しかし回りこまれる   作:綾宮琴葉

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 2012年8月28日(火) 一話前の「はじめに」を、一話の前書きに纏め直しました。

 この作品は、2012年3月のにじファン規制で一度削除した移転作品になります。
 執筆当初、原作が連載中でもあったため、タグの「原作知識有り」は原作最終回までの核心的なネタバレを含まない36巻までと考えています。
 この作品には、性格が改変されているキャラが数名出てきます。苦手な方はご注意ください。
 なお、作中に出てくるFFシリーズの時空魔法は、独自解釈となっております。



第1話 突然の事で

ピッ――ピッ――。

 

 気が付けば見知らぬ場所。それに、規則正しい音。

 

『ここはどこ?』

 

 寝ている事に気付いて身体を起こす。

 周りを見渡すと、心電図が表示された機械。それに点滴が繋がれた腕がある。

 

『……え、これって誰の腕?』

 

 慌てて振り返り、振り返った事を後悔した。

 

『い、いやぁぁぁぁ!? わ、私。どうなってるの!』

 

 そこには青白い顔をして、酸素マスクを付けられた自分の姿。

 どう見ても健康な状態には見えず、思わず後ずさる。

 すると突然に身体から弾き出された。

 

『きゃぁ! え、うそ、幽体離脱?』

 

 あまりの出来事に呆然とするが、待っていたかの様に病室の扉が開く。

 そこには両親と医師らしき姿。

 

「嘘です! もうこの子の笑顔が見られないなんて!」

「落ち着いてください。今生きているだけでも奇跡なんです。大型車に跳ねられて、ほぼ外傷が無いなんてそれだけでも――」

「貴方はそれでも医師か! 娘を助けてくれるんじゃないのか!」

「無理です! 心停止寸前の上に、複数の内臓破裂! これで助かる方がどうかしている!」

 

 医師は次々と絶望の言葉を紡いでいく。

 その言葉にはもはや諦めるしかないのかと、十分思わせるだけの重みがあった。

 

『ごめんなさい! ごめんなさい!』

 

 宙に浮かぶ透明な身体で涙を浮かべ、必死で謝罪の言葉を述べる。届かないだろう。そう分かりながらも必死で。

 叫びながらも突然に身体が軽くなり、何かに引き込まれるような感覚を覚える。ふとその方向へ視線を送ると、宙に黒い穴が開いているのが分かった。

 

『や、やだ! 何あれ!?』

 

 身体が引っ張られる。何かに掴まろうとするも今の自分は幽霊。どこにも掴まる所は無く、引き込まれる力に抵抗できなかった。

 

『いやー! お母さーん、お父さーん!』

 

 暗く、何も見えない空間に吸い込まれる。一体自分はどうなってしまうのか。この暗い穴の先で何が待っているのか。ただただ恐怖だけに心が支配されるのが分かる。

 そして抵抗する間もなく、私は闇色の世界の中で意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 前触れも無く突然に意識が目覚める。まだ自分は生きていたのかと錯覚するものの、両親の嘆きが、涙が、透明になった自分の身体は間違いなく存在してた。

 それならば、今ここに居る自分は何なのだろうか。

 

ゴーン――ゴーン――。

 

 音が聞こえる。空間に鳴り響く時計の音。耳が聞こえる? 身体からはじき出されたはずなのに。

 

ゴーン――。

 

 私は死んだはずなのに、もう何も聞こえないはずなのに。

 

『ここ、どこ?』

 

 声が出せた。その事に驚きながらも、必死にここがどこなのか確かめる。

 地面も、空も無い。ただただ何も無い空間。そこでまだ私の目が見えている事に気付く。ここにあるものが白いのか黒いのか、色さえも理解出来ない空間。

 けれども、気が付けば私は、小さな椅子に座っている事に気が付いた。

 

『私……。死んだんだよね?』

 

 ごくりと。無いはずの身体で、つばを飲み込むように喉を潤してから呟く。

 

