IS~ワンサマーの親友   作:piguzam]

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今年最後の更新です。


女の子の要望に応えるのは計画的に無理なくしましょう

 

 

 

 

 

 

「さて小娘共、始めるぞ。時間も押している事だしな」

 

「え?あ、あの……2対1でですか?……と言いますか、鍋島さんは大丈夫なので?」

 

「いやいや、幾ら山田先生が凄くてもさすがにそれは……あの、ゲンは放っておいて良いんですか?」

 

「安心しろ。今のお前達ならすぐ負ける……鍋島の事なんぞ放っておけ……良いな、真耶?」

 

「はうッ!?わ、分かりました(ごめんなさい元次さん……本当ならさすってあげたいけど、先輩が怖くて無理です)」

 

どうもこんにちは、先ほど怒れる千冬さんから空中浮遊招待拳をプレゼントされた元次です。

『招待券』じゃなくて『招待拳』ね?ここ重要。

悲惨過ぎる状態の俺を見て頬を引き攣らせながらも心配してくれるオルコットと鈴だったが、それは千冬さんの不機嫌一色の声で封殺されてしまう。

そんな俺の今の状態は、殴られた腹を抑えながら地面に膝を付く膝立ち状態という何とも情けない格好だったりする。

いやもう痛みとダメージが半端じゃ無いのよこれが。朝食バーストすっかと思った。

しかもノーマル状態の俺じゃ耐え切れない程の攻撃だったし、『猛熊の気位』発動してなかったから尋常じゃなく痛え。

ひっさしぶりにパンチ貰って動けなくなるのを思い出したわ……冴島さんと修行してなかったら間違い無く俺は初日で死んでたよ。

 

「だ、大丈夫、元次君?(オロオロ)」

 

「……な……何とか、な……回復するのに、結構……掛かりそうだけどよ」

 

膝立ち状態の俺に心配そうに声を掛けてくれたさゆかに、俺は途切れ途切れな言葉で返す。

こんな俺を心配してくれるなんて、さゆかって本当に優しい性格してるぜ。

どういう原理なのか皆目検討も付かないが、あれだけヤバイ威力で殴られた割には、腹には一切の傷跡が残ってない。

青痣ぐらいは覚悟してたのにいざ見てみたら無傷って別の意味で怖かったぜ。

もしかしたらアレで手加減してくれてたのかもな、千冬さん……手加減した割には人類を超越したパワーだったけど。

しかも殴った箇所が腹だってのに、俺の体が真上に浮き上がったんだもんなぁ……あれ?手加減されてる気がしねぇ。

 

「よしよし~。痛いの痛いの飛んでけ~♪(サスサス)」

 

そしてさゆかとは反対側に居る本音ちゃんが、俺の背中をさすりながら子供をあやす様に言葉を掛けてくれる。

さっきまでは不機嫌そうだったが、さすがに俺が15メートルも空高く打ち上げられたのを見て心配してくれたらしい。

地面に不時着してから俺が腹を抑えて蹲ってる間、ずーっとこうやって俺の背中をさすってくれてる。マジ女神様だ。

例えさすってくれてる場所が痛くない所でも、こーゆうのはしてくれるってのが肝心なんです。

 

「あ、ありがとうな、本音ちゃん……少しづつ楽になってきたぜ」

 

「えへへ♪良かった~♪じゃあ、ゲンチ~が元気になるまで、いっぱいナデナデしてあげる~♪」

 

お礼を言う俺にパァッと朗らかな笑顔でそう言う本音ちゃん。あぁ、ホント良い子だよ。

俺の中の本音ちゃん株は世界恐慌があろうとも急上昇のみだ。

 

「(ま、負けないよ!!本音ちゃん!!)えっと……い、痛いの痛いの、と……飛んでけ~(サスサス)」

 

「むっ(私だって~譲らないぞ~!!)は~やく元気にな~ぁれ♪」

 

「う、おぉ……二人共、心の底からサンキューな」

 

しかも何故か俺を心配していたさゆかまでもが、俺と同じ目線までしゃがみこみ、背中を撫でてくれた。

恥ずかしそうにちょっと頬を染めてるのが俺的にツボです。

そのまま二人して左右から俺の背中を撫でて必死に介抱してくれる程の優しさっぷり。

あぁ……女神が二人も居る……ここが天国か。

 

「むっ……私達二人がかりでもすぐ負けるだなんて、さすがに言い過ぎでしょ」

 

「織斑先生といえどもその言葉、撤回させてみせますわ」

 

と、腹の激痛が回復するのを待つ俺の目の前で、鈴とオルコットが千冬さんの言葉を聞いてムッとした顔をした。

まぁあの二人の言い分も分からんでも無い。

代表候補生ってのは選ばれた人間の集まりなだけに、苛烈な訓練に耐えられる人間が残る。

しかも代表候補生が多数居るのに対して、誰しもが専用機に乗れる訳じゃない。

その候補生達の中で尤も成績の良いヤツだけが乗れる、正に選ばれた人間だけの特権だ。

そんな訓練を耐え抜いてきたであろう鈴とオルコットにもプライドがあるからこそ、ああやって千冬さんが相手でも言い返す。

それに真耶ちゃんが幾ら昔、鈴達と同じ代表候補生だったとしても、今真耶ちゃんが乗ってる機体は量産機のラファールリヴァイヴ。

鈴の甲龍、オルコットのブルーティアーズよりスペックはかなり劣る。

加えて2対1でも余裕で負けるなんて言われたら、二人だって言い返すのは当たり前だろう。

 

「負けん気が強くて結構。では空に上がれ。開始の合図は追って出す」

 

千冬さんは鈴達の言葉を聞いてフッと笑うが、直ぐに表情を引き締まると開始前の合図を放つ。

その言葉を聞いて、3人はブースターを吹かして大空へと飛び上がっていった。

 

「う、ぐぅ……フゥー、ありがとうな。二人とも……お陰様でもう動ける。マジに感謝するぜ」

 

腹の痛みが大分収まり、今までさすってくれてた二人に礼を言いながら立ち上がる。

さすがに何時迄も膝付いてる訳にゃいかねぇからな。

 

「いえいえ~♪ど~いたしまして~♪」

 

「き、気にしないで」

 

「相変わらずリスポーン早えな。俺さっきのパンチで死んだと思ったぞ?」

 

「だ、大丈夫なの?僕、人が殴られて空を飛ぶ所とか初めて見たんだけど……」

 

と、二人が俺のお礼に対して笑顔を返してくれてた所で横から一夏とシャルルが声を掛けてくる。

一夏は何時もの事かと呆れながら、シャルルは初めて見るショッキングな光景に戦慄しながらと違いはあるが。

良かったなシャルル。この学園に居る限りは見れると思うぞ?主に一夏が俺にブッ飛ばされる光景が。

 

「さゆかと本音ちゃんがさすってくれたから、何とか生きてるぜ……さすがに昼食の量は減らさねぇとマズイだろうけどな」

 

「千冬姉のマッハパンチ食らってそれで済むお前はおかしい。ホント色々と」

 

「お腹もそうだけど、首は?元次、さっき空中からクルクル回って落ちてきた時に首から落ちたよね?なんで生きてるの?」

 

「そりゃ鍛えてるからな。っていうか何で生きてるの?とか失礼過ぎるだろシャルル」

 

「あんなの見せられたらそう言いたくもなるよ。落ちた時にゴキッて凄い音鳴ってたんだから。本当にどんな体の構造してるのさ」

 

こんな身体の構造してますが何か?

