IS~ワンサマーの親友   作:piguzam]

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デッドプール(以下デ)「これは、予告だ……」

作者(以下作)「シリアスに言ってるけどどっから入った?」

デ「いやーIFの方にゴーストの旦那が居たからちょっち来てみた、(*ノω・*)テヘ」

作「本家さんじゃねーから、帰れ」

デ「つれない事言うなよピーの旦那」

作「待て、俺ピグザムだから、ピーだと卑猥を隠す音声になっちゃうから。俺の名前ピーって隠されちゃってるから」

デ「んでもって予告だけど、聞いて腰振るなよリスナー!!」

作「おい腰振るってなんだよ?そこ一番ピーいれなきゃいけねえトコじゃねぇか」

デ「この話の30分後に、R-18投下すっから、興味あったらチェケラ!!」

作「それ俺が言うべき台詞だよな?」

デ「何かピーなりに頑張ってエロくしたらしいから、興奮して腰振ってくれたらなーって願望あるらしいよん?」

作「あ、そこに繋がるのか?分かり辛い振りだな」

デ「ちなみに俺はさっき振って来た(*´ω`*)ジャパン風に言うとフジヤマボルケーノしたからちょっとマスタースパークしてきた( ー`дー´)キリッ」

作「言わねーからもう帰ってくれ」




ブロンド貴公子の実力

 

 

突然だが、一夏の訓練の充実度について語りたいと思う。本当に突然だがな。

 

 

 

半ば強引にクラス代表へと選ばれてしまった一夏だが、持ち前の責任感から責務を果たそうと日々訓練に励んでいる。

更にクラス代表としての委員会なんかへの出席とかも戸惑いながらもこなしていくという皆勤賞っぷりだ。

しかし実際の所、一夏のIS訓練については余り充実した内容にはなっていない。

 

 

 

それが何故かと言えば――

 

 

 

「こう、ズバーとやって、ガキン!!ドカーンという感じだ!!」

 

「何となく分かるでしょ。感覚よ感覚……ハァ!?何で分かんないのよ馬鹿!!」

 

「防御の時は、右半身を斜め上前方へ5度傾けて!!回避の時は、後方へ20度ですわ!!」

 

「あのゴメン率直というか端的というかもう兎に角全然分からん!!日本語でおk!?」

 

「だ~めだこりゃ」

 

「だめだね~」

 

「え、え~っと……」

 

 

 

コーチ役が日本語で話してくれないという悲しい理由からだ。

とりあえず落ち着けおまいら、そんな一気に3人で喋りかけても一夏が聞き取れる筈も無えって。聖徳太子じゃねーんだから。

一夏の必死でささやかな反抗を聞いて更にヒートアップしそうな3人の前に割り込む。

 

「ちっと落ち着けっての。とりあえずお前等の言ってる事は俺にも理解不能だからな?」

 

「だよな!?やっぱ俺だけじゃ無えよなゲン!!」

 

俺の背中に隠れつつ「自分だけじゃなかった!!」と嬉しそうにする一夏。

お前は理解出来ないのに嬉しそうな顔すんなよ。

 

「何でアンタも分かんないのよ!!二人揃って馬鹿なんだから!!」

 

「わ、私とて判らないなりに精一杯やっているぞ!?」

 

「こんなにも理路整然とした説明の何処に不満があるのですか!?」

 

「だから落ち着けって言ってんだろーが。この暴走特急娘達が」

 

ゴンゴンゴン!!

 

「「「痛ったぁ!?」」」

 

其々ISを装備していたので、俺は遠慮なくオプティマスの拳で頭をシバく。

ゴンという鈍い音を鳴らして振り下ろされた拳の威力に、3人はたたらを踏んで後ろに下がってしまう。

フゥ、やれやれ……これで少しは落ち着いたろ。

未だに納得出来ないって顔をしてる3人に対して、俺は大きく溜息を吐きながら疲れた表情を浮かべる。

現在の時間はあの記憶が飛んじゃった事件から4日後の放課後、場所はアリーナの1つで御座います。

一夏のクラス代表の仕事とかアリーナの人数の関係で結構日にちが空いてしまったが、今日は久しぶりの訓練になる。

俺も昨日は真耶ちゃんとの射撃訓練をしただけだったので、今日は久しぶりにオプティマスを使って訓練をする事にした。

更に本音ちゃんとさゆかも訓練機を借りれたので、今回は結構な人数での訓練になった。

そこで今回から一夏のコーチ役として合流した鈴を交えて、俺達は訓練を開始したんだが、これがまた難儀な事になってんのよ。

コーチをするって事は自然と一夏と触れ合えるって事で、前々からその座を争っていたセシリアと箒の間に鈴も入るモンだからしっちゃかめっちゃかだ。

更に最悪なのが、この3人は知識面。所謂アドバイスのコーチとしては余りにも不向きって事だ。

 

「まず箒と鈴。テメエ等の超感覚的なアドバイスされて理解出来るヤツが居ると思うか?何だよ『擬音オンリーの表現説明』と『考えるな、感じろ』的なアドバイスはよ」

 

「だ、だが、私はありのままに感じてる事を言ってるだけで……」

 

「ア、アタシだってそうよ。こうしたらこうなるって、言葉じゃ難しいのよ」

 

「その時点で既に説明に適して無えだろうが。具体性が無いから何言ってっか分かんねえよ」

 

俺に突っ込まれてグゥの音も出ないって表情を浮かべる箒と鈴。

こいつらは感覚的なモノでISを動かしてるから、こんな感じという具体的なアドバイスが全然出来てない。

勿論座学ではコイツ等の方が俺達よりは優秀だが、戦闘面でのアドバイザーはそれとイコールじゃねぇ。

何が駄目で何がOKか、具体的に且つ分り易く無いと、戦闘面でのアドバイザーは出来ないのだ。

ここで唯一俺に指摘されてないセシリアがドヤァな顔をするが、テメエも駄目だっつの。

 

「それとセシリア、お前はハッキリ言って逆に細かすぎだ。一夏は俺と同じでISの知識はほぼ無いに等しいんだから、もっと分り易く噛み砕かねぇと理解なんて出来ねえっての」

 

「うぐっ……た、確かに理論的過ぎましたか……」

 

セシリア自身も思い当たる節があったのか、喉に言葉を詰まらせて唸る。

ハッキリ言ってセシリアの説明は、玄人のIS乗り達なら分かるであろうという上級説明なんだ。

今まではひたすら模擬戦を繰り返して、その後で駄目出しを出していくという遣り方だったけど、まさかこんな弱点があろうとはな。

ちょっと遣り方を変えて、一夏自身にコーチを付けようってのは間違いだったか。

これならまだひたすら模擬戦を繰り返して駄目出しをする方がまだ全然効率が良かったな。

どっちかといえば一夏は言葉で分り易くと感覚派の中間辺りだし。

 

「一夏、元次、遅れてごめん」

 

と、俺達が話してる時に、後ろから遅れて来たシャルルが声を掛けてくる。

シャルルも既にISを纏った姿で、何時もの王子様然とした柔らかい微笑みを携えていた。

その笑みを見て目をハートマークにする他の訓練機を使用した女子生徒達が多数居る。

っていうかあれ?シャルルの専用機ってラファールじゃね?カラーリングこそ違うけど……。

 

『フランス第2世代型、汎用型専用機ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』

 

オプティマスのハイパーセンサーから伝わってきたシャルルのISは間違いなくラファールだが、只のラファールでは無くカスタム機の様だ。

セシリアや鈴、一夏のISと同じでアンロックユニットが存在し、背中に配置された4枚のウイングスラスター。

まぁ代表候補生な上にデュノア社っていうIS作ってる会社の御曹司が只のラファールに乗る訳が無えか。

 

「一夏。ちょっと相手してくれないかな?白式と戦ってみたいんだ」

 

どうやらシャルルは前の約束通り、一夏の訓練の相手をしてくれるらしい。

その約束を思い出したのか、一夏も目を輝かせて頷く。

あいつも男との触れ合いに飢えてんだな……それと、とりあえずあの3人の説明という名の理解不能講座から逃げ出してぇんだろう。

 

「おう。良いぜ。じゃあそういう訳だから、また後でな」

 

「「「むぅぅ……」」」

 

あっさりとシャルルの提案を受け入れてホイホイと置いて行かれた事に不満があるのか、3人は揃ってムッとした表情を浮かべる。

まぁ3人からしたら袖にされた事は不満だろうけど、俺でもあんな理解不能な座学は逃げ出すから一夏が悪いとは言えねぇ。

そうこうしてる内に練習していた生徒達に場所を空けてもらい、二人が中央で構える。

 

『一応模擬戦って事で、一夏は零落白夜を使うなよ……じゃあオメー等、用意は良いか?』

 

『何時でも』

 

『何処でも』

 

『シャルルは良いとして、ネタに走ってんじゃねぇよ一夏。ったく……んじゃ、始め!!』

 

二人のちょうど中央辺りに立っていた俺は開始の合図を出すと同時にスラスターを吹かして離れていく。

さて、シャルルの実力ってのがどんなモンなのか、じっくりと拝見させてもらいますか。

まず最初は一夏が雪片を片手に特攻し、シャルルはその場から動かず待ちの姿勢で近接武器の『ブレッド・スライサー』を構えた。

しかし一夏の雪片とは違い、セシリアのインターセプターの様な小振りのナイフで迎撃は可能なのか?

