IS~ワンサマーの親友   作:piguzam]

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旅立ち、別れ、再会、喧嘩!?

ガラガラガラッ!!!

 

チュンチュンチュン。

 

時間は朝の5時、まだ夜が開けて間もない時間だ。

爺ちゃんの家の隅っこに建てられたちょいと古い木造のガレージ。

その錆びかけた入り口の鍵を開け、癖のあるシャッターを力で抉じ開けて朝の澄んだ空気をガレージの中に吹き込む。

 

ザッザッザッ。

 

昇りはじめた太陽の光が差し込むガレージの棚にはオイルの缶が陳列し、壁にはアメリカンなお姉ちゃんのポスターが俺に向かってセクシーなポーズを決めてる。

所々の床は欠け、ブチ撒けたオイルの染み等、もはや新品の面影は残っていないセメントの地面を踏みしめながら、俺はそのガレージの中央に鎮座する『ソレ』に手を添える。

3月の終わりとは言え、未だに気温が低いこの地方の気温のせいで目当ての『ソレ』は冷え切っていた。

だが、手に伝わる表面の温度とは裏腹に『ソレ』は自身の魂に炎が灯るのを今か今かと待ち侘びている様に俺は感じた。

 

「よっと……」

 

俺はそのまま『ソレ』に跨り、コイツの命とも言える『鍵』を指定の位置に差し込む。

そのまま『鍵』を起動手順に則り、稼動位置まで捻る。

手はじゃじゃ馬とも言えるコイツの手綱に添えてあり、後はコイツの魂に目覚めの炎を灯すだけだ。

 

「……長いこと待たせちまって悪かったな」

 

俺は胸に湧き上がる気持ちに従って『セル』を廻し『アクセル』を吹かす。

 

キュキュキュキュッ!!

 

そして……。

 

キュキュ、ドドドッドドッドドッドドッドドッドドッドドッ。

 

『コイツ』……否。

 

「さぁ、ファーストクルージングと洒落こもうぜッ!!『相棒』ッ!!」

 

ドドドドドドドドドドボボボボォォォォオオオオオンッ!!

 

俺の『相棒』は俺の握る手綱の思いのままに、歓喜の咆哮を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朝っぱらからうるせぇぞ元次ぃいいッ!!もちっと静かに出しやがれアホンダラァッ!!」

 

「サーセンした」

 

やべっ、朝っぱらからカッコつけすぎたぜ。

 

 

あの『政府?だか何だか知りませんが丁重にお帰り下さいませ豚ヤロー』事件から3日たった今日。

俺事、鍋島元次は東京へ引越し……いや、帰るの方が正しいのかコレ?

と、とにかく、俺は僅か1ヶ月で再びあのアパートへと引っ越すことになった。

まぁIS学園に通うにはアッチのアパートに戻るしかねぇからな。

こっから通うなんて無理無理無理。

一応、親父とお袋には話しておいたが、二人とも「好きにしろ」の一言で終わりだった。

放任してんだか俺を信用してんだかわかんねえお二人だったぜ。

只、最後にお袋から「可愛い、若しくは綺麗なお嫁さん、ちゃんとゲットしてきなさい♪」と言われた時は盛大にズッコケたが。

お母様?アナタは俺がIS学園に何しに行くかわかってらっしゃるんでしょうか?息子は心配です。

 

とりあえず俺が早朝から何をしているかと言うとだ。

 

「暖気するにしてもやり過ぎたか……嬉しさでテンションがハイになっちまった所為だな、こりゃ」

 

俺の『相棒』……俺が廃車から組み上げたアメリカンバイク、『イントルーダークラシック400』の暖気をしてたってわけだ。

これからのシェイクダウン、つまりは東京までのロングドライヴの為に。

 

ドドッドドッドドッドドッドドッドドッ。

 

「しっかし……ヤバイぐらいいい音だよなぁ、やっぱ……さすが『音の魔術師』と呼ばれる秋田さん特製マフラーだな。俺のリクエストってゆーか、理想そのものじゃねぇか」

 

俺が己の過ちに反省しているすぐ横で、腹の底まで響く様な重低音を撒き散らす相棒の唸り声に、俺は反省そっちのけでウットリしちまう。

あぁ、この鼓膜を叩く野獣の唸り声みてぇな重低音たっぷりのアイドリング……堪らんぜ!!

 

『イントルーダークラシック』は400ccながらも、ナナハンクラスに負けず劣らずの重厚な鼓動感を奏でるバイクだ。

同じ排気量のアメリカンクラスでは最長のホイールベースと堂々たるワイドで重厚なボディを兼ね備えている。

まさに、ゆったりとロングクルージングを楽しむのに適した一台だ。

実は、俺がガキの頃出会ったバイクは他にもネイキッドタイプのバイクがあったんだが、俺には似合わねぇからソレは却下した。

一応爺ちゃんの薦めで廃車の状態のままガレージの隅に保管してあるが、俺がライドするこたぁねぇだろう。

そんで次に見つけたのがこの『イントルーダー』だったわけなんだが……一目見てビビッときたんだよな。

マジに雷に撃たれたってのはああいうのを言うと今でも思ってる。

ジャンクパーツで作ったコイツだが、ジャンクパーツの中にはカスタム用の部品が多くあったので、ソレを多様してある。

ハンドルは純正のブルパックハンドルからアップハンドルに変更してあり腕のポジションも最適だ。

車体は軽くローダウンを行い、乗り心地を損なわずにスタイルアップを可能にした。

デカイ車体が低い姿勢で這い回るイントルーダーの姿は、圧巻の一言に尽きる。

オマケにタンデムシートも肉厚で、同乗者も疲れ難い一品だ、いつかは可愛い女の子を乗っけてドライヴに行きたい所存。

 

ドドッドドッドドッドドッドドッドドッ。

 

そしてコイツの自慢のポイントその1は、さっきから鳴っている排気音だ。

 

なるべく重厚な音が欲しかった俺は、爺ちゃんの職場の人にレクチャーしてもらいながら、このマフラーを作り上げた。

レクチャーしてくれた秋田さんという人はワンオフマフラーで自由自在に音を作ることが出来るから『音の魔術師』なんて皆から呼ばれてる。

まぁ、本人はガキじゃねぇんだからソレは止めてくれって皆に言ってるが。

本来なら二本出しに設定されているマフラーを腹下で一本に集合させリアエンドまで伸ばした長く太いマフラーは、惚れ惚れするスタイルを演出している。

随所に太陽の光を受けて輝く新品のメッキパーツをあしらった外観は一種の芸術にも思えてしまう程キマッてる。

マッシヴなスタイルとはかけ離れているが俺みたいな野獣っぽい男が乗るんだ、バイクはカッコよく決めたかったのでコイツは凄い好きだ。

水冷Vツインエンジンを積んだコイツの走りはそのジェントルな見かけによらず、獰猛な走りを可能にしてくれる。

まさに羊の皮を被ったモンスターってわけだ。

改めて考えりゃ考える程、コイツは俺好みのバイクだぜ。

 

後、もう一つの自慢ポイントは、コイツの『塗装』だ。

 