それにこのタフネスは日頃の特訓と冴島さんの特訓の賜物ですよ。

大体、俺が冴島さんと修行した時はもっともっと凄い目に合ってたんだぜ?

切り落とされたでかい丸太でブッ飛ばされたり、引っこ抜いた木の切り株で真上から潰されたりな。

さすがに冴島さんも謝ってたけど、修行に妥協は一切無かったから最初は死ぬかと思ったっての。

 

「シャルル。ゲンのタフネスは俺達の想像も付かない領域にあるんだ。理解しようとすると頭痛が起きるぞ?」

 

待てやコラ。人を不思議生物みたいに言ってんじゃねぇよ兄弟。

困惑した表情で俺を見るシャルルだが、そんなシャルルに一夏は肩に手を置きながらヤレヤレと首を振る。

ってオイ。2組の子達までそんなターミネーターを見る様な目で見るんじゃねぇ。

そんなに俺のタフガイっぷりが異常に見えるか?冴島さんとか俺以上にタフなんだけどなぁ。

 

「そうだね……僕、元次の事はサイボーグだと思っておく事にするよ」

 

「初対面で吐く台詞じゃねぇだろ。俺は改造手術も強化骨格もやってねぇ。100%ナチュラルな人間だ」

 

「アハハ……」

 

苦笑いで誤魔化すなよシャルル。

初対面で人外認定されるとは、シット。

 

「ったく……そんな事言い出したら、俺を打ち上げ花火にした千冬さんはシャルルにはどう見えるんだ?阿修羅を凌駕するチートな人外美女か?(ゴキゴキ)」

 

俺に苦笑いしながら誤魔化すシャルルに、俺は首を左右に捻って音を鳴らしながら問いかける。

ふっふっふ、答え次第じゃ千冬さんに密告して……何故にシャルルと一夏は顔を青くしてるのかな?

おや?さゆかと本音ちゃんまで顔色がヤバイ位青いぞ?

 

「貴様はまだ仕置が足りない様だな。ん?(ゴリゴリゴリィッ!!)」

 

「あばばばばばば!?」

 

シャルルと話していた俺の背後から抉る様な激しい痛みがぁああ!?

首だけ振り返ってみれば、其処にはお馴染み出席簿の角で俺の背中をグリグリ抉る千冬さんのお姿。

新しい出席簿の使い方を俺で試さないでもらえません!?

 

「いでででで!?ち、千冬さんマジすいません!?謝るから出席簿でグリグリは勘弁して下さいぃいいい!?」

 

「誠意の篭ってない謝罪などいるか!!この学習能力ゼロの馬鹿者が!!(ガシィッ!!)」

 

「ひでぶぅ!?」

 

背後からの攻撃を逃れようとした刹那、千冬さんの細くて逞し過ぎるお腕が俺の首をロック。

喉元をしっかりとロックしたネックホールド状態に持ち込まれた。

そこから下向きに力を加えられて強制的にまたもや膝を地面に付かされてしまう。

目の前に居た一夏とシャルルは「ご愁傷様」って顔をしたまま3歩後ろにバック。

さゆかと本音ちゃんも相川達に連れられて離れていった。

今度があれば口に気をつけとこう。

 

「そぉら、強化骨格らしいお前の強度を試してやる!!これはどう、だ!?(グリグリッ!!)」

 

「あだだだだだ!?や、止めてッス禿げるぅぅううう!?森林伐採した後の山みたいになっちゃ(ギュッ!!)ごフェ!?」

 

「ん~?聞こえんなぁ~?何だまだ欲しいのか?このいやしんぼ、め!!(グリグリッ!!ギュウゥッ!!)」

 

「くぎゅぅううう!?」

 

千冬さんは片方の腕で俺の首を絞めながら、空いた手で俺の頭頂部を拳でグリグリとしてくる。

しかも指の第2関節を突き立てるあの最高に痛いヤツ。

許しを請うた俺の言葉すらも、喉を絞めて途中で断念させるではないか。

成る程、聞く耳持たんって事ですか。

っていうか俺も両腕で必死にホールドを解こうと奮闘してる訳ですが、全然外れない。どゆ事だってばよ?

幾ら体勢の所為で力が入りにくいつってもこの差は何?やっぱチート過ぎるって千冬さん。

っていうかさっきから後頭部にポニョポニョした柔らかくて大きなマシュマロが当たってるんですけど!?何この天国と地獄!?

膝を付かされた事で俺の視界には千冬さんのお顔が見えるんですが、千冬さんの表情を見て、俺は絶句した。

苦しむ俺を見るその表情は、まるで熱に浮かされた様に頬が赤く染まって上気してるんだから。

ちょっと待て!?千冬さんのドSスイッチが入っちまってるじゃねぇかぁあ!?

 

「うぎゅ……ッ!?ぶひぃぅ……ッ!?」

 

「ク、フフフ……クハハハ。何だ、その豚みたいな悲鳴は?いや、それは豚に失礼か……ほら、せめて豚よりは上等に、もっと良い声で鳴いてみせろ!!(ギュッ!!)(こいつとの心地良い時間も好きだが……こういうのも、悪く無いな……こいつの困った顔を見ると……あぁ……そそられる)」

 

女王様ぁあああ!?死ぬ死ぬ死んじゃう!!逝っくぅううう!?

それ以上喉元絞められたら声が出る前にあの世に行っちまうぅうう!!

もう生徒の皆さん千冬さんの女王様っぷりにドン引きしてらっしゃいますよ!?

何人かの特殊な方々は頬染めて「千冬様!!私もお仕置きして下さい!!」とか何とか言っちゃってるけどな!!

本格的にヤバくなってきた事で必死に千冬さんの腕をタップしてギブアップを示す俺。

しかし何やらテンションの上がって恍惚とした表情を浮かべる千冬さんは俺の苦しむ様を見て頬の赤みを、瞳の潤いを深めるだけだ。

こ、このままじゃ意識飛ぶ……ッ!?し、仕方ねぇ!!リミッターを解除してフルスペックしてやらぁ!!

 

「グ、グ……グルァアアアアアアッ!!(ボボンッ!!)」

 

「な!?」

 

『『『『『えぇえぇえええええッ!?』』』』』

 

俺は全身に入れる力を限界まで引き上げ、全身の筋肉をこれでもかと膨張させる。

伸縮性に優れるISスーツが破れる事は無いが、身体全体の大きさが1回りは大きくなり、アチコチに血管が浮き上がる。

完全にヤマオロシを相手取っても勝てるレベルまで引き上げた、俺の最強状態。

それと同時に『猛熊の気位』を発動させ、強引に体を立ち上げて千冬さんを持ち上げた。

 

「い、一夏!?元次が!!元次がぁああ!?」

 

「お、おお落ち着けシャルル!!ち、ちょっとだけゲンの体が膨れただけじゃないか!?」

 

「アレの何処がちょっとなのさ!?僕にはもうours(フランス語で熊)にしか見えないよ!!しかも何か蒼い炎が見えるし!!」

 

「し、心配するなって。ゲンの身体スペックにはもう慣れあばばば」

 

「もの凄くパニクッてるよね!?」

 

目の前で人間一人乗せたまま、しかも首を絞められてた状態から立ち上がった俺に、1組も2組もこぞって悲鳴を挙げる。

特にシャルルと一夏なんか若干パニックになってるし。

兎に角立ち上がる事が出来たので、今度は千冬さんに離れてもらう為に俺は首の筋肉へ更に力を篭めた。

 

