しかし回りこまれる   作:綾宮琴葉

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第10話 赴任初日

「なごむ~」

「アスナ。人の背中で寝ようとしないで。……髪も絡まる」

「じゃぁ結ばせて」

「……ダメ」

「うぅ……。残念」

 

 椅子に座った私の背中の上でごろごろしている馬鹿娘、もといアスナは、もうちょっとだけ空気を読んでくれると助かる。こちらは、ネギ・スプリングフィールドが赴任してくると思われる今日のHRの事が、気が気でないと言うのに。

 何かあると直ぐいじろうとする癖は、小学校の頃から私が放って置いたのが悪かったのだろうか。何だかんだと言って、許していたのも悪かったのかもしれない。今さら直されても、それはそれで微妙にアスナっぽくないと感じてしまう私も、既に手遅れ気味に感じて悲しいものがあるのだが。

 

「ねぇフィリィ? 緊張し過ぎだと思うよ」

「……解ってたのなら疲れさせないでよ」

「”あの子”の事でしょ。フィリィが悩んでも、どうしようもない時もあるんじゃないかな」

「それはね。だからと言って、出来る対策をしないわけにいかないから悩んでるんじゃない」

 

 そう、エヴァンジェリンの別荘で過ごしたあの後。寮に帰った私達の前に彼は現れなかったのだ。

 

 もしかしたら、学園長から連絡があるのではないかと思ったのだがそんな事も無く、不安だけが宙に浮いた状態になっている。念のために夜中に寮の廊下や玄関に居ないか確認し、今朝も早めに出て寮の入り口を見張るなどと疑心暗鬼の様になっている。

 けれども本当に彼が来ていないなら、単純に高畑先生の所か、ホテルや他の先生の部屋なのだろう。もっとも、後から学園長に呼び出されて……。なんて事になったら困るので警戒を怠れない。

 

「アスナ。必要な事は解ってるでしょ?」

「……うん」

 

 基本的に私とアスナは、特に魔法関係において、彼には干渉しない事にしている。

 

 万が一、彼の生死がなどと言う場合。その時は極力こちらのカードを使わずに、隠れて援護に回るしかないだろう。さすがに主人公を死なせるわけにはいかない。それにこういった事は、あらかじめ考えて置くかどうかでは、いざと言う時の対応に明確な差が出る。

 

 そうとは言いつつ、麻帆良学園という表向きの箱庭の中で、生死を賭けた何かが起こると考える方が不自然。だからこそ、基本的には魔法使いだとバレない事を重要視している。

 最悪の事態は、私達の真の能力が誰かにバレる事なのだ。もし彼に魔法関係者とバレた場合でも、「隠し事をしていた」と言う事実が、真実への隠れ蓑になる。

 

 当然これから来るであろう彼に、先日の様な強い目線を向ける気は無いし、自分に注目しているとも思われたくない。

 同時に、周囲の魔法関係者にも彼には興味を持っていないとアピールする事で、余計な注目を集めたくない思惑もある。彼だけではなく、他の魔法関係者にも余計な干渉をしたく無いからだ。

 

「でも、エヴァンジェリンさんがネギを襲うのは放っておくの?」

「それは……」

 

 当の彼女。今日はサボりだと思われる、隣の席見て考える。

 

 襲撃は今日や明日には始まらないと思う。しかし原作と同じ時期、春までには確実に行われるだろう。おそらくとしか言えないけれど、死ぬまで血を吸われる事はないと思う。何しろ私自身、血を吸われる生活に慣れつつあるのだから、ある意味説得力があると思う。

 

 だからと言って、彼女に彼を売る様な、見捨てる行為を忍びないとは思うのも事実。しかし、彼にわざわざ私達から襲撃が有ると伝えるのは、魔法関係者である事を暴露する様なものだ。

 

「基本は傍観しよう。でも、臨機応変で……」

「やっぱり、フィリィは優しいね」

「……はぁ。まったく」

 