コイツの塗装は俺が1から全部してる分、他の部分より思い入れも深い。

全体のベースカラーはシルバーだが、それ一色じゃ物足りなかった俺は、シルバーの上にメタリックブルーでフレイムスパターンの塗装を施した。

車体の先端から後ろ向きに流れる蒼い炎のアクセントはしっかりキマッていて、本気でカッコイイと思ってる。

そのフレイムスパターンをタンク、フェンダー、と全体に施したお陰で、コイツは上品なだけじゃなく男らしさも演出できてる。

まぁ、このフレイムスストライプは前に観た映画の変形するコンボイトレーラーからヒントを得ただけなんだけどな。

 

ちなみに俺の荷物は特に無し。

もう目ぼしい荷物は東京のアパートに送ってあるが、どうしてもコイツだけは自走で持って行きたかったからこーゆー形になったわけ。

しかもIS学園にはバイクでの通学許可は取ってあるから、これからの登下校はコイツでのクルージングが楽しめる。

ホントーに最高だぜ。

後は、俺がコイツで自走して東京に行くだけなんだが、俺は家の前でもう一人の同乗者を待ってる。

そう、冴島さんだ。

冴島さんは北海道に行かなきゃなんねえ事情があったから、旅費を稼ぐ為にウチでバイトしてた。

それが大体2週間続いたからそろそろ旅立つって一昨日の夜に俺と爺ちゃんに言ってきた。

それを聞いた爺ちゃんは、明後日の俺の東京行きのクルージングに同乗して旅費を浮かす事を提案したんだ。

IS学園から、東京までの旅費は全て政府が負担してくれるってことで話が決まってるから、俺と一緒に行けば冴島さんは実質ゼロ円で東京まで行ける。

それにこの提案は、冴島さんが行き先の北海道で生活に困らないようにっていう爺ちゃんの配慮だった。

俺としても一人旅は寂しかったから俺はその案を快く受け入れ、冴島さんも同意してくれた。

昨日はそれを聞いた会社の皆とお別れ会って事で家でしこたま飲んでたけど、今頃は準備も終わってる筈なんだが……。

 

ザッ

 

「おはようさん、ゲンちゃん……ほぉ~……それがゲンちゃんのバイクか?エライごっついやんけ」

 

っと、やっと来たみてぇだな。

俺は思考を一度切り替えて、声を掛けられた方に振り向く。

そこには、初めて会った時の服装に身を包んだ笑顔の冴島さんがリュックタイプのバックを片手に佇んでいた。

オリーブドライのコートに迷彩柄のズボン、黒のハイブーツの出で立ちに坊主頭、そして2メートルを超える身長、盛り上がった体躯。

うん、改めて見ると威圧感がパネェっす。

 

「おはよっす。冴島さん……もうイイんすか?」

 

「……あぁ……待たせてスマンな、もういつでも出れる」

 

俺の問いに、冴島さんは少し間を空けて返事をした。

もうイイのかって言葉の意味はそのままで、お別れは済みましたかってことだ。

俺はここを第2の故郷だと思ってるから、また夏休みとかに帰ってくるが冴島さんは違う。

冴島さんは極道だ。

俺も爺ちゃんも、冴島さんの事情は一切聞いてない。

だから、またここへ遊びに来れるかもわからねえってことだ。

なら最後の挨拶はいいんですかって意味合いもある。

まぁ、冴島さんがイイって言ってんなら別れの挨拶は済んだんだろう。

 

「わかりました。そんじゃ乗って「ちょっと待ってぇな、元次」って婆ちゃん!?」

 

俺がタンデムシートに乗るよう促してる途中で婆ちゃんが風呂敷片手に出てきた。

あれ?なんで婆ちゃんが出てくるんだ?

昨日の内に皆に挨拶は済ませたんだけどな。

そんな疑問顔の俺を他所に、婆ちゃんはニコニコと笑いながら俺と冴島さんの前で止まる。

 

「な、鍋島はん?どないしたんでっか?」

 

俺と同じ様に冴島さんも婆ちゃんが出てきた意味がわからねぇのか、疑問顔で婆ちゃんに声を掛けた。

 

「これ、これ持っていき」

 

「え?ってこりゃあ……弁当?」

 

俺は婆ちゃんに言われるままに、婆ちゃんの持っていた大きな風呂敷を受け取る。

すると、持った風呂敷の中身は硬い箱のような物で、ほんのりと暖かかった。

 

「ば、婆ちゃん……これって」

 

俺の問いに婆ちゃんは依然ニコニコと変わらない笑顔を向けてた。

 

「元次の好きな鳥の唐揚げとか、甘~い卵焼きとか、お婆ちゃんたっくさん作ったでな。お腹空いたら食べるんやで?」

 

「ば、婆ちゃん……ッ!!俺……ッ!!」

 

やべえ、不覚にも本気で泣きそうだ。

俺がイントルーダーに乗れるって浮かれて馬鹿やってる間に、婆ちゃんはこんな嬉しい事……してくれてたのか。

こんな……唐揚げなんて、手間隙かかるような面倒なモン……俺より朝早く起きなきゃなんねぇのに……俺の好物ってだけで作ってくれたのかよ。

ぢぐじょう゛……俺、ホントに婆ちゃん大好きだ。

せめて泣かない様に、涙が零れないように身体を屈めて耐えていた俺を、婆ちゃんはちっさい背で、細い腕で、俺を抱きしめてくれた。

俺なんかより全然小さくて……腕も細いのに……体全体が、婆ちゃんに包まれてる感じがする。

 

「体に気ぃつけるんやで?後な、偶には電話してきて、元次が元気でやってるって事をお婆ちゃん達に教えてな?」

 

「……お゛う゛……婆ちゃんも、身体に気をつけてくれよ?……何かあったら言ってくれ。俺が、世界中どっからでもよぉ……すっ飛んで駆けつけて、婆ちゃんを守っからよ」

 

「うんうん、おおきにな」

 

俺の誠意一杯の言葉を婆ちゃんは嬉しそうに聞いて俺の背中をポンポンと叩いてくれる。

その光景を冴島さんは暖かい目で見ながら笑っていた。

うぅぅ、なんだかなぁ……えらくこっ恥ずかしいトコ見られちまったぜ。

俺は気恥ずかしさを覚えながら、婆ちゃんからゆっくりと離れる。

そして婆ちゃんは、今度は冴島さんに向き直った。

 

「それとな、冴島さんの分のお弁当も入っとるで、冴島さんもちゃんと食べてな?」

 

「ッ!?お、俺の分まで用意してくれはったんですか!?」

 

冴島さんは心底驚いた顔で婆ちゃんを見つめる。

その冴島さんの表情が面白かったのか、婆ちゃんはカラカラと笑う。

 

「ほっほっほ、そんなん当たり前やんか、孫の分だけ用意するやなんて冴島さんに失礼すぎるやろ」

 

「い、いや、せやけども……俺は鍋島はんの家に来てから、ゲンちゃんにも、お二人にも世話んなりっぱなしで、こ、これ以上世話んなるわけには……」

 

冴島さんはそう言って申し訳なさそうに顔を歪めるが、婆ちゃんはそんな鍋島さんを見ても、にっこりと微笑んでる。

 

「そないなこと言わんといてぇな。私の中では、冴島さんはもう家族の一人なんよ?」

 

「……鍋島はん…」

 