「うんぐぅううう!!(ギギギギギッ!!)」

 

「ッ!?……ちっ……馬鹿力め」

 

俺が首の筋肉に力を入れて千冬さんの腕を押し返そうと奮闘していると、千冬さんは悪態を吐きながら俺の首元から離れていく。

それと同時に新鮮な酸素が俺の肺に取り込まれ、俺は一気に脱力してしまう。

 

「がは!?ぜ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……ッ!!し、死ぬかと思った……」

 

「(……一応、美女と言った事に免じて、この辺りで許してやるか)……自業自得だ、馬鹿者。これに懲りたら女性に対して失礼な事を言わない事だ。良いな?」

 

「う、うっす……ごふっ」

 

絞められていた喉元を擦りながら返事を返し、俺は立ち上がる。

ふぅ~……しっかし、やっぱ千冬さんの強さはおかしいわ。

俺は今、持てる力の全てを使って首の筋肉を膨張させ、千冬さんの拘束を緩めに掛かった。

でも実際に緩まったのは少しだけで、恐らく千冬さんが本気を出せば、俺はあっという間に落ちてただろうよ。

俺と違って細身な……出るトコは出て締まったボン・キュ・ボンなナイスボディだけど、俺より細い腕なのに俺よりパワーあるなんてな。

かなり自信無くすぜ……まだまだ冴島さん達の領域に届いてねぇか、俺は。

 

「もっともっと強くならねぇとな……まだ俺は弱え」

 

「まだ上を目指すの!?もう良いよ元次!!僕もう君が人間に見えなくなっちゃうから!!」

 

「兄弟……頼むから俺が追い着ける位置に居てくれ、頼むから……ッ!!」

 

だからその上はどうなるって(以下略。

隣から驚愕の表情でツッコミを入れてくるシャルルと戦慄した表情の一夏に苦笑いしながら、俺は力を緩める。

すると俺の身体は普段通りの密度まで戻り、張り詰めていた筋肉がナリを潜めた。

まぁ普段から張ってる筋肉はそのままだけど。

 

「さて、遅くなったが全員空を見ろ……山田先生、始めて下さい」

 

『はい、分かりました……それじゃあ凰さん、オルコットさん。始めましょうか』

 

『コッチは何時でもいけるわ』

 

『2対1でも、手加減は致しません』

 

千冬さんが俺達を促したと同時に、空に上った3人の音声がオプティマスを通じてオープンチャネルに流れてくる。

さあて、相手はオルコットと鈴のタッグで、しかも二人共専用機持ち。

対する真耶ちゃんは1人で量産機のラファールリヴァイヴ……普通に考えれば鈴達が圧倒的に有利だ。

でも世界の強豪達と鎬を削りあった千冬さんがあそこまで自信満々に言うなら結論は見えてる。

それに戦闘に入る合図が出されるや否や、真耶ちゃんの纏う雰囲気が変わった。

何時もの小動物の様な愛らしさは鳴りを潜め、今の真耶ちゃんを覆うのは紛うこと無き戦乙女のソレだ。

 

「……では、始め!!」

 

『『ッ!!』』

 

そして遂に千冬さんから合図が出され、一見真耶ちゃんに不利な模擬戦が始まった。

千冬さんの合図を聞いた瞬間、オルコットと鈴は弾かれた様に左右上空へ展開し――。

 

『えいっ!!』ダァンッ!!

 

展開しようと動いた所を、真耶ちゃんが片手に持ったスナイパーライフル『レッドバレット』の弾丸で狙い撃った。

けたたましいマズルフラッシュと共に吐き出された弾丸は寸分違う事無く、二人の頭部へと命中する。

じ、冗談だろ?二人がどう動くのか見極めた上で、スナイパーライフルの速射で出鼻を挫いたってのか?

俺もオプティマスに銃が積まれてるから一応射撃訓練はやってる。

生身で銃の扱いを覚える為に、IS学園には最高レベルの射撃場があるから何度かやってるから分かるけど、アレはやばい。

スナイパーライフルの反動は凄まじい上に、とっさの判断で近距離での狙いを撃つってのは中々やり難いんだ。

それを真耶ちゃんは一瞬スコープを覗いただけで狙いを定めて1発撃ち、反動を制御、利用してもう一回同じ肯定で1発撃ったと?

あれは確かクイックショットっていう超高等技術の一種だった筈だ……すげぇ。

 

『くの!?やってくれんじゃない!!』

 

出鼻を挫かれた鈴は双天牙月を二刀流にして、真耶ちゃんへの距離を詰めていく。

甲龍のパワーでラファールを制そうって腹積もりか。

一方でオルコットは再び上昇を始めると、上空でお得意のビットを4基全て展開する。

そのまま鈴と真耶ちゃんを取り囲む形で援護に回った。

 

『そりゃあ!!』

 

そして真耶ちゃんに接近していった鈴は双天牙月を2本同時に振りかぶって真耶ちゃんへと叩き付けるが……。

 

『大振りの一撃は相手に隙がある時に使うべきですよ』バババババッ!!

 

真剣な表情でそう言いながら、真耶ちゃんはその剣筋を見切り、弾丸の様に回転。

紙一重の差で鈴の剣を避け、細かくリズムを刻む様に旋回しながら射撃体勢に入り、アサルトライフル『ヴェント』を展開。

移動しながら鈴に銃撃の嵐をヴェントとレッドバレットの2丁撃ちで見舞う。

 

『あぁもう!!チクチクと地味に削らないでよね!!』

 

その銃弾を双天牙月を振り回して叩き落す鈴だが、全ての弾丸は阻止出来ずに貰っている。

まぁ千冬さん並の使い手でも無い限り、あの銃弾の嵐を喰らわずにってのは無理だろう。

真耶ちゃんの通った後を追う形でオルコットのレーザーが飛ぶが、それはジグザグに動く真耶ちゃんには掠りもしなかった。

……そうか。真耶ちゃんのあの軌道は、オルコットに狙いを付けにくくさせる為の軌道って訳だ。

その証拠にハイパーセンサーで見えるオルコットの顔は苦渋に満ちていた。

 

「デュノア。山田先生の使っているISの解説をしてみせろ」

 

「は、はい。山田先生の使用しているISは、デュノア社製ラファールリヴァイヴです」

 

上空の模擬戦に意識を集中していた俺の隣で、シャルルがラファールについての解説を始めた。

そういえばシャルルの家はラファールを作った会社だっけ。

説明にはうってつけの人材って訳だ。

 

「第二世代最後期に生産されましたが、第三世代にも劣らない安定性と汎用性。そして豊富な後付装備がラファールの特徴です。現在配備されている量産機の中では、最後期でありながら世界第3位のシェアを誇り、七ヶ国でライセンス生産、十二ヶ国で制式採用されています」

 

おぉ~?さすが社長の息子ってトコだな。かなり詳しい。

隣で解説するシャルルの言葉に耳を傾けつつ、上空の戦闘を見守る。

上ではちょうど、真耶ちゃんの銃撃から抜けだそうと後退した鈴に、真耶ちゃんが追撃のタックルを見舞っていた。

腕に付けられた実体シールドでの突撃は相当響いたらしく、鈴は隙を晒してしまう。

そこを更に銃撃しようとした真耶ちゃんだが、オルコットのビットからレーザーが放たれた事で一度距離を置いた。

あの実体シールドを使った、自分を大型弾頭に見立ててのタックル……俺も使えるな。

 

