ZEROの使い魔 太陽の少女   作:伊豆擱 里弧芦

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初めてのお出かけ(4)

 地平線の下からトリスタニアの町並みが迫り上って来た時、イングリッドは眉を痙攣させた。常人よりもはるかに優れた視力を持つイングリッド視界には、あれこれと想像していたのとはかけ離れた、そして先ほどのルイズたちの言から想像したとおりの町並みが姿を現していた。それを見てイングリッドは本当に、完全に、絶対に、完璧に諦めた。どうしようもなかった。

 相当な距離があるのに、地平に広がる市街は、明らかに近代的な景観が見て取れるのだ。細部を見れば「地球で見られる都市風景」と比べるとかなりの差異があることが判るが。それがハルケギニアと地球との根本的差異につながる事であろうかイングリッドは考える。

 イングリッドの見たところ、ぱっと見の印象は、パリやそれに類する現代大都市の百年ぐらい前の姿に似ているとも思える……いや、そういう表現ですら逃げであるのだ、と、イングリッドは思いなおし、徐々に姿を現しつつあるトリスタニアを展望しつつ、後ろに流れてゆく大地に視線を落とす。

 シルフィードの背を這って、恐る恐るという雰囲気で下を覗き込むイングリッドの姿に、ルイズは首を傾げてキュルケと顔を見合わせた。後ろ向きになったイングリッドの身体に風が吹き付けて、その短いスカートと、肩を覆うカプ(肩掛け)が捲くれ上がった。

 

 

 

 森や、林に、茂みや、草原に。各所に明らかに人の手の入った池や湖も見えるので、建築資材や燃料を得るために手入れされていると思われる、人為的に維持された植生か。野生生物の気配が酷く乏しい。

 草原と思える場所も、実は牧草地なのかもしれない。眼を凝らすと、ロールが転がっていたり、家畜らしき動物の群れがのんびりと草を食む姿も見て取れた。

 犬が走り回り、少年が棒を振って家畜を追い回している。

 畑が広がり、街道が横切り、茂みを越えて、また畑が連なりとめまぐるしく風景が移り変わった。

 

 

 めまぐるしく風景が移り変わる。これはこれで、ある種の判断材料になる。

 大規模一貫経営ならば、牧草地にしろ畑にしろ、出来る限り広大な土地を同一目的で使用したほうが効率が良い。それをせずにパッチワークのような土地利用が見えるというのはつまり、独立自営農家がそれだけ多いという想像になる。そこから更に想像の幅を広げると、常識的に判断するならば、貴族による荘園経営から外れているか、或いは、貴族の土地ではあるものの、制限の緩やかな土地の賃貸が行われて自由農業が奨励されているのか、となる。

 牧草地のみを切り取って考えをめぐらせた場合であっても、それが私的牧草地か、ローカル・コモンズなのかという区別も重要な判断材料になる。そこまで話を進めると、時代的背景云々よりも、政治的背景の判断となるが。ともあれ、どちらにせよ現状、眼下に広がる風景というのは地球の中世では殆どありえない光景であり、多国間の経済統合が推進される前の近代ヨーロッパでの「古典的独立専業農」最末期に近い風景だった。

 

 

 各所に村や町が見え隠れして、全体的になだらかな土地が広がる。

 川が長閑に土地を穿ち、それらの風景を全て無視するように、徹底的に人工の風情を醸し出す明らかな運河と思える水濠があちらこちらに見えた。大量の船が行き交っている。

 かと思えば、周囲の風景から浮き立った、まったく無粋な姿を晒す城に、館に、教会に。概ね街道に沿って、人々の流れを横目に飛ぶシルフィードは、そういった無粋を嫌うように緩やかな経路をたどって迂回し、それらの姿を背にしたころにまた、街道に寄り添う。

 それらの風景の向こうから急速に建て込んだ街地が眼下の視界に割り込むと、あっという間に周辺が混雑し始めた。

 地上ではなく、空で。で、ある。シルフィードの速度が急激に落ちる。

 すぐに、途切れない街並みの上に影を落としながらシルフィードは飛ぶ。

 

 

 

 街を眺望してイングリッドは頭を抱えそうになった。

 10階建てぐらいを限界として定めている、と、思われる高層のアパートメントがびっしりと立ち並ぶ。ファサードは想像以上に近代的な装いを見せていた。統一感がありながら精一杯に個性を引き出す、基本色を白としてモノトーンの外観を基本としつつ、控えめでありながら、細かい造作にぎりぎり雑然とした印象を見せない、極限を攻めたてたデザインが街路を彩っている。文化的習熟度が非常に高いであろう印象を見せていた。それらの近代的建物と調和して、各所に計画的に配された公園が緑を心地よく見せている。

 ほぼ完全に東西南北を向いて街を直角で区切った街路が、大地の起伏を一切合切無視して街を区切り、それらも無視して一応の法則をもっているかと思える、斜めに横切る街路が街を区切る。

 碁盤の眼を切る道路は、直行する道路と交わって四つ角を作るが、斜めになった道路は、合流する道路の数が5本以上の場合は必ずロータリーをなすように設計されているようだった。きわめて計画性が高い配置である。

 それらをぶち壊して川の流れのように街をうねうねとのたくる道路は、恐らくは街が成立する以前から存在する街道なのだろう。整然とした街並みを乱すが、それはそれで味があるランドスケープを展開させる。そういう印象を持たせるのは、街道の本筋を色調の明るい石で舗装し、左右に広い緑地を配して更に歩道のようなサイドスペースを用意した上で、碁盤目状の街の形状に緩やかに統合できるように、デットスペースを贅沢に飾り立てて、石畳の広場や、草原風の芝生張りとしてデコレーションしているからであった。まさに道路を「川」に見立てているのだ。地上から見ても趣がある風景が展開されているであろうし、空から見ても非常に計算された都市設計がされていることが推測される。極めて緻密な設計であった。

 正確精緻な街路設計にわざと組み込まないで調和を乱し、それでありながらデザイン的なグラデーションで数学的幾何学模様に三次元曲線を馴染ませるレイアウト。その芸術的な都市計画設計にイングリッドは溜息を吐きたくなった。

 見事だ。

 そうとしか言いようがない。

 

 おそらくは学校。恐らくは役所。恐らくは高級アパートメント。恐らくは警察施設。

 そういったものが計画的に配されているのが良く判った。デパートメントらしき建物や、運動設備に劇場と、レクリエーション設備も充実しているらしいことがわかる。どの街路もそれなりに賑わって、多数の馬車や、馬の付いていない車が走り回っている。

 自動車まで存在するのかと、イングリッドは冷や汗を流す。

 

 

 

 イングリッドはようやく理解した。何度も何度もイングリッドが推測しては打ち砕かれた時代的推定というのは、その原因がトリステイン魔法学院の持つ、長い歴史、その由緒正しいあり方のせいだということに。

 昔の風情を色濃く残した施設を、過去の栄光を残したまま使っている。それなりに近代化しつつ、それなりに便利にしつつ、それなりに快適にしつつ、である。これでは印象が混乱して当然なのだ。