 

『せい!!はぁ!!』(ガキンッ!!ギュイィッ!!)

 

そんな待ちの姿勢に徹するシャルルへと放った一夏の剣戟は、最初の一太刀をブレッドスライサーで阻まれ、ならばと切り返した逆胴は左手の実体シールドに止められる。

結構昔の勘が戻り、元々持っていた天才的センスも相まって強くなった一夏の剣戟を、シャルルは的確に捌いている……近接戦闘は結構出来るらしいな。

 

『じゃあ、ここだ!!』(ブォンッ!!)

 

『ッ!?(ドスッ!!)く!!』

 

しかし、一夏は逆銅が阻まれた瞬間、柄を握る手を緩めて押し出し、雪片の流れを変えた。

そうする事で触れていた実体シールドが支点となり、雪片は緩やかに回転し、柄の方がシャルルの身体へと向き直る。

そこから再度柄を握り直し、超至近距離からの柄による加速を乗せた打突をシャルルの腹部に見舞った。

おぉ?アイツも結構やる様になってやがるな。

 

「篠ノ之流剣術、流穿ち……咄嗟に技を繰り出せるとは、入学時と比べて上手くなったものだ」

 

「だな。元々持ってたアイツのポテンシャルが、箒との訓練で磨き上げられた結果だろ?もしくはレストアか」

 

「うむ。最近では私との試合で勝ち星も増えてきているからな……研磨するのは然程難しくは無かったぞ」

 

「そりゃ何時迄も錆びついてる訳じゃ無えさ。兄弟はそんな奴だよ」

 

一夏に視線を向けながらも、隣で俺と同じく一夏に視線を向ける箒と軽く会話する。

その評定は、昔の様に強くなっていく一夏を見れて凄く嬉しそうだ。

これにはシャルルも面食らってそのまま攻撃を受けてしまうが、直ぐに雪片を弾いて空へと飛翔していく。

一夏も直ぐ様飛び上がって追い掛けるが――。

 

『(パァアッ!!)はあ!!』(ズドドドドドッ!!)

 

『(ババンッ!!)うあ!?危ね!?』

 

『銃弾の回避行動が早いね!!普通ならこれは全弾当たるんだけどなぁ!!』

 

後ろから真っ直ぐに飛翔して向かって来る一夏に、シャルルは上空から飛翔したままダークグリーンカラーのサブマシンガン、P-90モデルの『ガルム』をブッ放つ。

突然の事で対応出来なかった一夏だが、直ぐ様機体を回転させたり直角に射線の上からズレる事で残りの銃弾を回避する。

 

「わたくしのご教授した飛行機動訓練の成果がしっかりと出ていますわね」

 

結構得意げに言うセシリアだが、実際セシリアの飛行機動の技術は俺達の中でも鈴と同じで抜きん出ている。

代表候補生として厳しい訓練を潜り抜けてきたセシリアの軌道能力が一夏の白式の機動力で使えればかなり強力なアドバンテージになる。

そうセシリアに誘われて習った一夏の軌道技術はかなりのモノに昇華された。

 

「そうだな。セシリアがリードして飛行パターンを教えたからこそ、一夏の白式の機動力があれば、ああいう機動も可能って訳だ」

 

「ふふ。わたくしの飛行機動と中距離射撃法の基礎をちゃんと身体で覚えて頂ければ、同じ射撃法の相手の対処にも繋がりますから」

 

「後は料理の腕を磨いておかねぇとな」

 

「そ、その事は重々反省してます!!余り仰らないで下さいな!!」

 

「はははっ。悪い悪い」

 

ここで先日起きた事件の事を話せば、セシリアは剥れて俺に非難の視線を浴びせてくる。

しかしまぁ料理をやっている俺からすれば料理するならちゃんと作って欲しいからこそ、こんな感じでイジるのだ。

 

「1人でする自信が無えなら、一度俺んトコに来い。ちゃんとした料理ってモンを教えてやるからよ」

 

そう提案すれば、セシリアは目を輝かせて俺の事を救世主でも見る様な目で見つめてくる。

逆に箒と鈴は焦る様な表情を浮かべて俺を見ながら慌てていた。

悲しい事に一夏に恋するこの3人よりも、圧倒的に付き合いの長い俺の方がアイツの好きな味や食材を知ってるんだ。

だからこそ、その料理というアドバンテージをセシリアに教えられる事への危機感もあるんだろう。

 

「けど初めに言っとくぞ?俺は基礎を教えてもその先の応用は教えねぇからな」

 

「え?ど、どういう事ですの?」

 

「お前1人でも料理して大丈夫ってトコまでは教えてやるが、その先の味の追求は自分でやれって事だ。幾ら俺の味を学んだ所で、それは俺の料理のコピーでしか無え」

 

俺の言葉の意味が判らず首を傾げるセシリアに、俺は苦笑しながら言葉を続ける。

確かに折れは一夏の好きな味とかを知ってるけど、更にその先のオリジナリティってのは教える気は一切無い。

完全な俺の料理の物真似をした所で、それはセシリアの料理じゃ無えからな。

 

「俺から学んだ技を自分流に活かして料理するのが絶対の約束だ……アイツに俺と同じ料理を食わせて美味しいと言わせるんじゃ無くて、『セシリア・オルコットの料理』を食わせて美味しいと言わせてやんな……男ってのはレシピ通りの料理より、女が一生懸命作ってくれた料理の方が好きなんだからよ」

 

そう言うと、セシリアはまるで目から鱗が落ちた様に目をパチクリさせるも、直ぐに瞳に力を灯す。

何故か周りの人間も「おぉー!!」と驚愕した表情を浮かべているではないか。

箒と鈴はそれを聞いて、「ならば私も精進せねば……」とか「もう少し酢豚の味付け変えてみようかしら?」と自分の料理の見直しをしている。

さゆかや本音ちゃんだけではなく、俺等の周りに集まった他の生徒まで感心した声を挙げていた。っていうか何時の間にこっち来たの?

