IS~ワンサマーの親友   作:piguzam]

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そろそろジョジョの更新もせねば(;´Д`)


レベルアップと状態異常

 

ダァンッ!!ダァンッ!!ダァンッ!!

 

一定のリズムを刻みながら耳をつんざくマズルフラッシュが鳴り響き、構えた銃が小さく反動を俺の身体に伝える。

それにほんの少しだけ遅れてカチャカチャと金属の物が地面へと落ちる軽い音が聞こえた。

目先のターゲットまでの設定距離は30メートルという至近距離にも関わらず、ダーツ型のターゲットの撃ち抜かれた部分は中心からは程遠い。

くそ、やっぱまだ駄目か。

 

「……少し休憩するか」

 

俺は借りたMSBSというセミオート設定されたライフル銃のマガジンを外して安全装置を掛け、横向きに置く。

そのまま着けていた耳当てを外して床に転がった薬莢を拾ってから次の行動に移る。

拾った弾丸を撃った弾数を確認する箱に入れてから銃を担いで備え付けの休憩室へと足を運んだ。

 

「う~む……やっぱ射撃は難しいなぁ」

 

俺は休憩室の自販機で買ったコーラを飲みながら誰にでも無く1人でぼやく。

そう、俺は放課後に1人で射撃訓練所に赴き、生身で射撃の練習をしている所だ。

これはISの銃器を使う上で大切な訓練であり、まず自分の身体に銃の使い方を覚え込ませるという訓練。

ISには射撃補助システム、所謂銃火器官制コントロールというセンサー・リンクシステムが組み込まれている。

ターゲットサイトを含む銃撃に必要な情報をIS操縦者に送る為に武器とハイパーセンサーを接続し、銃の反動を自動で相殺するシステムだ。

勿論俺のオプティマス・プライムにも組み込んであるが、射撃も喧嘩と同じで生身に覚え込ませるのが一番向上しやすい。

全部千冬さんの授業で習った事の受け売りだがな。

と、まぁそういう理由で俺は今まで握った事も無い銃の初歩的な使い方を射撃場の先生に習って撃ちまくってるわけだ。

他にも先輩方や勉強熱心な同級生がバンバンと銃を撃ってるのを休憩室から眺めながら、俺はフゥと溜息を吐く。

 

「ねぇ、鍋島君。ちょっと良いかな?」

 

「ん?」

 

突然横から声を掛けられて振り返ると、2年の先輩が俺に笑顔を見せながら立っていた。

 

「えーっと、何ですか?」

 

「うん、鍋島君って銃は初めてでしょ?私で良かったら教えてあげようかなーって思ったんだけど、どう?」

 

「あー、……その、すいません。実はもうコーチを頼んでる人がいまして……今日もこの後で来てもらうんですよ」

 

どうやら親切心から俺へのコーチを買って出てくれたらしいが、生憎ともう先約が居るのだ。

先輩が態々善意で言ってくれた事を断るのは心が痛むけど、勘弁して貰いたい。

 

「そ、そうなんだ。ごめんね?急に話かけちゃって」

 

「いえ、態々ありがとうございます。今回はお気持ちだけって事で……すいません」

 

残念そうな顔を見せた先輩にキチンと頭を下げて謝罪すると、先輩はにこやかに笑いながら「気にしないで」と言って射撃場へ戻っていった。

俺はそれを見送ってから再び射撃場の様子を見ようと視線を戻す。

それとチラッと今の先輩の後に続いて同じ事を言おうとしていたのであろう他の先輩方も肩を落としながら射撃場へ戻るか銃を返しに行くのが見えた。

まぁ先約が無かったら普通に教えて貰う所だったんだけど――。

 

「(プシュン)お待たせしました、元次さん♪今日は一緒に頑張りましょう!!」

 

と、先輩達に悪い事したなと反省していた時に、真耶ちゃんが微笑みながら休憩所に現れた。

そう、俺が昨日頼んでいたコーチとしての授業の目処が今日付いたのだ。

その事を帰りのSHRで言われたので早速頼み、真耶ちゃんの業務が終了するまでは1人で射撃の練習をひたすら繰り返していたのがさっきまでの事。

今からが俺にとって、本当の練習になる。

 

「あぁ、真耶ちゃん。ってじゃなくて……ゴホン。今日はよろしくお願いします。先生」

 

「はい♪私の技術で出来る限り、元次さんに色々教えてあげます。それじゃあ、まずは会議しましょう」

 

「え?会議?」

 

直ぐに射撃訓練に移るんじゃないのか?

俺の疑問の声を聞いた真耶ちゃんは頷きながら俺に視線を合わせる。

 

「えぇ。まずは元次さんのオプティマスに積まれている武装の特性や傾向。それらをしっかりと理解してから、その銃に近い反動や射程距離、連射速度を持つ銃で練習していくんです。その方がISで武器を使った時もかなり近い感覚で撃てますから」

 

「はっはー……って事は、例えばラファールに積まれてるレッドバレットならスナイパーライフルって事ですか?」

 

「はい♪ちゃんと考えててくれて良かったです♪それじゃあ始めましょうか」

 

真耶ちゃんの説明を聞いて成る程と頷きながら考えを口にすると、真耶ちゃんは笑顔で小さく拍手してくれた。

確かに真耶ちゃんの言ってる事は尤もだな。

肉体を鍛えるトレーニングだって何処をどう重点的にやるかで筋肉の付き方が変わるし。

そう考えると、自分のISに積まれてる銃の特性すら知らずに練習してた俺はマヌケって事か。

まずは最初の段階で間違えてると認識を改め、俺は真耶ちゃんと同じテーブルに腰掛けて向かい合う。

 

「では元次さん。まずはオプティマスの銃火器武装の項目を開いて、練習したい銃器の項目を見せて下さい。其々に合わせて私が銃を選びますから……あっ、でも一度の訓練で貸し出し出来るのは最大2つまでですので、2つだけ選んで下さいね?」

 

「了解ですっと……えっと、銃火器項目……おっ、これだな」

 

待機状態のグラサンを掛けたままオプティマスを起動させると、瞬間で俺の周りに立体ディスプレイが浮き上がり、其々の項目を立ち上げた。

今俺が開いているのは武装データの項目で、最初の時と同じ様に拳系やら光学兵器系なんかのリストが出ている。

まずはオーソドックスに普通の銃火器からいってみるか。

 

「えーっと……じゃあ、1つ目の武器はこれでお願いします」

 

目の前で微笑む真耶ちゃんに見える様に展開したディスプレイには近~中距離で使うショットガンのAA-12が映し出される。

モデルはMPS社製のフルオートショットガンらしく、射程内での制圧射撃能力は随一だが、装弾数は少ないのがネック……というのがモデルのデメリット。

俺のオプティマス及びオプティマスの武装は世界の束さんご謹製の銃だ……普通な訳が無いのです。

マズルブレーキという銃口制退器が装備されていて、発射時の銃の反動を制御しつつ射程距離を伸ばしてある。

マガジンも長方形のマガジンから前に出る形で円型の大型ドラムマガジンに改装された特別仕様だ。

簡単に言えば、切る前の長いロールケーキをそのままフロントバレルギリギリまで延長した不思議な形の弾倉をしてる。

つまりマガジンの容量を増やした所為で前方の隙間が無くなり、片手撃ちしか出来ないというデメリットが付加された。

マズルブレーキを付け加えた事でマズルフラッシュもかなり激しくなり、ドットサイトを使った射撃もほぼ不可能。

軍隊の打ち方では無く腰だめのマフィア撃ちが主な運用方法になっている。

オマケに取り回しと軽量化を優先して後ろのストックは切り詰められているという、正に変態武器なのだ。

 

「これは……かなり偏った運用方法の銃ですね。普通の撃ち方は少し難しい……というか無理かと……」

 

「そうなんスよね……しかもこれ、2丁入ってるんスよ?まさかとは思うけど真耶ちゃんがやったみてーに2丁撃ちでもやれって事っすかね?」

 

俺が出した銃の能力とカタログ値を見た真耶ちゃんは少し眉を潜め、俺も頭を捻ってしまう。

確かにやろうと思えば真耶ちゃんがやった様に2丁撃ちは出来るだろうけどさぁ。

そう思いながら少し眉間を揉み解していると、向かいに座る真耶ちゃんが考える様に顎に指を添えていた。

 

「もしかして……元次さん。すみませんがオプティマスの武装データ一覧を見せて貰えませんか?」

 