「特筆すべきは操縦の簡易性で、それによって操縦者を選ば無いので多様性役割切り替え(マルチロール・チェンジ)を両立しています」

 

多様性役割切り替え(マルチロール・チェンジ)……つまりバランス重視の素直な機体でクセも無い良い子ちゃんって事か。

確かに鈴達の専用機はある程度のコンセプトに沿って作られてる一能特化型、悪く言えば性能が尖ってる。

オルコットのブルー・ティアーズは長距離が独壇場の代わりに近接に弱いし、鈴の甲龍は燃費とパワーに優れてもここぞっていう決め手の武器が無い。

一夏の白式の武器、雪片弐型は一撃の攻撃力が強力無比な代わりに燃費最悪で近距離以外では使い勝手が悪過ぎる。

オマケに機体性能も速度特化のピーキーなマシンだもんなぁ。

その辺りを考えると、クセが少ない上に装備の切り替えで色んな局面に対応できる汎用性のあるラファールも使い手によっちゃ化けるって事か。

まぁ千冬さんが打鉄に乗ったらそれだけでおかしな性能のモンスターマシンに化けるけど。

実際、実技試験で千冬さんが操った打鉄はブルー・ティアーズより速かったし、力も上だったからな。

 

「更に装備によって格闘・射撃・防御の全タイプに切り替え可能で、参加サードパーティーが多い事でも知られています」

 

「ふむ、とりあえずそこまでで良い。そろそろ決着だ」

 

と、シャルルの詳しくて判りやすい説明が終わったと同時に、千冬さんは模擬戦の終了を口にする。

その言葉に上を見上げてみれば、さっきから引いては押してと受身の体勢だった真耶ちゃんが動きを変えていた。

縦横無尽に空を駆けてオルコットのレーザーと鈴の衝撃砲を避けながら、真耶ちゃんはヴェントを収納。

レッドバレットを両手持ちに切り替えて、ノンストップ飛行を続けながら鈴達を交互に撃っていく。

 

『(バゴォッ!!)あう!?くっ……幾ら織斑先生が断言したとしても、あんな狙撃を簡単にこなすなんて……ッ!!』

 

『(バガァッ!!)ちょ!?何であんなに動き回りながら撃って当てられるワケ!?こっちだって動いてるのに!!』

 

『実は私、旋回機動中の狙撃は一番得意なんです(それに元次さんが私の射撃を「凄い」って褒めてくれたから、今日は倍プッシュですよ!!)』

 

二人の悲鳴をオープンチャネル越しに聞きながら、俺は真耶ちゃんの動きに只々驚く事しか出来なかった。

鈴の言った通り、真耶ちゃんはラファールを複雑な軌道で動かしながらも着実に弾丸を二人に浴びせている。

真耶ちゃんだけでなく鈴達もかなりの速度で動いてるってのに、全ての弾丸が吸い込まれるかの様に着弾してるんだ。

幾ら何でも命中率がやばすぎるだろ……銃の扱いはオルコットを軽く上回ってるじゃねぇか。

まさかあれ程に強えなんて……ん?何かさっきから狙撃の数が若干オルコットに集中してる?

先に遠距離に強いオルコットから仕留めるのか?

 

『(弾幕が薄くなった!?よーし!!アタシの活躍見てなさいよ一夏!!)じゃあこっちも!!(ガシャンッ!!)』

 

と、真耶ちゃんの狙撃がオルコット寄りになった事に気付いた鈴は弾幕を上昇して突破し、肩のアーマーをスライドさせて衝撃砲を起動させるが……。

 

『く……ッ!?少しづつ射撃が外れてきてますわよ、山田先生!!(見てて下さいな、一夏さん。このわたくし、セシリア・オルコットの華麗なる反撃――)』

 

『はい――『ワザと』外してますから』

 

『――え?』

 

『ちょ!?セシリ……』

 

ガツンッ!!

 

真耶ちゃんの狙撃を避けようと上昇してきたオルコットに衝突されて、二人とも体勢を崩してしまう。

っていうか真耶ちゃん、『ワザと』って……狙撃をワザと外してオルコットを鈴へ誘導したって事か?マジかよ?

普段の真耶ちゃんからは信じられない神業を、俺は凄いと感じる以外なかった。

そして空で多大な隙を晒すオルコット達に対して、真耶ちゃんは二人の頭上へ急上昇していく。

レッドバレットを収納して新たな武装を……リボルバータイプのグレネードランチャー『リュシェール』を展開。

まるで映画さながらのガンスピンを披露する余裕を見せつつ、照準が二人に合わせられる。

あっ、アイツ等終わったわ。

もうその武器見た瞬間、二人がどういう結末を辿るのか分かってしまう。

纏めて綺麗に――。

 

ズドォオオオンッ!!

 

『『きゃぁあああああ!?』』

 

バスターされて終わり、ってな。

大気を震わせる様な爆発音と煙幕が青空に広がり、地上の俺達を覆った。

その後直ぐに、青と赤の機体がもつれたままクルクルと回転して、グラウンドに轟音と共に落下。

まぁ赤と青は言うまでも無くオルコットと鈴な訳ですが。

 

『うぅ……まさかこのわたくしが……』

 

『ア、アンタねぇ、何面白い様に誘導されてんのよ!!衝撃砲撃てなかったじゃない!!』

 

『鈴さんこそ、無駄にバカスカ撃った割には当たってないじゃないですか!!それに最初に誘導されたのは其方でしてよ!!』

 

地面のクレーターの中で甲龍とティアーズが縺れ合ってる中、二人は仲良く口喧嘩。

もう何かそれ見てると脱力しちまうっての。

ギャーギャー喚く二人を見た俺達の反応は似たり寄ったりだ。

一般生徒や俺と一夏なんかは「代表候補生ェ……」と呆れを含んだ表情だし、デュノアは苦笑いしてる。

もう代表候補生(笑)で良いんじゃね、コイツ等?

 

「これで諸君らにも教員の実力は判っただろう。以後は敬意を持って接する様に」

 

何だかアレな二人とは対照的な真耶ちゃんだが、真耶ちゃんが地面に降りた所で千冬さんが俺達にそう言い放つ。

それを聞いた皆は一斉に「はい!!」と返事をして返してた。

あれを見せられたら誰も畏れ多くて、あだ名なんかじゃ呼べないだろうな。

案外この模擬戦はソレが目的だったんじゃないかとも思える。

 

「ではこれから実習に入るが、まずは各専用機持ちを班長としたグループに分かれて貰う。織斑、デュノア、鍋島、凰、オルコットの四名は各生徒の補助をする様に」

 

ん?俺達が班長をやるのか?

 

「ねぇねぇ!!誰に教えて貰う!?」

 

「そりゃ勿論……」

 

と、俺達がグループリーダーをやると聞いた女子の目が妖しい光を灯し始めた。

 

『織斑君!!一緒に頑張ろう!!』

 

『分からない所、教えて!!』

 

「は?え!?ちょ、ちょっと待っ……ッ!?」

 

『デュノア君の操縦技術、見たいなぁ~』

 

『ねぇねぇ、私もいいよね?』

 

「あ、あはは……」

 

それと同時に多数の生徒が一夏とデュノアへと群がっていく。

逆に鈴とオルコットの場所は閑古鳥が鳴いてた。

まぁ話題の王子様転校生にイケメン一夏だから当たり前――。

 

『『『『『鍋島君!!手取り足取りお願いします!!』』』』』

 

「ファッ!?」

 

な、何か俺の所にまで多数の女子が!?しかも2組の子が結構混じってる!?