 

「はい!!それはキチンとお約束致しますわ!!ですから元次さん、いえ先生!!ご教授の程、よろしくお願いします!!」

 

「せ、先生ってのは大袈裟だな……まぁ、今日の夜からでも来い。ちょうど今日中に使い切りたい食材も有る事だしよ」

 

「はい!!」

 

「はいは~い♪試食役に~、立候補しま~す♪」

 

「わ、私も良いかな?私も元次君の料理する所を見てみたいから……」

 

と、早速横合いから本日のお客様が決まりましたよ。

本音ちゃんとさゆかが訓練機のラファールに乗ったまま俺に聞いてきたので、俺はそれにOKを返す。

この二人ならちゃんと試食して評価してくれるだろうし、食材も4人分くらいあるからな。

とりあえず仕込みを始める時間をセシリアに伝えて、俺達は再び空中でドッグファイトを演じているシャルルと一夏に視線を向ける。

 

『はぁああああ!!』

 

空中での戦闘を演じていた二人の内、一夏が瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使って一気に距離を縮め、雪片を大上段から振り下ろす。

唐竹割りの要領で振られた剣は一直線な剣筋だから、派生も速く鋭い一撃を繰り出す事が出来るんだが……。

 

『素直な分、読みやすいよ!!』

 

『なに!?』

 

軌道が一直線な分、相手にモーションも伝わりやすい。

速度はかなりの剣戟をあっさりとシャルルは機体をツバメの様に上空へ翻してから逆さまに地面へと軌道を変える。

しかし瞬時加速(イグニッション・ブースト)で奇襲を掛けた分を加味しても、今のシャルルの回避行動には随分と余裕があった様に感じられるな。

今まで戦ってきたセシリアや鈴ですら読み切れなかった瞬時加速をあっさりと読み切るとは……。

 

「デュノア君には、織斑君の瞬時加速が判ってたみたい……」

 

「そりゃ当然よさゆか。基本的にイグニッション・ブーストは真っ直ぐしか飛ばないし、一夏は雪片しか無いから予測も付けやすい。タイミングさえ分かれば簡単に回避出来るの」

 

「あ?でも鈴。お前はクラス対抗戦で一夏のアレを読み切れなかったじゃねぇか」

 

「だ、だってあの時は、まさか一夏があんな技を取得してるなんて思わなかったから……」

 

要するに油断してたからって事かよ。相手を過小評価して後で気付くのは鈴の昔からの悪い癖だな。

痛い所を突かれて視線を明後日の方向に逸らす鈴を、隣に立つさゆかが苦笑しながら見ていた。

 

「さてさて、また距離を離されちまった一夏はどうするんだろうな」

 

「ほえ?どうするって~、近づくしか無いんじゃないかな~?」

 

「まぁ本音ちゃんの言う通りだが……果たしてシャルルが素直に距離を詰めさせてくれんのか……」

 

疑問顔で俺に視線を向けてくる本音ちゃんにそう返しながら上空を見ていると、シャルルが動き、スナイパーライフルをコールした。

やっぱそう簡単に距離は詰めさせてもらえそうも無いか……っていうかシャルルの奴、武器の展開速度が尋常じゃなく速いな……。

さっきまで持ってたガルムを消してからレッドバレットを展開するまでのマージンが速過ぎる気がするぜ。

そう考えていると、シャルルは機体を逆さまに向けたままターゲットを定めて、発砲。

 

『(ズドンッ!!)ぐぅ!?』

 

その弾丸は吸い込まれる様に一夏へと被弾し、続けざまに3発、4発と一夏に撃ち込まれていく。

どうやらシャルルの作戦はそのまま一夏が近寄って来るまでに撃破しちまおうって魂胆らしいが――。

 

 

 

『(ズドンッ!!ズドンッ!!)う、ううぅ!?』

 

『これで終わりだよ!!(ドォンッ!!)』

 

『ッ!?(キュピンッ!!)うおぉおおッ!?死にたくねーーーーッ!!?(ガキィンッ!!)』

 

『へ?――えぇええええ!?』

 

 

 

残念な事に、一夏に対して射撃武器での安全攻撃は絶対とは言えねぇのさ。

シャルルが核心を持って撃ちだしたトドメの一撃は、一夏の繰り出した千冬さんの十八番である弾弾きによってあらぬ方向へと飛んで行く。

アイツもホント成長が速いよなぁ……シャルルの驚きも理解出来るぜ。

ハイパーセンサーに映るシャルルの表情はこれ以上無いって程に驚愕に染まっていた。

 

「お~?おりむーが弾を弾いたね~?」

 

「あぁ。最近はゴムボールじゃなくて石を投げてるからなぁ。その防衛本能が働いたんじゃね?」

 

「『死にたくねー!?』て言ってたもんね~?」

 

『『『『『何やってるの!?』』』』』

 

「あ、あの元次君?それって織斑君が怪我しちゃうと思うんだけど……」

 

「心配無えよさゆか。千冬さんの指示だし、アイツも死ぬ気でやってるからな。俺も殺る気maxで投げてるし」

 

『『『『『大丈夫な要素が皆無!?しかも字が違うでしょ!?』』』』』

 

周りの女子が驚愕に目を見開き戦慄するが、俺は特に取り合わない。

今じゃあらゆる方向からなんて事はしないで、俺が投げる硬球を弾く事をやってるが、これが一夏には効果的面だった。

尊敬し、憧れる千冬さんからの指示と「私の弟だからな。お前なら出来るさ」ってお言葉で一夏も意欲的にやってる。

その成果が今、実践で実を結んだって訳で……まぁ一言で言うなら、俺も自分の事の様に嬉しい。

 

『ぜぇや!!そらぁ!!』

 

『(ガキィンッ!!)うわぁ!?』

 

そして弾を弾いてシャルルが動揺している所へ二度目のイグニッション・ブーストを使用した奇襲を掛ける。

今度はキッチリ成功したらしく、一夏は怒涛の勢いで連続斬りを浴びせていく。

 

『く!?えい!!(ギィンッ!!)』

 

『おいおい!?武器出すの速すぎるだろ!!』

 

しかしその連続斬りも、レッドバレットを放り投げてシャルルが再度展開したブレッドスライサーに阻まれる。

その展開速度の速さに悪態を付く一夏だが……その『一瞬』で攻防が引っ繰り返る。

 

『(キュイン)それ!!(ダァンッ!!)』

 

『ぐあ!?』

 

瞬間、いや刹那の間に、シャルルの片手に展開されたショットガン『レイン・オブ・サタディ』にゼロ距離射撃を浴びせられ、堪らず距離を離す一夏だが――。

 

『たあ!!(ギャインッ!!ダァンッ!!)』

 

すかさず距離を詰めに掛かったシャルルが、ブレッドスライサーで雪片を抑え、再びレイン・オブ・サタディのゼロ距離射撃を喰らわせ、一夏に撃墜判定が下った。

この勝負の勝者はシャルルだ。

俺等の周りの女子は中々ハイレベルな専用機同士の戦いに興奮した様に騒いでいる。

そんな中で、俺はシャルルが最後に見せた妙な動きについて思考を巡らせていた。

咄嗟の判断でやっていた様に見えたけど、少し違う。

何ていうか……慣れた感じのリズムで戦っていたというか……パターンに嵌めてた気もするが……。

 

「いやー、負けた負けた……シャルルは強いなぁ」

 

「そんな事無いよ。僕も何度か危うい場面があったからね。一夏もかなり強いと思う。それにまさか弾丸を弾かれるなんて思いもしなかったよ」

 

「そうか?まだ結構皆に負け越してるから実感無いけどな」

 

と、考えていた俺の目の前にレッドバレットを回収したシャルルと一夏が話し込みながら近づいてくる。

一夏はまた負け星が増えたと方を落とし、そんな一夏に慰めの言葉を掛けるシャルル。

まぁ試合結果で言えば負けだが、かなり善戦した方だろう。

 

「よぉ、どうだったよ。一夏の腕は」

 

視界の端でセシリア達に囲まれて今の模擬戦に対してアドバイスを貰っている一夏を見ていたシャルルに近づいて声を掛ける。

 

「正直、凄いビックリしたよ。一夏ってまだ専用機に乗ってからそんなに時間経って無いんでしょ?それなのに、あんな動きをするんだもん」

 

「だろうな。正直、あいつの戦いに関するセンスは半端じゃねぇよ。秘めてるポテンシャルが馬鹿みてーに高いんだ」

 

「やっぱり、織斑先生の弟なだけはあるって言うべきかな?」

 

「そいつは止めとけ。アイツはガキの頃から千冬さんに比べられてきたからな。アイツ自身の凄さを褒めるべきだろう……それに、シャルルの腕前も凄えじゃねぇか。特に最後の攻防は、型に嵌った様に綺麗な動きだったぜ?」

 

手放しの純粋な称賛を一夏に贈るシャルルだが、俺はシャルルの最後の動きこそ凄いと思う。

アレは絶対に偶然とかじゃねぇ。恐らく何度も繰り返して磨いてきた、シャルルの戦闘スタイルだ。

根拠は無えが、俺の喧嘩をしてきた経験がそう言ってる。

それに、シャルルが俺を見て驚いた表情を浮かべてる所を見ると、俺の勘は正しかったらしい。

 