「え?あっはい……これっす」

 

「ありがとうございます……フムフム……成る程……」

 

突然真剣な表情で武装データを見せて欲しいと頼まれてデータを公開すると、真耶ちゃんはブツブツと呟きながら身を乗り出してデータを閲覧する。

何だ?もしかして何か重要な事でも判ったの――。

 

 

 

ぼよよん。

 

 

 

「ふむふむ……かなり大型の武装が多いですね。その分破壊力に特化してますが」

 

「…………そ、そうっすね……かなり……G級のサイズで……抜群の破壊力で……圧倒的な重量感……」

 

「しかも片手では扱いきれない大きさなのに、グリップが片手撃ち様に設計されてるなんて……その殆どがどちらの手でも扱える様にグリップの握りの形状が左右対称にされてます」

 

ぼよよん。

 

「え、えぇ……片手では掴みきれない……綺麗に形の揃った……芸術」

 

え?お前何処見て言ってるんだって?だから目の前に鎮座する片手では掴みきれない左右対称の双子山だよ。

何時ものレモンイエローのワンピースで身を乗り出したりするモンだから、デッカイデッカイ風船が俺の視線の先でぷるんぷるん揺れてる。

何故に真耶ちゃんは俺の目の前で青少年には刺激の強いブツをゆっさゆっさとするんだろうか?

こんな無防備な姿……女子校出身だって言ってたから気にならないんだろうけど、俺はれっきとしたオスだぜメ~ン。

そんな俺の葛藤を知らずに、真耶ちゃんは身を乗り出したままオプティマスの武装データをしっかりと読み解いていく。

 

「……やっぱり……元次さん、この武装データはほぼ全ての武器が片手撃ちで制御する事を念頭に置いてありますので、少し訓練も厳しくなりますよ?」

 

と、目の前のアヴァロンとも言える谷間に視線が吸い込まれていた俺だが、真耶ちゃんが姿勢を正して座り直したのをきっかけに正常に戻れた。

あぁチクショウ、もう少し見ていたかったぜ……ともあれ、今は真耶ちゃんが真剣に話してくれているんだし、俺も真面目にやらなきゃな。

だらしなく鼻の下が伸びそうになってる自分を叱責して表情を真剣にしながら、俺は真耶ちゃんと向き合った。

 

「大丈夫っす。どっちみち俺はオプティマスに乗る以上、この武器達を使いこなせる様にならなきゃいけねぇんですから。多少厳しくなるぐらいどうって事は無いっすよ」

 

「……そうですね。分かりました♪じゃあ、頑張りましょう。私も元次さんが銃を扱える様になってもらう為に、精一杯頑張りますから♪」

 

「あぁ……まだまだ素人だけど、強くなれる様に色々と教えてくれ……真耶ちゃん」

 

訓練が厳しくなろうとも構わないと言った俺に真耶ちゃんは表情を崩して優しく微笑みながら手を握ってくる。

俺もそれに対して笑顔で了解と答えながら、真耶ちゃんに握られた手にもう片手を添えて、自然に真耶ちゃんと見詰め合った。

いや、特に意味があった訳じゃ無いんだけど、何故か身体が勝手に動いたというか……。

 

「……」

 

「……」

 

無言。

 

何故かお互いに手を握ったままで見つめ合い続けてしまう俺と真耶ちゃん。

だが重苦しい無言という訳では無く、とても柔らかくて暖かな無言の空気が俺達を包みこんでいる。

雰囲気というか何と言うか、その場の勢いみたいなものに流されて真耶ちゃんの手を握っちまったけど……こ、ここからどうすれば……。

ヤベェ、頬に赤みを刺した真耶ちゃんの微笑みが可愛すぎてどうにかなりそうだ。

俺を見つめる真耶ちゃんの瞳は普段の優しさを含んだままにトロリと溶け頬は赤く染まり上気している。

例え俺以外の誰かが一歩引いた目線で見ても、贔屓目無しに見ても、真耶ちゃんは世間で言う文句無しの美少女だ。

守ってあげたくなる華奢な体、見る者を癒してくれる柔らかく優しく垂れ下がった瞳。

胸が暖かくなる笑顔、そして……オスを狂わせる魅惑を備えた豊満にして豊熟な……喰い尽くしたくなる肢体。

これ程魅力的な女は世界に早々居ないだろうと思わせられちまう。

 

「……元次さん♡」

 

「真耶ちゃん……」

 

互いに示し合わせたかの如く、相手の名前を呼び合う俺達……真耶ちゃんと二人だけなんて、クラス対抗戦前の時以来か。

そう考えると、何故かこの手を放したく無い……いや、言い訳だそれは。

俺の心は……真耶ちゃんの事も気になる女として、心に大きな楔を打ち込んでいる。

こんなにも気になる女が沢山居ると、自分自身に嫌気が差してくるが……それでも、今は只こうして暖かい空気を手放したくなかった。

結局、俺と真耶ちゃんは訓練の方向性が決まってから暫くの間、何をするでもなく笑顔で見つめ合ってしまう。

 

 

 

その空間を、何故かブラックコーヒー片手に胸焼けしたかの様な表情の先輩に注意されるまで、俺達は動く事は無かったのだ。

 

 

 

「さ、さて!!それじゃあ訓練を始めましょうか!!」

 

「お、おう!!よろしく頼むぜ真耶ちゃん!!」

 

俺と真耶ちゃんは場所を移して銃の貸し出し場所に赴くと、何時もより声を大きくして互いに挨拶を交わす。

まぁ何故かと言われれば、さっき先輩に注意されて我に帰るまでの間、ジッと見つめ合うなんて恥ずかし過ぎる事をしていた反動なのである。

真耶ちゃんなんかさっきから俺に視線が合うと顔を真っ赤にして直ぐに視線を反らしてた。

一方で俺も真っ直ぐには真耶ちゃんの目を見る事が出来ないのです。こんな調子で訓練大丈夫か?

 

「え、えっと、まずは銃の選択ですけど、元次さんの希望通りに、今日はショットガンの練習をしますので、これを借りてきました」

 

真耶ちゃんがそう言いながら台車の上を指差して示す台の上には、俺の武装であるAA-12のモデルになったMPS社製のフルオートショットガンが2丁置いてあった。

っていうか良く武器庫にあったな?

IS学園の武器の豊富さに驚いている俺を尻目に、真耶ちゃんは慣れた手付きで銃からマガジンを外し、薬室に薬莢が入っていない事を確認。

最後にセイフティーを掛けて、俺の前まで台車を押してきてくれた。

 

「本来、ISの銃は量子変換状態から展開するとマガジンは装填されていますので、最後にセイフティーを解除しちゃえば直ぐに撃てます。ですが、射撃場では危ないので、撃たない時はこの形で持っていて下さいね?」

 

「安全対策ってヤツっすよね?最初に注意されたからちゃんと覚えてますよ……それで、俺はこのショットガンを撃てば良いんですか?」

 

「はい。ちゃんと前段階で射撃に慣れれば、ISに乗っても戸惑いませんから……でも、撃つ方法が特殊になります」

 

「特殊?」

 

台車の上からショットガンだけを受け取って聞いてみると、真耶ちゃんは表情を真剣なモノにしながら俺の質問に答える。

しかし最後の言葉の意味が判らず問い返すと、真耶ちゃんは首を縦に振って続きを語った。

 

「さっき確認した通り、元次さんのオプティマスの銃は全て片手撃ちを基本戦術としてますので、今回も同じ方法で射撃の姿勢や狙い方を覚えてもらいます……まずは、私と同じ様に構えて下さい……うんしょ、っと……」

 

真耶ちゃんは台車の上に置いてあるもう1丁のショットガンを持つと、そのまま重たいショットガンを身体と並行になるように片手で構えた。

俺もそれに倣って同じ様に構えるが、中々の重量があるショットガンを片手で構えるのは俺でもズシリと感じた重さだった。

当然、非力な真耶ちゃんがその姿勢を何時迄も維持出来る筈も無く、俺が構えると直ぐに疲労の篭った息を吐きながら両手でショットガンを持ち直す。

 

「はぁ。ごめんなさい。私、非力で長く構えるのは出来なくて……これじゃ先生失格ですよね」

 

「いやいや。そんな事は微塵も無いっすよ。ISが無いのに、態々俺の為に無理して構えて手本を見せてくれた真耶ちゃんが、先生失格だなんて思わねぇっす」

 

