに行く理由を聞いていなかったので道中で話を聞いていた。

 

「なるほど、つまりはそのウェールズとか言う王子様に送った手紙を持って帰ればいいんだな」

 

「そう言う事ね」

 

「……こりゃあ骨だな」

 

簡単に纏めると、今はトリステインとゲルマニアは同盟を組もうと動いているらしい、その同盟の証としてゲルマニアの皇帝とアンリエッタが結婚する事になったらしいのだが、実はその婚姻を妨害出来そうな品が有るそうなのだ、それはアンリエッタが数年前にアルビオンの王子のウェールズという男に送った恋文だ。

ただの恋文なら問題無かったのかも知れないが、始祖に誓って愛を~などと書いてあるらしく、それが非常に問題になると言うのだ。

 

 

「しかし、何年か前の手紙なんだろ?そんなもん一枚で同盟の破棄とかまで行くのか?」

 

「なるわね、愛を始祖に誓うって事は二つの人間に愛を持つって事だもの、それも始祖に誓ったなんて事が分かったら十分な理由になっちゃうわよ」

 

「まるでヤクザの因縁付けみてーだな」

 

光太郎は少々うんざりした感じで話したが、この任務は遂行させねばならない、何故なら失敗は新たな戦乱を呼ぶ事になるのだから。

 

そもそも、トリステインがゲルマニアとの同盟を結ぶのは、レコン・キスタと呼ばれるクーデター一派が原因らしいのだ、そのレコン・キスタはアルビオンの王家に反旗を翻し戦争を仕掛けた、当初は数も少なかったのだが今では王側が劣勢に立たせれているそうなのだ。

 

そしてレコン・キスタはだらしが無い貴族達を一つに纏めて、聖地を目指すとかほざいているらしい。

 

それが本当ならばアルビオンを制覇したら、次に狙われるのは地理的にも軍事力的にもトリステインという事になる、そしてそれが現実になれば、今のトリステインではまず勝ち目が無いらしい。

 

そのためにゲルマニアとの同盟を結び、軍事力を強化しレコン・キスタへのけん制にするのだそうだ。

 

無論同盟が成功すればレコン・キスタ側は非常にマズイ話しである、その為に同盟を破棄させる手段が存在するのならば必死になって探すだろう。だが今は現実にあるのだ、恋文という物が。

 

 

光太郎は走りながら思っていた、元々ゼウスは全ての人の平和を守るために設立された組織、例え異世界だろうとも戦火が広がり涙を流す人が増える事はさせたくない、それを阻止する為に自分の力を使う事にためらいは無いが問題はその後だ、もしレコン・キスタが本気で世界に喧嘩を売るつもりならば、同盟を結んだとしても戦争は起こるだろう、そうなったら広がった軍事力同士がぶつかれば更なる被害が出るのは必然と言える。

 

それだけは如何しても避けたいと思う、以前にもゼウスはアポロン率いるネオ・アクシズとジオンとの戦争を止める事が出来なかった。

 

無論あれはタイミング的にも介入出来る余地は無かったのだが、それでも戦争によって一つの国がほぼ滅んだのだ、アポロンは非常にモラルのある戦い方をしていた男で、一般人への被害やその後の保障を徹底させていたがそれでも被害は大きく出たのだ。

 

そのレコン・キスタとやらがどれ程の組織だろうとも、あのアポロン以上に人を気遣う戦いを仕掛けるとは思えない、なので光太郎は最悪の場合は一人でも戦う決意をしたのだった。

 

その光太郎の決意を知ってか知らずかルイズは話しかけてきた。

 

 

「ねぇコータロー」

 

「ん?どうした?」

 

「これから行く場所はとっても危険な場所なのよ、なにせ戦場のど真ん中に行くんだから」

 

 

光太郎はルイズの話しを静かに聞く。

 

 

「いくら姫様のため、トリステインのため、って言ったってあんたには元々関係無い事情に巻き込んだ事になるわ」

 

 

ルイズの声のトーンは低いが強い思いが伝わってくる。

 

 

「凄くずうずうしいんだけどね、今の私はどんなに頑張っても普通のメイジ以下の存在なのよ、だから姫様の願いに答えるためには、あんたの力を使わなきゃ叶えられないの」

 