「……元次も、一夏と同じくらいの知識だって言ってたけど、良くあの動きが砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)だって分かったね?」

 

「名称までは知らねえけどな。ちょっと前にある奴と喧嘩してから、そういうのを観る目が養われてんのさ」

 

ある奴とは言うまでもなくヤマオロシの事である。

アイツと戦ってから視線やその感情とかにも敏感になったし、戦闘面に関しても観察眼が養われた。

 

「喧嘩って……人を殴るのは、あんまり良く無いよ?」

 

「いや、人じゃなくて熊なんだけど?」

 

「あっはは。元次ってジョークも上手いんだね」

 

「ジョークでも何でも無えんだが……証拠に写真があるから見せようか?」

 

「見せなくて良いから、お願いだからジョークって事にして……僕の中の常識が崩れちゃうよ」

 

何故か俺の言葉を聞いて項垂れるシャルルだが、常識なんぞ投げ打ってしまえ。

俺は小学生の時に束さんが今の世の中で当たり前になってる空間投影式モニター、通称ソリッドビジョンを片手間で作った時に諦めたぞ。

あぁ、束さんは常識に縛られる人じゃなくて、常識を作る人なんだなと、当時ガキだった俺は勘違いしてたっけ。

 

「なぁシャルル。シャルルから見て、俺はどの辺りが駄目だった?」

 

と、3人娘からアドバイスを貰っていた筈の一夏がこっちに来てシャルルにアドバイスを求めた。

3人娘はというと、直ぐにシャルルへと話し掛ける一夏が気に入らないのか「ぐぬぬ……!!」と悔しそうに唸ってる。

シャルルもそれに気付いたのか、少し顔が引き攣るも、話し掛けてきた一夏に対して真面目にアドバイスを始めた。

やれやれ……まぁ、面倒が俺に飛び火してこねーんならそれでも良いけど。

 

「ええとね。駄目っていうか、一夏が凰さんやオルコットさんに勝てないのは、単純に一夏が射撃武器の特性を余り把握してないからだと思うよ」

 

「射撃武器の特性?一応分かってるつもりだったんだけどな……」

 

「知識として知ってるって感じかな?さっきボクと戦った時もほとんど間合いを詰められなかったよね?」

 

「うっ、確かに……必死に追い掛けてもどの辺りから銃を撃たれるかわからないから踏み切れない時もあるし、さっきはイグニッション・ブーストも読まれたしな」

 

一夏はシャルルの言葉を聞きながらさっきの試合を振り返って自分なりに反省していく。

普通に上手いって所もあったけど、アラを探せばまだまだ出てくる。

 

「後は、やっぱ最初の時に間合いを離されたのが一番痛えんじゃねぇか?お前の白式は攻撃範囲の狭さと燃費の悪さがネックだしよ」

 

「うん。元次の言う通りだね。最初の間合いで僕から離れずに攻撃してたら、負けてたのは僕の方だったと思うよ。それに、銃弾を弾いてから奇襲に移るのは凄く早かったし、やっぱり銃に関して詳しくなってたら、どのタイミングでどういう動きをするかが分かったと思う」

 

「あー、あそこの時点で駄目だったのか……って事は、最初のイグニッション・ブーストは使うタイミングを失敗してたか?」

 

「俺が第三者視点から見てた感じだとそう思うがな。シャルルは余裕を持って回避してたし、どっちかって言えば最初にシャルルが飛び上がった時の後追いで使った方が良かったかもしれねえ」

 

「一夏の白式は近接格闘オンリーだから、より深く射撃武器の特性を把握していないと対戦じゃ厳しいと思う。特に一夏の瞬時加速って直線的だから、反応できなくても軌道予測で攻撃できちゃうからね」

 

シャルルの話を纏めると、今回の一夏の敗因はイグニッション・ブーストの使い所を間違えた事が一番だろう。

それと射撃武器の特性についての理解不足ってところか……まぁ、それ抜きにしても中々惜しかったと思うけどな。

所々でまだ詰めが甘かったからこうなってるだけで、もっと深く思い切り良く動けたら、勝敗は引っ繰り返ってたはずだ。

 

「直線的かぁ……でも、イグニッション・ブースト中って無理に軌道を変えたらヤバイんだよな?」

 

「うん。空気抵抗とか圧力とかの関係で機体に負荷がかかると、最悪の場合骨折したりするからね」

 

正に今の一夏には新しい手段を講じる事は出来ない。

よって、新たな武装とかじゃ無く、現状は操縦技術と格闘術を磨くしか無いんだよな。

でもその方が一夏の肌には合ってるだろう、コイツは明らかな一能特化タイプなんだから。

 

「そうかぁ……かといって、これ以上の武器は望め無いしな」

 

「この白式って後付装備(イコライザ)が無いんだよね?」

 

「あぁ。拡張領域(バススロット)が何かで99,9%埋まってるらしい。武器1つなのにな」

 

「確かにおかしいよな。お前の白式で他にあるのって……零落白夜くらいだろ?」

 

「多分だけど、それは零落白夜が単一能力(ワンオフ・アビリティー)で、拡張領域(バススロット)はそれでいっぱいなんだと思うよ?」

 

二人揃って首を傾げる俺達に、シャルルが苦笑しながら補足と仮定を口にする。

っていうか何だ、また新しい単語が出てきたけど。

 

「ワンオフ……って何だ?」

 

「各ISが操縦者と最高状態の相性になった時に自然発生する能力のこと。白式の場合は零落白夜がそれかな」

 

零落白夜……千冬さんが乗ってた暮桜と同じ能力であり、雪片の一撃をチートたらしめる能力。

自らのシールドエネルギーを攻撃に転換する代わりに、相手のシールドエネルギーを無効化して直接ダメージを与える事が可能。

それにより絶対防御を強制的に発動させ、相手のシールドエネルギーを一気に削る事が出来る。

聞くだけなら最強無敵にしてチート過ぎる能力だが、使い所を間違えると一気にピンチへと早代わりしてしまう。

 

「ワンオフ・アビリティーか……そう聞くと納得だよな、一夏?」

 

「まぁ確かに。当てればほぼ一撃必殺のトンデモ能力だし、そう言われれば拡張領域(バススロット)がいっぱいなのも納得出来るな」

 

「俺のオプティマスには単一能力(ワンオフ・アビリティー)って項目はあっても「使用不可」ってなってるし……いやしかしまぁ、シャルル」

 

「「お前の説明って分かり易いなぁ」」

 

俺と一夏は互いに声を揃えてシャルルへと笑顔を向ける。

いや実際聞いてると本当に分かり易いんだ。

超感覚でも、フィーリングでも理論タイプでも無くて、くどくなりすぎず、それでいて要点をしっかりと押さえていて、本当にわかりやすい。

スラスラと専門用語を出して分かりやすく説明出来るってだけで間違い無くアドバイザーとしては、あの3人や俺を含めたこの場の誰よりも優秀だ。

そう思っていると、何故かシャルルは苦笑いしながら口を開いた。

 

「二人とも笑ってるけど、白式は第一形態なのにアビリティがあるっていうだけでものすごい異常事態なんだよ?前例がまったくないからね」

 

「え?そうなのか?」

 

シャルルの言葉に驚いた表情に一夏が問い返すが、俺も全く同じ気持ちだったりする。

一夏が普通に使ってたから、別に珍しいモンでも無いかと思ってたんだが……。

 

「普通は第二形態(セカンド・フォーム)から発現するんだよ。それに、二次移行(セカンド・シフト)しても発現できない機体の方が圧倒的に多い。だから、発現していないISでも特殊能力を使えるように、って開発されているのが第三世代IS。オルコットさんのブルー・ティアーズや凰さんの甲龍がそうだね」

 

第3世代……それで思い浮かぶのは、セシリアのBT兵器と鈴の衝撃砲だ。

そういえばあの二つは第3世代特殊兵装ってのだったな。

つまりアレがワンオフ・アビリティーの代わりって事で開発、搭載されてるんだろう。

そう考えると一夏の白式はレアな能力を積んだレアな機体って事になる訳だ。

 

「しかも、その能力って織斑先生の――初代ブリュンヒルデが使っていたISのアビリティと同じだよね?普通は姉弟だからって、同じアビリティが発現するはずが無いんだけど……」

 