婆ちゃんの言葉に、冴島さんは目尻を柔らかく落として、俺みてぇに泣きそうな表情を浮かべる。

その光景を見ながら俺は、改めて婆ちゃんはスゲエ人だって思った。

例えどんな人でも、婆ちゃんは分け隔てなく接してその優しさを向けてくれる。

今時の偉ぶってばかりの、女尊男卑って風潮に流されてるだけの馬鹿な女共とは違う……本当の意味で、強い女の人だ。

さすが、俺の自慢の婆ちゃんだぜ。

前に束さんが婆ちゃんを馬鹿にしてブチ切れた時も、感情のまま怒る俺を叱ったのも他ならぬ婆ちゃんだったしな。

俺がそん時の事を思い出してると、婆ちゃんは冴島さんの手を握って笑顔のまま語りかけていた。

 

「それに私だけやないよ?家のあの人も、あの人の会社の皆も、元次かて、み~んな冴島さんの事を家族と思うとるんや……なんや、私らには話せへん事情があるのはわかっとる……せやけど、一つだけ約束して?」

 

「……な、なんですか?」

 

婆ちゃんの言葉に、冴島さんは肩を震わせながら、震えた声で聞き返す。

 

「あの人の会社のお客としてでも、家の客人としてでも、どんな形でもええ。どんな形でもええから……また、元気な姿を見せに来てな?……美味しいご飯作って、いつでも待っとるで……な?」

 

「ッ!?……か、必ず……何があろうと、必ずまた来ますッ!!」

 

冴島さんは涙声でそう返すと、婆ちゃんの手を離れて居住まいを正し、地面に膝を突く。

そのまま手を大地に降ろして……。

 

「不肖、冴島大河……鍋島家の皆さんに頂いた数々のご恩、生涯忘れませんッ!!」

 

地面に額を擦りつけて、婆ちゃんに土下座した。

以前、冴島さんは『極道の土下座は安いモンやない、ホンマもんの誠意を示すもんや』って言ってたのを俺は思い出した。

この土下座はつまり、冴島さんが本気で婆ちゃん……いや、爺ちゃんや俺に恩義を感じてるってことなんだろう。

さっきから変わらない涙声も、間違いなく感謝の気持ちが溢れて出てるものだってことが俺にはよく解る。

 

「全部に片が付いたら、また必ず、必ず伺いますッ!!それまで皆さん、お身体に気をつけてッ!!お元気でいて下さいッ!!……う、うぅぅッ!!」

 

冴島さんは土下座の体勢のまま、感極まった様に泣き声をあげる。

婆ちゃんはそんな冴島さんの背中を撫でながら「ええんよ、ええんよ」と微笑みながら声をかけていた。

それから10分ぐらいして、気持ちが落ち着いた冴島さんは顔を上げて、婆ちゃんにまた頭を下げると、イントルーダーの傍に歩いていった。

 

「……そんじゃあ、婆ちゃん。行って来ます」

 

「はい、行ってらっしゃい」

 

俺は婆ちゃんに最後の挨拶を済ませて、冴島さんとイントルーダーに近づいて運転席に跨る。

弁当の入った風呂敷は、冴島さんがリュックに入れて背負ってくれたのでかさ張らずに済んだ。

 

「そんじゃあ、冴島さん。乗って下さい」

 

「ああ……よっと(ギシッ)」

 

ドドッドドッドドドォォォンッドォォォンッ。

 

タンデムシートに冴島さんが跨ったのを確認して、俺はアクセルを軽く吹かす。

そしてクラッチを握ってギアを入れ、バイクを支えていたスタンドを畳み、ギアを繋いで発進する。

 

「じゃあ行きますか!!しっかり掴まってて下さいよ!?冴島さん!!」

 

「おう!!頼むでゲンちゃん!!」

 

ドドドドドドドロロォォォォォオオオオオオォ…………。

 

唸り声をあげるイントルーダーに乗り込んだ俺と冴島さんは一路、東京までのロングランに乗り出す。

家の玄関から笑顔で手を振って見送ってくれてる婆ちゃんを背にして。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

ドルルルルォオオン……キキッ。

 

空港の駐車場にイントルーダーを止めて、俺はエンジンを切り、スタンドを立ち上げる。

 

「フゥ~……着いたぁ~!!」

 

「やっと着いたなぁ……お疲れさんや、ゲンちゃん」

 

運転席から降りて背伸びをしながらやりきった表情を浮かべる俺に、冴島さんは労いの言葉をかけてくれた。

只今の時間は午後20時、朝5時に家を出発して約15時間。

いやはやホントに疲れたのなんのって。

まさか初ドライブがこんな長距離クルージングになろうとは……まぁ楽しかったけどね?

なるべく休憩をとりながら来たから「もう一歩も動けません」って事にはなってないし、天気も良かったから雨にも濡れずに済んだぜ。

 

昼頃に立ち寄ったサービスエリアで婆ちゃんの弁当を冴島さんと食べる事にしたが、俺だけじゃなく冴島さんの弁当も冴島さんの好物ばっかりだった。

冴島さんと二人揃って、ほっこりした気分になりながら美味しく残さず頂戴しましたとも。

そっからはなるべく休憩を入れつつ、各サービスエリアの名物を堪能したりしながらここまで来たけど、中々に楽しいクルージングだったぜ。

 

……最後の最後に、冴島さんと本気の素手喧嘩も出来たしな……。

勝敗については語らねぇけど。

っていうか勝敗なんつー無粋なもんは考えず、だったし。

 

「いやいや、冴島さんもお疲れ様でした。座りっぱなしってのも結構辛かったんじゃないすか?」

 

俺はこの旅に同行してくれた冴島さんを労うが、冴島さんは俺の言葉に首を横に振った。

 

「俺はそこまで疲れてへんよ。ゲンちゃんみたいに運転してたわけやないからな」

 

「そうっすか……けどまぁ、これで冴島さんともお別れっすね……」

 

「……そうやな」

 

俺はそう言って夜空を見上げる。

改めて考えてみりゃ俺と冴島さんって奇妙な縁だよなぁ。

山で遭難していた冴島さんをヤマオロシから助けて、一緒にバイトして、一緒に東京まで来て……それもここでお別れか。

 

「考えてみりゃなんか面白い縁ですよね、俺達。『世界でたった二人の男性IS操縦者の一人』と凄腕の極道って」

 

「ふっ、確かにな……せやけど、ゲンちゃんに出会えてホンマに良かったと俺は思てるで?」

 

「それは俺も同じですよ。冴島さんに会えて本当に良かったっす。喧嘩の修行も見てもらえましたし」

 

実際、千冬さんや一夏と別れたあの時から1ヶ月ちょいしか経ってねぇが俺はあん時より大分強くなったって自信がある。

それは一重に冴島さんの修行と、そしてヤマオロシと戦ったことが大きい。

冴島さんは極道だけど、人として尊敬できる人だった。

世話になった人への感謝の心を忘れず、子供や老人にも優しく接する。

なんて言うか……そう、その辺の代紋担いでるだけで粋がってるヤツがチンピラなら、冴島さんは『本物の極道』かな?