教えると言った手前、ちゃんと構えを維持出来ないのが不甲斐ないと感じたのか、真耶ちゃんは目に見えてしょんぼりしてしまう。

だが、俺は真耶ちゃんの言葉を笑顔を浮かべながら否定する。

本来、女の人は千冬さんや束さんの様な例外を除いてか弱いのが普通なんだしな。

あの人達の戦闘力は正直規格外過ぎてか弱いだなんてとても言えない。

だから、か弱い真耶ちゃんが気に病む事なんざ全く無いと思うのは当然だろう。

 

「さっ。時間もあんまり無え事だし、始めましょうや。構えはこうで良いんすか、真耶先生?」

 

ちょっと態とらしいが、真耶ちゃんに先生という言葉を強調して声を掛ける。

その言葉を聞いて再びやる気を燃やしてくれた真耶ちゃんは目を輝かせながら俺の側に近寄ってくる。

 

「は、はい!!えと、足はその開き方で大丈夫です。あっ、でも脇が少し開きすぎですね……こう、もう少し締める感じで……」

 

やる気の漲った真耶ちゃんは俺の身体のアチコチを見ながら随時間違ってる場所を指摘して修正してくれた。

その通りに構えれば、確かに銃の重心が丹田の部分に掛かり、腕の負担が大分軽減されていく。

やっぱ真耶ちゃんは先生としてもコーチとしても一流だ。

少し見るだけで俺の間違ってる箇所を理解して撃ちやすい様に改善してくれるんだからな。

そうやって俺の間違ってる部分の修正をしてくれる真耶ちゃんだったが……。

 

「後、腕の位置が少し高いので、もう少し下げて下さい。レールサイトが胸の辺りになる感じで」

 

「ん、了解……これぐらいの位置、か?」

 

「うーん……もう少し下げた方が良いですね……ちょっと失礼します」

 

そう言うと真耶ちゃんは俺の側に近寄り、俺の腕の位置を下から調整してくれるのだが、ここで1つ問題が発生。

知っての通り、俺は高校生らしからぬ体格を備えているデカブツな人間だ。

一方で真耶ちゃんは、俺達と同年代ぐらいじゃないかと勘違いさせられる程に小柄な身長をしている。

その所為で俺の腕の位置を直すのにも、かなり近づかなければいけない訳で……。

 

「うんしょ……大体この位の位置なんですが……」

 

ふにょん。

 

「ポゥッ!?」

 

「え?ど、どうかしましたか、元次さん?」

 

「ん!?あ、いやべべ、別に何でも!?」

 

「???」

 

俺の胸元あたりに何とも形状し難き柔らかい物が押し付けられて驚愕してしまう。

そんな俺を見て真耶ちゃんは首を傾げながら質問してくるが、俺は大仰に答える事しか出来なかった。

余りにもオーバーリアクションな俺を上目遣いに見上げながら「???」という顔をする真耶ちゃんだが……まさか狙ってるの?

俺と真耶ちゃんの体の距離はゼロなんですよ?引っ付き合ってるんですよ?

それつまり真耶ちゃんのbiggestなバスト様が俺に押し付けられて形変えてるんですよ?

もうこの極上とも言える柔らかさ……プライスレス。

そしてあどけない顔で俺を見上げながら首を傾げる真耶ちゃんの可愛さ……Marvelousにして罪悪感がががが。

 

「クスクス♪……山田せんせーい♪鍋島君の鼻の下が伸びちゃってますよー♪山田先生の最終兵器で♪」

 

「ヒューヒュー♪お熱いねーお二人さん♪そんなに引っ付くなんて、昼間から見せつけてくれるー♪」

 

ちょ!?あんた等余計な事を……ッ!?

 

「ふぇ?……ひゃわぁあッ!?」

 

と、まぁさっきまでは俺がキョどってる理由が判らず首を傾げてた真耶ちゃんだが、先輩方からのからかいの言葉で察したんだろう。

自分の巨大なお胸様が俺の胸板の下辺りでぐにゃりと形を変えているのに気付き、顔を真っ赤に染めて俺から離れていった。

しかも俺を見る瞳はウルウルと小動物の様な可憐さを演出しつつご自分の胸を抑えて隠すという行動に出てる。

いやそれでも真耶ちゃんの大きすぎるおっぱいは隠れる事を知らず、腕の隙間からぐにゃりと激しい自己主張をして止まない。

くそう、何て危ないオーバードウェポンを基本装備してらっしゃるんですか貴女は!!

 

「ふーん?鍋島君って大っきいのが好きなんだ~?……私も自信はあるけど、山田先生には敵わないなー」

 

「ジュディ。貴女ならいけるんじゃない?」

 

「無理よ無理。山田先生って胸だけじゃなくてウエストもヤバ過ぎるくらい括れてるから、アンダーで大負け。トップは負けね」

 

「ホント、真耶ちゃんって身長低いのに一番女らしくて一番いやらしい身体付きしてるもんねー」

 

「な、なななな!?み、皆さーん!!こ、こんな場所でそんな話しないで下さいぃ!!っていうか私はいやらしくありませーん!!」

 

おかしい、何故か誰も俺が巨乳好きだという事には疑問を抱いていないご様子、どうしてなの?

いくら進学校でエリートなIS学園でも女子の噂好きは存在してるらしく、射撃場の皆さんは口々に真耶ちゃんのナイスバディについて討論を交わす始末。

それを聞いた真耶ちゃんは更に顔を真っ赤に染め上げて他の人達に抗議するが、誰もが微笑ましいって表情を浮かべて真耶ちゃんを見てる。

まぁ、3年や2年の先輩方より真耶ちゃんの方が身長低いからなぁ……どうしても年下に見えるんだろう。

しかし真耶ちゃんも本気で嫌がってるみたいだし、ここは俺が事態の収集を図ろ――。

 

「ねー、鍋島君。山田先生程じゃないけど……私のバストサイズ、気にならない?」

 

「ブホぁ!?な、何を言っちゃってるんすかねぇ先輩!?」

 

「あっ、私もどうかなー?これでもそれなりに自信あるんだ・け・ど♪3つ含めて、ね♪」

 

「なぬぅい!?」

 

俺が騒動の収集に乗り出そうとした瞬間、何人かの先輩が俺に妖艶な笑顔を見せながらやらしく擦り寄ってきた。

しかも全員が真耶ちゃん程では無いにしろ、かなりのエロスタイル保持者だ。

B・W・H!!戦闘力はかなりのモノだぞ!!気にならない?えぇ気になりますとも!!

だって皆肌の露出が凄いんだもん!!タンクトップ1枚とか何のご褒美ですか!?ちょっと無防備過ぎるだろ!!

ISスーツみたいにピッチリパッツンパッツンして無いけど、その緩やかな無防備さが逆にそそります。

 

「ち、ちょっと元次さん!!せ、生徒の皆さんをそんなやらしい目で見ちゃ駄目ですよ!!メッ、ですぅ!!」

 

「ごぶう!?す、すいませんしたぁあ!!」

 

やらしい、なんて女から言われたくない台詞第2位を真耶ちゃんに言われた俺は先輩達の目の前に躍り出て悪い子供を叱る様に腰に手を当てて指を向けてきた真耶ちゃんに頭を下げて謝罪する。

そんな俺の情けない様を見てクスクスと笑う先輩達、「鍋島君も思春期真っ盛りの男の子だね」とか言わんで下さい、恥ずかしい。

 

「み、皆さんもちゃんと射撃訓練をして下さい!!先生怒っちゃいますよ!!」

 

真耶ちゃんなりに目尻を釣り上げて精一杯怒ってるんだろう。

腕を振り回して「がおー」な状態の真耶ちゃんを見た先輩達は「はーい」と声を揃えて各自の訓練に戻っていった。

やっと周りが静かになった事を確認した真耶ちゃんは溜息を吐いたかと思えば直ぐに俺へと向き直ってほっぺたをプクっと膨らませてしまう。

あれ?今度は何もしてない筈の俺が怒られるの?解せぬ。

 

「もう……元次さんも、女の子達の事見過ぎですよ……えっちなんですから」

 

「い、いやすんません。で、でも、あんな刺激が強い格好されると、どうしても目がいっちまうといいますか……ハ、ハハ……」

 

「そ、それは……確かに男の人ならそうでも仕方ないと思いますけど最近めっきり暑くなってきましたし、女の子は綺麗好きだから制服では出来ませんし……」

 

真耶ちゃんが困った様に言うが、俺だって実際この射撃場にいる先輩達の姿にはほとほと困ってる。

だって皆してIS学園の生徒って美人過ぎるんだぜ?