 まったく迂闊なことであった。しかし、それも仕方ないだろうと言い訳もする。極めて極端な例を上げれば、日本の日光にある、過去を再現した観光施設内部に突然現れて出でて、そこの印象で日本の現代文化レベルを推定せよと言われた様な物なのだ。酷いミスリードに引っ掛かっていた訳だ。気がつけばなんということはないが、ある程度はそういう推論に持っていくことは可能だったはずだとも苦い思いをする。明らかに文明レベルが懸絶した調度や道具、設備が混在していたのだ。

 エレベーターとかの存在について、イングリッド自身の推測でも後付け設備と断じたのだし、後付けであるという裏付けもあったではないか。教育棟のちぐはぐな構造等は割合に決定的な証拠と、振り返ってみると思えてしまう。ひたすら混乱してばかりだった2日弱の記憶が酷く馬鹿馬鹿しい。

 

 

 

 今、シルフィードの眼下に見える風景を、無理やりに地球における過去の風景に当てはめた場合、第二帝政で大改造が行われたパリと言ったところであろう。勿論、異世界であるのだから単純な比較はそれこそ馬鹿らしいが、実際に、自動車のようなものが走り回っているのに、馬車も相変わらず大量に走っていて、馬やロバといったモノに乗った人々も見えることを考えれば、単純に地球の過去と比較することの無益さが判る。

 地球の歴史では単騎駆けで馬を持って街中を走る者は極めて少数であったから、バイクか自転車かとばかりにそれらが走り回っている風景というのは、イングリッドのにとってしてみてもまったく新鮮な光景であった。彼女の長い人生の中でも、まったく経験が無い光景なのだ。

 他にも、各所にある運河から荷物を積み下ろしていたりするから、パリというよりヴェネツィアか、はたまた江戸かとも言い直したいところではあるが、それとは別に空では「渋滞」が発生しているしで、やはり異世界なのだとイングリッドは嘆息した。

 

 

 街地上空は飛行禁止と言われながら、どう考えても街地としか思えない雑踏の上を飛行しつつ、タバサがシルフィードを操って―――とは言え、以心伝心がなっているタバサとシルフィである。彼女達は言葉を交わすことも無ければ手綱を操ることも無く、粛々と空を滑っていた。シルフィには元から手綱等は存在せず、鞍があるわけでもないから、傍目から見れば、イングリッドたち4人が飛竜の上に乗っているだけと言うなかなか危険な外見があった。

 そのためであろうか。空域が混雑しているにもかかわらず、シルフィードとの間隔をことさら大きく取ろうと努力しているかのように、周辺を飛ぶ他の飛行物体(そう表現する以外の方法をイングリッドは持たなかった)がイングリッドたちの近傍に無い状態である。シルフィードの前後だけ妙に空いていた。

 微妙な間隔を見て取って割り込んでくる飛行物体が後をたたないが、シルフィードの状況を見て、それを操っていると思しきタバサの姿を見てそれらが慌てて間合いを取る姿は滑稽だった。

 そういう状況におかしみを感じて、微笑を浮かべるイングリッドの視線が通る範囲内でも、何百、何千という飛行物体が空を舞っている。一応の法則性は見て取れたが、それでもイングリッドはタバサに問いかけた。ルイズとキュルケの身体の横から顔を出して身を乗り出し、タバサの背に声をかける。

 空域が酷く混雑しているので、シルフィードの速度は時速50リーグほどに落ちていた。

 日の光を浴びて暖かな空気を密やかな虹色と共に反射する、シルフィードの体表を覆う鱗を確かめつつ、イングリッドはタバサの後ろににじり寄る。

 

「飛ぶ場所……というか、通路?見たいなのはあるのかや」

 

 その問いかけが含む意味に疑問を浮かべたかのような妙な表情でタバサがイングリッドを振り返り、勝手に納得したかのように頷いて前に向き直った。

 

「シエル・ウワゾ・ドラグーンは対地高度1000メイル以上を飛行しなければいけない。1000メイルから2000メイルが……」

 

「まて、なんじゃ、その、シエル・ウワゾ・ドラグーンとやらは……」

 

 キュルケとルイズが呆れて溜息を付いた。やれやれとばかりにキュルケが空を振り仰いで右手で自身の顔を扱く。タバサも酷く肩を落として溜息を付きつつ首を振っている。ルイズが疲れた風な声で呟いた。

 

「そこからなんだ……」

 

 

 

 龍飛飛行乗物(シエル・ウワゾ・ドラグーン)は大きく分けて汎生個龍飛(シエル・ゾ・ドラグン・イズルカ)と汎魔法個龍飛(シエル・デ・ドラグ・マズルカ)に区別される。

 

 シエル・ゾ・ドラグン・イズルカ(汎生個龍飛)とは、飛竜(ワイバーン)やグリフォン、ペガサス、ロック鳥等の為性魔法生物の総称で、個人が騎乗する飛行物全般の事である。大変にややこしい話ではあるが、汎魔法個龍飛の内、基本的な状況で一人乗りが通常のモノは例外的に汎生個龍飛に準じて扱われている。会話等でそれらが扱われる場合は混乱を招きかねないので注意が必要である。

 そのように、例外の無い法則は無いのだが、基本的に、個人が操る個人的自家用飛行物全般を指してシエル・ゾ・ドラグン・イズルカと呼ぶ。これらは根本的に機動性が高いのだが、騎乗した場合は長距離飛行が苦手であるという特徴があった。そもそも生物というのは背中に何かを乗せて行動すること等を前提として進化したわけではないのだ。また大抵の場合、騎乗時は時速30メイル以下の速度で飛行姿勢の維持が困難になるという欠点もある。

 まさしくここに、シルフィードという飛び切りの例外があるのだが。

 

 それに対して、シエル・デ・ドラグ・マズルカ(汎魔法個龍飛)であるが、これは、魔法によって製作された、龍を模した飛行物等で、竜籠などが該当する。一般的には人工的に製作された魔法を動力として飛行する飛行物全般を指し示してシエル・デ・ドラグ・マズルカと総称するのだが、竜籠と見比べた場合、余りにも外見の違う飛空船や飛行船については慣例的にマズルカとは呼ばないことが多いのでこれまた注意が必要である。技術的区分では飛空船や飛行船もまさしくシエル・デ・ドラグ・マズルカなのだが、見た目の差異が大きすぎて、同じものとするのに躊躇があるのだ。呼び方にそういった混乱があるが、基本的には、マズルカというのは人工的な飛行物体全般であると考えて間違いはない。当然ではあるが人が乗り、荷物を載せて空を飛ぶことを前提として生み出された魔法機械である。

 

 派手に勘違いしていたのだが、今までの会話の節々に言われてきた竜籠というものをイングリッドは、実際に生き物の竜が人の乗る籠をぶら下げているのだと思っていた。

 

 無論、大いなる見当違いで、飛石という魔法的鉱物を利用して離着陸できる、人間が乗り込んで人間が操る「からくり」が今のハルケギニアにおける()()()な「竜籠」であった。

 飛石を消費すれば、原則、垂直離着陸も可能なのだが、その場合は飛石の消耗は致命的に激しく、竜籠に求められる長距離飛行能力が失われてしまう。そのため、基本的には推力や方向の維持以外では成るべく飛石を消耗しないようにするのが常である。そのために竜籠には顕著な翼が供えられている。空に浮揚するための揚力は翼で得て、推力を得る場合や方向維持などのみで風石を消費するのである。それが竜籠の長距離能力の根源となっている。