 適当に相槌を打ちつつも、卑怯な自分が少し嫌になる。

 私は優しくなんかない。私は私達の生存のために、神楽坂明日菜という原作のフラグを折ったまま、その修正をして回るつもりは無いのだ。

 生き延びるためと言い訳を盾にする、ずるい私を優しいなどと言われても困る。

 

 

 

「先生きたよー! いしし♪」

「お姉ちゃん出来たですー」

「お、やってるねー。私の調査によればさぁ――」

 

 今日から新任の先生が来る。と話に盛り上がる自称麻帆良のパパラッチ朝倉和美。彼女の事だから、どこかで情報を掴んでいても不思議ではない。おそらく原作の初日に彼に仕掛けた罠も、彼女の情報からなのではないだろうか。

 双子の鳴滝姉妹が、ドアの黒板消しトラップに、ロープと水入りバケツの二段躓きトラップ。さらに吸盤アーチェリーと、明らかに一般人向けではない罠を仕掛けている。もしこの全部に引っかかれば、それ相応の被害を受けるのは間違い無いだろう。もしかしたら、認識阻害の学園結界で常識が吹き飛んでいるのかもしれない。

 

 けれども原作で全てに引っかかった彼とは違い、最初の入室者によってそれはあっさり阻また。

 

「こらこら。黒板消しが移動してるぞ」

「むむぅ~。高畑先生にはもう通用しないねー♪」

 

 どうして高畑先生が!? てっきりネギ・スプリングフィールドが来ると思っていたのだが、まさか彼の配属が違うのだろうか。

 てきぱきと罠を処理していく先生の姿を見ると、またここでも原作が変わっているのかと実感せざるを得ない。けれども不安を抱く私の耳に、背中から冷静な声がかけられた。

 

「フィリィ、タカミチの後ろ。”あの子”が居るよ」

「……あっ」

 

 子供用のスーツを着た赤い髪の少年。ギクシャクとした動きと緊張した顔付きから、先日不安だと言っていた事を思い出す。高畑先生の後ろを付いてきた様子を見ると、A組に赴任してきた事実は変わらないのだろう。その事に少し安堵する私がいた。

 

 彼等の到着に賑やかだった教室が静まり始め、それぞれの席へと戻っていく。しかしながら当然と言うべきか、多数の生徒達の視線は高畑先生の後ろの子供に注目している。

 けれども集中する視線をものともせず、教卓に着く高畑先生によって、普段通りに起立と礼を済ませてHRが始まった。

 

「もう気付いてると思うんだが、今日は皆に紹介したい人がいる」

 

 集中する視線の中、彼の緊張を解す為なのだろう。高畑先生は彼の肩を軽く叩いて笑って見せた。

 その行為に少し落ち着いたのか、先程よりも若干、緊張が解けた様に見える。そのまま彼が一歩前に進むと、続けて高畑先生が口を開いた。

 

「彼はイギリスから来たスプリングフィールド先生だ。今日から教育実習生として、皆に英語を教えてくれる事になる。子供だからって侮るんじゃないぞ。彼は大学卒業レベルの語学力があるんだ。仲良くしてやってくれよ」

「えぇと……。教育実習生として英語を教える、ネギ・スプリングフィールド、です。三学期の間ですが、よろしくおねがいします」

 

 未だ緊張しているのか、しどろもどろに自己紹介をする彼に注目が集まる。そして直後に教室に激しく響く黄色い悲鳴。彼への反応は分かっていたけど、彼女達の騒ぎ様に思わず顔をしかめてしまった。

 「可愛い」とか「この子欲しい」とか言う声が聞こえるが、持って行くならどうぞもって行って欲しいものだ。中には「ありえねぇ」と冷静な声も聞こえるが、伊達メガネの彼女には私からも関わらないで居た方が良いと助言してあげたいところではある。

 

 彼が詰め寄られる様子を見ていると、どうしても気になる相手が居る。そう、宮崎のどかだ。

 