義理人情を重んじる昔気質の古いタイプの極道だと思う。

まぁ、そっちの方が粋がってるだけのチンピラより全然カッコイイけどな。

 

「……なぁ、ゲンちゃん」

 

「?なんですか、冴島さん?」

 

と、そんな事を考えていたら冴島さんが凄え真剣な顔で俺を見つめてきた。

俺はその雰囲気が真面目なモンだと思い、姿勢を正して冴島さんと正面から向き合う。

 

「何度も言うようやけど、お前は俺の命の恩人や……あんな馬鹿でかいヤマオロシ相手にしても怯まず、見ず知らずの俺の命を必死に救ってくれて……感謝しかあらへん……ホンマにありがとうな」

 

「冴島さん……」

 

冴島さんはそう言って俺に頭を下げてくる。

冴島さん程の強い極道が、高々15のガキに頭を下げる、それは本気で俺に感謝しているからだと思う。

どんな相手でも、世話になった筋は通す人だからな。

やっぱ凄えよ冴島さんは。

 

「今、俺にはやらなアカンことがある……恩を返さんうちに別れるのは申し訳ないと思っとる。せやけど……」

 

ここで冴島さんは言葉を区切って頭を上げ、俺と視線を交わす。

 

「絶対にこの恩は忘れへん。またいつか、必ず会おう……それまで、元気でな?」

 

そう言って冴島さんは微笑んだ。

俺は冴島さんのその言葉をしっかりと胸に刻み、冴島さんに頭を下げる。

 

「くれぐれも、気をつけて下さい。それと、また会いましょう!!それまでお元気で!!」

 

「あぁ……お前も、IS学園で頑張るんやで。……ほなな」

 

「――はいッ!!」

 

冴島さんの言葉に返事を返して再び顔をあげ、俺と視線を交わした冴島さんは力強い笑みを浮かべたまま振り返り、カバンを持って空港の入り口へ向かって行く。

俺は冴島さんが入り口に入って完全に見えなくなるまで、そこで見送っていた。

……あなたがどんな想いを背負ってるか、それは分かりませんが……無事で帰ってきて下さいよ、冴島さん。

 

「さて……帰りますか」

 

冴島さんが空港へ入ったのを確認した俺は、再びイントルーダーに跨ってキーを廻す。

 

目指すは今日からの寝床となる懐かしきあのアパートだ。

明日はIS学園で入学試験を受けることになっている。

それをあのお姉さんからあのブ厚い参考書を貰った後に聞かされた時は軽く絶望したが、俺と一夏は特例中の特例。

筆記試験は免除した上での実技試験のみになってる。

どのみち俺達はどうあがいてもIS学園に入学しなきゃいけねえから実際は通過儀礼みてえなモンだろ。

一夏はもう終わってるらしいから、明日は俺一人で試験を受ける。

まぁ、一夏に会うのは入学式になるだろう。

俺のIS適正発覚のニュースはまだ世間に公表されてないし、一夏はまだ知らない筈だ。

サプライズで驚かしてから俺のありったけの気持ち(主に怒りとか怒りとか怒りとか)をプレゼントしてやろう。

 

そんな黒い事を考えながら、俺は自宅への道のりを走り出す。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

ドルルルルォオオン……キキッ。

 

 

「さて、と……あそこがIS学園への直通道路か?」

 

時間は跳んで次の日の昼。

俺は今、IS学園行きのモノレールの最終駅までバイクで来ていた。

IS学園はその性質上、ISを専門として扱う上に各国のISについて学びたいって少女が通うエリート校だ。

つまりは世界各国から多種多様な人が集まる。

そんな国際色豊かな上に広さが要るIS学園を日本の敷地内に建てられるワケもなく、建てられた先は孤島の上。

しかもテロリスト対策も兼ねて孤島が丸々一個学園の敷地になってるという豪華絢爛な学園だ。

そんなセキュリティ万全のIS学園へのアクセスは大きく分けて2つある。

 

1つは学園の生徒や来賓客が使うモノレール。

 

これは自宅通学や休日の外室時に一般的に使われるルート。

もう1つは、IS学園への直通道路。

モノレールの線路に隣接するように奔っている1本の道路だが、コッチは主に業者のトラックや車での出勤教師が使っている。

他には車を使わなきゃいけねえ政府の高官とかも使っているらしい。

まぁ、全部あのお姉さんからの受け売りだがな。

 

「えーっとぉ?検問は……おっ、あそこだな」

 

駅の周りを見渡すと、駅の入り口外れに小さな建物と、そこに座って窓口に顔を出してる職員の姿があった。

俺は入り口までバイクで進んでいく。

 

ドドドドドドドドドド……キキィッ、ドドッドドッドドッドドッドドッドドッ。

 

建物の傍にバイクを停車させ、アイドリング状態のまま俺は窓口に声を掛ける。

 

「すいませーん」

 

「あっ、はーい……どういった御用でしょうか?」

 

しかし俺を見た途端、職員の女の人は顔を怪訝なものに変えていく。

まぁIS学園に男が、しかもバイクに乗って来るなんて事はまずないだろうからな。

そんな顔になるのも頷けるし、加えて俺の服装も理由の1つだろう。

学園の制服でも無く、政府のお偉いさんが着てる様なスーツでも無い。

まず上半身は焦げ茶色のジャケットで背中には黒色で象形文字の様な不死鳥が描かれている。

爺ちゃんの会社の塗装担当のお姉さんが作ってくれた一品で、背中の不死鳥はポンティアック社の『ファイヤーバードトランザム』に描かれていたマークだ。

下は紺色のダボついたジーパン。

靴は茶色の革靴。

インナーは白の半袖シャツ1枚で、シルバーチェーンのネックレスを下げている。

ネックレスのトップには3センチ弱のクラウン(王冠)をご用意しました。

腕時計はシルバーのジルコニア製カスタムでビシッと決めている。

 

うん、やりすぎた♡

 

いくら今日は制服じゃなくてもいいからって、自由にしすぎたな。

とりあえず反省は後廻しにして、職員さんに『アレ』を渡しますか。

 

「あっ、すいません。俺はこーゆーモンです」

 

俺はポケットの財布から、先日政府のお姉さんから受け取った『パス』を窓口に置く。

それを受け取った職員のお姉さんは、さっきまでの怪訝な顔から焦る様な顔つきに変わっていく。

俺が渡したのは、政府が出した『俺がIS操縦者だと示すパス』だ。

今日IS学園に行くときに出すように言われてたから、多分向こうも話は聞いてるんだろう。

 

「し、失礼しました。鍋島元次さんですね?お話は伺ってますので、どうぞ」

 

職員さんが手元のディスプレイを操作すると、目の前のゲートがせり上がった。

よし、これで行けるな。

 

「はい、ありがとうございます」

 

「い、いえ。学園まで、お気をつけて下さい」

 

俺が職員さんにお礼を言うと、職員さんも頭を下げて言葉を返してくれたので、俺はゲートを潜ってIS学園を目指す。

さぁ、とっとと実技試験とやらを終わらせますか。

どぉせたいした事はしねえだろ。

なんせ俺はまだ起動出来るって事が解っただけなんだしよ。

 

俺はそんな風に軽く考えながらアクセルを廻す。

 

バルルルルォォオオオオオオ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後で思い返せば、これがフラグだったんだろう。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

ドルルルルォオオン……キキッ。

 

「ここが……IS学園か」

 

クルージングすること15分、俺はIS学園の正面入り口に着いた。

着いたことは着いたんだが……。

 