 

「まだあんまり話せてないし、これを機にお近づきに……ッ!!」

 

「オルコットさんと戦った時とかあの実験機を倒した時も見たけど、鍋島君の操縦技術の凄さは折り紙付きだもんね」

 

「何ていうかもう、頼りになり過ぎるオーラが出てる!!」

 

「お。おう?……まぁ、サンキューな」

 

其々の生徒が興奮気味にそんな事を言ってくるのでお礼を言うと、何故か「キャー!!」とか騒ぐ始末。

ホントどうしてこうなった。

そんな感じで騒がしい事この上無い各班だが、そんなお祭り騒ぎをあの方が許す訳あるめぇ。

 

「はぁ……この馬鹿共が。全員出席番号順に各班へ入れ!!遅れた者はグラウンド10週させるぞ!!」

 

皆さんご存知千冬さんは眉間を揉みほぐしながら俺達全員に叫ぶ。

前も言ったがここのグラウンドは一周5キロ。10週は俺でも無理だ。

千冬さんはやると言ったら絶対にやるという事は皆も良く判ってるので、素早く名前順にバラけていった。

それでもさっきの子達が殆ど残ってるのはどんな偶然だろう?

 

「最初からそうしろ、全く……ではまず、グループリーダーは訓練機を取りに来い。今日は歩行と起動を中心に行う」

 

「訓練機は打鉄とラファールを3機ずつ用意しましたので、ドチラを使うかは班の皆さんで話し合って決めて下さいね。PICは既にOFFになってます」

 

千冬さんと真耶ちゃんは其々に指示を出すと、俺達に訓練機を取りに来る様に言った。

俺はソレを聞いてから首を捻って骨を鳴らし、気合を入れ直す。

さあて、俺がこのグループのリーダーだってんなら、しっかりとやらねぇとな。

 

「そんじゃあ訓練機を取ってくるが、打鉄とラファールのどっちが良い?要望はあるか?」

 

俺は目の前に居る班の皆に機体の好き嫌いを問い掛ける。

まぁ特にデザインとかに拘りが無いならどっちでも良いんだがな。

俺の質問を聞いた彼女達は皆で話し合うと、今回は打鉄が良いとの事で決まった。

それを聞いて、俺は皆に待つ様に指示を出して真耶ちゃんの所へ訓練機を取りに向かう。

 

「はい♪打鉄ですね。元次さんの班が一番早いですよ。先生花丸あげちゃいます♪」

 

真耶ちゃんのその見る者を癒やすほんわかな笑顔にも花丸あげちゃいます☆

 

「ははっ。皆が直ぐに決めてくれたお陰ですから……それとさっきの試合は凄かったっすよ、真耶ちゃん。カッコ良かった……っていうのも変っすかね?」

 

「い、いえいえそんな。こう見えても先生ですから♪(ぶるるん)」

 

俺の素直な賞賛の言葉に真耶ちゃんは照れながらもえっへんと胸を張り、その動きで真耶ちゃんの爆乳がブルルンと激しく揺れた。

おほぉう!?ISスーツで強調された爆乳が更にこう激しく自己主張され……ごっくん。

ってイカンイカン!!こ、こんな刺激の強いモン見続けたら、俺は公衆の面前で射撃体勢をとってしまう!!

は、早いところ本題を言って真耶ちゃんから離れるか。

 

「ン、ン゛ゥッ!!……そ、それで真耶ちゃ……いや、山田先生。もし良かったら、その……空いてる時にでも、俺に射撃を教えて貰えないすか?」

 

「……へぇ!?わ、私がですか!?」

 

俺のお願いを聞いた真耶ちゃんは素っ頓狂な声を出して驚きを露にする。

真耶ちゃんに直接教われば、最近伸び悩んでいる射撃も上手くなるんじゃないかと思って考えた事だ。

普段の授業でも真耶ちゃんの説明は分かり易いし、これ以上無いコーチだろ。

 

「俺もオプティマスに銃器はあるんだけど、恥ずかしながら下手糞で……あれだけ凄い射撃が出来る山田先生に直に教われたらなと……勿論、無理にとは言わな――」

 

「いいえとんでもない無理なんてこれっっっぽっちもありませんよ!?わ、私で良ければお手伝いさせて頂きます!!(元次さんと二人っきりで授業……最高です!!)」

 

「そ、そうっすか?……それじゃあ、お願いします、山田先生」

 

「はい!!せ、せせ、先生と『二人っきり』で頑張りましょう!!(て、手取り足取り……あぁん♡わ、私を縛ってどうするつもりなんですかぁ♡)」

 

何やら顔を赤く染めてクネクネとしだしだ真耶ちゃんを見て、俺の中の警報が作動。

ヤバイ、真耶ちゃんってば妄想モードに入ってる。即時撤退せねば。

 

「じ、じゃあ、打鉄を借りていきますんで……明日の放課後、空いてたら教えて下さい」

 

俺はクネクネしながら恍惚の表情を浮かべる真耶ちゃんに、一応一言声を掛けてカートに乗った打鉄を持っていく。

何かあれ以上言葉を重ねてたら千冬さんにブッ殺されそうな予感しかしなかったからな。

 

『山田先生、打鉄を取りにきまし、って何か幸せそうな笑顔でトリップしてらっしゃる!?い、一体何が!?』

 

『はぁう♡元次さん……ヤダ、そんな強引に迫っちゃ駄目ですよぉ♡』

 

知らねぇ、後ろから聞こえてくる一夏の声には何にも覚えは無い。

まぁとりあえず、今は目の前の授業に集中しますか。

俺が一応班のリーダーなんだし、ヘマして他の子が怪我したら洒落にならねぇ。

 

「うっしゃ。今から打鉄に乗って順番に起動と歩行、んでもって停止をやってくから、出席番号の早い人から来てくれ」

 

「はい!!2組の中谷由美でーす!!よろしくお願いしまーす!!」

 

そしていざ実習を始めようとしたんだが、トップバッターの中谷が何故か笑顔で手を俺に差し出してきた。

え?何この手は?そう思って中谷に視線を向けると、彼女はニコニコしながらずっと手を俺に向ける。

これは……あぁ、握手って訳か。成る程成る程。

相手の意図を何となく理解できたので、俺も中谷の手を握って握手を交わした。

 

「えーっと、じゃあよろしくな、中谷。まずは打鉄に乗ってくれ。腰部分のアシストに足を掛けながらコックピットに入ろうか」

 

「(やった!!ナチュラルに握手出来ちゃった!!)うん、それじゃあ乗ります!!よいしょっと」

 

中谷は俺の指示を聞いてからしっかりとした動作で打鉄をよじ登り、中心部分に身体を固定する。

新たな操縦者を感知した打鉄は自動で各部を動作させて、中谷を包み込んだ。

PIC以外のアシストが完了し、操縦者の起動するという意志を読み込んだ打鉄が駆動音を奏でる。

 

「OK。それじゃまずは立ち上がって直立の姿勢になってくれ」

 

起動が完了した次のステップの歩行に移る為に立ち上がる様に促すと、中谷は真剣な表情で打鉄を起立させた。

そこから更に指示を出して今度は歩行をして貰う。

何時もと目線が全然違うからか、少しフラついた動きではあるものの、歩行も問題無しだ。

そのまま軽く俺の目の前でオーバル気味に歩行して貰い、とりあえず一周が終わったら交代とした。

 