「ルイズ……」

 

「だからお願い、力を貸して……私も役に立つのか分からないけど、安全なところで一人で居るなんて事はしないわ」

 

 

ルイズは少し目に涙を浮かべながら、そう話した、立派に貴族になりたい、その想いを強くあるがどれだけ自分を過大評価しても普通のメイジ以下なのは分かり切っている。

その自分の能力を覆せる力を使い魔の光太郎は持っている、使い魔の力は主の力と言っても、光太郎は人間なのだ、それに頼り切るのは忍びない。

だが今はそれに頼るしか無いのだ、悔しさと申し訳なさが入り混じったルイズの素直な気持ちだった。

 

 

そのルイズの言葉に光太郎は笑みを浮かべ答える。

 

「ありがとうよ、だけどなお前はもう十分に役に立ってるぜ」

 

「……なんで?」

 

「正義の味方ってのはな、自分を信じてくれる人がいれば100倍のパワーを発揮する生き物なんだよ、お前の覚悟と俺を頼ってくれた想いは、十分に勇気をくれたさ」

 

ちょっと照れくさそうに光太郎はそう話した、そして、「一人で戦う……何を思ってたんだろうな、こんなに近くに素敵な仲間が居たってのに、随分薄情になったもんだ」

 

と先ほどまでの決意にちょっと追加し、このツンケンしているが立派なご主人様には危ない目にあわせらないと思うのだった。

 

 

 

〇〇〇〇〇〇〇

 

 

 

ルイズに頼みごとをして数時間後、アンリエッタの学院内での宿舎にて

 

アンリエッタは頼んだ物のやはり心配であった、ルイズは信頼の置ける友人であるが戦闘力に関しては言い方は悪いが信用は出来ない、あのフーケを退けたと言う平民の使い魔は本当ならば強いのだろうがそれでも心配なのだ、彼女は死地に友を送ったのだ、それで平然として居られるほど彼女は達観してはいない。

 

なので誰か彼女達へのサポートを送りたかった、しかし事が事なだけに信頼と腕の立つ者を選別せねばならない。

 

「……そうだわ!!」

 

アンリエッタは頭に浮かんだ人物に助けを求めるために、枢機卿であるマザリーニを呼んだ。

 

「お呼びでしょうか」

 

「夜分遅くに申し訳ないのだけれど、魔法衛士隊のワルド子爵を呼んでいただけるかしら」

 

ワルド子爵とは、トリステイン王国の魔法衛士隊のグリフォン隊の隊長を務める男であり、エリート中のエリートで魔法の腕は風のスクウェアである。

 

彼は腕も立ち人望も有る、しかも全男子のメイジの憧れでもある魔法衛士の隊長ともなれば信用も出来るであろう、アンリエッタは良い人選だと思い呼んだのだが、思いもよらない言葉が帰って来た。

 

「……殿下……その非常に言いにくいのですが…………」

 

「どうしたのかしら?」

 

「ワルド子爵は何者かに襲われ重傷を負っています」

 

何者かに襲われ重傷!?それは聞き捨てならない言葉だった、下の人間のケガやイザコザ程度は国のトップである自分に話が来ない事は多々あるが、仮にも魔法衛士の隊長が襲われたのならば報告くらいはするべきだろう。

 

 

「なぜ黙っていたのですか!!」

 

「いえ、あの……ワルド子爵を発見した者の報告によりますと、あのレコン・キスタと繋がりが有るという証拠をいくつも倒れている子爵のそばに置いておかれていたとかで」

 

 

レコン・キスタとの繋がりがあった!!?もしそれが本当ならばとんでもない裏切り行為だ、アンリエッタの頭が真っ白になっていくが続けてマザリーニは話す。

 

「残念ながらワルド子爵を襲った人間については全く分からないのですが、その証拠品がかなり信憑性の高い物で事実確認を急いでいたために報告が遅れました」

 

「…………そう……ね」

 

「しかし一つだけ犯人の物と思われるカードが置いてありました、子爵の胸の上に……その、それがこれなのですが……」

 

それを渡されたアンリエッタは、もう完全に思考を停止していた。

 

 

【この者、祖国を裏切る破廉恥貴族故、成敗】

 

 

とカードには書かれていた。

 


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