しかも見目麗しくスタイルも良い彼女達がタンクトップ一枚という格好で汗を流す健康的な絵面。

その汗が流れ、汗でしっとりとした髪が張り付く身体のエロさときたら正直、堪らんです。

視線を反らそうにも逸らした先には違うタイプの美人がいるというこの天国の様な地獄、他の奴は耐えきれるか?

 

「う、うぅ……しょうがない。これはしょうがないのよ私。うん、元次さんの視線を他の女の子に向けない為に仕方が無くやるの(ぼそぼそ)……げ、元次さん!!ちょっと待ってて下さいね!?」

 

「へ?あっ、はい」

 

さて誰にも視線を向けずにいれるかと頭を捻っていた俺だが、突如真耶ちゃんが何故か気合を入れながら射撃場を後にして休憩所へと戻っていった。

何かあったのか?……まぁ、待ってろって言われたんだし、今の内に武器の構え方を復習しておくか。

真耶ちゃんの突然過ぎる行動に首を傾げていたが、直ぐに意識を切り替えて俺は武器を構えて仮想のターゲットを狙う。

仮想ターゲットにするのは、俺の知ってる中で最速を誇る白式と一夏だ。

直線から曲線、そして直角と動いていく一夏を狙い、弾の入っていない銃の引き金を引く。

勿論銃の弾丸を避けられる事を想定して構えているが、やっぱり実際に撃たないと反動とかが全然実感が沸かねぇな。

とりあえず撃つという工程は後回しにして、今は瞬速で動く一夏の機動を必死に追いながら銃を素早く正確に動かす。

 

 

 

……今朝転校してきたあの眼帯銀髪チビ……ボーデヴィッヒの言ってた事の真相を知る事は出来なかった。

何せ千冬さんに聞こうとすれば、千冬さんは苦い顔をして黙っちまうし、一夏は一夏で「何でも無いから気にすんな」の一点張り。

さすがにあんな憎悪の目を向けられてハイそうですかと思える訳も無く、若干怒りながら聞いても――。

 

『悪い……けど、ちゃんと整理出来たら言うからよ……それまで待ってくれ』

 

なんて、凄く真剣な表情で言われちゃそれ以上問い詰める事なんて出来なかった。

そして俺とは別の理由で、一夏に恋するセシリア(復活したて)や箒に鈴が聞いても頑として口は割らなかった。

アイツも千冬さんに似て頑固な所があるからな……恐らく、一夏の中で決心が付かない限りはどれだけ殴り飛ばしても話しても言う事は無いだろう。

くそっ。まるで分からねぇ……中学2年の時、おめえに一体何があったんだよ、一夏?

そもそも何であの時、千冬さんは1年間も一夏の家に帰らなかったんだ?

確かに長い間家を開けてる事が多かった人だけど、1年間も帰らなかった事なんて無かったぞ。

あの当時も千冬さんに問いただしたけど、千冬さんも何も言ってくれなかったし……くそっ、訳分からねぇ。

昔の事を思い出すと、言い知れぬ苛つきが込み上げてくる。

だが、怒りは練習の妨げになる上に、教えてくれる真耶ちゃんにも失礼だから、俺はなるべく心を平静に保つ。

今は考えても仕方無い、アイツがちゃんと話してくれるその時まで……俺は待とう……それも兄弟の務めだ。

 

ざわ……ざわ……ざわ……。

 

色々考えていた頭を切り替えて射撃の練習に集中していたんだが、何やら射撃場が騒がしくなる。

まぁそれに目を向けて集中を乱す訳にもいかないので、俺は敢えて気にしない様にしていたんだが――。

 

 

 

「お、おお、お待たせしました……げ、元次さん……」

 

「ん?あぁいえ。別に待ってはいな――」

 

横合いから真耶ちゃんの声が聞こえて視線を横にずらし――。

 

「――――」

 

ガシャンッ!!

 

視界に飛び込んできた想像を絶する光景に、俺はショットガンを落としてしまった。

派手な金属音を立てて床に落ちたショットガンだが、俺はそんな事を気にする余裕は全く無い。

ソレほど目の前にある光景は衝撃が強く……インパクトが有り過ぎた。

 

「え、えっとぉ……き、着替えてきちゃいました」

 

「――――」

 

俺の目の前で真っ赤な顔で照れた様に笑いながらモジモジと手をくねらせる真耶ちゃん。

だが、そんな真耶ちゃんに対する俺のリアクションは一貫して顎が外れんばかりに口を開ける事しか出来なかった。

彼女の服装は、さっきまで着ていたレモンイエローのワンピース姿から、文字通り『一皮剥けている』

下は動き易い様にと配慮されたジャージのズボンを吐いてるが、それは良い、別にまだ良い。

問題は……真耶ちゃんの上着の部分……タンクトップ一枚というヤバさ抜群の格好だった。

ISスーツっていうのは身体にピッチリとフィットした、正に体のラインを強調するというヤバイ格好だ。

だがしかし、目の前のタンクトップ姿は別の意味でスーパーやべぇ。

皆も知っての通り真耶ちゃんは生徒と先生合わせてでもかなり小柄な身長だが、その胸部装甲は他の追随を許さない程に大きい。

ウエストも括れていて、グラビアモデルも真っ青なプロポーションを誇ってる。

それはつまり、その巨大過ぎるお胸様との落差も相まって彼女のアンダーはかなりの数値を叩き出してるのだ。

ここで冷静に考えて欲しいのは、服とは本来身を包むのが目的のアイテムである。

真耶ちゃんの場合はその大きなバストを包める物になる訳だが、そうなると今度はウエストの部分がブカブカになってしまう。

従って真耶ちゃんの選んだサイズのタンクトップは、必然的に真耶ちゃんにとって大きすぎるサイズになる。

なにせおっぱいに合わせて着てるのだから。

つまり、そんな真耶ちゃんがタンクトップを着ると、胸はピッチリで他はブカブカというエロス溢れる着こなしになってしまうのだ。

本来肩を通す部分に当たるショルダー部分が大分下まで下がり、彼女の胸の谷間をやらしく強調している。

その癖バストの部分だけは生意気にもピッチリしていて形が良く分かるというストレートな挑発すらこなしていた。

そんな我侭ボディを惜しげも無く強調された格好で恥ずかしそうに微笑む笑顔が可愛い女性が目の前に居たら、俺じゃ無くてもフリーズするだろ?

 

「――――」

 

「……あ、あの……元次さん?」

 

「――ハッ!!?」

 

目の前で真耶ちゃんが心配そうに覗き込んできた瞬間、俺はやっと再起動出来た。

あーそうか休憩所には更衣室があったなー、っていうか何そのエロ過ぎる服!?

貴女様の立派な立派な(大事な事なのでry)おっぱいが布地取り過ぎておへそ見えちゃってるんですけど!?

ご褒美ですかありがとうございます!!

 

「ま、まま、真耶、先生……ッ!?そ、その格好は……ッ!?」

 

やっと現世に復帰した俺だが、真耶ちゃんの格好を再認識して顔が真っ赤になってしまう。

そんな俺の反応を見た真耶ちゃんは照れ笑いしながら俺から視線を外し、モジモジと身体をくねらせる。

 

「そ、その……これなら他の生徒さん達に目がいかないかなーと思いまして……こ、これで他の子を見ずに……集中出来ますよね?」

 

「し、集中って……」

 

訓練に?それとも真耶ちゃんに?どっちでぃすか?

 

「……それとも……私、魅力無いですか?(ウルウル)」

 

「……(ゴクリッ)」

 

少しだけ瞳をウルルとさせながらの上目遣い、そして上から見上げる谷間の深さに自然と俺の喉が唾を飲み込んだ音を出す。

魅力無い?真耶ちゃんに魅力無いなんて思う奴は不能かゲイのどっちかだろう。

若しくは少ない需要の供給者達か。希少価値なんて俺にはわかりません。

た、確かに他の先輩達の服装に目なんていきませんよ?目の前にとんでもないオーバースペック様がいらっしゃるからね。

でもこれって先輩達に向けてたエロい目が真耶ちゃんに向くだけでは?根本的な解決になってない希ガス。

 

「(そ、そんなに熱心に見つめてくるって事は……魅力があるって思って良いんですよね……えへへ♪)さ、さぁ、訓練を始めましょう。銃を持って下さい」

 

「は、はい!?分かりました!!」

 

い、いかんいかん!!あんまり真耶ちゃんを見てると本気でがっついてる様に見られちまう!!