「……広すぎだろ、こりゃあ」

 

そう、広すぎるんだ。

正面玄関から後ろにそびえ立つ建物まで、とにかくデカイ。

もうこっからどう行ったらいいか全然わかんねぇ。

勝手に一人で歩き回りゃ迷子は確実だ。

俺はバイクをアイドリング状態のままスタンドを立てて降りる。

 

「さあて、確か迎えが来るって話しだったな……どこに?」

 

政府のお姉さんの話では、校門からは学園の教師が迎えに来てくれるって話しだった筈……なんだがねぇ。

 

「ん~……人っ子1人いねぇんですけど?」

 

そう、俺のいる玄関前には誰一人として人影が見えない。

ここに来るまでの間にすれ違った人間もいなかったから、行き違いになったなんてこたぁねぇはずだ。

ってことは向こうがまだ来てないって事になる。

 

「……とりあえず、待ちますか」

 

ここから動いたら迷子になりかねないと判断した俺は、先方の教師が来るまで待つことにした。

そのまま玄関を見ていた視線を外して、バイクの横まで歩いて戻る。

 

「……ん?」

 

だが、その途中で奇妙な感覚を感じた。

野生のヤマオロシと闘った事で鍛えられた感覚が、何かを訴えてるように思える。

その奇妙な感覚に従って集中してみると……。

 

「なんだ?……視線……か?」

 

俺が感じたのは、誰かが向けてくる視線のようなものだった。

それも1つや2つじゃなく、結構な数の視線を感じる。

だが、それはヤマオロシの様な野生の動物が放つ獲物を狙う視線とは程遠いものでよく解らない。

しかも、別に悪意とか敵意がある視線ってわけじゃ無いのでどぉしたものかと首を捻る。

 

「ッ!?(バッ!!)」

 

だがその時、とんでもなく強烈に攻撃的な感覚を感じ、俺の感覚が鳴らす警報に従って咄嗟に身体を屈める。

 

ビュオンッ!!

 

すると頭上を、とても鋭い風切り音を出しながらナニカが通過した。

俺の頭があった位置を薙ぎ払う様に軌道を描いていたのがチラッと見える。

これは『蹴り』かッ!?

 

「らぁッ!!(ブオォンッ!!)」

 

俺は反射的に後ろに向かって、屈めた身体をバネの様に伸ばし、振り向き様に裏拳アッパーを繰り出す。

振り向いた俺の視線の端には、黒のスーツに身を包む女性の姿があったが、振り上げた腕が重なって顔が見えねえ。

おいおい!?なんだかわかんねぇけどこの女ヤベエぞ!?

俺に気付かれずに接近して攻撃を繰り出すなんて、千冬さんレベルの実力者と見て間違いねぇだろう。

 

「フッ!!」

 

しかも俺が繰り出したアッパーを、身体を後ろに下げるだけで避けやがった。

こりゃガチで相当気合入れてかからねぇとマズイな。

俺は女が離れて間合いが空いた隙にファイティングポーズをとって、襲撃者の顔を見る。

まったく、よくもいきなり不意打ちカマしてくれたなこのアマ……あっるえ?

俺の目の前に佇むのは、不敵な笑みを浮かべたクールビューティーを思わせる女性……っていうか『世界最強のブリュンヒルデ』。

 

「……フン、別れてからたった1ヶ月で、随分と強くなったじゃないか。驚いたぞ?」

 

狼を思わせる鋭い目つきの中に、見る者を魅了するような圧倒的カリスマを瞳に宿した美しい女性。

世の中の女性達が羨望を寄せる極上のプロポーションを黒スーツに包んだ『出来る女』を体現した御方。

 

「元気にしていた様だな……元次」

 

っていうか千冬さん……千冬さん!?

 

「……ハァァアアアアアアアアッ!?ち、ちちちち千冬さんんんんんッ!?」

 

え!?いやちょ!?待って待って待って!?

何故にここに千冬さんがおるとよ!?

余りにも予想外な事態に俺の脳みそはパニック状態。

ワケがわからず困惑してしまった。

そんな風に慌てる俺を、千冬さんはニヤニヤと笑いながら眺めてる。

所謂、「してやったり」みてぇな顔で。

 

「え!?いやえーと!?お、おかしいぞ!?なんで千冬さんがここにいんの!?これは夢か!?イッツアドリーム!?」

 

「どれだけ私がここに居る事が予想外なんだお前……」

 

目の前の千冬さんは呆れた表情を浮かべていたが、でもそんなの関係ねぇ!!

 

「は!?そうか解ったぞ!!これは夢だ!!千冬さんに会いたいと願う俺の強すぎる願望が見せる夢――」

 

「あ、会いたッ!?ば、ばばばばばば馬鹿者!!お、お落ち着かんかぁ!!」

 

ゴォズウゥウン!!

 

「おっづぁん!!?」

 

思考がパニックに陥った無防備な俺に振り下ろされる拳骨、そして鳴り響く豪快な破砕音。

い、痛てぇぇええええ!?

これは正しく、本物の千冬さんの鉄拳!!ゆ、夢じゃねぇのかよ。

千冬さんの制裁によって地面にひれ伏した俺が顔をあげると、視界には肩ではー、はー、と息をする真っ赤な千冬さんの姿が。

あー、今俺、夢の中で会いたいと願う願望がうんたらかんたら言ってたよなぁ……うわ、恥ずかし。

自分の台詞を思い返して、俺も顔が赤くなる。

そのまま少しばかり気まずい空気が流れるが、いつまでも地面に寝ているわけにゃいかないので、俺は服を叩きながら起き上がる。

 

「あー、痛たたた……えーっとぉ……お、お久しぶりっす。千冬さん」

 

「あ、あぁ……久しぶりだな……げ、元気にしていたか?」

 

「え、ええ。ぼちぼちとやってます……」

 

「そ、そうか……あー、ん、んん!!と、とりあえず、だ。そのバイクを持って着いて来い」

 

「あっ、は、はい」

 

何やらぎこちない会話を繰り広げた俺と千冬さんだったが、咳払いをした千冬さんの言葉通りに、俺はバイクのエンジンを切って自分で押す。

俺が動ける様になったのを確認した千冬さんは校舎に向かって歩き出したので、俺はその後ろに着いて行く。

 

「……完成したんだな。そのバイク」

 

そうして歩いていると、前を歩く千冬さんが声をかけてきた。

 

「はい。苦節5年、やっとこの『イントルーダー』に乗れるようになりました」

 

「そうか……お前は小学生の時から、ずっと頑張って作っていたな……まぁ、なんだ……おめでとう」

 

千冬さんは俺に向き直って、笑顔でコイツの完成を祝福してくれた。

その笑顔につられて、俺も顔が綻ぶ。

 

「はい。ありがとうございます」

 

そのまま二人で歩いていき、駐輪場の一角にバイクを止めて、千冬さんと一緒に玄関を潜った。

校舎の中を迷い無く進む千冬さんを見て、俺は一つの疑問が仮説に変わっていった。

 

「まさか千冬さんって……」

 

「まぁ、ここまでくれば、大体は察しがついてるだろう?」

 

「やっぱり千冬さんは、このIS学園の教師って事っすか?」

 

「あぁ、そうだ」

 

千冬さんは俺の言葉に軽く相槌を打ちながら答える。

俺の目の前を歩く千冬さんの服装は仕事帰りにいつも着ていた黒のスーツ。

そして、迷い無く校舎の中を歩く姿。

つまりはこの学校の関係者、もしくは教師が千冬さんの仕事ってことになる。

まぁ考えてみりゃ納得がいくわな。

千冬さん程ISを教える上で適した人物はそうはいねぇし。

束さん?あの人がどうでもいいと考えてるその辺の人に物を教えるとでも?