 本来ならもじもじとして見ているだけの彼女だろうが、ここの彼女は違う。それに、既に一度私達と一緒に彼に出会っている。

 その事もあってなのか、並み居るクラスメイトを押しのけて、彼に向かって色々と話しかけている。もっとも、ショタコンな雪広あやかも割り行って取り合いになっている様だが、そこはご愛嬌というかお約束と言うか……。

 

 この状況に、思わず自嘲する様な溜息が零れる。まったく……。これだけはしゃいでいるA組のメンバーの様子を見ていると、心配ばかりしている自分が嫌になる。こんな時ばかりだけれども、自分が最後尾の席で良かったと思う。おかげで冷静に判断できるし、彼に向ける鋭い視線と疑惑も良く見える。

 当然ながら超鈴音と桜咲刹那、そして長谷川千雨。ザジ・レイニーデイは良く解らない。原作でも結局何をしていたのか、良く解らなかったのだから。当然、話した事も無いので解るわけがない。

 

 だがここで、場をひっくり返す、思ってもいなかった乱入者が現れた。

 

「申し訳ありません。遅刻いたしました」

「スミマセン、遅刻しました」

 

 ガラガラと鳴る教室の戸を、勢い良く叩き付けて入ってきたのは、茶々丸とエヴァンジェリン。

 

 当たり前の事ながら、そんな事をすれば誰でも注目の的になる。しんと静まった教室内で、乱入者に視線が集まった。

 静まりかえった教室で、高畑先生が彼女達の遅刻と態度を注意する。しかし、素直に謝る茶々丸とは対照的に、彼女は何食わぬ顔で私の隣の定位置に着席する。それと同時に高畑先生は、彼に群がっていた生徒達にも席に着くようにと注意を促した。

 

 それにしても、この行動はあからさまに怪しい……。エヴァンジェリン達はサボりの常連なので、遅れてくる事は何も珍しく無い。けれども、今回ばかりは彼女達がわざと目立っている。そう考えるのが自然だろう。

 

 しかし、彼女達は今しばらく彼を見極めると言っていたのだ。だから今ここで、注目を集めるのは得策とは言えない。

 ならば目立つ理由があった? 彼に自分をアピールする理由が彼女にあるのだろうか。チラリと彼に視線を送ると、その瞳は茶々丸とエヴァンジェリンを交互に見比べていた。

 

 悪目立ち。どう考えてもそうでしかない。

 

 幸いな事に、私はより背が高い前の席の生徒のおかげで、影に隠れていると思う。しかし、どうしても彼の視線がこちらに向いている様で気分が悪い。

 何はともあれ、しんと静まり返った教室のおかげか、彼の簡単な自己紹介と英語の教育実習であっさりと授業は終わりを迎えた。

 

 

 

「ねぇねぇ、ネギ君ってどう思う?」

「ネギ先生だよハルナ! でもビックリしたよねー、本当に先生なんだもん。この前お話したんだけどすっごく良い子なんだよー。趣味はアンティーク収集に紅茶。ミルクティー派だって! でもでも本も沢山読んでるの! やっぱり本を読む子は凄いよね。大学卒業してるんだもん!」

「大学卒業レベルの語学力ですよ。それでも確かに驚くべき事ですが」

「いやー、それにしてもさー。あんな可愛い子貰っちゃっていいのかねぇ」

「大丈夫だよ! ネギ君は正義だもん!」

「彼は本の虫ではありませんよ、のどか」

 

 何とか無事に一日が終わったのは良いのだけれど、何で私の側で騒ぐのか説明して欲しい。確かに最後尾の列は左から四席ほど余りがある。備え付け長机で、誰が使ったとしても文句は無いのだが、わざわざ直ぐ横で話さなくても良いだろうに。もっとも、彼と魔法関係の事で騒がれないだけ遥かにましだとは思う。

 

 それよりも今日一日だけで、また原作との乖離が目に付いた気がする。いやもう本当に、純粋な事実以外は、原作を参考に考えない方が良いのかもしれない。

 それに、エヴァンジェリンの行動についても考えない事にする。彼女が何を思ってあの様な行動を取ったのかは勝手な予測にしか過ぎないし、わざわざ聞いて彼女の計画に巻き込まれる事も無い。