 風石を使うが故の垂直離着陸能力は一応は可能という程度の認識であり、緊急時や、周辺地形等の制約により、どうしてもそれをせざるを得ない例外的事態以外では竜籠が垂直離着陸を行うことは無い。竜籠の構造上、というか、要求性能上、竜籠は水平方向の強度以外を切り捨てたのだとも言える構造を持っている。その為に、垂直離着陸を行うのは強度的な不安もあるのだ。無理に垂直離着陸を試みれば翼が折れてしまいかねない。

 必要があって垂直離陸を行う場合は、乗載されるメイジ等が空荷で離陸した竜籠に、自力で飛び上がって空中で乗り移るのだという話が学院での会話の中であったが、そういう意味である。

 中、長距離での高速飛行に性能が割り振られているため、水平方向の応力に対しては相応の強度を持っているが、垂直方向の応力は殆ど考慮しないで設計されているのが大抵の竜籠である。これとて例外があり、軍用の竜籠の中には、垂直離着陸の常用を考慮しつつも、中、長距離を高速移動することを前提としたものがあるが、総じて輸送力が小さいとか、やたらと高価だとか、飛石を大量に搭載する必要があるとか、傷みが激しいとかで、いろいろと面倒が多い。

 

 地球的な感性で見た場合、竜籠は基本的に軽量頑強な素材で作られた巨大なグライダーのようなもので、自力で離着陸可能であるという観点からすれば、モーターグライダーと認識すべきかもしれない。必要な高度に達したら、なるべく滑空で距離を稼ぎつつ、必要な推力を随時風石より補填して高度を取り直し、また滑空をしつつ……というサイクルを繰り返して空を飛ぶというのが竜籠の基本運用であるからまさにモーターグライダーである。航続距離が必要な場合は、滑空を主にするが、速度が要求されるのであれば風石の力を消費し続けることになる。

 しかし、竜籠の基本的飛行原理を考慮すれば、今シルフィードが巻き込まれている渋滞時には主翼による揚力が期待できなくなるので、風石を推力以外、つまり、空中にあり続けるために消費する必要があるのだ。自動車とかにとっても渋滞というのは無駄なエネルギーを使う厄介ごとだが、竜籠などにとっての厄介は、それ以上である。

 そうやって運用される竜籠の基本形状は、この世界の固定観念……ハルケギニアの空を自由に飛びまわる存在で、最も大きいものは龍であり、それがために必然的に龍を模した形を得たことから「竜籠」と呼ばれているのである。

 

 小さな竜籠では10人程度の人間と、その手荷物を詰め込める、文字通りの籠(ケージという意味での籠ではなく、ゴンドラ)を吊るした龍という姿であるが、大きなものでは、数百人が乗れるような雄大なものも存在する。そういった大きなものでは龍の胴体そのものに人が乗るキャビンが備えられており、パイロットも「龍」の「頭」にあたる部分の内部に座って「眼」の部分から外を見ることになるので、外見に無粋な突出物の一切を廃されたそれは、まさしく龍そのものである。

 ただし。

 大型の竜籠の中には、翼が串型配置で4枚あったり、複葉であったり3葉であったり、串型配置と組み合わせて翼の数が6枚であったり12枚であったりするものも見受けられるし、串型配置も、2連、3連、4連串型まであって、その場合は龍の尻尾や首の部分にまで翼があるという姿になる。

 そういった大型竜籠になると、翼の数が24枚とかいうのも見られることから、はたしてそれを「竜」と呼んで良いかは深刻な疑問がある。

 ただし、どちらにせよ、翼は固定であり、足にはゴムで出来た車輪、つまりタイヤがバネ等を介して取り付けられており、搭載した飛石で推力を得て滑走して、翼に揚力を得て飛び上がるのが通常の運用方法だ。

 

 

 翼は固定であるとは言っても、離着陸で滑走を行うのであるから、当然動翼が……操縦翼面あるはずだというのがイングリッドの知る常識であったが、タバサが知る限りはそんなものは無かった。イングリッドが説明してもルイズたちは動翼の概念を理解できなかった。

 絵でも描いて説明すれば話は別であったろうが、何しろシルフィの背中である。口で説明し、身振り手振りを費やす程度でどうにかなるものでもなく、ただ単純にイングリッドが疲れるだけで終わってしまった。無益な時間を費やしてしまった。

 周辺を飛びかう、大小さまざまな竜籠をイングリッドが見渡しても実際に動翼はなさそうであり、つまりは推力さえ得られるのならば動翼でこなせば良い飛行姿勢の維持なども、もったいなくも全て飛石でまかなっているということになる。

 

 

 とんでもなく燃費が悪いだろうとイングリッドは思った。

 動翼が無ければ、つまり、リアクション・ロケット、或いはリアクション・ジェットで全ての動作をまかなうようなわけであるから、どんどん飛石とやらが消費されてしまうだろう。イングリッドが周りを見渡しても、飛び交う竜籠は馬鹿正直に龍の形を模しているものばかりで、つまりは「飛行機」としては、まったく効率が悪い形のものであるというのも問題を感じるところだった。

 

 

 空を飛ぶ生き物だから、彼らの姿が空を飛ぶのにもっとも効率が良い形であるかというと、そうではない。鳥などは存外、空を飛ぶ「だけ」を見た場合、非効率な形をしていることが多いのだ。

 なぜならば、彼らは飛ぶために筋肉を発達させ、それがために外観に影響が出ていたり、大量のカロリーを消費する飛行行動のために莫大なエネルギーを溜め込む能力を持っていたり、高空に飛び上がって凍えてしまったりしないように、臓器や羽を動かす筋肉付近に脂肪を溜め込んでいたりと、様々な外的影響から必要となる各種のパラメータのせめぎ合いの中で形創られた妥協の産物として「鳥」という外形を成しているのである。

 

 極長長距離を飛翔するアホウドリ等は、飛行(というより飛翔)に特化したがために地上や海上では相当な苦労を背負い込む進化を遂げた訳だし、グンカンドリレベルになると、空にある以外のありとあらゆる問題を切り捨ててしまったような、きわめて「汎用性の低い生き物」になってしまっている。

 空を自由に飛んでいるように見える鳥ですらそうなのだから、龍を模して直ちに空を自由に飛べる飛行物が得られる筈もない。外から観察しても竜籠には様々な問題があるように見えた。

 だいたい、飛行機として見ると、竜籠は主翼以外に空を飛ぶための手立てが何もついていないのだ。「飛行機」ではありえない形状である。

 

 最新鋭のフライ・バイ・ワイヤと反応の速いアクチュエーターと各種の動翼、莫大なデータを蓄積した高速演算装置にリアクションの速いモーター(エンジン)。そういったものを装備すれば、現代では、龍の形をした飛行機を作ることは不可能ではないと思われる。が、それにしても垂直離着陸だけは不可能であろう。垂直離着陸能力を期って捨てたとしても、ただ飛ぶだけにしても恐ろしく不安定な飛行機になる筈である。

 動翼が無いのであれば、唯飛行するだけであっても、恐ろしくも相当な困難が予想される。

 動翼が一切ない翼を持った飛行機を設計すると、真対空速度の増減が即座に上下運動を惹起するので、唯「飛行」するだけでも上下に大きく揺れて飛行(フゴイト運動)する不安定な飛行機になってしまうのだ。