「ふーん?……まぁ、俺としては零落白夜が使えるのはありがたいけどな」

 

「それって能力的な意味じゃねえだろ?」

 

主に大好きなお姉ちゃんと同じ能力最高ですって意味だと分かる。

何せ俺は一夏の兄弟ですから(笑)

 

「ばっ!?ち、ちげぇよ!!深読みすんなっての!!」

 

「あ、あはは……じ、じゃあ、射撃武器の練習をしてみようか。元次も一緒にやる?」

 

「シャルル、苦笑いしないでくれ!!」

 

「おう。俺も最近になって銃を撃ち始めたからな。是非ご指導頼むわ」

 

「うん。この前のご飯のお礼も兼ねて、ちゃんとするよ」

 

「あのお二人さぁん!?ちゃんと俺の話を聞いてもらえませんかねぇ!?」

 

騒ぐ一夏の言葉には取り合わず、俺達は他に訓練してる子達の邪魔にならない位置まで移動して、ターゲットスコアを出現させた。

未だに納得出来ていない一夏がぶつぶつと文句を言っていたので、とりあえずブン殴って訓練に集中させる。

お前のシスコン振りについてはもう良いっての。

頭を抑えて震えてる一夏を尻目にシャルルへと視線を送れば、シャルルはレッドバレットをコールして立っていた。

 

「じゃあ、実際に撃ってみようか。はい、一夏」

 

「痛てて……あれ?他の奴の装備って使えないんじゃないのか?」

 

「普通はね。でも所有者が使用承諾、つまりアンロックすれば、登録してある人全員が使えるんだよ。――うん、今一夏と白式に使用承諾を発行したから、どうぞ……あっ、元次とオプティマス・プライムにも出しておくね?」

 

「ん?あぁ、サンキュー」

 

一応自前の銃はあるけど展開するのも面倒くさいので、シャルルからの好意を有難く受ける事にした。

先にシャルルからレッドバレットを受け取った一夏は少し緊張気味な表情でレッドバレットを持っている。

まぁ初めて銃を扱うなら誰でもそうなるだろう、俺も最初はかなり緊張したしな。

 

「ええと……構えはこうで良いのか?」

 

「んっと、脇はもう少し閉めて……左手はここ。これでしっかりと安定するでしょ?」

 

「……おぉ。さっきよりも銃がブレなくなったぜ。サンキュー」

 

一夏は初めて握る銃を自分なりに構えてみせるが、やっぱ初めてなので銃がグラついたりしてる。

それをシャルルが後ろによって、手の位置や身体の位置を適切な位置に移動させた事で安定した構えを維持し始めた。

うん、やっぱシャルルがコーチを買って出てくれたのは大正解だな。

あの3人が全部悪いって訳じゃねぇけど、箒は近接を教えれても、一夏と同じく銃器は駄目。

オルコットは先に回避出来る様にと飛行技術を教えてて間に合わなかったし、鈴はそもそも銃なんて積んでない。

俺もまだ最近になってやっと銃について学び始めた所だからなぁ。

色々あってこういった事は誰も一夏に教えれて無かったし、そもそも一夏が白式に銃を積んで無いからって銃器の授業をちゃんと聞いてなかったのもアレだがな。

聞いてても余り重要視してなかったってのが正しいか。

 

「それと、このレッドバレットは火薬銃だから瞬間的に大きな反動が来るけど、ほとんどはISが自動で相殺するから心配しなくてもいいよ。センサー・リンクは出来てる?」

 

「銃器を使うときのやつだよな?……さっきから探しているんだけど見当たらない」

 

確かFCSだっけ?ターゲットサイトを含む銃撃に必要な情報をIS操縦者に送る為に武器とハイパーセンサーを接続する火器官制機器だったか。

これを使う事でハイパーセンサーを通した視界に、ドットサイトを浮かび上がらせる。

銃器と連動させる事で、銃が狙っている方向をドットサイトで示してくれるという、銃撃には大事なアイテムだ。

ゲームで例えるなら、ロックオンした時に、画面に浮かび上がるドットサイトがそのまま視界に映るって感じだな。

どうにも一夏の白式にはそのシステムが組み込まれていないらしい。

 

「あれ?ちょっと待て。確かFCSシステムってどんなISでも組み込まれてるんじゃ無かったか?」

 

授業で習った事との齟齬を見つけて、俺は堪らずシャルルに質問を飛ばす。

一方で一夏の答えを聞いたシャルルも少し戸惑った表情を浮かべていた。

 

「う、うん。僕のラファールの量産機とか、日本の打鉄にもあるよ……普通は格闘用の機体にもある筈なんだけど……」

 

「千冬姉が言うには欠陥機らしいからな、コレ」

 

「機体性能は100%格闘のみに割り振られてるって事かよ。白式作った奴は間違い無く千冬さんの暮桜の熱狂的なファンか、若しくは最高にイカれて最高にイカした奴なんだろうよ」

 

「うへえ……今度から倉持技研に行くのが怖くなる」

 

俺の呆れた呟きを聞いた一夏は顔を嫌そうに歪めてそう愚痴る。

ちなみに一夏の言った倉持技研というのは、白式の開発をした企業の名前らしい。

確かに千冬さんの暮桜は初代ブリュンヒルデが乗ってたって事で今も男女問わず熱狂的な人気がある。

だがもし、その後継機を作り出そうなんてイカれた計画の形が白式だってんなら、ちょいと倉持技研は夢とロマンに溢れすぎだと思う。

そんなピーキーなマシンを乗りこなせるヤツがホイホイ居たら洒落にならねぇっての。

 

「まぁ今はその事は置いておいて、FCSが無いなら目測でやるしか無いね。一夏、ちょっと試しにそのまま撃ってみて」

 

そんな感じで訓練の空気から少し脱線した俺達を見て、シャルルは微笑みながら訓練に戻る様促す。

それで今の状況を思い出したのか、一夏は「お、おう」と返事を返しながら、シャルルに教わった構えをもう一度作る。

とりあえず目の前にターゲットスコアが出ているので、一夏はそれ目掛けて引き金を引いた。

 

バァンッ!!

 

「うお!?」

 

火薬銃の織り成すマズルフラッシュと炸裂音に驚いて、一夏は大声をあげる。

勿論初めて撃って当たり、なんて頃が起きる筈も無くターゲットスコアは大外れのポイントを掠めている。

俺も最初に銃を撃った時は似た様なリアクションをしたので、少し懐かしい気分になった。

 

「どう?初めて撃った銃は?」

 

「……あ、あぁ。何ていうか、とりあえず……『速い』って感想だ」

 

「そう。速いんだよ。一夏のイグニッション・ブーストも速いけど、弾丸はその面積が小さい分、より速い。だから、軌道予測さえあっていれば簡単に命中させられるし、外れても牽制になる。一夏は特攻するときに集中しているけど、それでも心のどこかではブレーキがかかるんだよ」

 

「その隙に間合いを開けられてるって事か……成る程なぁ。偶に一方的な展開に持ってかれるのはそういう事だったのか」

 

後ろに立っていたシャルルの質問に、一夏は目を瞬きながらそう答え、その答えにシャルルは的確な答えを返す。

その答えを聞いた一夏は今までの敗因に納得してウンウンと頷きながら、レッドバレットを俺に渡してきた。

これ撃って良いのか?と思いシャルルに視線を送ると、シャルルは微笑みながら「どうぞ」と手でジェスチャーを送ってきた。

良し、なら遠慮無く撃たせてもらうか。

一夏から銃を受け取り、オプティマスのFCSを作動させてレッドバレットとリンクさせる。

ハイパーセンサーを通した視界にドットサイトが表示されたので、俺は真耶ちゃんに習った片手撃ちの方法で銃を構えた。

基本的に俺の銃は全部片手撃ちだからな、これも同じ要領で……。

 

「……うらッ!!」バァンッ!!