 

 どちらかと言えば、重要なのは彼の下宿先だろう。まだ誰も学園長に呼び出された様子は無いから、高畑先生に聞くのが無難かもしれない。教室で念話を飛ばすのは拙いし、直接聞くのが一番だろうか。

 それで高畑先生の部屋か、教員寮に住み込むのが分かれば、全面的に高畑先生が面倒を見る事になるのだろう。そうなれば私の余計な心配も減る。

 

「ねぇ、フィリィ」

「……どうしたの?」

「ネギの歓迎会やるんだって。フィリィは出るの?」

「歓迎会?」

 

 そう言えば、そんなイベントもあった気がする。確か……。その時には既に魔法がバレ始めていたような? 最初に魔法がバレたのはアスナ。もとい神楽坂明日菜だった。アスナがここに居る以上彼との接点も無いのだし、バレて魔法を乱発するというイベントはまだ始まらないだろう。

 歓迎会に出ないと言う選択肢もあるけれど、不自然に目立つのは避けたい。それなら素直に出るのが良いかもしれない。

 

「じゃぁ、出ようかな」

「……出るんだ?」

「何で不機嫌そうになるの……」

 

 この前ほど彼に執着した視線を送ってはいないと思うのだが。どうもアスナは気に食わないらしい。だからと言って確認を行いたいだけで不貞腐れても困る。

 

「その前にちょっと高畑先生に会ってくる」

「じゃぁ付いていくね」

「はいはい。どうせ付いてくるって言うと思ったからね」

「さすがフィリィ! 愛があるね!」

「……やっぱり置いて行く」

「相変わらず仲が良いですわね。ねぇ真常さん、そのままネギ先生も呼んで来て頂けます?」

「委員長? それは構いませんけど。……誤解しないでくださいね?」

「あら、何の事ですの? ではお願いしますわ。ほら皆さん、さっさと準備いたしますわよ!」

 

 さすがは雪広あやか。彼女のクラス全体に対する、細かな気遣いと視野は凄いと思う。思うのだけれど、私をあまり対象にしないで欲しい。しかも、ある種の天然だから性質が悪い。

 けれどもまぁ、彼と接触したくは無いがここで断るのもおかしい。言伝は高畑先生に頼めば良い事だし、一応は教育実習生なのだから、普通に話すくらいはあっても問題は無いだろう。

 

 とりあえず不思議そうにするアスナに、彼の下宿先を知らなければ、もしもの時の対処ができない。だから高畑先生に聞きに行くと小声で答えて職員室に向かった。

 

 

 

「失礼します。高畑先生はいらっしゃいますか?」

 

 控えめにドアをノックしてから職員室に入る。そのまま高畑先生の机を探すと、仕事中の様だった。

 

「おや、真常君。アスナ君もどうしたんだい」

「少し、お話があるんですけれど。時間を取らせて貰っても大丈夫でしょうか」

 

 いつも通りの態度の高畑先生に向かって、真剣な表情と声で問い掛ける。おそらく彼の事を言いたいのだと分かって貰えるのだろうが、勘違いされては元も子もない。

 小声で「彼の事で少し」と呟くと、はっきりと分かってもらえた様子で、外で話すべきだと高畑先生の目が語っていた。

 

 

 

「……そうだね。この辺なら良いかな」

「ありがとうございます」

「それでネギ君が何かしたかな? 二人とも干渉されて無いと思うんだけど」

 

 勿論、彼が何かしたと言う事はない。何も無いと肯定の意味を含めて素直に頷く。

 

「私が知りたいのは彼の下宿先です。場所を知っていて避けるのではまったく違いますから」

「……なるほどね。今は僕の所だよ。近い内に同じ階の部屋に移動すると思う」

 

 という事は教員寮で確定と考えて良いのだろうか。少し先行きが不安だけれども、こちらに干渉する機会は圧倒的に減ったと考えても良いだろう。思っていたより不安になっていたのか、ふと呼吸が楽になった気がした。