 シルフィードの周囲を飛ぶ、大きさが様々で、空力形状も様々で、当然重量も様々な竜籠が、一定の速度で安定した飛行姿勢を保っているというのは、現代地球の科学力で再現するのは絶対不可能な飛行形態なのだ。飛行機を設計する技術専門家が見たら発狂すること間違い無しのありえない光景である。そういう意味ではハルケギニアの飛行技術は地球よりも「進んでいる」とすら言える。

 飛石というものが余りにも便利に都合よく飛行の手助けをする動作を可能にしてしまうから逆に、竜籠の飛行機としての性能追求努力が失われているようだった。

 

 その代わりにパイロットの負担は凄まじかろうとイングリッドは想像した。飛行姿勢の維持に、常に飛石から力を取り出して適切に対応しなければたちまち墜落だ。

 

 飛行高度によって、速度によって、気温によって、湿度によって、気象条件によって、飛行に必要な各種のパラメーターはめまぐるしく変化する。成層圏を飛行するジャンボ旅客機などは、安全レンジが凄まじく狭いところを飛んでいたりする。時速にしてホンの数10キロ速くても遅くても失速して墜落しかねない状況下に置かれて飛んでいることが多いのだ。コンピューターのサポート無しではパイロットの技量でどうにかなるレベルではない。上下運動が許されるなら(つまりそれだけ燃費が悪くなるわけだが)、手動飛行も不可能ではないのだが、安定した飛行姿勢を保った水平飛行というのは酷く難しい操縦であり、水平飛行を維持することはパイロットにとって精神的にも肉体的にも酷く消耗を伴う作業となる。

 大いに勘違いされていることではあるが、旅客機が空港を離陸した後、高高度で巡航姿勢に入るころにオートパイロットへ移行するのは、ある一面で、水平飛行が離着陸動作よりも難しい部分があるからなのだ。

 地上で自動車を運転する場合、カーブを一定角度で旋回するより、直線道路を等速で、一切のハンドル操作無しに直進するほうが余程難しいのと似ている。

 無論、離着陸という行為が難しい以前に、常にクリティカルであることは否定されないが、それも自動車の車庫入れが常に困難であるのに似ていると言えなくも無い。

 飛行機というのは、ピトー管に虫が巣を作っただけでなす術も無く墜落したり、外気温度計が狂っただけで失速したりと、パラメーターの検出に対して僅かな不具合が出ただけで、他の全てが正常であるにもかかわらず危険な状態に陥るものである。飛行するというのはそれほどに困難な行為であるのだ。

 現代地球の旅客機というか、飛行機はそういった多数のパラメーターを自動で素早く検出するセンサーを持ち、それらを瞬時に処理するコンピューターのサポートを受けて初めて安全に安定した飛行が出来るのである。

 それらをすべて人間が処理しないといけないと考えるならば。

 

 イングリッドがそういうニュアンスの事をタバサに問うと、マズルカというのはサポートのために制御オーブが備わっていて、飛行御者(パイロット)は相当にアバウトな指示をするだけで飛べるという答えが帰ってきた。それもそうかとイングリッドは納得せざるを得ない。

 ただし、竜籠の形状が極端に変るとオーブのサポートが破綻して飛べなくなるので、竜籠の形状や要求性能に合ったオーブの開発が竜籠開発の肝であるという。

 それを受けて見渡せば、確かに、奇抜な形状の竜籠が飛んでいることも無く(翼の数という点で奇抜どころではない竜籠が見えるが……)、どれもかしこも似たり寄ったり形状だった。

 竜籠は4000年近い歴史を有する魔法製品だが、オーブの新規開発が存外に難しくて、新型竜籠の開発は酷く難航するのが常だというのがタバサの説明であった。

 

 

 事実、竜籠の開発では幾人もの死者が出るのが常態で、ちょっとした形状の変更を試みたり、僅かな性能の向上を目指しただけであってすらまともに飛行できなくなることがあるため、極めて難しい開発作業になるのだ。

 4000年にわたる歴史の中で竜籠の種類は100種類程度に過ぎず、軍用のものも含めても1000種類に満たないのが現実であった。

 本当の意味で新規開発された竜籠は10種類程度であって、それを基本形状として、他のほぼすべてがマイナーチェンジの繰り返しで性能を漸進させているに過ぎないのが実体だった。

 飛石が便利過ぎる故に発生した弊害だった。

 

 

「……話を戻すと、1000メイルから下は飛行禁止。1000メイルから2000メイルが飛んで良い高さで……」

 

 饒舌になった、饒舌にならざるを得なくなったタバサが「必死」でイングリッドに説明した。この手の話はルイズやキュルケも知らない部分で、いつの間にか3人で興味深く聞き耳を立てることになっていた。

 どうしようもなくタバサは必死に説明するしかなかった。騎乗しているのがシルフィードでなくてはそんな説明をこなす余裕は無かったであろうし、シルフィードであるからそういう余計な苦労をしょってしまったとも言える。

 

 行く先さえ示せば、シルフィードが知っている場所である限り途中の制御を一切受けることなく、まったく手放しで飛んで行ってくれる。

 シルフィードが知らない場所に向かうのであっても、だいたいの方向や、場所の説明……目的地周囲の地形がどうであるとか、或いは目印に街道を指し示して、その先、突き当たりだよ等と説明すれば、シルフィードは自立的に思考して判断し、タバサに教え込まれた限りの人間の定めたルールを守りつつ目的地を目指してしまう。途中に渋滞などがあれば自己判断でそれを避けたりそれに並んだりすら出来る。

 シルフィードの飛行能力というのは、地球の最先端技術でもありえない超自動自立制御なのだ。よって、タバサはある意味で「暇」なので、説明を求められて、それを避ける選択肢を見つけられなかった。

 

 シルフィードがただの飛竜であったら、高度とか方向とか、つねに指示し続けなくてはたちまち他のドラグーンの迷惑になるし、規定違反を犯して、飛空警備に捕えられてしまうだろう。

 しかしタバサと()()()()()()()シルフィードは、極僅かな例外をのぞけばほぼ全てのルールを覚えているので、一々細かくタバサが命令する必要が無かった。またシルフィードが判断できない状況があれば、シルフィードは直ちにタバサに指示を仰ぐから、そういう面でも安心だった。

 シルフィが風韻龍であることはここにいる3人には自明なことなので、シルフィがタバサの手を借りずとも人の世の空を自由に飛べるだけの知識を持っていることは明白だとタバサは思っていた。だから面倒であってもイングリッドが求めた説明を断る選択肢を得られなかった。

 

 それはタバサの誤解だった。タバサがそういう自己の常識に囚われているからであって、3人にはシルフィが高度な「超自動自立制御能力」を持っていることは理解の外だった。よって、飛行制御にタバサがかかりきりだといわれれば、3人はあっさりと引き下がった可能性が高い。

 今の今まで胡坐をかいて、適当していた事実も、シルフィが「使い魔」であるからであって、今の今まで、タバサが他に知られること無く、内心でシルフィを細かく制御していたのだと言われても、それこそ3人には判断の仕様が無かった。だから、シルフィードの制御に忙しいから、気が散るからで説明を断ったとしても、3人の答えは「そーなのかー」で終わっていただろう。