 

ターゲットスコアに狙いを定めながら引き金を引くと、ISの反動制御とパワーアシストが働いて銃の衝撃を和らげてくれる。

生身で銃を撃つよりも遥かに楽だ。

真耶ちゃんに教わった構えを忠実に守って撃ち出された弾丸は、キッチリとスコアのど真ん中をブチ抜いていた。

更に新しく出現させたターゲット2つも続けてド真ん中をブチ抜く。

 

「へっへ。ダーツなら、ブルズアイって所か?」

 

「おまっ、何時の間にそんな銃の撃ち方覚えたんだよ!?しかもキッチリ真ん中抜いてるし!!」

 

「へぇー。元次はワンハンドショットが出来るんだね……もしかして元次のオプティマス・プライムって射撃型?」

 

しっかりと訓練の成果が出た事に笑みを浮かべる俺と、そんな俺に驚愕の視線を向けてくる一夏。

そんな俺達とは一歩引いた位置で俺の事を見てくるシャルルやセシリア達。

シャルルの表情は「意外だな」って感じだが、箒達は何故か頭を抱えていた。

 

「シャルルには悪いが、外れだ。俺のオプティマスは格闘もこなせるぜ。それと銃は最近習い始めたばっかりだし、オプティマスにはFCS積んであるからな。これぐらいは何て事無えよ」

 

「そうなんだ?全距離対応のオールラウンダーって所かな?」

 

「勘弁してくれ……ゲンの喧嘩殺法に剣だけでは無く銃まで本格的に加わるというのか……」

 

「わたくしはスナイパーなのでまだ幾分か気は楽ですが……中距離まで詰められた時の事を考えると恐ろしいですわ……死神の手が伸びたと言いますか……」

 

「本当にアンタはマシよ。アタシはガッツリ中距離だから、龍砲が全部回避された時は「あっ、走馬灯が……」ってなったんだから。双天牙月が棒っきれに見えたし……箒は近距離だから一番悲惨ね」

 

「……ええと……元次って、本当に初心者なの?君と戦う事を恐れてる人達の内2人は代表候補生なんだけど……」

 

「ISに関しては本気でド素人だぜ?生身の喧嘩に関してはかなり経験値あるけどな」

 

「ん~……そういえば~ゲンチ~に付いた新しいアダ名があってね~。確か、『IS学園最強のド素人』っていうのだったよ~?」

 

本音ちゃんその話をKWSK。

ちょっとそのアダ名を付けてくれた犯人をとっちめてきたいので。

最近自分のアダ名が増えすぎて頭が追っ付かないんだよ。

職員室行ったら先生に『鋼鉄の王子様(アイアン・プリンス)』とか呼ばれて顎外れそうになったっす。

 

「あっ!?最近俺が箒達と特訓するのを断って何処かに行ってたのってそういう事かよ……俺に隠れて特訓なんて水臭いじゃねぇか」

 

俺の射撃能力が向上した種明かしと、シャルルの疑問への答えを出すと、一夏は何やら不貞腐れた表情を浮かべる。

レッドバレットを受け取りつつ、ブチブチと文句を呟いているので、俺は少し苦笑してしまった。

どうせコイツは自分が除け者扱いされたと思って悔しがってるんだろうが、実際はそうじゃ無えんだよなぁ。

 

「別に隠してた訳じゃねぇよ。銃の練習は生身で射撃場に行ってたから、お前を誘うのは無理だったってだけだ」

 

「何でだよ?誘ってくれれば俺だって……」

 

「クラス対抗戦の為に特訓してたお前を誘える訳無えじゃねぇか。あん時はそれどころじゃ無かっただろ?」

 

「うっ……ま、まぁ確かに……あの時は瞬時加速覚えるので大変だったからなぁ……」

 

一夏もその時に自分が何をしていたのかを思い出して、漸く納得してくれた。

あの時は鈴との冷戦もあったし、ISに乗って練習してるのを俺の都合で邪魔する訳にもいかなかった。

だから俺はISの訓練はなるべく付き合ったし、射撃練習が時偶にしてただけだ。

それにセシリアが言ってた様に、射撃法を知っておく事で相手の戦闘法は予測出来ても、射撃場で銃を撃つのとは全く違う。

それこそ今回の様にISで銃を撃つ機会が無ければ、一夏が銃を撃つ事は無いんだし。

 

「あ、一夏。そのまま一マガジン使い切っていいよ。今は一夏の訓練だからね」

 

「お、おう。サンキューシャルル……良し!!」

 

シャルルから引き続き銃を使って良いと言われた一夏はシャルルの教えてくれた構えをして、次々とターゲットスコアを狙撃していく。

どれも真ん中では無いが、かなり惜しい辺りを当てている。

ISが反動を抑えてくれているというのも大きいけど、それでも俺が初めて撃った時より遥かに上手い。

やっぱ俺とアイツじゃ才能の幅が全然違うな……眠れるサラブレットって所か。

 

「うん。良い感じ……トリガーを引く時、一回毎に脇を絞めて。銃身は視線の延長線上に移動すると撃ちやすいよ」

 

「分かった!!」

 

宙に浮くターゲットを撃ち抜く一夏に、シャルルは所々でアドバイスを入れる。

ちゃんと的確で分かり易いアドバイスだったから、一夏も元気よく返事を返して修正していた。

 

「しっかしよぉシャルル。会った時から思ってたんだが、随分と日本語上手いな?」

 

射撃の練習をしている一夏に視線を向けながら、俺は兼ねてから疑問に思っていた事をシャルルに尋ねる。

そう、シャルルの日本語は普通に上手い。日常生活でも支障が無い程にだ。

読み書きも問題無いし……ちょっと『上手過ぎる』んだよな。

 

「え?うん。日本語は2年前から習ってたから……最初は不安だったけど、日本人の元次に上手いって言われるなら大丈夫かな?」

 

「あぁ。日常生活でも全然問題無えよ……ホント」

 

俺の素朴な疑問に首を傾げたシャルルだが、直ぐに笑顔を見せて俺に答えた。

それを聞いて、俺も笑みを浮かべるが……益々俺の中の疑念は膨らんでしまう。

2年前から?……シャルルは一体『何の為』に日本語を習ったんだ?

セシリアみたいにIS学園に来る為に学んだとかならまだ分かる。

ここは日本だから日本語が話せない、書けないなんて洒落にならねぇからな。

それに千冬さんに教えてもらったが、ISのハイパーセンサーの表示語は全て日本語がメインにされている。

これは単にISのコアの説明とかが全部日本語表記だからで、理由は『外国語?何ソレおいしいの?日本語でおk』という束さんの手抜きが原因らしい。

下手に弄ってコア破損なんてなったら死刑モノだから、開発者や操縦者は日本語をマスターしてるそうだ。

そんな理由があるならセシリア達が日本語が達者なのは理解できるが……シャルルは違う。

俺や一夏と同じく『偶々』見つかった男性適正者が『偶々』日本語が達者で『偶々』代表候補生並の実力者?

普通に考えたら、神様からの寵愛を一身に受けたレベルの偶然だぞ。

何だかなぁ……疑いたく無えのに疑う要素が出過ぎてる気がする。

そんな事を考えていると弾丸を撃ち切った一夏がシャルルにライフルを返しに来た。

 

「ふぅ。ありがとうなシャルル。銃なんて初めて撃ったけど、良い経験になった」

 

「どう致しまして。それよりどう?コツは掴めたかな?」

 

「んー……ハッキリとした訳じゃ無いけど……何となく掴めたって感じだ」

 

「うん。まぁ今日が初めてだし、またこれから少しづつやっていけば段々分かってくると思うよ」

 

焦らないでね、と付け加えて、シャルルはレッドバレットのマガジンを交換し、再び量子変換して仕舞う。

……今は考えても仕方無えか。あんまり考え過ぎると知恵熱出ちまうし、ダチを疑うのも嫌な気分だ。

心に浮かんだ疑念を全て振り払って、俺は疑念よりシャルルの持つ技について考えを変える。

やっぱシャルルは量子変換するスピードが普通より全然速いな……何か隠れた技能でも持ってるって事か?