そんな事したら明日から俺のあだ名はエロ猿とかになりかねん!!こ、ここは無理にでも集中しなければ!!

俺はかぶりを振って意識を戻し、床に落とした銃を拾って真耶ちゃんに向き直る。

視線が真耶ちゃんの顔じゃ無くて胸をガン見してるのは、皆と俺だけの秘密だ。

俺が銃を拾ったのを確認した真耶ちゃんは、台車の上に置いてあるもう1丁のショットガンと外したマガジンを手に取る。

 

「それでは、まずは銃に弾丸を装填しましょう。リロード手順は大丈夫ですか?」

 

「は、はい。こうしてこう……よっと(ガチャッ)これで良かったッスよね?」

 

揺れる真耶ちゃんの水風船に目も心も奪われていた俺だが、真耶ちゃんからの言葉を聞き、手元の銃にマガジンを装着。

コッキングレバーを引いて薬室に薬莢を送り込む。勿論セーフティーロックは掛けたままだ。

 

「はい、合格です。では、さっきやった通りに構えて、実際に撃ってみて下さい。ターゲットは7体です」

 

俺が弾丸の装填を無事に終えたのを見届けた真耶ちゃんは立体ビジョンのコンソールを動かして蜂の巣形のターゲットを表示させた。

そして俺から少し離れた位置で耳当てを付けて、俺に頷いて開始の合図を送ってきた。

さあて、いっちょやったろうじゃねぇか。

俺も真耶ちゃんに倣って耳当てを付け、さっき真耶ちゃんが教えてくれた構え方でターゲットを狙う。

丁度スコア部分のド真ん中に狙いを付けつつ、腕と身体にしっかりと力を籠めて引き金を引く。

 

ドォオンッ!!

 

「……あれ?」

 

重厚な炸裂音が鳴り響きながら弾丸が撃ち出されるが、反動は俺が考えていたモノよりも遥かに軽かった。

腕だけの力で押さえ込む事が出来てしまったんだが、緊張していた俺としては少し拍子抜けだった。

しかも狙ったスコアは真ん中から大きく上にずれて、上部の少しだけを幾らか削っただけだ。

おっかしいな?ちゃんと真っ直ぐ狙ったし、反動もキッチリ抑えこんでたはずなんだが……何であんなにズレちまったんだ?

 

『元次さん。ショットガンで狙う時は、狙いより少し下を撃って下さい。マズルジャンプという銃の反動でポイントはどうしてもズレますから』

 

「な、なるほど……少し下を狙って……良し」

 

耳当てに内蔵された通信機から聞こえてくる真耶ちゃんのアドバイスに返事を返してから、俺は次のターゲットを狙う。

さっきより腕に篭める力を上げて、真ん中より少し下を狙う……今度は外さねぇ。

 

「……ッ!!」

 

ドォオンッ!!

 

再び引き金を引き、先ほどと同じ轟音、閃光を迸らせながら弾丸が発射される。

しっかりと腕力で暴れたがりのじゃじゃ馬の動きを押さえ付け、直ぐに次の発射が可能な様に構え直す。

2つ目のターゲットは、俺が狙った位置とその周りがゴッソリと削り取られていた。

良し、今回は成功だな。

 

『そうそう!!上手ですよ元次さん!!そのまま続けて残りのターゲットもいきましょう!!』

 

「了解っす!!」

 

今の射撃を褒めてくれた真耶ちゃんに返事を返しながら、俺は次々とターゲットを撃ち抜いて身体に反動を染み込ませる。

そして全てのターゲットを撃ち抜き終えると、ちょうどマガジン内の弾も尽きた。

スコアは……下から数えた方が早いな、これじゃまだまだ駄目過ぎる。

その後は真耶ちゃんのアドバイスと指示に従って右手と左手での射撃を練習し、そこそこのスコアを出せる所にまでは慣れる事が出来た。

更に一発一発の射撃に慣れ始めたら、次はこのAA-12の真骨頂であるフルオートの射撃にも挑戦。

さすがにこっちは一朝一夕でどうにかなるモンでも無く、制御出来るまでにかなりの練習を必要とした。

何せマズルジャンプの反動で持ち上がった銃が更に連続で持ち上がっていくんだから、最初に決めたポイントは少しづつ変わる。

そうなるとこう、微妙にターゲットから目測がズレてしまう。

銃に慣れた人とか軍人なら直ぐにでも撃つポイントを修正出来るだろうけど、俺にはまだそこまでの『慣れ』というものが無い。

細かい調整が苦手な俺だから、何処かで必ず「これでいけるだろ」と軽い気持ちで撃って外しちまうんだよなぁ。

しかもターゲットは全ての位置がランダムに設定されているから、只真っ直ぐ撃つだけじゃ当たらない。

 

「うーん。やっぱそう簡単にはいかねぇか……俺って射撃に向いてねぇんスかね?」

 

「そんな事無いですよ。基本的な射撃能力自体はちゃんと向上していますから、後はそれの応用をちゃんと使い分ければ良いんですから。それと銃の特性を理解するのが重要ですね」

 

「銃の特性ですか?」

 

中々フルオートの射撃が上手くいかなかった所で真耶ちゃんから一旦休憩を入れる様に言われ、俺達は再び休憩所のテーブルに向かい合って座った。

俺は自販機で購入したコーラ、真耶ちゃんはイチゴミルクを片手に今度は座学的な事をしている。

身体を休めてる間に知識のお勉強というわけだが、元々頭の出来がそこまでよろしくない俺は真耶ちゃんの言葉に首を傾げてしまう。

俺の聞き返しに真耶ちゃんは頷き、手元のタブレットを操作して空間ウインドウを展開。

そこには、俺が撃ち抜いたターゲットが映っていた。

 

「良いですか元次さん。ショットガンは正確にターゲットを撃ち抜くのでは無くて、面で制圧するんです」

 

「面?」

 

「はい。ショットガンは射程距離はそこまで長く無く、命中精度も期待出来ません。何故なら使用している弾丸がペレットを複数撃ち出すという広範囲にダメージを与える弾丸だからです」

 

そう説明しながら、真耶ちゃんは財布から小銭を幾つか取り出してテーブルに並べる。

 

「アサルト、スナイパーライフルの様に一直線で弾丸を飛ばす銃というのは点の攻撃と言い、ショットガンは前方を覆う様に弾丸が展開しますから、点の攻撃では無く面の攻撃と言います」

 

「点と……面……」

 

真耶ちゃんの言葉を復昌する俺の目の前には、一円玉を1つだけ置いた場所と、複数の硬貨が置かれた場所の2つがある。

つまりこれは……弾丸の飛び方の図式って事か?

テーブルの上に描かれる硬貨の図式から視線を上げると、目が合った真耶ちゃんが更に言葉を続けていく。

ショットガンの最大の利点である面制圧力は、相手に一度の射撃で大ダメージを負わせる事が出来る事らしい。

俺もショットガンの事を詳しく知ってる訳じゃねぇが、確かにショットガンのイメージはダメージがデカイって事だ。

狩猟なんかで使われている猟銃もショットガンの1種類で、強い破壊力があると真耶ちゃんは教えてくれた。

弾丸の中身に入ってるペレットの散り具合でダメージの通り方も変わる。

近距離でペレットが完全に分散する前に被弾すれば、その1ヶ所を集中的に破壊してダメージを与える。

だが、ペレットが拡散すれば、相手の体の至る部分に被弾させるので、全体的にダメージが拡散して伝わっていく。

ちなみにさっきまで俺が撃っていた弾種は12ゲージのバックショットという弾丸の中に詰めた火薬を炸裂させ、中のペレットという小粒を撒き散らす物らしい。

確かに改めてスコアを見てみると、あちらこちらに散ったペレットが下や横にもスコアに穴を開けてる。

 

「全体に攻撃を当てて相手の動きを抑制し、広範囲を一度に攻撃出来る面制圧力の高さがショットガンの特徴です。元次さんのISに詰まれているフルオートショットガンなら、近から中距離で一度相手に被弾させれば後は連続で当てる事が出来るはずですから使い方と間合いをしっかりと身に付けましょう」

 