「良し。じゃあそこで止まって、最後にISを屈ませて停止。それで次の人に交代だ」

 

「はい!!うんしょっ、ってキャァッ!?」

 

「おっと!!」

 

歩行からの停止は上手くいってた中谷だが、最後にISを屈ませる時に前屈姿勢になりすぎて頭からグラウンドに向かってしまう。

その直ぐ傍で何があっても良い様に待機してたので、直ぐ様オプティマスを起動して倒れそうな中谷を支える。

 

「ふぅ。大丈夫か、中谷?」

 

「ッ!?う、ううううん!!大丈夫です!?」

 

倒れない様に身体を支えながら聞くと、中谷はしどろもどろな感じで俺に視線を合わせてきた。

うむ、見た感じじゃ何処にも怪我は無さそうだな。

自分の実習班で怪我人が出なかった事に安堵して、俺は自然と笑顔を浮かべる。

 

「まっ、こんな事もあるだろうが、失敗は成功の母ちゃんってな。まだまだ機会はあるし、頑張って次こそは成功させようぜ」

 

「は、はい……頑張ります」

 

「おう。それじゃあゆっくりと屈んでから、打鉄を停止させてくれ」

 

中谷に励ましの言葉を掛けながら上体を引き起こし、そこから俺がオプティマスでアシストしながら打鉄を屈ませる。

最後に打鉄を解除して降りた中谷に労いの声を掛けてから次の子に交代した。

まだ結構な人数居るし、サクサクとこなしていかねぇとな。

 

『ど、どうだった!?(ヒソヒソ)』

 

『……凄い……支えてくれた腕が、胸板が……逞しかった……指導も優しかったし、心配してくれてるのがもう……(ヒソヒソ)』

 

『くぅうう!!私も早く指導して欲しい!!(ヒソヒソ)』

 

『焦る事は無いわ、直ぐに私達の番よ(ヒソヒソ)』

 

……何か後でヒソヒソ話してるが、頼むから千冬さんの目に入らない様にしてくれよ?

まぁその後の実習も滞り無く……握手をせがまれたとか、笑顔で倒れそうになる子を抱き抱えた事が多々あった以外は問題無く進んだ。

そんな感じでもうすぐ一周出来る順番まで差し掛かったが、まだ時間はあるしもう一週ぐらいは出来そうだな。

今の子が終わったら……。

 

「ゲンチ~♪手取り足取りお願いしま~す♪」

 

「あいよ。もうすぐ今の子が終わるからもうちょっと待っててくれ」

 

次は俺の班に居る本音ちゃんの番だ。

まぁこの分なら本音ちゃんの後の子もゆっくりとしたペースで実習が出来るだろう。

ウチの班は千冬さんと真耶ちゃんに続いて3番目に早いと他の子が教えてくれたけど、一夏達は何でそんな遅いんだ?

 

『布仏さん!!オペレーションD、発動よ!!(ヒソヒソ)』

 

『にゅふふ~♪あいあいさ~なのです~♪(ヒソヒソ)』

 

ん?何だ?……何か、変な視線を感じた気がするが……。

 

「ね~ね~ゲンチ~?こっち向いて~♪」

 

「ん?あ、あぁ。悪い本音ちゃん。今は実習してる子を見てるから、話は後で聞くぜ」

 

と、何やら俺の班の皆から絡みつく様な変な視線を感じていた時に本音ちゃんが笑顔で俺に声を掛けてきた。

しかし今は実習してる子の方を見ておかないと、見てない所で事故が起きては面倒なので本音ちゃんの方を見ずに言葉を返す。

すると何故か打鉄に乗ってる子の表情が焦るが……何だ?どうかしたのか?

 

「あう……え、え~っと……そ、そ~そ~。オリムーとデュッち~の班を見て~。チラッとで良いからさ~」

 

「ん?一夏とシャルルの?俺達より早く進んでるのか?」

 

何故か打鉄の子と同じ様に少し焦った表情の本音ちゃんが俺に食い付いてきたのだが、話題が話題なので俺も少し気になった。

シャルルはまぁ、フランス代表候補生な訳だし問題はねぇだろう。

模擬戦の時のラファールに対する解説は見事の一言に付きたぐらいに分り易く丁寧だったからな。

まぁ一夏だって年がら年中トラブルの素こさえてはいないわけだし――。

 

『えへへ♪織斑君、お願いしま~す♪』

 

『あ、あぁ……えと、それじゃあしっかり俺に抱き付いててくれ』

 

『キャー!!俺に抱きつけキマシター!!』

 

『キマシタワー!!』

 

『次私!!次は私だからね!!ちゃんと今の一言も言ってよ織斑君!!』

 

一夏が白式を展開して女の子をお姫様抱っこしながら、立ち上がった状態の打鉄のコックピットに運んでいたとさ♪

チラッと見た視界の先で起こっていた謎現象に、俺は暫し脳みそがフリーズしかけた。

何やってんだよ兄弟ェ……ホントお前は何時でも何処でも何かしらヤラかして――。

 

「ねぇねぇゲンチ~。デュッち~の班も、同じ事してるよ~?」

 

「シャルルェ……」

 

本音ちゃんの楽しそうなお言葉を聞いてシャルルを見やれば、オレンジの専用機を展開して女の子をお姫様抱っこする姿だった。

しかも一夏とシャルルにお姫様抱っこされてる女の子達は皆一様に頬を染めて恍惚とした表情を浮かべてるじゃないか。

っていうか何故にあいつ等は訓練機を立ったまま解除させてんだ?

千冬さんにちゃんと屈ませて停止させるまでが実習内容だって言われてただろうに。

 

「ぐぬぬぬ……ッ!!あんの馬鹿一夏ぁ……ッ!!」

 

「お、おほほ……き、きき、今日の訓練は、わたくしの全力を持ってお相手させていただくとしましょうか♪」

 

そして案の定って感じに嫉妬に狂う一夏ラヴァーズの鈴とオルコット。

鈴は目に見えて怒りのオーラを噴出させてるし、オルコットはかなり暗い顔で微笑んでやがります。

あ~あ、可哀想に……今日も今日とてボロ雑巾決定だな、マイブラザー。

というかお前等もちゃんと実習しろよ、女の子達「早く乗りたいんだけど?」って呆れてるじゃねぇか。

まぁ一夏に本気で恋する二人としちゃ、自分達も一夏にああやって欲しいだろう。

しかし二人は代表候補生だから一夏の班で教えて貰う事は叶わず、見せつけられる形だからな。

そういや同じ一夏ラヴァーズの箒は何処に……って何だ、一夏の班じゃねぇか。

 

『で、では一夏……や、優しく頼む』

 

『わ、分かった……それとさっきはゴメンな、箒……胸、掴んじゃって』

 

『はぐッ!?い、いい、今はその事は言わないでくれ!!思い出さない様にしてるんだ!!』

 

『そ、そうだよな。ゴメン、配慮が足らなかった』

 

『い、いや……お、お前こそ、さっきはありがとう。凰の攻撃から助けてくれて』

 

『ん?あぁ、気にすんなって。大事な幼馴染みを助けるのなんか当たり前だろ?』

 

『大じッ!?そ、そそそそうか!?わ、私は大事なんだな!!ふ、ふふふ……当たり前、か♪』

 

おーい。何時までラブコメってんだー?こんなとこで二人だけの世界構築すんなって。

打鉄に箒を乗せる為にお姫様抱っこしながら会話する一夏と箒だが、内容がこれまた青春。

さっき俺が投げた所為で箒の胸を揉んでしまったからか、一夏も普段の朴念仁っぷりを感じさせない赤面で会話してる。

箒も胸の事を言われて更に赤面しながらも、結構良い雰囲気で喋ってるし……こりゃあ箒が一歩リードか?