そう思ってシャルルを見ていると、隣の一夏はシャルルのISに目を向けて口を開いた。

 

「そういやシャルルのISってラファール・リヴァイヴなんだよな?この前の実習で山田先生が使ってた」

 

「ああ、僕のは専用機だからかなりいじってあるよ。正式にはこの子の名前は『ラフォール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』。基本装備(プリセット)をいくつか外して、その上で拡張領域(パススロット)を倍にしてある」

 

「倍!?そりゃ凄いなぁ……俺の白式にも少し分けて欲しいくらいだよ」

 

「あはは。分ける事は出来ないけど、まぁそんなカスタム機だから今量子変換(インストール)してある装備だけでも二十くらいあるよ」

 

「20ってちょっとした火薬庫だな……」

 

シャルルのISの驚くべき武器の貯蔵量に、一夏は目を開いて驚く。

一方で俺はそんなに驚いてはいなかった。

何故かと言えば俺のオプティマスもそれに近い量の武器があるからだ。

それに、只単純に武器を多く積むぐらいなら弄った機体があれば誰でも出来る。

問題は、それだけ多くの武器を使いこなし、状況に応じて的確な武器で対応出来るかどうかって事だ。

さっきの模擬戦を見た感じじゃ、シャルルは恐らくその20はある武器を全て使いこなしてると思っていいだろう。

もし学年別個人トーナメントで当たったら……シャルルが一番の強敵になりそうだぜ。

 

『ねえ、ちょっとアレ……』

 

『ウソっ、ドイツの第三世代機じゃない?』

 

『まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど……』

 

「ん?何だ?」

 

急にアリーナのあちこちからざわついた声が聞こえ、俺達は何事だろうかと注目の的へ視線を向ける。

 

「………………」

 

其処には、一夏をはたき、俺に喧嘩を売ってきたドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒが佇んでいた。

カタパルトの上で、真っ黒のISに乗りながら、地面に立つ俺達を冷酷な眼差しで見つめている。

 

『ドイツ第3世代型IS、漆黒の雨(シュヴァルツェア・レーゲン)第3世代型特殊兵装有り』

 

何時もの様にオプティマスから送られてくる相手のデータに軽く目を通して、その項目をシャットアウトする。

漆黒の雨、ね……ご大層な名前だが、それに見合う強さがあんのか?

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」

 

「なに、アイツなの!?一夏を叩いて、ゲンに喧嘩売ったドイツの代表候補生って!!」

 

「……」

 

そう考えていると、俺達と一緒に特訓していた箒達が目を鋭くさせて、ヤツを睨む。

まぁ惚れた男が殴られたとあっちゃ黙ってられねえか。

しかも一夏が何かをした訳でも無く、本当にいきなり何の理由も無くだからな。

俺や一夏達とは初日に対立が決定してるので、俺達はこぞって目を厳しくしてしまう。

さゆかや本音ちゃんの様な優しい子達はどっちかにつかづ見守ってるって立ち位置だが。

奴は転校してきた日以来、誰とも話そうとせずに1人で居る。会話すらも無しだ。

まぁ俺としては別にどうでも良い事だが、奴が何故俺や一夏を目の敵にするかが今1つ分からねぇ。

というかあの銀髪チビと千冬さんの関連性が見えないから予想のしようが無いんだけどな。

 

「織斑一夏……」

 

何故か近くに居る俺の事は無視して、銀髪はISのオープン・チャネルで名指しのご指名をする。

 

「……何だよ」

 

さすがに初日に訳も判らず叩かれた一夏も良い顔は出来ないのか、ぞんざいな返事を返す。

名指しで呼ばれた以上、無視する訳にもいかねぇから仕方なくって感じだな。

銀髪は一夏の返事を聞いて気に入らないって感情を貼り付けた顔を浮かべた。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな……ならば話が早い。私と戦え」

 

「嫌だね。理由が無え喧嘩はするつもりは無えよ」

 

銀髪の誘いを、一夏はにべも無く断る。

その顔は堂々としていて、何を言われても揺るがない意志の強さが伺える……言う様になったじゃねぇか、アイツも。

しかし銀髪はそんな一夏を心底気に入らないといった表情で見据え、更に苛立った声音を紡いだ。

 

「貴様に無くとも、私にはある……貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様を――貴様の存在を認めない」

 

「――何?」

 

今の声は一夏じゃ無い……その側に居た俺が出した声だ。

銀髪が語った台詞は、今まで一緒に暮らしていた俺が、千冬さんからも、兄弟からも聞いた事が無い話だったからだ。

しかし事件の内容なら知ってる……第2回『モンド・グロッソ』、ISの世界大会。

その決勝戦当日、千冬さんは急遽試合を棄権してしまったのだ。

決勝戦は千冬さんの不戦敗に終わった。

世界中の誰もが2連覇を確信してただけに、千冬さんの試合棄権は大きな騒ぎを産んだ。

俺も当時、一夏と千冬さんにドイツに試合を見にいかないかと誘われたが、俺はその頃はまだパスポートを作ってなかったので行かなかった。

だから家のテレビで生放送のモンド・グロッソを見ていて千冬さんが棄権したと報道された時は何かの冗談かと思った。

慌てて一夏に連絡を取ってみたものの、結局アイツがドイツから帰ってくるまで音沙汰は無く、帰ってきた一夏は何も語らない。

一夏が語ったのは、千冬さんが何かの用事で1年間は帰ってこないという事と、千冬さんがIS操縦者を引退したという報告だけ。

以来、俺と一夏、千冬さんの間ではこの話題はタブーになり、今日まで詳しい事実を知る事が出来なかった。

 

「今で無くても良いだろ。もうすぐ学年別個人トーナメントなんだから、そこで白黒つけりゃ良い」

 

思考の渦に囚われかけていた頭を、一夏の嫌がる声が引き戻してくれた。

どうやら俺の呟きは誰にも聞こえていなかった様で、衆人の関心は全て一夏と銀髪に向いている。

一夏自身は依然として戦う気は無いと告げ、銀髪から視線を外す。

 

「ふん。ならば――」

 

そして、奴は煮え切らない一夏に向けて肩のアンロックユニットに接続された実弾砲を構える。

野郎!!無抵抗の奴にまで銃をブッ放つ気か!?

 

「兄弟ぃ!!」

 

「ッ!!?」

 

「戦わざるを得ないようにしてやる!!」

 

ズドォオンッ!!!

 

奴の狙いに気付いた俺が声を掛けた瞬間、奴の大型実弾砲が火を吹いて一夏に向かって砲弾を撃ち出す。

タッチの差で一夏も銀髪の行動に気付く事が出来たお陰か、一夏は真剣な表情で雪片をコールした。

そのまま一夏は迫り来る音速の弾丸に向かって身体を一回転させてながら、雪片を抜き放つ。

 

「でりゃぁああッ!!」ゴギィインッ!!

 

「ッ!?ば、ばかなッ!?」

 

回転の速力と遠心力を上乗せした弾き上げで、銀髪の放った実弾砲は俺達の真上を跳ねた。

とりあえず直撃は避ける事が出来たが……俺の心中は怒りの感情が沸々と湧き上がる。

良くも無抵抗の兄弟に喧嘩売ってくれたな……借りは返させてもらうぜ?

俺は拡張領域に収められている斬撃武器の1つであるエネジーアックスをコールし、肩に担ぐ形で構える。

目標は実弾砲を弾いた一夏に信じられないという視線を送っている銀髪だ。

 

「ぶっはあ!?あ、危ねえだろ!?ビンタされた時も言おうと思ってたけど、いきなり何しやがる!!」

 

「……音速の実弾砲を実体ブレードで弾いただと?……くッ!?ならばもう一度――」

 

「こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人はずいぶん沸点が低いんだね。ビールだけでなく頭もホットなのかな?」

 

視界の先では一夏に先を取られた銀髪が悔しげに呻きながら次弾を撃とうとし、一夏と銀髪の間にシャルルが割り込んだ。

既にシャルルの両腕には六一口径アサルトカノン『ガルム』と五五口径アサルトライフル『ヴェント』が握られている。

銀髪は新たな乱入者であるシャルルに「邪魔だ」と言わんばかりの視線を向けて口を開くが――。

 

「……貴様。フランスの第2世代型(アンティーク)如きで、私の前に立ち塞がるとは――」

 

「ダイレクトピッチャァアアア返しぃッ!!」バチコォオオオンッ!!

 

俺の存在を忘れてんじゃねぇよッ!!このアホンダラがッ!!