しっかし千冬さんが先生かぁ……長年の疑問が解けて良かったぜ。

あれ?ってことは……。

 

「じゃあ一夏も、もう千冬さんの事知ってるんすか?」

 

一夏は俺より先にIS学園の試験を受けてる。

当然千冬さんの事を知ってるモンだと思ったので質問してみたが……。

 

「いや、アイツはまだ知らない。アイツの試験の時は、私は顔を出してないからな」

 

返ってきた答えは予想と違った。

まぁ別に俺が困ることじゃねぇしいいか。

多分、アイツは俺の登場と千冬さんの登場で二重で驚くことになんだろう。

そんな事を考えている俺だったが、実はさっきから少々居心地が悪かったりする。

それは……。

 

「……」

 

『ね、あれがあの鍋島君よ』

 

『あれが『鋼鉄の王子様(アイアン・プリンス)』……ヤダッ♪写真より断然男前じゃない♪』

 

『さっき上から見てたけど、織斑先生の不意打ちの蹴りを避けて反撃してたわ』

 

『う、うそッ?織斑先生の攻撃を避けたの?やっぱり他の男より強いんだぁ……じゅるり』

 

『山田先生も可哀相ねぇ、せっかく愛しの王子様が来たのに、今日に限って出張だなんて……』

 

『アタシ、声かけちゃおうっかな♪』

 

『でも、織斑先生が傍にいるし……チャンスは一人になった時ね』

 

『ちょっと、抜け駆けは禁止よ』

 

なんかすれ違う教師の皆さんが俺を見てひそひそと何かを喋ってる。

オマケに熱い視線のオプション付きで、こんな視線浴び続けたら溶けちまうぜ。

チラッと視線を送ってみると、何やらニコニコしながら小さく手を振ってくるではないか。

その笑顔はどんな意味合いが込められてるんでしょうか?

 

「……やっぱ男のIS操縦者ってだけで珍しいからっすか?この視線は……あれ?」

 

「……」

 

「ち、千冬さん?」

 

視線に耐えられなくなってきた俺は、前を歩く千冬さんに声を掛けたんだが……俺に視線を返す千冬さんは不機嫌MAXな表情。

ヤクザも真っ青な厳しい視線、というかガンを俺に飛ばしてらっしゃる。

あ、あれ~?俺って何かした?メンチ切られる様な罪は身に覚えありませんよ?

 

「……ふん、なんでもない」

 

いや、絶対何かあるでしょ。

 

「……それにしても、一夏に続いてお前までISを動かすとはな」

 

千冬さんは話題を変えるように俺に別の話を振ってきてくだすった。

とりあえずこの熱視線と千冬さんの不機嫌な視線から逃れたかった俺は、千冬さんの出してきた話題に乗っかる事にした。

 

「そ、そうっすね。なんか束さんも解らないって言ってたっす」

 

「何?……お前、束に会ったのか?」

 

どうやら俺は一発目でロシアンルーレットの弾に当たっちまったらしい。

俺の言葉に反応した千冬さんの表情は更に不機嫌さを増して120パーセントって感じになった。

なして!?今の会話に不機嫌になる要素は皆無でしょ!?

目の前におわす千冬さんは歩を止めて俺を見、いや睨んでらっしゃる。

「早く答えろやコラ」と言わんばかりの視線だ。

 

「は、はい。束さんが俺を政府から庇ってくれたんで、そのお礼に鹿鍋をご馳走した時に聞きました」

 

「……ほぉ?」

 

轟ッ!!!

 

俺が束さんに会った経緯を話すと千冬さんの体から途轍もない瘴気が湧き上がり、不機嫌、いや怒り1000パーセント達成。

目指せ1000パーセント♪じゃねえ!?

何でこんなに千冬さんは不機嫌つうか怒り状態なわけさ!?

 

「そうか……鹿鍋、かぁ……それは羨ましいなぁ♪」

 

(お前が真耶を助けた事で新たな恋敵が学園中に蔓延するわ、お前との関係を根堀り葉堀り聞かれるわという状況の中、お前は束と『2人っきり』で楽しく鍋を突いていた、と?……ふ、不負腐)

 

千冬さんはそう呟いて、見惚れるような笑顔を浮かべる。

只、瞳にハイライトは一切入っちゃいなかったけどね。

なんで千冬さんがこんなに怖いかはわかんねえけど、一個だけ、一個だけ解る。

 

 

 

俺殺される。

 

 

 

そのままハイライトの消えた笑顔の千冬さんに連れられて、俺は校舎の奥に進んでいく。

正直、生きた心地がしなかったぜ。

その後、なんやかんやいろいろあって今俺の目の前に居るのは……。

 

 

 

 

 

「さぁ、殺ろうか♪準備はいいな元次♪」

 

 

 

 

広いアリーナで日本の量産型ISである打鉄を装備したイイ笑顔のブリュンヒルデ。

ぶっちゃけ千冬さん(絶賛闇モード)です☆

 

 

 

そして相対するは、同じく量産機の打鉄を装備した無名のルーキー。

はい、俺っちこと鍋島元次です♪

 

 

 

すいません冴島さん、俺は先に逝く事になりそうです。

 

 

「っていうか何で千冬さんがいんの!?試験って動作確認とかじゃねぇんすか!?」

 

「何を言ってる?れっきとした動作確認だぞ?――実戦形式のな♪」

 

「それなんて無理ゲー!?」

 

入試で世界最強と対戦とかドンだけレベル高けえんだよIS学園!?

マジで他の生徒さんが凄く思えるぜ。

俺と千冬さん以外にも、アリーナの観客席には教師の方々が座って俺達、いや正確には俺を見てた。

って本気でガチンコ勝負すんのかよ!?

依然イイ笑顔を浮かべる千冬さんの手元には、既にポン刀が装備されている。

確か量子変換された武器だったと思う、参考書に載ってたな。

 

「さぁ……始めるぞ……これより、鍋島元次の実技試験を開始する!!」

 

その言葉と同時にシグナルが鳴り響き、千冬さんは身を屈めて大地を猛スピードで滑走して俺に突撃してくる。

ええい!!こうなりゃやってやんよ!!

俺は投げやりに覚悟を決めて打鉄の手を肩と水平に上げて構えを取り、千冬さんの刀のみに全神経を集中する。

ISはマルチフォームパワードスーツってヤツで、平たく言や人間の手足の延長、鎧みてぇなモンだ。

もちろん足は浮遊してるから、そっくりそのままいつもと同じ動きができるってワケじゃねぇ。

 

だが、近い動きは出来る。

 

後はパイロットの身体能力や経験なんかも重要らしい。

千冬さんは呼び出した刀を肩に担いだ形で構えながら、左肩でタックルするような体勢で突撃してくる。

俺はその場から動かずに、右足を目一杯下げて攻撃に備えるだけだ。

そして、千冬さんの射程距離に入った瞬間。

 

「ハァッ!!(ブオンッ!!)」

 

気合一閃。

 

肩に担いだ刀を袈裟懸けに振り下ろして俺の胸辺りを薙ぐ様な軌道を描く。

よし!!予想通り!!