嬉しそうに微笑む箒を見て鈴とオルコットの瞳からハイライトが消えるのはお約束だろう。

ってあれ?何で俺は一夏達の実習を見て……あぁそうだ、本音ちゃんが見ろとか言ってたんだっけ。

軽く目の前の光景に衝撃を受けて忘れ掛けていたが、今は実習時間なのだ。

俺は直ぐに自分の班の実習してる子を見る為に、打鉄のある方へと向き直り――。

 

「……おんやぁ?」

 

何故か直立不動の姿勢でパイロットの乗っていない打鉄とご対面を果たした。

あれ?何で?おっかしいなー?俺はちゃんとしゃがむ様に言った筈なんだけど?

チラリと班の皆が集まってる場所へ「?」な顔をしながら振り返る。

 

「にこにこー♪」

 

『『『『『ワクワク♪ワクワク♪』』』』』

 

其処には眩しいまでの笑顔を浮かべた本音ちゃんと期待に目を輝かせる班員の皆さん。

おい待て、YOU達は俺にアレをやれと言うのか?

一夏達と同じ行動を?……ここで俺が打鉄をしゃがませて実習再開したら「空気読め」になるよな。

 

「にへへ~♪……じゃ~んぷ♪」

 

「って危な!?(パシッ)」

 

突きつけられた現実に涙を流したかった俺だが、本音ちゃんが俺に向かって飛び込んできた事でそれも叶わず。

そのまま放置したら顔を強かに地面へと打ち付けてしまう本音ちゃんを抱き止めて事なきを得た。

 

「お、おいおい。危ねぇだろ本音ちゃん」

 

「え~?でも、ゲンチ~が受け止めてくれたもん~♪これで良いのだ~♪」

 

『『『『『良いのだーー♪!!』』』』』

 

「おーい外野の1人ぐらいは俺に味方してくれませんかねぇコンチクショウ!!」

 

俺の叫びに対する返答は「ごめんなさい♪」という楽しそうな声だった。ふぁっく。

既に俺の腕にお姫様抱っこで抱かれている本音ちゃんは楽しそうな表情で「はやくはやく~♪」と仰ってます。

あっ、もう俺が運ぶのは確定なんですね?何という数の暴力。

もう反論する気力も失せたので、俺は本音ちゃんを落とさない様に抱き抱えながらオプティマスを起動。

PICを作動させてゆっくりと浮遊しながら本音ちゃんをコックピットまで運んでいく。

 

「はふ~♪……気持ち良いねー♪(ゲンチ~に抱っこされて空を飛ぶの、さいこ~だよ~♪)」

 

「はぁ……しょうがねぇな」

 

浮遊する事で僅かに感じる風を堪能しながら、本音ちゃんは目を細めて笑う。

……まぁ、いっか。これぐらいの余興があった方が捗るかも。

本音ちゃんの影の無い笑顔に癒されて、俺はもう開き直る事にした。

少し苦笑いしながら空を浮遊し、俺は本音ちゃんを打鉄に乗せてあげる。

そして本音ちゃんがしっかりと乗り込んで起動した事を確認してから、俺はオプティマスを解除して地面へと降り立った。

 

「よーし。そんじゃあ本音ちゃん、起動は終わったから歩行と停止をやろうか」

 

「はーい♪いっくよー♪」

 

俺の掛け声に従って、本音ちゃんは笑顔のまま軽快に打鉄を歩行させる。

えっちらおっちらのヨチヨチ歩きじゃなくて、背筋もちゃんと伸びた良い歩行姿勢だ。

こりゃ驚きだ、まさか本音ちゃんがここまで操縦が上手いなんてな。

俺と同じ心境なのか、皆も「おー!!」と声を上げて感心してる。

そうこうして驚いてる間に、本音ちゃんはサクッと歩行を終えてしまった。

 

「えへへー♪どうだったーゲンチ~?」

 

「おう。凄く上手かったぜ本音ちゃん。あっという間に歩行をマスターしてるじゃねえか」

 

「ふふー♪私だってやれば出来るのだ~♪」

 

俺の賞賛の声に「ブイブイ~♪」と打鉄を纏ったままピースしてくる本音ちゃん。

そんな微笑ましいリアクションをしてくる本音ちゃんに笑顔を浮かべながら、俺は追加の指示を出す。

 

「うんうん。上手に出来てたぞ本音ちゃん。よ~し良い子だから最後の停止もちゃんと屈んで「ごめ~ん、もう停止しちゃった~、テヘ♪」やって欲しかったなぁああ!!」

 

どうやら最後の最後で偶然にも(多分、きっと、メイビー)失敗したご様子。

生身の手でコツンと自分の頭を叩く本音ちゃん。

くそう、そんな可愛い子ぶっても花丸はあげませんからね……二重丸にしとく。

 

「ゲンチ~。捕獲よろしくね~♪とりゃあ~♪(ピョンッ)」

 

「ってまた飛び降りるんかい!?危ないからちゃんと滑って降りてこいっての!!」

 

そう文句を言いつつも、飛び降りてる真っ最中の本音ちゃんを放置する訳にもいかず、俺はなるべく衝撃の伝わらない様に優しくキャッチしてあげた。

つ、疲れる……ッ!?起動の前に一手間加わっただけでこれかよ……あぁ、何でこんな事に。

 

「ったく……危ない事はするんじゃありません。この悪い子め(ペチッ)」

 

「あう。えへへ♪ごめんなさ~い♪」

 

どっぷりと重い溜息を吐きそうになるのをグッと飲み込み、俺は飛び降りた本音ちゃんに優しくチョップするが、本音ちゃんは楽しそうにするだけ。

反省の色が見えない笑顔で謝らないでくれよ本音ちゃんェ……。

 

「ねぇ!!つ、次は私だよ鍋島君!!……や、優しくしてね?」

 

そして誤解されそうな言い方も止めて下さい。

結局その後の女子も1人残らずお姫様抱っこで打鉄に運ぶ羽目になった。

皆どれだけ言っても立ち上がった姿勢からしゃがんでくんねぇんだもんなぁ、チクショウ。

しかも段々と微弱に殺気を背中に受けていたんだが、全て放置を決め込んでいたら何時の間にか俺だけにヤバイ殺気が浴びせられる様になりました。

班の誰もがそれに気付いて無いのに、俺だけジワジワと真綿で首を絞められるこの感覚、勘弁してくれ。

っていうかこの殺気は誰だろうとか考えるのも恐ろしいので考えない様にしてます。

しかもお姫様抱っこの所為で時間を食ってしまい、結局俺達の班は2週目に突入するのは無理になった。

いや、まぁ他の班も(千冬さんと真耶ちゃんの班以外)1週で終わらせるみたいだし良いんだけどよ。

班の子達も「訓練機に乗る時間少なくなるぞ?」って言っても「別に良い」の一言、それで良いのかIS学園の生徒達?