 意外と間が抜けたところがあるタバサだった。

 

 

 

 ハルケギニアでのルールでは、例外地域があるのだが、それ以外では、対地高度1000メイル以下は飛行禁止となっている。

 これは、メイジが飛行魔法を使うからであって、メイジが飛行魔法を使って飛びうる通常の限界高度は精々が200メイルであるのだが、その限界ぎりぎりを巡航していて、緊急事態で突如として飛行姿勢を乱したドラグーンがなす術も無くメイジを跳ね飛ばしましたでは困るので、安全マージンを取って1000メイルなのである。

 また、高度に関してマズルカについては制御オーブに高度を測定する機能がついているのでだいたいは正確だが、イズルカについては騎乗する御者の能力しだいという話になってしまうので、誤差が大きい。それも含めて、マージンが大きく取られているのである。

 騎乗する御者の能力しだいだから、いまここで起きている渋滞のように、イズルカが列に並ぶとも言える。周辺のドラグーンに飛行高度も飛行方向もあわせてしまえば、そのあたりの判断を省略できて楽チンなのだ。

 騎乗するイズルカに「前を飛ぶドラグーンにあわせて飛べ」と言い含めれば、一切の指示をしなくてすむので、御者としては気が楽である。

 

 空路的制限としてはなんとも原始的な方法であるが、1000から2000メイルを飛行可能領域と定めて、1000から1100メイルが北向き、1100メイルから1200メイルが東向き、1200から1300メイルが南向き、1300メイルから1400メイルが西向きと固定して区分してしまっている。基本的にいかなる例外も認めないとまでしている。どんな緊急事態があっても、である。更に言えば、面倒ごとを増やしたくないという判断から、斜行も厳禁だ。許される飛行方向は4つのみという事である。

 これらの規則は、実際に飛行しているドラグーンや飛空船、飛行船を外部から統括して統制する方法が無いための苦肉の策といえた。

 

 1400から1500メイルは個々の国家で軍用指定であったり、貴族や王侯諸氏の優先空域という取り決めが合ったりするが、安全マージン空域というのが本来の扱いであり、その上で、1500メイルから1600メイルが北向きで……と、1900メイルまで飛行方向が定められている。

 これは、混雑空域で使われる高度で、混雑空域で着陸を試みるものは下を、混雑空域を通過するだけのものは上を使うのがルールである。1900から2000が軍用などと指定されている場合も、同じ扱いとなる。

 

 2000メイル以上の上空は飛空船や飛行船の領域であり、これについては速度も遅く(最大でも時速100リーグほど)、大きいから相当な遠距離でも視認可能なので、海を行く船と同じ扱いで、そのほかのルールはゆるい。離着陸で上下運動を行う空域が飛竜場付近に指定されているの(上昇用と下降用の2箇所が設定されている場合が殆どである)で、低空をそれらが飛ぶ姿はなかなか見られない。

 最低高度さえ間違わなければ基本的にどこを飛んでも自由で(飛行禁止空域は無論避けて運行される)、風を受けるためにそれぞれが自由に最適な高度を飛ぶのが普通である。偶然に同高度で相対した場合、互いに左側を飛ぶのは海上船舶と同じであり、唯一海上船舶と顕著に違うのは、視認距離で相対した場合、水平方向で避ける努力を行い、決して高度の変更を行わないことというのが厳格に定められているだけである。

 

 ドラグーンは離着陸等で指定高度を垂直方向に横切る必要があるわけだが、その際は、指定高度に入る度に変進して高度を変更するのである。つまり旋回しながら高度を変えるわけで、なかなかファンタジーというのも面倒なのだなというのがイングリッドの感想だった。

 

 例外というのは山地等である。対地高度1000メイルと言っても、山の高さが8000メイル有りますでは、飛行高度は9000メイルを取れとなるわけで、空中に暴露しているに等しいイズルカではその高度ではたちまち騎乗者は命の危機にさらされてしまう。マズルカでも、与圧装置なんていう高級なものはありそうに無いから、やはり厳しいだろう。また断崖絶壁を乗り越えるような地形なら、その隔絶した激しい地形高度の変化を横切る上でルールを守るのは困難というか無理なので、その周辺地形により、ローカル・ルールが定められているのだ。

 それらを記したオーダー・マップが各種取り揃えられているので、ドラグーンに乗るものには必須の書というわけである。定期的に内容が変更されるので、高価なそれを定期的に買うことが出来ないのであれば、特殊な地形は迂回するしかない。意外と面倒ごとが多くて世知辛い現実にイングリッドはしょっぱい思いをする。

 

 とはいえ、そういった様々なルールは、混雑している空域だからということであり、単騎で飛ぶ限りに於いては自己責任で自由に飛んで良いというのが暗黙の了解だというのがタバサの言である。しかし、まったくのルール無視でぼけっと飛んでいれば、双方の見張り不足で空いた空域で間抜けにも衝突事故などという事態を招来するわけで、ますますもって世知辛いファンタジーの現実である。

 

 

 蚊柱が横倒しになったかのごとくに何やかにやとひしめいている周辺は、更に上空にぽつぽつと飛空船や飛行船が姿を現し、更なる混沌になりつつあった。この空域は北行きと南行きがほとんどで、それを横切る飛行物体は殆ど無い。

 解せないのは、飛行方向の区別しかないルールなのに、ドラグーンがわざわざお行儀良く列を成していることで、汗を流しながら唇を嘗めるタバサにそれを問うと「面倒だから」とシンプルな言葉が返った。

 なにが「面倒」なのか、イングリッドはしゃべることすら「面倒」そうなタバサに苦笑いを返したが、いろいろ想像は出来た。

 

 離着陸の場が特定箇所に定められていて、ルール上、斜行が出来ないとなれば、最低限の飛行進路の変更のみで目的地を目指すならば、最終的には一本のルートにすべてのドラグーンが集中するのである。東西南北、どのルートから飛んできても、最低飛行可能高度が1000メイルで、結局、着陸を試みるのに高度を落として、その場合の飛行方向が北向きしか許されないのであれば、混雑が少ない場所で旋回し、飛竜場を目指す北向きの列に並ぶ以外に選択肢が無いわけである。

 目的地に近づけば近づくほど混雑が酷くなる一方という訳で、無線設備がなく、空域管制も期待できないとなれば、仕方が無いのだろう。ファンタジーというのも存外に不便なことだとイングリッドは一人ごちた。デリンジャー現象などで無線設備が使用不能になったら、地球の飛行機もこのようなことをせざるを得ないのではないかと想像する。飛石の量に余裕があれば、最悪翼をもがれても着陸は可能な竜籠のほうがある意味、飛行機より安全なのかもしれない。

 しかし、これでは大都市部の周辺100リーグ前後では面倒が多すぎてドラグーンを使う理由がなくなってしまう。混雑空域であれやこれやと迂回を繰り返して、速度も落としてでは速達性が失われるし、常に進入方向や離陸方向が一方しかないのであれば、迅速性も失われてしまう。トリステイン魔法学院のトリスタニアからの距離というのは微妙なところなんだなと思ってしまう。なるほど、生徒たちが馬を用意するわけだと理解できた。

 シルフィードは例外なのだろう。

 イングリッドの理解ではそういう結論である。

 

 