集中力を限界まで引き上げた状態で刀のみを観てた俺には、刀の描く軌道が辛うじて解っていた。

俺は千冬さんの刀が俺の射程距離に入った瞬間。

 

「だらぁあああッ!!(ズガンッ!!)」

 

広げていた両手を力の限り引き戻して、拳で刀を挟み込む。

これぞ冴島さんとの喧嘩修行で会得した真剣白羽取りの拳バージョンだ。

 

「なッ!?」

 

まさか避けるでもなく当たるでもなく、受け止められるとは千冬さんも思ってなかったんだろう。

驚愕に目を見開いて、僅かに動きが止まる。

おっし!!ここだ!!

目の前に転がり込んできたチャンスに、俺は後ろに下げていた右足を千冬さんの突撃で掛けられた力に逆らわず。

 

「どぅおりゃあああああッ!!(ズドォォオンッ!!)」

 

「がはッ!?」

 

力の流れに沿って背中を反らし、右足を思いっきり前に突き出すヤクザキックをお見舞いする。

俺が放ったヤクザキックは見事千冬さんのどてっ腹にブチ当たり、千冬さんは苦悶の声を上げて身体が浮き上がった。

 

「くっ!?はぁぁッ!!(ズバァアッ!!!)」

 

「うげっ!?」

 

だが、そこはさすがのブリュンヒルデと呼ばれた千冬さん。

浮き上がった身体を空中で回転させて、今度は逆袈裟切りに刀を振るう。

さすがにそれはかわしきれなかった俺はモロにヒット。

胴体を痛みが襲い、吹き飛ばされる。

 

「うぉおッ!?っと!!(ズザザザザザッ!!)」

 

そのまま地面を仰向けに滑り、勢いの落ちた所で俺は立ち上がる。

あ、あの体勢から反撃するか普通!!?

前に視線を向けると、腹を抑えながら苦しそうな表情を浮かべる千冬さんがいた。

苦しそうな表情なのに目は生き生きランランと輝いていらっしゃいましたがね。

 

「ふふっ……やるじゃないか、元次……こんなに楽しい戦いはモンド・グロッソでもそうは無かったぞ」

 

「俺はもういっぱいいっぱいなんですがね」

 

会話を交わしながらも、俺は注意深く構えを取る。

この試合、勝っても負けても俺はIS学園に入学する事になるが、向こうが真剣ならコッチも真剣にやらねぇとな。

しっかしさすがは千冬さんだぜぇ……引退したってのにその実力、一切の衰え無しだ。

まあ引退したのがかなり早かっただけで、実際は全然若いんだから当たり前っちゃ当たり前だけどな。

 

「さぁ!!続きを始めるぞ!!」

 

そんな会話をしている間に千冬さんは回復しきったようで、さっきまでの苦しそうな表情はどこへやら。

今は生き生きとした表情を浮かべてらっしゃる。

仕方ねぇ、この人相手にどこまでやれるか……いっちょ死ぬ気で逝きますかぁ!!!

俺の方へカッ飛んでくる千冬さんを見据えながら、俺はしっかりとファイティングポーズをとって迎え撃つ体勢に入る。

 

「はぁぁああああああああッ!!」

 

「おぉぉおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

互いに気合の雄叫びをあげながら、俺と千冬さんは二度目の接近戦を開始した。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「はぁっ……ッ!!はぁっ、はぁっ……ッ!!」

 

「ふぅっ、ふぅっ……どうした?もう終わりか元次?」

 

開始から45分、俺は息が上がりまくってた。

普段では考えられないスピードでの喧嘩、しかもかなりの格上が相手と来れば良く頑張ってる方だと思う。

ISの防御にしてISを使った試合で重要な『シールドエネルギー』は最初の1000から減りまくって、残存65.

千冬さんの方はエネルギー残存数350とまだまだ余裕がある。

こりゃどう足掻いても勝ちは絶望的だな。

 

「はぁっ……無茶言わんで下さいよ……げほっ、こちとら今日がISの搭乗初体験なんすよ?できれば初体験はもう少し優しくリードして――」

 

「もし、違う意味合いで言ってるなら切り落とすぞ?」

 

「すんませんしたッ!?」

 

やたらと眩しい笑顔を浮かべる千冬さんに「どこを?」なんて聞けなかった。

何故ならこの人には殺ると言ったら殺る……『スゴ味』があるから!!

 

「まったく(もう少しムードというものを考えろ馬鹿も――ち、違う!!時と場所を考えろ!!馬鹿者が!!)」

 

なんだいなんだい!!場を和ませようとした小粋なジョークじゃねぇか!!?

さて、どうしたもんか……俺の体力、シールドエネルギーは共に枯渇寸前。

対して千冬さんは体力、シールドエネルギー共に余裕がある。

俺がまだ使っていない手札と言えば……1つ。

 

千冬さんと同じ武器はあるんだが……どうやって取り出すんだコレ?

 

そう、俺の乗ってる打鉄にも千冬さんが呼び出したポン刀がインストールされてる。

しかも2本あるんだが……取り出し方がわかんねえ。

千冬さんは刀を鞘から抜くような動作をしてる最中に、粒子が集まって刀の形を形成していた。

俺も似たような手順で腕を振って見たが、まったく出てこない。

それこそ粒子の影すら出なかった。

それについて考えたかったが、千冬さんの苛烈な攻撃を捌いたり反撃したりで手一杯だったせいでまったく考えていなかった。

だが、今この瞬間は千冬さんが俺の言葉に応えてくれたので、多少頭を働かせる余裕が生まれた。

 

外見の手順は真似たが駄目……なら……イメージもいるのか?

 

馬鹿馬鹿しいが、頭を軽くよぎった仮説にいっちょ賭けてみますか。

どうせエネルギーはほぼ残ってねぇんだし。

俺は手の平を見つめながら、ポン刀を抜き出すイメージを頭の中で思い浮かべる。

すると――。

 

「……ん?……ッ!?……ビンゴってな……」

 

俺の手に今までは影も形も見せなかった粒子が漂った。

だが、その光景に驚いてしまい、頭の中のイメージを消してしまう。

すると、粒子はまた消えてしまった。

だが、コツは掴む事ができたぜ。

後はぶっつけ本番。

 

体力もシールドもねぇなら……玉砕覚悟で逝きますか。

 

「……千冬さん、次が俺の最後の攻撃です」

 

俺の言葉と、引き締めた表情に千冬さんも又表情を引き締める。

 

「そうか……確かにそのエネルギー残量ではそうなるな……いいだろう。来い!!」

 

千冬さんは声を張り上げて刀を居合いの様に持ち直して構える。

対する俺は右腕を左肩の辺りまで持ち上げるだけだ。

俺の初めてする構えに千冬さんは一瞬だけ怪訝な表情を浮かべるが、直ぐに表情を真面目なモノに変える。

 

「すぅ……おぉぉおおおおおおッ!!」

 

俺は雄叫びをあげながら千冬さんに向かってスラスターに火を入れて突進する。

千冬さんは突進する俺を見据えたまま、油断無く刀を握りこんで、俺を待ち受けていた。

俺は突進している間に、頭の中でイメージを固める。

 

「おぉおおおッ!!」

 

思え!!この右手には刀が握られていて――。

 

俺と千冬さんの距離が縮まり、後少しで千冬さんの刀の射程距離に入る。

その段階で、俺の右手には粒子が漂い始めていた。

 

――後は鞘から思いっきり!!