兎に角、そういうすったもんだの末に、等々俺達の班は最後の1人の順番に回った。

 

「さーて、最後の人は誰だー?」

 

もうここまで来たら何でもやってやんよ的な心境に至った俺の投げやりな問いに返事したのは――。

 

「わ、私です!!よ、よよ、よろしくお願いします……元次君」

 

昨日俺に美味しい弁当を提供してくれたクラスメイトのさゆかだった。

 

「おう。最後はさゆかだな、頑張ろう……って大丈夫か?顔真っ赤だぞ?」

 

「だ、だだ、大丈夫だよへっちゃらだよ!?さゆかちゃん元気いっぱいでワンダフルだから!!」

 

「キャラがブレまくってね!?ホントに大丈夫なんだよな!?」

 

俺に返事を返すさゆかの顔色は真っ赤に染まっていて湯が湧かせそうな状態だ。

しかも何故かハイテンション気味に両腕でガッツポーズを取る始末なんだが……マジで大丈夫か?

そう思いつつも時間が差し迫ってるので、俺は咳払いして意識を入れ替える。

 

「ン、ン。よ、よし。それじゃあまずは起動からだけど……打鉄がこの状況なんでまぁ……俺がオプティマスで運ぶ事になるが、良いか?」

 

「は、はい!!ふ、不束者ですが、よろしくお願いします!?」

 

違う、それなんか違う挨拶や。

何時もより6割増しくらいテンションのブッ千切れてるさゆかの言葉に突っ込みそうになったが、それを飲み込む。

今は兎に角実習を始めねぇと……このままじゃさゆかだけ出来なくて補習になっちまうしな。

俺はまずオプティマスを展開してから、両手を組んで恥ずかしそうにしてるさゆかの前まで移動。

そこから微動だにしないさゆかの前に片膝を付いて両手を受けの形で差し出す。

 

「え、えっと……し、失礼します」

 

何故か俺に対してペコリと頭を下げてから腕に身体を預けるさゆかさん、礼儀正しいで良いのかこれ?

片方の腕に背中、もう片方に足を乗せて、最後に両腕を俺の首へと回してくる。

首元に触れるさゆかの腕の柔らかさと香水とは違う何かの良い匂いで頭が爆発寸前なう。

っていうかさっきから多数の女の子運んできたけどもう色々とヤバイんだよ俺。

良く一夏とシャルルはこんな事を顔赤くせずに出来るよなぁ。

それにオプティマスの胸のアーマーにさゆかの豊満な胸が当たって潰れ……考えるのをストップするんだ俺。

このままじゃ顔がだらしなくなっちまうし……本音ちゃんの視線が痛い。

背中に感じる嫌な視線を無視しながら、俺は打鉄のコックピットに近づいて停止する。

 

「……はぁ(二回目だけど……やっぱり元次君って……逞しいなぁ)」

 

「乗り方は大丈夫か?」

 

「……」

 

「……えっと……さゆかさん?」

 

「……♡(ギュッ)」

 

えーっと……さゆかさん表情が夢見心地になってるんだが……俺はどうすれば良いんでしょう?

しかも首に回された手が逆にしっかりと俺の身体を抱き寄せる様に力入ってるんですが……。

 

「織斑、雪片をよこせ。そこの実習をサボって女とイチャついてるナマモノを叩っkill」

 

「ちょ!?お、おお織斑先生!!お、お願いですから落ち着いて下さいぃぃい!!?」

 

「こ、こらーー!!元次さん!!ちゃんと実習をして下さい!!女の子と良い雰囲気になったりしたら駄目ですよーー!!」

 

「すいませんでしたー!!さぁ頑張って実習を始めようぜさゆか!!時間は有限だし勿体無いもんなー!?」

 

「は、ははは、はい!!頑張って実習しますぅ!?」

 

遂に背中に感じていた殺意がとんでもない勢いで俺に降り注ぎ、俺を断罪する処刑人が動きそうになった瞬間、俺は焦りながらさゆかを訓練機へ誘った。

っていうかもはや俺だけにピンポイントでは無い殺気を感じたさゆかとか他の面々も震えてますしお寿司。

俺も叩ッkillされんのはまだご勘弁願いたいです。

まぁ千冬さんの放つとんでもない密度の殺気に怯えながらも……いや、怯えたからこそか、さゆかは速やかに歩行と停止まで終えてくれた。

勿論ちゃんと最後は打鉄を屈ませた状態で、だ。

図らずも最速タイムを出したさゆかに感服致しましたとも、えぇ。

それで全員が終わったので真耶ちゃんへと報告に向かったんだが……ものッ凄い膨れ面で出迎えられたのは何故でしょう?

 

「む~!!(さっき私をお姫様抱っこした後で他の娘達まで……ッ!!元次さんのバカ!!)」

 

「あー……あの、山田先生?そんなに膨れてるとハムスターみたいなプクプク顔になっちゃいますよ~?」

 

前は本音ちゃんに河豚と言って失敗したが、ハムスターとかの可愛らしい例えなら大丈夫な筈――。

 

「(ブチッ!!)知りません!!!元次さんは今回の実習 大 減 点 です!!『全然駄目でした』にしちゃいますから!!」

 

「ひど!?お、お慈悲を下さい真耶先生ぃいい!!」

 

「ふん、だ!!今度ばかりは先生も怒りました!!ぜーったい補習を受けて貰いますからね!!」

 

「OH……さらば、俺のフリーダム(放課後)

 

ご機嫌取りは上手くいきませんでした。

俺の苦笑いした言葉に真耶ちゃんは更に頬を膨らましてぷいっとそっぽを向いてしまう。

謝っても執り成しては貰えず、結局俺は後日真耶ちゃんに補習を受ける様に言い渡された。

更にその後は燃え盛る千冬さんの出席簿アタックが10発炸裂。

もう俺のSAN値は臨界点を超えてるんですけど……。

しかしそれでも千冬さんの怒りはまるで収まって無いご様子でした。

最後に痛む頭を擦りながら全員が整列した時に――。

 

「では午前の実習はここまでだ。午後は今日使った訓練機の整備を行うので、各人格納庫で班別に集合すること。専用機持ちは訓練機と自機の両方を見るように。では、格納庫に訓練機を戻した班から解散……いや、鍋島。お前には実習の不敬態度の罰として、訓練機を全てお前1人で格納庫に運んでもらう。文句は無いな?」

 

「ハイ、謹ンデオ受ケシマス」

 

これなんだもんなぁ……ちなみに訓練機は全部で6機ある訳だが、ISは全て専用のカートで運び出しになる。

そしてこのカートなんだが、動力になるものは一切付いて無いという素敵ングな仕様。

一応補助目的でギアが入ってるから多少は軽いんだけど、それでも運ぶにはかなりの労力を必要とする。

具体的に言えば俺でも運ぶのは3~4台で勘弁して欲しいくらいだ。

そこに更にプラス2台とは……昼飯前だから腹減りまくってるのになぁ……ハァ。

と、いう訳で、俺は皆が何を食べようかと話し合いながらアリーナを去っていく様を見届けつつ、1人寂しく訓練機を運び出した。

いくらホイールが付いてるカートっつっても、1トンを軽く超える機体を6台だなんて何の苦行でしょうか?

やっと訓練機の全てを運び出す事に成功した俺だが、時計の示す残り時間は昼休み残り15分という死刑宣告。

今から着替えて食堂か購買に……間に合う訳ねぇよな、チクショウ。

項垂れながらもここに居ても何もならないので、俺は肩を落として更衣室へと戻っていった。

 

 

 

 







皆様、よいお年を過ごして下さい。

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