 説明を終えて疲労困憊とばかりに肩を上下させるタバサをねぎらうつもりでやさしく撫でつつ、眼を細めてイングリッドが周囲を見渡せば、同じように行列をなすドラグーンがいくつもあることに気がついた。それをタバサに問おうとして、タバサがうつむき加減になっていることに気がついて苦笑いし、振り返って目が合ったキュルケに指差して尋ねる。

 

「ああして列がいくつもあるということは、飛竜場とやらはいくつもあるということかや」

 

 その言葉にキュルケは身体を跳ねて、僅かに眼を見開いて唇を嘗め、微かに首を傾げて眼を泳がせた。その背後からルイズが伸び上がってキュルケの頭を叩いた。

 

「知らないなら知らないと言いなさーい!」

 

 本格的に首を傾げて照れたような笑いを浮かべながらキュルケは叩かれた場所を撫でた。イングリッドがキュルケを撫でてから彼女の行動がどこと無くおかしいことにイングリッドは気がついていたが、とりあえずは喫緊の問題でも無いので脇に置いておく。

 ルイズがキュルケの脇を通って、イングリッドに這いよった。ルイズはイングリッドが見渡した方向を何度も見なおして、手でひさしを作って伸び上がり、眼を細めて、ようやくイングリッドの認めたものを見つけたようだった。

 

「イングリッドって眼が良いのね……。イングリッドに言われなかったら気が付かないところだったわ」

 

 別に遠いところの「渋滞」を指し示したわけではなかった。無かったのだが……地霧に霞んで微妙に視界が悪かった。見通し上5から10リーグは視界が通るので、シルフィードの今の速度なら特段に危険を感じるほどでもないが、うっかり自身の特異性を詳らかにするところであったので、冷や汗を流したイングリッドだった。

 ルイズはしかし、それ以上の追求をするわけでもなく、顎を右手で扱きながら首を捻る。空に線を引く列を見て、地上を見て、右手を頭の上に持っていって頭頂部を摩る。

 そうしてタバサのほうに首を回した。

 

「フォーテンブローまでどれくらい?」

 

 疲労から立ち直って、だが、いまだに億劫そうなタバサは前を向いたままぶっきらぼうに返した。

 

「20リーグ弱」

 

「ありがと!」

 

 ちょっとしたことでも僅かなためらいもなく謝意を示せるルイズのあり方に、思わず微笑んでしまったイングリッド。その微妙な表情のイングリッドに対して、ルイズは振り返った。

 口を開こうとして、イングリッドが妙な表情をしていることに気がついてルイズは、刹那、口を紡ぐ。疑問を浮かべて首を傾げるルイズの視線に、冷や汗を流してイングリッドは誤魔化すように小首を傾げた。

 おかしな表情をするイングリッドをしばし見つめて、何とはない仕草でやたらとイングリッドに身体を摺り寄せるキュルケに視線を移して「そういうことか」と誤解したルイズは、キュルケを引っ張って2人の身体の間に無理やり割り込みつつ、視線を戻した。

 左手で眼下を指し示し、イングリッドの視線がそれに沿って向きを変えたことを確認して、口を開く。

 

「あの一際立派な街道が、ノーベル・ノッド街道よ。あれの突き当りがフォーテンブローね。だからシルフィはあれに沿って飛んでるの。

 大トリスタニアの南の正門であるトリスタニア・キブヴィル・ロッシュ門まではピアス・カレッジ街道が通ってるんだけど……」

 

 左手を宙に移して、列を成すドラグーンを指した。

 

「アッチの列はトリスタニア・キブヴィル・ロッシュ門の先にある、ベルガモンジェ飛竜場に向かう列ね」

 

 地図を見たわけでもないイングリッドの頭の中では、おぼろげにしかトリスタニアの市街配置が思い浮かばないが、市街地に食い込んだ場所に双方の飛竜場が配置されている想像は付いた。

 

「街地上空は飛行禁止ではないのかや」

 

 その言葉に「ああ」とルイズが頷いた。ルイズの後ろで、イングリッドに近づくことを阻止されたキュルケが微妙な表情を浮かべている。

 

「飛行禁止なのは小トリスタニア、ね。トリスタニア中心から半径25リーグ四方全部飛行禁止だと、迂回するのが大変でしょ。離着陸も不便になるし。南側の飛竜場は、着陸はともかく、離陸したら急上昇して直ちに南に向かわなければいけなくなるからそういう意味でも不便でしょ。

 昔はトリスタニア全市が飛行禁止だったみたいだけど……不便が大きすぎて、新市街地範囲の大トリスタニアは許されたのよ」

 

 イングリッドの顔面に大きな疑問符が張りついた事にルイズは気が付いて、イングリッドが声をあげる前に説明を続けようとして……背後から、キュルケが声を被せた。身を乗り出して、ルイズの頭の上に自身の頭を乗せる格好になった。かなり強い力でルイズの両肩をつかむ。

 

「ああああ、あのね、小トリスタニアって言うのは昔からトリステインの王都として栄えた部分で、王城とか貴族街とか、古くからある市街地とかの部分なのよ!」

 

 明らかに会話に割り込むタイミングを計っていたようなキュルケは早口で捲くし立てる。

 俄かに興奮したキュルケの腕を乱暴に払いながら、右手で頭の上の顎を持ち上げて刹那、キュルケに跳ね上げた眉を見せて溜息を吐き、ルイズはイングリッドに向き直った。

 

「それを囲むように形成されたのが大トリスタニアね。新市街とも言うんだけど……曖昧な表現よね。イングリッドみたいに何も知らない人に説明するのは難しいわね……」

 

 

 つまり、行政区分としては、ドーナッツの中空部分が小トリスタニア、ドーナッツのおいしい部分が大トリスタニアという事である。

 人々が群がるのは、当然のことながらおいしいところなので、そのリングの中心線上に飛竜場があると便利、と言う訳だ。大トリスタニア上空を飛行可能にせよという圧力も当然だろう。

 人間というのは便利な交通手段のある場所に住みたがる。周辺施設がどれほどに少なくて不便でも、移動手段さえ確保されていれば、人間は、荒野の真ん中にだって住み着いてしまう。

 つまり、市街地上空は飛行禁止だからと言って、草原の真ん中に飛竜場を建設すれば、勝手に周辺が市街化してしまうのだ。余りにも単純化した市街地形成のプロセスだが、基本はそういうものである。

 ルイズは市街地上空が飛行禁止だと不便が多いから、当局が妥協したというような表現を使ったが、実際は飛竜場周辺が市街化してしまったので、大トリスタニアの範囲内に取り込まれてしまったそれらの運用を維持するために、市街地上空の飛行を追認したのではないかとイングリッドは想像する。

 卵が先か鶏が先かと言う話なのだから、導き出される結果は一緒であるが。

 

 

 それはそれとして、一般的な民衆(貴族もだが)の認識としては「大トリスタニア」=「トリステイン王国の王都全体」なのである。地上を這っている限り厳密な行政区分がどうとかなんて、役人以外には関係ない話なので、それで良いのだ。トリスタニアの行政中心部を大きく取り囲んで形成された新市街地なのだからという安直な発想で「大トリスタニア」と名づけてしまったのも都合が悪かった。