 しかしそうすると、根本的に彼は高畑先生のお世話になるという事だろう。けれども、あの学園長がきっと何かしてくるはず。下手なお願いをされない様にだけは気をつけたい。

 

「真常君」

「――っえ? あ、はい。なんでしょうか?」

「ネギ君の事を、出来れば嫌いになってあげないで貰いたいんだ」

「別に……嫌いではありませんよ」

「そうかい? それなら良いんだけどね」

 

 先日の一軒だろうか。茶々丸にずっと睨んでいたと言われてしまったし、アスナも拗ねさせてしまった。あれは迂闊だったかもしれない。好印象も悪印象も与えずに、普通でいる。おそらくそれが一番無難なはず。

 この世界でも生真面目な彼の事だから、好印象を与えればずっと付き纏われるだろうし、悪印象ならば何とか改善しようとして、やはり付き纏われるだろう。

 

 ベストは印象に残らず卒業する。なのだが……。先日に目を付けられたくらいだから、それは多分無理だろう。あぁ、そう言えば。

 

「すみません高畑先生。携帯の番号とアドレス教えてもらえますか?」

「え? 急にどうしたんだい」

「万が一のためです。寮の内線電話だと緊急時は間に合いませんから。もしもの時は連絡を頂けますか?」

 

 私が彼に対して思う最大の失敗は、原作の彼の最大のパートナーにして反則能力者、神楽坂明日菜を奪ってしまっているという事。

 

 あえてアスナと分けて考えるが、「彼女が居なくては乗り越えられなかった」という可能性を持つ場面は、思い出すだけでもいくつか出てくる。

 エヴァンジェリンによる襲撃から始まり、修学旅行での石化魔法からの防御。その後の悪魔襲撃事件では能力を逆手に取られた事もある。

 

 まぁ最後に限っては、アスナの存在が知られなければ、その事件自体起こらない可能性も有るのではないだろうか。学園祭やその後の不安はあるものの、そこまでの流れを確認しない事には対策も取れないだろう。

 

「二人とも、彼の事はどう思ってるんだい?」

「私は、出来ればネギの力になりたい。でも、フィリィもタカミチも、ナギもガトウさんも、私に普通に笑って生きて欲しいって言ってる。だから、魔法以外の事なら力になれたら良いなって思うよ」

「それでも、基本的に私達は干渉しない事にしています。でも、彼は魔法先生でスプリングフィールドですよ? 何かがあってからでは遅いと思います」

 

 しばらく逡巡する高畑先生。私が言ったスプリングフィールド姓の、ブランドネームを考えてくれていると思うのだが。下手に勘違いだけはされたくない。基本的に魔法関係者から不干渉の約束は、新任の魔法先生である彼にも適応されるはず。

 迷っているという事は、きっとこれからの彼の道に、何かしら思う所があるからだろう。それにあの学園長の事だから、確実に惚けた顔で何かの課題を出して、彼と周囲を巻き込んで成長させようとするのは分かっている。

 

 もしかして、既に課題を出された後だったりするのだろうか。まさか、初日で?

 いくらなんでも赴任したばかりなのだし、先生になる前提が優先されると思うのだが、ぬらりひょんの事だけは油断できない。

 

「二人ともすまない。本当にどうしようもない時だけは連絡させてもらうよ」

「……はい。わかりました。それから、彼の歓迎会をクラスでするみたいなので、伝えてもらえますか?」

「あぁもちろん。確実に伝えさせてもらうよ。きっと喜ぶと思う」

 

 歓迎会と聴くと、高畑先生の顔が笑みを浮かべて綻ぶ。口調も朗らかになったし、やはり彼の事は大切に思っているのだろう。尊敬する人の息子なのだから、その気持ちは分からないでもない。

 それはともかく、聞きたい事は教えてもらえたし、伝える事は伝えた。そのまま素早く携帯電話のデータを交換して、歓迎会の準備を続ける教室へ戻った。


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