一夏が真上に弾いた実弾砲の弾が落ちてきた瞬間、俺はエナジーアックスを思いっ切り振り抜いて、弾丸を『打った』

本来、ISに装備されているセンサーは飛来物の警告を出してくれるが、それは相手にロックされた場合に限る。

勿論一夏が墜落してきた時の様に普通の飛来物を感知する事も出来るが、それは自機に危険度の差がある所為か、銃器の警告より遅い。

従って、銃で撃ち出された訳でも、ロックオン機器を使った訳でも無い上に発射音すら無い只の鉄の塊を察知出来ても直ぐ様回避出来るか?答えはNOだ。

 

「な!?(ドガァアッ!!)ぐはあっ!?」

 

「――は?」

 

俺がナイスバッティングで打ち返した銀髪の実弾は、奴の土手っ腹に見事命中。

その勢いに押されて無様に後ろへすっ転んで視界から消えていった。

急過ぎる展開の移り変わりに着いて来れないのか、アリーナの喧騒がシンと止む。

そんな静寂の中で俺が思ったのは、近年稀に見るナイスバッティングだったなという事だった。

 

「えぇええええ!?な、何今の!?な、何をしたの元次!?」

 

「あ?何をも何もバッティングだが何か?(ズイッ)」

 

「そう言っても手に持ってるのはバットじゃ無くてアックスだよね!?それで打ち返したの!?というか何であんなに綺麗に当てれるのさ!?」

 

「いやー、俺としてもあんな綺麗に入るとは思わなかったけどよ……まぁ、良んじゃね?」

 

「良くないよ!!これ以上僕の常識を壊さないでって言ったじゃないかぁあああ!!」

 

だから常識なんて不確かなモンは投げ打ってしまえと言うに。

余りに現実離れした光景にシャルルは叫び声を挙げ、一夏はポカンと銀髪の居たであろう場所を見つめている。

俺は問い質してきたシャルルにエナジーアックスを見せながら答えるが、シャルル本人は全然納得してないご様子だ。

今も俺の目の前で天を仰ぎながら「あぁ主よ……ジャパンは超人の住処なのでしょうか?」とかなんか呟いてるし。

 

「ぐ、が……ッ!!?き、貴様ぁああああああッ!!」

 

と、目の前で呆然とする一夏と嘆くシャルルを見ていた俺の耳に、劈く様な怒り心頭の怒声が届く。

そっちに視線を向ければ、腹を抑えながら憤怒の表情で青筋を浮かべる銀髪を発見。

やっこさん、いい具合にハラワタ煮えくり返ってやがるぜ……まぁ、俺はそれ以上だけどな。

 

「あぁ?何だコラ?テメエが落としたゴミ屑をご丁寧にも返してやったんじゃねぇか。文句でもあんのかガキ?」

 

「……良い度胸だ……ッ!!貴様は今直ぐそのIS諸共叩き潰してやる!!」

 

「はぁ?テメエ程度の奴が、この俺を?オプティマスを潰すだぁ?……『寝言ほざいてんじゃねぇぞクソガキッ!!臨死体験させてやろうかゴラァッ!?』」

 

「(ぞくっ!!)ッ!?く、くそ……ッ!!何なんだ、あの威圧は!?」

 

カタパルトの上から実弾砲を構える銀髪に対して、俺は威圧を篭めた叫びを挙げてストライカーシールドを呼び出す。

大斧と大盾という偏った装備を使いつつ、『猛熊の気位』を発動させる。

俺の威圧を真正面から受けた銀髪は震えながら冷や汗を流しつつ、俺から目を逸らさない。

当然だ、あの時よりも弱い威圧を使ってるんだし、この程度で戦意が折れる様なら俺の敵じゃねぇ。

銀髪のISがどんな装備を積んでるかは分からねえが、別に良い……全部纏めて叩き潰してやる。

カタパルトの上で苦い顔をしながら大型砲を構える銀髪と、獰猛に笑いながら何時でも飛び出せる様にスタンバイする俺。

どっちかが動いた時が開始の合図になる。

 

『そこの生徒!!何をやっている!!学年とクラス、氏名を言いなさい!!』

 

しかし、いざ俺達がバトろうって時になって管制塔から監督役の先生が注意を飛ばしてくる。

そのアナウンスを聞いて面白く無いって感じに顔を歪める俺と、戦闘態勢を解除しつつも警戒心をMAXで発する銀髪。

しょうがねぇ……先生が出張ってきたんなら、今回はここで終いだな。

 

「ちっ……おい銀髪、横槍が入ったから今日は終いだ……見逃してやるからとっとと失せろ」

 

「――くっ!!」

 

俺がエナジーアックスとストライカーシールドを量子化すると、銀髪も悔しそうな表情を浮かべてISを解除し、アリーナから去って行った。

今正にバトルに入ろうとしてた俺達が武装を解除した事で、アリーナの空気も緩和されていく。

 

「一夏、大丈夫か?」

 

「お、おう。サンキューなゲン。あの時声掛けてくれなかったら、あのまま喰らってただろうし」

 

「いやいや。その後の弾丸弾きは見事だったぜ?それに、シャルルにもお礼を言っときな」

 

済まなそうにお礼を言ってくる一夏にそう言うと、一夏は勿論シャルルもポカンとした表情を浮かべる。

俺は二人より斜め後ろの位置に居たから、あの時の状況は全部見えてたのさ。

 

「お前に弾丸が迫ってた時、シャルルはシールドを取り出して前に出ようとしてたからよ」

 

「え?そうなのかシャルル?」

 

「あっ、う、うん。でも、一夏が自分で弾いちゃったから、意味無かったけどね」

 

「そんな事無えって。ありがとうな、シャルル」

 

笑顔でお礼を言う一夏に、シャルルは気にしないで良いと手を振る。

ほんとに出来た奴だな、シャルルは。

箒達もこっちに来て一夏の身を心配して声を掛けてくるが、一夏は大丈夫と答えていた。

嘘つけ……顔が大丈夫じゃねぇって言ってるっての。

何時もならツッコミを入れてる所だが、今日の所は止めておこう。

一夏も何かしらあの銀髪の事で悩んでる……心の整理をしてる途中って感じだしな。

 

「……今日はこれで終わるか。先生にも注意されちまったし」

 

「あぁ。アリーナの閉館時間も近づいてるし……あの銀髪の所為で俺も白けた」

 

さっきの空気、そして銀髪に言われた事を忘れるかの様に、一夏は今日の訓練の終わりを告げる。

俺等以外の皆も何かそんな気分だったらしく、一夏の提案に同意して、俺達は其々更衣室へと戻っていった。

普通こんな事があれば、俺と一夏の立場に居る人達はどんな空気になるだろう?

話せない後ろめたさと話してくれない苛つきだろうか?

でも、俺達は違う。

 

「なぁ、兄弟」

 

「ん?何だ?」

 

「……今日の夜、時間良いか?……あの時の事、話す決心がついたからよ」

 

「……本当に良いのか?あの銀髪に言われたからじゃ無えのか?」

 

態と試す様に聞き返すが、一夏はそんな俺を真っ直ぐな瞳で射抜いてくる。

その目には、今までに見たことが無い、固い決意が見え隠れしていた。

 

「そんなの関係無えよ……俺もいい加減、ちゃんと向き合わなきゃいけねえって思ったんだ」

 

「……分かった。時間空けとくから、飯が済んだら来いよ……茶と茶請けくらいは用意してやる」

 

「サンキュ。兄弟」

 

「何時もの事だろ?気にすんあ、兄弟」

 

互いに信じてるからこそ、俺達にそんなギスギスした空気は沸かねえ。

俺達はお互いに笑顔を浮かべて、ISを纏ったままの拳をぶつけ合う。

そんじょそこらの壊れやすい友情だと思ってくれるなよ?

 

 

 

 

 

「あっ。でも今日は本音ちゃんとさゆかが飯食いにくるから、やっぱ食後1時間してから来い」

 

「そこは普通俺を優先するだろ!?ブラザーソウルが足りてねぇぞ!!?」

 

「ア、アハハ……」

 

薄情過ぎる俺に驚愕しながら怒鳴る一夏と苦笑するシャルル。

本音ちゃんとさゆかの方が優先に決まってんだろう。友情?そんなもんヤマオロシに食わせてやったわ。




前書き通り30分後に投下します。


エロく、出来たかな?……エロかったらイイナー。

甘い話に出来たかな?……甘かったらイイナー。


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