 「大トリスタニア」。なんとも大仰な名前である。それを耳にした人々の反応は単純だろう。ふかしの効いたその名前を住民が常用するのも仕方ない面がある。単純に王都を指し示すのなら「トリスタニア」ですむのだが、本来であればスプロール化した市街「のみ」を指し示す「大トリスタニア」をトリステインの首都に冠された正式名称のように言い募る感情がトリステイン国民の一般に存在するのである。

 

 

 そういう言い回しがあちらこちらにあるのだろうと想像する。会話の節々でそういう部分を聞き流すとでっかい誤解を育ててしまいかねないとイングリッドは嘆息する。単純なファンタジー世界と無邪気に受け入れられない面倒さにイングリッドは苦笑いするばかりだ。異世界なんだな、と強く認識しなければならないだろう。

 

 

 ルイズの説明は続く。いちいち嘴を突き込みかねないキュルケをけん制しつつ早口で捲くし立てる。

 

「南から新市街地に入るならベルガモンジェに向かうのが普通の経路なんだけど、今向かっているフォーテンブローはアール・ド・トリステインとも呼ばれる、パレス・デ・レ・アル、トリスタニア中央市場や旧市街地(小トリスタニア)に近いから、私たちの目的をこなすには都合がいいのよね」

 

 その言葉を受けてイングリッドは再び周囲を見渡した。

 

「なる程……高級な竜籠(マズルカ)や、イズルカが多いわけじゃ」

 

 実際にシルフィを挟んで飛ぶドラグーンは大仰な装飾を施したものが多かった。個人が駆るイズルカも煌びやかに飾られている。もっとも平民がイズルカを利用する可能性はほぼないので、イズルカに乗るものはそのまま貴族であると断言してしまっても不都合はない。

 そういった中に大きいが虚飾の排された実用一辺倒のマズルカが混じっているのが散見される。4枚や8枚といった翼を持つ大型の竜籠だ。

 見るからに鈍重なそれらのドラグーンが渋滞の根本要因になっているように思える。

 

「あれは何じゃろな」

 

 イングリッドの視線を追って、キュルケが慌てて答えた。ルイズが「ちっ」とでも言いそうな表情で顔を歪める。

 

「あれは高級食材とか、貴族向けの荷物とかを運ぶトランスポルトン・ドラグーンね」

 

「……輸送機かの」

 

「輸送機?」

 

「ああ……いや、その、な」

 

 イングリッドはどうしたものかと右手で頭をかいた。輸送機という言葉が3人には伝わっていない。文化が違うのだで済ますべきだろうか。説明も難しそうである。

 

「うん、まあ、我の知る場所で言うところのトランスポルトン・ドラグーンの事よの」

 

「ふうん……?」

 

 ルイズが首を捻る後ろで、キュルケが大いなる疑問符を浮かべて、刹那、弾かれるように身体を前傾させてイングリッドに顔を寄せる。その結果としてキュルケの身体の下敷きになったルイズが叫ぶ。

 

「くぎゅ!」

 

 それは叫び声と言ってよいのだろうか?

 

「ちょっとまってイングリッド!あなた、ドラグーンが何か知らなかったんじゃないの?」

 

 「えっ?」と顔を跳ねさせて後ずさったイングリッドにタバサも僅かな驚愕を顔に浮かべてこちらに振り向いた。もっともその表情は「知っているならなんで説明させたんだ?」という非難が混じっている風だった。

 

「あ、いや、そのだな!」

 

 やぶへびだった。何もかもを知らないと装って、ひたすら相槌をうてばよいだけの話だった。うっかり余計なことを口走ったのだ。このあたり、致命的にコミュニケーション能力が欠如するイングリッドのあり方が見事に暴露される結果が唐突に現出した。殴り愛に終始したイングリッドの通常時のあり方がまったく通じない状況に置かれていることを、イングリッドはナチュラルに考慮の外に投げ出していたのだ。

 

「ああぁー、その、なんだな……」

 

 僅かに空を振り仰いで眼を泳がせるイングリッド。非難めいた視線を送るタバサに、あれこれ喚くキュルケ。その下でじたばたと暴れるルイズ。

 「なにをしているんだか……」とばかりにこれ見よがしの溜息を吐いたシルフィードが、前を飛ぶドラグーンから距離を取って着陸に備える。

 一機づつ、右方向に旋回しながら【不確定名称:滑走路】に進入してゆく。事実、ハルケギニアでも「滑走路」で良いのだがそれを説明する人間が失われたシルフィードの背の上ではイングリッドにそれを知る余地はない。

 

 着陸用と離陸用で分けられているわけでもなく、単純に、幅300メイル、延長5000メイルほどという巨大な滑走路南側が着陸用で、北の端から中間部2500メイルまでが離陸用とアバウトに区切られただけの滑走路である。

 流石に着陸については4本ある滑走路に1機づつのマズルカが順番に着陸進入しているが、離陸に関しては2500メイルほどの距離を使って、何機ものマズルカが同時に離陸を試みている。「現代的」感覚からすればありえないどころの騒ぎではない危険な姿だが、当の当事者達にとっては特段危険を感じている風でもない。それなりに秩序だった風景が展開している。

 空中のドラグーンや飛行船といったモノを管制することが不可能ではあっても、地上滑走については一応、管制が行われているようで、オレンジ色の服を着せられたグリフォンが低空を何羽も飛び回って、蛍光ピンクのジャケットを着た人間に指示を出して周り、それを受けて蛍光ピンクを光らせながら、地上を移動するドラグーンを案内しているようだった。人間にしてはありえない速度で地上を走り回っているので、それらは何らかの魔法的補助があるのだろうとイングリッドは想像する。

 滑走路の両脇に、一定の間隔を持って堀があり、そこに何人もの蛍光ピンクのジャケットを着た人間がつめているが、時に、グリフォンの指示がなくとも人間が飛び出していくのはどういうからくりだろうかと、イングリッドの好奇心がうずく。

 

 2本の滑走路が東側に、もう2本が西側に。それぞれの滑走路の両側に誘導路があって、ぱっと見たところ、それぞれの東側誘導路が北側から回り込んで、離陸位置に移動するための誘導路。西側が着陸後、ドラグーンが避けて南側に移動して、エプロンへ向かう誘導路と分けられているようである。

 滑走路そのものは白色の極めて滑らかな舗装がされていて、幾筋もの黒い線がその上を汚している。タイヤの跡なんだろう。離陸機誘導路は赤色に、着陸機誘導路は青色に舗装されて、それぞれのアプローチは黄色とそれぞれの目的方向への色にまだらに塗られている。その縞模様は進行方向に対してV字を描いてわかりやすい。それなり以上の工夫が施されていてイングリッドは激しく感心してしまう。

 4本の滑走路の北の端と南の端を串刺しにするように作られた東西方向の滑走路は横風滑走路だろうか?しかし、使用頻度はきわめて低そうだ。ほとんど新品同様の姿を見せている。横風滑走路というのもイングリッドの勝手な想像で、実際はどうかはわからない。

 

 その中央に、まさしくターミナルビルと呼ぶしかない巨大な施設が建ち、その両側に、エプロンがあって、駐機した竜籠からぞろぞろと人間が降りてきたり、乗り込もうとしていたりする光景が展開されている。

 ターミナルビルは、はっきり言って、イングリッドの想像をはるかに超えた建築物で、うっかりあごが外れるかと思ったほどだった。

 