「そうじゃ。ここは賽の河原へ続く道。親より早死にした子供が罪を償う道じゃ」

『だ、誰!?』

 

 突然に聞こえてきた声。声の質からして老人。思わず驚き聞き返した。

 一体どこから聞こえてくるのか、それが私に向けられた声だと分かると、声の主を探そうと周囲を見渡す。しかし、誰かが居るのか何かが在るのか、それすらも一切分からず、声の主も見当たらない。

 

「お主は、死を迎えた。それは紛れも無い事実。しかし、その魂の力はまだ使い果たしておらぬ。そしてその魂の罪もじゃ」

 

 ゆっくりとした口調で、落ち着いた老人の声が淡々と事実だけを述べていく。

 

『え、そんな事言われても……』

「よって、お主には来世でその罪を償ってもらう」

『そんな! 私そんなの知らない!』

 

 次々と告げられる言葉。罪と言われても心当たりなんてまったく無い。私が何をしたというのか。

確かに、私は早死にしたのだろう。けれど、それとこれとでは話が違う。

 

「これからお主には、くじ引きで別の世界に行ってもらう」

『く、くじ引きって! そんないい加減な!』

「お主に選択の余地は無い。その世界で生き抜く事で魂の力を使い、それによって魂の浄化もしてもらう。その代わりと言ってはなんだが、三つだけ力を添える」

『い、生き抜くって、危険な世界なんですか?』

「そうでなければ魂の力を使いきれん」

 

 誤魔化された。そう感じたけれど、私がいまここで何か出来るものではない。悔しくても、辛くても、生き返るなんて事はまず無理。それは分かっていても、未練はある。

 それなら、来世が与えられるのなら、そこで生き延びるしかない。しかし、何をすれば生き延びられるのか悩む。生き抜くための力。危険な世界。その言葉に何故か、時計の音が気になった。

 

『あの~。時間を操る能力って持てますか?』

「出来無い事は無い。しかしかなりの力を使う。今のお主の魂の器ならば、一度に止められるのは五秒。加速・減速にもかなりの力を使うじゃろう」

『そうしたら回復能力とかは出来ますか?』

「出来無い事は無い、だが……。来世で苦労するぞ?」

『う……。でも、死んじゃったら困るんですよね』

「その時はまた次じゃ」

 

 次と言われて眩暈と共に、半ば絶望しかける。一体、私の魂が何をしたというのか。いっそ何をしたのか聞いた方が良いのではないか。そう思い立って問い掛ける。

 

『すみません、私って一体何をしたんですか? そんなに魂に罪があるって言われても、身に覚えが無いです』

「早死にじゃ」

『え? そ、それだけですか!?』

「一度ではない。今回で十三回目じゃ。よって、次は大幅に魂の強化をする事になった。じゃが、それでも死んでしまった」

『うそ……』

「嘘ではない。よって来世ではその記憶を残し、力をあたえ、正しく魂の力が流れるようにせんといかん」

 

 十三回も早死にしたなんて、とても信じられない。それなら過去の私は、これまでどれだけの家族を泣かせてきたのか。

 そう考えると、必死の形相の両親の顔が蘇ってきた。泣き叫ぶ声も、悲しみに暮れる声も、その全てが私の心に突き刺さる。無いはずの身体から、透明な雫が零れ落ちて、届かないと分かっていながらも、必死に謝り続けた。

 

『ごめんなさい……! ごめんなさい!』

「謝るならば、それは来世で無事生き延びる事じゃ」

『は、はい! それなら最後は、体調が悪くならない力をください!』

「うむ。それではそれで調整しよう。生まれた後、暫くお主の意識は覚醒と睡眠を繰り返し、やがて赤子と統合されるじゃろう」

『はい、分かりました』

「ならば始めるぞ。心せよ」

 

 生き延びる、絶対に。私は簡単に諦めたりしない。死の運命から逃げ切ってみせる。ただそれだけを心に刻み、椅子から浮かび上がる身体を両腕で抱きしめる。

 そして再び、無限とも思われる闇の中に、意識が飲み込まれていった。


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