「使い方と間合いか……わかりました。次はそれを考えながら撃ってみます」

 

「はい♪それじゃあ時間も余り残っていませんし、今日は最後に2丁同時撃ちをやって、今日の訓練はお終いにしましょう」

 

「了解っす」

 

真耶ちゃんの言う通り射撃場の使用時間終了が近づいていたので、最後の仕上げに2丁同時撃ちを練習した。

これはさすがに俺も戸惑って、かなり駄目なスコアしか出なかったけどな。

同時に撃っても、左右が少しズレたタイミングで弾丸を射撃するから、手に伝わる反動もタイミングも誤差が出る。

それを左右の手で別々に制御するんだが、少しでも意識を片方に寄せるともう片方の弾丸があらぬ方向へ飛んで行ってしまう。

これはかなり練習しねぇと駄目だな……下手糞にも程があるぜ。

余りの下手さに落ち込む俺だったが、ISで使う時は火器官制システムがあるから大丈夫だとか高校生になって初めて射撃したにしては上手だと真耶ちゃんに慰められましたよ。

次はもっと良い点数を取ってやると目標を決めつつ、俺は今日の訓練を終えた。

 

「お疲れ様でした、元次さん。これからも頑張って練習しましょう」

 

「はい。真耶先生もありがとうございました。また次もご指導よろしくお願いします」

 

笑顔で俺を労ってくれた真耶ちゃんにお礼を言うと、真耶ちゃんは何でも無いと言った風に微笑む。

あぁ~癒される……真耶ちゃんのほんわかした雰囲気は皆の心の清涼剤です。服はエロいけど。服はエロいけど。

既に周りに居たであろう先輩達は着替えて訓練を終えたのか、射撃場には俺達しか居ない。

 

「いえいえ♪生徒の練習を手伝うのも先生の仕事ですから♪それで、次の予定なんですけど……」

 

と、俺に次に指導できる日の事を話す真耶ちゃんだが、残念ながら仕事が忙しいらしく、次は3日後まで空いて無いらしい。

この前のクラス対抗戦があの無人機の所為でオシャカになってしまった事の報告書やらもあるが、それ以上に今度の学年別個人トーナメントの準備が大変だと愚痴を零す。

学年別個人トーナメントとは、3年生が己の仕上がり具合を見に来る政府や企業のお偉いさん達に披露する為の物であり、2年生が1年間でどれだけ成長したかのデータ取りをする為の物だ。

実はこのトーナメントの戦いは全世界に生中継されるので、将来をIS関係の企業に就職したいと考える3年生からすれば企業に対するこれ以上無いアピールになる。

それは2年生にしても同じ事だし、俺達1年生にはどれだけ有能な芽があるかを企業や政府が知る絶好の機会なのだ。

トーナメントは1、2、3年生を個別に分けた上で1年生から順番に昼食後を開始として行われていく。

1日目は全学年を通しての一回戦で、2日目は二回戦といった具合に進行していくので、その間は全ての授業が無くなり、午前中は全てウォームアップになる。

一学期に行われる中では最大級のイベントだから、そりゃ教師だって忙しくなるのは仕方ない。

 

「というわけで、次の訓練は3日後という事になっちゃうんです。ごめんなさい」

 

「いやそんな。俺は態々教えてもらってる側ですから、そんなに気にしないで下さいって。偶にこうやって教えて貰えるだけで、俺は充分っすよ」

 

申し訳無さそうに謝ってくる真耶ちゃんだが、俺は恐れ多いと手を振って返す。

実際、教師に直々に教えて貰えるなんて中々無い事だからな。

 

「そう言って貰えると、私も嬉しいです……こ、これからも頑張りましょうね!!『二人で』!!」

 

俺の言葉を聞いた真耶ちゃんは再び笑顔を浮かべて俺の手を握りながらそう言葉を掛けてくれた。

その笑顔に見つめられて心穏やかな気持ちになりながら、俺も真耶ちゃんに対して笑顔を向ける。

 

「ういっす。これからもご指導よろしくお願いします、真耶先生」

 

「は、はい。何でも頼って下さいね?何せ私は先生なんですから!!そ、それじゃあ銃を返しに行きま――」

 

俺が笑顔を浮かべながら頭を下げると、照れた表情の真耶ちゃんが銃を返しに行くといって反転しつつ踏み出したのだが、足元が疎かになっていた。

ここには俺が撃ちまくった薬莢が無造作に転がっていて、真耶ちゃんは不覚にも踏み出した足でこの薬莢を踏んずけてしまった。

その結果はツルンと滑って前のめりに転げそうになっていくという最悪な方向に、って危ねぇ!?

 

「よいしょ!!(ガシッ)」

 

「きゃ!?」

 

何とか地面に顔面をぶつける前に、俺は真耶ちゃんを後ろから抱きすくめる事に成功。

ギリギリの所だったので、俺と真耶ちゃんは地面に膝を着いた状態になっているが、何処にも怪我は無かった。

 

「……はぁ、やれやれ。間一髪だ――」

 

もにゅん。

 

「はぁん!?」

 

「――ほへ?」

 

突如として俺の手に伝わるずっしりと重い感触と極上の柔らかさ、そして真耶ちゃんのやらしい声。

しかも背中をこれでもかと弓なりに反らして俺の視界に入ってきた真耶ちゃんの顔色はこれ以上無く赤かった。

え?何この俺の手の平ですら納まり切らない大きさの柔らかい物は?ソフトボール?

いやー最近のソフトボールはこんなに柔らかくてぽにょぽにょしてんだなー(現実逃避)

しかもこんなコリコリしたポッチがあるなんて、時代は俺の知らない間に日進月歩してるって事かー。

自分自身でもうオチが読めたこの展開に脳みそは現実逃避に走るも、身体は正直にしか動かない。

 

もみもみコリコリ。

 

「あん!?ふあ、ぁ、あぁッ!?あぁあん!!?」

 

そう、俺はどさくさに紛れて後ろから真耶ちゃんの爆乳様を鷲掴み、コネコネしてしまったのである。

弓反りになって俺の顔を見つめる真耶ちゃんの瞳はウルウルと切なげに俺を見つめ、吐息は甘い香りと熱を放つ。

俺の鼻孔を直で刺激する吐息の甘さ、手から溢れる程に圧倒的な存在感が伝わる薄い布地越しの極上の女の肉感……俺の理性の崩壊5秒前なう。

こんな光景を誰かに見られれば即退学も有り得るだろうが、もう知った事じゃねぇ。

自分の気になる女のこんな痴態を見せられて何もしないでいられる程、俺は紳士じゃねぇんだ。

ごめん……真耶ちゃんの気持ちを無視して、初めてが強引に……無理矢理になる事を……真耶ちゃんを奪う俺を許してくれ。

 

「悪い、真耶ちゃん(グイッ)」

 

「きゃ……げ、元次さ……あっ……」

 

俺は強引に真耶ちゃんの身体を振り向かせてから一言だけ謝り、真耶ちゃんの着ているタンクトップの真ん中に手を掛ける。

そのまま左右に引っ張ると、真ん中からミチミチと布地が破れる音が聞こえてきた。

まだ裂けてはいないが、このまま力を加えていけば破けるのは時間の問題だろう。

ふと、視線を上げてみれば、真耶ちゃんは俺の手が何をしようとしているのかを理解して目を見開いて驚く。

 

「同意無しは犯罪だって判ってるけど、もう堪らねえ……後で幾らでも恨んでくれ」

 

「ぁ、ぅ……(破かれちゃう……襲われちゃう……好きな様に……食べられちゃうぅ♡)」

 

それでも真耶ちゃんは抵抗らしい抵抗はせずに、震える唇をキュッと閉じて目を瞑り、俺の行動を止めようとはしなかった。

俺はそんな真耶ちゃんの誘ってるとしか思えない行動を見て……理性という名の鎖を壊し、捨てる。

スマネェ真耶ちゃん……こんな格好されちゃ、我慢なんて効かねぇんだ――いざ!!

 

 

 

ビリビリィッ!!!