 中央にガラス張りのドーム屋根を抱いた巨大な円形の建築物があって、その中央を穿って150メイルはある高さの塔が建っている。円形の建物は半径300メイルはある5階建ての巨大な建物で、東西方向に幅50メイルほどの3階建てのデッキが100メイルほど延びてエプロンを南北に分けている。そうして区分けされたエプロンは、北側が搭乗用、南側が降機用と分けられているようだった。

 南北方向にそれぞれ外側に翼を広げたY字の3階建ての建物が伸び、アクセス・ウイングとなっているようだった。両翼は優に1000メイルはあるようで、V字の付け根部分まで500メイル。V字部分がそれぞれ500メイルほどで、その開口は400メイルほどを取っていると推測された。その壁はほとんどがガラス張りで陽光をキラキラと反射している。

 Y字の、V部分の付け根にそれぞれ高さ100メイルほどの塔が建っている。

 管制の幼稚さをのぞけば、地球でもなかなか見られない、極めて充実した施設を抱く、超巨大空港の姿がそこにあった。

 

 ターミナルビルの上に北側と南側、そして中央と、3本の管制塔……としか言いようがない塔があるが、イングリッドが見た限りではどのような設備なのか想像もつかなかった。無線がないのでは、あのような設備があっても意味がないように思えるのだ。

 一応は発光機がちかちかと光を瞬かせているが、どういう役目があるのかまでは想像をめぐらせる材料にならない。いろいろ聞きたい事はあるが、現状、イングリッドは他の3人に弁解するのに忙しくて、他の何かを成す雰囲気ではなかった。

 エプロン北側と南側に大型の格納庫や整備設備と思しき施設が立ち並び、使われていない竜籠が牽引車?に引っ張られたり、イズルカが馬丁に引っ張られている姿が見える。そういうのも観察したいが、視線を反らすたびにルイズに髪の毛を引っ張られて、周囲を見渡すどころではない。

 

 離着陸をするドラグーンに対して、大きな文字盤が掲示されて、離着陸寸前の終末管制や、着陸後の移動方向などを示している様でもある。拡声魔法を使って、着陸進入中のドラグーンに対する指示も行われているようだ。

 マズルカは滑走路に向かって進入するが、イズルカに対しては、下から明らかな発光信号による指示が出されていて、それを受けたイズルカの群れは、高度300メイルほどの位置で直径1000メイルほどの円を描いて空中待機する列に上から順番に加わっていく。待機位置は南側ウイングの上空、塔の上を中心としている。

 下から細くて強力な光帯が伸びると、それに照らされたイズルカが旋回しつつ高度を落として、V字の先、口を開けた部分のエプロンに円形の光が描かれて、それを確認したイズルカが旋回しながらアプローチをして、光のサークル中心にタッチダウンした。着陸が終わった時点で、直ちに光が失われる。着陸したイズルカに数人の係員と思しき姿が駆け寄る。

 着陸が確認されると、南端エプロン部に別のサークルが描かれて、光帯に照らされた別のイズルカがそれを目指して旋回降下する。

 

 無線等無くとも十分に機能的な管制が行われている事実を見て取って、イングリッドは、その秩序だった動きに大いに感動して見惚れてしまった。喚くルイズやキュルケを思考の外に追いやってしまった。

 正しく、必要は発明の友だった。必要が無線の開発に歩を進めなかったのは残念だが、無ければないなりに、安全な管制方法というものは工夫で補えるのだと理解した。十二分に魔法を駆使して空域の秩序を守っているのも感動的だった。

 長い歴史を直に知るイングリッドであっても絶対に唯の一度も経験したことの無い風景だと断言できる光景が眼前に展開している。まったくの新しい世界が展開している風景にイングリッドの眼は釘付けだった。

 

 無線がない管制塔が役立たずなんていう考えは、イングリッドの勝手な思い込みで、極めて有意義な用途を持っていた。南側の管制塔が着陸を試みるイズルカの管制を受け持ち、北側が離陸用。中央の管制塔がマズルカ用ということなのだろう。中央の管制塔は、塔の南側で着陸を、北側で離陸を受け持っているに違いないと想像する。

 パイロットの背に向けて管制する形になる離陸管制がどうなっているかは大いに興味があったが、それにしても素晴らしい秩序を持って、飛び交うドラグーンの姿は見事だった。イングリッドは正直に言って、この姿を見て初めて本当に、ハルケギニアが異世界なんだと、心の底から納得した。

 まったくシャッポを脱ぐ光景だった。納得もしたし、感動もした。正直、もっと乱雑で混沌とした風景を想像していたのだ。

 精々が、適当に整地された草地に、ドラグーンが群がって、先を争って着陸する姿を想像していたのだ。その端っこで、桶に入れた餌をイズルカに食わせて、マズルカを大勢の人間が手押ししているぐらいの牧歌的風景を想像していたのだ。

 イングリッドはハルケギニアを散々に嘗めていたことを認めた。ハルケギニアはハルケギニアなりに高度な文明を育てている、極めて高水準の社会を構築している世界だったのだ。

 

 

 激しく顔を輝かせているイングリッドの姿に、3人が顔を見合わせて苦笑した。極めて珍しいことではあるが、タバサですら生暖かい風の笑顔を浮かべていた。ルイズはつかんでいたイングリッドの銀髪から手を離し、うっかりと抜けてしまった数本の髪の毛が手元に残ってしまったことに若干の動揺を覚えて、それを、風に乗せて手放した。

 

「イングリッドってば、幼い子供みたいね……」

 

 イングリッドは、シルフィードの尻尾の付け根に這い蹲って、宙に顔を出し、しきりに周辺を見渡している。そこまで這っていくイングリッドをルイズは留める事が出来なかった。背にルイズを乗せたまま引きずって、好奇心いっぱいに空を眺めるイングリッドに、ルイズもお手上げだった。

 ルイズと視線をあわせたキュルケが頷いて、次いでタバサに視線を移すと、タバサも大様な動作で頷いた。

 キュルケが苦笑いに溜息を乗せつつ、イングリッドの顔を見る。

 

「ちょっと可愛いよね」

 

 そのキュルケの言葉に、タバサもルイズも同感だとばかりに頷いた。

 

 シルフィードはその光景を視界の端に捉えながら密やかな溜息を吐いて、管制に導かれて地上の光を目指す。

 着陸の寸前まで尻尾の付け根のむず痒さを我慢する羽目になった。

 




 異世界からやってきたイングリッドが狂言回しとしての存在感バリバリー!やめて!な回です。
 こういう使い方が大変に便利なイングリッドでした。

 全然ストーリーが進まない話ですが、後々のストーリーに重大な影響を及ぼす伏線が盛りだくさんな話でもありますので読み捨てて欲しくないとも思ったりして。
 やたらとしつこい説明が連なっているのは自分の文才のなさゆえです。まことに申し訳ない。
 後々、ここに書かれている言い回しを普通に使って続きを書いていきますので、専門用語の確認の場と思っていただければ幸いです。


一括表示すると章区分が見えなくなることに気が付いたので、暫定的にサブタイトルに章区分を追加しました。
一括表示では前書き、後書きも見えなくなるので、こういうお知らせも気が付かない人がいっぱいいるんだろうなぁ。


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