 

「はぁぁあああああッ!!(シュバッ!!)」

 

そして、遂に千冬さんの刀が居合いの型から抜刀される。

抜き出された刀は爆発的なスピードで弧を描き、このままのスピードで突進すれば成す術も無く斬られるだけだ。

だが、それは俺の『得物』が間に合わなかった時の話。

 

「(引き抜く!!)おぉおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

ズバァッ!!

 

ギリッギリのタイミングで、俺の刀は間に合った。

右腕に漂っていた粒子は形を成し、一振りの日本刀が手に納まる。

イメージと連動して振りぬいた右腕と刀は、そのまま千冬さんの刀と軌道を交差して。

 

バキィィイイイイイイイッ!!

 

戦場に、鉄を断ち切る様な甲高い音が響いた。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 

……カラン……。

 

 

一瞬の静寂の後、金属の落ちる音がアリーナに響く。

落ちたのは刀の切っ先の部分……その先端がアリーナの地面に刺さっていた。

 

折れた刀……それは、千冬さんの刀だった。

俺の呼んだ刀と違って、千冬さんは最初から刀を展開して闘っていた。

そして、俺が攻撃をする時に千冬さんは避けきれない攻撃を刀で受けたり逸らしたりしてきた。

つまりは刀の耐久性が極端に低くなっていたってわけで、俺の呼び出した新品の刀の斬撃には耐え切れなかったんだろう。

俺には一夏や箒、千冬さんと違って剣道の経験は無い。

ファイトスタイル完全に拳だからな。

だからさっきの俺の斬撃はそこらのチンピラの様なモンだった。

それでも打ち勝てたのは、一重に剣の耐久度のせいだと解る。

これで勝負はついた。

 

「……俺の負けっすね」

 

「……」

 

俺の言葉に、千冬さんは何も答えてくれなかった。

そう、勝負は俺の負けだ。

刀の勝負は打ち勝った……でも、それだけだ。

俺の斬撃は千冬さんの肩を抉っただけに終わり、まだ千冬さんのエネルギーは120もある。

対して俺の残存エネルギーは11、奇跡的にちょっとだけ残った。

あと一撃貰えばそれで俺の負け。

ちくしょ~悔しいぜ。

 

「……まったく」

 

だが、俺の言葉に千冬さんが返してきたのは……苦笑と「しょうがないヤツだ」みたいな台詞だった。

え?何が?何がしょうがないんすか?もしかして負けたのが?むしろ千冬さんに勝てって方が鬼なり。

 

「元次。私は言った筈だぞ?『実戦形式の動作確認』だとな」

 

「え?……えぇ?」

 

千冬さんの言ってる事が解らずに俺は生返事を返してしまう。

 

「これは只の試験であって、勝負では無い……だから『勝敗の決め方』も違う」

 

「……ゑ?」

 

千冬さんはそれだけ言うと、アリーナの観客席に目を向ける。

俺もそれにつられて観客席に目を向けると……。

 

『『『『『『……』』』』』』

 

なにやら呆けた表情を浮かべる教師陣の皆さんがいらっしゃったぜ。

口が半開きのポカーン状態でぽけっとしてる。

女性が浮かべるにゃあんまりイイ表情じゃねぇな。

 

『柴田先生』

 

『……え?あっ!?は、はい!!』

 

と、ここで千冬さんが観客席に向かってオープンチャネルって名前の無線を飛ばした。

その声に反応して、一人の女性職員がハッとした感じで立ち上がってマイクを握る。

なにやらその先生は……大人の色気ムンムンですたい。

 

『しょ、勝者!!鍋島元次!!』

 

そして、立ち上がった先生のアナウンスに、俺は耳を疑った。

……え?お、俺の勝ち?

 

「な、なんでっすか!?」

 

「コレは試験だと言っただろう?だから勝敗の基準は『判定』になり、私の刀が折れた時点で『お前が私の武器を破壊した』という事でお前の判定勝ちとなる」

 

千冬さんはそれだけ言って言葉を切ると「私もヤキが回ったか」とか言ってるけど……納得いかねぇ。

どう考えたってこの試合は俺の負けだ。

こんなモン勝ちでもなんでもねぇよ……でも言わない。

だって言ったらまた再戦なんて事になりかねねぇし、俺はバトルジャンキーじゃねぇっす。

もう千冬さんとのバトルなんてこりごりだぜ。

 

「まぁなんにしても、だ。これにてお前の実技試験は終了となる」

 

千冬さんはそう言って腰に手を当てて俺を見てくるが……俺は千冬さんを直視できずにいた。

いやね?最初こそ千冬さんの雰囲気がヤバかったり、喧嘩に集中してて気付かなかったんだが……ISスーツってエロいね☆

特に千冬さんのようなナイスバディな女性が腰に手を当てて腰をくねらせるポーズをとると、目のやり場に困りMAX。

 

「……?おいどうした元次?なぜ私から目を背ける?」

 

俺が視線を合わせないのを怪訝に思ったのか、千冬さんは目を細めながら俺に近づいてくる。

やめて!?そんな格好で近づかないで!?

 

「い、いや!?な、なななな何でもないッスよ!?」

 

「あからさまに怪しいぞ。何だ?人の話を聞く時は人に目を合わせんか馬鹿者」

 

千冬さんは全く気付いてないのか、はたまた気にしてないのか、俺に無防備に近づいて俺を下から見上げてくる。

し、しかも胸を突き出すように腰を曲げてるから余計に強調されてまんがな!!?

 

「いや!?だからその!?そ、そんな格好で近づかんで下さいって!!俺だって男なんですから!!……あ゛」

 

言ってから気付いた。

あ、これ絶対ボコられるって。

 

「何?……ッ!?(バッ!!)」

 

そして俺の言葉でやっと自分がどう見られているのか気付いたのか、千冬さんは自分の身体を隠す様に手を身体に当てる。

千冬さんのお顔は既に真っ赤っ赤に染まってた。

 

「こ、このッ……このッ!!(プルプル)」

 

そして千冬さんはプルプルと震えながら、折れた刀を突き出すように構え、てちょっと待って!!?

 

「お、落ち着いて千冬さん!!もう終わりでしょ!?もう試験は終わったんでしょ!?」

 

俺の必死の制止も空しく。

 

「この――助平がぁああああああああああッ!!(ヒュボッ!!)」

 

「お待ちを(ズドンッ!!)おぶげがばっ!?」

 

真っ赤に染まったお顔の千冬さんが繰り出した地獄突き(刀バージョン)が深々と俺の喉元に刺さった。

マジで痛えよちくしょう。

 

 

 

暫くの間アリーナでは、喉元を抑えてもがき苦しむ俺と真っ赤な顔で蒸気を吹き上げる千冬さんの二人が見られたとさ。

 

 

 


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