 

 

 

理性を消去した俺は自らの手で布地を豪快に破き、真耶ちゃんの身体を隠すベールを奪い取って――。

 

 

 

 

 

「――女に強引に迫るのは感心せんな?」

 

「犯罪は駄目だぜぇゲンく~ん?」

 

 

 

 

 

無表情or無機質な瞳の千冬さんと目が笑ってない笑顔の束さんの顔が真耶ちゃんの後ろに見えた瞬間、俺の意識は無くなった――。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

気付くと、俺は自室のベットの上で寝ていた。

少しまどろみの中にある頭を働かせながら身体を起こし、首を捻る。

 

「おっかしいな……俺は確か、真耶ちゃんと一緒に射撃の練習をしてて……」

 

さっきまで行っていた筈の行動を思い出しながら、頭をすっきりさせる為にコーヒーを作ろうと、台所に向かう。

えっと、確か真耶ちゃんにショットガンの使い方を習って……真耶ちゃんのタンクトップ姿が超絶にエロくて……まぁちゃんと射撃の訓練は出来たよな?

その後で真耶ちゃんから今後の予定を聞いて……その後は……。

 

「……ヒィ!!?(ガクガクブルブルッ!!)」

 

な、何故だ!?何があったのか思い出そうとすると身体に拒絶反応が出るんですけど!?

い、一体俺に何があったんだ!?こ、腰が抜けそうになってやがる!!

どうにも俺が訓練をしていた事は合ってる様だ。それは俺の体が銃を撃った時の感触をキッチリ覚えているから間違い無い。

だがその先を思い出す事を俺の体が絶対的に細胞レベルで拒否している。

お、俺に何があったんだ?……まるで、逆らっちゃいけねえ様な恐怖を体の芯まで叩きこまれた様な気もするが……あれ?デジャヴュ?

 

「や、止めよう。この先を考えるのは……薮を突付いて兎でも出てきたら洒落にならねぇ」

 

不毛な考えは不毛な争いしか生まぬのだ。そして俺的に兎さんは蛇よりもやべえ存在だったり。

無理に思い出そうと無茶して急激に冷え切った身体を温める為、俺はHOTのブラックコーヒーを飲んで考えるのを止めた。

あぁそうだ……今日の俺は何もしてないんだ……真耶ちゃんと射撃訓練をして、それで終わり……そう、終わったんだ。

 

コンコン

 

「うお!?だ、誰だ!?」

 

得も言われる恐怖感に苛まれていた俺は、部屋のドアをノックする音で柄にも無く跳び上がって驚いてしまう。

手に持ったカップを落としそうになるが、それをテーブルの上に避難させて俺はドアに向かって叫ぶ。

 

『おーいゲン。大丈夫か?何か凄い声が聞こえたけど?入っても良いか?』

 

「あ、あぁ。一夏か……大丈夫だ。入ってもいいぜ」

 

ノックしたのは俺の兄弟分である一夏だったので、俺は安堵の息を大きく吐いた。

扉の向こうに居る一夏は俺の返事を聞くと、「邪魔するぞー」と言いながら部屋の扉を開く。

「よっ」と言いながら手を挙げる制服姿の一夏と、その後ろには同じく制服姿のシャルルの姿があった。

 

「いやー、疲れたぜ。やっと今、シャルルに学園の案内するのが終わった所でさ」

 

「お邪魔するね、元次」

 

苦笑しながら入ってきた二人は俺に挨拶すると、そのまま椅子に腰掛けて話しかけてくる。

一夏は何時もの自然体で、朝の事など一切気にしてない様子だった。

……いや、気にしない様にしてるんだろうな……まぁ、一夏が聞いて欲しくねぇってんなら今直は聞かねえ。

ちゃんと心の整理が点いたら話すって約束だし、アイツが話してくれるのを、俺は待とう。

そういえば今日はシャルルに学校の案内をしてやるって一夏が申し出てたんだっけ。

その序に部活見学もしておこうと一夏が言ったのを聞いた1組のクラスメイトはこぞって目を光らせ、二人の案内に同行してた。

多分、自分達の部活に引きずり込もうって魂胆だったんだろうな。

俺は真耶ちゃんとの訓練の約束があったから行けなかったけど、この様子じゃ相当振り回されたらしい。

 

「おう。どうだったんだ?どっか良い部活はあったのかよ?」

 

「あー、俺はやっぱ剣道部になると思う。もう道場を何回も使ってるし、剣道部の人達からは部員扱いされてるしな」

 

「うーん。僕はまだ何とも言えないかな。まだ二日目だし、強いて言うなら料理部が良かっ……あっ」

 

「ん?どうしたシャルル?」

 

何故か自分の良いと思った部活の名前を出した瞬間、シャルルの顔がしまったという表情に彩られる。

その様子を見た俺と一夏は顔を見合わせて互いに首を傾げてしまった。

 

「い、いやその……お、男が料理だなんて変だよね?アハハ……」

 

「は?何処が変なんだ?」

 

「え?」

 

「自慢じゃねぇが、俺も一夏も料理は自分でやるぜ?偶に料理本も買うしな」

 

「え?え?」

 

苦笑するシャルルに俺達は逆に「何処が変なんだ?」と問い返す。

その聞き返しを聞いてポカンとするシャルルだが、俺達からしたら逆にその態度の方が良く分からねえ。

最近じゃ男の方が料理に対しての関心が強いぐらいだ。

結婚はしたくないけど美味い料理は食べたい=じゃあ自分で作るべ。

そういう考え方の男が今の女尊男卑の風潮で激増してるからな……もしかしてフランスではそうでもねぇのか?

 

「え?え?……一夏は兎も角として……元次が料理?……え?」

 

「そこまで俺がフライパン片手に料理に勤しむ姿が想像出来ねえかお前」

 

ムカついた。今の反応は至極ムカついたぞコラ。

それこそツチノコでも見たんじゃないだろうかと自分の目を疑う勢いで驚くシャルル。

しかしここで武力にモノを言わせたんじゃ、根本的解決には繋がらねぇ。

この場合正しい方法でシャルルを納得させるのは……1つしかねぇよな?

俺は立ち上がって財布を確認し、IS学園のブレザーを脱いで黒シャツのラフな格好になる。

 

「おいシャルル。そこまで信じられねぇってんなら、今日の晩飯は俺が作ってやる。食ってけ」

 

「え?わ、悪いよそんなの……」

 

「えぇマジかよ!?シャルルだけズルいぞ!!なぁゲン、俺も良いだろ!?」

 

「誰も除け者になんてしねぇよ。お前も食っていけ。ちょっくらひとっ走りして材料買ってくるからよ」

 

「うっしゃ!!シャルルも運が良いぞ!!ゲンの飯が食えるなんて、俺や千冬姉以外ならイベントでも無い限り早々無いんだからよ!!」

 

「そ、そうなの?……そ、それじゃあ、ご馳走になろう、かな……胃薬何処かに無いかな……(ぼそっ)」

 

良し、今日はシャルルが日本に来た事のお祝いって事で、和食を中心に作らせてもらおう。

メインは魚料理でいくとして、他にはほうれん草辺りを使うか。

それと汁物は必要だな……それから煮物を出しておけば完璧だろ、うん。

献立をサクッと脳内で決めて、俺は二人に断ってから購買へと足を運ぶ。

待ってろよシャルル……俺の料理がフランス人の下に通じるか、お前で挑戦させて貰うからよ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「さぁ出来たぞ。おーい、二人共飯を運ぶの手伝ってくれ」

 

「お!?待ってました!!ほらシャルル、早く行こうぜ!!」

 

「う、うん……大丈夫、だよね(ぼそっ)」

 

さて、時間は進みちょうど夕飯時だ。

俺が購買に行ってる間に二人は交互にシャワーを浴びたらしく、部屋着に変わっていた。

まぁ俺も飯の後にシャワーを浴びるとして、さっきまで俺は1人で飯を作っていた。

そして全てが器に盛る所まで終了し、俺は二人を呼び出して器をテーブルまで持っていく様に頼んだ。

一夏はルンルン気分でコッチに来てるが、シャルルは依然として不安そうな表情をしてる。

ふっふっふ、この料理を見てもそんな顔が出来るかな?

密かにシャルルの反応に機体しながら道を空けて、二人に今回の料理を拝ませる。

 

「う、おぉ……ッ!?スゲェ……ッ!?」

 

「……うわぁ……ッ!?」

 

盛り付けられた料理を視界に納めた一夏とシャルルの反応は、これでもかと驚愕に染まっていた。

今回作ったのは大根と豆腐の味噌汁と煮物は婆ちゃんが教えてくれた関西風肉じゃが。

そして魚料理も婆ちゃん直伝料理で、身は淡白で柔らかいイシモチの揚げだしをチョイスした。

更に箸休めとしてほうれん草を醤油とごま油でサッと仕上げたお浸しも作ってある。

うん、我ながら良い出来だ。

 

「おぉぉ……ッ!?何だよゲン!!今日のはやたらと気合入った料理ばっかりじゃねぇか!!しかも俺が今まで食べた事の無い料理もあるし!!」

 

「す、すごい……ッ!!食堂のメニューにも乗ってなかった料理があるよ!!」

 

「へへっ、シャルルに俺の婆ちゃん直伝の和食ってヤツを堪能させてやろうと思ってな。つい本気を出しちまったぜ」

 

もう星が出てるんじゃないかってぐらいキラキラした目で料理を見つめるシャルルと一夏に俺は笑いながら言葉を返す。

シャルルは今日の昼は楽しみにしてた食堂でフランス料理を食べてたし、夕食は和食のチョイスで良いだろ。

とりあえずはしゃぐ二人を諌めて、俺達は夕食をテーブルの上に運んで其々席に着く。

 

「シャルルはまだ箸不慣れだろ?スプーンとフォークを用意しといたから、それで食べてくれ」

 

「あ、ありがとう元次……さっきは疑ってごめんね?」

 

「ふっふっふ。そいつぁ、俺の料理を食ってから撤回してもらおうか?」

 

「意地悪だなぁ……良し、キツめに評価しちゃうからね?」

 

俺に対して済まなそうな表情を浮かべるシャルルにニヤリと笑いながら返すと、少し膨れ笑いしながら俺に返事を返してくる。

ちゃんと飯を食ってから評価を改めて貰いてぇからな。

 

「なぁなぁ、そろそろ食おうぜ!!出来たてが一番美味いんだしよ!!」

 

「そうだな……それじゃ、いただきます」

 

「いただきます」

 

「いただきます」

 

はしゃぐ一夏に苦笑しながら俺が号令を掛けると、一夏とシャルルもソレに倣って食事の挨拶をした。

そのまま各々好きなおかずへと箸(フォーク)を伸ばしてパクリと一口。

俺はまずイシモチの揚げ出しに口を付けた。

イシモチって魚はじっくりと揚げれば骨まで美味しく食べられるのだが、今回は綺麗に削ぎ落としてある。

揚げ出しで小骨がある事の好き嫌いは別れるって婆ちゃんに教わったので、シャルルが平気か判らないという理由でだ。

まぁ味は抜群に美味いし、今度は骨有りで作ってみっか。

 

「美味しい!!すっごく美味しいよ元次!!このお魚って何て言うの?」

 

どうやら今回の料理はしっかりと高評価を頂けた様だ。

シャルルも俺と同じで先に揚げ出しを食べたらしく、若干興奮した様子で聞いてきた。

 

「そいつはイシモチって魚だ。身は淡白だけど、味を染み込ませてあるからイケるだろ?」

 

「へぇ~、イシモチって言うんだ……確かに、味がしっかり染みてて美味しい……料理上手なんだね、元次って」

 

「まぁ小学校の低学年から、お袋と婆ちゃんに仕込まれてるからな。一夏はどうだ?」

 

「モグモグ……おまっ、この肉じゃがって牛肉使ってるのか!?何か豚肉とはまた違った味わいで滅茶苦茶美味いんだけど!?」

 

イシモチに手を出した俺とシャルルとは違い、一夏は定番の肉じゃがから手を付け、普段の肉じゃがとは違った味わいに大絶賛していた。

シャルルも一夏の様子を見て肉じゃがに箸を伸ばし、笑顔で美味しいと言ってドンドンと平らげていく。

やっぱ笑顔で食べてくれるのは作り手冥利に尽きるよなぁ。

 

「関西じゃこういう肉じゃがなんだってよ。俺も婆ちゃんから教わるまで全然知らなかったぜ」

 

「へー……美味いなぁコレ……何か久しぶりに、ゲンのお婆ちゃんのご飯が食いたくなってきた」

 

「夏休みに来いよ。婆ちゃんも爺ちゃんも、一夏と千冬さんなら歓迎するって言ってたしな」

 

「ホントか!?それじゃあ千冬姉にも言っておかなくちゃな!!」

 

「そういえば、元次の住んでた所ってどんな所なの?」

 

「ん?兵庫県ってトコの小さな町だ。山に囲まれててのどかで良い場所だぜ。ちょっとバイクで出れば海とか温泉街も近くにあるしよ」

 

ほうれん草のお浸しを食べながら質問してきたシャルルに、俺は婆ちゃん達の地元の良さを語る。

中央に比べれば物とかも少ないが、そこらはインターネットで帰るから別段不便ではない。

ちょっと動けば温泉とかも行けるし、何より近隣の人達は気の良い楽しい人達ばっかりだからな。

一夏の家とか俺のアパートの辺りも自然は多いけど、向こうと比べたら比にならねぇ。

町全体が自然に囲まれてるって感じだ。

二人とも俺の話に耳を傾けながら時に驚き、時に笑ったりと楽しく夕食を過ごしていく。

そんな感じでシャルルと一夏に田舎の素晴らしさを語りながら食べていると、直ぐに飯が片付いてしまった。

まぁ腹はキッチリ膨れたので良しとし、3人で洗い物を片付けてから、まったりと部屋で過ごしている。

 

「ふぅ……ありがとう元次。和食の素晴らしさを体験出来て良かったよ。一夏も今日の案内ありがとうね、凄く助かったよ」

 

「いやいや。喜んで貰えたならそれで良いさ」

 

「口に合ったんなら良かったぜ」

 

食後のお茶を飲みながらシャルルが笑顔でお礼を言ってきたので、俺と一夏も其々答える。

遠い異国から来た数少ない同類なんだし、仲良くやっていきたいのは当然だ。

 

「僕、日本に来て良かったよ……最初は上手く馴染めるか不安だったけど、元次と一夏に会えて良かったって心から思う」

 

「ははっ、大袈裟だな。でも、IS以外で判らない事があったら頼ってくれよ」

 

「一夏に同じく、だ。さすがに代表候補生に教えるなんて恐れ多い事は出来ねえからな」

 

「ふふっ、ありがとう……それじゃあ、僕もお返しにISの事で出来る範囲なら手伝わせてくれない?二人共放課後にISの訓練をしてるって聞いたけど、専用機もあるから役に立てると思うんだ」

 

俺達の気遣いを聞いたシャルルは微笑みながら、今度は俺達にお返し代わりにISを教えたいと願い出てくれた。

俺としてはその申し出は有り難い限りだ。

幾ら専用機を持ってるっつっても、俺と一夏はセシリアや鈴と比べて遅れまくってる。

知識、技術、そして経験に至るまでの全てが足りない。

俺は訓練してる日はマチマチだけど、アリーナが使える日はほぼ毎回訓練してる一夏からすれば『別の理由』でも有り難い筈だ。

まぁその別の理由については、今は置いておく事としよう。

 

「おお、そりゃ助かるよ。是非頼む」

 

「うん。任せて」

 

シャルルの申し出に目を輝かせて一夏は頼み、シャルルはそれを快諾する。

っていうかさっきまで頼ってくれって言ってた本人が早速相手を頼るのはどうなんだろうかね。

え?勿論俺も頼らせてもらう事にしましたが何か?文句は受け付けん。

そんな感じで男子3人の楽しい談笑は続いたが、消灯時間も近づいてきたのでその日はお開き。

部屋に戻っていく二人と「また明日」と挨拶を交わして、俺は眠りに付いた。

 

 

 

次の日の朝に食堂で千冬さんと会ったんだが、何やら凄い輝いた笑顔を浮かべて俺に声を掛けてきたのだ。

曰く「昨日は良く眠れたか?」と聞かれて途中から記憶が無いと伝えると嬉しそうに「そうか」と言って去ってしまい、俺は益々首を捻るばかりだった。

その後で更に真耶ちゃんと会ったんだが、真耶ちゃんから「昨日の事覚えてますか?」と聞かれ、俺も途中から記憶が無いと答えた。

何と真耶ちゃんもその辺りから記憶が無いらしく、気付けば自室のベットで寝ていたらしい。

記憶が途切れる前に折れと射撃訓練をしていたのは覚えているので俺に聞きたかったらしいが、俺にもさっぱりだ。

互いにおかしいなと首を捻る俺達を、何故か楽しそうな千冬さんが笑顔で見つめていたのが謎だ。

 

 






中々上手く話が纏まらなくてすいませんm(_ _)m

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